説明

ポリウレタンの製造方法

【課題】ポリカルバミン酸エステルとポリヒドロキシ化合物のエステル交換反応から高品位のポリウレタンを比較的短時間で製造する方法を提供する。
【解決手段】チタニウムアルコキシド化合物と不飽和多価カルボン酸及びヒドロキシ多価カルボン酸からなる群より選ばれる1種又は2種以上の多価カルボン酸化合物とを含むエステル交換触媒の存在下、ポリカルバミン酸エステルとポリヒドロキシ化合物とをエステル交換でポリウレタンを製造する際、エステル交換触媒中に、チタニウム原子1molに対して0.5〜4molの多価カルボン酸を含有する触媒を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカルバミン酸エステル及びポリヒドロキシ化合物を原料とするポリウレタンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルバミン酸エステルは、医薬や農薬の原料として用いられる他、ポリウレタン関連技術として、ホスゲンを使用しないイソシアネートの製造方法(非ホスゲン法)の原料としても用いられる。
【0003】
イソシアネートは通常アミンとホスゲンから製造されるが、取り扱いが難しいホスゲンを使用しない安全な製造方法として、カルバミン酸エステルの熱分解が主として検討されている(例えば、特許文献1〜3)。
【0004】
さらには、イソシアネート自体も刺激性が強いため、特に揮発性の高い化合物については、取り扱いが困難である。このため、イソシアネートを経由しないポリウレタンの製造方法が検討されており、例えば、ポリカルバミン酸エステルとポリヒドロキシ化合物からエステル交換反応でポリウレタンを製造する方法が知られている(例えば、特許文献4、特許文献5参照)。
【0005】
しかしながら、カルバミン酸エステル基の反応性が低いため、エステル交換反応で通常使用されるスズやチタニウム化合物を触媒として用いた場合、高温で長時間の条件が必要であったり、大量の触媒を添加する必要があるため、実用性に乏しいのが現状であった。さらには、触媒が、環化や分岐の生成も促進するため、直鎖状のポリウレタンが得られにくいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−211256号公報
【特許文献2】特許第3674642号明細書
【特許文献3】特許第3238201号明細書
【特許文献4】特開昭60−181061号公報
【特許文献5】特表2009−518494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ポリカルバミン酸エステルとポリヒドロキシ化合物のエステル交換反応から高品位のポリウレタンを比較的短時間で製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定のエステル交換触媒を用いることで、上記した課題が解決されるという新たな事実を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下に示すとおりのポリウレタンの製造方法である。
【0010】
[1]チタニウム化合物と多価カルボン酸とを含むエステル交換触媒の存在下、ポリカルバミン酸エステルとポリヒドロキシ化合物とをエステル交換することを特徴とするポリウレタンの製造方法。
【0011】
[2]多価カルボン酸が、不飽和多価カルボン酸及びヒドロキシ多価カルボン酸からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする上記[1]に記載のポリウレタンの製造方。
【0012】
[3]多価カルボン酸が、マレイン酸、リンゴ酸、シトラマル酸、及びクエン酸からなる群より選択される1種又は2種以上の化合物であるであることを特徴とする上記[1]に記載のポリウレタンの製造方法。
【0013】
[4]チタニウム化合物が、チタニウムアルコキシドであることを特徴とする上記[1]乃至[3]のいずれかに記載のポリウレタンの製造方法。
【0014】
[5]チタニウムアルコキシドが、チタニウムテトライソプロポキシド、チタニウムテトラn−プロポキシド、及びチタニウムテトラn−ブトキシドからなる群より選択される1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする上記[4]に記載のポリウレタンの製造方法。
【0015】
[6]エステル交換触媒が、下式(1)
Ti(L (1)
[上記式(1)中、Lは各々独立して、炭素数1〜20のアルコキシ基又は多価カルボン酸のアニオンを表し、pは1〜4の整数を表す。ただし、Lの少なくとも1つは多価カルボン酸のアニオンを表す。]
で示されることを特徴とする上記[1]乃至[5]のいずれかに記載のポリウレタンの製造方法。
【0016】
