説明

ポリウレタン弾性糸およびその製造方法

【課題】伸度、回復性、耐熱性、及び耐薬品性に優れ、ストレッチ布帛や衣服用などに好適なポリウレタン弾性糸を提供する。
【解決手段】ポリマージオールおよびジイソシアネートを出発物質とするポリウレタン弾性糸に芳香族縮合リン酸エステルを含有させる。該芳香族縮合リン酸エステルが1,3−フェニレンビスジキシレニルホスフェートでり、該ポリウレタン弾性糸は米国自動車安全基準FMVSS−302法にて、自己消火性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐アルカリ性、各種薬剤への耐性、高回復性、高強伸度、高耐熱性などを有するポリウレタン弾性糸およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性繊維は、その優れた伸縮特性からレッグウエア、インナーウエア、スポーツウエアなどの伸縮性衣料用途や産業資材用途に幅広く使用されている。
【0003】
かかる弾性繊維として、特にポリウレタン弾性糸には高強伸度、高回復性、高耐薬品性、高耐熱性を有するものが求められている。特に耐薬品性は、近年、ポリエステル糸と組み合わせて混合布帛で用いる場合において強く要望されており、ポリエステルの減量加工や抜喰加工に耐え得る耐薬品性、すなわち、アルカリ、不飽和脂肪酸、四級アンモニウム塩などへの耐性が求められている。
【0004】
このような耐薬品性の付与のための従来技術としては、例えば、ポリウレタン紡糸溶液中にポリフッ化ビニリデンを含有させて紡糸する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかし、このようにポリフッ化ビニリデンを含有させたポリウレタン弾性糸の場合、回復性や耐熱性が十分ではなく、特に減量加工や高温染色を要するポリエステル糸との混合布帛の用途では耐薬品性も依然不満足な水準であり、使用が制限される場合もある。
【特許文献1】特開2000−73233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決し、耐アルカリ性、各種薬剤への耐性、高回復性、高強伸度、及び高耐熱性を有するポリウレタン弾性糸およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のポリウレタン弾性糸は、前記の目的を達成するため、以下のいずれかの手段を採用する。
(1)ポリマージオールおよびジイソシアネートを出発物質とするポリウレタン弾性糸であって、式1で表される芳香族縮合リン酸エステルを含有することを特徴とするポリウレタン弾性糸。
【0008】
【化1】

【0009】
(R1は芳香族基であり、R2は、水素又は炭素数1〜3のアルキル基であり、複数個のR2は、同一であっても、異なっていてもよく、R3は、水素又は炭素数1〜3のアルキル基であり、複数個のR3は、同一であっても、異なっていてもよい。)
(2)芳香族縮合リン酸エステルが1,3−フェニレンビスジキシレニルホスフェートである、前記(1)に記載のポリウレタン弾性糸。
(3)幅5cmの筒編み地を編成し、米国自動車安全基準 FMVSS−302法にて水平燃焼試験を行った際に、自己消火性を示す、前記(1)又は(2)に記載のポリウレタン弾性糸。
(4)ポリマージオールおよびジイソシアネートを出発物質とするポリウレタンを含むポリウレタン溶液に、式1で表される芳香族縮合リン酸エステルを含有させて、紡糸することを特徴とするポリウレタン弾性糸の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリウレタン弾性糸は、耐アルカリ性、各種薬剤への耐性、高回復性、高強伸度、及び高耐熱性を有するものであるので、この弾性糸を使用した衣服などは、脱着性、フィット性、着用感、染色性、耐変色性、外観品位などに優れたものとなる。また、本発明のポリウレタン弾性糸においては、上記の特性に加えて、難燃性に優れたものともなるので、難燃性が要求される分野で好適に用いることができ、例えば自動車用や鉄道車両用さらには航空機用や船舶用の資材として好適なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明について、さらに詳細に述べる。
【0012】
まず本発明で使用するポリウレタンについて述べる。
【0013】
本発明に使用されるポリウレタンは、ポリマージオールおよびジイソシアネートを出発物質とするポリウレタンであれば任意のものであってよく、特に限定されるものではない。また、その合成法も特に限定されるものではない。
【0014】
すなわち、例えば、ポリマージオールとジイソシアネートと低分子量ジアミンからなるポリウレタンウレアであってもよく、また、ポリマージオールとジイソシアネートと低分子量ジオールからなるポリウレタンであってもよい。また、鎖伸長剤として水酸基とアミノ基を分子内に有する化合物を使用したポリウレタンウレアであってもよい。なお、本発明の効果を妨げない範囲で3官能性以上の多官能性のグライコールやイソシアネート等が使用されることも好ましい。
【0015】
ここで、本発明で使用されるポリウレタンを構成する代表的な構造単位について述べる。
【0016】
ポリウレタンを構成する構造単位のポリマージオールとしては、ポリエーテル系グリコール、ポリエステル系グリコール、ポリカーボネートジオール等が好ましい。そして、特に柔軟性、伸度を糸に付与する観点からポリエーテル系グリコールが使用されることが好ましい。
【0017】
ポリエーテル系グリコールは、次の一般式(II)で表される単位を含む共重合ジオール化合物を含むことが好ましい。
【0018】
【化2】

【0019】
(但し、a、cは1〜3の整数、bは0〜3の整数、R1、R2はH又は炭素数1〜3のアルキル基)
このポリエーテル系ジオール化合物としては、具体的には、ポリエチレングリコール、変性ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(以下、PTMGと略す)、テトラヒドロフラン(以下、THFと略す)および3−メチル−THFの共重合体である変性PTMG、THFおよび2,3−ジメチル−THFの共重合体である変性PTMG、THF及びネオペンチルグリコールの共重合体である変性PTMG、THFとエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドが不規則に配列したランダム共重合体等が挙げられる。これらポリエーテル系グリコール類の1種を使用してもよいし、また2種以上を混合もしくは共重合して使用してもよい。その中でもPTMGまたは変性PTMGが好ましい。
