説明

ポリアリーレンポリマーおよび調製方法

スルホン含有ポリアリーレンポリマーを提供する。このポリマーを調製するためのモノマーおよび方法も提供する。このポリアリーレンポリマーは、エンジニアリングポリマーとして使用するのに適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジニアリングポリマーとして有用なポリアリーレンポリマーならびにこのポリマーの調製に使用されるモノマーおよび方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
高性能ポリマー(HPP)はエンジニアリングポリマー市場の中でも急速な成長を遂げている分野である。このポリマーは、高温安定性、耐薬品性、高い引張特性、および耐摩耗性を有することから過酷な使用条件下においても非常に優れた性能を示す。しかしながら、既存のポリマーはいずれも、何らかの属性を妥協することによってそれ以外の属性を一層高く引き上げている。通常、熱可塑性HPPは半結晶性または非晶性のいずれかであり、前者は典型的には耐薬品性および耐摩耗性に優れ、後者は耐熱性および機械的強靱性に優れている。最も一般的な半結晶性HPPはポリフェニレンスルフィド、液晶ポリエステル、およびポリエーテルケトンであり、最も一般的な非晶性HPPはポリエーテルスルホンおよび熱可塑性ポリイミドである。これらのポリマーには、通常、引張特性、寸法安定性、および耐摩耗性を改善する強化材として、ガラス繊維、炭素繊維、グラファイト、および他の材料が充填されている。
【0003】
非晶性ポリマーでありながら半結晶性ポリマーの属性の多くを有する自己補強性ポリフェニレン(SRP)は特に新しいタイプのHPPの1種である。SRPは、引張特性、耐摩耗性、耐薬品性、および耐熱性を独自の形で両立させたものである。その高い性能の鍵を握っているのが、さらなる繊維による補強を不要にする剛直棒状フェニレン主鎖である。ポリフェニレン主鎖をフェニルケトン基で置換することによって、非晶性が付与されるとともに熱的加工が可能になる。例えば、非特許文献1には、2,5−ジクロロベンゾフェノンを重合させるとポリマー主鎖に頭尾が不規則に導入され、この不規則性の度合いがポリマーのガラス転移温度(Tg)に影響を与えることから、ポリ(2,5−ベンゾフェノン)が非晶性と考えられると開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Wang and Quirk,Macromolecules,1995,28(10),p.3495
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
SRPのケトン形態は既に非晶性であるが半結晶性HPPの多くの属性を維持している。このことから、SRPをスルホン形態にしてポリ(2,5−ジフェニルスルホン)(PDS)等にすれば、本来は半結晶性に起因する特性を妥協することなく一連の特性が向上し、現時点では高性能ポリイミド製品しか適合しない用途への有用性が拡大される可能性がある。ところが、ポリ(2,5−ベンゾフェノン)が上首尾に重合する条件下では高分子量PDSが生成しない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、式(I):
【化1】

(式中、Tは、嵩高い芳香族基である)の繰り返し単位を含むポリマーである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
式(I):
【化2】

(式中、Tは、嵩高い芳香族基である)の繰り返し単位を含むポリマーを開示する。この繰り返し単位は、剛直棒状ポリアリーレンと称することができるが、対称的なメタ2置換ビフェニレン構造を有するため、典型的な剛直棒状ポリフェニレンよりも構造秩序が高い。
【0008】
嵩高い芳香族基とは、単環(例えば、フェニル)、多環(例えば、ビフェニル)、または少なくとも1個が芳香族である縮合多環(例えば、1,2,3,4−テトラヒドロナフチル、ナフチル、アントリル、またはフェナントリル)を有する芳香族炭素環式基を指す。嵩高い芳香族基は、アルキル等の非反応性基、他の芳香族基、およびエーテル等の非反応性官能基で場合により置換されていてもよい。一実施形態においては、Tはフェニルである。
【0009】
「ポリマー」という用語は、単独重合体、共重合体、および三元共重合体を包含することを意図している。
【0010】
ポリマーの数平均分子量(M)は少なくとも約5,000または少なくとも約15,000または少なくとも約19,000とすることができる。このポリマーの重量平均分子量(M)を、少なくとも80,000または少なくとも200,000とすることもできる。
【0011】
一実施形態においては、ポリマーは単独重合体である。他の実施形態においては、ポリマーは、他の繰り返し単位を含む共重合体である。この種の他の繰り返し単位は、式(I)の繰り返し単位を含むポリマーのビフェニレン主鎖が有する剛直棒状の性質を維持することができるものであるか、または様々な度合いの屈曲性を導入することができるものである。適切な剛直棒状繰り返し単位は、化学的組成および構造が類似するものであってもよいし(それによって、式(I)の繰り返し単位を含むポリマーの物理的性質が保持される)、あるいは異なるものであっていてもよい(それによって、ポリマーの加工および/またはポリマーの所望の用途に求められるさらなる特性が導入される)。一実施形態においては、ポリマーは、式(II):
【化3】

(式中、T’は、嵩高い芳香族基である)の繰り返し単位をさらに含むことができる。一実施形態においては、T’はフェニルである。これらの実施形態により、ポリマーの物理的性質を改良するのに十分な頭尾の不規則性がフェニレン繰り返し単位に導入されると同時に、剛直棒状構造は保持される。式(I)および式(II)の両方の繰り返し単位を含むポリマーは、数平均分子量(M)を少なくとも約5,000または少なくとも約9,000または少なくとも約60,000とすることができる。このポリマーは、重量平均分子量(M)を少なくとも40,000または少なくとも300,000とすることもできる。
【0012】
式(I)の繰り返し単位を含むポリマーの調製に好適なモノマーは、式(IA):
【化4】

(式中、Tは、上記と同義であり、Xは、独立に、BrまたはCl、典型的にはClである)の化合物であり、対称的にメタ位が2置換されたビフェニレン構造を有することにより、典型的な剛直棒状ポリフェニレンよりも高い構造秩序を有している。
【0013】
式(II)の繰り返し単位を含むポリマーの調製に好適なモノマーは、式(IIA):
【化5】

