説明

ポリウレタン組成物、ポリウレタン弾性繊維

【課題】塩素水環境下における劣化に対する安定性に優れたポリウレタン組成物、及びポリウレタン弾性繊維を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のポリウレタン組成物、及びポリウレタン弾性繊維は、ハイドロタルサイト類化合物を含有し、該ハイドロタルサイト類化合物中に含まれるアルミニウムに対するマグネシウムのモル比が2.2〜5.0であり、平均粒径が2μm以下であり、かつ粒径2μm以上の粒子が10重量%以下であることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、塩素水環境下における劣化に対する安定性に優れたポリウレタン組成物、及びポリウレタン弾性繊維に関する。
【0002】
【従来の技術】ポリイソシアネート、比較的低分子量のポリマージオール及び低分子量の多官能性活性水素化合物から製造されるポリウレタンは、機械的性質が優れること、加工しやすいこと等の理由から、フォーム、エラストマー、塗料、合成皮革、繊維等の広い用途に用いられている。中でもポリイソシアネートとして4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族イソシアネートを用いて得られたポリウレタン弾性繊維は、高度のゴム弾性を有し、引張応力、回復性等の機械的性質に優れ、さらに熱的挙動についても優れた性質を有している。そのため、ポリアミド、ポリエステル等の各種繊維と交編され、ファンデーション、ソックス、スポーツウェアー等の衣料用機能素材として近年ますます広範に使用されるようになっている。
【0003】しかしながら、このような主としてセグメント化ポリウレタンからなる弾性繊維を使用した製品が塩素系漂白剤を含む洗剤など、塩素水環境下にさらされると、セグメント化ポリウレタンの物理的性質の大幅な低下が起こることが知られている。またポリウレタン弾性繊維を交編した水着は、水泳プール中で活性塩素濃度が0.5〜3ppmを含む水に長期間さらされると、繊維の物理的性質の低下が起こることが知られている。
【0004】このようなポリウレタン弾性繊維の塩素に対する耐久性を改善するため、従来から各種の添加剤が提案されている。例えば特許第1316267号には酸化亜鉛が記載されている。酸化亜鉛は確かに優れた耐塩素効果を示す。しかしながら、酸性条件下での織物の染色工程中に繊維から溶出するという欠点を有し、その結果、繊維の耐塩素性は低下し、さらにはその染色工程から生じる亜鉛を含む廃液により生物活性を利用した排水浄化プラント中のバクテリアが死滅するという重大な問題が生じる。また特開昭59−133248号公報にハイドロタルサイト類化合物が、特許第2887402号、及び特開平5−78569号公報には高級脂肪酸やシランカップリング剤で被覆されたハイドロタルサイト類化合物などが開示されている。しかしながらこれらのハイドロタルサイト類化合物の添加により得られる耐塩素性は十分でない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、優れた耐塩素性を有するポリウレタン組成物、ポリウレタン弾性繊維を提供せんとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは鋭意検討の結果、特定の組成および粒径を有するハイドロタルサイト類化合物をポリウレタンに添加することにより、上記目的が達成されることを見いだし、本発明の完成に至った。
【0007】すなわち本発明は、アルミニウムに対するマグネシウムのモル比が2.2〜5.0であり、平均粒径が2μm以下であり、かつ粒径2μm以上の粒子が10重量%以下であるハイドロタルサイト類化合物を含有することを特徴とするポリウレタン組成物、及びポリウレタン弾性繊維を提供するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】本発明のハイドロタルサイト類化合物はアルミニウムに対するマグネシウムのモル比が2.2〜5.0、好ましくは2.5〜4.0である。モル比が2.2未満のハイドロタルサイト類化合物ではポリウレタン組成物、及びポリウレタン弾性繊維に十分な耐塩素効果を付与することが不可能である。また、モル比が5.0以上では安定なハイドロタルサイトの結晶を得ることが不可能である。
【0009】本発明のハイドロタルサイト類化合物は平均粒径が2μm以下であり、かつ粒径2μm以上の粒子が10重量%以下であることが必要である。平均粒径が2μmを越えると耐塩素効果を発現するのに必要なハイドロタルサイト粒子の有効表面積が小さくなり、満足な耐塩素効果が得られない。また粒径2μm以上の粒子が10重量%を越えると紡糸工程におけるフィルター詰まり、糸切れが頻発し、長期の安定紡糸が不可能となる。
【0010】本発明のハイドロタルサイト類化合物の含有量は、ポリウレタンに対して0.5〜5重量%、好ましくは2〜4重量%である。0.5重量%未満の添加量では耐塩素効果が不十分であり、また5重量%以上の添加は繊維の物理的性質に悪影響を及ぼすため好ましくない。
【0011】本発明で使用するポリウレタンは、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系など、公知のポリウレタンを挙げることができる。かかるポリウレタンは、ポリイソシアネート、ポリマージオール、所望により低分子多官能活性水素化合物を反応させて得ることができる。