【0020】
また、ポリウレタン糸における耐摩耗性や耐光性を高める観点からは、ブチレンアジペート、ポリカプロラクトンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオールとポリプロピレンポリオールの混合物をアジピン酸等と縮重合することにより得られる側鎖を有するポリエステルジオールなどのポリエステル系グリコールや、3,8−ジメチルデカン二酸及び/又は3,7−ジメチルデカン二酸からなるジカルボン酸成分とジオール成分とから誘導されるジカルボン酸エステル単位を含有するポリカーボネートジオール等が好ましく使用される。
【0021】
こうしたポリマージオールは単独で使用されてもよいし、2種以上混合もしくは共重合して使用されてもよい。
【0022】
本発明に使用されるポリマージオールの分子量は、弾性糸にした際の伸度、強度、耐熱性などを所望水準とするために、数平均分子量で1000〜8000が好ましく、1800〜6000がより好ましい。この範囲の分子量のポリマージオールが使用されることにより、伸度、強度、弾性回復力、耐熱性に優れた弾性糸を得ることができる。
【0023】
次に、ポリウレタンを構成する構造単位のジイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと略す)、トリレンジイソシアネート、1,4−ジイソシアネートベンゼン、キシリレンジイソシアネート、2,6−ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートが、特に耐熱性や強度の高いポリウレタンを合成するのに好適である。さらに脂環族ジイソシアネートとして、例えば、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサン−2,4−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサン−2,6−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサヒドロキシリレンジイソシアネート、ヘキサヒドロトリレンジイソシアネート、オクタヒドロ−1,5−ナフタレンジイソシアネートなどが好ましい。脂肪族ジイソシアネートは、特にポリウレタン糸の黄変を抑制する際に有効に使用できる。そして、これらのジイソシアネートは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
次に、ポリウレタンを構成する構造単位の鎖伸長剤としては、低分子量ジアミンおよび低分子量ジオールのうち少なくとも1種以上を使用するのが好ましい。なお、エタノールアミンのような水酸基とアミノ基を分子中に有するものであってもよい。
【0025】
好ましい低分子量ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、p−フェニレンジアミン、p−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p,p’−メチレンジアニリン、1,3−シクロヘキシルジアミン、ヘキサヒドロメタフェニレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ビス(4−アミノフェニル)フォスフィンオキサイドなどが挙げられる。これらの中から1種または2種以上が使用されることも好ましい。特に好ましくはエチレンジアミンである。エチレンジアミンを用いることにより伸度および弾性回復性、さらに耐熱性に優れた糸を得ることができる。これらの鎖伸長剤に架橋構造を形成することのできるトリアミン化合物、例えば、ジエチレントリアミン等を効果を失わない程度に加えてもよい。
【0026】
また、低分子量ジオールとしては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、ビスヒドロキシエチレンテレフタレート、1−メチル−1,2−エタンジオールなどが代表的なものである。これらの中から1種または2種以上が使用されることも好ましい。特に好ましくはエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールである。これらを用いると、ジオール伸長のポリウレタンとしては耐熱性が高く、また、強度の高い糸を得ることができるのである。
【0027】
さらに、本発明におけるポリウレタンには、末端封鎖剤が1種または2種以上混合使用されることも好ましい。末端封鎖剤として、ジメチルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルメチルアミン、ジエチルアミン、メチルプロピルアミン、イソプロピルメチルアミン、ジイソプロピルアミン、ブチルメチルアミン、イソブチルメチルアミン、イソペンチルメチルアミン、ジブチルアミン、ジアミルアミンなどのモノアミン、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロパノール、アリルアルコール、シクロペンタノールなどのモノオール、フェニルイソシアネートなどのモノイソシアネートなどが好ましい。
【0028】
また、本発明のポリウレタン弾性糸の分子量は、耐久性や強度の高い繊維を得る観点から、数平均分子量として40000以上150000以下の範囲であることが好ましい。なお、分子量はGPCで測定し、ポリスチレンにより換算した値である。
【0029】
そして、本発明の弾性糸を構成するポリウレタンとして特に好ましいものは、工程通過性も含め、実用上の問題がなく、かつ、高耐熱性に優れたものを得る観点から、ジオールとジイソシアネートからなり、かつ高温側の融点が200℃以上300℃以下の範囲となるものである。ここで、高温側の融点とは、DSCで測定した際のポリウレタンまたはポリウレタンウレアのいわゆるハードセグメント結晶の融点が該当する。
【0030】
即ち、ポリマージオールとして分子量が1000以上6000以下の範囲にあるPTMG、ジイソシアネートとしてMDI、鎖伸長剤としてエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミンからなる群から少なくとも1種選ばれたものが使用されてポリウレタンが合成され、かつ、高温側の融点が200℃以上300℃以下の範囲であるポリウレタンから製造された弾性糸は、特に伸度が高くなり、さらに上記のように、工程通過性も含め、実用上の問題はなく、かつ、高耐熱性に優れるので好ましい。
