説明

ポリアミド短繊維の製造方法

【課題】製糸工程において糸切れなくマテリアルリサイクルポリアミド短繊維を製造する。
【解決手段】製糸工程において発生するポリアミドの繊維屑および/またはポリマー屑を溶融し第1のフィルターで濾過してマテリアルリサイクルチップを得て後、該チップを第2のフィルターが収容された紡出口金パックを用いて溶融紡糸して得られた長繊維を切断してポリアミド短繊維を製造するに際して、第2のフィルターより網目が5〜15μm細かい第1のフィルターを用いることを特徴とするポリアミド短繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー屑や繊維屑を再生し、原料として再利用することで環境に優しく、しかもコストダウンにつながり、かつ従来品と同等の長期の生産性を有するポリアミド短繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドは優れた強伸度特性、ソフト感、独特の風合い、適度な吸湿性などの特性を有しており、汎用合成繊維として従来より広く用いられている。その用途は、アウターやインナー等の衣料用途や、不織布として衣料芯地として用いたり、パイル状としレンタルモップの部材として用いられる例や、研磨材、抄紙用フェルト、電池セパレーター用不織布等の資材用途など非常に多岐に渡る。
【0003】
しかし、前述の優れた特性を有するにも関わらず、ポリエステルやポリエチレン、ポリプロピレン等の他の汎用合成繊維と比較すると原料コストが高いために、安価な他素材との競合の結果、比較的、特殊な用途のみに市場の規模が限定されているのが現状である。
ところで、地球環境保護への関心の高まりから、環境負荷の低減のために産業廃棄物量削減の取り組みが盛んに行われている。資源循環型の社会への転換を推進するために、熱可塑性のポリマー屑をリサイクル原料として再利用するという取り組みに注目が集まっている。例えば、ポリエステルに関しては、ペットボトルやフリース衣料をリサイクルし、ポリエステル繊維として再利用するといった取り組みが行われている(特許文献1)。これと同様に、ポリアミドのリサイクルも盛んに検討及び実施されてきた。
【0004】
ナイロン6に関しては、原料モノマーのカプロラクタムに解重合したものを再度重合し、チップ化するというケミカルリサイクルが可能な素材として知られているが、解再重合のプロセスが複雑で品質管理が難しく、コストも割高であり、一般に広く用いられるには至っていない。
【0005】
一方で、解重合は行わず、ポリアミド屑を溶融し、再度チップ化するマテリアルリサイクルも知られている。一般にマテリアルリサイクルポリアミドチップは、品質のばらつきや純度の問題から、製糸プロセスにおける紡糸や延伸時の操業性が悪い等の問題がある。この対策としマテリアルリサイクルポリマーを芯成分とし、フレッシュポリマーを鞘成分とする芯鞘複合型繊維とすることにより、上記問題を解決することが出来るが(特許文献2)、複合型の紡糸機が必要となる。
【0006】
また、長期間継続して紡糸を行う場合は、ポリマー内に含まれる異物により紡糸口金パックが閉塞し、パック内圧の上昇やそれに伴うパック洩れ、吐出異常などが発生するため、工業的に生産する際には問題がある。その対策として、紡糸パックのフィルターを立体的な形状とすることで濾過面の表面積を増やし、パック寿命を長くする方法(特許文献3)等があるが、問題自体の解決には至っていない。
【特許文献1】特開2000−351838号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2007−131960号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2002−266152号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、かかる従来技術の課題を克服し、マテリアルリサイクルポリアミド短繊維を工業的に安定して製造することを目的として検討した結果、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は次の構成を有する。すなわち、製糸工程において発生するポリアミドの繊維屑またはポリマー屑を溶融し第1のフィルターで濾過してマテリアルリサイクルポリアミドのチップを得て後、該チップを第2のフィルターが収容された紡出口金パックを用いて溶融紡糸して得られた長繊維を切断してポリアミド短繊維を製造するに際して、第2のフィルターより網目が5〜15μm細かい第1のフィルターを用いることを特徴とするポリアミド短繊維の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、マテリアルリサイクルポリアミド短繊維を工業的に安定して製造することができる。