説明

ポリアミド樹脂組成物および燃料タンク部品

【課題】
耐燃料透過性に優れ、かつ、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂との熱融着性に優れており、自動車等の樹脂製燃料タンクに付属する各種部品として好適に用いることができる、ポリアミド樹脂組成物を提供する。また、該組成物を用いることにより、安全性に対する信頼性が高い燃料タンク部品を提供する。
【解決手段】
芳香族系モノマー由来の繰り返し単位を30モル%以上含む、ポリアミド樹脂(a)100重量部に対し、ポリオレフィン系樹脂(b)50〜100重量部、およびDSCにより測定される融点が230℃未満のポリアミド樹脂(c)2〜30重量部を含有してなる、ポリアミド樹脂組成物、および該組成物を用いて形成された燃料タンク部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物およびそれを用いた燃料タンク部品に関する。さらに詳しくは、耐燃料透過性、ポリオレフィン樹脂との接着性に優れ、自動車用部品に要求される安全性に対する信頼性が高い、樹脂組成物および燃料タンク部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、安全及び環境対策のために、燃料タンクまたは付属部品等の器壁や接続部分からの燃料の揮散量を低減化することが要求されている。例えば、自動車分野においては、自動車の燃料タンク本体は金属あるいは樹脂により製造されるが、樹脂製燃料タンクの場合はタンク本体からの燃料の透過量を減らすため、樹脂をスルホン化処理する方法(SO3 処理。特許文献1参照)、フッ素処理する方法(F2 処理)、バリア性樹脂との多層構造を有する中空成形製品とする方法(特許文献2参照)、ポリエチレンの連続マトリックス相中にポリアミド等のバリア性樹脂を薄片状に分散させる方法(特許文献3参照)等が開発されている。
【0003】
しかし、上記の方法等により燃料タンク本体からの燃料の透過量を低減化しても、実際には燃料タンクに付属する各種の部品(例えばバルブ類等。以下「燃料タンク部品」と称す。)からの透過量が多く、燃料部品全体からの揮散量を低減化するための障害となっている。これは、燃料タンクに付属する各種の部品は、燃料タンクと十分な接着強度を得るために、通常は燃料タンクの外壁と同じ材料である高密度ポリエチレン等で製造されており、この高密度ポリエチレンが燃料透過性に劣るためである。
【0004】
そこで、燃料タンクに付属する各種の部品を、耐燃料透過性に優れたポリアミド樹脂や、該樹脂とポリエチレン等のポリオレフィン樹脂とを含む組成物を用いて形成することが検討されている。(特許文献4および5参照。)
より具体的には、燃料タンクに付属するバルブ類などの部品に、マトリクス相(連続相)であるポリオレフィン中に、分散相としてポリアミド樹脂が存在してなる組成物を使用すること(特許文献6および7参照)や、アミノ末端濃度が高い結晶性ポリアミド樹脂と、変性ポリオレフィンとを融着してなる燃料部品(特許文献8参照)なども提案されている。
しかし、従来このような技術には、ナイロン6、ナイロン12などの脂肪族ポリアミドが使用されていた。これらは、燃料タンク本体や燃料タンク部品におけるポリオレフィン樹脂部分との接着性(融着性)は比較的高いものの、耐燃料透過性が依然不充分であった。
本発明者らは、ポリアミド樹脂として、芳香族性の高いポリアミドを使用することにより、耐燃料透過性を向上させることができると考えたが、芳香族性の高いポリアミドは概してポリオレフィン樹脂との接着性(融着性)が低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭46−23914号公報
【特許文献2】特公昭55−49989号公報
【特許文献3】特公昭60−14695号公報
【特許文献4】特開2002−138917号公報
【特許文献5】特開2003−336556号公報
【特許文献6】特開2001−302910号公報
【特許文献7】特開2002−275313号公報
【特許文献8】特開2002−370551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決しようとするものであり、自動車用部品に要求される、安全性に対する高い信頼性を有し、かつ耐燃料透過性に優れる、燃料タンク部品とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記問題を解決するために鋭意検討した結果、まず燃料タンク部品には、高い耐燃料透過性を実現しうる芳香族系のポリアミド樹脂を含む部分(A)と、燃料タンクとの高い接着性(融着性)を示すポリオレフィン樹脂部分(B)とを併せ持つことが有効であると考えた。
また本発明者らは、該燃料タンク部品における芳香族系ポリアミド樹脂含有部分(A)の材料として、ポリオレフィン樹脂部分(B)との高い融着性を有し、かつ高い耐燃料透過性を実現しうるポリアミド樹脂組成物について検討した。