【0031】
なお、ポリウレタン糸の高温側の融点を200℃以上300℃以下にするための方法としては、事前のテストによって、ジイソシアネートとポリマージオール、鎖伸長剤の比率の最適値を選択する方法が好ましい。
【0032】
次に、本発明における芳香族縮合リン酸エステルとしては、2個以上のリン酸が芳香族基を介して結合されたものである。本発明においては、一般式(I)で表される構造を有する芳香族縮合リン酸エステルを好適に用いることができる。
【0033】
【化3】

【0034】
(R1は芳香族基であり、R2は、水素又は炭素数1〜3のアルキル基であり、複数個のR2は、同一であっても、異なっていてもよく、R3は、水素又は炭素数1〜3のアルキル基であり、複数個のR3は、同一であっても、異なっていてもよい。)
具体的には、1,3フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノールSビス(ジフェニルホスフェート)、1,3−フェニレンビス(ジキシレニルホスフェート)等が好ましい。その中でもより高い耐薬品性、耐熱性を発揮するために、一般式(I)のR2がアルキル基で置換されたものが好ましく、例えば、1,3−フェニレンビス(ジキシレニルホスフェート)等が好ましい。
【0035】
本発明のポリウレタン弾性糸中に含まれる芳香族縮合リン酸エステルの量は、良好な紡糸性、バランスの良い機械物性、耐熱性を得る観点から、0.5重量%以上50重量%以下の範囲が好ましく、ポリウレタン糸の強伸度の降下を少なくする観点から、5重量%以上20重量%以下がより好ましい。
【0036】
また、本発明において、ポリウレタン弾性糸やポリウレタン紡糸液中に、各種安定剤や顔料などが含有されていてもよい。例えば、耐光剤、酸化防止剤などに2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT)や住友化学工業株式会社製の“スミライザーGA−80”などのヒンダードフェノール系薬剤、チバガイギー社製“チヌビン”などのベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系薬剤、住友化学工業株式会社製の“スミライザーP−16”などのリン系薬剤、各種のヒンダードアミン系薬剤、酸化鉄、酸化チタンなどの各種顔料、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化マグネシウム、カーボンブラックなどの無機物、フッ素系またはシリコーン系樹脂粉体、ステアリン酸マグネシウムなどの金属石鹸、また、銀や亜鉛やこれらの化合物などを含む殺菌剤、消臭剤、またシリコーン、鉱物油などの滑剤、硫酸バリウム、酸化セリウム、ベタインやリン酸系などの各種の帯電防止剤などが含まれることも好ましく、またこれらとポリマとを反応させることも好ましい。そして、特に光や各種の酸化窒素などへの耐久性をさらに高めるには、例えば、日本ヒドラジン株式会社製のHN−150などの酸化窒素補足剤が使用されることも好ましい。
【0037】
また、乾式紡糸工程における紡糸速度を上げ易いという観点から、二酸化チタン、酸化亜鉛等の金属酸化物の微粒子を添加してもよい。また、耐熱性向上や機能性向上の観点から、無機物や無機多孔質(例えば、竹炭、木炭、カーボンブラック、多孔質泥、粘土、ケイソウ土、ヤシガラ活性炭、石炭系活性炭、ゼオライト、パーライト等)が、本発明の効果を阻害しない範囲内で添加されてもよい。
【0038】
これらのその他の添加剤は、ポリウレタン溶液と前記した芳香族縮合リン酸エステルとの混合により紡糸原液を調製する際に添加してもよいし、また、混合前のポリウレタン溶液中や分散液中に予め含有させておいてもよい。これら添加剤の含有量は目的等に応じて適宜決定される。
【0039】
本発明のポリウレタン弾性糸は、以上の構成により、耐アルカリ性、各種薬剤への耐性、高回復性、高強伸度、高耐熱性などの優れた特性を有する。さらに、それらの優れた特性に加えて、難燃性を有するポリウレタン弾性糸とすることができる。
【0040】
難燃性のポリウレタン弾性糸は従来知られておらず、難燃性を要求される用途においては、通常、従来のポリウレタン弾性糸を用いて織編物とした後に、後加工として難燃加工が施されている。そのため、ポリウレタン弾性糸と混用する糸として難燃性ポリエステル等の難燃糸を用いて織編物を構成する場合であっても、後加工は必要とされているのが現状である。しかしながら、本発明の好ましい態様においては、後加工としての難燃加工が施されることなしに、難燃性のポリウレタン弾性糸、すなわちポリウレタン弾性糸のみを用いて幅約5cmの筒編み地を編成し、米国自動車安全基準 FMVSS−302法にて水平燃焼試験を行った際に自己消火性(燃焼処理が0mm)を示すものとすることが可能である。したがって、例えば難燃性ポリエステル糸等の難燃糸と混用して織編物を構成した場合、後加工としての難燃加工を省略することができる。なお、かかる難燃性の試験方法の詳細は、後述の実施例で説明する。
【0041】
本発明のポリウレタン弾性糸に難燃性を発現させるためには、ポリウレタン弾性糸中の芳香族縮合リン酸エステルの含有量が3.0重量%以上であることが好ましく、上記したような良好な紡糸性、バランスの良い機械物性、強伸度の維持をも考慮すると、5.0〜20.0重量%であることが好ましい。
【0042】
次に本発明のポリウレタン弾性糸の製造方法について詳細に説明する。
【0043】
本発明においては最初にポリウレタン溶液を作製するのが好ましい。ポリウレタン溶液、また、その溶液中の溶質であるポリウレタンを製造する方法は、溶融重合法、溶液重合法のいずれであってもよく、他の方法であってもよい。しかし、より好ましいのは溶液重合法である。溶液重合法の場合には、ポリウレタンにゲルなどの異物の発生が少ないので、紡糸しやすく、低繊度のポリウレタン糸を製造しやすい。また、溶液重合法の場合、溶液にする操作が省けるという利点がある。
【0044】
そして本発明に特に好適なポリウレタンとしては、ポリマージオールとして分子量が1000以上6000以下のPTMGを用い、ジイソシアネートとしてMDIを用い、さらに、鎖伸長剤としてエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミンのうちの少なくとも1種を使用して合成され、かつ、高温側の融点が200℃以上300℃以下の範囲のものが挙げられる。