具体的には、紡糸口金パックが閉塞したり、パック内圧の上昇やそれに伴うパック洩れ、吐出異常などが発生することを防止でき、糸切れを抑制してマテリアルリサイクルポリアミド短繊維を製造することができる。また、繊維製造工程中で発生したポリアミド屑を再度繊維原料として有効活用できるため環境負荷が少なく、しかも原料コストの低減も実現することができ、かつ従来品と同等の長期の生産が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明をより詳細に説明する。本発明において、マテリアルリサイクルポリアミドとは、解重合は行わず、ポリアミドの繊維屑および/またはポリマー屑を溶融して得られたポリアミドをいう。本発明では、使用するマテリアルリサイクルポリアミドのチップには、マテリアルリサイクルポリアミドに加えてフレッシュポリアミドを含有していても差し支えないし、溶融紡糸するに際して、マテリアルリサイクルポリアミドのチップに加えて、フレッシュポリアミドのチップを加えても良い。ポリアミドの繊維屑やポリマー屑には、ポリアミドのオリゴマーも含む。
【0011】
本発明において、製糸工程とは、ポリマーを紡出する工程、延伸する工程、収納する工程など繊維の製造に関する全ての工程を含むものである。
【0012】
本発明では、ポリアミド短繊維は、製糸工程において発生するポリアミドの繊維屑またはポリマー屑を再度溶融しチップ化したマテリアルリサイクルポリアミドのチップを溶融紡糸することにより、製造される。もちろん、製糸工程において発生するポリアミドの繊維屑とポリマー屑とを混合して再度溶融しチップ化しても良い。
【0013】
本発明において、マテリアルリサイクルポリアミドの原料としては、繊維形成性のポリアミドであるという点で、製糸工程すなわち繊維製造工程において発生する繊維屑またはポリマー屑、いわゆる工程屑であることが必要である。例えば、口金取り付け前に、配管内を押し流す際に発生するポリマー屑や、口金取り付け後に、紡糸が安定化し製品として採取するまでの間の繊維屑や、紡糸や延伸工程での、巻き付きトラブルなどで発生する繊維屑を好ましく用いることができる。
【0014】
これらの工程屑は、チップとするため溶融する前に、粉砕し細かく分割しておくことが好ましい。溶融に際しては混練することが好ましく、具体的には2軸ベントエクストルーダーを好ましく使用できるが、1軸エクストルーダーであっても構わない。溶融後、口金を通じ押し出した後に、所定の長さに切断し、チップとなす方法が好ましく用いられる。
【0015】
この際、工程屑には異物、炭化物や酸化チタン等の添加物の凝集物等が含まれ、そのままチップ化した場合、紡糸性の悪化や紡糸口金パックの濾圧上昇などの原因となる。そのため、溶融後、ポリマー内に混入している異物等を、第1のフィルターを通し濾過する必要がある。この際のフィルターは紡糸への影響を最小限とするために、紡出口金パックで使用する第2のフィルターより網目が5〜15μm細かいものを用いて濾過することが必要であり、具体的には、紡糸口金パックに網目25〜65μmのフィルターを用いる場合、チップ化の際のフィルターは網目40〜80μmのものを用いるのが好ましい。たとえば、紡糸口金パックに網目70μm(325#)のフィルターを使用する場合には、チップ化の際のフィルターは網目58μm(400#)のものを使用するのである。第1のフィルターの網目が第2のフィルターに比べ、粗すぎると紡糸パックの閉塞が発生しやすく、細かすぎるとチップ化の際にフィルター交換が多くなり、材料のロスや製造コストの悪化等の問題がある。なお、用いるフィルターについては、第1のフィルター、第2のフィルターともに、金属線フィルターや金属線不織布、平板状や波形、山形等いずれであってもかまわない。
【0016】
本発明において、ポリアミドとしては、一般的に繊維製造に用いられるポリアミドであれば用いることができ、例えばナイロン6やナイロン66あるいは両者の共重合体や、ナイロン12などが好適に用いられる。
【0017】
