説明

ポリアミド球状粒子粉末の製造方法

【課題】ポリアミド球状粒子粉末を連続的に大量に生産する場合に好ましく、簡便で再現性良く、径のバラツキが小さいポリアミド球状粒子粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリアミドに対し高温では溶媒として作用し、室温では非溶媒として作用する溶剤に、ポリアミドのペレット状樹脂を混合加熱し、均一溶液を生成し、その均一溶液をバット13に充填する。その後、バット13を炉内の移動棚12の最上段のバット保持部23aに設置して冷却する。移動棚の最上段から最下段まで一定期間で移動したバット保持部23bのバットを取り出すことによってバット内にポリアミド球状粒子が析出されるポリアミド球状粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアミド球状粒子粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】米国特許2639278
【特許文献2】特開平8−12765号公報
【特許文献3】特開昭52−107047号公報
【0003】
従来、ポリアミド球状粒子粉末の製造方法として、ポリアミドと、ポリアミドに対して高温では溶媒として作用し、室温では非溶媒として作用する溶剤とを混合し、その後、加熱することによって均一溶液を生成し、この均一溶液を冷却することによってポリアミドの球状粒子を析出させる方法(以下、溶媒法という)が知られている(特許文献1、2、3参照)。
【0004】
そして、これらの方法を用いてポリアミド球状粒子粉末の生産を行うためにはポリアミドと溶剤とを大容量の溶解槽で混合加熱し、その後、その溶解槽内で冷却することが考えられる。しかし、加熱した均一溶液を溶解槽内で冷却するとき、溶解槽内の中心部と外周とでは温度差が生じるため、溶解槽の全域を一定の冷却速度に保つように温度コントロールをすることは不可能である。そのため、粒子の粒度分布幅が広くなったり、粒子同士がブドウの房状にくっついた塊になったりする問題がある。また、均一溶液を溶解槽内で冷却する手段として熱交換器を用いることも考えられるが、その場合熱交換器自体にポリアミド被膜が形成され、連続的な生産には適していない。また冷却時に溶解槽内の溶液を移動させるために撹拌などの手段が必要になるが、そのことにより均一溶液に乱流が形成され、均一の球状粒子の析出を妨げられる。そのために、変形粒子、微小粒子、あるいは、膜状の塊が析出するなど多くの不具合が生じる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような加熱した均一溶液を溶解槽内で冷却して球状粒子粉末を製造する方法では、数キログラム程度の小規模な製造である場合、上述した不具合も少なく再現性がみられる。しかし、数百キログラムレベルの球状粒子粉末を一度に製造する場合、その不具合は著しく現れ、大量生産を行う際の大きな問題となっている。
【0006】
本発明はポリアミド球状粒子粉末を連続的に大量に生産する場合に好ましく、簡便で再現性良く、径のバラツキが小さいポリアミド球状粒子粉末の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のポリアミド球状粒子粉末の製造方法は、ポリアミドと、そのポリアミドに対し高温では溶媒として作用し、室温では非溶媒として作用する溶剤とを混合加熱して生成した均一溶液をバットに充填し、その後、一定の温度で保持された炉内に一定期間収容して冷却することによりポリアミド球状粒子を析出させることを特徴としている。
【0008】
このような製造方法であって、前記均一溶液を深さが1〜15mmとなるようにバットに充填するのが好ましい。また、前記均一溶液をバットに充填した後、バットに蓋体を取り付け、その後、炉内に収容するのが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリアミド球状粒子粉末の製造方法は、ポリアミドと、そのポリアミドに対し高温では溶媒として作用し、室温では非溶媒として作用する溶剤とを混合加熱して生成した均一溶液をバットに充填し、その後、一定の温度で保持された炉内に一定期間収容して冷却することによりポリアミド球状粒子を析出させるため、バットに充填された均一溶液は静止した状態で冷却され、平均粒径が数μmから数十μmのポリアミド球状粒子粉末をバラツキ無く簡便に、そして再現性良く製造することができる。
【0010】
このような製造方法であって、前記均一溶液を深さが1〜15mmとなるようにバットに充填する場合、バットに充填された溶液全体をほぼ同時に冷却していくことができるため、その溶液内の冷却差によって起こる溶液内の乱流を抑えることができ、一層均一なポリアミド球状粒子を析出させることができる。
