説明

ポリアミド短繊維の製造方法

【課題】 未延伸糸条束を引き取る際や一旦収納容器に収納する際に、融着を生じさせることがなく、良好に収納することができ、収納容器から糸条束を引き出す際の乱れやもつれに起因する繊維間の融着も生じることがなく、品位、性能ともに優れた不織布や抄紙を得ることができるポリアミド短繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】 ビスアミド化合物を0.005〜0.5質量%含有するポリアミド成分が少なくとも繊維表面を占める繊維であり、繊維長が0.1〜50mmであるポリアミド短繊維の製造方法であって、溶融紡糸して得られた未延伸糸条に温度15℃以下の油剤を付与し、次いで複数の未延伸糸条を集束して未延伸糸条束とし、ニップローラを介することなく、吸引装置で未延伸糸条束の張力が120〜300gとなるように気体を噴射させながら引き取って、吸引装置下方の糸条収納容器内に一旦収納し、延伸し、繊維長0.1〜50mmにカットする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布や抄紙に用いられるポリアミド短繊維の製造方法に関するものであり、紡出された未延伸糸条束を吸引装置を用いて引き取り、連続的に安定して糸条収納容器内に収納することにより、単糸間の融着を防止し、水中分散性良好なポリアミド短繊維を生産性よく製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド繊維は、繊維強力が高く、ヤング率がポリエステル繊維に比べ低いことから柔軟性に優れており、染色性にも優れているため、汎用素材として産業資材や、衣料用、一般家庭資材、土木、農業資材、衛生材料などに幅広く用いられている。
【0003】
さらに、ポリアミドはポリエステルに比べ耐アルカリ性に優れることから、耐アルカリ性が求められる用途に好適に用いられている。
【0004】
近年、携帯電話、モバイルコンピューター、デジタルカメラ等の小型電子機器、玩具、携帯型電動工具等の普及により、その電源として、充電式電池の需要が増しており、アルカリ電解液に侵されにくいポリアミド繊維を用いた不織布や抄紙が電池セパレーターとして多く使用されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0005】
このような電池セパレーター用の不織布や抄紙にポリアミド繊維を用いる際には、繊維長が0.1〜50mm程度のポリアミド短繊維を使用する。
【0006】
通常、このようなポリアミド短繊維を得るには、8〜30錘の紡糸機を用い、1錘当たり50〜300孔の紡糸孔を有する紡糸口金より溶融紡糸し、冷却、オイリングした後、これらの糸条(8〜30本)を集束して未延伸糸条束とし、歯車型ニップローラ等で引き取りながら、一旦、糸条収納容器内に収納する。そして、収納容器より未延伸糸条束を引き出し、数本〜数十本を引き揃えて延伸した後、所望の繊維長にカットすることにより得ることができる。
【0007】
ポリアミド短繊維を上記のような方法で得る際には、ガラス転移点が20〜50℃であるナイロン6、66等を用いた場合、次のような問題が生じることがある。
【0008】
つまり、ガラス転移点が低いために、紡糸後の冷却、オイリングでは未延伸糸条束は完全に冷却されていないことがあり、歯車型ニップローラ等で引き取った際に、ニップローラの圧力で繊維同士が融着したり、また、糸条収納容器に落下させた際にも繊維同士が融着し、糸条収納容器から引き出す際に乱れやもつれが多発するという問題があった。
【0009】
糸条束の引き取り時や糸条収納容器に落下させた際に繊維同士の融着が生じたり、延伸前の糸条束に乱れやもつれが生じていると、得られる短繊維においても繊維間での融着が生じており、不織布や抄紙を得る際の分散性が悪くなり、さらには得られる不織布や抄紙にも斑が生じるなど品位や性能に劣るものとなるという問題があった。
【0010】
特許文献1、2に記載されているポリアミド繊維においては、上記のようなポリアミド繊維の問題点を考慮していなかったため、製造工程においてポリアミド繊維の融着が生じやすく、製品を得る際の均一分散性が不十分なものであり、得られる不織布や抄紙の品位や性能は十分ではなかった。