[7]エステル交換触媒中に、チタニウム原子1molに対して0.5〜4molの多価カルボン酸を含有することを特徴とする上記[1]乃至[6]のいずれかに記載のポリウレタンの製造方法。
【0017】
[8]ポリカルバミン酸エステルが、下記式(2)
(NHCOOR (2)
[上記式(2)中、Rは炭素数1〜20の二価の炭化水素基を表し、Rは各々独立して炭素数1〜18の炭化水素基を表す。]
で示される化合物であることを特徴とする上記[1]乃至[7]のいずれかに記載のポリウレタンの製造方法。
【0018】
[9]上記式(2)において、Rがエチレン基であり、かつRが各々独立して炭素数1〜6の炭化水素基を表すことを特徴とする上記[8]に記載のポリウレタンの製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ポリカルバミン酸エステルとポリヒドロキシ化合物をエステル交換する際に、環化や分岐生成等の副反応が抑制され、高品位の高分子量ポリウレタンを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0021】
本発明のポリウレタンの製造方法は、チタニウム化合物と多価カルボン酸とを含むエステル交換触媒の存在下、ポリカルバミン酸エステルとポリヒドロキシ化合物とをエステル交換することをその特徴とする。
【0022】
チタニウム化合物としては、特に限定するものではないが、具体的には、下記式(3)で表される化合物及びその縮合物が例示される。
【0023】
Ti(L (3)
[上記(3)中、Lは各々独立して、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数5〜20のβ−ジケトンアニオン、炭素数1〜20のカルボン酸アニオン、酸素、イオウ又はハロゲンを表し、qは1〜4の整数を表す。]
ここで、炭素数1〜20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。これらは、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。
【0024】
炭素数1〜20のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブチルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ラウリルオキシ基、オクタデシルオキシ基等が挙げられる。これらは、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。
【0025】
炭素数5〜20のβ−ジケトンアニオンとしては、例えば、2、4−ペンタンジオン(アセチルアセトン)、2,4−ヘキサンジオン、3,5−ヘプタンジオン、2−メチルヘキサン−3,5−ジオン、6−メチルヘプタン−2,4−ジオン、2,6−ジメチルヘプタン−3,5−ジオン、2,2−ジメチルヘキサン−3,5−ジオン、2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル等のβ−ジケトンのアニオンが挙げられる
炭素数1〜20のカルボン酸アニオンとしては、例えば、脂肪族1価カルボン酸、脂肪族多価カルボン酸、芳香族カルボン酸のアニオンが挙げられる。脂肪族1価カルボン酸として、具体的には、ギ酸、酢酸、プロパン酸、ブタン酸、イソブタン酸、ペンタン酸、イソペンタン酸、ヘキサン酸、2−メチルペンタン酸、2−エチルブタン酸、ヘプタン酸、カプリル酸、2−エチルヘキサン酸、ノナン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アクリル酸、メタクリル酸、グリコール酸、乳酸、グリオキシル酸、ピルビン酸等が、脂肪族多価カルボン酸として、具体的には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、シトラマル酸、クエン酸、イソクエン酸等が、芳香族カルボン酸として、具体的には、安息香酸、o−、m−及びp−トルイル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ケイ皮酸、サリチル酸等が、それぞれ例示される。
【0026】
上記式(3)において、Lが全てアルコキシ基であるチタニウムアルコキシド及びその縮合物は、それぞれ下記式(4)、(5)で表される。
【0027】
Ti(OR)(OR)(OR)(OR) (4)
[上記式(4)中、R〜Rは各々独立して、炭素数1〜20のアルキル基を表す。]
O[Ti(ORO] (5)
[上記式(5)中、Rは各々独立して、炭素数1〜20のアルキル基を表す。また、rは2〜4の整数を表す。]
