説明

ポリウレタン樹脂水性分散体

【課題】 乾燥皮膜の耐水性、耐溶剤性および耐熱黄変性が優れたポリウレタン樹脂水性分散体を提供する。
【解決手段】 水酸基当量150以上のポリオール(a)、水酸基当量150未満の3価以上のポリオール(b)、カルボキシル基と活性水素原子を有する親水性化合物(c)および有機ポリイソシアネート(d)とのウレタン化反応により得られ、該反応前、反応中および/または反応後に(c)のカルボキシル基の当量に基づいて50〜98当量%の中和剤(e)を加えて中和することを特徴とするウレタンプレポリマー(A1)と水性媒体からなるウレタンプレポリマー水性分散体(A2)、および2個以上の一級アミノ基を有するポリアミン(B)とを水性媒体中で反応させて得られるポリウレタン樹脂水性分散体(A3)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウレタンプレポリマーおよびポリウレタン樹脂水性分散体に関し、詳しくはイソシアネート基とカルボキシル基を有するウレタンプレポリマーから得られるポリウレタン樹脂水性分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、耐食性および対アルカリ性に優れた種々のポリウレタン樹脂の水性分散体が提案されている。例えば、末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを水性媒体中に分散する際に、イソシアネート基に対して1級アミノ基含有アミンを過剰当量用いて得られるポリウレタン樹脂水性分散体(特許文献−1参照)、並びにビスフェノール型骨格とエステル骨格とカルボキシル基を有するポリウレタン樹脂水性分散体(特許文献−2参照)などが提案されている。
【特許文献−1】特開平10−110093号公報
【特許文献−2】特開平6−145559号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、これらのポリウレタン樹脂水性分散体は、その乾燥皮膜の耐水性、耐溶剤性および耐熱黄変性において十分ではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリウレタン樹脂水性分散体を製造するためのプレポリマーにおいて用いられる中和剤の当量を50〜98当量%のとすることで課題を解決できることを見だした。
すなわち本発明は、イソシアネート基とカルボキシル基を有するウレタンプレポリマーであって、水酸基当量150以上のポリオール(a)、水酸基当量150未満の3価以上のポリオール(b)、カルボキシル基と活性水素原子を有する親水性化合物(c)および有機ポリイソシアネート(d)とのウレタン化反応により得られ、該反応前、反応中および/または反応後に(c)のカルボキシル基の当量に基づいて50〜98当量%の中和剤(e)を加えて中和することを特徴とするウレタンプレポリマー(A1);該ウレタンプレポリマー(A1)が、水性媒体中に分散されてなるウレタンプレポリマー水性分散体(A2);並びに該ウレタンプレポリマー水性分散体(A2)および2個以上の一級アミノ基を有するポリアミン(B)とを水性媒体中で反応させて得られるポリウレタン樹脂水性分散体であって、該(B)の一級アミノ基の当量が、該(A2)のイソシアネート基の当量に基づいて1〜99.9当量%であることを特徴とするポリウレタン樹脂水性分散体(A3);である。
【発明の効果】
【0005】
本発明のポリウレタン樹脂水性分散体から得られる乾燥皮膜は、耐水性、耐溶剤性および耐熱黄変性が優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明のウレタンプレポリマー(A1)は、ポリオール、カルボキシル基と活性水素原子を有する親水性化合物(c)および有機ポリイソシアネート化合物(d)とのウレタン化反応によって得られ、該(c)のカルボキシル基の中和剤(e)で反応前、反応中および/または反応後に特定の中和度で中和することにより得られる。
【0007】
ポリオールとしては、水酸基当量(数平均分子量と水酸基価から算出される、水酸基1個当たりの数平均分子量)150以上のポリオール(a)および水酸基当量150未満の3価以上のポリオール(b)が挙げられる。
【0008】
水酸基当量150以上のポリオール(a)としては、ポリエーテルポリオール(a1)およびポリエステルポリオール(a2)などが挙げられる。
