説明

ポリアミンを含有する飲食品の製造方法

【課題】簡便で、嗜好性に問題のないポリアミン含有飲食品の提供。
【解決手段】動植物素材またはCamellia属の茶樹の葉、茎に塩溶液を加えて抽出することを特徴とするポリアミン抽出物の製造方法。前記塩が、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムおよび塩化カルシウムから成る群から選択され、前記動植物素材が、鮭白子、豚の肝臓、麦芽、大豆、納豆、烏龍茶葉、紅茶葉、碁石茶葉、黒豆、柿の葉、および緑茶葉から成る群から選択されるポリアミン抽出物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡便で、嗜好性に問題のないポリアミン含有飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミンは、低分子生理活性物質であり、細胞内に多量に存在し、その塩基性と身軽さゆえに細胞内のDNA・RNAなどいろいろな酸性物質と相互作用し、細胞増殖・分化にさまざまな非常に興味深い効果を発揮する。従って、近年ポリアミンの重要性が高まっている。
【0003】
ポリアミンは、第一級アミノ基を2つ以上もつ直鎖状の脂肪族炭化水素の総称であり、代表的なポリアミンとして、プトレスシン、スペルミジン、スペルミンを挙げることができる。ポリアミンが生理作用を示すのに必要な濃度はプトレスシン>スペルミジン>スペルミンの順であり、その生理作用に関しては各々に4〜8倍の差があり、スペルミンが一番低濃度で効果を発揮する(非特許文献1)。
【0004】
ポリアミンの生理作用としては、(1)細胞増殖作用、(2)細胞分化促進作用、(3)免疫必須因子、(4)抗アレルギー作用、(5)タンパク質合成促進作用、(6)核酸との相互作用による構造の安定化、(7)酵素活性調節作用等が知られている。最近では、急性の炎症を抑制する作用(非特許文献2、非特許文献3)と共に、慢性炎症を抑制する作用(特許文献1、非特許文献4)を有している為に、慢性炎症で誘発される加齢に伴う疾患の進行を抑制する作用が期待されている。
【0005】
このように、ポリアミンが持つ種々の効果が明らかになるにつれて、ポリアミンを日常的に摂取することは望ましいと考えられるようになってきた。食物中のポリアミンは腸管から速やかに吸収され、短時間で体の各組織の細胞内に移行することが明らかになっている。ポリアミンの1日の摂取量は、成人でほぼ350-550μmolと考えられているが、食物によりポリアミン含量の偏りが激しい。例えば豆類やきのこ類にスペルミジンやスペルミンが多いが、地域の食生活の違いにより、摂取するポリアミンの種類と量に差が大きい。従って、手軽にポリアミンを摂取できる製品があれば、様々な生理作用をもつポリアミンを量、質ともに補うことができる。
このようなポリアミンの重要性に鑑みて、従来から種々のポリアミンを抽出する方法が検討されている。
【0006】
特許文献2および特許文献3は、乳、乳素材からのポリアミンの製造を開示している。この方法は、イオン交換樹脂、合成吸着剤の使用および、その脱着に塩酸、硫酸等の無機酸、カチオンを含有する無機酸を使用する方法、またはpH5.5以下で限外ろ過する方法といった、複雑な抽出方法である。よって酸を使用したりpHを調整することが必要となり、抽出後のポリアミンの精製も困難である。
【0007】
特許文献4および特許文献5は、酵母菌体からのポリアミンの製造を開示している。この方法は、ヌクレアーゼ処理、アルカリ加水分解または酸性条件下での処理を行っており、酸やアルカリで抽出しているために、抽出後のポリアミンの精製が困難である。
【0008】
特許文献6は、動物臓器からのポリアミンの製造を開示している。この方法は、酸溶液を添加することによるポリアミンの抽出のため、抽出後のポリアミンの精製が困難である。
【0009】
特許文献7は、白子からのポリアミンの製造を開示している。この方法は、タンパク質分解酵素や核酸分解酵素を用いる方法、もしくは鉱酸を添加し酸性条件下でポリアミンを抽出する方法であり、酵素や酸を用いるために処理の手間、コストがかかり、さらに抽出後のポリアミンの精製が困難である。
【0010】
特許文献8は、茶類からのポリアミンの製造を開示している。この方法も酸性条件下で抽出しているため、抽出後のポリアミンの精製が困難である。
【0011】
このように従来のポリアミンの抽出方法においては、複雑な抽出工程を採用しているため、製造コストがかかると共に、酸やアルカリを用いた処理を含むため、飲食品に用いるには必ず精製工程が必要となるという不都合が依然として存在していた。従って、ポリアミンを摂取できる飲食品を製造するためには、安全かつコストのかからない新たなポリアミンの抽出方法が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】再表2004/073701号公報
【特許文献2】特開2001-95483号公報
【特許文献3】特開2001-8663号公報
【特許文献4】特開2000-245493号公報
【特許文献5】特開平10-52291号公報
【特許文献6】特開平9-206025号公報
【特許文献7】特開平8-238094号公報
【特許文献8】特開平10-101624号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】神秘の生命物質-ポリアミン- 未来の生物科学シリーズ28、共立出版 1993 p46-48、78-80
【非特許文献2】J Exp Med. May 19;185(10):1759-1768. 1997.
【非特許文献3】Lancet. Sep 20;350(9081):861-862 1997.
【非特許文献4】J Immunol. Jul 1;175(1):237-245. 2005.
【非特許文献5】J Biochem. Jan;139(1):81-90. 2006.