一般にポリアミド繊維には、艶消し剤として酸化チタンが用いられることが多いが、本発明におけるマテリアルリサイクルポリアミドにも酸化チタンを含んでいても構わない。通常、繊維の艶消し剤として用いる酸化チタンの粒径は0.1〜10μm程度であり、第1のフィルターでも、ほとんど濾過されないので、工程屑に酸化チタンが含まれていれば、マテリアルリサイクルポリアミドにもそのまま残存することになる。まれに溶融時に凝集した酸化チタンの粗大粒子が発生する場合もあるが、そのような粗大粒子は第1のフィルターにて濾過されるため、操業性へはほとんど影響を与えない。工程屑に含まれる酸化チタンの量のみで不足する場合には、さらに酸化チタンを追加して添加すれば良い。酸化チタンを添加する場合には、チップ化する前に酸化チタンを添加しても、繊維となすため溶融紡糸する際に酸化チタンを高濃度に含む他のチップをブレンドすることにより添加しても良い。マテリアルリサイクルポリアミドに含まれる酸化チタン含有量は、製糸性を悪化させないことを考慮すれば、0.01〜40重量%の範囲内が好ましく、より好ましくは、0.03〜2重量%である。
【0018】
また、用途によりヨウ化銅などの耐候剤や、銀化合物などの抗菌剤や、その他の添加剤を添加する場合もあるが、これらを含有していても構わない。
【0019】
本発明で用いるマテリアルリサイクルポリアミドの分子量(重合度)については、製糸性や繊維の物理特性を良好とする観点より、25℃における98%硫酸相対粘度(ηr)が1.8以上で4.5以下であることが好ましい。
【0020】
本発明で用いるマテリアルリサイクルポリアミドのアミノ末端基量としては、染色性への影響を考慮し、4×10−5モル/g以上、6×10−5モル/g以下であることが好ましい。
【0021】
本発明では、前記したマテリアルリサイクルポリアミドのチップを、第2のフィルターが収容された紡出口金パックを用いて溶融紡糸して得られた長繊維を切断してポリアミド短繊維を製造する。紡出口金パックには、通常、パックケースに出口側から少なくとも口金、整流板、フィルターが収容されている。口金の孔形状は、丸断面繊維用であっても、異型断面繊維用であっても構わない。
【0022】
口金のホール数は特に限定されないが、紡糸生産性の観点より、40個以上3000個以下が好ましい。紡糸速度については、400m/分以上2000m/分以下が好ましく、600m/分以上1500m/分以下がより好ましい。溶融紡糸して得られた長繊維を引き取り、缶に収納する。
【0023】
缶に収納された長繊維を引き出し、必要に応じて所定の延伸倍率にて延伸を行うが、延伸を行う場合、その延伸倍率は2倍以上、5倍以下であることが好ましい。延伸時には加熱することが必要であるが、その加熱方法は、蒸気や、温水や、加熱ロールへの接触などが採用される。上記のようにして得られた長繊維を、その後必要に応じて捲縮を付与し、所望の繊維長となるよう切断することによって短繊維を得る。捲縮を付与する場合、捲縮数に関しては、繊維間の絡合性を得るためには6山/25mm以上であることが好ましいが、良好な開繊性を得るためには22山/25mm以下であることが好ましい。捲縮率に関しては、6%以上、20%以下であることが好ましい。6%未満であると絡合性が劣り、20%を越えると開繊性が悪くなることがある。短繊維の繊維長としては、10mm以上120mm以下であることが好ましい。10mm未満であると、繊維間の絡合性が悪くなることがあり、120mmを越えると、開繊性や工程通過性が悪くなることがある。
【0024】
本発明では、生産性の点から平滑性を良好とし、摩擦による擦過切れを防止するために、紡糸や延伸の製糸プロセス中で油剤を付与することが好ましい。繊維に付与する油分量は、繊維重量に対し、0.2重量%以上、1.0重量%以下であることが好ましい。
【0025】
かくして得られるポリアミド繊維の物理特性は特に限定されるものではないが、単繊維繊度は、高次加工性を考えると、0.5dtex以上、50dtex以下であることが好ましく、乾強度は、製糸工程や、高次加工工程での通過時の耐久性や、製品とした際の耐久性を考えると、2.0cN/dtex以上であることが好ましく、乾伸度は、製糸工程や、高次加工工程の通過性を考えると、20%以上であることが好ましい。ただし、乾伸度が高すぎると、カード通過時に繊維が伸張され、品質ムラが発生しやすいので、120%以下であることが好ましい。
【0026】
なお、ここでいう単繊維繊度、乾強度および乾伸度は、JIS L 1015(1999年)(化学繊維ステープル試験法)に基づいて求められるものである。
【0027】
本発明で得られるポリアミド短繊維は、アウターやインナー等の衣料用途や、不織布として衣料芯地として好ましく用いることができ、パイル状としレンタルモップの部材として用いることや、研磨材、抄紙用フェルト、電池セパレーター用不織布等の資材用途などとしても好ましく用いることができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明について実施例を挙げてさらに具体的に説明する。本実施例で用いた各種物性の測定方法は次の通りである。
