ポリイミド多孔質体の製造方法、及びポリイミド多孔質体
【課題】 ポリイミド溶液若しくはポリミック酸溶液を用いて溶媒置換誘起法若しくは熱誘起法により得られる多孔質ポリイミドから、簡便な方法で通気性を向上させる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 ポリイミド溶液若しくはポリミック酸溶液を用いて溶媒置換誘起相分離法若しくは熱誘起相分離法により得られるポリイミド多孔質体をドライエッチング処理することを特徴とするポリイミド多孔質体の通気速度向上方法に関する。
【解決手段】 ポリイミド溶液若しくはポリミック酸溶液を用いて溶媒置換誘起相分離法若しくは熱誘起相分離法により得られるポリイミド多孔質体をドライエッチング処理することを特徴とするポリイミド多孔質体の通気速度向上方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた透過性を有するポリイミド多孔質体の製造方法、及びこれら方法から得られるポリイミド多孔質体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド多孔質体は、種々の方法での製造が検討されている。
特許文献1には、無水テトラカルボン酸とジアミン化合物から得られるポリイミド湿潤ゲルを用いて多孔体を製造する方法であって、
(1)a)無水テトラカルボン酸、ジアミン化合物A、ジアミン化合物B及び溶媒を含む混合液からポリアミド酸を含むワニスを調製する第1工程、b)前記ポリアミド酸をイミド化することにより前記ワニスからポリイミド湿潤ゲルを調製する第2工程及びc)前記ポリイミド湿潤ゲルから前記溶媒を除去することにより多孔体を得る第3工程を含み、(2)前記溶媒は、a)前記ジアミン化合物A及びBに対して可溶性であり、b)前記無水テトラカルボン酸とジアミン化合物Aとの共重合体に対して可溶性であり、かつ、c)前記無水テトラカルボン酸とジアミン化合物Bとの共重合体に対して不溶性である、ことを特徴とするポリイミド多孔体の製造方法が開示されている。
特許文献2には、ポリアミック酸ワニスのキャストフィルムに多孔質フィルムを積層した後、貧溶媒に浸漬する、溶媒置換誘起法によるポリイミド多孔膜の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−182853号公報
【特許文献2】特開平11−310658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本目的は、ポリイミド溶液若しくはポリミック酸溶液を用いて溶媒置換誘起法若しくは熱誘起法により得られる多孔質ポリイミドから、簡便な方法で通気性を向上させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第一は、ポリイミド溶液若しくはポリミック酸溶液を用いて溶媒置換誘起相分離法若しくは熱誘起相分離法により得られるポリイミド多孔質体をドライエッチング処理することを特徴とするポリイミド多孔質体の通気速度向上方法に関する。
本発明の第二は、本発明の第一のポリイミド多孔質体の通気速度向上方法より、通気性能の向上したポリイミド多孔体に関する。
【0006】
本発明の第一のポリイミド多孔質体の通気速度向上方法の好ましい態様を以下に示し、これら態様は任意に複数組合せることが出来る。
1)ドライエッチングは、スパッタ、プラズマ及びコロナ放電処理から選ばれるエッチング、又はドライブラストであること、好ましくはプラズマであること、さらに好ましくは常圧プラズマであること、特に好ましくはダイレクト型常圧プラズマであること。
2)ポリイミド多孔質体は、連通孔を有すること。スパッタ、プラズマ及びコロナ放電処理から選ばれるエッチングでは、孔を通して多孔質体内部までエッチングすることができ、その結果エッチングにより多孔質内部の孔径を拡大することができ、さらに通気性が向上する。
3)ポリイミド多孔質体の通気速度向上方法は、ポリイミド多孔質体の相分離過程で気体若しくは凝固溶媒と接触して得られる表面(流延する支持体や成形型と接しない表面)の表層部の一部若しくは全部をドライエッチング処理で除去すること。ポリイミド多孔質体の相分離過程で気体若しくは凝固液体と接触して得られる表面は、通気性を抑制する部分であり、表層の薄い部分を除去することにより通気性が向上する。除去する厚みは、用いる多孔質体により異なる。
4)ポリイミド多孔質体は、少なくとも2面を有し、孔は一方の面から他方の面に非直線的に連通している多孔質体であること。膜状に流延して得られる膜形態の多孔質体では、少なくとも2面は、気体や凝固溶媒と接する表面と、支持体に接する裏面である。
5)多孔質ポリイミドは、下記のa1)〜a5)のいずれかのポリイミド溶液若しくはポリミック酸溶液を用いて溶媒置換誘起相分離法若しくは熱誘起相分離法により得られるポリイミド多孔質体であること。
a1)溶媒置換速度調整層を用いて、ポリミック酸溶液と凝固溶媒とが直接接触を避けて行う溶媒置換誘起法によりポリアミック酸を析出させ、その後イミド化して得られるポリイミド多孔質体であること。
a2)溶媒置換速度調整層を用いて、ポリイミド溶液と凝固溶媒とが直接接触を避けて行う溶媒置換誘起法によりポリイミドを析出させて得られるポリイミド多孔質体であること。
a3)ポリアミック酸と、極性基を有する有機化合物と、有機極性溶媒とを含むポリアミック酸溶液組成物をフィルム状に流延し、必要に応じて水分含有の気体と接触させ、水を必須成分とする凝固溶媒に浸漬若しくは接触させて得られるポリアミック酸の多孔質膜を、その後イミド化して得られるポリイミド多孔質体であること。
a4)ポリアミック酸溶液から熱誘起法によりポリアミック酸を析出させ、その後イミド化して得られるポリイミド多孔質体であること。
a5)ポリイミド溶液から熱誘起法によりポリイミドを析出させて得られるポリイミド多孔質体であること。
6)ポリイミド多孔体は、ポリイミド溶液若しくはポリミック酸溶液を流延して溶媒置換誘起法若しくは熱誘起法により得られる多孔質ポリイミドであること。
7)多孔質ポリイミドは、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物から選ばれる成分を含むテトラカルボン酸二無水物と、
べンゼンジアミン成分、ジアミノジフェニルエーテル成分及びビス(アミノフェノキシ)フェニル成分から選ばれる成分を含むジアミンとから得られるポリイミドの多孔質ポリイミドであること。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法により、通気性が向上したポリイミド多孔体を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1で製造したポリイミド多孔質体A(未処理)の表面(大気側)の走査型電子顕微鏡写真(5000倍)である。
【図2】実施例1で製造したポリイミド多孔質体A(未処理)の表面(支持体側)の走査型電子顕微鏡写真(5000倍)である。
【図3】実施例1で製造したポリイミド多孔質体A(未処理)の断面の走査型電子顕微鏡写真(2000倍)である。
【図4】実施例1のプラズマ処理後のポリイミド多孔質体の表面(大気側)の走査型電子顕微鏡写真(5000倍)である。
【図5】実施例1のプラズマ処理後のポリイミド多孔質体の表面(支持体側)の走査型電子顕微鏡写真(5000倍)である。
【図6】実施例1のプラズマ処理後のポリイミド多孔質体の断面の走査型電子顕微鏡写真(2200倍)である。
【図7】実施例2で製造したポリイミド多孔質体A(未処理)の表面(大気側)の走査型電子顕微鏡写真(2000倍)である。
【図8】実施例2で製造したポリイミド多孔質体A(未処理)の表面(支持体側)の走査型電子顕微鏡写真(5000倍)である。
【図9】実施例2で製造したポリイミド多孔質体A(未処理)の断面の走査型電子顕微鏡写真(500倍)である。
【図10】実施例2のプラズマ処理後のポリイミド多孔質体の表面(大気側)の走査型電子顕微鏡写真(2000倍)である。
【図11】実施例2のプラズマ処理後のポリイミド多孔質体の表面(支持体側)の走査型電子顕微鏡写真(5000倍)である。
【図12】実施例2のプラズマ処理後のポリイミド多孔質体の断面の走査型電子顕微鏡写真(500倍)である。
【図13】実施例3で製造したポリイミド多孔質体A(未処理)の表面(大気側)の走査型電子顕微鏡写真(10000倍)である。
【図14】実施例3で製造したポリイミド多孔質体A(未処理)の表面(支持体側)の走査型電子顕微鏡写真(10000倍)である。
【図15】実施例3で製造したポリイミド多孔質体A(未処理)の断面の走査型電子顕微鏡写真(2000倍)である。
【図16】実施例3のプラズマ処理後のポリイミド多孔質体の表面(大気側)の走査型電子顕微鏡写真(10000倍)である。
【図17】実施例3のプラズマ処理後のポリイミド多孔質体の表面(支持体側)の走査型電子顕微鏡写真(10000倍)である。
【図18】実施例3のプラズマ処理後のポリイミド多孔質体の断面の走査型電子顕微鏡写真(2000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、ポリイミド溶液若しくはポリミック酸溶液を用いて溶媒置換誘起相分離法若しくは熱誘起相分離法により得られるポリイミド多孔質体をドライエッチング処理すること、好ましくポリミック酸溶液を用いて溶媒置換誘起相分離法により得られるポリイミド多孔質体をドライエッチング処理することを特徴とするポリイミド多孔質体の通気速度向上方法である。
ポリイミド溶液若しくはポリミック酸溶液を用いて溶媒置換誘起相分離法若しくは熱誘起相分離法により得られるポリイミド多孔質体は、断面構造は壁状ではなく網状であり、表面には多数の孔を有し、表面の孔は他面に網目若しくは屈曲した(直線的でない)状態で連続孔として存在し、独立孔が全く若しくはほとんど存在しない、好ましくは表面(膜状であれば片面又は両面)に緻密層が無く、断面構造は壁状ではなく網状であり、表面には多数の孔を有し、表面の孔は他面に網目若しくは屈曲した(直線的でない)状態で連続孔として存在し、独立孔が全く若しくはほとんど存在しない。しかしポリイミド多孔質体の表面、特に相分離過程で気体や凝固溶媒と接触して得られる表面の表層部分が、通気性を低下させることを見いだした。
また、この明細書において、実質的に独立孔を有さずとは、ポリイミド多孔質体(膜)の任意の断面の断面電子顕微鏡写真において、独立孔が全孔(連続孔と独立孔との合計)の30%以下の割合であることを意味する。この明細書において、ガーレー数とは透気抵抗度を示し、秒/100ccで表示される。
【0010】
本発明では、ポリイミド多孔質体の形状は、膜状、板状、球状などどのような形状でも適用することができる。特に表面積の大きな膜状や板状のポリイミド多孔質体に適用できる。
【0011】
ポリイミド多孔質体の表層部等の除去方法としてドライエッチング処理を選択する理由としては、多孔質体を形成するポリマーの凝縮や膨張等により多孔構造を破壊することなく主に表面部分を除去することができるためである。
ドライエッチングは、スパッタ、プラズマ及びコロナ放電処理から選ばれるエッチング、又はドライブラストを用いることができる。
ドライエッチングは、プラズマ処理が好ましく、さらに常圧プラズマ処理が好ましく、特にダイレクト型常圧プラズマが、エッチング効果が高いために好ましい。
【0012】
プラズマ処理は大別して真空プラズマと常圧プラズマ処理があるが、商業生産を考慮すると常圧プラズマ処理が好ましい。また、常圧プラズマとしては、リモート式とダイレクト式の2方式があるが、ダイレクト方式がより高いエッチング効果が得られ、処理時間が短くなり事から、ダイレクト方式がより好ましい。使用するガス種は特に制限がないが、対象がポリイミドの場合は、窒素と酸素の混合ガスでも十分なエッチング効果が得られることから、設備のユーティリティの費用や処理を行う際の比例費も考え合わせると、窒素と酸素の混合ガスで処理を行うことが好ましい。
【0013】
スパッタリング方法には特に制限は無く、装置は真空チャンバー内に高電圧を負荷する電極が配置され、処理用ガスを導入できるラインがあれば、特に制限は無い。
【0014】
コロナ放電処理方法には特に制限は無く、処理電極と試料間の距離、電極形状、負荷する電圧、交流電源の周波数などを適切に選択することで所望の処理条件を決めることが出来る。
【0015】
ドライブラストとしては、多孔質体の表面や内部構造を破壊することなく、主に多孔質体表面の表層部分を除去できるような、粒径と硬度を有する砥粒を用いて行えばよい。
【0016】
本発明では、ポリイミド多孔質体の表面をドライエッチングにより除去することより透過性を向上させることができ、除去する厚みは用いる多孔質膜などの多孔質体により、適宜選択すればよい。
ポリイミド多孔質体の表面をドライエッチングにより除去する表面の厚みとしては、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.1μm以上、特に0.3μm以上であれば良く、上限値の設定は必要ないが、製造効率の面から、好ましくは6μm以下、より好ましくは5μm以下、さら好ましくは4μm以下、特に好ましくは3μm以下を挙げることができる。
本発明では、ポリイミド多孔質体の表面をドライエッチングにより除去することより、少なくとも2倍以上、さらに3倍以上、特に4倍以上透過性を向上させることができ、上限値の設定は必要ないが、好ましくは1000倍以下、さらに500倍以下、さらに100倍以下、特に50倍以下を挙げることができる。
【0017】
ポリイミド多孔質体は、下記のa1)〜a5)のいずれかの方法で得られる多孔質ポリイミドを用いることができる。
a1)溶媒置換速度調整層を用いて、ポリミック酸溶液と凝固溶媒とが直接接触を避けて行う溶媒置換誘起法によりポリアミック酸を析出させ、その後イミド化して得られるポリイミド多孔質体であること。
a2)溶媒置換速度調整層を用いて、ポリイミド溶液と凝固溶媒とが直接接触を避けて行う溶媒置換誘起法によりポリイミドを析出させて得られるポリイミド多孔質体であること。
a3)ポリアミック酸と、極性基を有する有機化合物と、有機極性溶媒とを含むポリアミック酸溶液組成物をフィルム状に流延し、必要に応じて水分含有の気体と接触させ、水を必須成分とする凝固溶媒に浸漬若しくは接触させて得られるポリアミック酸の多孔質膜を、その後イミド化して得られるポリイミド多孔質体であること。
a4)ポリアミック酸溶液から熱誘起法によりポリアミック酸を析出させ、その後イミド化して得られるポリイミド多孔質体であること。
a5)ポリイミド溶液から熱誘起法によりポリイミドを析出させて得られるポリイミド多孔質体であること。
本発明では、a1)〜a3)は溶媒置換誘起相分離法であり、a4)及びa5)は熱誘起相分離法である。特にa1)〜a3)、さらにa3)から得られるポリイミド多孔質体で効果が優れる。
【0018】
本発明において、ポリアミック酸とは、テトラカルボン酸成分とジアミン成分を重合して得られるポリアミック酸或いはその部分的にイミド化したポリイミド前駆体であり、熱イミド化若しくは化学イミド化を行うことにより、閉環してポリイミドとすることができるものである。ポリイミドとは、イミド化率が約80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上であることが好ましい。
【0019】
ポリアミック酸又はポリイミドを重合するための溶媒としては公知の有機極性溶媒を用いることができ、p−クロロフェノール、o−クロルフェノール、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ピリジン、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、フェノール、クレゾールなどの有機極性溶媒などを用いることができ、特にN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)を好ましく用いることができる。
