説明

ポリウレタン樹脂水性分散体の製造方法

【課題】 分散安定性が良好で、乾燥被膜の物理的物性に優れたポリウレタン樹脂水性分散体の製造方法、およびそれによって得られるポリウレタン樹脂水性分散体を提供する。
【解決手段】 末端イソシアネート基含量が0.5重量%以下であるポリウレタン樹脂(U)および有機溶剤からなる固状のポリウレタン樹脂組成物を、一種以上の分散混合装置(A1)を用いてポリウレタン樹脂組成物の溶融温度未満の温度で水中に分散させて、体積平均粒子径0.1〜100μmのポリウレタン樹脂からなる水性分散体(Q1)を得た後、さらに、該分散混合装置(A1)とは分散方式が異なる一種以上の分散混合装置(A2)を用いて溶融温度未満の温度で1/2〜1/1,000の体積平均粒子径になるまで分散させることを特徴とする、体積平均粒子径0.01〜5μmのポリウレタン樹脂からなるポリウレタン樹脂水性分散体(Q2)の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン樹脂水性分散体の製造方法および得られたポリウレタン樹脂水性分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン樹脂水性分散体は、その優れた耐久性、耐薬品性、耐磨耗性等の性能から、高機能水性分散体として、塗料、接着剤、バインダーあるいはコーティング剤分野に使用されており、今後も環境保全、省資源、安全性等の観点からますます重要性を増している。
これらのポリウレタン樹脂水性分散体の製造方法としては、イソシアネート基末端のウレタンプレポリマーを水中へ分散させジアミンなどで鎖伸長する方法(いわゆるプレポリマーミキシング法)(特許文献−1〜3)、およびイソシアネート基をほとんど含有しないポリウレタン樹脂(deadポリマー)を水中へ分散させる方法(特許文献−4)がある。
このうち、前者は分散と同時に(必要により、さらにその後に)水中で鎖伸長させるので生成したポリウレタン樹脂の分子量分布が広くなりやすく、結果的に乾燥被膜の物理的物性が不十分であるという問題点があった。
一方、後者は、分子量分布は比較的狭いが、平均分子量が特に高い(例えばMw=40,000以上)ポリウレタン樹脂は、溶融温度が非常に高くなり(例えば200℃以上)、可塑化のために有機溶剤を使用しても、その溶融温度は大きくは低下せず、高温で溶融状態のポリウレタン樹脂を水と接触させると、得られた水性分散体の乾燥被膜の物理的物性が十分ではないという問題点があった。
【特許文献−1】特開2004−2732号公報
【特許文献−2】特開2004−59676号公報
【特許文献−3】特開2004−307721号公報
【特許文献−4】特開2005−232277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、分子量分布が狭く、しかも乾燥被膜の物理的物性に優れたポリウレタン樹脂水性分散体の製造方法、およびそれによって得られるポリウレタン樹脂水性分散体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記のdeadポリマーを水中へ分散させる方法における問題点の原因を検討した結果、押出機などで溶融温度以上の高温で溶融しながら水性媒体に分散させると、ポリウレタン樹脂と水との高温での接触によって分解や劣化が起こり、その結果、乾燥被膜の物理的物性が期待よりも低下することがわかった。本発明者らは、さらに検討を重ねた結果、上記の課題を解決できるポリウレタン樹脂水性分散体の製造方法を見出した。
【0005】
すなわち本発明は、末端イソシアネート基含量が0.5重量%以下であるポリウレタン樹脂(U)および有機溶剤(S)からなる固状のポリウレタン樹脂組成物(US)を、一種以上の分散混合装置(A1)を用いてポリウレタン樹脂組成物(US)の溶融温度未満の温度で水中に分散させて、体積平均粒子径0.1〜100μmのポリウレタン樹脂(U1)からなるポリウレタン樹脂水性分散体(Q1)を得た後、さらに、該分散混合装置(A1)とは分散方式が異なる一種以上の分散混合装置(A2)を用いてポリウレタン樹脂組成物(US)の溶融温度未満の温度で該ポリウレタン樹脂(U1)の体積平均粒子径の1/2〜1/1,000の体積平均粒子径になるまで分散させることを特徴とする、体積平均粒子径0.01〜5μmのポリウレタン樹脂からなるポリウレタン樹脂水性分散体(Q2)の製造方法、およびその製造方法によって得られるポリウレタン樹脂水性分散体(Q2)である。
【発明の効果】
【0006】
本発明のポリウレタン樹脂水性分散体の製造方法は、
(1)高分子量のポリウレタン樹脂であっても、有機溶剤を含む組成物とし、溶融温度を下げ、しかも溶融温度未満の温度で分散できるので、ポリウレタン樹脂が分解・劣化しにくく、得られる乾燥被膜の物理的物性が優れた水性分散体が得られる。
(2)分子量分布が狭いポリウレタン樹脂の水性分散体が得られる。
(3)分散安定性に優れた水性分散体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明におけるポリウレタン樹脂組成物(US)(以下において単に(US)と表記する場合がある)は、末端イソシアネート基含量が0.5重量%以下であるポリウレタン樹脂(U)および有機溶剤からなる。有機溶剤を含有することにより、(U)のみでは分散できないような高分子量のポリウレタン樹脂であっても、有機溶剤によって可塑化されて、分散されやすくなる。(US)中の有機溶剤(S)の含有量は、好ましくは50重量%以下、さらに好ましくは30重量%以下であって、最も好ましくは10重量%以下であって、(US)の溶融温度が70〜240℃になるような量であることが好ましい。
【0008】
また、本発明におけるポリウレタン樹脂(U)は、末端イソシアネート基含量がポリウレタン樹脂(U)の重量に基づいて0.5重量%以下であり、好ましくは0.3重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以下、最も好ましくは0重量%である。このようないわゆるdeadポリマーを使用することによって、従来のプレポリマーミキシング法のように分散系で伸長反応を行う必要がないので、分子量分布の狭いポリウレタン樹脂水性分散体が製造できる。