【非特許文献6】Biosci Biotechnol Biochem. Sep;61(9):1582-1584. 1997.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、複雑な抽出工程、精製工程を経ず、安全かつ簡便に動植物素材からポリアミンを抽出し、それを含む嗜好性に問題のない飲食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は上記の目的を達成する為に、各種ポリアミン抽出方法を検討した結果、酸、塩基の使用または酸、アルカリへのpH調整、イオン交換樹脂等を用いることなく、非常に簡便な塩のみを用いた抽出によりポリアミンが動植物素材より抽出されることを見出した。
【0016】
すなわち、本発明は、動植物素材に塩を加えて抽出することを特徴とするポリアミン抽出物の製造方法である。さらに、本発明は、上記の製造方法によって製造されたことを特徴とするポリアミン抽出物を含有する飲食品である。また、本発明は、上記の製造方法によって製造されたことを特徴とするポリアミン抽出物を、さらに精製して得られるポリアミン製剤である。さらに、本発明は、上記のポリアミン製剤を含有する飲食品である。
【発明の効果】
【0017】
本発明品は、チューインガム、キャンディ、錠菓、グミゼリー、チョコレート、ビスケット等の菓子、アイスクリーム、シャーベット、氷菓等の冷菓、飲料、スープ並びにジャム等の飲食品に配合、もしくは飲食品原材料から直接抽出することで配合でき、日常的に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ポリアミン茶の第一の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】ポリアミン茶の第二の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明の、動植物素材に塩を加えて抽出することを特徴とするポリアミン抽出物の製造方法において、塩の種類は特に限定されないが、風味の面から中性塩が好ましく、具体的には塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムといった塩が挙げられる。特に抽出力が高く、また栄養面から考えても好ましい塩として、塩化カルシウム、塩化マグネシウムが挙げられる。
【0021】
従来のポリアミンの抽出には酸を用いるのが一般的であったが、飲食品とするには味に影響が大きく必ず精製する必要があった。一方、塩により動植物素材からポリアミンが効率よく抽出されることは知られておらず、本発明のポリアミンの抽出方法は、塩のみの使用であるため、飲食品添加時に希釈され、製品として問題のない塩濃度に調整することができ、飲食品への使用が容易であり、さらに簡便な製法であるためコストも抑えられる画期的な抽出法である。
【0022】
動植物素材からのポリアミンの抽出効果を、水、酸、および塩を使用して検討した例を以下の表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
上記表1中において、Putはプトレスシン、Spdはスペルミジン、Spmはスペルミンを意味する。
【0025】
上表1から明らかなように、ポリアミンは水抽出では抽出されず、一般に酸を用いて抽出されるが、塩を用いても抽出されることがわかる。
【0026】
使用した動植物素材は、鮭白子、豚の肝臓、麦芽、大豆、納豆、烏龍茶葉、紅茶葉、碁石茶葉、黒豆、番茶、柿の葉、および緑茶葉であるが、特に、動植物素材の中でも、茶葉には高い濃度でポリアミンが存在し、かつ生理活性の高いスペルミンが豊富に含まれる、極めてよい素材である。ポリアミンの生理作用を効果的に発現させるために、緑茶は容易に摂取しやすい飲料形態であり、嗜好性、市場性から望ましい。
【0027】
しかし、通常の緑茶飲料製法では緑茶中にポリアミンは抽出されないことが明らかになっている(非特許文献5、非特許文献6)。この問題の解決手段として、本法を茶葉の抽出に用いることにより、ポリアミンを高い濃度で含む新たな緑茶飲料を製造することができる。本法によると、茶葉1gよりプトレスシン1〜1000nmol、スペルミジン1〜1000nmol、スペルミン1〜1000nmolを抽出することができ、茶葉使用量によって緑茶中に1nmol〜1000μmolのポリアミンを含有するまったく新規な機能性飲料が得られる。
【0028】
また、以下の実施例から明らかなように、動植物素材が、Camellia属の植物である茶樹の葉および/または茎からとれる緑茶葉であることが好ましい。
【0029】
本発明の動植物素材に塩を加えて抽出するポリアミン抽出物の製法によって製造されたことを特徴とするポリアミン抽出物を含有する飲食品としては、特に限定されないが、チューインガム、キャンディ、錠菓、グミゼリー、チョコレート、ビスケット等の菓子、アイスクリーム、シャーベット、氷菓等の冷菓、飲料、スープ並びにジャム等の飲食品が挙げられる。このような飲食品におけるポリアミンの含有量は、飲食品の種類によって変わりうるが、ポリアミンを一食分で0.2〜500μmol含有することが好ましい。さらに、飲食品として緑茶飲料も挙げられ、この緑茶飲料におけるポリアミンの含有量は、ポリアミンを0.2〜500μmol /L含有することが好ましい。
【実施例】
【0030】
本発明に係る茶の塩によるポリアミンの抽出例を以下に説明する。
試料としては上記の塩によるポリアミン抽出例で示した緑茶葉(煎茶)を使用した。茶はCamellia属の植物である茶樹の葉および/または茎からとれるものであって、生のものでも加工したものでも使用できる。また茶そのものでも熱水抽出後の茶殻でも使用することができ、粉末など形態は問わない。
なお、具体的なポリアミン茶の製造方法は図1、2に示した。
【0031】
(実施例1)
抽出例1
抽出溶液:水および各種5%塩溶液、核酸溶液、アミノ酸溶液、有機酸溶液、糖溶液
抽出条件:1g茶葉に対し抽出溶液5mlを加え、80℃5分抽出
試験結果を以下の表2に示す:
【0032】
【表2】