【0020】
ポリアミック酸又はポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを、上記の有機極性溶媒などを用いて公知の方法で製造することができ、例えば、略等モル若しくはテトラカルボン酸二無水物をジアミンに対して少し少ないか又は少し多い割合で、約100℃以下、さらに80℃以下、さらに0〜60℃の温度で、特に20〜60℃の温度で、約0.2時間以上、好ましくは0.3〜60時間反応させてポリアミック酸(ポリイミド前駆体)溶液を製造することができる。
ポリアミック酸溶液を製造する時に、分子量を調整する目的で、公知の分子量調整成分を反応溶液に加えてもよい。
本発明では、ポリアミック酸の対数粘度(30℃、濃度;0.5g/100mL、NMP)は、ポリイミド多孔質体を形成でき、製造できる粘度であればよく、ポリアミック酸の対数粘度(30℃、濃度;0.5g/100mL、NMP)が0.3以上、特に0.5〜7であるポリアミック酸のものを用いることが好ましい。
ポリアミック酸は、アミック酸の一部がイミド化していても本発明に影響を及ぼさない範囲で用いることができる。
【0021】
ポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物とジアミンを、上記の有機極性溶媒などを用いて公知の方法で製造することができ、例えば、略等モル若しくはテトラカルボン酸二無水物をジアミンに対して少し少ないか又は少し多い割合で、約140℃以上、好ましくは160℃以上の温度で、約0.2時間以上、好ましくは0.3〜60時間反応させてポリイミド溶液を製造することができる。別の方法としては予めポリアミック酸溶液を製造し、その後イミド化剤や脱水剤などを添加して、アミック酸をイミド化して、必要なら再沈殿などを行い、イミド溶液を製造することができる。
本発明では、ポリイミドの対数粘度(30℃、濃度;0.5g/100mL、可溶溶媒)は、本発明のポリイミド多孔質体が製造できる粘度であればよく、ポリアミック酸の対数粘度(30℃、濃度;0.5g/100mL、可溶溶媒)が0.3以上、特に0.5〜7であるポリイミドのものを用いることが好ましい。
ポリイミドは、イミドの一部がアミック酸の中間体でも本発明に影響を及ぼさない範囲で用いることができる。
【0022】
ポリイミド多孔質体は、公知のテトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とから得られるポリイミドからなるポリイミド多孔質体であればよく、特にビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物から選ばれる成分を含むテトラカルボン酸二無水物と、べンゼンジアミン成分、ジアミノジフェニルエーテル成分及びビス(アミノフェノキシ)フェニル成分から選ばれる成分を含むジアミンとから得られるポリイミドからなるポリイミド多孔質体が耐熱性、生産性の面で好ましい。
【0023】
テトラカルボン酸二無水物の具体例として、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)などのビフェニルテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ジフェニルスルホン−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、p−ビフェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、m−ターフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、p−ターフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ビフェニル二無水物、2,2−ビス〔(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物等を挙げることができる。また、2,3,3’,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸等の芳香族テトラカルボン酸を用いることも好ましい。これらは単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。用いるテトラカルボン酸二無水物は、所望の特性などに応じて適宜選択することができる。
テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)などのビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含むことが好ましく、特に、ピロメリット酸二無水物及び3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)から選ばれる成分を含むことが好ましい。
テトラカルボン酸二無水物100モル%中、ピロメリット酸二無水物及びビフェニルテトラカルボン酸二無水物から選ばれる成分を50〜100モル%、さらに70〜100モル%、特に80〜100モル%含むことが好ましい。
【0024】
ジアミンの具体例として、
1)1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエンなどのベンゼン核1つのべンゼンジアミン、
2)4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどのジアミノジフェニルエーテル成分、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4’−ジアミノベンズアニリド、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、2,2’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、2,2’−ジメトキシベンジジン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジクロロベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシドなどのベンゼン核2つのジアミン、
3)1,3−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)−4−トリフルオロメチルベンゼン、3,3’−ジアミノ−4−(4−フェニル)フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジ(4−フェニルフェノキシ)ベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3−ビス〔2−(4−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4−ビス〔2−(3−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4−ビス〔2−(4−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼンなどのベンゼン核3つのジアミン、
4)3,3’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンなどのベンゼン核4つのジアミン、
などを挙げることができる。これらは単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。用いるジアミンは、所望の特性などに応じて適宜選択することができる。
ジアミン成分は、べンゼンジアミン成分、ジアミノジフェニルエーテル成分及びビス(アミノフェノキシ)フェニル成分から選ばれる成分を含むジアミンが好ましく、ジアミン100モル%中、これらのジアミン成分を50〜100モル%、さらに70〜100モル%、特に80〜100モル%含むことが好ましい。
【0025】
ポリイミド多孔質体は、ガラス転移温度が240℃以上、好ましくは250℃以上、特に260℃以上のテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを組み合わて得られるポリイミドから形成されていることが、耐熱性、高温下での寸法安定性に優れるために好ましい。
耐熱性を有するポリイミド多孔質体は、マイクロフォン、スピーカーなどの音響部材の保護カバーとして利用することができ、ポリイミド多孔膜を取り付けたマイクロフォン、スピーカーなどの音響部材は、リフローを用いて直接基板と接続させることができる。
【0026】
熱誘起相分離法とは、ポリイミドと該ポリイミドの可溶溶媒と該ポリイミドの不溶溶媒とを含むポリイミド溶液からポリイミド多孔質体を製造する方法であり、ポリイミド溶液を加熱して均一で透明な溶液とした後、ポリイミド溶液を冷却して均一に懸濁させ、
懸濁したポリイミド溶液から可溶溶媒と不溶溶媒とを除去する方法であり、懸濁したポリイミド溶液から可溶溶媒と不溶溶媒とを除去することが、懸濁したポリイミド溶液を、該ポリイミドの別の不溶溶媒と接触させて除去してもよい。
上記熱誘起法において、ポリイミドの代わりにポリアミック酸を用いることができ、最終的に加熱してイミド化することにより多孔質体を得ることができる。
【0027】
熱誘起相分離法によるポリイミド多孔質体の製造方法の一例は、
b1)溶媒可溶なポリイミドを合成する、
b2)ポリイミドの不溶溶媒を見つける、
b3)ポリイミドを可溶溶媒に溶解し、ポリイミド溶液を作る、
b4)ポリイミド溶液に不溶溶媒を配合後、加温して均一で透明な溶液になり、その後冷却してポリイミド溶液中にポリイミドが塊や粉体状に析出することなく、均一に懸濁溶液になる不溶溶媒を調べる、必要なら濁点量を測定する[ポリイミドが塊や粉体状に沈殿しないように、溶液の加熱温度、溶液の冷却速度、不溶溶媒の配合量、ポリマーの重合度や濃度を変更する]
b5)上記b4)の結果、ポリイミドと可溶溶媒と不溶溶媒とを含むポリイミド溶液を加温して、均一で透明なポリイミド溶液を得る、必要なら透明溶液の状態で、支持体に流延したり成形型などを用いて形状を整える、
b6)上記b5)の透明なポリイミド溶液を冷却して、ポリイミド溶液中にポリイミドが塊や粉体状に析出することなく、均一に懸濁溶液にする、必要なら懸濁溶液のまま放置する、必要なら湿度の低い環境下で冷却する、
b7)上記b6)の懸濁溶液から可溶溶媒と不溶溶媒とを除去する、必要に応じてさらに乾燥や加熱を行う、
ことによりポリイミド多孔質体を製造することができる。
【0028】
b4)又はb5)で加温の下限と上限は、用いる溶媒、ポリマーの種類や濃度等により適宜選択して行えば良いが、上限値は沸点未満が好ましく、沸点より10℃以下がより好ましく、沸点より15℃以下がさらに好ましい。加温温度の下限値は80℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、110℃以上がさらに好ましく、120℃以上が特に好ましい。
b4)又はb5)において、溶液の加熱温度、溶液の冷却速度、不溶溶媒(B)の配合量、ポリマーの重合度や濃度を変更することにより、得られる多孔体の孔径・厚み・空孔率等をかえることができる。
【0029】
b6)では、透明ポリイミド溶液を冷却する場合、冷却速度を変えることにより、得られる多孔体の孔径・厚み・空孔率等をかえることができる。冷却速度を上げることにより、孔径の小さな多孔体が得られやすい。
b6)では、透明ポリイミド溶液(B)を冷却する場合、湿度の低い環境下で冷却することにより、ポリマー溶液が懸濁する過程で水の影響を受けにくくなり、表面に緻密な構造や多孔の孔径の大きな構造を有することのない多孔質体が得られるために好ましい。湿度の低い環境とは、好ましくは温度26℃、相対湿度約25%以下の水分量を含む環境である。
【0030】
b7)において、懸濁溶液から可溶溶媒と不溶溶媒とを除去する方法としては、ポリイミドを溶解することなく形状を保持した状態で可溶溶媒と不溶溶媒とを除去すればよく、例えば、(i)懸濁溶液を新たな不溶溶媒に接触させて、懸濁溶液から可溶溶媒と不溶溶媒とを抽出除去する方法[但し新たな不溶溶媒は、可溶溶媒及び不溶溶媒と均一に相溶する溶媒であること]、
(ii)懸濁溶液を凍結乾燥法や超臨界二酸化炭素により溶媒を除去する方法、
さらに(i)と(ii)とを組み合わせた方法、などを挙げることができる。
【0031】
熱誘起相分離法では、ポリイミドは、可溶性ポリイミドであればよく、可溶溶媒に20〜60質量%、より好ましくは30〜56質量%、さらに好ましくは36〜50質量%溶解するポリイミドが好ましい。
ポリイミドは、ポリイミド溶液を冷却することにより、ポリイミドが塊や粉体で析出することなく溶液が均一に懸濁することが必要であるため、ポリイミドの結晶度が低いかゼロが好ましい。
【0032】
・a4又はa5のポリイミド多孔質体の特徴
膜厚は5〜100μm、好ましくは10〜50μm、より好ましくは20〜50μm、さらに好ましくは25〜50μmであること。
ガーレー値は100秒以下、好ましくは80秒以下、より好ましくは60秒以下、さらに好ましくは50秒以下であり、下限値は必要ないが、好ましくは測定限界以下であること。
空孔率が70〜95%、好ましくは71〜92%、より好ましくは71〜85%の範囲であること。
【0033】
溶媒置換誘起法としては、
a1)又はa2)は、ポリイミド溶液若しくはポリアミック酸溶液を流延し、流延物の片面若しくは両面に多孔質フィルムや溶媒などの溶媒置換速度調整層を設け、ポリイミド溶液若しくはポリアミック酸溶液と凝固溶媒とが直接接触を避けて、ポリマーを析出させる方法であり、ポリアミック酸の場合得られる析出物をさらに加熱してイミド化することにより、多孔質ポリイミドが得られる。
溶媒置換誘起法は、特開平11−310658号公報、特開2000−306568号公報、特開2003−138057号公報、特開2007−92078号公報、特開2007−169661号などに記載の溶媒置換誘起法を利用することができる。
別の溶媒置換誘起法である
a3)はポリアミック酸と、凝固を促進させる極性基を有する有機化合物と、さらに必要に応じて重合体(A)と、有機極性溶媒とを含むポリアミック酸溶液組成物をフィルム状に流延し、必要に応じて水蒸気含有の気体と接触させ、水を必須成分とする凝固溶媒に浸漬若しくは接触させて得られるポリアミック酸の多孔質膜を、その後イミド化して得られるポリイミド多孔質体が得られる。
【0034】
・a1又はa2のポリイミド多孔質体の特徴
膜厚は5〜150μm、好ましくは10〜100μm、より好ましくは20〜50μm、さらに好ましくは25〜50μmであること。
ガーレー値は300秒以下、好ましくは150秒以下、より好ましくは100秒以下、さらに好ましくは85秒以下であり、下限値は必要ないが、好ましくは測定限界以下であること。
空孔率が40〜95%、好ましくは40〜92%、より好ましくは50〜85%の範囲であること。
【0035】
a3)の溶媒置換誘起法より得られるポリイミド多孔質体は、下記特徴(B1)〜(B4)を有する。
・a3のポリイミド多孔質体の特徴
(B1)膜厚は5〜100μm、好ましくは10〜50μm、より好ましくは20〜50μm、さらに好ましくは25〜50μmであること。
(B2)ガーレー値は150秒以下、好ましくは100秒以下、より好ましくは80秒以下、さらに好ましくは50秒以下であり、下限値は必要ないが、好ましくは測定限界以下であること。
(B3)空孔率が70〜95%、好ましくは71〜92%、より好ましくは71〜90%の範囲であること。
(B4)膜を膜平面方向に対して垂直に切断した断面構造は、膜の片側の表面層(a)と、その反対側の表面層(b)と、両表面層を支持する複数の支持部とを有し、両表面層は支持部により主としてラダー形状に接続され、表面層(a及び/又はb)と支持部に囲まれた膜横方向の長さ10μm以上、好ましくは10〜150μm、より好ましくは10〜100μm、さらに好ましくは10〜80μmのマクロボイドを多数有し、