【0009】
また本発明の製造方法は、分散体であるポリウレタン樹脂組成物(US)を水性分散媒に分散する過程において、分散様式が異なる2種以上の分散混合装置を使用して、樹脂組成物の溶融温度未満の温度で分散させるので、樹脂組成物を溶融させずに、分散様式が異なる2種以上の分散混合装置を使用して、2段階以上で分散混合することである。
このような分散工程を行うことによって、溶融温度未満の温度で目的とする微粒子まで分散することができ、得られるポリウレタン樹脂水性分散体中のポリウレタン樹脂は分解・劣化が少なく、乾燥被膜物性が優れている。
分散様式が1種類の分散混合装置だけでは、目的とする体積平均粒子径にまで分散することが困難であり、十分に安定で、かつ優れた乾燥被膜物性を有する水性分散体は得られない。
【0010】
本発明におけるポリウレタン樹脂組成物(US)の溶融温度は、ポリウレタン樹脂水性分散体の乾燥皮膜の樹脂物性の観点から、好ましくは70〜280℃、さらに好ましくは100〜220℃、最も好ましくは130〜200℃である。
本発明における溶融温度は、JIS K7210(プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイトの試験方法)ににおいて、メルトマスフローレイト測定装置として「メルトインデクサーI型」(テスター産業(株)製)を用いて、荷重2.16kg
にてメルトマスフローが10g/10minとなる温度である。
【0011】
本発明におけるポリウレタン樹脂組成物(US)は、ポリオール(a)、ポリイソシアネート(b)、および有機溶剤(S)を必須成分とし、さらに必要により、親水性基と活性水素原子含有基を含有する化合物(c)などを用いて製造される。
【0012】
ポリオール(a)としては、水酸基当量(数平均分子量と水酸基価から算出される、水酸基1個当たりの数平均分子量)150以上の高分子ポリオール(a1)および水酸基当量150未満の低分子ポリオール(a2)が挙げられる。
なお、本発明におけるポリオールの数平均分子量(以下、Mnと略記する)の測定はポリエチレングリコールを標準としてゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されるものである。但し、低分子ポリオールの数平均分子量は化学式からの計算値である。
【0013】
水酸基当量150以上の高分子ポリオール(a1)としては、ポリエーテルポリオール(a11)およびポリエステルポリオール(a12)などが挙げられる。
【0014】
(a11)としては、脂肪族ポリエーテルポリオールおよび芳香族環含有ポリエーテルポリオールが挙げられる。
【0015】
脂肪族ポリエーテルポリオールとしては、例えばポリオキシエチレンポリオール[ポリエチレングリコール(以下PEGと略記)など]、ポリオキシプロピレンポリオール[ポリプロピレングリコール(以下PPGと略記)など]、ポリオキシエチレン/プロピレンポリオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどが挙げられる。
【0016】
芳香族ポリエーテルポリオールとしては、ビスフェノール骨格を有するポリオール(a121)、例えばビスフェノールAのEO付加物[ビスフェノールAのEO2モル付加物、ビスフェノールAのEO4モル付加物、ビスフェノールAのEO6モル付加物、ビスフェノールAのEO8モル付加物、ビスフェノールAのEO10モル付加物、ビスフェノールAのEO20モル付加物等]およびビスフェノールAのPO付加物[ビスフェノールAのPO2モル付加物、ビスフェノールAのPO3モル付加物、ビスフェノールAのPO5モル付加物等]、並びにレゾルシンのEOもしくはPO付加物(a122)などが挙げられる。
【0017】
ポリエーテルポリオール(a11)は、脂肪族または芳香族低分子量活性水素原子含有化合物に、付加触媒(アルカリ金属水酸化物、ルイス酸などの公知の触媒)の存在下にAOを開環付加反応させることで得られる。
【0018】
(a11)のMnは通常300以上、好ましくは300〜10,000、さらに好ましくは300〜6,000である。
(a11)の水酸基当量は、通常150以上、好ましくは150〜5,000、さらに好ましくは150〜3,000である。
【0019】
ポリエステルポリオール(a12)としては、縮合型ポリエステル、ポリラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオールおよびヒマシ油系ポリオールが挙げられる。
【0020】
縮合型ポリエステルは、低分子量(Mn300以下)の多価アルコールと多価カルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体とのポリエステルである。
低分子量の多価アルコールとしては、水酸基当量が30以上150未満の2価〜8価またはそれ以上の脂肪族多価アルコールおよび水酸基当量が30以上150未満の2価〜8価またはそれ以上のフェノールのAO低モル付加物が使用できる。
縮合型ポリエステルに使用できる低分子量の多価アルコールのうち好ましいのは、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサングリコール、ビスフェノールAのEOもしくはPO低モル付加物、およびこれらの併用である。
縮合型ポリエステルに使用できる多価カルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体としては、脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸 、フマル酸、マレイン酸など)、脂環式ジカルボン酸(ダイマー酸など)、芳香族ジカルボン酸(テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸など)および3価またはそれ以上のポリカルボン酸(トリメリット酸、ピロメリット酸など)、これらの無水物(無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸など)、これらの酸ハロゲン化物(アジピン酸ジクロライドなど)、これらの低分子量アルキルエステル(コハク酸ジメチル、フタル酸ジメチルなど)およびこれらの併用が挙げられる。