その結果、芳香族系のポリアミド樹脂(a)とともにポリオレフィン系樹脂(b)を適量含み、加えて芳香族系ポリアミド(a)との相溶性が高く、かつ芳香族ポリアミド樹脂含有部分(A)とポリオレフィン樹脂部分(B)との融着性を改善しうる、融点が低いポリアミド樹脂(c)を適量含有することにより、所望の物性が得られることを見出し、本発明に到達した。
具体的には、本発明は以下の手段により達成された。
(1)芳香族系モノマー由来の繰り返し単位を30モル%以上含む、ポリアミド樹脂(a)100重量部に対し、ポリオレフィン系樹脂(b)50〜100重量部、およびDSCにより測定される融点が230℃未満のポリアミド樹脂(c)2〜30重量部を含有してなる、ポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド樹脂(a)の、DSCにより測定される融点が230℃以上320℃以下であり、かつ、ポリオレフィン系樹脂(b)が、酸無水物で変性されたものであり、ポリアミド樹脂(a)が、メタキシリレンジアミン55〜100モル%およびパラキシリレンジアミン45〜0モル%とからなる混合キシリレンジアミンと、アジピン酸を重縮合して得られたものであり、かつ、該ポリアミド樹脂組成物を用いて形成された部分(A)と、ポリオレフィン樹脂(d)を用いて形成された部分(B)とを熱融着するために用いるものである、燃料タンク部品用ポリアミド樹脂組成物。
(2)ポリオレフィン系樹脂(b)が、線状低密度ポリエチレン樹脂、低密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、ポリプロピレンから選ばれる少なくとも一種が酸無水物で変性されたものである、(1)に記載のポリアミド樹脂組成物。
(3)DSCにより測定される融点が230℃未満のポリアミド樹脂(c)が、ポリアミド6および/またはポリアミド12である、(1)または(2)に記載のポリアミド樹脂組成物。
(4)少なくとも、(1)ないし(3)のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物を用いて形成された部分(A)と、ポリオレフィン樹脂(d)を用いて形成された部分(B)とを有し、これらが熱融着してなる燃料タンク部品。
(5)少なくとも、(1)ないし(3)のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物と、ポリオレフィン樹脂(d)を用いて、多色射出形成またはインサート成形されてなる、(4)に記載の燃料タンク部品。
(6)ポリオレフィン樹脂(d)が高密度ポリエチレンである、(4)または(5)に記載の燃料タンク部品。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、耐燃料透過性に優れ、かつ、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂との熱融着性に優れており、自動車等の樹脂製燃料タンクに付属する各種部品として好適に用いることができる。
また、上記特性を備える組成物を用いて形成することにより、自動車用部品に要求される安全性に対する信頼性が高い燃料タンク部品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお本発明において、「DSCにより測定される融点」とは、示差走査熱量分析において昇温速度10℃/分、窒素雰囲気下で測定された値である。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、芳香族系モノマー由来の繰り返し単位を30モル%以上含む、ポリアミド樹脂(a)(以下「芳香族系ポリアミド樹脂(a)」と称することがある。)100重量部に対し、ポリオレフィン系樹脂(b)50〜100重量部、およびDSCにより測定される融点が230℃未満のポリアミド樹脂(c)(以下「低融点ポリアミド樹脂(c)」と称することがある。)2〜30重量部を含有してなる組成物である。
本発明に用いられるポリアミド樹脂(a)は、アミノ酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸を主たる構成成分(モノマー)とするポリアミドであり、芳香族系モノマー由来の繰り返し単位を30モル%以上含むポリアミド樹脂である。
本発明における芳香族系モノマーとは、化合物中に芳香族基を含むモノマーであり、例えば、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどのジアミン、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などのジカルボン酸等が挙げられる。