【0033】
表2から明らかなように、使用した塩のうち、特に塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムでポリアミンがよく抽出され、中でも塩化カルシウムが最も望ましいことが判った。
【0034】
(実施例2)
抽出例2
抽出溶液: 1〜30%の食塩水
抽出条件:1gの茶葉に対し抽出溶液2〜5ml加え、80℃5分抽出
試験結果を以下の表3、4に示す:
【0035】
【表3】

【0036】
【表4】

【0037】
表3、4の結果から明らかなように、塩化ナトリウム抽出では5〜10%溶液の使用でポリアミンは十分抽出され、さらに濃度、容量依存的にポリアミン抽出率は向上した。
【0038】
(実施例3)
抽出例3
抽出溶液: 1〜5%MgCl2、CaCl2溶液
抽出条件:1gの茶葉に対し抽出溶液5ml加え、80℃5分抽出
試験結果を以下の表5に示す:
【0039】
【表5】

【0040】
表5から明らかなように、抽出溶液の塩化マグネシウム、塩化カルシウムの塩の濃度依存的にポリアミンの抽出率は向上した。
【0041】
(実施例4)
抽出例4
抽出溶液:3% CaCl2溶液
抽出条件:1gの茶葉に対し抽出溶液5ml加え、60〜100℃で1〜30分抽出
試験結果を以下の表6に示す:
【0042】
【表6】

【0043】
表6から明らかなように、5〜10分の抽出時間でポリアミンは十分に抽出され、さらに抽出温度が高いほど抽出に良好であることがわかった。
【0044】
(実施例5)
抽出例5
抽出溶液: 1〜4% CaCl2溶液
抽出条件:茶葉1gに抽出溶液3〜10mlを加え、80℃5分抽出
試験結果を以下の表7に示す:
【0045】
【表7】