表面層(a)及び表面層(b)は、表面に多数の孔を有し、該孔の一部若しくは全部が表面からマクロボイド表面に連通しており、
支持部は、表面に多数の孔を有し、該孔の一部若しくは全部が一方の表面から他方の表面に連通していること。
さらに下記特徴を少なくとも1つ以上有することが好ましい。
(B5)250℃、15分、0.5MPaの圧縮応力負荷後の膜厚み変化率が5%以下、好ましくは3%以下、さらに好ましくは0〜1%であること。
(B6)膜を膜平面方向に対して垂直に切断した断面において、膜横方向の長さ10μm以上のマクロボイドの断面積が膜断面積の50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上であり、特に上限値を設ける必要はないが好ましくは98%以下、より好ましくは95%以下、さらに好ましくは90%以下、特に好ましくは85%以下であること。
(B7)膜を膜平面方向に垂直に切断した断面において、膜横方向の長さ5μm以上、好ましくは7μm以上、さらに好ましくは10μm以上のボイドの中で、膜横方向の長さ(L)と膜厚み方向の長さ(d)との比がL/d=0.5〜3、好ましくはL/d=0.8〜3、より好ましくはL/d=1〜3、さらに好ましくはL/d=1.2〜3の範囲に入るボイドの数が60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75〜100%であること。
(B8)ガラス転移温度:240℃以上、又は300℃以上で明確な転移点がないこと。
(B9)200℃、2時間での寸法安定性が、膜平面方向において±1%以内、好ましくは±0.8%以内、さらに好ましくは±0.5%以内であること。
(B10)表面の平均孔径が好ましくは0.01〜5μm、さらに好ましくは0.01〜3μm、特に好ましくは0.02〜2μmであること。
(B11)最大孔径が好ましくは10μm以下、より好ましくは0.1〜5μm、さらに好ましくは0.1〜3μmであること。
【0036】
a3のポリイミド多孔質体において、表面層(X)、表面層(Y)及び両表面層を支持する複数の支持部の厚みは上記特性を有する厚みであればよく、表面層(X)の厚みと表面層(Y)の厚みは主として好ましくは0.5〜10μm、より好ましくは1.0〜9μm、さらに好ましくは2〜8μm、特に好ましくは2〜7μmであり、支持部の厚みは主として好ましくは1〜15μm、より好ましくは2〜12μm、さらに好ましくは3〜10μm、特に好ましくは4〜8μmであることが好ましい。
【0037】
a3)のポリイミド多孔質体の製造方法の一例を示す。
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリアミック酸と、極性基を有する有機化合物と、必要に応じて重合体(A)と、有機極性溶媒とを含むポリアミック酸溶液組成物をフィルム状に流延し、水を必須成分とする凝固溶媒に浸漬若しくは接触させて得られるポリアミック酸の多孔質膜を、熱処理してイミド化することにより製造方法することができる。
極性基を有する有機化合物としては、ポリアミック酸溶液組成物のフィルム状流延物への水の浸入を促進させる有機化合物である。
【0038】
a3)のポリイミド多孔質体の製造方法において、ポリアミック酸溶液組成物は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリアミック酸と、有機極性溶媒と、極性基を有する有機化合物とを含む、若しくはポリアミック酸溶液と、極性基を有する有機化合物とを含む。
ポリアミック酸溶液組成物は、さらに重合体(A)を含むことにより、さらに透過性が向上し、穴の多い多孔膜を得ることができる。
ポリアミック酸溶液組成物において、ポリアミック酸と有機極性溶媒とは、ポリアミック酸を有機極性溶媒に溶解して得られるポリアミック酸溶液を用いることができる。
【0039】
a3)のポリイミド多孔質体の製造方法において、極性基を有する有機化合物としては、ポリアミック酸溶液組成物のフィルム状流延物への水の浸入を促進させる効果があり、膜中に大きなボイドを形成できる極性基を有する有機化合物であればよく、例えば安息香酸、フタル酸などのカルボン酸基を有する有機化合物、水酸基を有する有機化合物、スルフォン酸基を有する有機化合物などを用いることができ、これらは2種以上併用して用いることができる。特に極性基を有する有機化合物としては、安息香酸、フタル酸などのカルボン酸基を有する有機化合物が好ましい。
例えば極性基を有する有機化合物は、流延したポリアミック酸溶液を凝固浴に浸漬する工程において、極性基を有する有機化合物を含有するポリアミック酸溶液組成物からのポリアミック酸の凝固が、通常のポリアミック酸の凝固過程と比較して促進される効果が認められる物であればよく、特に凝固浴と接触する面から内部へと膜厚み方向に速やかに凝固化を促進する効果を有する物であることが好ましい。
極性基を有する有機化合物は、上記の特性上、ポリアミック酸と反応しない若しくは反応しにくい化合物であることが好ましい。
ポリアミック酸溶液組成物において、極性基を有する有機化合物の含有量は適宜選択すればよいが、極性基を有する有機化合物の含有量はポリアミック酸100質量部に対して、好ましくは0.1〜200質量部、より好ましくは1〜150質量部、さらに好ましくは10〜100質量部、特に好ましくは20〜70質量部の割合で含むことが効果に優れるために好ましい。
【0040】
a3)のポリイミド多孔質体の製造方法において、ポリアミック酸溶液組成物は、さらに下記特徴(A1)〜(A4)の少なくとも1つの特徴を有する重合体(A)、好ましくは下記特徴(A1)〜(A4)を有する重合体(A)を含むことが、より透過性に優れた膜を得ることができるために好ましい。
特に重合体(A)を含むポリアミック酸溶液組成物を用いると、支持層は膜厚み方向や横方向に連通する多数の微細な孔からなる層で形成されるためである。
・重合体(A)の特徴
(A1)水、凝固溶媒及び/又は有機極性溶媒に不溶又は難溶であること。
(A2)熱イミド化工程で分解されること。
(A3)ポリアミック酸溶液組成物中に重合体(A)が均質で懸濁していること。
さらに重合体(A)は以下の特徴を有することが好ましい。
(A4)ポリアミック酸と相溶しないこと。
本発明では、ポリアミック酸溶液組成物が上記特徴を有する重合体(A)を含むことにより、含有する効果については明確でないが、
x1)得られるポリアミック酸中に重合体(A)が非相溶物として残存し、多孔膜構造を形成後に凝固浴中に一部または全部が溶出、さらには、加熱イミド化する工程で、重合体(A)の一部又は全部が分解され、一部又は全部が除去されることにより、透過性が向上する、
又は
x2)ポリアミック酸溶液組成物の凝固を促進するなど、凝固過程に影響を与えることにより透過性が向上する、と考えられるか、若しくは両方が作用していると考えられる。
ポリアミック酸溶液組成物の重合体(A)としては、上記特徴(A1)〜(A4)の少なくとも1つの特徴、好ましくは上記特徴(A1)〜(A3)の特徴、さらに好ましくは上記(A1)〜(A4)の特徴を有する重合体であればよく、含有量も適宜選択して用いればよい。
【0041】
a3)のポリイミド多孔質体の製造方法において、重合体(A)としては、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレートなどのビニル重合体、などをあげることができ、これらは2種以上併用して用いることができる。
ポリアミック酸溶液組成物において、重合体(A)の含有量は、ポリアミック酸100質量部に対して、好ましくは1〜100質量部、より好ましくは1〜30質量部、さらに好ましくは2〜20質量部、特に好ましくは3〜12質量部の割合で含むことが効果に優れるために好ましい。
ポリアミック酸溶液組成物に重合体(A)を添加する場合、重合体(A)は重合体(A)そのまま、重合体(A)の溶解溶液、重合体(A)の懸濁溶液などで添加することができる。
ポリアミック酸溶液組成物は、ポリアミック酸溶液と、ポリアミック酸溶液組成物のフィルム状流延物に水の浸入を促進させる化合物と、重合体(A)を混合して、ポリアミック酸溶液組成物を製造することができる。この場合、溶液が懸濁状になる場合があるが、十分な時間をかけて攪拌することで均質な状態を保つことが出来れば、本発明に用いることが出来る。
【0042】
a3)のポリイミド多孔質体の製造方法の一例を示すと、
1)ポリアミック酸溶液組成物をドープ液として使用し、そのドープ液よりフィルム状(膜状)に流延して流延物を形成し、必要に応じて流延物の片面若しくは両面を水蒸気などを含むガス(空気、不活性ガスなど)と接触させ、その流延物を凝固溶媒に浸漬若しくは接触させて、ポリアミック酸を析出させて多孔質化を行い、必要に応じて多孔質化したポリアミック酸膜を洗浄及び/又は乾燥してポリアミック酸の多孔質膜を製造し、ポリアミック酸の多孔質膜をさらに熱イミド化処理或いは化学イミド化処理を行いイミド化して、多孔質ポリイミドを製造する方法、などを挙げることが出来る。
重合体(A)を含むポリアミック酸溶液組成物を用いる場合には、ポリアミック酸の多孔質膜をさらに重合体(A)の熱分解開始温度以上に加熱して熱イミド化処理を行いイミド化して、多孔質ポリイミドを製造することが好ましい。
ポリアミック酸溶液組成物は、ブレードやTダイなどを用いてガラス板、ステンレス板などの板上にフィルム状に流延して、多孔膜を製造することができる。
ポリアミック酸溶液組成物は、ブレードやTダイなどを用いて、可動式のベルト上、若しくは連続の可動式のベルト上にフィルム状に連続的に流延して、連続的に個片若しくは長尺状の多孔膜を製造することができる。ベルトは、ポリアミック酸溶液組成物及び凝固溶液に影響を受けないものであればよく、ステンレスなどの金属製、テフロン(登録商標)などの樹脂製を用いることができる。また、Tダイからフィルム状に成形したポリアミック酸溶液組成物をそのまま凝固浴に投入することも出来る。
重合体(A)の熱分解開始温度はTGA(空気中、10℃/分)の条件で測定することができる。
【0043】
a3)のポリイミド多孔質体の製造方法において、ポリアミック酸溶液は、重合反応させて得られる溶液を用いてもよく、ポリアミック酸を有機極性溶媒に所定量溶解させて用いてもよい。
ポリアミック酸溶液組成物中に含まれるポリアミック酸の濃度は本発明の目的を達成する濃度であればよく、例えばポリアミック酸と有機極性溶媒との合計100質量%中、ポリアミック酸は0.3〜60質量%、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは2〜15質量%、さらに好ましくは5〜10質量%の割合で溶解してポリアミック酸溶液に調製される。ポリアミック酸の割合が0.3質量%より小さいと多孔質膜を作製した際のフィルム強度が低下するので適当でなく、60質量%より大きいと多孔質膜の透過性が低下するため、上記範囲の割合が好適である。また、ポリアミック酸溶液組成物の溶液粘度は、流延可能な粘度であれば適宜選択して用いればよく、例えば10〜10000ポイズ、好ましくは100〜3000ポイズ、より好ましくは200〜2000ポイズ、さらに好ましくは300〜1000ポイズである。溶液粘度が10ポイズより小さいと多孔質膜を作製した際のフィルム強度が低下するので適当でなく、10000ポイズより大きいとフィルム状に流延することが困難となるので、上記範囲が好適である。
【0044】
a3)のポリイミド多孔質体の製造方法において、凝固溶媒は、水を必須成分とする凝固溶媒であればよく、凝固溶媒中に含まれる水の含有量は適宜選択して行えばよく、好ましくは水と有機極性溶媒とを含む凝固溶媒を用いることが火災などの安全面、製造原価、および得られる膜の均質性確保のために好ましい。
凝固溶媒としては、凝固溶媒100質量%中に好ましくは水質量が5〜100%、より好ましくは20〜100質量%、さらに好ましくは30〜95質量%、特に好ましくは45〜90質量%含むことが好ましく、
さらに好ましくは凝固溶媒は、100質量%中に好ましくは水5〜100質量%と有機極性溶媒95〜0質量%、より好ましくは水20〜100質量%と有機極性溶媒80〜0質量%、さらに好ましくは30〜95質量%と有機極性溶媒70〜5質量%、特に好ましくは45〜90質量%と有機極性溶媒55〜10質量%を含むことが好ましい。
凝固溶媒は、水、有機極性溶媒の他に、ポリアミック酸の貧溶媒であるエタノール、メタノール等のアルコ−ル類、アセトンなどを含むことができる。
凝固溶媒の温度は、目的に応じて適宜選択して用いてばよく、例えば−30〜70℃、好ましくは0〜60℃、さらに好ましくは10〜50℃の範囲で行うことが好ましい。
【0045】
a3)のポリイミド多孔質体の製造方法において、多孔質化のポリアミック酸膜を熱イミド化処理を行う場合、支持体からはがして得られる多孔質化したポリアミック酸膜を、ピン、チャック若しくはピンチロールなどを用いて熱収縮により平滑性が損なわれないように固定し、大気中にて加熱してイミド化を行う条件であればよく、例えば280〜600℃、好ましくは350〜550℃の加熱温度で、5〜120分間、好ましくは6〜60分間の加熱時間から適宜選択して行うことが好ましい。
【0046】
a3)のポリイミド多孔質体の製造方法において、多孔質化のポリアミック酸膜の化学イミド化処理は、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物を脱水剤として用い、トリエチルアミン等の第三級アミンを触媒として行われる。また、特開平4−339835のように、イミダール、ベンズイミダゾール、もしくはそれらの置換誘導体を用いても良い。
【0047】
a3)のポリイミド多孔質体の製造方法において、多孔質ポリイミドは、ポリアミック酸溶液或いはポリイミド溶液を介して製造する場合、用いるポリマーの種類、ポリマー溶液のポリマー濃度、粘度、有機溶液など、凝固条件(溶媒置換速度調整層の種類、温度、凝固溶媒など)などを適宜選択することにより、
空孔率、膜厚、表面の平均孔径、最大孔径、中央部の平均孔径などを適宜選択することができる。
【0048】
得られた通気性の向上したポリイミド多孔質体は、マイクロフォン、スピーカーなどの音響部材の保護カバー、電子デバイスにおける放熱材料や分離フィルター材、低誘電率材料などに用いることができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定
されるものではない。
【0050】
〔測定方法〕
〔1.溶液粘度〕:
溶液粘度の測定は、E型回転粘度計で行った。以下に測定手順を示す。
(i)参考例で作製したポリアミック酸溶液を密閉容器に入れ、30℃の恒温槽に10時間保持した。
(ii)E型粘度計(東京計器製:高粘度用(EHD型)円錐平板型回転式,コーンローター:1°34’)を用い、(i)で準備したポリアミック酸溶液を測定溶液として、温度30±0.1℃の条件で測定した。3回測定を行い、平均値を採用した。測定点に5%以上のばらつきがあった場合は、さらに2回の測定を行い5点の平均値を採用した。
〔2.膜厚み〕:接触式の膜厚み計により、9箇所で測定を行い、平均値を膜厚みとした。
〔3.空孔率〕:所定の大きさに切取った多孔質フィルムの膜厚及び質量を測定し、目付質量から空孔率を次の式(1)によって求めた。式(1)のSは多孔質フィルムの面積、dは膜厚、wは測定した質量、Dはポリイミドの密度を意味し、ポリイミドの密度は1.34g/cm3として算出した。
【数1】
〔4.ガーレー値(透気度)〕
ガーレー値(秒/100ml)をJIS・P8117に準拠して測定を行った。測定は膜の異なる箇所で5回以上行い、平均値を算出し小数点以下は四捨五入してガーレー値とした。
〔5.表面の平均孔径〕
フィルム形状のポリイミド多孔質体の表面の走査型電子顕微鏡写真より、200点以上の開孔部について孔面積を測定し、該孔面積の平均値から式(2)に従って孔形状が真円であるとした際の平均直径を計算より求めた。式(2)のSaは孔面積の平均値を意味する。