また芳香族系以外のモノマーとしては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸のアミノ酸、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ヘキサメレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパンなどの脂肪族および脂環族のジアミン、並びにアジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族および脂環族のジカルボン酸等が挙げられる。
本発明における芳香族系ポリアミド樹脂(a)は、上記化合物に代表される各種モノマーを適宜選択し、公知の方法で重合することにより得られる。このようなポリアミド樹脂として、例えば、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリメタキシリレンアジパミド/ポリパラキシリレンアジパミドコポリマー(ナイロンMXD6/PXD6)、ポリメタキシリレンアジパミド/ポリメタキシリレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロンMXD6/MXDI)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ−2−メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。上記樹脂に代表されるポリアミド樹脂は、単独で使用しても良いし、複数種併用してもよい。
本発明のポリアミド樹脂組成物における耐燃料透過性の点からは、ポリアミド樹脂(a)は、芳香族性が高い(すなわち、ポリマーを構成する繰り返し単位のうち、芳香族系モノマー由来の繰り返し単位の割合が高い)ものが好ましい。具体的には、ポリアミド樹脂(a)は、芳香族系モノマー由来の繰り返し単位が30モル%以上である場合が好ましく、40モル%以上である場合がより好ましく、50モル%以上である場合が更に好ましい。
概して、ポリアミド樹脂(a)の芳香族性が高くなるほど、その融点や成形加工温度は上昇する。本発明の芳香族系ポリアミド樹脂(a)は、例えば後述するように、ポリオレフィン樹脂(d)とともに多色射出形成またはインサート成形する場合に、該樹脂(d)と熱融着させるために組成物全体を溶融させやすいという理由から、DSCにより測定される融点が、320℃以下程度である場合が好ましい。なお、融点の下限値は通常230℃程度である。
本発明の芳香族系ポリアミド(a)として、より好ましくはポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリメタキシリレンアジパミド/ポリパラキシリレンアジパミドコポリマー(ナイロンMXD6/PXD6)、およびポリメタキシリレンアジパミド/ポリメタキシリレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロンMXD6/MXDI)などが挙げられ、特に好ましくはメタキシリレンジアミンとアジピン酸を用いてなるポリアミド、或いはメタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの混合物とアジピン酸を用いてなるポリアミドである。より具体的には、メタキシリレンジアミン55〜100モル%およびパラキシリレンジアミン45〜0モル%とからなる混合キシリレンジアミンと、アジピン酸から得られるポリアミドである。
混合キシリレンジアミン中のメタキシリレンジアミンの量が55モル%未満である場合、得られるポリアミド樹脂の融点が非常に高くなり、組成物の成形加工温度が高くなる虞がある。後述する低融点ポリアミド樹脂(c)におけるアミド結合の分解反応を考慮すると、組成物の成形加工温度があまり高くなることは好ましくないため、混合キシリレンジアミン中のメタキシリレンジアミンは55モル%以上であることが好ましい。メタキシリレンジアミンの量は、より好ましくは70モル%以上、特に好ましくは100モル%である。
また、混合キシリレンジアミン中のパラキシリレンジアミンの量が45モル%を超える場合も、得られるポリアミド樹脂の融点が非常に高くなり、組成物の成形加工温度が高くなる虞がある。なお、混合キシリレンジアミン中のパラキシリレンジアミン量は、結晶化速度向上による成形性の向上という点からは比較的多い方が好ましく、ポリオレフィン樹脂との熱融着性の点からは比較的少ない方が好ましい。
また、本発明で使用する芳香族系ポリアミド樹脂(a)は、好ましくは末端基数より計算した数平均分子量が10000〜40000程度、より好ましくは14000〜22000程度である。数平均分子量が10000未満の該ポリアミド樹脂を用いた場合、得られる部材が自動車部品に要求される強度を持たなくなる虞がある。また、40000を超える場合、溶融粘度が高いことから、射出成形にて目的とする部材を得ることが困難となる可能性がある。
【0010】