また、前記均一溶液をバットに充填した後、バットに蓋体を取り付け、その後、炉内に収容する場合、バット内の温度をより正確に調整することができ、また、溶剤の蒸気の飛散を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に図面を用いて本発明の製造方法を説明する。図1aは、本発明のポリアミド球状粒子粉末の製造方法に用いられる装置の一実施形態を示す側面図、図1bはそのバットを示す側面断面図、本発明のポリアミド球状粒子粉末の製造方法に用いられる装置の他の実施形態を示す側面図である。
【0012】
図1には、本発明のポリアミド球状粒子の製造方法に用いる装置の実施形態を示す。この装置10は、炉11と、その中に設置された移動棚12と、その移動棚に収容されるバット13とからなる。この実施形態では、移動棚12に収容されるバット13が、特許請求の範囲の文言の「炉内に収容されるバット」に該当する。
【0013】
炉11は、上部に開閉自在に設けられた収納口16と、下部に開閉自在に設けられた取出口17とを備えており、炉11内全体を一定の温度に保持できるように複数の室温センサーが取り付けられている。この炉内の温度としては、100〜150℃、特に、125〜135℃で設定される。
【0014】
移動棚12は、閉ループに設けられた上下に延びる二本のベルト21と、その二本のベルトを一定の速度で駆動するベルトの上下に設けられたドラム22と、そのベルトに突出して設けられ、バット13を保持するバット保持部23とからなる。また、移動棚12の上部、中部、下部に、バット保持部23に保持されるバット13内の液温を測定する液温度測定用センサーが取り付けられている。このセンサーは、移動棚12の各段に設けてもよい。
この移動棚12では、図中の矢印の方向にベルトは回転する。つまり、バット保持部23が上から下に移動するように構成されている。
【0015】
析出用バット13は、図1bに示すように、バット本体24と、その蓋体25とからなる。また、図1cに示すように蓋体25の代わりに落し蓋26を用いてもよい。
【0016】
このように構成されているため、炉11の収納口16を開き、移動棚12の最上段のバット保持部23にバット13を置くことにより、バット13はゆっくりと下降していき、一定期間後、移動棚の最下段に位置する。そして、炉11の取出口17を開き、最下段に位置しているバット13を取り出す。
【0017】
次にこれらを用いたポリアミド球状粒子粉末を製造方法を説明する(図2参照)。
初めにポリアミドに対し高温では溶媒として作用し、室温では非溶媒として作用する溶剤に、ポリアミドのペレット状樹脂を混ぜて得た混合物を、二酸化炭素で置換した撹拌機を備えた混合槽内で、185〜200℃にてポリアミドが完全に溶解するまで撹拌して均一溶液を生成する(工程1)。ポリアミドのペレット状樹脂は溶剤に対して5〜35重量%となるように混合する。
【0018】
この均一溶液Aをバット本体24に充填する。このとき、均一溶液Aが深さ1〜15mm、好ましくは、5〜10mmとなるように充填する。その後、バット本体24に蓋25を被せ、炉内の移動棚12の最上段のバット保持部23aに設置する。これにより、一定の温度(125〜135℃、特に130℃)に保持された雰囲気下でバット13内の均一溶液Aを徐々に冷却する(工程2)。この冷却によって、このバット内の均一溶液中にポリアミド球状粒子が析出造粒される。そして、一定期間経過したバットを最下段のバット保持部23bから取り出す。その後、遠心分離機を用いて、ポリアミド球状粒子を濾過する(工程3)。さらに攪拌機を用いて水洗(工程4)し、再度、遠心分離機にかけて濾過(工程5)し、100〜110℃で乾燥させて(工程6)、乾燥工程で軽く固まっているポリアミド球状粒子の塊をクラッシャー等により解砕(工程7)することによりポリアミド球状粒子粉末が得られる。
【0019】
このようにして製造されるポリアミド球状粒子は、得られた粒子の径にバラツキが小さく、得られた粒子の60%以上、あるいは70%以上が平均粒径に対して約±15μm、あるいは約±10μmの粒径を有するものである。
【0020】
本発明の製造方法を使用することができるポリアミドとしては、ポリマー主鎖に酸アミド結合(−CONH−)を有するもの、例えば、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610等が挙げられる。しかし、これらは特に限定されるものではない。
また、ポリアミドに対し高温では溶媒として作用し、室温では非溶媒として作用する溶剤としては、それぞれポリアミドの種類によっても異なるが一般的に単一成分あるいは複合成分からなるアルコールが挙げられ、例えば単一成分溶剤としては多価アルコールが挙げられ、複合成分溶剤としてはポリアミドに対する溶解度を小さくする水と低級アルコールとの混合溶液が挙げられる。このような多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等が挙げられる。低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール等が挙げられ、その混合比はポリアミドによって随時決めることができる。