【数2】
〔6.表面の最大孔径〕
多孔質フィルム表面の走査型電子顕微鏡写真より、200点以上の開孔部について孔面積を測定し、該孔面積から孔形状が真円であるとした際の直径を計算し、その最大値を最大孔径とした。
〔7.表面開口率〕
フィルム形状のポリイミド多孔質体の表面の走査型電子顕微鏡写真の5視野より、開孔部の孔面積の総計を測定し、以下の式から表面開口率を求めた。
【数3】
〔8.ガラス転移温度〕
固体粘弾性アナライザーを用いて、引張モード、周波数10Hz、ひずみ2%、窒素ガス雰囲気の条件で動的粘弾性測定を行い、その温度分散プロファイルにおいて損失正接が極大値を示す温度をガラス転移温度とした。
〔9.接触角〕
液適法により、水による接触角を計測した。3回測定を行い平均値を接触角とした。
〔10.常圧プラズマ処理〕
積水化学製のAP−T02−L300常圧プラズマ処理装置(平行電極、ダイレクト型)を用いて、以下の条件でプラズマ処理を行った。
プラズマ放出電極/処理対象フィルム間ギャップ:1mm
出力:160V、4.1A、30kHz。
ガス:擬似空気混合ガス(窒素:22.5L/分,酸素:0.65L/分、25℃)。
【0051】
用いる酸成分、ジアミン成分、溶媒は、以下の略称である。
s−BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
ODA:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
TPE−Q:1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン
BA:安息香酸
s−BPA:3,3’、4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
【0052】
〔実施例1〕
〔溶媒置換誘起相分離法によるポリイミド多孔質膜Aの製造〕
テトラカルボン酸成分としてs−BPDAを、ジアミン成分としてODAを、重合溶媒としてNMPを用い、モノマ−成分の合計重量が7重量%のポリアミック酸溶液を作製した。得られたポリアミック酸溶液の粘度は1200ポイズであった。
ポリアミック酸溶液を、鏡面研磨を施したステンレス製の20cm角の基板上に厚み約250μmで均一に引き伸ばし塗布した。基板上に塗布したポリアミック酸溶液の表面に保護溶媒層としてNMPをドクターブレードで厚みが約50μmで均一に塗布し1分間静置した後に、基板全体をメタノール浴中に投入した。その間、ポリマ−溶液と保護溶媒層とが完全には混じり合あわずに厚み方向で濃度勾配を保ちかつポリマ−が溶解している状態を保っていた。投入後、5分間静置した後に基板を取りだし、その後水中に5分間漬けた後、基板上に析出したポリアミック酸膜を剥離してポリアミック酸膜を得た。このポリアミック酸膜を室温で乾燥させた後、8cm角のピンテンタ−に張りつけ340℃で熱処理を行い、ポリイミド多孔質膜Aを得た。
得られたポリイミド多孔質膜Aは、膜厚みが38μmで、空孔率が48%、ガーレー値が85秒/100ccであった。走査型電子顕微鏡写真による観察を行ったところ、保護層積層側表面がポリイミドがネットワ−ク状に連なった構造を有しており、表面開口率が64%、平均孔径は0.37μm、最大孔径は3.5μmであった。また、基板の表面は孔が点在した形状を呈しており、表面開口率は28%、平均孔径は0.42μm、最大孔径は4.7μmであった。
【0053】
(多孔質体のダイレクト型常圧プラズマ・両面処理)
ポリイミド多孔質膜Aは、以下の条件でダイレクト型常圧プラズマ処理を行った。
1)保護層積層面側:トータル処理時間240秒
2)基板側:トータル処理時間240秒
ダイレクト型常圧プラズマ処理した多孔質膜は、膜厚みが37μmで、空孔率が49%、ガーレー値が6秒/100ccであった。走査型電子顕微鏡写真による観察を行ったところ、保護層表面及び支持体側の表面層が共にプラズマ処理により除去された様子が確認された。表面開口率が69%、平均孔径は0.43μm、最大孔径は3.9μmであった。また、基板面は処理前が孔が点在した形状であったのに対して、保護僧籍層面プラズマ処理後と同様の形状に大きく変化しており、表面開口率は67%、平均孔径は0.48μm、最大孔径は5.3μmであった。
ダイレクト型常圧プラズマ処理により多孔質膜は、膜厚みは両面で約1μm除去され(片面は約0.5μm除去)、空孔率が少し大きくなり、ガーレー値が10倍以上小さくなり通気性が大きく向上し、保護層表面及び支持体側の表面が共に開口率、平均孔径及び最大孔径が大きくなり特に支持体側の開口率が大きくなっている。
【0054】
〔実施例2〕
〔溶媒置換誘起相分離法によるポリイミド多孔質膜Bの製造〕
テトラカルボン酸成分としてs−BPDAを、ジアミン成分としてODAを、重合溶媒としてNMPを用い、モノマ−成分の合計重量が8重量%のポリアミック酸溶液を作製した。得られたポリアミック酸溶液の粘度は1600ポイズであった。
このポリアミック酸溶液を、鏡面研磨を施したステンレス製の20cm角の基板上に厚みが約700μmで均一に引き伸ばし塗布した。基板上に塗布したポリアミック酸溶液の表面に保護溶媒層としてNMPをドクターブレードで厚みが約80μmで均一に塗布し1分間静置した後に、メタノール浴中に基板全体を投入した。その間、ポリマ−溶液と保護溶媒層とが完全には混じり合あわずに厚み方向で濃度勾配を保ちかつポリマ−が溶解している状態を保っていた。投入後、7分間静置した後に基板を取りだし、水中に5分間漬けた後、基板上に析出したポリアミック酸膜を剥離してポリアミック酸膜を得た。このポリアミック酸膜を室温で乾燥させた後、8cm角のピンテンタ−に張りつけ340℃で熱処理を行い、ポリイミド多孔質膜Bを得た。
得られたポリイミド多孔質膜Bは、膜厚みが134μmで、空孔率が41%、ガーレー値が231秒/100ccであった。走査型電子顕微鏡写真(SEM)による観察を行ったところ、保護層積層面側においては多孔質構造ではあるが内部に繋がっていないように見えるものが多く観察された。走査型電子顕微鏡写真によるで判断できる範囲で膜内部に繋がらない凹凸を除外して計測した結果、表面開口率が18%、平均孔径は1.47μm、最大孔径は6.3μmであった。また、基板面は孔が点在した形状を呈しており、表面開口率は10%、平均孔径は0.46μm、最大孔径は3.4μmであった。
【0055】
(多孔質体のダイレクト型常圧プラズマ・両面処理)
ポリイミド多孔質膜Bは、以下の条件でダイレクト型常圧プラズマ処理を行った。
1)保護層積層面側:トータル処理時間240秒
2)基板側:トータル処理時間240秒
ダイレクト型常圧プラズマ処理されたポリイミド多孔質膜は、膜厚みが130μmで、空孔率が43%、ガーレー値が49秒/100ccであった。SEM観察を行ったところ、保護層積層面側においては処理前と比べて内部に繋がっていると思われる孔が増加した様子が見て取れた。SEM観察で判断できる範囲で膜内部に繋がらない凹凸を除外して計測した結果、表面開口率が38%、平均孔径は2.35μm、最大孔径は6.5μmであった。また、基板面は表面層が完全に除去され、高開口率の多孔質構造に変化していた。表面開口率は76%、平均孔径は2.1μm、最大孔径は7.1μmであった。
ダイレクト型常圧プラズマ処理により多孔質膜は、膜厚みは両面で約4μm除去され(片面は約2μm除去)、空孔率が少し大きくなり、ガーレー値が5倍以上小さくなり通気性が大きく向上し、保護層表面及び支持体側の表面が共に開口率、平均孔径及び最大孔径が大きくなり特に支持体側の開口率、平均孔径及び最大孔径が大きくなっている。
【0056】
〔実施例3〕
〔溶媒置換誘起相分離法によるポリイミド多孔質膜Cの製造〕
NMPを溶媒に用いて酸無水物としてs−BPDAを、ジアミンとしてTPE−Qをモル比が概略1、ポリマー濃度が6質量%になる量を測り取って投入した。その後、撹拌羽、窒素導入管、排気管を取り付けたセパラブルカバーで蓋をし、撹拌を開始した。23時間後、安息香酸(以下、BAと略す)をポリアミック酸100質量部に対して30質量部の量を、s−BPAをポリアミック酸100質量部に対して1質量部の量をそれぞれフラスコ内に添加し、攪拌操作を継続した。さらに25時間後、ポリ酢酸ビニル50質量%含有酢酸エチル溶液をポリアミック酸100質量部に対して10質量部の量(ポリアミック酸100質量部に対して、ポリ酢酸ビニル(以下、PVACと略す)5質量部に相当)をフラスコ内に添加して攪拌操作を継続した。38時間後に攪拌を終了し、フラスコ内のドープを加圧ろ過器(濾紙:アドバンテック東洋(株)製:粘調液用濾紙NO.60)でろ過して、ポリアミック酸溶液組成物Cを得た。溶液は粘調な懸濁液体で、粘度は540ポイズ(25℃)であった。
室温下卓上の自動コーターを用いて、表面に鏡面研磨を施したステンレス製の20cm角の基板上に、ポリアミック酸溶液組成物Cを厚さ約120μmで、均一に流延塗布した。その後、90秒間、温度23℃、湿度40%の大気中に放置し、その後、凝固浴(水80質量部/NMP20質量部、室温)中に基板全体を投入した。投入後、8分間静置し、基板上にポリアミック酸膜を析出させた。その後、基板を浴中から取りだし、基板上に析出したポリアミック酸膜を剥離した後に、純水中に3分間浸漬し、ポリアミック酸膜を得た。このポリアミック酸膜を温度23℃、湿度40%の大気中で乾燥させた後、10cm角のピンテンタ−に張りつけて電気炉内にセットした。約10℃/分の昇温速度で340℃まで加熱し、そのまま10分間保持する温度プロファイルで熱処理を行い、ポリイミド多孔質膜Cを得た。
得られたポリイミド多孔質膜Cは、膜厚みが26μm、空孔率が76%、ガーレー値が34秒/100ccであった。ポリイミド多孔質膜のガラス転移温度は、約270℃であった。
ポリイミド多孔質膜の断面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、膜横方向の長さ10μm以上のマクロボイドが多数確認でき、横方向の長さ5μm以上のボイド中、膜横方向の長さ10μm以上のマクロボイドを多数有し、その断面積が総断面積の70%以上であることを確認した。また、ポリイミド多孔質膜の表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、凝固溶媒と直接接触した面は、非常に細かい孔が多数存在している多孔質構造であることを確認した。表面の平均孔径は、0.05μm以下で最大孔径は0.3μm、表面開口率は3%であった。基板側の表面にはやや大きめな孔が多数存在することが分かった。表面の平均孔径は0.11μmであり、最大孔径が4.2μm、表面開口率は32%であった。
【0057】
(多孔質体のダイレクト型常圧プラズマ・片面処理)
ポリイミド多孔質膜Cは、以下の条件でダイレクト型常圧プラズマ処理を行った。
1)凝固溶媒と直接接触した面 :トータル処理時間60秒
ダイレクト型常圧プラズマ処理したポリイミド多孔質膜は、膜厚みが23μm、空孔率が79%、ガーレー値が1秒/100cc以下であった。ポリイミド多孔質膜のガラス転移温度は、約270℃で変化はなかった。
ポリイミド多孔質膜の断面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、マクロボイドが多数存在する構造に変化は無かった。また、ポリイミド多孔質膜の表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、凝固溶媒と直接接触した面は、全面に孔が多数存在する多孔質構造であることを確認した。表面の平均孔径は、0.12μmで最大孔径は1.1μm、表面開口率は44%であった。基板側は直接プラズマ処理を施した面ではないが、処理前と比べて開口度と孔径が大きくなっていることが見て取れた。表面の平均孔径は0.25μmであり、最大孔径が4.4μm、表面開口率は41%であった。
ダイレクト型常圧プラズマ処理により多孔質膜は、膜厚みは約3μm除去され、空孔率が大きくなり、ガーレー値が34倍以上小さくなり通気性が著しく向上し、保護層表面及び支持体側の表面が共に開口率、平均孔径及び最大孔径が大きくなり特に支持体側の開口率、平均孔径及び最大孔径が大きくなっている。
【0058】
〔実施例4〜7〕
実施例3のポリイミド多孔質膜Cに、表1に示す処理時間で行った以外は、実施例3と同様のダイレクト型常圧プラズマ処理を行い、ガーレー値の測定を行った。結果は表1に示す。
【0059】
【表1】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた透過性を有するポリイミド多孔質体の製造方法、及びこれら方法から得られるポリイミド多孔質体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド多孔質体は、種々の方法での製造が検討されている。
特許文献1には、無水テトラカルボン酸とジアミン化合物から得られるポリイミド湿潤ゲルを用いて多孔体を製造する方法であって、
(1)a)無水テトラカルボン酸、ジアミン化合物A、ジアミン化合物B及び溶媒を含む混合液からポリアミド酸を含むワニスを調製する第1工程、b)前記ポリアミド酸をイミド化することにより前記ワニスからポリイミド湿潤ゲルを調製する第2工程及びc)前記ポリイミド湿潤ゲルから前記溶媒を除去することにより多孔体を得る第3工程を含み、(2)前記溶媒は、a)前記ジアミン化合物A及びBに対して可溶性であり、b)前記無水テトラカルボン酸とジアミン化合物Aとの共重合体に対して可溶性であり、かつ、c)前記無水テトラカルボン酸とジアミン化合物Bとの共重合体に対して不溶性である、ことを特徴とするポリイミド多孔体の製造方法が開示されている。
特許文献2には、ポリアミック酸ワニスのキャストフィルムに多孔質フィルムを積層した後、貧溶媒に浸漬する、溶媒置換誘起法によるポリイミド多孔膜の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−182853号公報
【特許文献2】特開平11−310658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本目的は、ポリイミド溶液若しくはポリミック酸溶液を用いて溶媒置換誘起法若しくは熱誘起法により得られる多孔質ポリイミドから、簡便な方法で通気性を向上させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第一は、ポリイミド溶液若しくはポリミック酸溶液を用いて溶媒置換誘起相分離法若しくは熱誘起相分離法により得られるポリイミド多孔質体をドライエッチング処理することを特徴とするポリイミド多孔質体の通気速度向上方法に関する。
本発明の第二は、本発明の第一のポリイミド多孔質体の通気速度向上方法より、通気性能の向上したポリイミド多孔体に関する。
【0006】
本発明の第一のポリイミド多孔質体の通気速度向上方法の好ましい態様を以下に示し、これら態様は任意に複数組合せることが出来る。
1)ドライエッチングは、スパッタ、プラズマ及びコロナ放電処理から選ばれるエッチング、又はドライブラストであること、好ましくはプラズマであること、さらに好ましくは常圧プラズマであること、特に好ましくはダイレクト型常圧プラズマであること。
2)ポリイミド多孔質体は、連通孔を有すること。スパッタ、プラズマ及びコロナ放電処理から選ばれるエッチングでは、孔を通して多孔質体内部までエッチングすることができ、その結果エッチングにより多孔質内部の孔径を拡大することができ、さらに通気性が向上する。
3)ポリイミド多孔質体の通気速度向上方法は、ポリイミド多孔質体の相分離過程で気体若しくは凝固溶媒と接触して得られる表面(流延する支持体や成形型と接しない表面)の表層部の一部若しくは全部をドライエッチング処理で除去すること。ポリイミド多孔質体の相分離過程で気体若しくは凝固液体と接触して得られる表面は、通気性を抑制する部分であり、表層の薄い部分を除去することにより通気性が向上する。除去する厚みは、用いる多孔質体により異なる。