【0029】
<ポリアミドの25℃における98%硫酸相対粘度(ηr)>
オストワルド粘度計を用いて、0.01g/mLの98%硫酸溶液/25℃の相対粘度を測定した。
【0030】
<ポリアミドのアミノ末端基量>
資料1gを50mLのフェノール/エタノール=8/2混合溶液で溶解、N/50塩酸水溶液でチモールブルーを指示薬として中和滴定し、塩酸消費量からアミノ基濃度を求めた。
【0031】
<単繊維繊度、乾強度、乾伸度、捲縮数、捲縮率>
JIS L 1015(1999年)(化学繊維ステープル試験法)に準じて測定した。
【0032】
(実施例1)
ナイロン6を用いて紡糸をスタートする際に発生したポリマー屑、製品採取前の繊維屑及び、紡糸及び延伸工程での巻きつき糸を採取し、これを原料として粉砕し細かく分割してから、1軸のエクストルーダーで溶融及び混練を行い、網目58μmの金属線平板状フィルターにて濾過を行い、口金から吐出して切断することにより、原料のマテリアルリサイクルポリアミドのチップ(以下、リサイクルチップA)を得た。マテリアルリサイクルポリアミドは、25℃における98%硫酸相対粘度(ηr)が2.7であり、アミノ末端基量が4.7×10−5モル/gであった。
【0033】
リサイクルチップAを、網目70μmの金属線平板状フィルターと、整流板および660個のホール数の丸孔口金を有する紡糸口金パックを用いて、265℃の温度にて溶融紡糸を行い、1300m/分の速度で引き取り、缶に収納することでリサイクルナイロン6の未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を蒸気にて熱処理しながら、3.0倍の延伸倍率にて延伸し、延伸糸とした。該延伸糸にクリンパーにより捲縮数15山/25mm、捲縮率12%となるよう捲縮を付与後、繊維長38mmに切断し、短繊維を得た。紡糸性(生産終了時パック内圧上昇量、パック閉塞の有無、糸切れ回数)を、得られた短繊維の物理特性とともに表1にまとめた。短繊維を得るまでの工程中で糸切れも少なく、短繊維を5t継続して製造しても、パック内圧は0.5MPaの上昇が観られたが、紡糸性及び品質面に問題はなかった。
【0034】
(比較例1)
リサイクルチップAに代えてε−カプロラクタムを開還重合した後にチップ化して得たナイロン6のフレッシュチップを用いた以外は、実施例1と同条件にて短繊維を得た。フレッシュチップのナイロン6は、25℃における98%硫酸相対粘度(ηr)が2.6であり、アミノ末端基量が5.3×10−5モル/gであった。
【0035】
紡糸性(生産終了時パック内圧上昇量、パック閉塞の有無、糸切れ回数)を、得られた短繊維の物理特性とともに表1にまとめた。短繊維を5t継続して製造しても、パック内圧の上昇は観られず、紡糸性及び品質面に問題はなかった。
【0036】
(比較例2)
チップ製造時のフィルターとして網目58μmのものに代えて70μmのものを用いた以外は、実施例1と同様にして短繊維を得た。紡糸性(生産終了時パック内圧上昇量、パック閉塞の有無、糸切れ回数)を、得られた短繊維の物理特性とともに表1にまとめた。短繊維を5t継続して生産すると、パック内圧は15MPa上昇し、パック漏れや吐出不良が観られた。
【0037】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
製糸工程において発生するポリアミドの繊維屑またはポリマー屑を溶融し第1のフィルターで濾過してマテリアルリサイクルポリアミドのチップを得て後、該チップを第2のフィルターが収容された紡出口金パックを用いて溶融紡糸して得られた長繊維を切断してポリアミド短繊維を製造するに際して、第2のフィルターより網目が5〜15μm細かい第1のフィルターを用いることを特徴とするポリアミド短繊維の製造方法。
【請求項2】
第1のフィルターは、網目が25〜65μmであり、第2のフィルターは、網目が40〜80μmである、請求項1に記載のポリアミド短繊維の製造方法。


【公開番号】特開2009−84767(P2009−84767A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−259383(P2007−259383)
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】