【0009】
(a1)としては、脂肪族ポリエーテルポリオール(a11)および芳香族環含有ポリエーテルポリオール(a12)が挙げられる。
【0010】
(a11)としては、脂肪族低分子量活性水素原子含有化合物(水酸基当量が30以上150未満の2価〜8価またはそれ以上の脂肪族多価アルコール、および活性水素原子含有基として1級もしくは2級アミノ基を含有する化合物)のアルキレンオキサイド(以下、AOと略記)付加物が使用できる。
AOが付加される脂肪族多価アルコールには、直鎖もしくは分岐の脂肪族2価アルコール[(ジ)エチレングリコール、(ジ)プロピレングリコール、1,2−,1,3−,2,3−および1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジ オール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオールお よび1,12−ドデカンジオールなど]および脂環式2価アルコール[環状基を有する低分子ジオール、たとえば 特公昭45−1474号公報記載のもの]、脂肪族3価アルコール[グリセリン、トリメチロールプロパン、トリアルカノールアミンなど]、および脂肪族4価以上のアルコール[ペンタエリスリトール、ジグリセリン、トリグリセリン、ジペンタエリスリトール、ソルビット、ソルビタン、ソルバイドなど]が挙げられる。
AOが付加される1級もしくは2級アミノ基を含有する化合物としては、アルキル(炭素数1〜12)アミン、および(ポリ)アルキレンポリアミン(アルキレン基の炭素数2〜6、アルキレン基の数1〜4、ポリアミンの数2〜5)などが挙げられる。
【0011】
(a12)としては芳香族低分子量活性水素原子含有化合物(水酸基当量が30以上150未満の2価〜8価またはそれ以上の、フェノールおよび芳香族アミン)のAO付加物が使用できる。
水酸基当量が30以上150未満の2価〜8価またはそれ以上のフェノールとしては、ヒドロキノン、カテコール、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなど、芳香族アミンとしてはアニリンおよびフェニレンジアミンなどが挙げられる。
【0012】
AO付加物の製造に用いるAOとしては、炭素数2〜12またはそれ以上のAO、例えばエチレンオキサイド(以下、EOと略記)、プロピレンオキサイド(以下、POと略記)、1,2−、2,3−および1,3−ブチレンオキサイド、 テトラヒドロフラン(THF)、α−オレフィンオキサイド、スチレンオキサイド、エピハロヒドリン(エピクロルヒドリン等)、およびこれらの2種以上の併用(ランダムおよび/またはブロック)が挙げられる。
【0013】
(a11)としては、例えばポリオキシエチレンポリオール[ポリエチレングリコール(以下PEGと略記)など]、ポリオキシプロピレンポリオール[ポリプロピレングリコール(以下PPGと略記)など]、ポリオキシエチレン/プロピレンポリオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどが挙げられる。
(a12)としては、ビスフェノール骨格を有するポリオール(a121)、例えばビスフェノールAのEO付加物[ビスフェノールAのEO2モル付加物、ビスフェノールAのEO4モル付加物、ビスフェノールAのEO6モル付加物、ビスフェノールAのEO8モル付加物、ビスフェノールAのEO10モル付加物、ビスフェノールAのEO20モル付加物等]およびビスフェノールAのPO付加物[ビスフェノールAのPO2モル付加物、ビスフェノールAのPO3モル付加物、ビスフェノールAのPO5モル付加物等]、並びにレゾルシンのEOもしくはPO付加物(a122)などが挙げられる。(a12)のうち好ましいのは後述のポリウレタン樹脂水性分散体の乾燥被膜の耐水性の観点から(a121)である。
【0014】
(a1)は、上記の脂肪族または芳香族低分子量活性水素原子含有化合物に、付加触媒(アルカリ金属水酸化物、ルイス酸などの公知の触媒)の存在下にAOを開環付加反応させることで得られる。
【0015】
(a1)の数平均分子量は通常300以上、好ましくは300〜10,000、さらに好ましくは300〜6,000である。
(a1)の水酸基当量は、通常150以上、好ましくは150〜5,000、さらに好ましくは150〜3,000である。
【0016】