4)ポリイミド多孔質体は、少なくとも2面を有し、孔は一方の面から他方の面に非直線的に連通している多孔質体であること。膜状に流延して得られる膜形態の多孔質体では、少なくとも2面は、気体や凝固溶媒と接する表面と、支持体に接する裏面である。
5)多孔質ポリイミドは、下記のa1)〜a5)のいずれかのポリイミド溶液若しくはポリミック酸溶液を用いて溶媒置換誘起相分離法若しくは熱誘起相分離法により得られるポリイミド多孔質体であること。
a1)溶媒置換速度調整層を用いて、ポリミック酸溶液と凝固溶媒とが直接接触を避けて行う溶媒置換誘起法によりポリアミック酸を析出させ、その後イミド化して得られるポリイミド多孔質体であること。
a2)溶媒置換速度調整層を用いて、ポリイミド溶液と凝固溶媒とが直接接触を避けて行う溶媒置換誘起法によりポリイミドを析出させて得られるポリイミド多孔質体であること。
a3)ポリアミック酸と、極性基を有する有機化合物と、有機極性溶媒とを含むポリアミック酸溶液組成物をフィルム状に流延し、必要に応じて水分含有の気体と接触させ、水を必須成分とする凝固溶媒に浸漬若しくは接触させて得られるポリアミック酸の多孔質膜を、その後イミド化して得られるポリイミド多孔質体であること。
a4)ポリアミック酸溶液から熱誘起法によりポリアミック酸を析出させ、その後イミド化して得られるポリイミド多孔質体であること。
a5)ポリイミド溶液から熱誘起法によりポリイミドを析出させて得られるポリイミド多孔質体であること。
6)ポリイミド多孔体は、ポリイミド溶液若しくはポリミック酸溶液を流延して溶媒置換誘起法若しくは熱誘起法により得られる多孔質ポリイミドであること。
7)多孔質ポリイミドは、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物から選ばれる成分を含むテトラカルボン酸二無水物と、
べンゼンジアミン成分、ジアミノジフェニルエーテル成分及びビス(アミノフェノキシ)フェニル成分から選ばれる成分を含むジアミンとから得られるポリイミドの多孔質ポリイミドであること。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法により、通気性が向上したポリイミド多孔体を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1で製造したポリイミド多孔質体A(未処理)の表面(大気側)の走査型電子顕微鏡写真(5000倍)である。
【図2】実施例1で製造したポリイミド多孔質体A(未処理)の表面(支持体側)の走査型電子顕微鏡写真(5000倍)である。
【図3】実施例1で製造したポリイミド多孔質体A(未処理)の断面の走査型電子顕微鏡写真(2000倍)である。
【図4】実施例1のプラズマ処理後のポリイミド多孔質体の表面(大気側)の走査型電子顕微鏡写真(5000倍)である。
【図5】実施例1のプラズマ処理後のポリイミド多孔質体の表面(支持体側)の走査型電子顕微鏡写真(5000倍)である。
【図6】実施例1のプラズマ処理後のポリイミド多孔質体の断面の走査型電子顕微鏡写真(2200倍)である。
【図7】実施例2で製造したポリイミド多孔質体A(未処理)の表面(大気側)の走査型電子顕微鏡写真(2000倍)である。
【図8】実施例2で製造したポリイミド多孔質体A(未処理)の表面(支持体側)の走査型電子顕微鏡写真(5000倍)である。
【図9】実施例2で製造したポリイミド多孔質体A(未処理)の断面の走査型電子顕微鏡写真(500倍)である。
【図10】実施例2のプラズマ処理後のポリイミド多孔質体の表面(大気側)の走査型電子顕微鏡写真(2000倍)である。
【図11】実施例2のプラズマ処理後のポリイミド多孔質体の表面(支持体側)の走査型電子顕微鏡写真(5000倍)である。
【図12】実施例2のプラズマ処理後のポリイミド多孔質体の断面の走査型電子顕微鏡写真(500倍)である。
【図13】実施例3で製造したポリイミド多孔質体A(未処理)の表面(大気側)の走査型電子顕微鏡写真(10000倍)である。
【図14】実施例3で製造したポリイミド多孔質体A(未処理)の表面(支持体側)の走査型電子顕微鏡写真(10000倍)である。
【図15】実施例3で製造したポリイミド多孔質体A(未処理)の断面の走査型電子顕微鏡写真(2000倍)である。
【図16】実施例3のプラズマ処理後のポリイミド多孔質体の表面(大気側)の走査型電子顕微鏡写真(10000倍)である。
【図17】実施例3のプラズマ処理後のポリイミド多孔質体の表面(支持体側)の走査型電子顕微鏡写真(10000倍)である。
【図18】実施例3のプラズマ処理後のポリイミド多孔質体の断面の走査型電子顕微鏡写真(2000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、ポリイミド溶液若しくはポリミック酸溶液を用いて溶媒置換誘起相分離法若しくは熱誘起相分離法により得られるポリイミド多孔質体をドライエッチング処理すること、好ましくポリミック酸溶液を用いて溶媒置換誘起相分離法により得られるポリイミド多孔質体をドライエッチング処理することを特徴とするポリイミド多孔質体の通気速度向上方法である。
ポリイミド溶液若しくはポリミック酸溶液を用いて溶媒置換誘起相分離法若しくは熱誘起相分離法により得られるポリイミド多孔質体は、断面構造は壁状ではなく網状であり、表面には多数の孔を有し、表面の孔は他面に網目若しくは屈曲した(直線的でない)状態で連続孔として存在し、独立孔が全く若しくはほとんど存在しない、好ましくは表面(膜状であれば片面又は両面)に緻密層が無く、断面構造は壁状ではなく網状であり、表面には多数の孔を有し、表面の孔は他面に網目若しくは屈曲した(直線的でない)状態で連続孔として存在し、独立孔が全く若しくはほとんど存在しない。しかしポリイミド多孔質体の表面、特に相分離過程で気体や凝固溶媒と接触して得られる表面の表層部分が、通気性を低下させることを見いだした。
また、この明細書において、実質的に独立孔を有さずとは、ポリイミド多孔質体(膜)の任意の断面の断面電子顕微鏡写真において、独立孔が全孔(連続孔と独立孔との合計)の30%以下の割合であることを意味する。この明細書において、ガーレー数とは透気抵抗度を示し、秒/100ccで表示される。
【0010】
本発明では、ポリイミド多孔質体の形状は、膜状、板状、球状などどのような形状でも適用することができる。特に表面積の大きな膜状や板状のポリイミド多孔質体に適用できる。
【0011】
ポリイミド多孔質体の表層部等の除去方法としてドライエッチング処理を選択する理由としては、多孔質体を形成するポリマーの凝縮や膨張等により多孔構造を破壊することなく主に表面部分を除去することができるためである。
ドライエッチングは、スパッタ、プラズマ及びコロナ放電処理から選ばれるエッチング、又はドライブラストを用いることができる。
ドライエッチングは、プラズマ処理が好ましく、さらに常圧プラズマ処理が好ましく、特にダイレクト型常圧プラズマが、エッチング効果が高いために好ましい。
【0012】
プラズマ処理は大別して真空プラズマと常圧プラズマ処理があるが、商業生産を考慮すると常圧プラズマ処理が好ましい。また、常圧プラズマとしては、リモート式とダイレクト式の2方式があるが、ダイレクト方式がより高いエッチング効果が得られ、処理時間が短くなり事から、ダイレクト方式がより好ましい。使用するガス種は特に制限がないが、対象がポリイミドの場合は、窒素と酸素の混合ガスでも十分なエッチング効果が得られることから、設備のユーティリティの費用や処理を行う際の比例費も考え合わせると、窒素と酸素の混合ガスで処理を行うことが好ましい。
【0013】
スパッタリング方法には特に制限は無く、装置は真空チャンバー内に高電圧を負荷する電極が配置され、処理用ガスを導入できるラインがあれば、特に制限は無い。
【0014】
コロナ放電処理方法には特に制限は無く、処理電極と試料間の距離、電極形状、負荷する電圧、交流電源の周波数などを適切に選択することで所望の処理条件を決めることが出来る。
【0015】
ドライブラストとしては、多孔質体の表面や内部構造を破壊することなく、主に多孔質体表面の表層部分を除去できるような、粒径と硬度を有する砥粒を用いて行えばよい。
【0016】
本発明では、ポリイミド多孔質体の表面をドライエッチングにより除去することより透過性を向上させることができ、除去する厚みは用いる多孔質膜などの多孔質体により、適宜選択すればよい。
ポリイミド多孔質体の表面をドライエッチングにより除去する表面の厚みとしては、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.1μm以上、特に0.3μm以上であれば良く、上限値の設定は必要ないが、製造効率の面から、好ましくは6μm以下、より好ましくは5μm以下、さら好ましくは4μm以下、特に好ましくは3μm以下を挙げることができる。
本発明では、ポリイミド多孔質体の表面をドライエッチングにより除去することより、少なくとも2倍以上、さらに3倍以上、特に4倍以上透過性を向上させることができ、上限値の設定は必要ないが、好ましくは1000倍以下、さらに500倍以下、さらに100倍以下、特に50倍以下を挙げることができる。
【0017】
ポリイミド多孔質体は、下記のa1)〜a5)のいずれかの方法で得られる多孔質ポリイミドを用いることができる。
a1)溶媒置換速度調整層を用いて、ポリミック酸溶液と凝固溶媒とが直接接触を避けて行う溶媒置換誘起法によりポリアミック酸を析出させ、その後イミド化して得られるポリイミド多孔質体であること。
a2)溶媒置換速度調整層を用いて、ポリイミド溶液と凝固溶媒とが直接接触を避けて行う溶媒置換誘起法によりポリイミドを析出させて得られるポリイミド多孔質体であること。
a3)ポリアミック酸と、極性基を有する有機化合物と、有機極性溶媒とを含むポリアミック酸溶液組成物をフィルム状に流延し、必要に応じて水分含有の気体と接触させ、水を必須成分とする凝固溶媒に浸漬若しくは接触させて得られるポリアミック酸の多孔質膜を、その後イミド化して得られるポリイミド多孔質体であること。
a4)ポリアミック酸溶液から熱誘起法によりポリアミック酸を析出させ、その後イミド化して得られるポリイミド多孔質体であること。
a5)ポリイミド溶液から熱誘起法によりポリイミドを析出させて得られるポリイミド多孔質体であること。
本発明では、a1)〜a3)は溶媒置換誘起相分離法であり、a4)及びa5)は熱誘起相分離法である。特にa1)〜a3)、さらにa3)から得られるポリイミド多孔質体で効果が優れる。
【0018】
本発明において、ポリアミック酸とは、テトラカルボン酸成分とジアミン成分を重合して得られるポリアミック酸或いはその部分的にイミド化したポリイミド前駆体であり、熱イミド化若しくは化学イミド化を行うことにより、閉環してポリイミドとすることができるものである。ポリイミドとは、イミド化率が約80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上であることが好ましい。
【0019】
ポリアミック酸又はポリイミドを重合するための溶媒としては公知の有機極性溶媒を用いることができ、p−クロロフェノール、o−クロルフェノール、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ピリジン、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、フェノール、クレゾールなどの有機極性溶媒などを用いることができ、特にN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)を好ましく用いることができる。
【0020】
ポリアミック酸又はポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを、上記の有機極性溶媒などを用いて公知の方法で製造することができ、例えば、略等モル若しくはテトラカルボン酸二無水物をジアミンに対して少し少ないか又は少し多い割合で、約100℃以下、さらに80℃以下、さらに0〜60℃の温度で、特に20〜60℃の温度で、約0.2時間以上、好ましくは0.3〜60時間反応させてポリアミック酸(ポリイミド前駆体)溶液を製造することができる。
ポリアミック酸溶液を製造する時に、分子量を調整する目的で、公知の分子量調整成分を反応溶液に加えてもよい。
本発明では、ポリアミック酸の対数粘度(30℃、濃度;0.5g/100mL、NMP)は、ポリイミド多孔質体を形成でき、製造できる粘度であればよく、ポリアミック酸の対数粘度(30℃、濃度;0.5g/100mL、NMP)が0.3以上、特に0.5〜7であるポリアミック酸のものを用いることが好ましい。
ポリアミック酸は、アミック酸の一部がイミド化していても本発明に影響を及ぼさない範囲で用いることができる。
【0021】
ポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物とジアミンを、上記の有機極性溶媒などを用いて公知の方法で製造することができ、例えば、略等モル若しくはテトラカルボン酸二無水物をジアミンに対して少し少ないか又は少し多い割合で、約140℃以上、好ましくは160℃以上の温度で、約0.2時間以上、好ましくは0.3〜60時間反応させてポリイミド溶液を製造することができる。別の方法としては予めポリアミック酸溶液を製造し、その後イミド化剤や脱水剤などを添加して、アミック酸をイミド化して、必要なら再沈殿などを行い、イミド溶液を製造することができる。
本発明では、ポリイミドの対数粘度(30℃、濃度;0.5g/100mL、可溶溶媒)は、本発明のポリイミド多孔質体が製造できる粘度であればよく、ポリアミック酸の対数粘度(30℃、濃度;0.5g/100mL、可溶溶媒)が0.3以上、特に0.5〜7であるポリイミドのものを用いることが好ましい。
ポリイミドは、イミドの一部がアミック酸の中間体でも本発明に影響を及ぼさない範囲で用いることができる。
【0022】
ポリイミド多孔質体は、公知のテトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とから得られるポリイミドからなるポリイミド多孔質体であればよく、特にビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物から選ばれる成分を含むテトラカルボン酸二無水物と、べンゼンジアミン成分、ジアミノジフェニルエーテル成分及びビス(アミノフェノキシ)フェニル成分から選ばれる成分を含むジアミンとから得られるポリイミドからなるポリイミド多孔質体が耐熱性、生産性の面で好ましい。
【0023】
テトラカルボン酸二無水物の具体例として、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)などのビフェニルテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ジフェニルスルホン−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、p−ビフェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、m−ターフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、p−ターフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ビフェニル二無水物、2,2−ビス〔(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物等を挙げることができる。また、2,3,3’,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸等の芳香族テトラカルボン酸を用いることも好ましい。これらは単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。用いるテトラカルボン酸二無水物は、所望の特性などに応じて適宜選択することができる。
テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)などのビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含むことが好ましく、特に、ピロメリット酸二無水物及び3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)から選ばれる成分を含むことが好ましい。
テトラカルボン酸二無水物100モル%中、ピロメリット酸二無水物及びビフェニルテトラカルボン酸二無水物から選ばれる成分を50〜100モル%、さらに70〜100モル%、特に80〜100モル%含むことが好ましい。
【0024】
ジアミンの具体例として、
1)1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエンなどのベンゼン核1つのべンゼンジアミン、
2)4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどのジアミノジフェニルエーテル成分、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4’−ジアミノベンズアニリド、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、2,2’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、2,2’−ジメトキシベンジジン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジクロロベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシドなどのベンゼン核2つのジアミン、
3)1,3−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)−4−トリフルオロメチルベンゼン、3,3’−ジアミノ−4−(4−フェニル)フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジ(4−フェニルフェノキシ)ベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3−ビス〔2−(4−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4−ビス〔2−(3−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4−ビス〔2−(4−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼンなどのベンゼン核3つのジアミン、
4)3,3’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンなどのベンゼン核4つのジアミン、
などを挙げることができる。これらは単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。用いるジアミンは、所望の特性などに応じて適宜選択することができる。
ジアミン成分は、べンゼンジアミン成分、ジアミノジフェニルエーテル成分及びビス(アミノフェノキシ)フェニル成分から選ばれる成分を含むジアミンが好ましく、ジアミン100モル%中、これらのジアミン成分を50〜100モル%、さらに70〜100モル%、特に80〜100モル%含むことが好ましい。
【0025】
ポリイミド多孔質体は、ガラス転移温度が240℃以上、好ましくは250℃以上、特に260℃以上のテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを組み合わて得られるポリイミドから形成されていることが、耐熱性、高温下での寸法安定性に優れるために好ましい。
耐熱性を有するポリイミド多孔質体は、マイクロフォン、スピーカーなどの音響部材の保護カバーとして利用することができ、ポリイミド多孔膜を取り付けたマイクロフォン、スピーカーなどの音響部材は、リフローを用いて直接基板と接続させることができる。
【0026】
熱誘起相分離法とは、ポリイミドと該ポリイミドの可溶溶媒と該ポリイミドの不溶溶媒とを含むポリイミド溶液からポリイミド多孔質体を製造する方法であり、ポリイミド溶液を加熱して均一で透明な溶液とした後、ポリイミド溶液を冷却して均一に懸濁させ、
懸濁したポリイミド溶液から可溶溶媒と不溶溶媒とを除去する方法であり、懸濁したポリイミド溶液から可溶溶媒と不溶溶媒とを除去することが、懸濁したポリイミド溶液を、該ポリイミドの別の不溶溶媒と接触させて除去してもよい。
上記熱誘起法において、ポリイミドの代わりにポリアミック酸を用いることができ、最終的に加熱してイミド化することにより多孔質体を得ることができる。
【0027】
熱誘起相分離法によるポリイミド多孔質体の製造方法の一例は、
b1)溶媒可溶なポリイミドを合成する、
b2)ポリイミドの不溶溶媒を見つける、
b3)ポリイミドを可溶溶媒に溶解し、ポリイミド溶液を作る、
b4)ポリイミド溶液に不溶溶媒を配合後、加温して均一で透明な溶液になり、その後冷却してポリイミド溶液中にポリイミドが塊や粉体状に析出することなく、均一に懸濁溶液になる不溶溶媒を調べる、必要なら濁点量を測定する[ポリイミドが塊や粉体状に沈殿しないように、溶液の加熱温度、溶液の冷却速度、不溶溶媒の配合量、ポリマーの重合度や濃度を変更する]
b5)上記b4)の結果、ポリイミドと可溶溶媒と不溶溶媒とを含むポリイミド溶液を加温して、均一で透明なポリイミド溶液を得る、必要なら透明溶液の状態で、支持体に流延したり成形型などを用いて形状を整える、
b6)上記b5)の透明なポリイミド溶液を冷却して、ポリイミド溶液中にポリイミドが塊や粉体状に析出することなく、均一に懸濁溶液にする、必要なら懸濁溶液のまま放置する、必要なら湿度の低い環境下で冷却する、
b7)上記b6)の懸濁溶液から可溶溶媒と不溶溶媒とを除去する、必要に応じてさらに乾燥や加熱を行う、
ことによりポリイミド多孔質体を製造することができる。
【0028】
b4)又はb5)で加温の下限と上限は、用いる溶媒、ポリマーの種類や濃度等により適宜選択して行えば良いが、上限値は沸点未満が好ましく、沸点より10℃以下がより好ましく、沸点より15℃以下がさらに好ましい。加温温度の下限値は80℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、110℃以上がさらに好ましく、120℃以上が特に好ましい。
b4)又はb5)において、溶液の加熱温度、溶液の冷却速度、不溶溶媒(B)の配合量、ポリマーの重合度や濃度を変更することにより、得られる多孔体の孔径・厚み・空孔率等をかえることができる。
【0029】
b6)では、透明ポリイミド溶液を冷却する場合、冷却速度を変えることにより、得られる多孔体の孔径・厚み・空孔率等をかえることができる。冷却速度を上げることにより、孔径の小さな多孔体が得られやすい。
b6)では、透明ポリイミド溶液(B)を冷却する場合、湿度の低い環境下で冷却することにより、ポリマー溶液が懸濁する過程で水の影響を受けにくくなり、表面に緻密な構造や多孔の孔径の大きな構造を有することのない多孔質体が得られるために好ましい。湿度の低い環境とは、好ましくは温度26℃、相対湿度約25%以下の水分量を含む環境である。
【0030】
b7)において、懸濁溶液から可溶溶媒と不溶溶媒とを除去する方法としては、ポリイミドを溶解することなく形状を保持した状態で可溶溶媒と不溶溶媒とを除去すればよく、例えば、(i)懸濁溶液を新たな不溶溶媒に接触させて、懸濁溶液から可溶溶媒と不溶溶媒とを抽出除去する方法[但し新たな不溶溶媒は、可溶溶媒及び不溶溶媒と均一に相溶する溶媒であること]、
(ii)懸濁溶液を凍結乾燥法や超臨界二酸化炭素により溶媒を除去する方法、
さらに(i)と(ii)とを組み合わせた方法、などを挙げることができる。
【0031】
熱誘起相分離法では、ポリイミドは、可溶性ポリイミドであればよく、可溶溶媒に20〜60質量%、より好ましくは30〜56質量%、さらに好ましくは36〜50質量%溶解するポリイミドが好ましい。
ポリイミドは、ポリイミド溶液を冷却することにより、ポリイミドが塊や粉体で析出することなく溶液が均一に懸濁することが必要であるため、ポリイミドの結晶度が低いかゼロが好ましい。
【0032】
・a4又はa5のポリイミド多孔質体の特徴
膜厚は5〜100μm、好ましくは10〜50μm、より好ましくは20〜50μm、さらに好ましくは25〜50μmであること。
ガーレー値は100秒以下、好ましくは80秒以下、より好ましくは60秒以下、さらに好ましくは50秒以下であり、下限値は必要ないが、好ましくは測定限界以下であること。
空孔率が70〜95%、好ましくは71〜92%、より好ましくは71〜85%の範囲であること。
【0033】
溶媒置換誘起法としては、
a1)又はa2)は、ポリイミド溶液若しくはポリアミック酸溶液を流延し、流延物の片面若しくは両面に多孔質フィルムや溶媒などの溶媒置換速度調整層を設け、ポリイミド溶液若しくはポリアミック酸溶液と凝固溶媒とが直接接触を避けて、ポリマーを析出させる方法であり、ポリアミック酸の場合得られる析出物をさらに加熱してイミド化することにより、多孔質ポリイミドが得られる。
溶媒置換誘起法は、特開平11−310658号公報、特開2000−306568号公報、特開2003−138057号公報、特開2007−92078号公報、特開2007−169661号などに記載の溶媒置換誘起法を利用することができる。
別の溶媒置換誘起法である
a3)はポリアミック酸と、凝固を促進させる極性基を有する有機化合物と、さらに必要に応じて重合体(A)と、有機極性溶媒とを含むポリアミック酸溶液組成物をフィルム状に流延し、必要に応じて水蒸気含有の気体と接触させ、水を必須成分とする凝固溶媒に浸漬若しくは接触させて得られるポリアミック酸の多孔質膜を、その後イミド化して得られるポリイミド多孔質体が得られる。
【0034】
・a1又はa2のポリイミド多孔質体の特徴
膜厚は5〜150μm、好ましくは10〜100μm、より好ましくは20〜50μm、さらに好ましくは25〜50μmであること。
ガーレー値は300秒以下、好ましくは150秒以下、より好ましくは100秒以下、さらに好ましくは85秒以下であり、下限値は必要ないが、好ましくは測定限界以下であること。
空孔率が40〜95%、好ましくは40〜92%、より好ましくは50〜85%の範囲であること。
【0035】
a3)の溶媒置換誘起法より得られるポリイミド多孔質体は、下記特徴(B1)〜(B4)を有する。
・a3のポリイミド多孔質体の特徴
(B1)膜厚は5〜100μm、好ましくは10〜50μm、より好ましくは20〜50μm、さらに好ましくは25〜50μmであること。
(B2)ガーレー値は150秒以下、好ましくは100秒以下、より好ましくは80秒以下、さらに好ましくは50秒以下であり、下限値は必要ないが、好ましくは測定限界以下であること。
(B3)空孔率が70〜95%、好ましくは71〜92%、より好ましくは71〜90%の範囲であること。
(B4)膜を膜平面方向に対して垂直に切断した断面構造は、膜の片側の表面層(a)と、その反対側の表面層(b)と、両表面層を支持する複数の支持部とを有し、両表面層は支持部により主としてラダー形状に接続され、表面層(a及び/又はb)と支持部に囲まれた膜横方向の長さ10μm以上、好ましくは10〜150μm、より好ましくは10〜100μm、さらに好ましくは10〜80μmのマクロボイドを多数有し、
表面層(a)及び表面層(b)は、表面に多数の孔を有し、該孔の一部若しくは全部が表面からマクロボイド表面に連通しており、
支持部は、表面に多数の孔を有し、該孔の一部若しくは全部が一方の表面から他方の表面に連通していること。
さらに下記特徴を少なくとも1つ以上有することが好ましい。
(B5)250℃、15分、0.5MPaの圧縮応力負荷後の膜厚み変化率が5%以下、好ましくは3%以下、さらに好ましくは0〜1%であること。
(B6)膜を膜平面方向に対して垂直に切断した断面において、膜横方向の長さ10μm以上のマクロボイドの断面積が膜断面積の50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上であり、特に上限値を設ける必要はないが好ましくは98%以下、より好ましくは95%以下、さらに好ましくは90%以下、特に好ましくは85%以下であること。
(B7)膜を膜平面方向に垂直に切断した断面において、膜横方向の長さ5μm以上、好ましくは7μm以上、さらに好ましくは10μm以上のボイドの中で、膜横方向の長さ(L)と膜厚み方向の長さ(d)との比がL/d=0.5〜3、好ましくはL/d=0.8〜3、より好ましくはL/d=1〜3、さらに好ましくはL/d=1.2〜3の範囲に入るボイドの数が60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75〜100%であること。
(B8)ガラス転移温度:240℃以上、又は300℃以上で明確な転移点がないこと。
(B9)200℃、2時間での寸法安定性が、膜平面方向において±1%以内、好ましくは±0.8%以内、さらに好ましくは±0.5%以内であること。
(B10)表面の平均孔径が好ましくは0.01〜5μm、さらに好ましくは0.01〜3μm、特に好ましくは0.02〜2μmであること。
(B11)最大孔径が好ましくは10μm以下、より好ましくは0.1〜5μm、さらに好ましくは0.1〜3μmであること。
【0036】
a3のポリイミド多孔質体において、表面層(X)、表面層(Y)及び両表面層を支持する複数の支持部の厚みは上記特性を有する厚みであればよく、表面層(X)の厚みと表面層(Y)の厚みは主として好ましくは0.5〜10μm、より好ましくは1.0〜9μm、さらに好ましくは2〜8μm、特に好ましくは2〜7μmであり、支持部の厚みは主として好ましくは1〜15μm、より好ましくは2〜12μm、さらに好ましくは3〜10μm、特に好ましくは4〜8μmであることが好ましい。
【0037】
a3)のポリイミド多孔質体の製造方法の一例を示す。
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリアミック酸と、極性基を有する有機化合物と、必要に応じて重合体(A)と、有機極性溶媒とを含むポリアミック酸溶液組成物をフィルム状に流延し、水を必須成分とする凝固溶媒に浸漬若しくは接触させて得られるポリアミック酸の多孔質膜を、熱処理してイミド化することにより製造方法することができる。
極性基を有する有機化合物としては、ポリアミック酸溶液組成物のフィルム状流延物への水の浸入を促進させる有機化合物である。
【0038】
a3)のポリイミド多孔質体の製造方法において、ポリアミック酸溶液組成物は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリアミック酸と、有機極性溶媒と、極性基を有する有機化合物とを含む、若しくはポリアミック酸溶液と、極性基を有する有機化合物とを含む。
ポリアミック酸溶液組成物は、さらに重合体(A)を含むことにより、さらに透過性が向上し、穴の多い多孔膜を得ることができる。
ポリアミック酸溶液組成物において、ポリアミック酸と有機極性溶媒とは、ポリアミック酸を有機極性溶媒に溶解して得られるポリアミック酸溶液を用いることができる。
【0039】
a3)のポリイミド多孔質体の製造方法において、極性基を有する有機化合物としては、ポリアミック酸溶液組成物のフィルム状流延物への水の浸入を促進させる効果があり、膜中に大きなボイドを形成できる極性基を有する有機化合物であればよく、例えば安息香酸、フタル酸などのカルボン酸基を有する有機化合物、水酸基を有する有機化合物、スルフォン酸基を有する有機化合物などを用いることができ、これらは2種以上併用して用いることができる。特に極性基を有する有機化合物としては、安息香酸、フタル酸などのカルボン酸基を有する有機化合物が好ましい。
