説明

ポリアミド樹脂の製造方法

【課題】回収ラクタム水溶液を使用した場合でも環状2量体量の少ない高品質なポリアミド樹脂を得ることを課題とする。
【解決手段】水の存在下、カプロラクタムの開環重合によって得られるポリアミド樹脂を水抽出して、得られる未反応のカプロラクタム、オリゴマーおよび水を含有する回収ラクタム水溶液を290〜350℃で開環処理した後に、この全量又は一部を再び原料として用いることを特徴とするポリアミド樹脂の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアミド樹脂の製造過程によって得られる未反応のカプロラクタムおよびその低重合物(以下「オリゴマー」と呼ぶ)を含有する回収ラクタム水溶液を、再び原料の一部または全量として使用するポリアミド樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カプロラクタムを主原料とするポリアミドはその優れた特性を生かして衣料用繊維、産業繊維に使われ、更に、自動車分野、電気・電子分野などにおいて射出成型品として、また、食料品包装用途を中心に押出フィルム、延伸フィルムとしても広く使われている。
【0003】
カプロラクタムを主原料とするポリアミドは通常、カプロラクタムを少量の水の存在下に加熱溶融重合することにより製造される。この製造方法は比較的単純なプロセスであり、世の中に広く採用されている製造方法である。
【0004】
カプロラクタムを溶融し、約260℃に加熱された常圧重合塔に供給し、この重合塔内で約10時間の滞留の後塔下部からストランド状にして水槽中に吐出されペレット化される。こうして得られるポリアミド樹脂ペレット中には重合の平衡で生じるカプロラクタムモノマーおよびオリゴマーを含有するため、このままの状態で製品として使用すると、モノマーやオリゴマーが成形加工時に揮発し、最終製品である繊維やフィルム、射出成形品を得る際に口金汚れや糸切れ、外観不良を発生させ、得られる製品の機械物性や外観も低下するなど、数多くの問題を発生させる。そこで、カプロラクタムを主原料とするポリアミドでは、これらのモノマーやオリゴマーを除去することが必要となる。特にオリゴマー中の環状2量体は極めて融点が高く昇華性もあるため射出成形や押出成形時の口金汚れや、フィルム等の品質悪化に繋がる原因物質であり、極力除去される必要がある。
【0005】
モノマーやオリゴマーの除去方法としては、重合直後のペレットを熱水抽出塔に供給し、塔下部から送られる熱水で向流抽出した後、下部から取り出す熱水抽出法や、モノマーおよびオリゴマーを除去する方法として重合後のポリアミドを溶融状態のまま高温度・高真空で処理する方法が挙げられる。
【0006】
抽出によって得られた未反応のモノマー及びオリゴマーの処理方法としては、解重合および蒸留精製処理によってカプロラクタムに戻した後に、再び原料として使用する方法が知られている。しかしながら、この解重合および蒸留精製方法には複雑な工程が必要であるため多大な費用が掛かることになり工業的に有利ではない。
【0007】
他の方法として、例えば特許文献1には、水抽出によって回収した未反応のモノマーおよびオリゴマーを含有する回収ラクタム水溶液を濃縮して、未精製のまま220℃、10kg/cm(=約1.0MPa)で加熱した後、追加量のカプロラクタムと共に再びポリアミド樹脂の原料として用いる方法が示されている。しかしながら、同公報に示す方法によると、オリゴマー中の環状2量体はそのままの状態で一定の平衡値に達するまで増え続け、結果的に多くの環状2量体が製品中に含有されることになる。特に問題となる環状2量体は、他のオリゴマーに比べてもとりわけ融点が高く(約350℃)、また昇華性があるため、そのまま製品中に残ると多くの問題を引き起こす要因となる。
【0008】
このような問題を解決するために、ポリアミド樹脂を水抽出して得られる未反応のモノマーおよびオリゴマーを含有する回収ラクタム水溶液を濃縮し、該濃縮物中に含まれる環状オリゴマーを開環して鎖状体にした後、追加量のカプロラクタムと共に再び重合する方法が示されている。例えば特許文献2は、最も開環し難い環状2量体を開環させることが重要であるとし、16kg/cm(=約1.6MPa)、270℃で2時間開環処理する例が記載されている。しかしながら同公報が示している開環温度では環状2量体の開環が不十分であり、製品中に含有する環状2量体量は0.1重量%程度と、後述する本発明によるものよりかなり多く、十分に改良する余地があると言える。また、開環時の水分率が高いと、開環と同時に閉環も起きやすくなり、一度開環した環状2量体が再び閉環する割合が増える。このようにカプロラクタムを主原料として重合したポリアミド樹脂を抽出処理して得られる回収ラクタム水溶液を再び原料として利用するためには環状2量体を極力少なくする事が重要であるが、この環状2量体の開環処理が最も困難であった。
【特許文献1】特開昭54−64593号公報
【特許文献2】特開平9−188758号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、前記示したような環状2量体の開環処理を効率的に行い、工業的にかつ高品質のポリアミド樹脂を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、開環処理の温度、圧力および水分率の条件範囲を規定することで上記目的を効率良く達成できることを見出した。すなわち、本発明は以下の通りである。