(式中、T’は、上記と同義であり、X’は、独立に、BrまたはCl、典型的にはClである)の化合物である。スルホン基は一方のハライド基に対しオルト置換されているが、式(IA)のメタ置換されたモノマーと共重合させることにより高分子量を達成することが可能である。
【0014】
式(I)の繰り返し単位を式(II)の繰り返し単位と一緒に含むポリマーは、ブロック、ランダム、交互共重合体であってもよい。
【0015】
式(IA)および(IIA)のモノマーを反応させることによってより大きなモノマー単位を形成させ、次いでこれを単独でまたは他のモノマーと重合させることにより本明細書に開示するポリマーを形成することもできる。例えば、(−A−)(−B−)の共重合体は、モノマーX−A−XをモノマーX−B−Xと共重合させるかまたはより大きなモノマーX−A−B−Xを形成してこのモノマーを重合させることにより形成することができる。いずれの場合においても、結果として得られるポリマーは、モノマーX−A−XおよびモノマーX−B−Xから誘導された共重合体とみなされる。
【0016】
式(IA)および(IIA)のモノマーおよびこのモノマーの調製に使用される反応体は、商業的に得ることもできるし、あるいは当該技術分野において周知の任意の方法または本明細書に開示した方法を用いて調製することもできる。
【0017】
ポリマー中のモノマー単位数の実施上の上限は、具体的な溶媒または溶媒群への所望の溶解性によってある程度決まる。モノマー単位の総数が増加するに従いポリマーの分子量は増加する。一般に、ポリマーの分子量が増加すると特定の溶媒への溶解性が低下することが予想される。さらに、一実施形態においては、ポリマーが所与の溶媒に実質的に不溶になるモノマー単位数はモノマーの構造にある程度依存する。例えば、ポリマーを2置換ビフェニレンベースのモノマーから構成させる場合、得られるポリマーが重合の過程で過度に剛直になったり、ビフェニレン繰り返し単位の構造規則性がTの構造のために過度に高くなった場合は、有機溶媒に実質的に不溶となる可能性がある。他の実施形態においては、共重合体が所与の溶媒に実質的に不溶になるモノマー単位数はコモノマーの比率にある程度依存する。他の例においては、数種類の剛直モノマーから共重合体を構成させる場合、2置換ビフェニレンモノマー単位対置換フェニレンモノマー単位の比率を過度に高くすると有機溶媒に実質的に不溶となる可能性がある。ポリマーの分子量、ポリマーおよび共重合体の組成、ならびに溶媒の選択は、当業者の技能範囲内で行われる。
【0018】
概して、本明細書に記載する重合は、炭素−炭素結合形成反応においてモノマーの脱離基が脱離する合成経路を用いて実施することができる。このような炭素−炭素結合形成反応は、典型的には、中性配位子を含む0価の遷移金属錯体によって媒介される。一実施形態においては、0価の遷移金属錯体は、ニッケルまたはパラジウムを含む。本明細書において用いられる「錯体」とは、1種またはそれ以上の金属陽イオンに陰イオンおよび/または中性配位子が会合したものを意味する。
【0019】
中性配位子とは、閉殻電子状態にある金属から形式上取り出した場合に電気的に中性である配位子として定義される。中性配位子は、遷移金属に結合することができる、非共有電子対の電子、パイ結合、またはシグマ結合のうちの少なくとも1種を含む。本明細書に記載する方法においては、中性配位子は2種以上の中性配位子の組合せであってもよい。1個を超える中性配位子が、結合またはヒドロカルビル、置換ヒドロカルビル、もしくは官能基連結鎖(functional group tether)を介して結合している場合、この中性配位子は多座であってもよい。中性配位子は、複数の錯体を一緒に結合させるような、他の金属錯体(同一であっても異なっていてもよい)の置換基であってもよい。中性配位子は、カルボニル、チオカルボニル、カルベン、カルビン、アリル、アルケン、オレフィン、シアニド、ニトリル、一酸化炭素、リン含有化合物(ホスフィド、ホスフィン、ホスファイト等)、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、第3級アミン(複素環式アミンを含む)、エーテル、エステル、ホスフェート、ホスフィンオキシド、およびアミンオキシドを包含することができる。
【0020】
本ポリマーの調製に使用することができる、0価の遷移金属化合物に基づく3種の合成方法を本明細書に記載する。各方法においては、炭素−炭素結合形成における活性種である0価の遷移金属化合物は、反応に直接導入することもできるし、あるいは反応条件下において、前駆体である遷移金属化合物および1種またはそれ以上の中性配位子からその場で生成させることもできる。
【0021】
Yamamoto,Progress in Polymer Science,第17巻,p.1153(1992)に開示されている第1の合成方法は、モノマーのジハロ誘導体を化学量論量の0価のニッケル化合物(ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)等の配位化合物等)およびトリフェニルホスフィンや2,2’−ビピリジン等の中性配位子と反応させるものである。これらの成分が反応することにより重合反応における活性種である0価のニッケル化合物が生成する。活性な0価のニッケル化合物を安定化させるために1,5−シクロオクタジエン等の第2の中性配位子を使用することができる。
【0022】
米国特許第5,962,631号明細書、Ioyda et al.,Bulletin of the Chemical Society of Japan,第63巻,p.80(1990)、およびColon et al.,Journal of Polymer Science,Part A,Polymer Chemistry Edition,第28巻,p.367(1990)に開示されている第2の合成方法は、モノマーのジハロ誘導体と触媒量の2価のニッケル化合物とを、1種またはそれ以上の中性配位子の存在下、2価のニッケルイオンを0価のニッケルに還元することができる化学量論量の材料の存在下に反応させるものである。
【0023】
2価のニッケル塩から触媒が形成される。このニッケル塩としては、反応条件下において0価の状態に変換することができる任意のニッケル塩を用いることができる。好適なニッケル塩は、ハロゲン化ニッケル(典型的には、二塩化ニッケルまたは二臭化ニッケル)または配位化合物(典型的には、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロリドまたは(2,2’−ビピリジン)ニッケルジクロリド)である。2価のニッケル塩は、典型的には、約0.01molパーセント以上、より典型的には約0.1molパーセント以上または1.0molパーセント以上の量で存在する。存在する2価のニッケル塩の量は、存在するモノマーの量を基準として典型的には約30molパーセント以下、より典型的には約15molパーセント以下である。
【0024】
重合は、2価のニッケルイオンを0価の状態に還元することができる材料の存在下に実施される。好適な材料としては、ニッケルよりも容易に酸化される任意の金属が挙げられる。好適な金属としては、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、およびリチウムが挙げられ、粉末形態の亜鉛が典型的である。反応の間中ずっとニッケル化学種を0価の状態に維持するためにはモノマーを基準として少なくとも化学量論量の還元剤が必要である。典型的には、約150molパーセント以上、より典型的には約200molパーセント以上、または約250molパーセント以上が使用される。還元剤は、典型的には、モノマーの量を基準として約500molパーセント以下、約400molパーセント以下、または約300molパーセント以下の量で存在する。
【0025】
さらに、配位子として作用することができる1種またはそれ以上の化合物も存在する。好適な配位子はトリヒドロカルビルホスフィン等の上述した中性配位子である。典型的な配位子は、トリアリールやトリアルキルホスフィン等の単座(トリフェニルホスフィン等)または2,2’−ビピリジン等の2座である。単座配位子として作用することができる化合物は、典型的には、モノマーを基準として、約10molパーセント以上または約20molパーセント以上の量で存在する。単座配位子として作用することができる化合物は、典型的には、約100molパーセント以下、約50molパーセント以下、または約40molパーセント以下の量で存在する。2座配位子として作用することができる化合物は、典型的には、2価のニッケル塩を基準として、ほぼモル当量またはそれを超える量で存在する。別法として、2座配位子を、上述した配位化合物としてニッケル塩に組み込むことができる。
【0026】
PCT出願である国際公開第00/53656号パンフレットおよび米国特許第6,353,072号明細書に開示されている第3の合成方法は、1種のモノマーのジハロ誘導体と、ボロン酸(−B(OH)またはボロン酸塩、ボロン酸エステル(−BOR)もしくは(−B(ORO))およびボラン(−BR)(式中、Rは、通常はヒドロカルビル基である)から選択される2個の脱離基を有する他のモノマーの誘導体とを、上述した中性配位子を含む触媒量の0価のパラジウム化合物(テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)等)の存在下に反応させるものである。脱離基がボロン酸エステルまたはボラン基である場合は、ボロン酸エステルまたはボラン基を加水分解して対応するボロン酸基にするために、反応混合物に十分な水または有機塩基を含有させる必要がある。モノマーのジボロン酸誘導体は、Miyaura et al.,Synthetic Communication,Vol.11,p.513(1981)およびWallow et al.,American Chemical Society,Polymer Preprint,Vol.34,(1),p.1009(1993)に記載された方法などの周知の方法を用いることによってジハロ誘導体から調製することができる。
【0027】
本明細書に開示された合成法はいずれも、反応を促進することができる化合物の存在下に実施することができる。好適な促進剤としては、臭化ナトリウム、臭化カリウム、ヨウ化ナトリウム、テトラエチルアンモニウムヨージド、ヨウ化カリウム等のアルカリ金属ハロゲン化物が挙げられる。促進剤は、反応を促進するのに十分な量、典型的には、モノマーを基準として10〜100molパーセントが使用される。
【0028】
この反応は、典型的には、好適な溶媒または溶媒混合物中、すなわち、触媒、反応体、および生成物に悪影響を与えず、好ましくは反応体および生成物が溶解する溶媒中で実施される。好適な溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、アニソール、アセトニトリル、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、およびN−メチルピロリジノン(NMP)が挙げられる。本方法における溶媒の使用量は幅広い範囲で変化させることができる。一般に、可能な限り少量の溶媒を使用することが好ましい。酸素の存在は触媒に有害となる可能性があり、また、多量の水が存在するとプロセスが早期に終了する可能性があるため、反応は、典型的には、酸素および湿分の非存在下に実施される。より典型的には、反応は、窒素やアルゴン等の不活性雰囲気中で実施される。
【0029】
この反応は、反応が適度な速度で進行し、生成物および触媒の劣化を招くことがない任意の温度で実施することができる。反応は、一般に約20℃〜約200℃、より典型的には100℃未満の温度で実施される。反応時間は、反応温度、触媒の量、および反応体の濃度に依存し、通常は約1時間〜約100時間である。
【0030】
ここに開示された方法により調製されたポリマーは、濾過や非溶媒を用いた析出等の従来の技法に従い回収することができる。これらをさらに処理するために好適な溶媒中に溶解または分散させることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本明細書に開示したポリマーは、エンジニアリングポリマーとして、例えば、ナノコンポジットの分子レベルの強化(molecular reinforcement)、鉱物質充填および繊維強化された複合体、射出および圧縮成形部品、繊維、フィルム、シート、紙、コーティング等の用途に使用するのに好適であり、その用途の要件に応じて、熱可塑性ポリマーに典型的な熱的処理を施すことも、好適な溶媒に溶解させた後に溶液中で処理を行うことも可能である。
【実施例】
【0032】
銅粉末の賦活
銅粉末を、Vogel’s Textbook of Practical Organic Chemistry,4th Edition,1981,Longman(London),pages285−286の手順に従い賦活した。青銅(50g、Aldrich Chemical Company,Milwaukee,WI)を、ヨウ素(10g)をアセトン(500mL)に溶解した溶液と一緒に10〜20分間撹拌することにより灰色の混合物を得た。銅を濾取し、アセトンで洗浄し、塩酸(150mL)およびアセトン(150mL)の溶液に加えた。灰色の固体が溶解するまで混合物を撹拌し、次いで銅を濾取し、アセトンで十分に洗浄した。賦活化された銅の固体を高真空下で乾燥し、保管および処理用のグローブボックスに移し替えた。
【0033】
2,5−ジブロモベンゼンスルホン酸ナトリウム塩
【化6】