ポリエステルポリオール(a2)としては、縮合型ポリエステル(a21)、ポリラクトンポリオール(a22)、ポリカーボネートポリオール(a23)およびヒマシ油系ポリオール(a24)が挙げられる。
【0017】
縮合型ポリエステル(a21)は、低分子量(数平均分子量300以下)の多価アルコールと多価カルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体とのポリエステルである。
低分子量の多価アルコールとしては、前述の水酸基当量が30以上150未満の2価〜8価またはそれ以上の脂肪族多価アルコールおよび水酸基当量が30以上150未満の2価〜8価またはそれ以上のフェノールのAO低モル付加物が使用できる。
(a21)に使用できる低分子量の多価アルコールのうち好ましいのは、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサングリコール、ビスフェノールAのEOもしくはPO低モル付加物、およびこれらの併用である。
(a21)に使用できる多価カルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体としては、
脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸 、フマル酸、マレイン酸など)、脂環式ジカルボン酸(ダイマー酸など)、芳香族ジカルボン酸(テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸など)および3価またはそれ以上のポリカルボン酸(トリメリット酸、ピロメリット酸など)、これらの無水物(無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸など)、これらの酸ハロゲン化物(アジピン酸ジクロライドなど)、これらの低分子量アルキルエステル(コハク酸ジメチル、フタル酸ジメチルなど)およびこれらの併用が挙げられる。
【0018】
(a21)としては、例えばポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンイソフタレートジオール、ポリネオペンチルアジペートジオール、ポリエチレンプロピレンアジペートジオール、ポリエチレンブチレンアジペートジオール、ポリブチレンヘキサメチレンアジペートジオール、ポリジエチレンアジペートジオール、ポリ(ポリテトラメチレンエーテル)アジペートジオール、ポリ(3−メチルペンチレンアジペート)ジオール、ポリエチレンアゼレートジオール、ポリエチレンセバケートジオール、ポリブチレンアゼレートジオール、ポリブチレンセバケートジオール、ポリネオペンチルテレフタレートジオールなどが挙げられる。
【0019】
ポリラクトンポリオール(a22)は、低分子量多価アルコールへのラクトンの重付加物であり、ラクトンとしては、炭素数4〜12のラクトンが使用でき、例えば4−ブタノリド、5−ペンタノリドおよび6−ヘキサノリドなどが挙げられる。
(a22)としては、例えばポリカプロラクトンジオール、ポリバレロラクトンジオール、ポリカプロラクトントリオールなどが挙げられる。
【0020】
ポリカーボネートポリオール(a23)は、低分子量多価アルコールへのアルキレンカーボネートの重付加物であり、アルキレンカーボネートとしては炭素数2〜8のアルキレンカーボネートが使用でき、例えばエチレンカーボネートおよびプロピレンカーボネートなどが挙げられる。これらはそれぞれ2種以上併用してもよい。
(a23)としては、ポリヘキサメチレンカーボネートジオールなどが挙げられる。
(a23)の市販品としては、ニッポラン980R[Mn=2,000,日本ポリウレタン工業(株)製]、T5652[Mn=2,000、旭化成(株)製]およびT4672[Mn=2,000、旭化成(株)製]が挙げられる。
【0021】
ヒマシ油系ポリオール(a24)は、ヒマシ油およびポリオールもしくはAOで変性されたヒマシ油が含まれる。
変性ヒマシ油はヒマシ油とポリオールとのエステル交換および/またはAO付加により製造できる。(a24)としては、ヒマシ油、トリメチロールプロパン変性ヒマシ油、ペンタエリスリトール変性ヒマシ油、ヒマシ油のEO(4〜30モル)付加物などが挙げられる。
【0022】
ポリエステルポリオール(a2)のうち好ましいのは、縮合型ポリエステル(a21)およびポリカーボネートポリオール(a23)である。
【0023】