1.水の存在下、カプロラクタムの開環重合によって得られるポリアミド樹脂を水抽出して、得られる未反応のカプロラクタム、オリゴマーおよび水を含有する回収ラクタム水溶液を290〜350℃で開環処理した後に、この全量又は一部を再び原料として用いることを特徴とするポリアミド樹脂の製造方法。
2.前記開環処理工程における圧力が0.5〜1.5MPaであることを特徴とする1記載のポリアミド樹脂の製造方法。
3.前記開環処理工程時における回収ラクタム水溶液の含有水分率が5重量%未満であることを特徴とする1または2記載のポリアミド樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、オリゴマー中に含有する環状2量体を効果的に開環させることができるため、開環処理後のモノマーおよびオリゴマーを再び原料の一部または全量として利用しても、従来のポリアミド樹脂に劣らない高品質のポリアミド樹脂を製造することができる。さらに詳しくは、含まれる環状2量体量の少ないポリアミド樹脂を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の最良の実施形態を説明する。図1は本発明におけるポリアミド樹脂製造工程の一例を示す概略図である。本発明はε―カプロラクタム(以下カプロラクタム)の開環重合により得られるポリアミド樹脂の製造方法に関する。
【0013】
本発明のポリアミドの製造方法では原料の一部又は全部に回収ラクタム水溶液を用いる。回収ラクタム水溶液とはポリアミド製造工程で抽出により回収される未反応モノマーとポリアミド鎖状オリゴマーあるいはポリアミド環状オリゴマーの少なくとも1種および水を含有する混合物のことを指す。
【0014】
本発明の回収ラクタム水溶液とは、未反応モノマーおよびオリゴマーを含むポリアミド重合生成物から熱水抽出により回収した水溶液である。熱水抽出とは未反応モノマーおよびオリゴマーを含むポリアミド重合生成物から熱水によって未反応モノマーとオリゴマーを除く方法である。
【0015】
一般に回収ラクタム水溶液は、初期の含有水分率が95〜96重量%と非常に高いため、濃縮処理によって一定の水分率まで濃縮して再利用する。回収ラクタム水溶液の濃縮には多段濃縮法等周知の濃縮方法がいずれも適用できるが、通常、濃縮終了後の濃度として水分率2〜20重量%、好ましくは5〜10重量%まで濃縮する。濃縮条件は圧力が0.20〜0.30MPa、温度が150〜200℃で運転するのが好ましい。
【0016】
本発明のポリアミド樹脂製造方法において、上記のようにして得られた回収ラクタム水溶液中の環状2量体を、さらに高い温度条件下で開環させる工程を有する。
【0017】
一般的にポリアミドは高温条件下に長時間さらされると分解が進行し、ゲル化物等の異物が発生することが知られているが、環状オリゴマーのうち環状2量体のような特に開環し難い環状オリゴマーを開環するためには大きなエネルギーが必要であり、300℃以上の高温処理が効果的である。本発明では、開環温度を290〜350℃の範囲で行うことが必要である。290℃未満であると環状2量体の開環が不十分であり、350℃を超える温度では分解速度が加速し、開環以外の好ましくない分解反応などが起きることがある。下限値として好ましくは300℃以上であり、上限値として好ましくは330℃以下である。開環圧力は0.1〜4.0MPaの範囲が好ましく、さらに好ましくは0.5〜1.5MPaの範囲である。また開環処理時の回収ラクタム水溶液の含有水分率として5.0重量%未満であることが好ましい。開環処理する際の水分率を5重量%未満にすることによって、一度開環した環状2量体が再び閉環することを抑制でき、効率よく開環処理できる。開環処理時間は好ましくは0.5時間、さらに好ましくは0.1時間未満である。この開環処理時間は、開環効率に大きく影響しないため、生産効率の面から開環処理時間は短いほど好ましい。
【0018】
本発明の重要な点は、上記に示した開環処理条件で開環処理を行なうことで、結果的に製品中の環状2量体を少なくすることができる。開環工程での開環が不十分な状態で原料として用いると、熱的に安定な環状2量体は重合反応中もそのままの形態で残り、製品であるポリアミド樹脂中に含まれる環状2量体が多くなる。その結果、成形時の口金汚れや、フィルム製品などの品質悪化に影響を及ぼす。
【0019】
本発明において、上記開環処理工程後の回収ラクタム水溶液を溶融状態のままで重合反応器に供給する。このとき、回収ラクタム水溶液中のオリゴマーを析出固化させないように供給ラインおよび周辺部を十分に保温しておくことが好ましい。一旦析出固化したオリゴマーを再び溶解させるのは非常に困難であり、運転中にオリゴマーが析出固化すると、装置を閉塞させたり、製品中に残存して品質悪化を招く問題が発生する場合がある。
【0020】
本発明で原料の一部又は全部として使用する回収ラクタムの使用割合は、回収ラクタムを使用する限りにおいて制限はないが、好ましくは全原料組成物を100重量%としたときに1〜40重量%であり、更に好ましくは10〜30重量%である。
【0021】
本発明のポリアミド樹脂製造方法において、用いる重合装置に特に制限はなく、一般にカプロラクタムの重合に用いられる装置を用いることが出来る。具体的には連続式常圧重合装置、加圧重合装置、回分式重合装置などの液層重合装置が挙げられる。中でも生産性の面から連続式常圧重合装置が好ましい。
【0022】