【0021】
縮合型ポリエステルとしては、例えばポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンイソフタレートジオール、ポリネオペンチルアジペートジオール、ポリエチレンプロピレンアジペートジオール、ポリエチレンブチレンアジペートジオール、ポリブチレンヘキサメチレンアジペートジオール、ポリジエチレンアジペートジオール、ポリ(ポリテトラメチレンエーテル)アジペートジオール、ポリ(3−メチルペンチレンアジペート)ジオール、ポリエチレンアゼレートジオール、ポリエチレンセバケートジオール、ポリブチレンアゼレートジオール、ポリブチレンセバケートジオール、ポリネオペンチルテレフタレートジオールなどが挙げられる。
【0022】
ポリラクトンポリオールは、低分子量多価アルコールへのラクトンの重付加物であり、ラクトンとしては、炭素数4〜12のラクトンが使用でき、例えば4−ブタノリド、5−ペンタノリドおよび6−ヘキサノリドなどが挙げられる。
ポリラクトンポリオールとしては、例えばポリカプロラクトンジオール、ポリバレロラクトンジオール、ポリカプロラクトントリオールなどが挙げられる。
【0023】
ポリカーボネートポリオールは、低分子量多価アルコールへのアルキレンカーボネートの重付加物であり、アルキレンカーボネートとしては炭素数2〜8のアルキレンカーボネートが使用でき、例えばエチレンカーボネートおよびプロピレンカーボネートなどが挙げられる。これらはそれぞれ2種以上併用してもよい。
ポリカーボネートポリオールとしては、ポリヘキサメチレンカーボネートジオールなどが挙げられる。
ポリカーボネートポリオールの市販品としては、ニッポラン980R[Mn=2,000,日本ポリウレタン工業(株)製]、T5652[Mn=2,000、旭化成(株)製]およびT4672[Mn=2,000、旭化成(株)製]が挙げられる。
【0024】
ヒマシ油系ポリオールは、ヒマシ油およびポリオールもしくはAOで変性されたヒマシ油が含まれる。
変性ヒマシ油はヒマシ油とポリオールとのエステル交換および/またはAO付加により製造できる。
ヒマシ油系ポリオールとしては、ヒマシ油、トリメチロールプロパン変性ヒマシ油、ペンタエリスリトール変性ヒマシ油、ヒマシ油のEO(4〜30モル)付加物などが挙げられる。
【0025】
ポリエステルポリオール(a12)のうち好ましいのは、縮合型ポリエステルおよびポリカーボネートポリオールである。
【0026】
水酸基当量150未満の低分子ポリオール(a2)としては、脂肪族2価アルコール、脂肪族3価アルコールおよび脂肪族4価以上のアルコールが挙げられる。
(a2)のうち好ましいのは、耐水性、耐熱黄変性の観点から2〜3価の脂肪族アルコールであり、脂肪族2価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオールが特に好ましく、脂肪族3価アルコールとしては、トリメチロールプロパンが特に好ましい。
【0027】
ポリウレタン樹脂組成物(US)の必須構成成分のうちの1つであるポリイソシアネート(b)としては、従来からポリウレタン樹脂製造に使用されているものが使用できる。
ポリイソシアネート(b)としては、2〜3個またはそれ以上のイソシアネート基を有する炭素数6〜20(NCO基中の炭素を除く、以下同様)の芳香族ポリイソシアネート(b1)、炭素数2〜18の脂肪族ポリイソシアネート(b2)、炭素数4〜15の脂環式ポリイソシアネート(b3)および炭素数8〜15の芳香脂肪族ポリイソシアネート(b4)が挙げられる。
【0028】
芳香族ポリイソシアネート(b1)としては、例えば1,3−および/または1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−および/または2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−および/または2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3 ’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5−ナフチレンジイソシアネート、4,4’,4”−トリフェニルメタントリイソシアネート、m−およびp−イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネートなどが挙げられる。
【0029】
脂肪族ポリイソシアネート(b2)としては、例えばエチレンジイソシアネート、テ
トラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ドデカメチレンジイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2−イソシアナトエチル)フマレート、ビス(2−イソシアナトエチル)カーボネート、2−イソシアナトエチル−2,6−ジイソシアナトヘキサノエートなどが挙げられる。
【0030】
脂環式ポリイソシアネート(b3)としては、例えばイソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート(水添TDI)、ビス (2−イソシアナトエチル)−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボキシレー
ト、2,5−および/または2,6−ノルボルナンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0031】
芳香脂肪族ポリイソシアネート(b4)としては、例えばm−および/またはp−キシリレンジイソシアネート(XDI)、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)などが挙げられる。