H.Borns,Annalen der Chemie 1877,187,350に公開された手順を改変して用いた。環流冷却器、スターラーバー、および気体導入管を備えた300mLの丸底フラスコに1,4−ジブロモベンゼン(118g、0.50mol)および30%発煙硫酸(76mL)を装入した。窒素中、混合物を150℃で3時間加熱することにより透明な溶液を得た。溶液を室温に冷却して固化した塊を得、これを水と一緒にビーカーに移し替えてスラリーを得た。スラリーを50%水酸化ナトリウム溶液(130g)で処理し、加熱しながら水900mLで希釈することにより、析出した固体を分散させた。混合物を室温に冷却し、ラバーダムの下で減圧濾過することによって固体を回収した。固体をイソプロパノール(200mL)で2回洗浄し、フィルタ上で風乾した後、100℃で真空乾燥することにより159gを得た(粗収率93%)。生成物をエタノール/水(4:1)から再結晶させ、150℃で真空乾燥することにより2,5−ジブロモベンゼンスルホン酸ナトリウム塩146gを得た(収率86%)。H NMR(DMSO−d):7.42(dd,8.4,2.6Hz,1H),7.53(d,8.4Hz,1H),8.01(d,2.6Hz,1H)。
【0034】
4,4’−ジブロモビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ナトリウム塩
【化7】