ポリオール(a)は(a1)および(a2)を併用することが好ましく、さらに好ましいのは後述のポリウレタン樹脂水性分散体の乾燥皮膜の耐水性の観点から水酸基当量が150〜400の(a12)と水酸基当量が300〜800の(a21)との併用であり、このうち特に好ましいのは(a12)のうちの(a121)と(a21)の併用、特にビスフェノールAのEOもしくはPO付加物と(a21)との併用である。
(a12)と(a21)の併用の場合の、併用の重量割合[(a12)/(a21)]は、ポリウレタン樹脂水性分散体の乾燥被膜の耐水性の観点から好ましくは20/80〜80/20、さらに好ましくは30/70〜70/30である。
【0024】
本発明における水酸基当量150未満の3価以上のポリオール(b)としては、
前述の脂肪族3価アルコールおよび脂肪族4価以上のアルコールが挙げられる。(b)のうち好ましいのは、耐水性、耐熱黄変性の観点から3価のポリオール、特にトリメチロールプロパンである。
【0025】
本発明におけるカルボキシル基と活性水素原子を有する親水性化合物(c)としては、
炭素数6〜24のジアルキロールアルカン酸が使用でき、例えば2,2−ジメチロールプロピオン酸(DMPAと略記)、2,2−ジメチロールブタン酸、2 ,2−ジメチロールヘプタン酸、2,2−ジメチロールオクタン酸などが挙げられる。
これらの中和塩、例えばアミン類(トリエチルアミン、アルカノールアミン、モルホリンなど)の塩および/またはアルカリ金属塩(ナトリウム塩など)も併用することができるが、併用の好ましい割合は(c)のうちの中和塩が50〜98当量%となるような割合である。
(c)のうちで好ましいのは、DMPAおよび2,2−ジメチロールブタン酸であり、特に好ましいのは、DMPAである。
【0026】
本発明における有機ポリイソシアネート(d)としては、従来からポリウレタン製造に使用されているものが使用できる。このような有機ポリイソシアネートには、2個〜3個またはそれ以上のイソシアネート基を有する(イソシアネート基中の炭素原子を除く 、以下同様)炭素数6〜20の芳香族ポリイソシアネート(d1)、炭素数2〜18の脂肪族ポリイソシアネート(d2)、炭素数4〜15の脂環式ポリイソシアネート(d3)、炭素数8〜15の芳香脂肪族ポリイソシアネート(d4)、およびこれらのポリイソシアネートの変性物(d5)およびこれらの2種以上の併用が含まれる。
(d1)としては、例えば1,3−および/または1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−および/または2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、粗製TDI、4,4’−および/または2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、粗製MDI、4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3 ’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5−ナフチレンジイソシアネート、4,4’,4”−トリフェニルメタントリイソシアネート、m−およびp−イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネートなどが挙げられる。
(d2)としては、例えばエチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ドデカメチレンジイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2−イソシアナトエチル)フマレート、ビス(2−イソシアナトエチル)カーボネート、2−イソシアナトエチル−2,6−ジイソシアナトヘキサノエートなどが挙げられる。
(d3)としては、例えばイソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート(水添TDI)、ビス (2−イソシアナトエチル)−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボキシレート、2,5−および/または2,6−ノルボルナンジイソシアネートなどが挙げられる。
(d4)としては、例えばm−および/またはp−キシリレンジイソシアネート(XDI)、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)などが挙げられる。