【0032】
これらのうちで好ましいのは(b2)および(b3)、さらに好ましいのは(b3)、特に好ましいのはIPDIおよび水添MDIである。
【0033】
本発明におけるポリウレタン樹脂組成物(US)は、必要により、親水性基と活性水素原子含有基を含有する化合物(c)を用いて製造される。
(c)は、ポリウレタン樹脂組成物(US)を水中に安定に分散させるための親水性基を有し、かつ、ポリイソシアネート(b)との反応によってポリウレタン樹脂の分子鎖中に組み込まれるような活性水素原子含有基を1分子中に1個、好ましくは2〜3個有する化合物である。
(c)における親水性基としては、例えばカルボキシル基、スルホン酸基およびリン酸基、ならびに、これらの中和塩からなる基が挙げられる。
中和塩としては、アルカリ金属塩(ナトリウム塩およびカリウム塩など)、アンモニウム塩、4級アンモニウム塩および3級アミン塩(例えばトリエチルアミン塩、アルカノールアミン塩およびモルホリン塩)などが挙げられる。
(c)のうち好ましいのは、カルボン酸またはスルホン酸の4級アンモニウム塩からなる親水基、特にカルボン酸の3級アミン塩からなる親水基を有するものである。
(c)としては、総炭素数6〜24のジアルキロールアルカン酸およっびその中和塩が挙げられ、例えば2,2−ジメチロールプロピオン酸(以下、DMPAと略記することがある)、2,2−ジメチロールブタン酸、2 ,2−ジメチロールヘプタン酸および2,2−ジメチロールオクタン酸、並びにこれらの中和塩が挙げられる。
(c)を使用することにより、ポリウレタン樹脂組成物(US)中にカルボキシル基を導入することができるので、水性分散体が安定になりやすい。
なお、(c)は酸型のままでポリウレタン樹脂を製造し、後述のポリウレタン樹脂水性分散体(Q1)を製造する分散工程で、使用する水に中和剤(3級アミン、アルカリ金属水酸化物など)を予め溶解させておいて、分散と同時に(c)の酸を中和して塩型にしてもよい。
(c)の使用量は、ポリウレタン樹脂(U)の重量に基づく親水基の含有量が5重量%以下となるような使用量が好ましく、特に好ましくは0.5〜3.0重量%となる使用量である。
【0034】
ポリウレタン樹脂組成物(US)の必須構成成分のうちの有機溶剤(S)としては、公知の有機溶剤が使用できる。公知の有機溶剤の中でも、ウレタン化反応時にイソシアネート基と反応しない有機溶剤(活性水素を有さない有機溶剤)が好ましく、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、トルエン、キシレン(各異性体およびそれらの混合物を含む)などが好ましい。これらの有機溶剤は単独で、または2種類以上を併用して使用することができる。
【0035】
本発明におけるポリウレタン樹脂組成物(US)の原料としては、上記の他に鎖伸長剤、架橋剤、反応停止剤、触媒、酸化防止剤、着色防止剤、遅延剤、可塑剤または離型剤等を使用することができる。
【0036】
本発明におけるポリウレタン樹脂組成物(US)は、有機溶剤(S)の存在下で、30〜250℃、好ましくは50℃から230℃、さらに好ましくは70℃〜210℃で、ポリオール(a)とポリイソシアネート(b)をウレタン化反応させて得られたポリウレタン樹脂組成物であることが好ましい。
本発明におけるポリウレタン樹脂組成物(US)において、末端イソシアネート基含量を0.5重量%以下とするには、以下の方法が挙げられる。
【0037】
(1)ポリオール(a)の当量数をポリイソシアネート(b)の当量数に比べ0.9倍以上(好ましくは1倍以上)にする方法。
(2)反応停止剤(例えば、モノアミン、モノアルコール等)または水を添加して、イソシアネート基を反応させて消費させる。
(3)高温反応(例えば100〜250℃)によりビューレット結合および/またはアロハネート結合を生成させ、イソシアネート基を消費させる。
【0038】
本発明におけるポリウレタン樹脂(U)のMn[GPCによって、標準ポリスチレンを基準にして測定されるもの]は、非架橋型(熱可塑性:架橋剤を使用しないタイプ)の場合には通常2,000 〜2,000,000またはそれ以上、好ましくは5,000〜500,000とくに10,000〜100,000である。架橋型(架橋剤を使用するタイプ)の(U)は上記範囲より高いMnのもの、またはGPCで測定できない高いMnのものでもよい。
本発明のポリウレタン樹脂(U)中の親水性基(上記の(c)に由来する親水性基)の含有量は、ポリウレタン樹脂(U)の重量に基づいて好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは0.5〜3.0重量%である。
【0039】
ウレタン化反応を行うための反応容器は、撹拌可能な反応容器であれば問題ないが、撹拌強度、密閉性および加熱能力の観点から、一軸または二軸の押出機を用いるのが好ましい。一軸または二軸の押出機としては、コンティニアスニーダー(株栗本鐵工製)、一軸混練機などが挙げられる。
【0040】
以下に、ポリウレタン樹脂組成物(US)の分散方法を示すことにより本発明をさらに詳細に説明する。
本発明のポリウレタン水性分散体の製造方法は、上記のポリウレタン樹脂組成物(US)を、2段階以上で分散させる方法である。
まず、第1の分散は、一種以上の分散混合装置(A1)を用いて水中にポリウレタン樹脂組成物(US)の溶融温度未満の温度で分散させて、体積平均粒子径0.1〜100μmのポリウレタン樹脂(U1)からなるポリウレタン樹脂水性分散体(Q1)を得る工程である。
【0041】
本発明におけるポリウレタン樹脂組成物(US)は、70〜280℃の溶融温度を有し、通常は室温では固状であり、25℃で好ましくは0.2〜20mm、さらに好ましくは0.2〜10mm、特に好ましくは0.2〜3mmの体積平均粒子径を有する粒子状物であることが、第1の分散混合装置(A1)に供給し易いという観点かから好ましい。
【0042】
本発明における体積平均粒子径は、レーザー回折粒度分布測定装置[例えば、LA−750(堀場制作所製)]、または光散乱粒度分布測定装置[例えば、ELS−8000(大塚電子株製)]を用いて測定できる。