Courtot and Lin,Bull.Soc.Chim.Fr.1931,49,1047に公開された手順を改変して用いた。グローブボックス内で、環流冷却器、スターラーバー、および気体導入管を備えた500mLの丸底フラスコに、2,5−ジブロモベンゼンスルホン酸ナトリウム塩(73g、0.216mol)、賦活化された青銅(27g、0.43mol)、およびDMAc(200mL)を装入した。窒素中、混合物を120℃で一夜加熱した。混合物を水(1L)中に注ぎ、固体を減圧濾過により除去した。濾液を蒸発させ、残渣を100℃で真空乾燥した。固体を脱色炭で処理した後、アセトニトリル/水(10:1)から再結晶させ、60〜150℃で真空乾燥することにより4,4’−ジブロモビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ナトリウム塩48.13gを得た(収率86%)。H NMR(DMSO−d):7.19(d,8.3Hz,2H),7.42(dd,8.3,2.1Hz,2H),7.96(d,2.1Hz,2H)。
【0035】
4,4’−ジブロモビフェニル−2,2’−ジスルホニルジクロリド
【化8】

Courtot and Lin,Bull.Soc.Chim.Fr.1931,49,1047に公開された手順を改変して用いた。グローブボックス内で、環流冷却器,スターラーバー、および気体導入管を備えた200mLの丸底フラスコに、4,4’−ジブロモビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ナトリウム塩(51.6g、0.100mol)、五塩化リン(46g、0.22mol)、およびオキシ塩化リン(30mL)を装入した。窒素中、混合物を6時間穏やかに加熱環流(152℃)した。混合物を氷(1kg)上に注ぎ、固体が細かくなるまで撹拌した。固体を減圧濾過により回収し、水で十分に洗浄し、フィルタ上で風乾した後、75℃で真空乾燥し、50.7gを得た。固体を脱色炭で処理した後、トルエンから再結晶させ、減圧濾過により回収し、60℃で真空乾燥することにより、4,4’−ジブロモビフェニル−2,2’−ジスルホニルジクロリド42.59gを得た(収率84%)。H NMR(CDCl):7.38(d,8.2Hz,2H),7.91(dd,8.2,2.0Hz,2H),8.37(d,2.0Hz,2H)。
【0036】
2,5−ジブロモベンゼンスルホニルクロリド
【化9】

Moroni et al.,Macromolecules 1994,27,562に公開された手順を改変して用いた。環流冷却器、スターラーバー、および気体導入管を備えた300mLの丸底フラスコに1,4−ジブロモベンゼン(50g、0.21mol)およびクロロスルホン酸(100mL)を装入した。混合物を窒素下に90℃で2時間撹拌することにより透明な溶液を得た。この溶液を室温に冷却し、氷(1kg)上に慎重に注いで析出物を得た。減圧濾過により固体を回収し、水で十分に洗浄し、フィルタ上で風乾した後、50℃で真空乾燥することにより68.36gを得た。生成物を脱色炭で処理した後、シクロヘキサンから再結晶させ、減圧濾過により回収し、50℃で真空乾燥することにより、2,5−ジブロモベンゼンスルホニルクロリド55.37gを得た(収率79%)。H NMR(CDCl):7.66(dd,8.4,2.3Hz,1H),7.72(d,8.4Hz,1H),8.30(d,2.3Hz,1H)。
【0037】
実施例1:2−ベンゼンスルホニル−1,4−ジブロモベンゼン
【化10】

環流冷却器、スターラーバー、および気体導入管を備えた100mLの丸底フラスコに、2,5−ジブロモベンゼンスルホニルクロリド(10g、30mmol)およびベンゼン(30mL)を導入した。塩化アルミニウム(4g、30mmol)を加えて溶解するまで混合物を撹拌した。溶液を2時間加熱還流した。溶液を室温に冷却し、塩酸50mLと混合した氷150g上に注いだ。析出した固体を濾取して水で洗浄した。濾液をエーテルで抽出し、有機抽出物を水で2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過して蒸発させた。析出物および抽出物を合一して粗生成物11.33gを得た。固体を脱色炭で処理した後、エタノールから再結晶させ、2−ベンゼンスルホニル−1,4−ジブロモベンゼン3.82gを得た(収率34%)。H NMR(DMSO−d):7.65(dd,7.7,7.4Hz,2H),7.76(t,7.4Hz,1H),7.76(d,8.4Hz,1H),7.85(dd,8.4,2.4Hz,1H),7.98(d,7.7Hz,2H),8.40(d,2.4Hz,1H)。
【0038】
この反応をスケールを拡大して(100mmol)繰り返し、6時間還流を行い、加水分解された混合物をジクロロメタンで抽出した後、炭酸ナトリウムで乾燥することによりワークアップした。粗生成物をエタノールから再結晶させて13.7gを得た(収率36%)。13C NMR(CDCl):120.23(C),122.31(C),129.21(2CH),129.39(2CH),134.20(CH),134.46(CH),137.38(CH),137.92(CH),139.69(C),142.04(C)。MS(M+H):m/e 376.8654(100%),374.8680(50%),378.8630(49%);C12Brの精密質量,376.8670(100%),374.8690(51.4%),378.8649(48.6)。
【0039】
実施例2:2,2’−ビス−ベンゼンスルホニル−4,4’−ジブロモビフェニル
【化11】