上記式(4)で表される化合物として、具体的に、チタニウムテトラエトキシド、チタニウムテトラn−プロポキシド、チタニウムテトライソプロポキシド、チタニウムテトラn−ブトキシド、チタニウムテトラヘキソキシド、チタニウムテトラ2−エチルヘキソキシド、チタニウムテトラオクトキシド等が例示される。本発明においては、これらのうちの1種、又はそれらの2種以上の組み合わせを使用することができる。
【0028】
また、上記式(5)で表される化合物としては、具体的には、チタン酸ポリブチル、チタン酸ポリイソプロピル等が例示される。
【0029】
これらのチタニウムアルコキシドの中で、チタニウムテトラn−プロポキシド、チタニウムテトライソプロポキシド、及びチタニウムテトラn−ブトキシドが入手の容易さの観点から好適に使用できる。
【0030】
本発明に用いられる多価カルボン酸としては、例えば、分子内に2つ以上のカルボキシル基を有する化合物又は同一分子内のカルボキシル基2分子が脱水縮合した酸無水物が好ましい。
【0031】
具体的には、脂肪族多価カルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸及びこれらの酸無水物が挙げられ、芳香族多価カルボン酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸及びこれらの酸無水物が挙げられ、ヒドロキシ多価カルボン酸としては、例えば、リンゴ酸、酒石酸、シトラマル酸、クエン酸、イソクエン酸、メバロン酸、パントイン酸及びこれらの酸無水物が挙げられ、不飽和多価カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、2−ペンテンニ酸、メチレンコハク酸、アリルマロン酸、イソプロピリデンコハク酸、2,4−ヘキサジエンニ酸、アセチレンジカルボン酸及びこれらの酸無水物が挙げられる。
【0032】
本発明で用いるエステル交換触媒は、チタニウム化合物と多価カルボン酸を含むものであるが、好ましくは上記したチタニウムアルコキシドと多価カルボン酸を含むものであり、さらに好ましくは上記したチタニウムアルコキシドと多価カルボン酸との反応生成物を含むものである。
【0033】
上記したチタニウムアルコキシドと多価カルボン酸との反応生成物は、例えば、上記式(1)で表される。
【0034】
本発明において、チタニウムアルコキシドと多価カルボン酸の反応生成物としては、具体的に、(マロン酸)(ブトキシ)チタニウム、(マロン酸)(ブトキシ)チタニウム、(マロン酸)(イソプロポキシ)チタニウム、(マロン酸)(イソプロポキシ)チタニウム、(マロン酸)チタニウム、(コハク酸)(ブトキシ)チタニウム、(コハク酸)(ブトキシ)チタニウム、(コハク酸)(イソプロポキシ)チタニウム、(コハク酸)(イソプロポキシ)チタニウム、(コハク酸)チタニウム、(リンゴ酸)(ブトキシ)チタニウム、(リンゴ酸)(ブトキシ)チタニウム、(リンゴ酸)(イソプロポキシ)チタニウム、(リンゴ酸)(イソプロポキシ)チタニウム、(リンゴ酸)チタニウム、(マレイン酸)(ブトキシ)チタニウム、(マレイン酸)(ブトキシ)チタニウム、(マレイン酸)(イソプロポキシ)チタニウム、(マレイン酸)(イソプロポキシ)チタニウム、(マレイン酸)チタニウム等が例示される。本発明においては、これらの1種又は2種以上の混合物を使用することができる。
【0035】
上記したチタニウムアルコキシドと多価カルボン酸を反応させる際の条件については、特に限定するものではないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ジクロロメタン等を溶媒として用い、反応温度−20℃〜沸点の範囲で、1〜20時間反応させ、副生するアルコール及び溶媒を減圧留去することで目的のチタニウム化合物を得ることができる。
【0036】
本発明においては、エステル交換触媒中に、チタニウム原子1molに対して、0.5〜4molの多価カルボン酸を含むことが好ましく、さらに好ましくは1〜2.5molの範囲である。
【0037】
本発明において、ポリカルバミン酸エステルとは、1分子中に2個以上のカルバミン酸エステル基を有する化合物を意味し、例えば、上記式(2)で示されるジカルバミン酸エステルが好適なものとして挙げられる。
【0038】