また、個数平均粒子径も同様の測定方法で測定できる。
【0043】
ポリウレタン樹脂(US)を固体粒子状に調整する手段としては、例えば裁断、ペレット化、粒子化、あるいは粉砕等する手段を用いることができる。この個体粒子状への調整は、水中あるいは、水の非存在下において実施することができる。
例えば、シート状に圧延したポリウレタン樹脂(U)をストランドカッターで短冊状にカットした後、回転刃で粒子状にするという方法が例示される。
【0044】
固体粒子状に調整されたポリウレタン樹脂組成物(US)を、水とともに分散混合装置(A1)に導入するが、ここでの分散混合装置(A1)としては、回転式分散混合装置およびメディア式分散混合装置から選ばれる1種以上を用いるのが、0.2〜20mmの固体粒子状の(US)の分散に効率がよいという観点から好適である。
分散混合装置(A1)の主たる分散原理は、駆動部の回転などによって粒子に外部から剪断力を与えて粉砕し、分散させるという原理である。また(A1)は、常圧もしくは加圧下で稼働させることができるが、通常は常圧で稼働させる。
【0045】
回転式分散混合装置としては、例えばTKホモミキサー(プライミクス(株)製)、クレアミックス(エムテクニック(株)製)、フィルミックス(プライミクス(株)製)、ウルトラターラックス(IKA社製)、エバラマイルダー(荏原製作所製)、キャビトロン(ユーロテック社製)およびバイオミキサー(日本精機製)等が例示される。
【0046】
メディア式分散混合装置としては、例えばコロイドミル(IKA社製)、コーンミル(IKA社製)、ダイノーミル(IKA社製)、ビーズミルおよびロールミル等が例示される。
【0047】
分散混合装置(A1)としては、これらの回転式分散混合装置およびメディア式分散混合装置から選ばれる2種類以上の装置を直列に接続して併用してもかまわない。
【0048】
分散混合装置(A1)を通過する際の温度としては、分散体であるポリウレタン樹脂組成物(US)の分解や劣化等を防ぐ観点から、ポリウレタン樹脂組成物(US)の溶融温度未満、好ましくは溶融温度よりも5℃以上低い温度で室温以上の温度、さらに好ましくは溶融温度よりも10℃以上低い温度で室温以上の温度が、分散効率および分解・劣化抑制の観点から好ましい。
分散混合装置(A1)に供給されるポリウレタン樹脂組成物(US)と水の重量比は、目的とする水性分散体の樹脂成分含有量によって適宜選択されるが、通常は、(US)/水=10/2〜100であり、好ましくは10/5〜50である。
また、(US)と水との分散混合装置内の滞留時間は、通常、0.1〜30分、好ましくは1〜5分である。
【0049】
分散混合装置(A1)にて分散を行う際は、必要に応じて、pH調整剤、破泡剤、抑泡剤、脱泡剤、酸化防止剤、着色防止剤、可塑剤および離型剤から選ばれる1種以上を添加することができる。また必要に応じて、分散後に脱溶剤、濃縮または希釈を行ってもよい。
【0050】
分散混合装置(A1)を通過することにより、体積平均粒子径0.2〜20mmのポリウレタン樹脂組成物(US)を、体積平均粒子径0.1〜100μm(好ましくは0.1〜30μm、より好ましくは0.1〜10μm、さらに好ましくは0.1〜3μm、最も好ましくは0.1〜1μm)のポリウレタン樹脂組成物(U1)に分散し、ポリウレタン樹脂水性分散体(Q1)を得ることができる。
【0051】
(A1)のみで分散しても、一定の体積平均粒子径にまでは分散できるが、さらに、短時間で微分散するためには、もしくは、後述の体積平均粒子径/個数平均粒子径、即ち粒子径分布を狭くし、水性分散体の分散安定性と造膜性を良好にするためには、(A1)とは分散方式が異なる分散装置(A2)で、さらに微分散することが必要である。
ここでの分散混合装置(A2)としては、(A1)とは分散の方式、即ち原理が異なり、(A1)よりも微粒子の微分散能力に適した分散混合装置が好ましい。そのような装置としては、例えば高圧式分散混合装置が挙げられる。
分散混合装置(A2)としては、水性分散体を高圧に保持しつつ絞り部を高速で通過せしめることにより、そのときに発生する剪断力やキャビテーションによる衝撃力で該水分散液中に存在する粒子をさらに微分散させる機構のものが好適である。
また、(A2)としては、上記機構の他、該機構において絞り部を通過せしめた溶液をダイヤモンド等の基板上に衝突させる機構を更に付加した機構や、水性分散体を対向する二つの絞り部より噴出せしめて衝突させる機構等を有するものも使用することができる。
【0052】
高圧式分散混合装置としては、例えば、超高圧ホモジナイザー(IKA社製)、マイクロフルイダイザー(みずほ工業(株)製)、高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社製)、ガウリンホモジナイザー(ガウリン社製)等が例示される。
【0053】
分散混合装置(A2)としては、これらの高圧式分散混合装置から選ばれる2種類以上の装置を直列に接続して併用してもかまわない。
【0054】
分散混合装置(A2)を通過する際の温度としては、分散体であるポリウレタン樹脂組成物(U1)の分解や劣化等を防ぐ観点から、ポリウレタン樹脂組成物(US)の溶融温度未満、好ましくは溶融温度よりも5℃以上低い温度で室温以上の温度、さらに好ましくは溶融温度よりも10〜120℃低い温度で室温以上の温度が、分散効率および分解・劣化抑制の観点から好ましい。
分散混合装置(A2)に供給されるのはポリウレタン樹脂水性分散体(Q1)をそのままでもよいが、必要により、同時に、さらに水を供給してもよく、(Q1)と水の重量比は、目的とする水性分散体の樹脂成分含有量によって適宜選択されるが、通常は、(U1)/水=10/2〜100であり、好ましくは10/5〜50である。
また、(U1)と水との分散混合装置内の滞留時間は、通常、0.1〜30分、好ましくは1〜5分である。
【0055】
分散混合装置(A2)にて分散を行う際は、必要に応じて、pH調整剤、消泡剤酸化防止剤、着色防止剤、可塑剤および離型剤等から選ばれる1種以上を添加することができる。また必要に応じて、分散後に濃縮または希釈を行ってもよい。