【特許文献1】特開2004-103459号公報
【特許文献2】特開2001-84986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の問題点を解決し、未延伸糸条束を引き取る際や一旦収納容器に収納する際に、融着を生じさせることがなく、良好に収納することができ、収納容器から糸条束を引き出す際の乱れやもつれに起因する繊維間の融着も生じることがなく、不織布や抄紙を得る際の分散性が良好で、品位、性能ともに優れた不織布や抄紙を得ることができるポリアミド短繊維を生産性よく製造することが可能となるポリアミド短繊維の製造方法を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
【0013】
すなわち、本発明は、ビスアミド化合物を0.005〜0.5質量%含有するポリアミド成分が少なくとも繊維表面を占める繊維であり、繊維長が0.1〜50mmであるポリアミド短繊維の製造方法であって、溶融紡糸して得られた未延伸糸条に温度15℃以下の油剤を付与し、次いで複数の未延伸糸条を集束して未延伸糸条束とし、未延伸糸条束をニップローラを介することなく、吸引装置で未延伸糸条束の張力が120〜300gとなるように気体を噴射させながら引き取って、吸引装置下方の糸条収納容器内に一旦収納し、その後、未延伸糸条束を複数本引き揃えて延伸し、繊維長0.1〜50mmにカットすることを特徴とするポリアミド短繊維の製造方法を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリアミド短繊維の製造方法によると、集束した未延伸糸条束を、単糸切れや繊維同士の融着を生じさせることなく、糸条収納容器内に連続的に安定して収納することができ、さらに、収納した未延伸糸条束を糸条収納容器から引き出す時にも糸条束の乱れやもつれ等が生じることがないので、繊維間融着が生じておらず、不織布や抄紙を製造する際の分散性にも優れた短繊維を操業性よく得ることができる。したがって、本発明のポリアミド短繊維の製造方法により得られたポリアミド短繊維により、繊維間の融着に起因する斑の発生が少なく、品位の高い不織布や抄紙を得ることができ、特に、電池セパレーター用不織布をはじめとした、均一性の要求される用途に好適に用いられる不織布や抄紙を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
まず、本発明の製造方法で製造するポリアミド短繊維について説明する。本発明におけるポリアミド短繊維は、ビスアミド化合物を0.005〜0.5質量%含有するポリアミド成分が少なくとも繊維表面を占める繊維である。
【0017】
つまり、ビスアミド化合物を0.005〜0.5質量%含有するポリアミド成分のみからなる繊維であってもよいし、ビスアミド化合物を0.005〜0.5質量%含有するポリアミド成分が繊維表面のみを占める繊維であってもよい。
【0018】
ビスアミド化合物を0.005〜0.5質量%含有するポリアミド成分が繊維表面のみを占める繊維としては、芯鞘型や海島型等の複合形状の繊維が挙げられる。中でも芯鞘型のものが好ましい。
【0019】
芯鞘型複合繊維の場合は、ビスアミド化合物を0.005〜0.5質量%含有するポリアミド成分が鞘成分であり、芯成分がビスアミド化合物を含有しないポリアミド成分又はポリアミド以外の他の成分であるものであり、中でも芯成分もポリアミド成分からなるものが好ましい。
【0020】
海島型複合繊維の場合は、ビスアミド化合物を0.005〜0.5質量%含有するポリアミド成分が鞘成分であり、島成分がビスアミド化合物を含有しないポリアミド成分又はポリアミド以外の他の成分であるものであり、中でも島成分もポリアミド成分からなるものが好ましい。
【0021】
本発明におけるポリアミド成分としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン46、ナイロン610等を用いることが好ましい。得られる短繊維を用いた製品(不織布や抄紙)に求められる物理・化学的性質に応じて、適宜ポリマーを選択すればよいが、中でも、ナイロン6は汎用性が高く、比較的安価であるため好ましい。
【0022】