グローブボックス内で、スターラーバー、環流冷却器、およびセプタムを備えた100mLの丸底フラスコに、2−ベンゼンスルホニル−1,4−ジブロモベンゼン(7.52g、20mmol)、賦活化された銅粉末(2.54g)、およびDMAc(20mL)を装入した。フラスコを窒素下に120℃で2時間加熱した。混合物を室温に冷却し、アセトン中に注ぎ、5μmのPTFEメンブレンフィルタで濾過した。溶媒を蒸発させ、残渣を高真空下で乾燥して、固体6.40gを得た。混合物をシリカゲルおよびジクロロメタンを用いたカラムクロマトグラフィーで精製し、2,2’−ビス−ベンゼンスルホニル−4,4’−ジブロモビフェニル1.74gを得た(収率29%)。H NMR(DMSO−d):6.89(d,8.2Hz,2H),7.54(m,4H),7.55(m,4H),7.69(m,2H),7.86(dd,8.2,2.1Hz,2H),8.22(d,2.1Hz,2H)。
【0040】
この反応を、100〜120℃で、時間を3〜7時間の間で変化させながら数回繰り返したが、カラムクロマトグラフィー後の収率は実質的に変化しなかった。生成物を合一して(9.46g)トルエンから2回再結晶させることにより純粋な化合物5.44gを得た。13C NMR(DMSO−d):122.30(2C−Br),127.68(4CH),129.40(4CH),131.36(2CH),133.68(2CH),133.93(2CH),135.06(2C),135.38(2CH),140.25(2C−SO−),140.92(2C−SO−)。MS(M+H):m/e 592.8907(100%),590.8933(49%),594.8884(56%);C2417Brの精密質量,592.8909(100%),590.8930(51.4%),594.8889(48.6)。
【0041】
実施例3:2,2’−ビス−ベンゼンスルホニル−4,4’−ジブロモビフェニル(代替手順)
グローブボックス内で、スターラーバー、環流冷却器、および気体導入管を備えた125mLの丸底フラスコに4,4’−ジブロモビフェニル−2,2’−ジスルホニルジクロリド(10.18g、20mmol)および塩化アルミニウム(5.87g、44mmol)を装入した。ベンゼン(14mL)および無水ニトロメタン(40mL)を加えて溶解するまで混合物を撹拌した。溶液を100℃で約8時間加熱した。溶液を室温に冷却して、塩酸100mLと混合した氷200g上に注いだ。混合物をジクロロメタンで数回抽出した。有機抽出物を水で2回洗浄し、炭酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、蒸発させて11.75gを得た(99%)。混合物をシリカゲルおよびジクロロメタンを用いたカラムクロマトグラフィー(R:0.32)で精製することにより2,2’−ビス−ベンゼンスルホニル−4,4’−ジブロモビフェニル8.73gを得た(収率74%)。
【0042】
この反応をスケールを拡大して繰り返すことにより24.37gを得(収率87%)、クロマトグラフィーで精製することにより17.2gを得た(収率61%)。生成物を合一して脱色炭で処理した後、トルエンから再結晶させることにより2,2’−ビス−ベンゼンスルホニル−4,4’−ジブロモビフェニル23.02gを得た(物質収支89%)。
【0043】
実施例4
【化12】

グローブボックス内で、大型のスターラーバーおよびセプタムを備えた125mLの丸底フラスコに、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)(2.09g、7.6mmol)、シクロオクタジエン(0.82g、7.6mmol)、2,2’−ビピリジン(1.19g、7.6mmol)、およびDMAc(15mL)を装入した。窒素中、フラスコを70℃で30分間加熱することにより暗紫色の溶液を得た。グローブボックス内で、セプタムを備えた50mLの丸底フラスコに2,2’−ビス−ベンゼンスルホニル−4,4’−ジブロモビフェニル(2.05g、3.46mmol)およびDMAc(15mL)を装入した。このフラスコを70℃に加熱してモノマーを溶解させ、この溶液を窒素下にカニューレを介して反応フラスコに加えた。添加中に溶液がゲル化を開始し、完了までに完全にゲル化した。温度を100℃に昇温し、そのまま一夜保持した。
【0044】
反応混合物を濃塩酸中に注いでポリマーを析出させ、混合物をブレンダーで細断して、ポリマーを粒子状に分散させた。ポリマーを減圧濾過により回収し、水でポリマーを洗浄した。ポリマーを濃塩酸、次いで水で洗浄した。水分を含んだポリマーをシクロヘキサン、次いでメタノールで洗浄し、窒素パージした70℃の真空オーブン内で乾燥して、ポリ[(2,2’−ビス−ベンゼンスルホニル−4,4’−ビフェニレン)]1.32gを得た(収率88%)。ポリマーはDMSOおよびDMAcへの溶解性が低かった。DMSO−d中、100℃でブロードなH NMRスペクトルが得られた:7.25,7.59,7.70,7.73,8.08,8.38。分子量分布をゲル浸透クロマトグラフィーを用いてDMAc中で測定した:M15,300、M202,000、M1,200,000;[η]4.49。熱重量分析(昇温速度:10℃/分)から、窒素中435℃で分解が開始することが示された。示差走査熱量分析から、ガラス転移温度が225℃であることが示された。
【0045】
実施例5
グローブボックス内で、大型のスターラーバーおよびセプタムを備えた300mLの丸底フラスコに、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)(11.11g、40.4mmol)、シクロオクタジエン(4.37g、40.4mmol)、2,2’−ビピリジン(6.31g、40.4mmol)、およびDMAc(120mL)を装入した。窒素中、フラスコを70℃で30分間加熱することにより暗紫色の溶液を得た。グローブボックス内で、セプタムを備えた100mLの丸底フラスコに2,2’−ビス−ベンゼンスルホニル−4,4’−ジブロモビフェニル(11.85g、20mmol)およびDMAc(80mL)を装入した。この溶液を窒素下にカニューレを介して反応フラスコに素早く加えた。添加後、溶液の粘度が急速に上昇し始めたので、温度を100℃に昇温して1時間保持した。
【0046】
反応混合物を温かいまま濃塩酸(250mL)中に注いでポリマーを析出させ、混合物をブレンダーで細断してポリマーを粒子状に分散させた。ポリマーを減圧濾過により回収し、ポリマーを水で洗浄した。ポリマーを濃塩酸、次いで水で洗浄した。水分を含んだポリマーをヘキサン、次いでメタノールで洗浄し、窒素パージした70℃の真空オーブン内で乾燥させることによりポリ[(2,2’−ビス−ベンゼンスルホニル−4,4’−ビフェニレン)]8.35gを得た(収率97%)。このポリマーはDMSOおよびDMAcへの溶解性が低かった。DMSO−d中、120℃でブロードなH NMRスペクトルが得られた:7.29,7.63,7.73,7.74,8.10,8.41。分子量分布をゲル浸透クロマトグラフィーを用いてDMAc中で測定した:M19,400、M83,800、M244,000;[η]4.32。熱重量分析(昇温速度10℃/分)から、空気中400℃で分解が開始することが示された。示差走査熱量分析から、ガラス転移温度が225℃であることが示された。
【0047】
比較例1
【化13】