【0021】
そして、ポリアミドとしてナイロン6を用いる場合、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールが好ましく挙げられ、特に、エチレングリコールが好ましい。この場合、混合物の加熱は180〜190℃で行い、析出温度は、100〜150℃、特に、110〜130℃で行う。
また、ポリアミドとしてナイロン12を用いる場合、ジプロピレングリコールが好ましい。この場合、混合物の加熱は185〜200℃、特に、185〜195℃で行い、析出温度は、100〜150℃、特に、125〜135℃で行う。
【0022】
図3には、本発明のポリアミド球状粒子の製造方法に用いる装置の他の実施形態を示す。この装置30は、炉31と、その中に設置された複数段からなる棚32と、その棚に収容されるバット33とからなる。
【0023】
炉31は、その前面に開閉可能な収納口36が各段に設けられており、その後面に開閉可能な取出口37が各段に設けられている。このように収納口36および取出口37を各段に設けることにより、バットの取り出しによる温度変化を防ぐことができる。
また、炉31の温度が上下左右均一となるように循環用羽根が取り付けられている。
【0024】
これらを用いたポリアミド球状粒子粉末の製造方法は、上述したように均一溶液を作成し、その溶液をバットに充填する。そして、炉の収納口から棚32に収納し、溶液を冷却する。この冷却によりポリアミド球状粒子が析出する。一定期間経過後、炉の取出口37からバットを取り出す。その後は、上述した方法で濾過、水洗、乾燥でポリアミド球状粒子粉末を得る。
【実施例】
【0025】
図1の移動棚12であって、最上段のバット保持部23aと最下段のバット保持部23bの距離が約6m、バット保持部23の間隔が60mm、バット保持部の移動(降下)速度100mm/分のものを用意した。また、析出用バット13として、332×475×48mmのものを用意した。
次に、エチレングリコールにナイロン6のペレットをナイロン6の濃度が5%となるように混ぜて、撹拌機を備え、二酸化炭素で置換した混合槽内にて、ナイロン6が完全に溶解するまで185℃で撹拌して均一溶液を生成した。この均一溶液を1.5リットル充填した析出用バット13を用意した。
【0026】
この析出用バット13を、130℃に設定された炉11内の移動棚12の最上段のバット保持部23aに設置し、均一溶液を約1時間冷却した。
このバット13内のポリアミド球状粒子を遠心分離機により濾過し、その後、水で洗浄し、再度、遠心分離機により濾過し、105℃の炉内で乾燥させた。得られたポリアミド球状粒子の粒径は25〜40μmの範囲にあり、平均粒径は30μmであった。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1aは、本発明のポリアミド球状粒子粉末の製造方法に用いられる装置の一実施形態を示す側面図であり、図1bはそのバットを示す側面断面図である。
【図2】本発明のポリアミド球状粒子粉末の製造方法を示す工程図である。
【図3】本発明のポリアミド球状粒子粉末の製造方法に用いられる装置の他の実施形態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0028】
11 炉
12 移動棚
13 バット
16 収納口
17 取出口
21 ベルト
22 ドラム
23、23a、23b バット保持部
24 バット本体
25 蓋
26 落し蓋
31 炉
32 棚
33 バット
36 収納口
37 取出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドと、そのポリアミドに対し高温では溶媒として作用し、室温では非溶媒として作用する溶剤とを混合加熱して生成した均一溶液をバットに充填し、その後、一定の温度で保持された炉内に一定期間収容して冷却することによりポリアミド球状粒子を析出させる、ポリアミド球状粒子粉末の製造方法。
【請求項2】
前記均一溶液を深さが1〜15mmとなるようにバットに充填する、請求項1記載のポリアミド球状粒子粉末の製造方法。
【請求項3】
前記均一溶液をバットに充填した後、バットに蓋体を取り付け、その後、炉内に収容する、請求項1記載のポリアミド球状粒子粉末の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−138141(P2008−138141A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−328499(P2006−328499)
【出願日】平成18年12月5日(2006.12.5)
【出願人】(592245535)株式会社メタルカラー (14)
【Fターム(参考)】