(d5)としては 、上記ポリイソシアネートの変性物(ウレタン基、カルボジイミド基、アロファネート基、ウレア基、ビューレット基、ウレトジオン基、ウレトイミン基、イソシアヌレート基および/またはオキサゾリドン基含有変性物など;遊離イソシアネート基含量が通常8〜33%、好ましくは10〜30%とくに12〜29% のもの)、例えば変性MDI(ウレタン変性MDI、カルボジイミド変性MDI、トリヒドロカルビルホスフェート変性MDI等)、ウレタン変性TDI、ビウレット変性HDI、イソシアヌレート変性HDI、イソシアヌレート変性IPDIなどのポリイソシアネートの変性物が挙げられ、ウレタン変性ポリイ ソシアネート[過剰のポリイソシアネート(TDI、MDIなど)とポリオールとを反応させて得られる遊離イソシアネート含有プレポリマー]の製造に用いるポリオールとしては、後述の低分子ポリオールが挙げられる。2種以上の併用としては、変性MDIとウレタン変性TDI(イソシアネート含有プレポリマー)との併用が挙げられる。
これらのうちで好ましいのは(d2)および(d3)、さらに好ましいのは(d3)、特に好ましいのはIPDIおよび水添MDIである。
【0027】
本発明におけるカルボキシル基の中和剤(e)は、(A1)を製造する反応前、反応中および/または反応後に加えることができる。好ましいのは、耐熱黄変性の観点から反応前である。
(e)としては、例えば炭素数1〜4の3級アミン類、アルカリ金属水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)およびアルカリ土類金属水酸化物(水酸化カルシウムなど)が使用可能であり、3級アミン類としてはトリエチルアミン、トリメチルアミン、トリプロピルアミンおよびトリブチルアミンが挙げられる。好ましいのは、3級アミン、特にトリエチルアミンである。
(e)の使用量は、(c)のカルボキシルの当量に対して通常50〜98当量%、好ましくは60〜98当量%、さらに好ましくは65〜96当量%である。
(e)の使用量が50当量%未満であれば、後述の、(A1)の水性分散体(A2)、およびポリウレタン樹脂水性分散体(A3)の分散安定性が不十分であり、98当量%を超えると耐水性および耐熱黄変性が不十分である。
【0028】
本発明のプレポリマー(A1)の製造は、通常20℃〜150℃、好ましくは60℃〜110℃の反応で行われ、反応時間は通常2〜10時間である。反応は一段または多段反応で進行させることができる。
(A1)の製造時の水酸基含有成分の平均の水酸基当量は、好ましくは、100〜1,000、さらに好ましくは、120〜850、特に好ましくは、150〜600である。
(A1)の製造時の[(d)の仕込み当量数]/[水酸基含有成分{(a)+(b)+(c)}の仕込み当量数の合計]は、好ましくは1.08〜2.00、さらに好ましくは、1.10〜1.95、特に好ましくは、1.2〜1.85である。
また、(a)/(b)/(c)の水酸基の当量比は、好ましくは15〜50/15〜30/35〜65、さらに好ましくは20〜40/18〜27/38〜62である。
また、(a)/(b)/(c)の重量比は、好ましくは60〜90/2〜9/10〜31、に好ましくは65〜85/3〜7/12〜28である。
(A1)は通常0.5〜10重量%、好ましくは2〜5重量%の遊離イソシアネート基含量(以下、NCO含量と略記する)を有する。
【0029】
(A1)の製造は、イソシアネート基と実質的に非反応性の有機溶剤の存在下または非存在下で行うことができる。必要により使用することのできる、有機溶剤としてはアセトンおよびエチルメチルケトンなどのケトン類、エステル類、エーテル類並びにアミド類が挙げられる。これらのうち好ましいのはアセトン、N−メチル−2−ピロリドンである。
有機溶剤の仕込み量は、(a)、(b)、(c)および(d)の合計の仕込量に対して通常200重量%以下、好ましくは100重量%以下、さらに好ましくは0.1〜100重量%である。有機溶剤を使用した場合は、生成物は(A1)の有機溶剤溶液となるが、必要により加熱蒸発させて有機溶剤を除去してもよい。
【0030】