そして、これらの成分を単独(ホモポリマー)で用いても併用してもよい。併用する場合は、これらの成分の2つ以上を混合したり、共重合することが挙げられるが、中でも少なくとも2成分を含有する共重合体とすることが好ましい。
【0023】
また、上記したような芯鞘型や海島型の複合形状の繊維であって、芯成分や島成分にポリアミド以外の他の成分を用いる場合は、他の成分としては、ポリエステルやポリオレフィン等のポリマーを用いることができるがこれらに限定されるものではなく、得ようとする製品に求められる物理・化学的性質に適したポリマーを適宜選択すればよい。
【0024】
さらに、芯鞘型複合繊維においては、芯成分の融点が鞘成分より20℃以上高いことが好ましい。熱接着性繊維とする場合には、両成分の融点差が20℃未満であると、不織布や抄紙を得る際の熱接着処理時の温度を低融点成分のみが溶融する温度に設定することができず、高融点成分も溶融し、通気性に乏しいフィルム状化した不織布となり、好ましくない。
【0025】
次に、本発明におけるポリアミド短繊維は、上記のようなポリアミド成分中に、ビスアミド化合物を0.005〜0.5質量%含有している。本発明においては、ビスアミド化合物を0.005〜0.5質量%含有するポリアミド成分が繊維表面を占めることにより、繊維同士の融着を防ぐことができる。
【0026】
つまり、本発明の製造方法においては、ポリアミド成分中にビスアミド化合物を含有すること、溶融紡糸して得られた未延伸糸条に温度15℃以下の油剤を付与すること、ニップローラを介することなく吸引装置で引き取ることにより、引き取り工程及び糸条収納容器内に収納する際において繊維同士の融着が生じることがなく、また、糸条束を引き出しする際の糸条束の乱れやもつれに起因する繊維間の融着も防ぐことができる。これにより、得られる短繊維は繊維間の融着が生じていない品位の高いものとなり、不織布や抄紙を得る際の繊維の分散性も良好となり、斑のない優れた不織布や抄紙を得ることが可能となる。
【0027】
ビスアミド化合物の含有量は、ポリアミド成分中に0.005〜0.5質量%であり、中でも0.05〜0.3質量%とすることが好ましい。ビスアミド化合物の含有量が0.005質量%よりも少ないと、上記したような効果が乏しくなり、繊維間の融着が生じやすくなる。一方、0.5質量%よりも多いと、ビスアミド化合物とポリアミドとの混合が困難となったり、紡糸ノズルの汚れが生じて糸切れが生じるなど、操業性が悪化する原因となりやすく、また、得られる繊維の性能、品位も低下する懸念がある。
【0028】
本発明におけるビスアミド化合物としては、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、ラウリル酸アミド等が挙げられ、例えば、メチレンビスステアリルアミド、メチレンビスラウリルアミド、エチレンビスステアリルアミド、エチレンビスラウリルアミド、エチレンビスオレイルアミド等が挙げられる。中でもエチレンビスステアリルアミドが好ましい。
【0029】
ビスアミド化合物の添加方法としては、粉体供給装置を用い、溶融紡糸する直前のポリマー(ポリアミド成分)に直接ブレンドする方法が一般的である。また、このような直接ブレンドする方法により、ビスアミド化合物を多量に添加したポリマーをマスターチップとして作成し、ビスアミド化合物を含有しない成分と紡糸時に混合する方法を採用してもよい。また、ポリアミド成分の重合中にビスアミド化合物を添加する方法を採用してもよい。
【0030】
また、繊維を構成するポリアミド成分や他の成分中には、必要に応じて酸化防止剤のような安定剤や蛍光剤、顔料、抗菌剤、消臭剤、強化剤等を用途上の機能を損なわない範囲で添加してもよい。
【0031】
次に、本発明のポリアミド短繊維の製造方法について図面を用いて詳細に説明する。図1は、本発明の製造方法の一実施態様を示す一部概略工程図であり、図2は、図1で使用する吸引装置の一部拡大説明図である。
【0032】
まず、溶融紡糸された糸条を冷却し、油剤付与装置1で温度15℃以下の油剤を付与してゴデットローラ2で引き取った後、多錘分(複数)の未延伸糸条を集束し、未延伸糸条束Yを得る。この未延伸糸条束Yを、補助ローラ3を経た後、高圧気体を噴射することにより吸引して引き取る吸引装置4で引き取り、吸引装置4の下方に設置された糸条収納容器7に収納する。