【0046】
表7から明らかなように、塩化カルシウムの塩の濃度が低濃度であっても、抽出溶液量を増量することで良好にポリアミンを抽出することができることが確認された。
【0047】
(実施例6)
抽出例6
抽出溶液: 市販にがり(「亀山堂の天然にがり」100ml当たり、MgCl2 24.2g、CaCl2 10.0g、KCl 4.7g、Na 1.4g、亜鉛0.2mg) の4〜20倍希釈液
抽出条件:1gの茶葉に対し抽出溶液5ml加え、80℃5分抽出
試験結果を以下の表8に示す:
【0048】
【表8】

【0049】
表8から明らかなように、塩化カルシウム、塩化マグネシウムを主に含むにがりを使用しても良好にポリアミンが抽出されることが確認された。
【0050】
(実施例7)
緑茶葉の種類により、含まれるポリアミン量は異なることから、種々の緑茶について含有ポリアミン量を検討した。第一に産地別緑茶の含有ポリアミン量を検討し、第二に新芽新茶と通常新茶との含有ポリアミン量を検討し、第三に生葉、荒茶、煎茶の含有ポリアミン量を検討した。
抽出溶液:5% トリクロロ酢酸溶液
抽出条件:1g茶葉に対し抽出溶液5mlを加え、80℃5分抽出
試験結果を以下の表9、10、11に示す:
【0051】
【表9】

【0052】
【表10】

【0053】
【表11】

【0054】
表9、10、11の結果から以下のことが判明した。
【0055】
産地別緑茶の検討結果から、使用する茶葉は深煎りしていない静岡茶や鹿児島茶がより好ましい。新芽新茶と通常新茶との検討結果から、より若い新芽の方が、抽出効率、ポリアミン量ともによい傾向があるが、一般的な緑茶であれば十分ポリアミン含量の高い緑茶が調製できる。生葉、荒茶、煎茶の検討結果から、生葉はポリアミンが減少しやすく採取後、早期に加工する必要があるが、荒茶、煎茶では大差なく、使用することができる。
【0056】
(実施例8)
茶の塩によるポリアミン抽出物中に含まれるカフェイン、エピガロカテキン-3-ガレート(EGCg)の量を検討した。なお、EGCgは、乾燥茶葉に最も多く検出されるポリフェノールである。
使用茶葉は狭山茶Bを採用し、抽出溶液、抽出条件および試験結果を表12、13に示した。
【0057】
【表12】

【0058】
【表13】

【0059】
表12、13の結果から以下のことが判明した。
通常の緑茶中のカフェイン量は約0.20mg/ml、緑茶中のカテキン量は約0.36mg/ml程度であり、ポリアミン茶もほぼ同様の含量を有している。
塩化カルシウム抽出液では、茶殻より緑茶葉を使用したほうがカフェイン、カテキン量が多い抽出物が得られる傾向があるが、茶殻からの抽出においても、特にカテキン量は条件次第で高含有させることができる。さらに、カフェイン、EGCg量は塩化カルシウム濃度が低いほど、抽出温度が高いほど高くなる傾向が示され、粉末化した場合、カフェイン、カテキン量が多いものから少ないものまで抽出条件により調製できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動植物素材に塩溶液を加えて抽出することを特徴とする、ポリアミン抽出物の製造方法。
【請求項2】
前記塩が、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムおよび塩化カルシウムから成る群から選択される、請求項1に記載のポリアミン抽出物の製造方法。
【請求項3】
前記塩が塩化カルシウムである、請求項2に記載のポリアミン抽出物の製造方法。
【請求項4】
前記動植物素材が、鮭白子、豚の肝臓、麦芽、大豆、納豆、烏龍茶葉、紅茶葉、碁石茶葉、黒豆、柿の葉、および緑茶葉から成る群から選択される請求項1乃至3に記載のポリアミン抽出物の製造方法。
【請求項5】
前記動植物素材が、Camellia属の植物である茶樹の葉および/または茎からとれる緑茶葉である請求項4に記載のポリアミン抽出物の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の製造方法によって製造されたことを特徴とするポリアミン抽出物を含有する飲食品。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかに記載の製造方法によって製造されたことを特徴とするポリアミン抽出物を、さらに精製して得られるポリアミン製剤。
【請求項8】
請求項7に記載のポリアミン製剤を含有する飲食品。
【請求項9】
請求項6に記載の飲食品であって、ポリアミンを一食分で0.2〜500μmol含有する飲食品。
【請求項10】
請求項6に記載の飲食品であって、ポリアミンを0.2〜500μmol /L含有する緑茶飲料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−263816(P2010−263816A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116672(P2009−116672)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(307013857)株式会社ロッテ (101)
【Fターム(参考)】