本発明におけるポリオレフィン系樹脂(b)とは、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−オレフィン共重合ポリマー、あるいは上記ポリマーから選ばれた1種以上のポリマーをハードセグメントとし、EPDM、EPR、SEBS、SBS等をソフトセグメントとする樹脂等である。具体的には、例えば線状低密度ポリエチレン樹脂(L−LDPE)、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)、ポリプロピレン、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性加硫物、またはこれらを酸変性やエポキシ変性したものなどが挙げられる。これらは、1種類でのみ使用される場合もあるが、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。本発明におけるポリオレフィン系樹脂(b)として好ましくは、線状低密度ポリエチレン樹脂(L−LDPE)、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)、ポリプロピレン、またはこれらが酸無水物で変性されたものが挙げられ、特に好ましくは、酸無水物で変性されている高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)が挙げられる。
【0011】
本発明におけるポリアミド樹脂組成物は、芳香族系ポリアミド樹脂(a)100重量部に対し、ポリオレフィン系樹脂(b)を50〜100重量部含有する。ポリオレフィン系樹脂が50重量部未満である場合、燃料タンク部品を構成するポリオレフィン樹脂(d)との熱融着強度が低く、自動車用部品に必要とされる安全性に対する高い信頼性が得られない。また、ポリオレフィン系樹脂(b)が100重量部を越える場合、耐燃料透過性が不十分となり、燃料の揮散量を低減することができない。
【0012】
本発明における融着性は熱融着強度にて表される。熱融着強度が高いとは、後述実施例に記載のASTMに準じた接着試験において、引張接着強度が8MPa以上であることを示す。より好ましくは10MPa以上である。
該試験において8MPa以上であれば熱融着強度が高く、このような材料を用いることにより、自動車用部品に要求される、安全性に対する信頼性が高い燃料タンク部品が得られる。また、ポリアミド樹脂組成物と熱融着する相手材としては、酸変性しているポリエチレン樹脂が一般的に知られているが、本発明においては、相手材として酸変性ポリエチレン樹脂に限らず、未変性ポリエチレン樹脂においても十分に熱融着の効果が得られる。
【0013】
本発明における、DSCにより測定される融点が230℃未満のポリアミド(c)(すなわち、低融点ポリアミド樹脂(c))としては、一般的に知られているモノマーを用いてなるポリアミド樹脂の内、融点が上記条件を満たすものであれば特に制限はなく、ジアミンとジカルボン酸からなるか、または、ラクタムもしくはアミノ酸を用いて形成される。
融点を230℃未満に制御するには、例えば、比較的長いメチレン連鎖を有する分子をモノマーとして使用する方法、非対称性が強く、直線性が低く、嵩高い分子をモノマーとして使用する方法などが挙げられる。
ポリマーの分子構造については、非対称性が強く、直線性が低く、嵩高い分子(たとえば、イソフタル酸など)を共重合させることにより融点が下がる(結晶性が低下する)傾向がある。このような分子(モノマー)の割合を増加させるにつれ、徐々に融点は低下して非晶性ポリアミドとなる場合もあるが、本発明の低融点ポリアミド樹脂(c)としては、非晶性ポリアミドであっても良い。
これらの方法から選択し、または必要に応じて適宜組み合わせて、所望の低融点ポリアミド樹脂(c)を製造すればよい。
低融点ポリアミド樹脂(c)に使用するモノマーとして、例えばジアミンの具体例としては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等が挙げられ、ジカルボン酸の具体例としては、アジピン酸、ヘプタンジカルボン酸、オクタンジカルボン酸、ノナンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。
ラクタムの具体例としては、α−ピロリドン、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタム、ε−エナントラクタム等が挙げられ、アミノカルボン酸の具体例としては、6−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等が挙げられる。
これらのモノマーは、各々単独で使用しても、複数種併用してもよい。
上記モノマーに代表されるジアミン、ジカルボン酸、ラクタム等の中から、前述の傾向に照らしてモノマーを適宜選択し、重合させることにより、所望の低融点ポリアミド樹脂(c)を得ることができる。