具体的には、1分子中に2個のカルバミン酸エステル基を有するジカルバミン酸エステルとして、例えば、エチレンジカルバミン酸、トリメチレンジカルバミン酸、テトラメチレンジカルバミン酸、ペンタメチレンジカルバミン酸、ヘキサメチレンジカルバミン酸、2,2,4−又は2,4,4−トリメチルジカルバミン酸のメチルエステル、エチルエステル、フェニルエステル等の脂肪族ジカルバミン酸エステル、シクロヘキサン−1,3又は1,4−ジカルバミン酸、メチルシクロヘキサン−2,4又は2,6−ジカルバミン酸、3−カルバミン酸メチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルカルバミン酸、ビス−(4−カルバミン酸シクロヘキシル)メタンのメチルエステル、エチルエステル、フェニルエステル等の脂環族ジカルバミン酸ジエステル、フェニレン−1,3又は1,4ジカルバミン酸、2,4−トリレンジカルバミン酸、2,6−トリレンジカルバミン酸、2,4’−ジフェニルメタンジカルバミン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルバミン酸のメチルエステル、エチルエステル、フェニルエステル等の芳香族ジカルバミン酸エステル等を挙げることができる。これらのポリカルバミン酸エステルの中で、脂肪族ジカルバミン酸エステル又は脂環族ジカルバミン酸ジエステルのメチルエステル又はエチルエステルが、エステル交換の反応性及び耐黄変性の観点から好ましく、ポリウレタンの物性の観点からエチレンジカルバミン酸のメチルエステル又はエチルエステルがさらに好ましい。これらのポリカルバミン酸エステルは単一のものでもよいし、2種以上の混合物であってもよい。
【0039】
ポリカルバミン酸エステルの製造方法については、特に限定するものではないが、例えば、対応するポリアミンと炭酸ジエステルをナトリウムアルコキシドの存在下、室温〜150℃で1〜20時間反応することで得ることができる。
【0040】
本発明において、ポリヒドロキシ化合物とは、イソシアネート基に対して反応性を有する水酸基を2個以上含む化合物を意味する。
【0041】
具体的には、分子量が400以上である高分子のポリヒドロキシ化合物として、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、これらの2種以上の混合物等が挙げられる。
【0042】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、縮合ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリラクトンポリオール等が挙げられる。
【0043】
縮合ポリエステルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ブチルエチルプロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のジオール類とコハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、無水マレイン酸、フマル酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等のジカルボン酸との反応物が挙げられる。具体的には、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリネオペンチレンアジペートジオール、ポリエチレンプロピレンアジペートジオール、ポリエチレンブチレンアジペートジオール、ポリブチレンヘキサメチレンアジペートジオール、ポリ(ポリテトラメチレンエーテル)アジペートジオール等のアジペート系縮合ポリエステルジオール、ポリエチレンアゼレートジオール、ポリブチレンアゼレートジオール等のアゼレート系縮合ポリエステルジオール等が例示される。
【0044】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、上記ジオール類とジメチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類との反応物等が挙げられる。具体的には、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリ3−メチルペンタメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール等が例示される。
【0045】
ポリラクトンポリオールとしては、例えば、ε−カプロラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、又はこれらの2種以上の混合物の開環重合物等が挙げられる。具体的にはポリカプロラクトンジオール等が例示される。
【0046】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、カテコール、ヒドロキノン、ビスフェノールA等の活性水素原子を少なくとも2個有する化合物の1種又は2種以上を開始剤として、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、テトラヒドロフラン、シクロヘキシレン等のモノマーを付加重合させた反応物が挙げられる。これらモノマーの2種以上を付加重合させた反応物は、ブロック付加、ランダム付加、又は両者の混合系でも良い。具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等が例示される。