【0033】
本発明においては、油剤を付与して集束させた糸条束を、ニップローラを介することなく、吸引装置4で引き取ることを特徴とする。具体的には、図1に示すように、油剤付与装置1で油剤が付与された糸条は、ゴデットローラ2で引き取られた後に多錘分が集束されて未延伸糸条束Yとなるが、ニップローラを介することなく、補助ローラ3を経て吸引装置4で吸引しながら引き取り、糸条収納容器に収納するものである。
【0034】
ここで、油剤付与装置1で油剤を付与する際、温度15℃以下、中でも好ましくは3〜15℃の油剤を付与する。
【0035】
本発明で製造するポリアミド短繊維は、ガラス転移点が低いポリマーを含む上記のようなポリマーからなるものであるため、室温程度の油剤を付与しただけでは十分に冷却されず、繊維同士の融着を引き起こしやすい。そこで、集束を行う前の糸条に温度15℃以下の油剤を付与することによって、糸条が十分に冷却され、かつ、油剤によって未延伸糸条束に柔軟性と静電気防止性が付与され、糸条束を規則正しく糸条収納容器内に収納することが可能となる。
【0036】
油剤の温度が15℃を超えると、上記のような糸条を冷却する効果が乏しくなり、糸条収納容器に収納された糸条束は、繊維同士に融着が生じたものとなりやすい。一方、3℃未満になると、吸引装置内に油剤が付着しやすくなり、付着した油剤が汚れとなり、吸引装置より排出された糸条にばらつきが生じやすくなる。
【0037】
油剤は、濃度0.3〜0.5質量%の水エマルジョン油剤とすることが好ましい。水エマルジョン油剤とすることにより、糸条束には油剤と共に水分も付着させることができ、さらに糸条が冷却効果が高まり、未延伸糸条束を安定して糸条収納容器に収納することが可能となる。
【0038】
油剤付着量(水エマルジョン油剤の付着量)としては、未延伸糸条束の10〜30質量%となるように付与することが好ましく、油剤付与装置としては、オイリングローラを使用することが好ましい。
【0039】
そして、未延伸糸条束Yを吸引装置で吸引する際には、未延伸糸条束Yの張力が120〜300gとなるように気体を噴射させながら引き取る。これによって、単糸の乱れを生じさせることなく、放射状に適度に単糸をばらけさせて収納容器内に収納することができる。張力が120g未満では、単糸のばらけ具合が不均一となり、未延伸糸条束Yを収納した後、糸条収納容器から引き出す際に、乱れやもつれなどが生じる。一方、張力が300gを超えると、気体の噴射が強力なため、単糸同士が絡み合い、単糸の乱れが生じやすくなる。
【0040】
なお、未延伸糸条束Yの張力は、吸引装置の上端から上方10cmの位置で、吸引装置に吸引される未延伸糸条束Yの張力をバネ秤を用いて測定する値である。
【0041】
本発明で用いる吸引装置としては、高圧気体の噴射により糸条束を吸引して引き取る吸引装置を用いることが好ましい。このような吸引装置は、例えば、図2に示すように、噴射ノズル9より高圧気体を噴射させることにより吸引ノズル10内に未延伸糸条束Yを吸引するものである。そして、噴射ノズル9は気体の流量を調整する流量調節装置6に接続されている。また、噴射ノズル9内には、高圧気体の流れをスムーズにするために、整流板11等を設けることが好ましい。
【0042】
さらに、吸引ノズル10の入口5は、未延伸糸条束Yを良好に導入できるようにするため、漏斗状とすることが好ましく、吸引ノズル10の内径は6〜15mm程度とすることが好ましい。また、吸引ノズル10の長さは、50〜120cm 程度とすることが好ましく、50cm未満では吸引ノズル内で単糸のばらけが不十分で不均一となり、また、 120cmを超えたものでは吸引ノズル内での内壁抵抗が大きく、単糸乱れの原因となりやすい。
【0043】
そして、未延伸糸条束Yの張力が120〜300gとなるように気体を噴射させながら引き取るには、噴射ノズルから噴射させる気体の流量を1.0〜2.6Nm3 程度とすることが好ましい。
【0044】
さらに、上記のように、吸引装置4で吸引した未延伸糸条束Yを落下させて下方の糸条収納容器7内に収納する際には、糸条収納容器7をトラバース装置8で前後左右にトラバースさせながら行うことが好ましい。これにより、糸条収納容器7内で、未延伸糸が規則正しく平面上に積層され、延伸工程で未延伸糸を糸条収納容器から引き出す際の乱れやもつれ等の発生を防ぎ、引き出し性が良好な状態となる。