低融点ポリアミド樹脂(c)の好ましい例として、例えばラクタムの重合により得られるものとして、ポリアミド6、ポリアミド12等脂肪族ポリアミドが挙げられる。ジアミンおよびジカルボン酸からなるポリアミド樹脂としては、脂肪族ポリアミドであれば、例えば、ヘキサメチレンジアミンとセバシン酸からなるポリアミド610、ヘキサメチレンジアミンとドデカン二酸からなるポリアミド612等、メチレン連鎖が比較的長いポリアミド樹脂が挙げられる。
低融点ポリアミド樹脂(c)として、特に好ましくは、ポリアミド6およびポリアミド12が挙げられる。
本発明における低融点ポリアミド樹脂(c)は、好ましくは末端基数より計算した数平均分子量が10000〜40000程度、より好ましくは、14000〜22000程度である。数平均分子量が10000未満の該ポリアミド樹脂を用いた場合、得られる部材が、例えば自動車部品に要求される強度を持たなくなる虞がある。また、40000を超える場合、溶融粘度が高いことから、射出成形にて目的とする部材を得ることが困難となる可能性がある。
【0014】
本発明では、芳香族系ポリアミド樹脂(a)100重量部に対し、ポリオレフィン系樹脂(b)を50〜100重量部、DSCにより測定される融点が230℃未満のポリアミド(c)を2〜30重量部含有することを特徴とする。
低融点ポリアミド樹脂(c)が2重量部未満である場合、例えば、本発明のポリアミド樹脂組成物と、燃料タンク部品を構成するポリオレフィン樹脂(d)との熱融着強度が低く、自動車用部品に要求される、安全性に対する高い信頼性が得られない。また、該樹脂が30重量部を越える場合、耐燃料透過性が不十分となり、燃料の揮散量を低減することができない。
【0015】
本発明に係るポリアミド樹脂組成物は、耐燃料透過性に優れる。
具体的には、JIS−Z 0208 に準じて、トルエン:イソオクタン=1:1溶液(容量比)90vol%と、エタノール10vol%を含む混合溶液を用いる気相カップ法を、60℃雰囲気下で行い、好ましくは10.0(g・mm/m2・day)以下、より好ましくは5.0(g・mm/m2・day)以下の耐燃料透過性を有するものである。上記範囲の耐燃料透過性を持つポリアミド樹脂組成物を用いることにより、耐燃料透過性に優れた樹脂燃料タンク部品を得ることが出来る。
【0016】
本発明のポリアミド樹脂組成物において、本発明の特性を損なわない範囲であれば、フィラー(充填材)を含有することもできる。フィラーの種類には特に制限はなく、公知のものを採用することができる。例えば、炭酸カルシウム、マイカ、カオリン、ワラステナイト、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウム、グラスファイバー、ガラスビーズ、ガラスフレーク、炭素繊維等が挙げられる。
また、必要に応じて1種以上の添加剤、例えば、難燃剤、帯電防止剤、滑剤、可塑剤、酸化や熱及び紫外線による劣化に対する安定剤、着色剤等を使用することができる。
【0017】
本発明の燃料タンク部品は、上述した、本発明のポリアミド樹脂組成物を用いて形成された部分(A)と、ポリオレフィン樹脂(d)を用いて形成された部分(B)とを有し、これらが熱融着してなる点を特徴とする。
ポリオレフィン樹脂(d)としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられ、これらは酸変性やエポキシ変性されていても良い。
中でもポリエチレンが好ましく、具体的には、線状低密度ポリエチレン樹脂(L−LDPE)、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)等が挙げられる。特に好ましくは、ASTM(D1505)における密度が0.93〜0.96の高密度ポリエチレン樹脂である。
本発明のポリオレフィン樹脂(d)はまた、その特性を損なわない範囲で、必要に応じて充填剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、光安定剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、顔料等の各種添加剤を含有していてもよい。
【0018】
該燃料タンク部品は、予め、本発明のポリアミド樹脂組成物を用いてなる部材と、ポリオレフィン樹脂(d)を用いてなる部材を別々に成形し、熱板溶着法等で溶着して作成することも可能である。が、得られる成形品の形状の自由度、生産性、コストの面からは、一方の部材を射出成形により成形した後、他方の樹脂あるいは樹脂組成物をオーバーモールドする方法(インサート成形法、多色成形法)が好ましく採用できる。その他、溶着工法の具体例としては、振動溶着工法、ダイスライドインジェクション(DSI)やダイロータリーインジェクション(DRI)や二色成形といった射出溶着工法、超音波溶着工法、スピン溶着工法、熱板溶着工法、熱線溶着工法、レーザー溶着工法、高周波誘導加熱溶着工法等が挙げられる。
【0019】