【0047】
これらの高分子のポリヒドロキシ化合物の中で、水酸基の反応性の観点から、ポリテトラメチレンエーテルグリコール及びポリエステルポリオールが好ましい。
【0048】
高分子のポリヒドロキシ化合物の水酸基価としては、好ましくは10〜300mgKOH/g、より好ましくは20〜250mgKOH/gの範囲である。この水酸基価は、JIS−K0070に規定された方法、すなわち、試料に無水酢酸及びピリジンを加えて溶解させ、放冷後、水、トルエンを加えて調整した滴定試料液を、KOHエタノール溶液で中和滴定することで測定できる。水酸基価は、1gの試料に含まれる水酸基をアセチル化するために消費された酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で表される。
【0049】
分子量が400未満である低分子のポリヒドロキシ化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等の脂肪族ジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリロトール等の多官能脂肪族ポリオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールA等の脂環族ジオール、ビスフェノールA、ハイドロキノン、ビスヒドロキシエトキシベンゼン等の芳香族ジオール、これらのアルキレンオキシド付加体のポリオール等が挙げられる。
【0050】
本発明において、ポリカルバミン酸エステルとポリヒドロキシ化合物の仕込み比としては、特に限定するものではないが、ポリカルバミン酸エステル中のカルバミンエステル基に対するポリヒドロキシ化合物の水酸基のモル比が、0.7〜1.5の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.9〜1.3の範囲である。モル比が0.7未満又は1.5を越える場合、目的の重合度が得られない場合がある。
【0051】
本発明において、反応温度に制限は無いが、通常120〜200℃の範囲であり、好ましくは130〜170℃の範囲である。反応時間は、反応温度、触媒種及び触媒濃度等に依存するため、特に限定するものではないが、仕込んだポリカルバミン酸エステルのカルバミンエステル基が90mol%以上反応するように設定することが好ましい。
【0052】
本発明において、エステル交換触媒の使用量については特に限定するものではないが、ポリカルバミン酸エステルとポリヒドロキシ化合物との合計重量に対して、チタニウム化合物と多価カルボン酸との合計重量が10〜10000ppmの範囲が好ましく、さらに好ましくは100〜2000ppmの範囲である。
【0053】
本発明において、反応前、反応中又は反応後に有機溶媒を添加することも可能であり、そのような有機溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等を使用できる。
【0054】
本発明においては、副生したアルコールを除去することが好ましく、反応系を減圧にするか、又は窒素等の不活性ガスをフローすることで効率的に副生アルコールを除去することができる。
【0055】
また、水酸基過剰の条件で合成したポリウレタンをポリイソシアネート等の水酸基に対する反応性基を有する架橋剤で鎖延長せることで、分子量を増大させることも可能である。
【0056】
この際、鎖延長性の指標として、得られたポリウレタンを以下のモル数のヘキサメチレンジイソシアネートと反応させた後の重量平均分子量を定義することができる。
【0057】
(ポリヒドロキシ化合物中の水酸基のモル数−ポリカルバミン酸エステルに含まれるエステル基のモル数)×0.7。
【0058】
鎖延長後の分子量は8万以上であることが望ましく、さらに好ましくは10万以上である。8万未満の場合は、エステル交換反応中、環化や分岐生成等の副反応によりポリウレタンが直鎖状でないか、又は水酸基以外の末端が生成している場合がある。
【0059】
本発明の製造方法は、特定のチタニウム化合物を触媒として用いることで、ポリカルバミン酸エステルとポリヒドロキシ化合物をエステル交換反する際に、環化や分岐生成等の副反応が抑制され、高品位の高分子量ポリウレタンが製造可能であるため、ポリウレタンの製造分野に適用可能である。
【実施例】
【0060】
以下に、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、それらの内容は本発明の範囲を特に制限するものではない。
【0061】
本発明のポリウレタンの製造方法に関する測定方法は、以下のとおりである。
【0062】
<反応率の測定>
反応系の重量減を測定し、100%反応時の脱離アルコール重量に対する比(%)から下式により反応率を求めた。
【0063】