【0056】
本発明における第2の分散工程は、0.1〜100μmの体積平均粒子径を有するポリウレタン樹脂(U1)を、さらにその1/2〜1/1,000に微分散する工程であるが、
(U1)の体積平均粒子径が0.1〜1μmの場合は、好ましくは1/2〜1/10に微分散し、(U1)の体積平均粒子径が1μmを超え10μm以下の場合は、好ましくは1/5〜1/100、さらに好ましくは1/10〜1/100に微分散し、(U1)の体積平均粒子径が10μmを超え100μm以下の場合は、好ましくは1/50〜1/1,000、さらに好ましくは1/100〜1/1,000に微分散させることが好ましい。
【0057】
ポリウレタン樹脂水性分散体(Q2)の具体的な体積平均粒子径は、0.01〜5μmとなるが、(Q2)の分散安定性の向上の観点から、好ましくは0.01〜4μm、より好ましくは0.02〜2μm、さらに好ましくは0.01〜1μm、特に好ましくは0.03〜0.8μmである。
なお、本発明において、分散混合装置(A1)を使用しないで、体積平均粒子径が0.2〜20mmのポリウレタン樹脂(U)を分散混合装置(A2)に直接に導入することは、粒子径が大きすぎることによる供給不可能の問題があり、通常は困難である。
【0058】
本発明のポリウレタン樹脂水性分散体(Q2)の製造方法は、上記の各工程を不連続に行ってもよいが、好ましいのは各工程のうちの少なくとも2つの工程、さらに好ましいのは全ての工程を連続で行う方法である。
具体的には、ウレタン化反応に引き続いて、体積平均粒子径0.2〜20mmの固体粒子の調製、ポリウレタン樹脂水性分散体(Q1)の製造およびポリウレタン樹脂水性分散体(Q2)の製造を連続で行う方法である。連続で行うことによって製造時間が短縮される。特に(Q1)〜(Q2)の工程は、優れた分散安定性が得られるという観点から、連続で行うことが好ましい。
【0059】
本発明の製造方法で得られるポリウレタン樹脂水性分散体(Q2)の固形分濃度(水以外の成分の含有量)は、好ましくは20〜65%、さらに好ましくは25〜55%である。
固形分濃度は、水性分散体約1gをペトリ皿上にうすく伸ばし、精秤した後、循環式定温乾燥機を用いて130℃で、45分間加熱した後の重量を精秤し、加熱前の重量に対する加熱後の残存重量の割合(百分率)を計算することにより得ることができる。
本発明のポリウレタン樹脂水性分散体(Q2)の粘度は、好ましくは10〜100,000mpa・s、さらに好ましくは10〜5,000mpa・sである。粘度はBL型粘度計を用いて、25℃の定温下で測定することができる。
本発明のポリウレタン樹脂水性分散体(Q2)のpHは、好ましくは2〜12、さらに好ましくは4〜10である。pHは、pHMeterM−12(堀場製作所製)で25℃で測定することができる。
【0060】
本発明のポリウレタン樹脂水性分散体は、上記の製造方法で得られる水性分散体であり、
下記の(1)〜(3)の全てを満たすポリウレタン樹脂組成物水性分散体である。
(1)ポリウレタン樹脂(U)の重量平均分子量/数平均分子量(以下、Mw/Mnと略記)が1.5〜3.5である。
(2)ポリウレタン樹脂の体積平均粒子径(以下、Dvと略記)が0.01〜5μmである。
(3)ポリウレタン樹脂の体積平均粒子径/個数平均粒子径(以下、Dv/Dnと略記)が1.2〜5である。
本発明のポリウレタン樹脂組成物水性分散体は、特に乾燥後の樹脂物性に優れている。
【0061】
(1)のポリウレタン樹脂(U)のMw/Mnは、GPCで測定されるものであって、さらに好ましくは1.2〜4、特に好ましくは1.2〜3である。
Mw/Mnが、この範囲であれば、分子量分布が狭いので乾燥後の樹脂物性および、乾燥時の造膜性がさらに良好に発揮できる。
(2)のポリウレタン樹脂組成物のDvは、分散安定性の向上の観点から、好ましくは0.01〜4μm、より好ましくは0.02〜2μm、さらに好ましくは0.01〜1μm、特に好ましくは0.03〜0.8μmである。
(3)のDv/Dnは、前述のレーザー回折粒度分布測定装置[例えば、LA−750(堀場制作所製)]、または光散乱粒度分布測定装置[例えば、ELS−8000(大塚電子株製)]を用いて測定できるものであって、さらに好ましくは1.2〜4、特に好ましくは1.2〜3である。Dv/Dnが、この範囲であれば分散安定性および、乾燥時の造膜性がさらに良好に発揮できる。
【0062】
本発明のポリウレタン樹脂水性分散体は、塗料組成物、接着剤組成物、繊維加工用のバインダー組成物(顔料捺染用バインダー組成物、不織布用バインダー組成物、補強繊維用集束剤組成物、抗菌剤用バインダー組成物など)やコーティング組成物(防水コーティング組成物、撥水コーティング組成物、防汚コーティング組成物など)、人工皮革・合成皮革用原料組成物などに使用することができる。
【0063】
塗料組成物には、必要によりその他の添加剤、例えば塗膜形成補助樹脂、顔料、顔料分散剤、粘度調整剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、劣化防止剤、安定化剤および凍結防止剤など1種または2種以上を添加することができる。
【0064】
抗菌剤用バインダー組成物、コーティング組成物、人工皮革・合成皮革用原料組成物として用いる場合の、添加剤、処理液の濃度、繊維への適用手段、繊維への付着量、処理条件などは、用途に応じて適宜採択することができる。
【0065】
<実施例>
以下、実施例を以て本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。以下、部は重量部を、%は重量%を意味する。
【0066】
溶融温度の測定法は、前述のように、JIS K7210(プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイトの試験方法)に準拠し、「メルトインデクサーI型」(テスター産業株製)を用いて、荷重2.16kgにてメルトマスフローが10g
/10minとなる温度を溶融温度とした。
【0067】
実施例1