上記の(A1)の製造においては反応を促進させるため、必要により通常のウレタン反応に使用される触媒を使用してもよい。触媒には、アミン触媒、たとえばトリエチルアミン、N−エチルモルホリン、トリエチレンジアミンおよび米国特許第4524104号明細書に記載のシクロアミジン類[1,8−ジア ザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7(サンアプロ・製造、DBU)な ど](ただし、これらのアミン類を使用した場合は、これらのアミン類は上記の中和剤(e)の使用量に含まれる。);錫系触媒、たとえばジブチル錫ジラウリレート、ジオクチル錫ジラウリレートおよびオクチル酸錫;チタン系触媒、たとえばテトラブチルチタネート;ビスマス系触媒、ビスマストリス(2−エチルヘキサネート)等が挙げられる。
【0031】
本発明のウレタンプレポリマー水性分散体(A2)は、(A1)が水性媒体中に分散されてなるものである。
水性媒体としては、水および水と有機溶剤の混合媒体が使用できる。有機溶剤としては、イソシアネート基と実質的に非反応性のものおよび親水性(水混和性)のもの(アセトン、エチルメチルケトンなどのケトン類、エステル類、エーテル類、アミド類、アルコール類)が挙げられる。これらのうち好ましいのはアセトンおよびN−メチル−2−ピロリドンである。水と有機溶剤との重量比は通常100/0〜50/50、好ましくは100/0〜80/20 特に100/0である。なお、(A1)の反応溶剤としてこれらの有機溶剤を使用した場合は、該有機溶剤は(A2)における水性媒体の1つの成分となる。
(A2)中の(A1)の濃度は、通常15〜50重量%、好ましくは20〜45重量%である。
【0032】
(A1)またはその溶液を水性媒体中に分散させる装置は特に限定されず、例えば下記の方式の乳化分散機が挙げられる。1)錨型撹拌方式、2)回転子−固定子式方式[例えば「エバラマイルダー」(荏原製作所製)]、3)ラインミル方式[例えばラインフローミキサー]、4)静止管混合式[例えばスタティックミキサー]、5)振動式[例えば「VIBRO MIXER」(冷化工業社製)]、6)超音波衝撃式[例えば超音波ホモジナイザー]、7)高圧衝撃式[例えばガウリンホモジナイザー(ガウリン社)]、8)乳化式[例えば膜乳化モジュール]および9)遠心薄膜接触式[例えばフィルミックス]などである。これらのうち、好ましいのは、2)、5)および9)である。
(A2)の製造における工程中の温度は通常40℃以下、特に10〜40℃である。
【0033】
本発明のポリウレタン樹脂水性分散体(A3)は、(A2)と、2個以上の一級アミノ基を有するポリアミン(B)を水性媒体中で反応させて得られるものであり、(B)としては以下のものが挙げられる。
脂肪族ポリアミン(エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等)、ポリアルキレンポリアミン(ジエチレントリアミンなど)、脂環式ポリアミン(ジシクロヘキシルメタンジアミン、イソホロンジアミンなど)、芳香脂肪族ポリアミン
(キシリレンジアミンなど)、芳香族ポリアミン(フェニレンジアミン、トリレンジアミン、ジエチルトリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、ジフェニルエーテルジアミン、ポリフェニルメタンポリアミンなど)、および複素環式ポリアミン(ピペラジン、N−アミノエチルピペラジンおよびその他特公昭55−210 44号公報記載の化合物)が挙げられる。
好ましいのは、脂肪族ポリアミン、ポリアルキレンポリアミン、脂環式ポリアミン、さらに好ましくは、脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン、特に好ましくは、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミンである。
ポリアミン化合物(B)は、(A2)との反応の前に予め水で希釈しておくことが好ましい。濃度は、1〜50重量%、好ましくは、2〜30重量%、さらに好ましくは、5〜20重量%である。
(B)の使用割合は、(A2)のイソシアネート基の当量に対する(B)の一級アミノ基の当量が通常1〜99.9当量%、(A3)の乾燥皮膜の耐熱黄変性および耐溶剤性の観点から好ましくは10〜90当量%、さらに好ましくは20〜85当量%、特に好ましくは25〜80当量%、とりわけ好ましくは30〜75当量%になるような量である。
【0034】
(A3)の製造は、通常は、(A2)と(B)もしくは(B)の水溶液と反応させる。
反応温度は、好ましくは10〜50℃、さらに好ましくは、15〜45℃であり、反応時間は通常10分〜5時間である。