【0045】
糸条収納容器7は、吸引装置の下端から50〜150cm下方に設置することが好ましい。50cm未満では糸条束が放射状にばらけるときの放射半径が小さく、十分にばらけさせることが困難となりやすい。150cmを超えたものでは、放射半径が大きくなり、糸条収納容器7からのはみ出し等が発生したり、コントロールがしにくく、糸条収納容器に乱れなく収納することが困難になることがある。
【0046】
未延伸糸条束Yは、繊度が2〜50ktexとすることが好ましい。そして、糸条収納容器7から未延伸糸条束を引き出し、これらを複数本引き揃えて延伸し、繊度が10〜300ktex(単糸繊度が0.5〜60dtex)程度になるものとすることが好ましい。
【0047】
延伸は、周速の異なるローラ群間で行うことが好ましく、1.5〜4.0倍程度の延伸倍率で延伸を行う。
【0048】
そして、得られる短繊維を乾式不織布用途に用いる場合は、押し込み式クリンパー等の捲縮付与装置にて機械捲縮を付与し、湿式不織布用途に用いる場合は、捲縮を付与せず、両用途とも必要に応じて油剤の付与を行う。この後、糸条束Yをカッターで所定の長さに切断して、本発明のポリアミド短繊維を得る。
【0049】
本発明の製造方法で得られるポリアミド短繊維は、繊維長が0.1〜50mmである。上記したように、紡糸、延伸した糸条束をカットすることにより繊維長をこのような値のものとすることができる。繊維長が0.1mmであると、糸条束をカットすることが困難となりやすく、一方、50mmを超えると、用途や製品の種類にもよるが、不織布や抄紙にする際に繊維のもつれ等が生じやすくなり、均一性に劣る製品となりやすく好ましくない。
【0050】
また、単糸繊度は0.5〜60dtexであることが好ましい。単糸繊度が0.5dtex未満であると、紡糸、延伸による製造が困難となりやすく、また、単糸繊度が60dtexを超えると、用途や製品の種類にもよるが、得られる不織布や抄紙にごわつきが生じるなど柔軟性に乏しくなりやすく、好ましくない。
【0051】
なお、繊維長はJIS L1015のA法に基づき測定するものであり、繊度はJIS L1015のB法に基づき測定するものである。
【実施例】
【0052】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、実施例における各種の値の測定方法及び未延伸糸条束Yを引き出したときの乱れ、もつれの発生回数、水中分散性の評価方法は次のとおりである。
〔ポリアミドの相対粘度〕
96%硫酸を溶媒とし、濃度1g/dl、温度25℃で測定した。
〔ポリアミドのガラス転移点、融点(℃)〕
示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製DSC7)を用い、昇温速度20℃/分で測定した。
〔未延伸糸条束の張力〕
吸引装置の上端から上方10cmの位置において、中川孔衡器製バネ秤を用いて未延伸糸条束の張力を測定した。
〔単糸乱れの有無〕
吸引装置より排出され、糸条収納容器内に収納されるまでの糸条束に生じた単糸切れの有無と糸条束の状態を目視にて観察し、下記の2段階評価とした。
○:単糸切れの発生がなく、単糸同士の絡みやループ状の絡みが生じていない。
×:単糸切れが多発したり、単糸同士の絡みが大きく、ループ状の絡みが生じている。
〔未延伸糸条束の乱れ、もつれ〕
32個の糸条収納容器内に収納された未延伸糸条束を、引き揃えて延伸するために引き出した際の乱れやもつれの発生回数を目視にてカウントし、未延伸糸条束の質量1t当たりの回数で示した。
〔水中分散性(融着の有無)〕
得られたポリアミド短繊維1gを1000ccの純水の入ったビーカー中に入れ、撹拌し、融着糸の有無を目視にて判定した。なお、攪拌は次のような条件で行った。マグネチックスターラー(三田村理研工業社製のトルコンハイマグスターラー)にて速度600rpmで60秒間撹拌し、回転子は円盤型(径35mm、厚12mm;スターヘッド撹拌子)を用いた。
【0053】
実施例1