2軸混練機のKRCニーダー(栗本鐵工(株)製)に、Mnが2,000のポリカーボネートジオール「ニッポラン980R」(日本ポリウレタン株製)224.2部、DMPA22.9部、4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)73部、およびN−メチルピロリドン56.5部を窒素雰囲気下で導入した。その後200℃に加熱し、10分間混練してウレタン化反応を行った。反応物を取り出し、180℃に熱した圧プレス機で圧延後、角形ペレット機(株ホーライ製)にて裁断した。続いて、90℃のイオン交換水606.3部にトリエチルアミン(中和剤)17.2部を加え、90℃の条件下でTKホモミキサー(プライミクス(株)製)を用いて16,000rpmにて3分間分散させた後、90℃の条件下でクレアミックス(エムテクニック(株)製)を用いて20,000rpmにて3分間分散させポリウレタン樹脂水性分散体(Q1−1)を得た。さらに90℃の条件下で、得られた分散体を150MPaの圧力をかけた高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社製)に3回通して、分散することによりポリウレタン樹脂水性分散体(Q2−1)1,000部を得た。各工程における条件および分析値等を表1に示す。以下の実施例および比較例についても同様に、各工程における条件および分析値等を表1に示す。
なお、表1中の分散装置は、(1)TKホモミキサー(プライミクス(株)製)、(2)クレアミックス(エムテクニック(株)製)、(3)高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社製)、(4)簡易加圧反応装置(耐圧ガラス工業(株)製)、(5)KRCニーダー(栗本鐵工(株)製)である。
【0068】
実施例2
実施例1と同様にウレタン化した後、200℃のまま樹脂を直径2mmの細孔より押出すことにより、直径2mmのひも状にした後、90℃まで冷却した。これを90℃のイオン交換水684.5部の中に導入後、回転刃にて体積平均粒子径2mmにカットした。ここにトリエチルアミン(中和剤)16.1部を加え、実施例1と同条件でTKホモミキサーおよびクレアミックスに導入し、以下実施例1と同じ処理をすることにより、ポリウレタン樹脂水性分散体(Q2−2)1,000部を得た。
【0069】
実施例3
実施例1と同様にウレタン化〜トリエチルアミン添加までを実施後、加圧下で150℃の条件下でTKホモミキサーを用いて15,000rpmにて10分間分散させ、ポリウレタン樹脂水性分散体(Q1−3)を得た。さらに150℃の条件下で、得られた分散体を150MPaの圧力をかけた高圧ホモジナイザーに3回通して、分散することによりポリウレタン樹脂水性分散体(Q2−3)1,000部を得た。
【0070】
実施例4
実施例1と同様にウレタン化〜トリエチルアミン添加までを実施後、90℃の条件下でTKホモミキサーを用いて15,000rpmにて1分間分散させ、ポリウレタン樹脂水性分散体(Q1−4)を得た。さらに90℃の条件下で、得られた分散体を100MPaの圧力をかけた高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社製)に3回通して、分散することによりポリウレタン樹脂水性分散体(Q2−4)1,000部を得た。
【0071】
実施例5
実施例1において、ポリカーボネートジオール「ニッポラン980R」を224.2部、DMPAを22.9部、4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)を73部を、N−メチルピロリドンを137.1部、イオン交換水を525.6部およびトリエチルアミンを17.2部を用いた以外は、実施例1と同じ操作を実施してポリウレタン樹脂水性分散体(Q2−5)1,000部を得た。
【0072】
比較例1
撹拌機および加熱器を備えた簡易加圧反応装置に、Mnが2,000のポリカーボネートジオール「ニッポラン980R」204部、DMPA23.1部、4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)97.1部およびアセトン216.6部を窒素を導入しながら仕込んだ。その後85℃に加熱し、10時間かけてウレタン化反応を行い、プレポリマーを製造した。ウレタン化反応終了時の樹脂固形分のイソシアネート含量は1.5%であった。反応混合物を40℃に冷却後、簡易加圧反応装置内で撹拌しながらトリエチルアミン(中和剤)17.4部、水662.6部を加え、ポリウレタン樹脂水性分散体を得た。続いて、生成物を減圧下に65℃で8時間かけて加熱し、アセトンを除去し、ポリウレタン樹脂水性分散体1,000部を得た。
なお表1中の比較例1における(U)のNCO含量は、プレポリマーのイソシアネート含量を示し、(U)の溶融温度は最終的に得られたポリウレタン樹脂水性分散体の乾燥物の溶融温度を示す。
【0073】
比較例2
実施例1と同様にウレタン化〜トリエチルアミン添加までを実施後、185℃[(U)の溶融温度170℃以上の温度]の条件下で2軸混練機のKRCニーダーにて150rpmで5分間分散させ、ポリウレタン樹脂水性分散体1,000部を得た。
【0074】
比較例3
実施例1と同様にウレタン化〜トリエチルアミン添加までを実施後、150℃の条件下でTKホモミキサーを用いて15,000rpmにて10分間分散させ、ポリウレタン樹脂水性分散体1,000部を得た。
【0075】
比較例4
2軸混練機のKRCニーダーに、Mnが2,000のポリカーボネートジオール「ニッポラン980R」224.2部、DMPA22.9部、および4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)73部を窒素雰囲気下で導入した。その後200℃に加熱し、10分間混練してウレタン化反応を行った。反応物を取り出し、180℃に熱した圧プレス機で圧延後、角形ペレット機にて裁断した。続いて、90℃のイオン交換水662.8部にトリエチルアミン(中和剤)17.2部を加え、90℃の条件下でTKホモミキサーを用いて16,000rpmにて3分間分散させた後、90℃の条件下でクレアミックスを用いて20,000rpmにて3分間分散させポリウレタン樹脂水性分散体を得た。さらに90℃の条件下で、得られた分散体を150MPaの圧力をかけた高圧ホモジナイザーに通じようと試みたが、ポリウレタン樹脂水性分散体の体積平均粒子径が大きすぎたため、高圧ホモジナイザーの流路内に樹脂組成物が詰まった。表1には高圧ホモジナイザーに通す前のポリウレタン樹脂水性分散体の物性を示す。また乾燥被膜については、評価用のフィルムを作成できなかった。