グローブボックス内で、大型のスターラーバーおよびセプタムを備えた300mLの丸底フラスコに、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)(11.11g、40.4mmol)、シクロオクタジエン(4.37g、40.4mmol)、2,2’−ビピリジン(6.31g、40.4mmol)、およびDMAc(120mL)を装入した。窒素中、フラスコを70℃で30分間加熱することにより暗紫色の溶液を得た。グローブボックス内で、セプタムを備えた100mLの丸底フラスコに2−ベンゼンスルホニル−1,4−ジブロモベンゼン(7.52g、20mmol)およびDMAc(80mL)を装入した。この溶液を窒素下にカニューレを介して反応フラスコに素早く加えた。溶液を70℃で4時間加熱したが粘度は全く増加しなかった。
【0048】
反応混合物を冷却し、濃塩酸中に注いでポリマーを析出させ、混合物をブレンダーで細断してポリマーを粒子状に分散させた。ポリマーを減圧濾過により回収し、水でポリマーを洗浄した。ポリマーを濃塩酸、次いで水、次いでメタノールで2回洗浄した。水分を含んだポリマーを窒素パージした70℃の真空オーブンで乾燥させることにより2.63gを得た(収率93%)。この材料はDMSOおよびDMAcに溶解した。DMSO−d中、複雑なH NMRが得られ、主要ピークは6.7−8.9であった。分子量分布をゲル浸透クロマトグラフィーを用いてDMAc中で測定した:M750、M3000、M7,800;[η]0.09。この材料は分子量が低過ぎることから所望のポリマーであるポリ(ベンゼンスルホニル−1,4−フェニレン)ではないとみなされた。
【0049】
実施例6
【化14】

グローブボックス内で、大型のスターラーバーおよびセプタムを備えた125mLの丸底フラスコに、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)(2.78g、10.1mmol)、シクロオクタジエン(1.09g、10.1mmol)、2,2’−ビピリジン(1.58g、10.1mmol)、およびDMAc(25mL)を装入した。フラスコを窒素下に70℃で30分間加熱することにより暗紫色の溶液を得た。グローブボックス内で、セプタムを備えた50mLの丸底フラスコに、2,2’−ビス−ベンゼンスルホニル−4,4’−ジブロモビフェニル(2.81g、4.75mmol)、2−ベンゼンスルホニル−1,4−ジブロモベンゼン(0.094g、0.25mmol)、およびDMAc(25mL)を装入した。この溶液を窒素下にカニューレを介して反応フラスコに素早く加えた。溶液の粘度が増加し始めたがゲル化はしなかったので、70℃で6時間撹拌した。
【0050】
反応混合物を冷却し、濃塩酸中に注いでポリマーを析出させ、混合物をブレンダーで細断してポリマーを粒子状に分散させた。ポリマーを減圧濾過により回収し、メタノールでポリマーを洗浄した。ポリマーを濃塩酸で数回、次いでメタノールで洗浄した。水分を含んだポリマーを窒素パージした80℃の真空オーブンで乾燥させることにより、95:5共重合体であるポリ[(2,2’−ビス−ベンゼンスルホニル−4,4’−ビフェニレン)−コ−(ベンゼンスルホニル−1,4−フェニレン)]2.17gを得た(収率100%)。このポリマーはDMSOおよびDMAcへの溶解性が低かった。DMSO−d中、100℃でブロードなH NMRスペクトルが得られた:7.25,7.60,7.70,7.71,8.07,8.37。熱重量分析(昇温速度10℃/分)から、空気中400℃で分解が開始することが示された。示差走査熱量分析から、ガラス転移温度が224℃であることが示された。ここから、実施例4および5の単独重合体と比較すると、5molパーセントのコモノマーがガラス転移温度に与える影響はわずかであることがわかる。
【0051】
実施例7
グローブボックス内で、大型のスターラーバーおよびセプタムを備えた125mL丸底フラスコに、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)(2.78g、10.1mmol)、シクロオクタジエン(1.09g、10.1mmol)、2,2’−ビピリジン(1.58g、10.1mmol)、およびDMAc(25mL)を装入した。窒素中、フラスコを30分間加熱することにより暗紫色の溶液を得た。グローブボックス内で、セプタムを備えた50mLの丸底フラスコに、2,2’−ビス−ベンゼンスルホニル−4,4’−ジブロモビフェニル(2.67g、4.5mmol)、2−ベンゼンスルホニル−1,4−ジブロモベンゼン(0.188g、0.50mmol)、およびDMAc(25mL)を装入した。この溶液を窒素下にカニューレを介して反応フラスコに素早く加えた。溶液の粘度が増加し始めたがゲル化はしなかったので、70℃で6時間撹拌した。
【0052】
反応混合物を冷却し、濃塩酸中に注いでポリマーを析出させ、混合物をブレンダーで細断してポリマーを粒子状に分散させた。ポリマーを減圧濾過により回収し、メタノールでポリマーを洗浄した。ポリマーを濃塩酸で2回、次いでメタノールで洗浄した。水分を含んだポリマーを窒素パージした80℃の真空オーブンで乾燥させることにより、90:10共重合体であるポリ[(2,2’−ビス−ベンゼンスルホニル−4,4’−ビフェニレン)−コ−(ベンゼンスルホニル−1,4−フェニレン)]2.05gを得た(収率100%)。DMSO−d中、100℃でブロードなH NMRスペクトルが得られ、主要ピークは7.27,7.62,7.71,7.73,8.09,および8.39、マイナーピークは6.96,7.50,7.95,8.47,および8.65にあった。分子量分布をゲル浸透クロマトグラフィーを用いてDMAc中で測定した:M9,820、M41,200、M92,500;[η]2.02。熱重量分析(昇温速度10℃/分)から、空気中400℃で分解が開始することが示された。示差走査熱量分析から、ガラス転移温度が223℃であることが示された。ここから、実施例4および5の単独重合体と比較すると、10molパーセントのコモノマーがガラス転移温度に与える影響はほとんどないことがわかる。
【0053】
この共重合体(0.5g)をDMAcに160℃で溶解させることにより5.0重量%溶液を得た。この溶液を冷却して、グラスマイクロファイバー製シリンジフィルターで濾過し、流延製膜用ガラス皿(glass film−casting dish)に注ぎ、窒素パージした乾燥チャンバ内の水平な乾燥台に載置した。乾燥したフィルムはわずかに濁り、皿から自然に剥がれた。このフィルムを窒素パージした150℃の真空オーブン内でさらに乾燥させた。フィルムは引張には強いが脆いため、折り畳もうとすると粉々になった。
【0054】
この共重合体(0.5g)を1,1,2,2−テトラクロロエタンに室温で溶解させることにより3.2重量%溶液を得た。溶液をグラスマイクロファイバー製シリンジフィルターで濾過し、流延製膜用ガラス皿に注ぎ、窒素パージした乾燥チャンバ内の水平な乾燥台に載置した。フィルムを窒素パージした80℃の真空オーブン内でさらに乾燥した。フィルムは不透明になり、端部に切り込みを入れると皿から離れて水中に浮かんだ。フィルムは引張に弱く、折り畳むことさえできないほど脆かった。
【0055】
2−ベンゼンスルホニル−1,4−ジクロロベンゼン
【化15】