ポリアミド成分として、相対粘度が2.50、融点が215℃、ガラス転移点40℃のナイロン6を使用し、粉体供給設備にてエチレンビスステアリルアミド(ビスアミド化合物)をポリアミド成分中0.2質量%となるように添加し、孔数1040孔の紡糸口金より、紡糸温度255℃、紡糸速度1000m/分で溶融紡糸した。このとき、図1に示す工程図に従い、図2の吸引装置を用いて、紡糸、油剤付与、未延伸糸条束の収納を行った。まず、紡糸後、冷却した糸条に温度5℃、濃度0.3質量%の水エマルジョン油剤を付着率が20質量%になるようにオイリングし、ゴデットローラ2で引き取った後、16錘分(16本の糸条)を集束して約3.2ktexの未延伸糸条束Yを得た。次に、この未延伸糸条束Yを補助ローラ3を経た後に吸引装置4を用いて引き取った。このとき、吸引装置4で噴射ノズル9よりエアー圧力0.4MPa、流量1.9Nm3 の空気を噴射し、吸引ノズル10内に未延伸糸条束Yを吸引した。
吸引装置の下端から60cm下方に糸条収納容器7を設け、糸条収納容器7の下部にトラバース装置8を設置し、左右に1往復16秒、前後方向には1往復50秒の速度で、糸条収納容器7の開口幅分をトラバースさせながら未延伸糸条束Yを収納した。
1個の糸条収納容器7につき、未延伸糸条束Yを約700kg収納した後、36個の糸条収納容器7から未延伸糸条束Yを引き出し、36本引き揃えて、周速の異なるローラ群間で引き取ることにより延伸を行った。このとき、ローラ温度50℃、延伸速度を100m/分として2.6倍に延伸した。そして、機械捲縮を付与することなく、ECカッターでカットし、繊維長5mm、単糸繊度0.84dtexのポリアミド短繊維を得た。
【0054】
実施例2〜3、比較例1〜2
ポリアミド成分に添加するエチレンビスステアリルアミドの添加量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリアミド短繊維を得た。
【0055】
実施例4〜5、比較例3〜4
油剤の温度を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリアミド短繊維を得た。
【0056】
実施例6〜7、比較例5〜6
吸引装置4で噴射ノズル9より噴射する空気のエアー圧力、流量を変更し、糸条束の張力を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリアミド短繊維を得た。
【0057】
実施例8
ポリアミド成分Aとして、相対粘度2.50、融点215℃、ガラス転移点40℃のナイロン6を用い、ポリアミド成分Bとして、相対粘度が2.55、融点が141℃、ガラス転移点26℃のナイロン6/ナイロン12共重合ポリマーであって、エチレンビスステアリルアミド(ビスアミド化合物)をポリアミド成分B中0.2質量%となるように添加したものを用いた。そして、ポリアミド成分Aを芯成分、ポリアミド成分Bを鞘成分として複合紡糸装置を用いて紡糸した以外は、実施例1と同様の方法でポリアミド短繊維を得た。
【0058】
実施例9〜10、比較例7〜8
実施例8のポリアミド成分Bに添加するビスアミド化合物の添加量を表1に示すように変更した以外は、実施例8と同様の方法でポリアミド短繊維を得た。
【0059】
実施例11〜12、比較例9〜10
油剤の温度を表1に示すように変更した以外は、実施例8と同様の方法でポリアミド短繊維を得た。
【0060】
実施例13〜14、比較例11〜12
吸引装置4で噴射ノズル9より噴射する空気のエアー圧力、流量を変更し、糸条束の張力を表1に示すように変更した以外は、実施例8と同様の方法でポリアミド短繊維を得た。
【0061】
実施例15
ポリアミド成分Aとして、相対粘度2.57、融点257℃、ガラス転移点50℃のナイロン66を用い、ポリアミド成分Bとして、相対粘度2.50、融点217℃、ガラス転移点40℃のナイロン6であって、エチレンビスステアリルアミド(ビスアミド化合物)をポリアミド成分B中0.2質量%となるように添加したものを用いた。そして、ポリアミド成分Aを芯成分、ポリアミド成分Bを鞘成分として複合紡糸装置を用いて紡糸した以外は、実施例1と同様の方法でポリアミド短繊維を得た。
【0062】
比較例13
図1に示す工程図において、ゴデットローラ2で引き取り、16錘分(16本の糸条)を集束して約3.2ktexの未延伸糸条束Yを得た後、補助ローラ3、吸引装置4に代えて、歯車型ニップローラで引き取った以外は、実施例1と同様に行った。