【0035】
必要により水性媒体に含有させることのできる親水性溶剤としては、前述と同様の親水性溶剤が挙げられる。
(A3)の製造における水性媒体中の水と親水性溶剤との重量比は通常100/0〜50/50、好ましくは100/0〜80/20 特に100/0である。
親水性溶剤を使用した場合には、(A3)の製造後に必要によりこれらを留去してもよい。
【0036】
(A3)の製造に用いることのできる装置は特に限定されず、例えば(A2)の製造に使用した乳化分散機が挙げられる。
【0037】
(A3)の固形分濃度(水性媒体と親水性溶剤以外の成分の濃度)は通常10〜80重量%、好ましくは30〜70重量%である。
【0038】
また、粘度は通常100〜500mPa・s、好ましくは130〜400mPa・sである。粘度はB型粘度計を用いて測定することができる。測定の条件として、水性分散体を25℃水浴中で温調して測定するのが好ましい。
さらに、pHは通常6〜10、好ましくは7〜9であり、pHはpH−Meter「M−12」(堀場製作所製)で測定することができる。
また、(A3)のポリウレタン樹脂粒子の平均粒子径は、好ましくは50〜1,000nm、さらに好ましくは80〜500nmである。
平均粒子径の測定は、200mlビーカーに水100mlを入れ、マグネチックスターラーにて撹拌下(1,000rpm)に、水性分散体を0.1g投入し、10分間撹拌したものを、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(LA−700型:堀場製作所(株)製)により行うことができる。
【0039】
前述のウレタンプレポリマー(A1)におけるカルボキシル基の当量に基づく中和剤(e)の当量%は、製造された(A3)の分析・定量から確認することができる。
例えば、(e)がアミン類の場合、(A3)のガスクロクロマトグラフィーによる分析で(e)の含有量を定量し、電位差滴定法により(c)に基づくカルボキシル基およびカルボキシレート基含量を定量し、これらの定量結果から(e)の(c)に対する当量%を計算する方法が挙げられる。
【0040】
本発明のポリウレタン樹脂水性分散体は、塗料およびコーティング剤などの用途にバインダー成分として使用できる。
塗料およびコーティング剤としては、自動車用の上塗り、中塗りおよび下塗り塗料、建材用塗料(外壁塗装用塗料など)、金属類の防錆コーティング、金属および樹脂などの防傷コーティング、紙や皮革などの耐水性コーティング、耐溶剤性コーティングおよび防湿性コーティング、並びに床面のつや出しコーティングなどが挙げられる。
これらの塗料等には、本発明の水性分散体以外に、架橋剤、並びに必要によりその他の添加剤、例えば顔料、顔料分散剤、粘度調整剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、劣化防止剤、安定化剤および凍結防止剤など1種または2種以上を添加することができる。
【0041】
塗料等の硬化方式は特に限定されず、例えば熱風、赤外線、電熱ヒーター、UVまたはEBなどが用いられる。
【0042】
さらに、本発明のポリウレタン樹脂水性分散体は、塗工紙用バインダーおよびセラミック用バインダーなどにも有用である。
【0043】
<実施例>
以下、実施例を以て本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。以下、部は重量部を意味する。
【0044】
実施例1
撹拌機および加熱器を備えた加圧反応装置に窒素を導入しながら、水酸基価112のサンエスター6809Be[ポリエステルポリオール、Mn=900(水酸基当量=450);三洋化成工業(株)製]を80部、DMPAを29部、ニューポールBP−3P[ビスフェノールAのPO3モル付加物(水酸基当量=200);三洋化成工業(株)製]を40部、トリメチロールプロパン(水酸基当量=45)を9部、トリエチルアミンを20部、水添MDIを205部、アセトンを140部、およびN−メチル−2−ピロリドンを170部仕込んだ。その後85℃に加熱し、8時間かけてウレタン化反応を行い、イソシアネート基とカルボキシル基を有するウレタンプレポリマー(A1−1)を製造した。反応混合物を40℃に冷却後、錨型撹拌羽根で撹拌しながら水420部を加え、プレポリマーの水性分散体(A2−1)を得た。引き続いて、エチレンジアミンを10重量%含む水溶液58部を5分間で滴下し混合させた。その後、30〜35℃で30分間撹拌した。