本発明のポリアミド樹脂製造方法において、重合温度の最高値は得られるポリアミド重合生成物の融点以上となる温度条件で重合することが好ましく、上限値として260℃以下の温度が好ましい。この重合中最高到達温度が高すぎるとオリゴマー含有量が増加し、重合温度が低すぎると重合に要する時間が長くなり、生産効率が低下する。そのため重合温度は220〜260℃の範囲で実施することが好ましく、さらに好ましくは230〜250℃である。なお、融点は得られるポリアミド重合生成物から未反応のカプロラクタムおよびオリゴマーを熱水抽出により除去し、その後、該ポリアミド重合生成物を溶融した後急冷したサンプルを用いて示差走査型熱量計(DSC)で昇温速度20℃/分で測定した結晶融解に基づく吸熱ピークのピークトップ温度として定義される。
【実施例】
【0023】
以下に実施例をあげて本発明を具体的に説明する。なお、実施例、比較例に記したポリアミド樹脂に含まれる環状オリゴマー(2量体)含有量の測定方法は以下のとおりである。
【0024】
ポリアミド樹脂を粉砕し、JIS標準ふるい24meshを通過し、124meshは不通過のポリアミド樹脂粉末を集め、該粉末約20gをメタノール200mlで3時間ソックスレイ抽出し、抽出液中に含まれるカプロラクタム、オリゴマーの量を高速液体クロマトグラフを用いて定量した。測定条件は下記のとおりである。なお測定に先立ち、カラム保持時間の確認と検量線の作成をカプロラクタムおよびカプロラクタム環状2量体、カプロラクタム環状3量体、カプロラクタム環状4量体の標準サンプルを用いて実施した。
高速液体クロマトグラフ:ウォーターズ社600E
カラム:GLサイエンス社 ODS−3
検出器:ウォーターズ社484Tunable Absorbance Detector
検出波長:254nm
インジェクション体積:10μl
溶媒:メタノール/水(メタノール/水の組成は、20:80→80:20(体積比)のグラディエント分析とした。)
流速:1ml/min。
【0025】
(実施例1)
ε−カプロラクタムの連続重合によって得られるポリアミド樹脂を熱水抽出して、未反応のモノマーオリゴマー、および水を含有する回収ラクタム水溶液を得た。この時の回収ラクタム水溶液の水分率は95〜96重量%であった。この回収ラクタム水溶液を濃縮缶に供給し、180℃×0.27MPa条件下で水分率8重量%まで濃縮した。次いで得られた該濃縮液を開環処理槽に供給し、1.0MPa条件下で320℃に達するまで加熱した。その時の含有水分率は2.6重量%であった。その後1時間かけて放圧した。次いで、追加量のカプロラクタムと回収ラクタムの全原料組成物に対して、回収ラクタムの割合が20重量%になるように、開環処理後の液を重合缶に供給した。250℃で10時間常圧重合し、重合缶下部の口金からストランド状で押し出した後、ストランドカッターで切断しポリアミド樹脂ペレットを得た。このようにして得られたポリアミド樹脂ペレットを熱水抽出し、乾燥してポリアミド樹脂製品を得た。得られたポリアミド樹脂製品中に含まれる環状2量体量は0.01重量%であった。結果を表1に示す。
【0026】
(実施例2)
実施例1において、開環処理時の圧力を4.0MPa、含有水分率を7.0重量%に変更した以外は実施例1と同様にした。結果を表1に示す。
【0027】
(比較例1)
実施例1において、開環処理時の温度を260℃、含有水分率を4.0重量%に変更した以外は実施例1と同様にした。結果を表1に示す。
【0028】
(比較例2)
実施例1において、開環処理時の温度を260℃、圧力を1.7MPa、含有水分率を7.0重量%に変更した以外は実施例1と同様にした。結果を表1に示す。
【0029】
(実施例3)
実施例1において、重合缶に供給する開環処理後の液を、全原料組成物に対して30重量%に変更した以外は実施例1と同様にした。結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
これらの結果から本発明の条件で開環を行った回収ラクタム水溶液を使用すると、環状2量体量の少ないポリアミド樹脂を得ることができることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明におけるポリアミド樹脂製造方法の一例の工程概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水の存在下、カプロラクタムの開環重合によって得られるポリアミド樹脂を水抽出して、得られる未反応のカプロラクタム、オリゴマーおよび水を含有する回収ラクタム水溶液を
290〜350℃で開環処理した後に、この全量又は一部を再び原料として用いることを特徴とするポリアミド樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記開環処理工程における圧力が0.5〜1.5MPaであることを特徴とする請求項1記載のポリアミド樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記開環処理工程時における回収ラクタム水溶液の含有水分率が5重量%未満であることを特徴とする請求項1または2記載のポリアミド樹脂の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−79103(P2009−79103A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−248391(P2007−248391)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】