【0045】
かかるポリウレタンは、例えば、ジメチルアセトアミド(DMAcと略称される)、ジメチルホルムアミド(DMFと略称される)、ジメチルスルホキシド(DMSOと略称される)、N−メチル−2−ピロリドン(NMPと略称される)などやこれらを主成分とする溶剤の中で、上記の原料を用い合成することにより得られる。例えば、こうした溶剤中に、各原料を投入、溶解させ、適度な温度に加熱し反応させてポリウレタンとする、いわゆるワンショット法、また、ポリマージオールとジイソシアネートを、まず溶融反応させ、しかる後に、反応物を溶剤に溶解し、前述のジオールと反応させてポリウレタンとする方法などが、特に好適な方法として採用され得る。
【0046】
鎖伸長剤にジオールを用いる場合、ポリウレタンの高温側の融点を200℃以上300℃以下の範囲内とするための代表的な方法としては、ポリマージオール、MDI、ジオールの種類と比率をコントロールすることが挙げられる。例えば、ポリマージオールの分子量が低い場合には、MDIの割合を相対的に多くすることにより、高温側の融点が高いポリウレタンを得ることができる。また、同様にジオールの分子量が低いときはポリマージオールの割合を相対的に少なくすることにより、高温側の融点が高いポリウレタンを得ることができる。ポリマージオールの分子量が1800以上の場合、高温側の融点を200℃以上にするには、(MDIのモル数)/(ポリマージオールのモル数)=1.5以上の割合で、重合を進めることが好ましい。
【0047】
なお、かかるポリウレタンの合成に際し、アミン系触媒や有機金属触媒等の触媒が1種もしくは2種以上混合して使用されることも好ましい。
【0048】
アミン系触媒としては、例えば、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、トリエチルアミン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサンジアミン、ビス−2−ジメチルアミノエチルエーテル、N,N,N’,N’,N’−ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルグアニジン、トリエチレンジアミン、N,N’−ジメチルピペラジン、N−メチル−N’−ジメチルアミノエチル−ピペラジン、N−(2−ジメチルアミノエチル)モルホリン、1−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、N,N−ジメチルアミノエタノール、N,N,N’−トリメチルアミノエチルエタノールアミン、N−メチル−N’−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N,N−ジメチルアミノヘキサノール、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0049】
また、有機金属触媒としては、オクタン酸スズ、二ラウリン酸ジブチルスズ、オクタン酸鉛ジブチル等が挙げられる。
【0050】
こうして得られるポリウレタン溶液におけるポリウレタンの濃度は、通常、30重量%以上80重量%以下の範囲が好ましい。
【0051】
本発明においては、かかるポリウレタン溶液に、芳香族縮合リン酸エステルを添加するのが好ましい。芳香族縮合リン酸エステルのポリウレタン溶液への添加方法としては、任意の方法が採用できる。その代表的な方法としては、スタティックミキサーによる方法、攪拌による方法、ホモミキサーによる方法、2軸押し出し機を用いる方法など各種の手段が採用できる。ここで、添加される芳香族縮合リン酸エステルは、ポリウレタン溶液への均一な添加を行う観点から、溶液にして添加することが好ましい。
【0052】
なお、芳香族縮合リン酸エステルのポリウレタン溶液への添加により、添加後の混合溶液の溶液粘度が添加前のポリウレタンの溶液粘度に比べ予想以上に高くなる現象が発生する場合があるが、この現象を防止する観点から、ジメチルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルメチルアミン、ジエチルアミン、メチルプロピルアミン、イソプロピルメチルアミン、ジイソプロピルアミン、ブチルメチルアミン、イソブチルメチルアミン、イソペンチルメチルアミン、ジブチルアミン、ジアミルアミンなどのモノアミン、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロパノール、アリルアルコール、シクロペンタノールなどのモノオール、フェニルイソシアネートなどのモノイソシアネートなどの末端封鎖剤が1種または2種以上混合して使用されることも好ましい。
【0053】
芳香族縮合リン酸エステルのポリウレタン溶液への添加の際に、前記した、例えば、耐光剤、耐酸化防止剤などの薬剤や顔料などを同時に添加してもよい。
【0054】
以上のように構成したポリウレタン溶液を、たとえば乾式紡糸、湿式紡糸、もしくは溶融紡糸し、巻き取ることで、本発明のポリウレタン弾性糸を得ることができる。中でも、細物から太物まであらゆる繊度において安定に紡糸できるという観点から、乾式紡糸が好ましい。
【0055】
本発明のポリウレタン弾性糸の繊度、単糸数、断面形状などは特に限定されるものではない。例えば、糸は1単糸で構成されるモノフィラメントでもよく、また複数単糸で構成されるマルチフィラメントでもよい。糸の断面形状は円形であってもよく、また扁平であってもよい。
【0056】
そして、乾式紡糸方式についても特に限定されるものではなく、任意の方法で、すなわち所望する特性や紡糸設備に見合った紡糸条件等を適宜選択して紡糸すればよい。
【0057】
例えば、本発明のポリウレタン弾性糸の永久歪率と応力緩和の特性は、特にゴデローラーと巻取機の速度比の影響を受けやすいので、糸の使用目的に応じて適宜決定されるのが好ましい。すなわち、所望の永久歪率と応力緩和を有するポリウレタン弾性糸を得る観点から、ゴデローラーと巻取機の速度比は1.15以上1.65以下の範囲として巻き取ることが好ましい。そして、特に低い永久歪率と、低い応力緩和を有するポリウレタン弾性糸を得る際には、ゴデローラーと巻取機の速度比は1.15以上1.40以下の範囲がより好ましく、1.15以上1.35以下の範囲がさらに好ましい。一方、高い永久歪率と、高い応力緩和を有するポリウレタン弾性糸を得る際には、ゴデローラーと巻取機の速度比は1.25以上1.65以下の範囲として巻き取ることが好ましく、1.35以上1.65以下の範囲がより好ましい。