反応率(%)={(反応前の重量(g)−反応後の重量(g))/(仕込んだポリカルバミン酸エステルに含まれるエステル基の総モル数×脱離アルコールの分子量)}×100(%)。
【0064】
<分子量の測定>
平均分子量の測定は、HLC−8220GPC(東ソー社製)を用い、カラム:TSKgel G7000H(東ソー社製)3本、溶媒:テトラヒドロフラン、測定温度:40℃、流速:1ml/分、注入量:200μlで測定した。濃度検出にはRI検出器を用い、ポリスチレン換算の平均分子量を計算した。
【0065】
なお、実施例及び比較例中で使用した主な原料は、以下の通りである。
【0066】
EDA:エチレンジアミン、キシダ化学社試薬、
HDA:ヘキサメチレンジアミン、キシダ化学社試薬、
炭酸ジエチル:キシダ化学社試薬、
ナトリウムエトキシド(21%エタノール溶液):アルドリッチ社試薬、
チタニウムテトラブトキシド:アルドリッチ社試薬、
チタニウムテトライソプロポキシド:アルドリッチ社試薬、
リンゴ酸:DL−リンゴ酸、キシダ化学社試薬、
マレイン酸:キシダ化学社試薬、
クエン酸:キシダ化学社試薬、
コハク酸:キシダ化学社試薬、
フタル酸:キシダ化学社試薬、
DBTDL:ジブチルスズジラウレート、キシダ化学社試薬、
DBTO:ジブチルスズオキシド、キシダ化学社試薬、
PTMG1000:ポリテトラメチレンエーテルグリコール(アルドリッチ社試薬、平均分子量1000)。
【0067】
実施例及び比較例に用いたポリカルバミン酸エステル及びチタニウム触媒は以下のように調製した。
【0068】
<エチレンジカルバミン酸エチルの合成>
1LフラスコにEDA50.0g(0.83mol)及び炭酸ジエチル246.0g(2.08mol)を仕込む、60℃に加熱した後、ナトリウムエトキシド4.23g(21%メタノール溶液)を0.5時間かけて滴下し、さらに8時間反応させた。
【0069】
室温に冷却した後、攪拌しながら1.50gの85%リン酸を加え、10分後、脱イオン水200mlを加えた。反応液を5℃に冷却し、析出した固体をろ過し、200mlの氷水で3回リパルプ洗浄した。得られた無色結晶を減圧下、80℃で2時間乾燥させて118.5gの粗製物を得た。
【0070】
続いて、粗製物100.0gを140℃、減圧下で昇華精製し、エチレンジカルバミン酸エチル99.0gを得た。
【0071】
<ヘキサメチレンジカルバミン酸エチルの合成>
1LフラスコにHDA50.0g(0.43mol)及び炭酸ジエチル127.1g(1.08mol)を仕込み、80℃に加熱した後、ナトリウムエトキシド2.53g(21%メタノール溶液)を0.5時間かけて滴下し、さらに6時間反応させた。
【0072】
室温に冷却した後、攪拌しながら0.90gの85%リン酸を加え、10分後、脱イオン水500mlを加えた。析出した固体をろ過し、300mlの脱イオン水で3回リパルプ洗浄した。得られた無色結晶を減圧下、80℃で2時間乾燥させて101.5gの粗製物を得た。
【0073】
続いて、粗製物100.0gを140℃、減圧下で昇華精製し、ヘキサメチレンジカルバミン酸エチル98.5gを得た。
【0074】
<マレイン酸変性チタニウム触媒の合成>
チタニウムテトラブトキシド5.00g(14.7mmol)及び脱水グレード塩化メチレン20mlを窒素置換したシュレンク管に入れ、続いてマレイン酸3.41g(29.4mmol)を添加し、12時間攪拌した。反応終了後、80℃で2時間減圧乾燥し、目的物として白色固体3.57gを得た。結果を表1に示す。
【0075】
【表1】

<その他のチタニウム触媒>
上記のマレイン酸変性チタニウム触媒と同様にして、表1に従ってその他のチタニウム触媒を合成した。
【0076】
実施例1.
<ポリウレタンオリゴマーの合成>
PTMG1000 50gを三方コック及びバブラーを装着した300ml−4つ口フラスコに仕込み、120℃で1時間減圧脱水した。エチレンジカルバミン酸エチル8.51gを添加した後、20分間、さらに減圧下で10分間攪拌した。フラスコ内を窒素パージした後、マレイン酸変性チタニウム触媒29mgを加えた。系内の窒素フロー量を0.2L/minに調整した後、160℃に加熱し、8時間反応させた。脱エタノール量から計算した反応率は99%であった。また、GPCによって求めた重量平均分子量は20500であった。
【0077】
<ポリウレタンオリゴマーの高分子量化>
反応終了後、脱水メチルエチルケトンを追加し、固形分50重量%の溶液とした。この溶液50gを300ml−4っ口フラスコに仕込み、ジブチルスズジラウレート25mg及びヘキサメチレンジイソシアネート1.13gを仕込み、80℃で2時間反応させた。ヘキサメチレンジイソシアネート中のイソシアネート基の量は、残留水酸基に対して1.40当量とした。得られたポリウレタンの重量平均分子量は177000であった。
【0078】
実施例2〜実施例4.