【0076】
上記で得られた水性分散体の各物性値を測定した。測定方法を以下に示す。
<Mw/Mn>
ポリウレタン樹脂を、DMF中にポリウレタン樹脂固形分が0.0125重量%となるように加えて、常温で1時間撹拌後、0.3μmの孔径のフィルターで加圧ろ過して、得られたろ液に含まれているウレタン樹脂を、DMFを溶媒として分子量標準としてポリスチレンを用いて、GPCにより測定した。
<Dv/Dn>
ポリウレタン樹脂水性分散体を、イオン交換水でポリウレタン樹脂の固形分が0.01重量%となるよう希釈した後、光散乱粒度分布測定装置[ELS−8000(大塚電子株製)]を用いて測定した。
<乾燥被膜の物性(100%応力、引張強度、破断伸び)>
JIS K7311に記載の5.引張試験に基づいて行った。測定試料は、ポリウレタン樹脂水性分散体10部とN−メチルピロリドン1部を均一に混合し、10cm×20cm×0.1cmのポリプロピレン製モールドに、水分乾燥後のフィルム膜厚が200μmになる量を流し込み、室温で12時間、循風乾燥機で105℃で3時間加熱乾燥することによって得られるフィルムを基に、JIS K7311に記載の5.1試験片に基づき作成した。
<分散体の安定性>
25℃に温調したポリウレタン樹脂水性分散体を12時間静置しておき、沈降物の発生を目視にて評価した。沈降物が発生しない場合を○、沈降物が発生した場合を×とした。
【0077】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のポリウレタン樹脂水性分散体は、塗料組成物、接着剤組成物、繊維加工用のバインダーとして好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端イソシアネート基含量が0.5重量%以下であるポリウレタン樹脂(U)および有機溶剤(S)からなる固状のポリウレタン樹脂組成物(US)を、一種以上の分散混合装置(A1)を用いてポリウレタン樹脂組成物(US)の溶融温度未満の温度で水中に分散させて、体積平均粒子径0.1〜100μmのポリウレタン樹脂(U1)からなるポリウレタン樹脂水性分散体(Q1)を得た後、さらに、該分散混合装置(A1)とは分散方式が異なる一種以上の分散混合装置(A2)を用いてポリウレタン樹脂組成物(US)の溶融温度未満の温度で該ポリウレタン樹脂(U1)の体積平均粒子径の1/2〜1/1,000の体積平均粒子径になるまで分散させることを特徴とする、体積平均粒子径0.01〜5μmのポリウレタン樹脂からなるポリウレタン樹脂水性分散体(Q2)の製造方法。
【請求項2】
該ポリウレタン樹脂組成物(US)が70〜280℃の溶融温度を有し、25℃で0.2〜20mmの体積平均粒子径を有する粒子状物である請求項1記載のポリウレタン樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項3】
該分散混合装置(A1)が、回転式分散混合装置およびメディア式分散混合装置から選ばれる1種以上である請求項1または2記載のポリウレタン樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項4】
該分散混合装置(A2)が、高圧式分散混合装置である請求項1〜3のいずれか記載のポリウレタン樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項5】
該ポリウレタン樹脂組成物(US)が、有機溶剤の存在下に、70℃〜210℃で、ポリオールとポリイソシアネートをウレタン化反応させて得られたポリウレタン樹脂組成物である請求項1〜4のいずれか記載のポリウレタン樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項6】
該ウレタン化反応が、一軸または二軸の混練機中で行われることを特徴とする請求項5記載のポリウレタン樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項7】
該ウレタン化反応に引き続いて、体積平均粒子径0.2〜20mmの固体粒子の調製、ポリウレタン樹脂水性分散体(Q1)の製造およびポリウレタン樹脂水性分散体(Q2)の製造を連続で行うことを特徴とする請求項5または6記載のポリウレタン樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項8】
該ポリウレタン樹脂組成物(US)におけるポリウレタン樹脂(U)中の親水性基の含有量が、ポリウレタン樹脂(U)の重量に基づいて5重量%以下である請求項1〜7のいずれか記載のポリウレタン樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか記載の製造方法で得られ、以下の(1)〜(3)の全てを満たすポリウレタン樹脂水性分散体。
(1)ポリウレタン樹脂の重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)が1.5〜3.5である。
(2)ポリウレタン樹脂の体積平均粒子径(Dv)が0.01〜5μmである。
(3)ポリウレタン樹脂の体積平均粒子径/個数平均粒子径(Dv/Dn)が1.2〜5である。

【公開番号】特開2007−277325(P2007−277325A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−102732(P2006−102732)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】