本発明の燃料タンク部品は、タンク本体に対する優れた接着(溶着)性を有しており、例えば、自動車用のガソリンタンクに付随するホースコネクター、カットオフバルブ、燃料ポンプケーシング、インレットパイプ等に好ましく使用できる。
【実施例】
【0020】
以下に実施例および比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、実施例および比較例における成形品の物性測定は次のように行った。
【0021】
[接着(融着)性の評価]
表1および表2に示す組成のポリアミド樹脂組成物(一次材)を用いて、ASTM D−638に準じて、厚み3.2mmの1号引張り試験用ダンベルの長軸方向に半分のサイズの成形品を、シリンダー温度260℃、金型温度50℃にて成形した。
次に、その成形品を試験金型のキャビテイに装着し、未変性高密度ポリエチレン樹脂(日本ポリケム(株)製 ノバテックHJ560)(二次材)を用いて、ファナック社製「α−100iA」にてインサート成形し、ASTM D−638に準じた接着強度評価用試験片を得た。
なお、成形条件はシリンダー温度260℃、金型温度80℃、射出速度30mm/秒、保持圧力250kg/cm2(5秒)、150kg/cm2(5秒)、冷却時間8秒であった。
評価は、ASTM D−638に準じて上記方法にて成形された試験片の、最大引張強度を測定した。上記方法にて成形した引張りダンベルの中心部が、熱融着された接合面となる。
【0022】
[燃料透過性測定]
表1および表2に示す組成のポリアミド系樹脂組成物について、JIS−Z 0208 に準じてカップ法で測定した。テスト溶液として、ポリアミド樹脂組成物のトルエン:イソオクタン=1:1溶液(容量比)を調製し、該トルエン:イソオクタン=1:1溶液(容量比)90vol%と、エタノール10vol%を含む混合溶液を使用して、気相での燃料透過性を調査した。
測定は、60℃で行った。この樹脂組成物の燃料透過性を測定することにより、樹脂複合部品の耐燃料透過性を判断した。
【0023】
[実施例1の樹脂組成物の製造]
ポリアミド樹脂(a)として、メタキシリレンジアミン100モル%とアジピン酸から得られたポリアミド樹脂(N−MXD6:三菱ガス化学(株)製ナイロン6000、数平均分子量15,000)100重量部と、ポリオレフィン系樹脂(b)として酸変性高密度ポリエチレン(三井化学(株)製 HE040、比重:0.95、融点:125℃、MFR:1.6g/10分(190℃))80重量部、低融点ポリアミド樹脂(c)としてポリアミド12(EMS−CHEMIE製Grilamid L20G)20重量部を二軸押出機(TEM35B)で270℃のシリンダー温度で混練、押出、カットし、ペレットとした。
【0024】
[実施例2〜4、比較例1〜5]
表1または表2に記載の組成比とした他は、実施例1と同様にペレットを作製した。なお、実施例2にて使用したPA6(ナイロン6)は、三菱化学(株)製ノバミッド1007Jであり、比較例1にて使用したPA66(ナイロン66)は、東レ(株)製アミランCM3001−Nである。
なお、表1および表2において、(a)〜(c)の単位は重量部、引張接着強度の単位はMPa、燃料透過性の単位はg・mm/m2・dayである。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
表1より、実施例1〜4では、ポリアミド系樹脂組成物の燃料透過性は極めて低く、燃料タンク部品の耐燃料透過性が優れていると判断できた。
また、ASTMに準じて成形した試験片の、ポリアミド樹脂組成物とポリエチレン部分との接着強度が優れていることから、自動車用部品に要求される安全性に対する信頼性が高い燃料タンク部品が得られると判断できた。
【0028】
表2によると比較例1、2および5におけるポリアミド樹脂組成物では、耐燃料透過性は優れていたものの、接着強度が低いことから、自動車用部品に要求される安全性に対する信頼性が高い燃料タンク部品が得られないと判断できた。
また、比較例3および4においては、ポリアミド樹脂組成物とポリエチレンとの接着強度は優れているものの、耐燃料透過性が劣り、燃料タンク部品における燃料の揮散量を低減することができないと判断できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族系ポリアミド樹脂(a)の融点を測定する方法であって、DSCにより測定することを特徴とする、測定方法。

【公開番号】特開2011−47955(P2011−47955A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260846(P2010−260846)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【分割の表示】特願2004−115452(P2004−115452)の分割
【原出願日】平成16年4月9日(2004.4.9)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】