Hagberg,Olson,and Sheares,Macromolecules,2004,37,4748に公開された手順を改変して用いた。環流冷却器、スターラーバー、および気体導入管を備えた200mLの丸底フラスコに、2,5−ジクロロベンゼンスルホニルクロリド(12.28g、50mmol)、ベンゼン(13.4mL、150mmol)、および無水ニトロメタン(50mL)を装入した。塩化アルミニウム(7.33g、55mmol)を加えて溶解するまで窒素下に混合物を撹拌した。溶液を100℃で一夜加熱した。溶液を室温に冷却して、塩酸25mLと混合した水100g中に注いだ。混合物をジクロロメタンで数回抽出した。有機抽出物を硫酸ナトリウムで乾燥させ、蒸発させた後、固体を真空オーブン内で乾燥させることにより14.38gを得た(粗収率100%)。固体を脱色炭で処理した後、エタノールから2回再結晶させることにより2次晶までで(in two crops)約14gを得た。固体をエタノールから再結晶させることにより2−ベンゼンスルホニル−1,4−ジクロロベンゼン12.24gを得た(収率85%)。H NMR(DMSO−d):7.65(ddd,8.4,7.5,1.7Hz,2H),7.67(d,8.6Hz,1H),7.76(tt,7.5,1.2Hz,1H),7.83(dd,8.6,2.6Hz,1H),7.98(ddd,8.4,1.7,1.2Hz,2H),8.27(d,2.6Hz,1H)。
【0056】
4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ナトリウム塩
【化16】

Courtot and Lin,Bull.Soc.Chim.Fr.1931,49,1047に公開された手順を改変して用いた。滴下漏斗およびスターラーバーを備えた500mLの丸底フラスコに、ベンジジン−2,2’−ジスルホン酸(工業用70%)(34.4g、0.1mol)、氷(50g)、および塩酸(65mL)を装入した。混合物を氷浴中で0℃に冷却した。亜硝酸ナトリウム(15g、0.22mol)を水(50mL)に溶解させた溶液を滴下すると、得られた溶液からジアゾニウム塩が析出した。気体の発生が認められたら添加を停止して、スラリーを冷状態に維持した。スターラーバーを備えた1Lの丸底フラスコに塩化銅(I)(25g、0.25mol)および塩酸(85mL)を装入して暗緑色の溶液を得、次いでこれを氷浴中で0℃に冷却した。この溶液に冷ジアゾニウム塩スラリーをゆっくり加えると即座に気体が発生した。室温に戻るまで溶液を撹拌し、過剰な塩酸を除去するために蒸発させた。固体を水中に溶解させ、炭酸ナトリウムで処理することによりpHを7として、残留している銅塩を析出させ、これを濾過して、蒸発させることにより褐色の固体を得た。固体を脱色炭で処理した後にエタノールから2回再結晶させ、80℃で真空乾燥させることによって4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ナトリウム塩9.0gを得た(収率21%)。H NMR(DMSO−d):7.19(d,8.3Hz,2H),7.42(dd,8.3,2.1Hz,2H),7.96(d,2.1Hz,2H)。
【0057】
実施例8
4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ナトリウム塩
【化17】

グローブボックス内で、環流冷却器、スターラーバー、および気体導入管を備えた300mLの丸底フラスコに、無水2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム塩(24.9g、0.1mol)、賦活化された青銅(12.7g、0.2mol)、およびDMAc(100mL)を装入した。窒素中、混合物を150℃で一夜撹拌した。この混合物を水(1L)中に注ぎ、固体を減圧濾過によって除去した。濾液を十分な炭酸ナトリウムで処理して残留している銅塩を析出させ、減圧濾過によって除去した。溶液を蒸発させ、残渣を150℃で真空乾燥させた。固体(29.75g)をエタノールおよび水の混合物に溶解させ、酢酸で酸性化し、濾過して濃縮することにより油状物を得た。油状物をエタノール(100mL)に溶解させ、一夜固化させることにより多量の白色固体を得、これを減圧濾過によって回収し、エタノールで2回洗浄した。この固体をエタノールから2回再結晶することにより4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ナトリウム塩10.05gを得た(収率47%)。H NMR(DMSO−d):7.30(d,8.2Hz,2H),7.34(dd,8.2,2.3Hz,2H),7.82(d,2.2Hz,2H)。
【0058】
4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホニルジクロリド
【化18】

Courtot and Lin,Bull.Soc.Chim.Fr.1931,49,1047に公開された手順を改変して用いた。グローブボックス内で、環流冷却器、スターラーバー、および気体導入管を備えた100mLの丸底フラスコに、4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ナトリウム塩(18.8g、44mmol)、五塩化リン(21g、100mmol)、およびオキシ塩化リン(42mL)を装入した。窒素中、混合物を6時間穏やかに加熱還流した(130℃)。混合物を水(500kg)中に注ぎ、固体が細かく分散するまで約45分間撹拌した。固体を減圧濾過により回収し、水で十分に洗浄し、フィルタ上で風乾した後、60℃で真空乾燥させることによって17.13gを得た(粗収率93%)。この固体をトルエンから再結晶させ、減圧濾過により回収し、80℃で真空乾燥させた。濾液を濃縮してヘキサンで希釈することにより二次晶を得た。合一した4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホニルジクロリドの収率は15.41g(83%)であった。H NMR(CDCl):7.46(d,8.2Hz,2H),7.77(dd,8.2,2.2Hz,2H),8.24(d,2.2Hz,2H)。
【0059】
実施例9
【化19】