生成物を減圧下に65℃で8時間かけて加熱し、アセトンを除去し、本発明のポリウレタン樹脂水性分散体(A3−1)1,030部を得た。
【0045】
実施例2〜5および比較例1〜2
表1および2に記載の原料を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で実施例2〜5および比較例1〜2のポリウレタン樹脂水性分散体を製造した。
得られたポリウレタン樹脂水性分散体の分析値を表1および2に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
これらのポリウレタン樹脂水性分散体の乾燥皮膜(フィルム)の耐水性、耐溶剤性および耐熱黄変性について下記の評価方法で評価した。結果を表3に示す。
<耐水性>
測定フィルムは、10cm×20cm×0.1cmのポリプロピレン製モールドに、水性媒体蒸発後のフィルム膜厚が200μmになるような量のポリウレタン樹脂水性分散体を流し込み、循風乾燥器で130℃で90分加熱乾燥することにより水性媒体を蒸発させて得られた。このフィルムを5cm×5cmに切り取り、25℃の水中に24hr浸漬前後の重量変化を測定し、重量の変化率(%)で耐水性を評価した。変化率が少ないほど耐水性が良好である。
【0049】
<耐溶剤性>
耐水性試験の際に使用したものと同様のフィルムを25℃のメチルエチルケトンおよびキシレン中に24hr浸漬前後の重量変化を測定し、重量の変化率(%)で耐溶剤性を評価した。
<耐熱黄変性>
10cm×10cm×0.1cmのガラス板上に水性分散体をバーコーターで水性媒体蒸発後の膜厚が100μmになるようにコーティングし、180℃の順風乾燥機で3hr熱処理後の樹脂の色の変化を色差計(多光源分光測色計 MSC−2型、スガ試験機(株)製)を用いて、透過法、標準光Cの条件で測定し、得られた測色値bの熱処理前後の差(Δb)を計算した。Δbが小さいほど耐黄変性が良好である。
【0050】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のポリウレタン樹脂水性分散体は、塗料、コーティング剤(防水コーティング、撥水コーティング、防汚コーティングなど)に幅広く使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネート基とカルボキシル基を有するウレタンプレポリマーであって、水酸基当量150以上のポリオール(a)、水酸基当量150未満の3価以上のポリオール(b)、カルボキシル基と活性水素原子を有する親水性化合物(c)および有機ポリイソシアネート(d)とのウレタン化反応により得られ、該反応前、反応中および/または反応後に(c)のカルボキシル基の当量に基づいて50〜98当量%の中和剤(e)を加えて中和することを特徴とするウレタンプレポリマー(A1)。
【請求項2】
水酸基当量150以上のポリオール(a)のうちの少なくとも1種がビスフェノールA骨格を有するポリオール(a121)である請求項1記載のウレタンプレポリマー。
【請求項3】
中和剤(e)が炭素数1〜4のアルキル基を有するトリアルキルアミンである請求項1または2記載のウレタンプレポリマー。
【請求項4】
水酸基当量150未満の3価以上のポリオール(b)がトリメチロールプロパンである請求項1〜3のいずれか記載のウレタンプレポリマー。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載のウレタンプレポリマー(A1)が、水性媒体中に分散されてなるウレタンプレポリマー水性分散体(A2)。
【請求項6】
請求項5記載のウレタンプレポリマー水性分散体(A2)および2個以上の一級アミノ基を有するポリアミン(B)とを水性媒体中で反応させて得られるポリウレタン樹脂水性分散体であって、該(B)の一級アミノ基の当量が、該(A2)のイソシアネート基の当量に基づいて1〜99.9当量%であることを特徴とするポリウレタン樹脂水性分散体(A3)。

【公開番号】特開2006−89576(P2006−89576A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−276035(P2004−276035)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】