【0058】
また、紡糸速度を高くすることによってポリウレタン弾性糸の強度を向上させることができるので、450m/分以上の紡糸速度をとることが、実用上好適な強度水準とするために好ましい。さらに工業生産の点を考慮すると、450〜1000m/分程度が好ましい。
【0059】
上述のようにして得られる本発明のポリウレタン系弾性糸は、その他の繊維と混用して伸縮性布帛を構成することができる。伸縮性布帛の形態については、何ら制限されるものではなく、その混用率、組み合わせる素材繊維、混用方法は適宜選択されて公知の手段によって布帛化されればよい。ポリウレタン系弾性糸は、そのまま裸糸として用いてもよいし、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維ならびにアクリル繊維などの合成繊維や綿、羊毛などの天然繊維等の従来から知られている繊維の1種以上と自由に組み合わせたり被覆されたりしたものを用いてもよい。
【0060】
また、布帛を構成するにあたり本発明のポリウレタン系弾性糸と組み合わせる繊維としては、ナイロン等のポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートやこれらを主成分とした共重合ポリエステル系繊維に代表されるポリエステル系合成繊維、アクリル系合成繊維、ポリプロピレン系合成繊維、アセテート繊維に代表される半合成繊維、綿や麻や羊毛に代表される天然繊維の単独品または2種以上を混合したものが好ましく使用される。
【実施例】
【0061】
本発明を実施例によってさらに詳しく説明する。
【0062】
本発明におけるポリウレタン弾性糸の破断強度、破断伸度、永久歪率、応力緩和、耐薬品性、耐アルカリ性、耐熱性(熱軟化点、融点)の測定法を説明する。
【0063】
[永久歪率、応力緩和、破断強度、破断伸度]
永久歪率、応力緩和、破断強度、破断伸度は、ポリウレタン弾性糸をインストロン4502型引張試験機を用い、引張テストすることにより測定した。測定回数はn=3で測定し、それらの平均値を採用した。
【0064】
試長5cm(L1)の試料を50cm/分の引張速度で300%伸長を5回繰返した。このとき、300%伸長時の応力を(G1)とした。次に試料の長さを300%伸長のまま30秒間保持した。30秒間保持後の応力を(G2)とした。次に試料の伸長を回復せしめ応力が0になった際の試料の長さを(L2)とした。さらに6回目に試料が切断するまで伸長した。この破断時の応力を(G3)、破断時の試料長さを(L3)とした。以下、上記特性は下記式により算出される。
【0065】
破断強度(cN)=(G3)
応力緩和(%)=100×((G1)−(G2))/(G1)
永久歪率(%)=100×((L2)−(L1))/(L1)
破断伸度(%)=100×((L3)−(L1))/(L1)
[耐薬品性]
糸を100%伸長状態で固定し、次の3種の暴露処理を実施した。まず、オレイン酸のヘキサン溶液(5重量%)に1時間浸積処理し、次に調製した次亜塩素酸溶液(塩素濃度500ppm)に2時間浸漬処理し、次に2時間UV暴露を行う。UV暴露処理は、機器としてスガ試験機社製のカーボンアーク型フェードメーターを用い、63℃、60%RHの温湿度で実施した。この暴露処理を合計2回実施した後、糸をフリーで24時間、室温で放置し、前記と同じ方法で破断強度(G4)を測定した。未処理糸の破断強度(G3)に対する、処理後の破断強度(G4)の割合(保持率)を耐薬品性とした。測定回数はn=3で測定し、それらの平均値を採用した。
【0066】
耐薬品性(%)=100×(G4)/(G3)
[耐アルカリ性]
ポリウレタン糸の耐アルカリ性の指標として、ポリエステル繊維の減量加工時を想定した処理を行い、糸の破断強度保持率を評価する。
【0067】
糸を100%伸長状態で固定し、圧力容器に封入し、カチオン系減量促進剤(一方社製DXN−10)と水酸化ナトリウムとを含む水溶液(各8.0重量%含有)で満たし、100℃で、120分間処理した後、糸をフリーで24時間、室温で放置し、前記と同じ方法で破断強度(G5)を測定した。未処理糸の破断強度(G3)に対する、処理後の破断強度(G5)の割合(保持率)を耐アルカリ性とした。測定回数はn=3で測定し、それらの平均値を採用した。
【0068】
耐アルカリ性(%)=100×(G5)/(G3)
[熱軟化点]
ポリウレタン糸の耐熱性の指標の一つとして熱軟化点を測定した。ポリウレタン糸について、レオメトリック社製動的弾性率測定機RSAIIを用い、昇温速度10℃/分で、動的貯蔵弾性率E’の温度分散を測定した。熱軟化点は、E’曲線が80℃以上130℃以下のプラト領域での接線と、160℃以上にてE’が熱軟化により降下するE’曲線の接線との交点から求めた。なお、E’は対数軸、温度は線形軸を用いた。測定回数はn=3で測定し、それらの平均値を採用した。
【0069】
[融点]
ポリウレタン糸の耐熱性の指標の一つとして高温側融点、すなわち、ハードセグメント結晶の融点を測定した。ポリウレタン糸について、ティー・イー・インスツルメント社製2920モジュレーティドDSCを用い、昇温速度3℃/分で、不可逆熱流を測定し、そのピークトップを融点とした。測定回数はn=3で測定し、それらの平均値を採用した。
【0070】
[実施例1]
分子量2900のPTMG、MDIおよびエチレングリコールからなるポリウレタン重合体(a1)のDMAc溶液(35重量%)を常法により重合し、ポリマ溶液A1とした。次に、芳香族縮合リン酸エステルとして、1,3-フェニレンビスジキシレニルホスフェート(b1)を用い、そのDMAc溶液B1を調製した。さらに、酸化防止剤として、t−ブチルジエタノールアミンとメチレン−ビス−(4−シクロヘキシルイソシアネ−ト)の反応によって生成せしめたポリウレタン溶液(デュポン社製“メタクロール”(登録商標)2462、(c1)と、p−クレゾ−ル及びジビニルベンゼンの縮合重合体(デュポン社製“メタクロール”(登録商標)2390、(c2)とを2対1(重量比)で混合し、酸化防止剤のDMAc溶液(濃度35重量%)を調製し、これをその他添加剤溶液C1(35重量%)とした。
【0071】