【0063】
実施例1〜15、比較例1〜13で得られたポリアミド短繊維の特性値と評価結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

表1から明らかなように、実施例1〜15の方法によると、未延伸糸条束の引き取り、糸条束の収納が良好に行え、延伸するために引き出す際にも未延伸糸条束の乱れ、もつれの発生回数が少なく、繊維間の融着が生じることがなかったため、得られたポリアミド短繊維は、水中分散性に優れるものであった。
【0065】
一方、比較例1、7ではビスアミド化合物を含有しないポリアミド成分からなるものであったため、未延伸糸条束の引き取り、糸条束の収納の際に繊維間の融着が生じ、引き出す際の未延伸糸条束の乱れ、もつれの発生回数が多く、また、水中分散性に劣るものであった。比較例2、8では、ポリアミド成分のビスアミド化合物の添加量が多すぎたため、特に紡糸操業性が悪く、糸切れが多発し、繊維を得ることができなかった。比較例3、4、9、10では、油剤の温度が高すぎたため、糸条束を完全に冷却させることができず、未延伸糸条束の引き取り、糸条束の収納の際に繊維間の融着が生じ、引き出す際の未延伸糸条束の乱れ、もつれの発生回数が多く、また、水中分散性に劣るものであった。比較例5、11では、吸引装置で引き取る際の糸条束の張力が高すぎたため、引き取り時に単糸切れが多発し、引き出す際の未延伸糸条束の乱れ、もつれの発生回数が多かった。比較例6、12では、吸引装置で引き取る際の糸条束の張力が低すぎたため、単糸のばらけ具合が不均一となり、糸条束を収納した後、糸条収納容器から引き出す際に、乱れやもつれの発生回数が多かった。比較例13では、未延伸糸条束を吸引装置に代えて歯車型ニップローラで引き取ったため、未延伸糸条束の引き取り、糸条束の収納の際に繊維間の融着が生じ、引き出す際の未延伸糸条束の乱れ、もつれの発生回数が多く、また、水中分散性に劣るものであった。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明のポリアミド短繊維の製造方法の一実施態様を示す一部概略工程図である。
【図2】図1の吸引装置の一部拡大説明図である。
【符号の説明】
【0067】
Y 未延伸糸条束
1 油剤付与装置
2 ゴデットローラ
3 補助ローラ
4 吸引装置
5 吸引口
6 流量調節装置
7 糸条収納容器
8 トラバース装置
9 噴射ノズル
10 吸引ノズル
11 整流板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスアミド化合物を0.005〜0.5質量%含有するポリアミド成分が少なくとも繊維表面を占める繊維であり、繊維長が0.1〜50mmであるポリアミド短繊維の製造方法であって、溶融紡糸して得られた未延伸糸条に温度15℃以下の油剤を付与し、次いで複数の未延伸糸条を集束して未延伸糸条束とし、未延伸糸条束をニップローラを介することなく、吸引装置で未延伸糸条束の張力が120〜300gとなるように気体を噴射させながら引き取って、吸引装置下方の糸条収納容器内に一旦収納し、その後、未延伸糸条束を複数本引き揃えて延伸し、繊維長0.1〜50mmにカットすることを特徴とするポリアミド短繊維の製造方法。
【請求項2】
ビスアミド化合物を0.005〜0.5質量%含有するポリアミド成分が、ナイロン6、66、12、46、610成分のうちの少なくとも2成分を含有する共重合体である請求項1記載のポリアミド短繊維の製造方法。
【請求項3】
ポリアミド短繊維が、ビスアミド化合物を0.005〜0.5質量%含有するポリアミド成分を鞘部、ビスアミド化合物を含有しないポリアミド成分を芯部とする芯鞘複合繊維である請求項1又は2記載のポリアミド短繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−89887(P2006−89887A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−279536(P2004−279536)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】