触媒としてマレイン酸変性チタニウム触媒を用いて、表2に示した条件でポリウレタンを合成した。結果を表2に併せて示す。
【0079】
【表2】

表2によれば、いずれの条件においても、オリゴマー及び鎖延長後分子量が高いことから、オリゴマー化の際に分岐生成や停止末端の生成等の副反応が起こりにくく、直鎖状のポリウレタンが得られたことがわかる。
【0080】
実施例5〜実施例8.
触媒として種々の多価カルボン酸変性チタニウム化合物を用い、実施例2と同様にポリウレタンを合成した。結果を表3に併せて示す。
【0081】
【表3】

表3によれば、いずれの条件においても、オリゴマー及び鎖延長後分子量が高いことから、オリゴマー化の際に分岐生成や停止末端の生成等の副反応が起こりにくく、直鎖状のポリウレタンが得られたことがわかる。
【0082】
比較例1〜比較例5.
触媒として市販のチタニウム及びスズ化合物を用いて、表4に示した条件でポリウレタンを合成した。結果を表4に併せて示す。
【0083】
【表4】

表4によれば、いずれの条件においても、脱エタノール量から計算した反応率は98%以上であるが、オリゴマーの分子量及び鎖延長後分子量は実施例の多価カルボン酸変性チタニウム触媒と比較して低い。このことから、ポリカルバミン酸エステルのエステル基がエステル交換以外の副反応によって消費され、直鎖状のポリウレタンが得られないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタニウム化合物と多価カルボン酸とを含むエステル交換触媒の存在下、ポリカルバミン酸エステルとポリヒドロキシ化合物とをエステル交換することを特徴とするポリウレタンの製造方法。
【請求項2】
多価カルボン酸が、不飽和多価カルボン酸及びヒドロキシ多価カルボン酸からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする請求項1に記載のポリウレタンの製造方。
【請求項3】
多価カルボン酸が、マレイン酸、リンゴ酸、シトラマル酸、及びクエン酸からなる群より選択される1種又は2種以上の化合物であるであることを特徴とする請求項1に記載のポリウレタンの製造方法。
【請求項4】
チタニウム化合物が、チタニウムアルコキシドであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のポリウレタンの製造方法。
【請求項5】
チタニウムアルコキシドが、チタニウムテトライソプロポキシド、チタニウムテトラn−プロポキシド、及びチタニウムテトラn−ブトキシドからなる群より選択される1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする請求項4に記載のポリウレタンの製造方法。
【請求項6】
エステル交換触媒が、下記式(1)
Ti(L (1)
[上記式(1)中、Lは各々独立して、炭素数1〜20のアルコキシ基又は多価カルボン酸のアニオンを表し、pは1〜4の整数を表す。ただし、Lの少なくとも1つは多価カルボン酸のアニオンを表す。]
で示されることを特徴とする請求項1乃至請求項58のいずれかに記載のポリウレタンの製造方法。
【請求項7】
エステル交換触媒中に、チタニウム原子1molに対して0.5〜4molの多価カルボン酸を含有することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のポリウレタンの製造方法。
【請求項8】
ポリカルバミン酸エステルが、下記式(2)
(NHCOOR (2)
[上記式(2)中、Rは炭素数1〜20の二価の炭化水素基を表し、Rは各々独立して炭素数1〜18の炭化水素基を表す。]
で示される化合物であることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載のポリウレタンの製造方法。
【請求項9】
上記式(2)において、Rがエチレン基であり、かつRが各々独立して炭素数1〜6の炭化水素基を表すことを特徴とする請求項8に記載のポリウレタンの製造方法。

【公開番号】特開2012−140473(P2012−140473A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291798(P2010−291798)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】