例えば極性基を有する有機化合物は、流延したポリアミック酸溶液を凝固浴に浸漬する工程において、極性基を有する有機化合物を含有するポリアミック酸溶液組成物からのポリアミック酸の凝固が、通常のポリアミック酸の凝固過程と比較して促進される効果が認められる物であればよく、特に凝固浴と接触する面から内部へと膜厚み方向に速やかに凝固化を促進する効果を有する物であることが好ましい。
極性基を有する有機化合物は、上記の特性上、ポリアミック酸と反応しない若しくは反応しにくい化合物であることが好ましい。
ポリアミック酸溶液組成物において、極性基を有する有機化合物の含有量は適宜選択すればよいが、極性基を有する有機化合物の含有量はポリアミック酸100質量部に対して、好ましくは0.1〜200質量部、より好ましくは1〜150質量部、さらに好ましくは10〜100質量部、特に好ましくは20〜70質量部の割合で含むことが効果に優れるために好ましい。
【0040】
a3)のポリイミド多孔質体の製造方法において、ポリアミック酸溶液組成物は、さらに下記特徴(A1)〜(A4)の少なくとも1つの特徴を有する重合体(A)、好ましくは下記特徴(A1)〜(A4)を有する重合体(A)を含むことが、より透過性に優れた膜を得ることができるために好ましい。
特に重合体(A)を含むポリアミック酸溶液組成物を用いると、支持層は膜厚み方向や横方向に連通する多数の微細な孔からなる層で形成されるためである。
・重合体(A)の特徴
(A1)水、凝固溶媒及び/又は有機極性溶媒に不溶又は難溶であること。
(A2)熱イミド化工程で分解されること。
(A3)ポリアミック酸溶液組成物中に重合体(A)が均質で懸濁していること。
さらに重合体(A)は以下の特徴を有することが好ましい。
(A4)ポリアミック酸と相溶しないこと。
本発明では、ポリアミック酸溶液組成物が上記特徴を有する重合体(A)を含むことにより、含有する効果については明確でないが、
x1)得られるポリアミック酸中に重合体(A)が非相溶物として残存し、多孔膜構造を形成後に凝固浴中に一部または全部が溶出、さらには、加熱イミド化する工程で、重合体(A)の一部又は全部が分解され、一部又は全部が除去されることにより、透過性が向上する、
又は
x2)ポリアミック酸溶液組成物の凝固を促進するなど、凝固過程に影響を与えることにより透過性が向上する、と考えられるか、若しくは両方が作用していると考えられる。
ポリアミック酸溶液組成物の重合体(A)としては、上記特徴(A1)〜(A4)の少なくとも1つの特徴、好ましくは上記特徴(A1)〜(A3)の特徴、さらに好ましくは上記(A1)〜(A4)の特徴を有する重合体であればよく、含有量も適宜選択して用いればよい。
【0041】
a3)のポリイミド多孔質体の製造方法において、重合体(A)としては、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレートなどのビニル重合体、などをあげることができ、これらは2種以上併用して用いることができる。
ポリアミック酸溶液組成物において、重合体(A)の含有量は、ポリアミック酸100質量部に対して、好ましくは1〜100質量部、より好ましくは1〜30質量部、さらに好ましくは2〜20質量部、特に好ましくは3〜12質量部の割合で含むことが効果に優れるために好ましい。
ポリアミック酸溶液組成物に重合体(A)を添加する場合、重合体(A)は重合体(A)そのまま、重合体(A)の溶解溶液、重合体(A)の懸濁溶液などで添加することができる。
ポリアミック酸溶液組成物は、ポリアミック酸溶液と、ポリアミック酸溶液組成物のフィルム状流延物に水の浸入を促進させる化合物と、重合体(A)を混合して、ポリアミック酸溶液組成物を製造することができる。この場合、溶液が懸濁状になる場合があるが、十分な時間をかけて攪拌することで均質な状態を保つことが出来れば、本発明に用いることが出来る。
【0042】
a3)のポリイミド多孔質体の製造方法の一例を示すと、
1)ポリアミック酸溶液組成物をドープ液として使用し、そのドープ液よりフィルム状(膜状)に流延して流延物を形成し、必要に応じて流延物の片面若しくは両面を水蒸気などを含むガス(空気、不活性ガスなど)と接触させ、その流延物を凝固溶媒に浸漬若しくは接触させて、ポリアミック酸を析出させて多孔質化を行い、必要に応じて多孔質化したポリアミック酸膜を洗浄及び/又は乾燥してポリアミック酸の多孔質膜を製造し、ポリアミック酸の多孔質膜をさらに熱イミド化処理或いは化学イミド化処理を行いイミド化して、多孔質ポリイミドを製造する方法、などを挙げることが出来る。
重合体(A)を含むポリアミック酸溶液組成物を用いる場合には、ポリアミック酸の多孔質膜をさらに重合体(A)の熱分解開始温度以上に加熱して熱イミド化処理を行いイミド化して、多孔質ポリイミドを製造することが好ましい。
ポリアミック酸溶液組成物は、ブレードやTダイなどを用いてガラス板、ステンレス板などの板上にフィルム状に流延して、多孔膜を製造することができる。
ポリアミック酸溶液組成物は、ブレードやTダイなどを用いて、可動式のベルト上、若しくは連続の可動式のベルト上にフィルム状に連続的に流延して、連続的に個片若しくは長尺状の多孔膜を製造することができる。ベルトは、ポリアミック酸溶液組成物及び凝固溶液に影響を受けないものであればよく、ステンレスなどの金属製、テフロン(登録商標)などの樹脂製を用いることができる。また、Tダイからフィルム状に成形したポリアミック酸溶液組成物をそのまま凝固浴に投入することも出来る。
重合体(A)の熱分解開始温度はTGA(空気中、10℃/分)の条件で測定することができる。
【0043】
a3)のポリイミド多孔質体の製造方法において、ポリアミック酸溶液は、重合反応させて得られる溶液を用いてもよく、ポリアミック酸を有機極性溶媒に所定量溶解させて用いてもよい。
ポリアミック酸溶液組成物中に含まれるポリアミック酸の濃度は本発明の目的を達成する濃度であればよく、例えばポリアミック酸と有機極性溶媒との合計100質量%中、ポリアミック酸は0.3〜60質量%、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは2〜15質量%、さらに好ましくは5〜10質量%の割合で溶解してポリアミック酸溶液に調製される。ポリアミック酸の割合が0.3質量%より小さいと多孔質膜を作製した際のフィルム強度が低下するので適当でなく、60質量%より大きいと多孔質膜の透過性が低下するため、上記範囲の割合が好適である。また、ポリアミック酸溶液組成物の溶液粘度は、流延可能な粘度であれば適宜選択して用いればよく、例えば10〜10000ポイズ、好ましくは100〜3000ポイズ、より好ましくは200〜2000ポイズ、さらに好ましくは300〜1000ポイズである。溶液粘度が10ポイズより小さいと多孔質膜を作製した際のフィルム強度が低下するので適当でなく、10000ポイズより大きいとフィルム状に流延することが困難となるので、上記範囲が好適である。
【0044】
a3)のポリイミド多孔質体の製造方法において、凝固溶媒は、水を必須成分とする凝固溶媒であればよく、凝固溶媒中に含まれる水の含有量は適宜選択して行えばよく、好ましくは水と有機極性溶媒とを含む凝固溶媒を用いることが火災などの安全面、製造原価、および得られる膜の均質性確保のために好ましい。
凝固溶媒としては、凝固溶媒100質量%中に好ましくは水質量が5〜100%、より好ましくは20〜100質量%、さらに好ましくは30〜95質量%、特に好ましくは45〜90質量%含むことが好ましく、
さらに好ましくは凝固溶媒は、100質量%中に好ましくは水5〜100質量%と有機極性溶媒95〜0質量%、より好ましくは水20〜100質量%と有機極性溶媒80〜0質量%、さらに好ましくは30〜95質量%と有機極性溶媒70〜5質量%、特に好ましくは45〜90質量%と有機極性溶媒55〜10質量%を含むことが好ましい。
凝固溶媒は、水、有機極性溶媒の他に、ポリアミック酸の貧溶媒であるエタノール、メタノール等のアルコ−ル類、アセトンなどを含むことができる。
凝固溶媒の温度は、目的に応じて適宜選択して用いてばよく、例えば−30〜70℃、好ましくは0〜60℃、さらに好ましくは10〜50℃の範囲で行うことが好ましい。
【0045】
a3)のポリイミド多孔質体の製造方法において、多孔質化のポリアミック酸膜を熱イミド化処理を行う場合、支持体からはがして得られる多孔質化したポリアミック酸膜を、ピン、チャック若しくはピンチロールなどを用いて熱収縮により平滑性が損なわれないように固定し、大気中にて加熱してイミド化を行う条件であればよく、例えば280〜600℃、好ましくは350〜550℃の加熱温度で、5〜120分間、好ましくは6〜60分間の加熱時間から適宜選択して行うことが好ましい。
【0046】
a3)のポリイミド多孔質体の製造方法において、多孔質化のポリアミック酸膜の化学イミド化処理は、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物を脱水剤として用い、トリエチルアミン等の第三級アミンを触媒として行われる。また、特開平4−339835のように、イミダール、ベンズイミダゾール、もしくはそれらの置換誘導体を用いても良い。
【0047】
a3)のポリイミド多孔質体の製造方法において、多孔質ポリイミドは、ポリアミック酸溶液或いはポリイミド溶液を介して製造する場合、用いるポリマーの種類、ポリマー溶液のポリマー濃度、粘度、有機溶液など、凝固条件(溶媒置換速度調整層の種類、温度、凝固溶媒など)などを適宜選択することにより、
空孔率、膜厚、表面の平均孔径、最大孔径、中央部の平均孔径などを適宜選択することができる。
【0048】
得られた通気性の向上したポリイミド多孔質体は、マイクロフォン、スピーカーなどの音響部材の保護カバー、電子デバイスにおける放熱材料や分離フィルター材、低誘電率材料などに用いることができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定
されるものではない。
【0050】
〔測定方法〕
〔1.溶液粘度〕:
溶液粘度の測定は、E型回転粘度計で行った。以下に測定手順を示す。
(i)参考例で作製したポリアミック酸溶液を密閉容器に入れ、30℃の恒温槽に10時間保持した。
(ii)E型粘度計(東京計器製:高粘度用(EHD型)円錐平板型回転式,コーンローター:1°34’)を用い、(i)で準備したポリアミック酸溶液を測定溶液として、温度30±0.1℃の条件で測定した。3回測定を行い、平均値を採用した。測定点に5%以上のばらつきがあった場合は、さらに2回の測定を行い5点の平均値を採用した。
〔2.膜厚み〕:接触式の膜厚み計により、9箇所で測定を行い、平均値を膜厚みとした。
〔3.空孔率〕:所定の大きさに切取った多孔質フィルムの膜厚及び質量を測定し、目付質量から空孔率を次の式(1)によって求めた。式(1)のSは多孔質フィルムの面積、dは膜厚、wは測定した質量、Dはポリイミドの密度を意味し、ポリイミドの密度は1.34g/cm3として算出した。
【数1】
〔4.ガーレー値(透気度)〕
ガーレー値(秒/100ml)をJIS・P8117に準拠して測定を行った。測定は膜の異なる箇所で5回以上行い、平均値を算出し小数点以下は四捨五入してガーレー値とした。
〔5.表面の平均孔径〕
フィルム形状のポリイミド多孔質体の表面の走査型電子顕微鏡写真より、200点以上の開孔部について孔面積を測定し、該孔面積の平均値から式(2)に従って孔形状が真円であるとした際の平均直径を計算より求めた。式(2)のSaは孔面積の平均値を意味する。
【数2】
〔6.表面の最大孔径〕
多孔質フィルム表面の走査型電子顕微鏡写真より、200点以上の開孔部について孔面積を測定し、該孔面積から孔形状が真円であるとした際の直径を計算し、その最大値を最大孔径とした。
〔7.表面開口率〕
フィルム形状のポリイミド多孔質体の表面の走査型電子顕微鏡写真の5視野より、開孔部の孔面積の総計を測定し、以下の式から表面開口率を求めた。
【数3】
〔8.ガラス転移温度〕
固体粘弾性アナライザーを用いて、引張モード、周波数10Hz、ひずみ2%、窒素ガス雰囲気の条件で動的粘弾性測定を行い、その温度分散プロファイルにおいて損失正接が極大値を示す温度をガラス転移温度とした。
〔9.接触角〕
液適法により、水による接触角を計測した。3回測定を行い平均値を接触角とした。
〔10.常圧プラズマ処理〕
積水化学製のAP−T02−L300常圧プラズマ処理装置(平行電極、ダイレクト型)を用いて、以下の条件でプラズマ処理を行った。
プラズマ放出電極/処理対象フィルム間ギャップ:1mm
出力:160V、4.1A、30kHz。
ガス:擬似空気混合ガス(窒素:22.5L/分,酸素:0.65L/分、25℃)。
【0051】
用いる酸成分、ジアミン成分、溶媒は、以下の略称である。
s−BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
ODA:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
TPE−Q:1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン
BA:安息香酸
s−BPA:3,3’、4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
【0052】
〔実施例1〕
〔溶媒置換誘起相分離法によるポリイミド多孔質膜Aの製造〕
テトラカルボン酸成分としてs−BPDAを、ジアミン成分としてODAを、重合溶媒としてNMPを用い、モノマ−成分の合計重量が7重量%のポリアミック酸溶液を作製した。得られたポリアミック酸溶液の粘度は1200ポイズであった。
ポリアミック酸溶液を、鏡面研磨を施したステンレス製の20cm角の基板上に厚み約250μmで均一に引き伸ばし塗布した。基板上に塗布したポリアミック酸溶液の表面に保護溶媒層としてNMPをドクターブレードで厚みが約50μmで均一に塗布し1分間静置した後に、基板全体をメタノール浴中に投入した。その間、ポリマ−溶液と保護溶媒層とが完全には混じり合あわずに厚み方向で濃度勾配を保ちかつポリマ−が溶解している状態を保っていた。投入後、5分間静置した後に基板を取りだし、その後水中に5分間漬けた後、基板上に析出したポリアミック酸膜を剥離してポリアミック酸膜を得た。このポリアミック酸膜を室温で乾燥させた後、8cm角のピンテンタ−に張りつけ340℃で熱処理を行い、ポリイミド多孔質膜Aを得た。
得られたポリイミド多孔質膜Aは、膜厚みが38μmで、空孔率が48%、ガーレー値が85秒/100ccであった。走査型電子顕微鏡写真による観察を行ったところ、保護層積層側表面がポリイミドがネットワ−ク状に連なった構造を有しており、表面開口率が64%、平均孔径は0.37μm、最大孔径は3.5μmであった。また、基板の表面は孔が点在した形状を呈しており、表面開口率は28%、平均孔径は0.42μm、最大孔径は4.7μmであった。
【0053】
(多孔質体のダイレクト型常圧プラズマ・両面処理)
ポリイミド多孔質膜Aは、以下の条件でダイレクト型常圧プラズマ処理を行った。
1)保護層積層面側:トータル処理時間240秒
2)基板側:トータル処理時間240秒
ダイレクト型常圧プラズマ処理した多孔質膜は、膜厚みが37μmで、空孔率が49%、ガーレー値が6秒/100ccであった。走査型電子顕微鏡写真による観察を行ったところ、保護層表面及び支持体側の表面層が共にプラズマ処理により除去された様子が確認された。表面開口率が69%、平均孔径は0.43μm、最大孔径は3.9μmであった。また、基板面は処理前が孔が点在した形状であったのに対して、保護僧籍層面プラズマ処理後と同様の形状に大きく変化しており、表面開口率は67%、平均孔径は0.48μm、最大孔径は5.3μmであった。