ポリマ溶液A1、芳香族縮合リン酸エステル溶液B1、その他添加剤溶液C1を、それぞれ87重量%、10重量%、3重量%で均一に混合し、紡糸溶液D1とした。この紡糸溶液をゴデローラーと巻取機の速度比1.4として540m/分の紡糸速度で乾式紡糸して巻取り、20dtex、モノフィラメントのポリウレタン弾性糸(200g巻糸体)を作製した。
【0072】
得られたポリウレタン弾性糸の組成(重量%)は表1のとおりであった。
【0073】
このポリウレタン弾性糸の破断伸度、破断強度、永久歪率、応力緩和、耐薬品性、耐アルカリ性、熱軟化点、融点を表2に示す。破断伸度、破断強度はともに、芳香族縮合リン酸エステル未配合の比較例1(後述)に比べ増大した。永久歪率、応力緩和は比較例1に比べ減少し、回復性が向上した。耐薬品性および耐アルカリ性は比較例1に比べ、大幅に増加し、それぞれ、2倍以上を示した。耐熱性の指標である熱軟化点、融点も比較例1より向上した。
【0074】
さらに次の方法でストレッチ織物を製作し、外観品位を評価した。
【0075】
まず、得られたポリウレタン弾性糸をカバーリング加工した。カバーリング用糸としてレギュラーポリエステル繊維168dtex−48filを使用し、カバーリング機を用いてヨリ数=450t/m、ドラフト=3.0の条件で加工してヨコ糸用カバーリング糸を作製した。また、同様に、カバーリング用糸としてレギュラーポリエステル繊維168dtex−48filを使用し、カバーリング機を用いてヨリ数700T/M、ドラフト=3.5の条件で加工してタテ糸用カバーリング糸を作製した。
【0076】
次に、整経・製織を行った。タテ糸の5100本(荒巻き整経1100本)を糊付け整経し、レピアー織機を用いて2/1綾組織で製織した。
【0077】
次に、染色加工を行った。製織で得た生機を、常法に従い精練加工、中間セット(185℃)、アルカリ減量加工(N処理)、エンボス加工(190℃)、染色加工(130℃)、乾燥、仕上げ剤処理、仕上げセット(180℃、布速20m/min、セットゾーン24m)を順次行った。
【0078】
得られたストレッチ織物は欠点がなく、外観品位に優れたものであった。
【0079】
[実施例2]
実施例1で調製したポリマ溶液A1、芳香族縮合リン酸エステル溶液B1、及び、その他添加剤溶液C1を、それぞれ92重量%、5重量%、3重量%で均一に混合し、紡糸溶液D2とした。
【0080】
この紡糸溶液をゴデローラーと巻取機の速度比1.40として540m/分の紡糸速度で乾式紡糸して巻取り、20dtex、モノフィラメントのポリウレタン弾性糸(200g巻糸体)を作製した。
【0081】
得られたポリウレタン弾性糸の組成(重量%)は表1のとおりであった。
【0082】
このポリウレタン弾性糸の破断伸度、破断強度、永久歪率、応力緩和、耐薬品性、耐アルカリ性、熱軟化点、融点を表2に示す。破断強度は比較例1(後述)に比べ増大し、伸度は同等を維持した。永久歪率、応力緩和は比較例1に比べ減少し、回復性が向上した。耐薬品性および耐アルカリ性は比較例1に比べ、大幅に増加し、それぞれ、2倍以上を示した。耐熱性の指標である熱軟化点は比較例1と同レベルを維持し、融点では比較例1より向上した。
【0083】
また、実施例1と同様の方法でストレッチ織物を製作し、外観品位を評価したところ、得られたストレッチ織物は欠点がなく、外観品位に優れたものであった。
【0084】
[実施例3]
分子量1800のPTMG、MDI、エチレンジアミン、および末端封鎖剤としてジエチルアミンからなるポリウレタンウレア重合体(a2)のDMAc溶液(35重量%)を常法により重合し、ポリマ溶液A2とした。次に、このDMAc溶液A2、実施例1で調製した芳香族縮合リン酸エステル溶液B1、及び実施例1で調製したその他添加剤溶液C1を、それぞれ、87重量%、10重量%、3.0重量%で均一に混合し、紡糸溶液D3とした。この紡糸溶液D3をゴデローラーと巻取機の速度比を1.20として600m/分の紡糸速度で乾式紡糸して巻取り、20dtex、2filのマルチフィラメントのポリウレタン弾性糸(500g巻糸体)を作製した。
【0085】
得られたポリウレタン弾性糸の組成(重量%)を表1に示す。また、破断伸度、破断強度、永久歪率、応力緩和、耐薬品性、耐アルカリ性、熱軟化点、融点を表2に示す。破断強度、破断伸度はB1未配合の比較例2(後述)に比べ増大した。永久歪率は比較例2に比べ減少し、回復性が向上した。耐薬品性および耐アルカリ性は比較例2に比べ、大幅に増加し、それぞれ、2倍以上および3倍に達した。耐熱性の指標である熱軟化点は比較例2より増大し、融点ではB1未配合の比較例2より10℃も増加した。
【0086】
また、実施例1と同様の方法でストレッチ織物を製作し、外観品位を評価したところ、得られたストレッチ織物は欠点がなく、外観品位に優れたものであった。
【0087】
[実施例4]
実施例3で調製したポリマ溶液A2、芳香族縮合リン酸エステル溶液B1、及び、その他添加剤溶液C1を、それぞれ92重量%、5重量%、3重量%で均一に混合し、紡糸溶液D4とした。この紡糸溶液D4をゴデローラーと巻取機の速度比を1.30として600m/分の紡糸速度で乾式紡糸して巻取り、20dtex、2filのマルチフィラメントのポリウレタン弾性糸(500g巻糸体)を作製した。
【0088】
得られたポリウレタン弾性糸の組成(重量%)は表1に示すとおりであった。
【0089】
このポリウレタン弾性糸の破断伸度、破断強度、永久歪率、応力緩和、熱軟化点、熱軟化点、及び耐薬品性を表2に示した。耐薬品性、耐アルカリ性は、B1未配合の比較例2に比べ、2.5倍以上に増加した。破断伸度、破断強度はB1未配合の比較例2に比べ、大幅に増加した。回復性の指標である永久歪率、応力緩和、さらには熱軟化点もB1未配合の比較例1と同等以上であった。
【0090】
また、実施例1と同様の方法でストレッチ織物を製作し、外観品位を評価したところ、得られたストレッチ織物は欠点がなく、外観品位に優れたものであった。
【0091】
[実施例5]
芳香族縮合リン酸エステルとして、1,3-フェニレンビスジフェニルホスフェート(b2)を用い、そのDMAc溶液B2を調製した。
【0092】
実施例1で調製したポリマ溶液A1、芳香族縮合リン酸エステル溶液B2、及びその他添加剤溶液C1を、それぞれ87重量%、10重量%、3重量%で均一に混合し、紡糸溶液D5とした。
【0093】
この紡糸溶液をゴデローラーと巻取機の速度比1.40として540m/分の紡糸速度で乾式紡糸して巻取り、20dtex、モノフィラメントのポリウレタン弾性糸(200g巻糸体)を作製した。
【0094】
得られたポリウレタン弾性糸の組成(重量%)は表1のとおりであった。