グローブボックス内で、スターラーバー、環流冷却器、および気体導入管を備えた125mLの丸底フラスコに、4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホニルジクロリド(15.4g、36.7mmol)、ベンゼン(25mL、280mmol)、および無水ニトロメタン(75mL)を装入した。塩化アルミニウム(11g、81mmol)を加えて溶解するまで混合物を窒素下に撹拌した。溶液を100℃で8時間加熱した。溶液を室温に冷却し、塩酸100mLと混合した氷200g上に注いだ。混合物をジクロロメタンで数回抽出した。有機抽出物を水で洗浄し、炭酸ナトリウムで乾燥させ、濾過して暗色の溶液を得た。溶液を脱色炭で処理し、加熱還流した後、濾過助剤で濾過し、蒸発させ、固体を150℃の真空オーブンで8時間乾燥することにより18.02gを得た(粗収率97%)。混合物をシリカゲルおよびジクロロメタンを用いたカラムクロマトグラフィー(R0.28)によって精製することにより2,2’−ビス−ベンゼンスルホニル−4,4’−ジクロロビフェニル14.3gを得た(収率77%)。固体をキシレンから再結晶させて13.08gを得た(71%)。H NMR(DMSO−d):6.96(d,8.2Hz,2H),7.55(bs,4H),7.56(m,8.1Hz,4H),7.69(m,2H),7.74(dd,8.2,2.2Hz,2H),8.13(d,2.2Hz,2H)。13C NMR(CDCl):128.42(4CH),129.14(4CH),129.58(2CH),132.21(2CH),133.84(2CH),134.13(2CH),134.68(2C),135.61(2C),140.42(2C),141.42(2C)。MS(M+H):m/e 502.99(100%),504.99(75%),C2417Clの精密質量,502.99(100%),504.99(72.9%)。
【0060】
実施例10
グローブボックス内で、大型のスターラーバーおよびセプタムを備えた50mLの丸底フラスコに、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)(0.578g、2.1mmol)、シクロオクタジエン(0.227g、2.1mmol)、2,2’−ビピリジン(0.328g、2.1mmol)、およびDMAc(5mL)を装入した。窒素中、フラスコを70℃で30分間加熱することにより暗紫色の溶液を得た。グローブボックス内で、セプタムを備えた25mLの丸底フラスコに、2,2’−ビス−ベンゼンスルホニル−4,4’−ジクロロビフェニル(0.453g、0.9mmol)、2−ベンゼンスルホニル−1,4−ジクロロベンゼン(0.029g、0.1mmol)、およびDMAc(5mL)を装入した。このフラスコを70℃に加熱してモノマーを溶解させ、この溶液を窒素下にカニューレを介して反応フラスコに加えた。溶液の色が褪せて黒くなるとともに粘度が1時間かけて徐々に増加した。
【0061】
70℃で一夜反応させた後、反応混合物をDMAc(20mL)で希釈し、濃塩酸中に注いでポリマーを析出させ、フラスコをメタノールおよび濃塩酸で濯いだ。混合物をブレンダーで細断してポリマーを粒子状に分散させた。ポリマーを減圧濾過により回収し、ブレンダージャーをメタノールで濯ぎ、フィルタ上でメタノールおよび濃塩酸の混合物で3回洗浄した。次いでこれを水およびメタノールに替えてポリマーを数回洗浄し、窒素パージした80℃の真空オーブン内で乾燥させることにより90:10共重合体であるポリ[(2,2’−ビス−ベンゼンスルホニル−4,4’−ビフェニレン)−コ−(ベンゼンスルホニル−1,4−フェニレン)]0.41gを得た(収率100%)。分子量分布をゲル浸透クロマトグラフィーによりDMAc中で測定した:M60,100、M331,000、M1,600,000;[η]9.12。熱重量分析(昇温速度10℃/分)から、空気中400℃で分解が開始することが示された。示差走査熱量分析から、ガラス転移温度が227℃であることが示された。ここから、実施例4および5の単独重合体と比較して、10molパーセントのコモノマーがガラス転移温度に全く影響しないことが分かる。その理由は、事実上、塩素基の反応性が改善されたことに起因する可能性が高く、さらにこのことによって実施例6および7の共重合体よりも高い分子量が得られた。
【0062】
この共重合体(0.1g)を1,1,2,2−テトラクロロエタンに溶解させることにより1.1重量%溶液を得た。この溶液をポリメチルペンテン製ペトリ皿に注ぎ、窒素パージした乾燥チャンバ内の水平な乾燥台に載置した。乾燥したフィルムは皿から自然に剥がれた。フィルムを窒素パージした60℃の真空オーブン内でさらに乾燥させた。フィルムは強度が高く、屈曲性を有し、強靱で、折り畳むことも可能であった。
【0063】
フィルムの動的粘弾性測定からは、貯蔵弾性率が25℃で4112MPaと高く、高温でもこれを十分に維持しており、200℃で1396MPaおよび220℃で約1000MPaという値を示した。タンデルタプロットからピークが240℃にある高いTgが確認された。Tgが149〜217℃と報告されている(Wang and Quirk,Macromolecules 1995,28(10),p.3495)ポリ(2,5−ベンゾフェノン)と比較すると、この共重合体のフィルムはTgがより高く、かつ140〜220℃の温度ではるかに高に貯蔵弾性率を維持している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

(式中、Tは、嵩高い芳香族基である)の繰り返し単位を含むポリマー。
【請求項2】
数平均分子量が少なくとも約5,000である、請求項1に記載のポリマー。
【請求項3】
Tがフェニルである、請求項1に記載のポリマー。
【請求項4】
式(II):
【化2】

(式中、T’は、嵩高い芳香族基である)の繰り返し単位をさらに含む、請求項1に記載のポリマー。
【請求項5】
数平均分子量が少なくとも約5,000である、請求項4に記載のポリマー。
【請求項6】
T’がフェニルである、請求項4に記載のポリマー。
【請求項7】
式(IA):
【化3】

(式中、Tは、嵩高い芳香族基であり、Xは、BrまたはClである)の化合物。
【請求項8】
Tがフェニルである、請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
XがClである、請求項7に記載の化合物。
【請求項10】
式(IA):
【化4】

(式中、Tは、嵩高い芳香族基であり、Xは、独立に、BrまたはClである)のモノマーを重合させることを含む、ポリマーの製造方法。
【請求項11】
Tがフェニルである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
XがClである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
ポリマーの数平均分子量が少なくとも約5,000である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
式(IA)のモノマーおよび式(IIA):
【化5】

(式中、T’は、嵩高い芳香族基であり、X’は、独立に、BrまたはClである)のモノマーを重合させることを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
TおよびT’がフェニルである、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
XおよびX’がClである、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
ポリマーの数平均分子量が少なくとも約5,000である、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
重合が、錯体の形態にある0価の遷移金属および中性配位子の存在下に為される、請求項10に記載の方法。
【請求項19】
0価の遷移金属がパラジウムまたはニッケルである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
0価の遷移金属がビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)であり、中性配位子が、2,2’−ビピリジンである、請求項18に記載の方法。

【公表番号】特表2013−515844(P2013−515844A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−547230(P2012−547230)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【国際出願番号】PCT/US2010/062199
【国際公開番号】WO2011/090705
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】