ダイレクト型常圧プラズマ処理により多孔質膜は、膜厚みは両面で約1μm除去され(片面は約0.5μm除去)、空孔率が少し大きくなり、ガーレー値が10倍以上小さくなり通気性が大きく向上し、保護層表面及び支持体側の表面が共に開口率、平均孔径及び最大孔径が大きくなり特に支持体側の開口率が大きくなっている。
【0054】
〔実施例2〕
〔溶媒置換誘起相分離法によるポリイミド多孔質膜Bの製造〕
テトラカルボン酸成分としてs−BPDAを、ジアミン成分としてODAを、重合溶媒としてNMPを用い、モノマ−成分の合計重量が8重量%のポリアミック酸溶液を作製した。得られたポリアミック酸溶液の粘度は1600ポイズであった。
このポリアミック酸溶液を、鏡面研磨を施したステンレス製の20cm角の基板上に厚みが約700μmで均一に引き伸ばし塗布した。基板上に塗布したポリアミック酸溶液の表面に保護溶媒層としてNMPをドクターブレードで厚みが約80μmで均一に塗布し1分間静置した後に、メタノール浴中に基板全体を投入した。その間、ポリマ−溶液と保護溶媒層とが完全には混じり合あわずに厚み方向で濃度勾配を保ちかつポリマ−が溶解している状態を保っていた。投入後、7分間静置した後に基板を取りだし、水中に5分間漬けた後、基板上に析出したポリアミック酸膜を剥離してポリアミック酸膜を得た。このポリアミック酸膜を室温で乾燥させた後、8cm角のピンテンタ−に張りつけ340℃で熱処理を行い、ポリイミド多孔質膜Bを得た。
得られたポリイミド多孔質膜Bは、膜厚みが134μmで、空孔率が41%、ガーレー値が231秒/100ccであった。走査型電子顕微鏡写真(SEM)による観察を行ったところ、保護層積層面側においては多孔質構造ではあるが内部に繋がっていないように見えるものが多く観察された。走査型電子顕微鏡写真によるで判断できる範囲で膜内部に繋がらない凹凸を除外して計測した結果、表面開口率が18%、平均孔径は1.47μm、最大孔径は6.3μmであった。また、基板面は孔が点在した形状を呈しており、表面開口率は10%、平均孔径は0.46μm、最大孔径は3.4μmであった。
【0055】
(多孔質体のダイレクト型常圧プラズマ・両面処理)
ポリイミド多孔質膜Bは、以下の条件でダイレクト型常圧プラズマ処理を行った。
1)保護層積層面側:トータル処理時間240秒
2)基板側:トータル処理時間240秒
ダイレクト型常圧プラズマ処理されたポリイミド多孔質膜は、膜厚みが130μmで、空孔率が43%、ガーレー値が49秒/100ccであった。SEM観察を行ったところ、保護層積層面側においては処理前と比べて内部に繋がっていると思われる孔が増加した様子が見て取れた。SEM観察で判断できる範囲で膜内部に繋がらない凹凸を除外して計測した結果、表面開口率が38%、平均孔径は2.35μm、最大孔径は6.5μmであった。また、基板面は表面層が完全に除去され、高開口率の多孔質構造に変化していた。表面開口率は76%、平均孔径は2.1μm、最大孔径は7.1μmであった。
ダイレクト型常圧プラズマ処理により多孔質膜は、膜厚みは両面で約4μm除去され(片面は約2μm除去)、空孔率が少し大きくなり、ガーレー値が5倍以上小さくなり通気性が大きく向上し、保護層表面及び支持体側の表面が共に開口率、平均孔径及び最大孔径が大きくなり特に支持体側の開口率、平均孔径及び最大孔径が大きくなっている。
【0056】
〔実施例3〕
〔溶媒置換誘起相分離法によるポリイミド多孔質膜Cの製造〕
NMPを溶媒に用いて酸無水物としてs−BPDAを、ジアミンとしてTPE−Qをモル比が概略1、ポリマー濃度が6質量%になる量を測り取って投入した。その後、撹拌羽、窒素導入管、排気管を取り付けたセパラブルカバーで蓋をし、撹拌を開始した。23時間後、安息香酸(以下、BAと略す)をポリアミック酸100質量部に対して30質量部の量を、s−BPAをポリアミック酸100質量部に対して1質量部の量をそれぞれフラスコ内に添加し、攪拌操作を継続した。さらに25時間後、ポリ酢酸ビニル50質量%含有酢酸エチル溶液をポリアミック酸100質量部に対して10質量部の量(ポリアミック酸100質量部に対して、ポリ酢酸ビニル(以下、PVACと略す)5質量部に相当)をフラスコ内に添加して攪拌操作を継続した。38時間後に攪拌を終了し、フラスコ内のドープを加圧ろ過器(濾紙:アドバンテック東洋(株)製:粘調液用濾紙NO.60)でろ過して、ポリアミック酸溶液組成物Cを得た。溶液は粘調な懸濁液体で、粘度は540ポイズ(25℃)であった。
室温下卓上の自動コーターを用いて、表面に鏡面研磨を施したステンレス製の20cm角の基板上に、ポリアミック酸溶液組成物Cを厚さ約120μmで、均一に流延塗布した。その後、90秒間、温度23℃、湿度40%の大気中に放置し、その後、凝固浴(水80質量部/NMP20質量部、室温)中に基板全体を投入した。投入後、8分間静置し、基板上にポリアミック酸膜を析出させた。その後、基板を浴中から取りだし、基板上に析出したポリアミック酸膜を剥離した後に、純水中に3分間浸漬し、ポリアミック酸膜を得た。このポリアミック酸膜を温度23℃、湿度40%の大気中で乾燥させた後、10cm角のピンテンタ−に張りつけて電気炉内にセットした。約10℃/分の昇温速度で340℃まで加熱し、そのまま10分間保持する温度プロファイルで熱処理を行い、ポリイミド多孔質膜Cを得た。
得られたポリイミド多孔質膜Cは、膜厚みが26μm、空孔率が76%、ガーレー値が34秒/100ccであった。ポリイミド多孔質膜のガラス転移温度は、約270℃であった。
ポリイミド多孔質膜の断面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、膜横方向の長さ10μm以上のマクロボイドが多数確認でき、横方向の長さ5μm以上のボイド中、膜横方向の長さ10μm以上のマクロボイドを多数有し、その断面積が総断面積の70%以上であることを確認した。また、ポリイミド多孔質膜の表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、凝固溶媒と直接接触した面は、非常に細かい孔が多数存在している多孔質構造であることを確認した。表面の平均孔径は、0.05μm以下で最大孔径は0.3μm、表面開口率は3%であった。基板側の表面にはやや大きめな孔が多数存在することが分かった。表面の平均孔径は0.11μmであり、最大孔径が4.2μm、表面開口率は32%であった。
【0057】
(多孔質体のダイレクト型常圧プラズマ・片面処理)
ポリイミド多孔質膜Cは、以下の条件でダイレクト型常圧プラズマ処理を行った。
1)凝固溶媒と直接接触した面 :トータル処理時間60秒
ダイレクト型常圧プラズマ処理したポリイミド多孔質膜は、膜厚みが23μm、空孔率が79%、ガーレー値が1秒/100cc以下であった。ポリイミド多孔質膜のガラス転移温度は、約270℃で変化はなかった。
ポリイミド多孔質膜の断面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、マクロボイドが多数存在する構造に変化は無かった。また、ポリイミド多孔質膜の表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、凝固溶媒と直接接触した面は、全面に孔が多数存在する多孔質構造であることを確認した。表面の平均孔径は、0.12μmで最大孔径は1.1μm、表面開口率は44%であった。基板側は直接プラズマ処理を施した面ではないが、処理前と比べて開口度と孔径が大きくなっていることが見て取れた。表面の平均孔径は0.25μmであり、最大孔径が4.4μm、表面開口率は41%であった。
ダイレクト型常圧プラズマ処理により多孔質膜は、膜厚みは約3μm除去され、空孔率が大きくなり、ガーレー値が34倍以上小さくなり通気性が著しく向上し、保護層表面及び支持体側の表面が共に開口率、平均孔径及び最大孔径が大きくなり特に支持体側の開口率、平均孔径及び最大孔径が大きくなっている。
【0058】
〔実施例4〜7〕
実施例3のポリイミド多孔質膜Cに、表1に示す処理時間で行った以外は、実施例3と同様のダイレクト型常圧プラズマ処理を行い、ガーレー値の測定を行った。結果は表1に示す。
【0059】
【表1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド溶液若しくはポリミック酸溶液を用いて溶媒置換誘起相分離法若しくは熱誘起相分離法により得られるポリイミド多孔質体をドライエッチング処理することを特徴とするポリイミド多孔質体の通気速度向上方法。
【請求項2】
ドライエッチングは、スパッタ、プラズマ及びコロナ放電処理から選ばれるエッチング、又はドライブラストであることを特徴とする請求項1にポリイミド多孔質体の通気速度向上方法。
【請求項3】
プラズマ処理は、常圧プラズマ処理であることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド多孔質体の通気速度向上方法。
【請求項4】
常圧プラズマ処理は、ダイレクト型常圧プラズマであることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド多孔質体の通気速度向上方法。
【請求項5】
ポリイミド多孔質体の相分離過程で気体若しくは液体と接触して得られる表面の一部若しくは全部をドライエッチング処理で除去することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリイミド多孔質体の通気速度向上方法。
【請求項6】
ポリイミド多孔質体は、少なくとも2面を有し、孔は一方の面から他方の面に非直線的に連通している多孔質体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリイミド多孔質体の通気速度向上方法。
【請求項7】
ポリイミド多孔質体は、下記のa1)〜a5)のいずれかの方法で得られる多孔質ポリイミドであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリイミド多孔質体の通気速度向上方法。
a1)溶媒置換速度調整層を用いて、ポリミック酸溶液と凝固溶媒とが直接接触を避けて行う溶媒置換誘起法によりポリアミック酸を析出させ、その後イミド化して得られるポリイミド多孔質体であること。
a2)溶媒置換速度調整層を用いて、ポリイミド溶液と凝固溶媒とが直接接触を避けて行う溶媒置換誘起法によりポリイミドを析出させて得られるポリイミド多孔質体であること。
a3)ポリアミック酸と、極性基を有する有機化合物と、有機極性溶媒とを含むポリアミック酸溶液組成物をフィルム状に流延し、必要に応じて水蒸気含有の気体と接触させ、水を必須成分とする凝固溶媒に浸漬若しくは接触させて得られるポリアミック酸の多孔質膜を、その後イミド化して得られるポリイミド多孔質体であること。
a4)ポリアミック酸溶液から熱誘起法によりポリアミック酸を析出させ、その後イミド化して得られるポリイミド多孔質体であること。
a5)ポリイミド溶液から熱誘起法によりポリイミドを析出させて得られるポリイミド多孔質体であること。
【請求項8】
ポリイミド多孔質体は、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物から選ばれる成分を含むテトラカルボン酸二無水物と、べンゼンジアミン成分、ジアミノジフェニルエーテル成分及びビス(アミノフェノキシ)フェニル成分から選ばれる成分を含むジアミンとから得られるポリイミドからなるポリイミド多孔質体であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリイミド多孔質体の通気速度向上方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかのポリイミド多孔質体の通気速度向上方法より得られるポリイミド多孔体。
【請求項1】
ポリイミド溶液若しくはポリミック酸溶液を用いて溶媒置換誘起相分離法若しくは熱誘起相分離法により得られるポリイミド多孔質体をドライエッチング処理することを特徴とするポリイミド多孔質体の通気速度向上方法。
【請求項2】
ドライエッチングは、スパッタ、プラズマ及びコロナ放電処理から選ばれるエッチング、又はドライブラストであることを特徴とする請求項1にポリイミド多孔質体の通気速度向上方法。
【請求項3】
プラズマ処理は、常圧プラズマ処理であることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド多孔質体の通気速度向上方法。
【請求項4】
常圧プラズマ処理は、ダイレクト型常圧プラズマであることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド多孔質体の通気速度向上方法。
【請求項5】
ポリイミド多孔質体の相分離過程で気体若しくは液体と接触して得られる表面の一部若しくは全部をドライエッチング処理で除去することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリイミド多孔質体の通気速度向上方法。
【請求項6】
ポリイミド多孔質体は、少なくとも2面を有し、孔は一方の面から他方の面に非直線的に連通している多孔質体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリイミド多孔質体の通気速度向上方法。
【請求項7】
ポリイミド多孔質体は、下記のa1)〜a5)のいずれかの方法で得られる多孔質ポリイミドであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリイミド多孔質体の通気速度向上方法。
a1)溶媒置換速度調整層を用いて、ポリミック酸溶液と凝固溶媒とが直接接触を避けて行う溶媒置換誘起法によりポリアミック酸を析出させ、その後イミド化して得られるポリイミド多孔質体であること。
a2)溶媒置換速度調整層を用いて、ポリイミド溶液と凝固溶媒とが直接接触を避けて行う溶媒置換誘起法によりポリイミドを析出させて得られるポリイミド多孔質体であること。
a3)ポリアミック酸と、極性基を有する有機化合物と、有機極性溶媒とを含むポリアミック酸溶液組成物をフィルム状に流延し、必要に応じて水蒸気含有の気体と接触させ、水を必須成分とする凝固溶媒に浸漬若しくは接触させて得られるポリアミック酸の多孔質膜を、その後イミド化して得られるポリイミド多孔質体であること。
a4)ポリアミック酸溶液から熱誘起法によりポリアミック酸を析出させ、その後イミド化して得られるポリイミド多孔質体であること。
a5)ポリイミド溶液から熱誘起法によりポリイミドを析出させて得られるポリイミド多孔質体であること。
【請求項8】
ポリイミド多孔質体は、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物から選ばれる成分を含むテトラカルボン酸二無水物と、べンゼンジアミン成分、ジアミノジフェニルエーテル成分及びビス(アミノフェノキシ)フェニル成分から選ばれる成分を含むジアミンとから得られるポリイミドからなるポリイミド多孔質体であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリイミド多孔質体の通気速度向上方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかのポリイミド多孔質体の通気速度向上方法より得られるポリイミド多孔体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−1434(P2011−1434A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144728(P2009−144728)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】
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