【0012】ポリイソシアネートとしては、例えば4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの1種又はこれらの混合物を用いることができる。好ましくは4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが挙げられる。
【0013】ポリマージオールは、両末端にヒドロキシル基を持つ分子量が600〜7000の実質的に線状の重合体として、例えばポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリプロピレンエーテルグリコール、ポリエチレンエーテルグリコール、ポリペンタメチレンエーテルグリコールなどのポリエーテルポリオールや、コポリ(テトラメチレン・ネオペンチレン)エーテルジオール、コポリ(テトラメチレン・2−メチルブチレン)エーテルジオール、コポリ(テトラメチレン・2,3−ジメチルブチレン)エーテルジオール、コポリ(テトラメチレン・2,2−ジメチルブチレン)エーテルジオールなどの2種以上の炭素数6以下のアルキレン基を含むコポリエーテルポリオールや、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、イタコン酸、アゼライン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、スベリン酸、ドデカンジカルボン酸、β−メチルアジピン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの二塩基酸の1種又は2種以上の混合物とエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ジメチロールシクロヘキサンなどのグリコールの1種あるいは2種以上の混合物から得られるポリエステルポリオールや、ポリエーテルエステルジオール、ポリラクトンジオール、ポリカーボネートジオールなどの任意のポリオールを用いることができる。
【0014】低分子多官能活性水素化合物としては、イソシアネート基と反応しうる活性水素基を分子中に二つ以上有する化合物(鎖延長剤)を挙げることができる。鎖延長剤として、例えば、エチレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノプロパン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどのポリアミンや、エチレングリコール、ブタンジオールなどのポリオール、ポリヒドラジド、ポリセミカルバジド、ポリヒドロキシルアミン、水、ヒドラジン、などの1種又は2種以上の混合物が挙げられる。
【0015】また鎖延長剤と共に末端停止剤として、分子中にイソシアネート基と反応しうる活性水素基をただ1つ有する化合物を併用することもできる。活性水素基を分子中に1つだけ有する化合物として、ジエチルアミン、ジメチルアミン、ジブチルアミン、ジエタノールアミンなどのジアルキルアミンや、エチルアミン、n−プロピルアミン、i−プロピルアミン、n−ブチルアミン、t−ブチルアミン、エタノールアミンなどのモノアルキルアミンや、n−ブタノールなどのモノオール、エチレンジアミンとアセトンの1:1反応物などのジアミンとケトンの脱水縮合物、N ,N−ジメチルヒドラジンなどの1種又は2種以上の混合物を挙げることができる。
【0016】ポリウレタンは公知の方法で重合することができる。例えば、溶融重合、溶液重合など任意の方法及びそれらの組合せによって重合することができる。また、原料を一括して混合して反応させるワンショット法、あるいは、まずプレポリマーを形成し鎖延長するプレポリマー法など任意の方法をとることができる。
【0017】また、反応速度調整剤として、酢酸、p−トルエンスルホン酸などの有機酸や炭酸ガスなどを、重合反応中の任意の段階で適当な量を添加することもできる。これらの反応調節剤は、プレポリマー反応終了後、鎖延長反応終了までに添加することが好ましい。またこれらの反応速度調節剤は、鎖延長剤や末端停止剤と混合して加えてもよい。
【0018】重合されたポリウレタンは公知の方法で成形し、おのおのの目的に使用することができる。また乾式紡糸法、溶融紡糸法、湿式紡糸法など公知の方法により紡糸され、目的とする繊維が製造される。本発明のハイドロタルサイト類化合物は、紡糸前の任意の段階で添加することが可能である。また任意の安定剤、例えば紫外線吸収剤、酸化防止剤、ガス黄変防止剤、光安定剤、着色剤、つや消し剤、充填剤等を単独、又は必要に応じて組み合わせて使用することも可能である。
【0019】
【実施例】以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。なお実施例中の部、及び%はそれぞれ重量部、及び重量%を表す。
【0020】(アルミニウムとマグネシウムのモル比測定法)ハイドロタルサイト類化合物を灰化し、高周波プラズマ発光分析装置(島津製作所ICPS−2000)により定量した。
【0021】(平均粒径測定法)ハイドロタルサイト類化合物を1重量%の水スラリーとし、粒度分布測定装置(堀場製作所LA−910)により測定した。