【0095】
このポリウレタン弾性糸の破断伸度、破断強度、永久歪率、応力緩和、耐薬品性、耐アルカリ性、熱軟化点、融点を表2に示した。破断伸度、破断強度は共に比較例1(後述)に比べ増大した。永久歪率、応力緩和は比較例1に比べ減少し、回復性が向上した。耐薬品性および耐アルカリ性は比較例1に比べ、大幅に増加し、それぞれ、2倍以上を示した。耐熱性の指標である熱軟化点は比較例1と同レベルを維持し、融点では比較例1より向上した。
【0096】
また、実施例1と同様の方法でストレッチ織物を製作し、外観品位を評価したところ、得られたストレッチ織物は欠点がなく、外観品位に優れたものであった。
【0097】
[実施例6]
実施例3で調製したポリマ溶液A2、芳香族縮合リン酸エステル溶液B1、及び、その他添加剤溶液C1を、それぞれ94.5重量%、2.5重量%、3重量%で均一に混合し、紡糸溶液D6とした。この紡糸溶液D6をゴデローラーと巻取機の速度比を1.30として600m/分の紡糸速度で乾式紡糸して巻取り、20dtex、2filのマルチフィラメントのポリウレタン弾性糸(500g巻糸体)を作製した。
【0098】
得られたポリウレタン弾性糸の組成(重量%)は表1に示すとおりであった。
【0099】
このポリウレタン弾性糸の破断伸度、破断強度、永久歪率、応力緩和、熱軟化点、熱軟化点、及び耐薬品性を表2に示した。B1未配合の比較例2に比べ、耐薬品性は1.8倍、耐アルカリ性は1.6倍以上に増加した。破断伸度、破断強度はB1未配合の比較例2に比べ、増加した。回復性の指標である永久歪率、応力緩和、さらには熱軟化点もB1未配合の比較例2と同等以上であった。
【0100】
また、実施例1と同様の方法でストレッチ織物を製作し、外観品位を評価したところ、得られたストレッチ織物は欠点がなく、外観品位に優れたものであった。
【0101】
[実施例7]
実施例3で調製したポリマ溶液A2、芳香族縮合リン酸エステル溶液B1、及び、その他添加剤溶液C1を、それぞれ77重量%、20重量%、3重量%で均一に混合し、紡糸溶液D7とした。この紡糸溶液D7をゴデローラーと巻取機の速度比を1.30として600m/分の紡糸速度で乾式紡糸して巻取り、20dtex、2filのマルチフィラメントのポリウレタン弾性糸(500g巻糸体)を作製した。
【0102】
得られたポリウレタン弾性糸の組成(重量%)は表1に示すとおりであった。
【0103】
このポリウレタン弾性糸の破断伸度、破断強度、永久歪率、応力緩和、熱軟化点、熱軟化点、及び耐薬品性を表2に示した。B1未配合の比較例2に比べ、耐薬品性、耐アルカリ性は2倍以上に増加した。破断伸度、破断強度及び回復性の指標である永久歪率、応力緩和はB1未配合の比較例2と同等であった。熱軟化点はB1未配合の比較例2と同等以上であった。
【0104】
また、実施例1と同様の方法でストレッチ織物を製作し、外観品位を評価したところ、得られたストレッチ織物は欠点がなく、外観品位に優れたものであった。
【0105】
[実施例8]
実施例3で調製したポリマ溶液A2、芳香族縮合リン酸エステル溶液B1、及び、その他添加剤溶液C1を、それぞれ75重量%、22重量%、3重量%で均一に混合し、紡糸溶液D8とした。この紡糸溶液D7をゴデローラーと巻取機の速度比を1.30として600m/分の紡糸速度で乾式紡糸して巻取り、20dtex、2filのマルチフィラメントのポリウレタン弾性糸(500g巻糸体)を作製した。
【0106】
得られたポリウレタン弾性糸の組成(重量%)は表1に示すとおりであった。
【0107】
このポリウレタン弾性糸の破断伸度、破断強度、永久歪率、応力緩和、熱軟化点、熱軟化点、及び耐薬品性を表2に示した。B1未配合の比較例2に比べ、耐薬品性、耐アルカリ性は2倍以上に増加した。破断伸度、破断強度はB1未配合の比較例2に比べ、増加した。また、回復性の指標である永久歪率、応力緩和は低下し、比較例2に比べ向上した。熱軟化点はB1未配合の比較例2と同等以上であった。
【0108】
また、実施例1と同様の方法でストレッチ織物を製作し、外観品位を評価したところ、得られたストレッチ織物は欠点がなく、外観品位に優れたものであった。
【0109】
[比較例1]
実施例1で調製したポリマ溶液A1、及び実施例1で調製したその他添加剤溶液添加剤溶液C1を、それぞれ、97重量%、3重量%の割合で均一混合し、紡糸溶液E1とした。この紡糸溶液E1をゴデローラーと巻取機の速度比を1.40として540m/分の紡糸速度で乾式紡糸して巻取り、20dtex、モノフィラメントのポリウレタン弾性糸を作製した。
【0110】
得られたポリウレタン弾性糸の破断伸度、破断強度、永久歪率、応力緩和、耐薬品性、耐アルカリ性、熱軟化点、融点を表2に示す。耐薬品性、耐アルカリ性は、芳香族縮合リン酸エステルを含有する実施例1〜2に比べ、大幅に劣るものであった。
【0111】
また、実施例1と同様の方法でストレッチ織物を製作し、外観品位を評価したところ、これの外観は各種加工履歴によるポリウレタン糸のへたりに起因する部分波打ちの発生が認められ、20mあたり15箇所であり、不満足なものであった。
【0112】
[比較例2]
実施例3で調製したポリマ溶液A2、及び実施例1で調製したその他添加剤溶液添加剤溶液C1を、それぞれ、97重量%、3重量%の割合で均一混合し、紡糸溶液E2とした。この紡糸溶液E2をゴデローラーと巻取機の速度比を1.20として600m/分の紡糸速度で乾式紡糸して巻取り、20dtex、2filのマルチフィラメントのポリウレタン弾性糸(500g巻糸体)を作製した。
【0113】
得られたポリウレタン弾性糸の破断伸度、破断強度、永久歪率、応力緩和、耐薬品性、耐アルカリ性、熱軟化点、融点を表2に示す。耐薬品性、耐アルカリ性は、芳香族縮合リン酸エステルを含有する実施例3〜4に比べ、大幅に劣るものであった。
【0114】
また、実施例1と同様の方法でストレッチ織物を製作し、外観品位を評価したところ、これの外観は各種加工履歴によるポリウレタン糸のへたりに起因する部分波打ちの発生が認められ、20mあたり4箇所であり、不満足なものであった。
【0115】
[比較例3]
特開2000−73233号公報に記載のクレハ化学工業(株)製ポリフッ化ビニリデン(数平均分子量48,000、f1)のDMAc溶液F1(35重量%)を調製した。その調製は実施例1と同一の方法で行った。実施例3で調製したポリマ溶液A2、上記のポリフッ化ビニリデン溶液F1、及び実施例1で調製したその他添加剤溶液C1を、それぞれ92重量%、5重量%、3.0重量%で均一に混合し、紡糸溶液E3とした。この紡糸溶液E3をゴデローラーと巻取機の速度比を1.30として600m/分の紡糸速度で乾式紡糸して巻取り、20dtex、2filのマルチフィラメントのポリウレタン弾性糸(500g巻糸体)を作製した。