【0022】(耐塩素性評価試験法)44デシテックスのポリウレタン弾性繊維を一口編機(小池製作所製)を用いて、コース108/in、ウェール178/inの筒編地を作成し評価用試料とした。この試料を活性塩素濃度3ppm、pH7.5、水温30℃に保たれた水槽に72時間浸漬した。処理後の試料を蒸留水にて洗浄、風乾した後、編地を解編し、引張試験機(オリエンテック製RTM−250)を用いて単糸の強度を測定した。耐塩素性は塩素処理後の強度保持率を算出することにより評価した。
【0023】(紡糸安定性評価法)ポリウレタン溶液を脱泡後、メッシュ粗さ30μmのフィルターを通過させ、孔径0.3mm、孔数4ホールの口金から押出し、乾式紡糸を行ない、44デシテックスのポリウレタン弾性繊維を得た。500m/minで巻き取り、10時間紡糸を継続した際の紡糸安定性を評価した。評価は、◎:非常に安定した紡糸が可能、○:安定した紡糸が可能、△:希に糸切れが発生、×:糸切れが多発、の4段階にて行った。
【0024】(実施例1)数平均分子量1800のポリテトラメチレンエーテルグリコール175.37部と4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート38.92部をN2 気流下80℃で3時間反応させて、両末端がイソシアネート基のプレポリマーを得た。プレポリマーを40℃まで冷却した後、N,N−ジメチルアセトアミド308.36部を加えて溶解し、さらに10℃まで冷却した。エチレンジアミン3.58部とジエチルアミン0.46部をN,N−ジメチルアセトアミド146.86部に溶解した溶液を、高速撹拌しているプレポリマー溶液に一度に加え混合し反応を完結させた。この溶液に、酸化防止剤として1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2、6−ジメチルベンジルイソシアヌレート)(サイアノックス1790/日本サイアナミド)2.15部、紫外線吸収剤として2−〔2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−アミル)フェニル〕ベンゾトリアゾール(KEMISORB74/ケミプロ化成株式会社)1.08部、粘着防止剤としてステアリン酸マグネシウム0.69部、及び表1に示すアルミニウムに対するマグネシウムのモル比が3.0、平均粒径が0.52μmであるハイドロタルサイト3.0部を加えて、撹拌混合しポリウレタン溶液を得た。
【0025】ポリウレタン溶液を脱泡後、孔径0.3mm、孔数4ホールの口金から、230℃に加熱した空気を流した紡糸筒内に押出し、油剤を繊維に対して5重量%付与しつつ500m/minで巻き取り、44デシテックスのポリウレタン弾性繊維を得た。
【0026】得られたポリウレタン弾性繊維は、長時間の塩素水処理に対して優れた耐久性を有するものであった。評価結果を表1に示す。
【0027】(実施例2)実施例1のハイドロタルサイトの代わりにアルミニウムに対するマグネシウムのモル比が3.1、平均粒径が0.82μmであるハイドロタルサイトを用いる以外は実施例1と同様の操作を行い、ポリウレタン弾性繊維を得た。
【0028】得られたポリウレタン弾性繊維は、長時間の塩素水処理に対して優れた耐久性を有するものであった。評価結果を表1に示す。
【0029】(比較例1)実施例1のハイドロタルサイトの代わりにアルミニウムに対するマグネシウムのモル比が2.0、平均粒径が0.54μmであるハイドロタルサイトを用いる以外は実施例1と同様の操作を行い、ポリウレタン弾性繊維を得た。
【0030】得られたポリウレタン弾性繊維は塩素水に対する耐久性がやや劣っていた。評価結果を表1に示す。
【0031】(比較例2)実施例1のハイドロタルサイトの代わりにアルミニウムに対するマグネシウムのモル比が3.1、平均粒径が2.15μmであるハイドロタルサイトを用いる以外は実施例1と同様の操作を行い、ポリウレタン弾性繊維を得た。
【0032】得られたポリウレタン弾性繊維は塩素水に対する耐久性が劣っていた。評価結果を表1に示す。
【0033】(比較例3)実施例1のハイドロタルサイトを0.3部用いる以外は実施例1と同様の操作を行い、ポリウレタン弾性繊維を得た。
【0034】得られたポリウレタン弾性繊維は塩素水に対する耐久性が大きく劣っていた。評価結果を表1に示す。
【0035】
【表1】


【0036】
【発明の効果】本発明によれば、スイミングプール等において使用される水着用途に好適な、優れた耐塩素脆化性を有するポリウレタン弾性繊維を提供することを可能とした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】アルミニウムに対するマグネシウムのモル比が2.2〜5.0であり、平均粒径が2μm以下であり、かつ粒径2μm以上の粒子が10体積%以下であるハイドロタルサイト類化合物を含有することを特徴とするポリウレタン組成物。
【請求項2】ハイドロタルサイト類化合物が0.5〜5重量%含有されていることを特徴とする請求項1記載のポリウレタン組成物。
【請求項3】請求項1に記載のポリウレタン組成物からなることを特徴とするポリウレタン弾性繊維。

【公開番号】特開2003−113302(P2003−113302A)
【公開日】平成15年4月18日(2003.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−309084(P2001−309084)
【出願日】平成13年10月4日(2001.10.4)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】