【0116】
得られたポリウレタン弾性糸の破断伸度、破断強度、永久歪率、応力緩和、熱軟化点、熱軟化点、及び耐薬品性を表2に示した。耐薬品性は、ポリフッ化ビニリデンを添加しなかった比較例2の場合の1.5倍に向上したもの、実施例3、4等に比べ、劣るものであった。さらに、永久歪率が大き過ぎるものであった。
【0117】
また、実施例1と同様の方法でストレッチ織物を製作し、外観品位を評価したところ、これの外観はポリウレタン糸の永久歪率増大によると思われるへたりによる波打ちが全体に発生していて、不満足なものであった。
【0118】
[比較例4]
大八化学工業(株)製TPP(トリフェニルホスフェート)のDMAc分散液F2(35重量%)を調製した。その調製は実施例1と同一の方法で行った。実施例3で調製したポリマ溶液A2、上記のTPP分散液F2、及び実施例1で調製したその他添加剤溶液C1を、それぞれ87重量%、10重量%、3.0重量%で均一に混合し、紡糸溶液E4とした。この紡糸溶液E4をゴデローラーと巻取機の速度比を1.30として600m/分の紡糸速度で乾式紡糸して巻取り、20dtex、2filのマルチフィラメントのポリウレタン弾性糸(500g巻糸体)を作製した。
【0119】
得られたポリウレタン弾性糸の破断伸度、破断強度、永久歪率、応力緩和、耐薬品性、耐アルカリ性、熱軟化点、融点を表2に示す。破断伸度、破断強度、永久歪率、耐薬品性、耐アルカリ性は、TPPを添加しなかった比較例2と同等もしくは劣るものであり、実施例3〜4等に比べると、大幅に劣るものであった。
【0120】
また、実施例1と同様の方法でストレッチ織物を製作し、外観品位を評価したところ、これの外観は波打ちが全体に発生していて、経時2カ月でTPPに起因すると推定される白色ブリード物が随所に発生して不満足なものであった。
【0121】
なお、上記の実施例及1〜8及び比較例1〜4において得られたポリウレタン弾性糸の組成(重量%)をまとめて表1に示す。また、上記の実施例1〜8及び比較例1〜4において得られたポリウレタン弾性糸の破断伸度、破断強度、永久歪率、応力緩和、耐薬品性、耐アルカリ性、熱軟化点、融点をまとめて表2に示す。
【0122】
【表1】

【0123】
【表2】

【0124】
次に、上記の実施例及び比較例で得られたポリウレタン弾性糸のそれぞれについて、以下の方法により難燃性を評価した。結果を下記表3に示す。
[難燃性の評価方法]
ポリウレタン弾性糸(20dtex)を2本引き揃えた糸(40dtex)のみを使用し、320針、釜径3.5インチ(29ゲージ)の1口筒編み機に供給して編成し、120℃にて1分間のスチームセットを行い幅約5cmの筒編み地(55g/m)を得た。これを開反しないままサンプルとし(55g/mの編地2枚重ねに相当する)、米国自動車安全基準 FMVSS−302法にて各3回の水平燃焼試験を行い、標線前燃焼距離、標線後燃焼距離および標線後の燃焼時間を測定した。
【0125】
なお、かかる基準において、標線前の距離は38mmに設定され、標線後燃焼距離が0のもの、または、60秒以内50mm以下で消化するものが自己消火性と判定される。また、燃焼速度=100mm/分以下のものは遅燃性、燃焼速度=100mm/分以上のものは易燃性と判定される。
【0126】
【表3】

【0127】
上記の結果から、芳香族縮合リン酸エステルを含有する実施例1〜5及び実施例7、8のポリウレタン弾性糸については、標線前燃焼距離がいずれも38mm未満、したがって標線後燃焼距離が0となり、自己消火性と判定された。実施例6については、燃えにくい傾向を示したが、標線を越える燃焼があり、その燃焼速度から遅燃性と判定された。
【0128】
一方、比較例のものは、TPPを添加した比較例4が若干燃えにくい傾向を示したが、不満足なレベルであり、比較例1〜4はいずれも易燃性であった。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明のポリウレタン弾性糸は、耐アルカリ性、各種薬剤への耐性、高回復性、高強伸度、高耐熱性を有するものであるので、この弾性糸を使用した衣服などは、脱着性、フィット性、着用感、染色性、耐変色性、外観品位などに優れたものとなる。
【0130】
これらの優れた特性を有することから、本発明のポリウレタン糸は単独での使用はもとより、各種繊維との組み合わせにより、優れたストレッチ布帛を得ることが可能で、編成、織成、紐加工に好適である。その使用可能な具体的用途としては、ソックス、ストッキング、丸編、トリコット、水着、スキーズボン、作業服、煙火服、ゴルフズボン、ウエットスーツ、ブラジャー、ガードル、手袋等の各種繊維製品、締め付け材料、さらには、紙おしめなどサニタリー品の漏れ防止用締め付け材料、防水資材の締め付け材料、似せ餌、造花、電気絶縁材、ワイピングクロス、コピークリーナー、ガスケットなどが挙げられる。
【0131】
また、自己消化性もしくは遅燃性であるので、難燃性が要求される分野でも好適に用いることができ、例えば自動車用や鉄道車両用さらには航空機用や船舶用の資材として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマージオールおよびジイソシアネートを出発物質とするポリウレタン弾性糸であって、式1で表される芳香族縮合リン酸エステルを含有することを特徴とするポリウレタン弾性糸。
【化1】

(R1は芳香族基であり、R2は、水素又は炭素数1〜3のアルキル基であり、複数個のR2は、同一であっても、異なっていてもよく、R3は、水素又は炭素数1〜3のアルキル基であり、複数個のR3は、同一であっても、異なっていてもよい。)
【請求項2】
芳香族縮合リン酸エステルが1,3−フェニレンビスジキシレニルホスフェートである、請求項1に記載のポリウレタン弾性糸。
【請求項3】
幅5cmの筒編み地を編成し、米国自動車安全基準 FMVSS−302法にて水平燃焼試験を行った際に、自己消火性を示す、請求項1又は請求項2に記載のポリウレタン弾性糸。
【請求項4】
ポリマージオールおよびジイソシアネートを出発物質とするポリウレタンを含むポリウレタン溶液に、式1で表される芳香族縮合リン酸エステルを含有させて、紡糸することを特徴とするポリウレタン弾性糸の製造方法。