説明

ポリウロン酸塩の製造方法

【課題】ニトロキシルラジカル化合物の存在下、多糖又はその誘導体の酸化によるポリウロン酸塩の製造において、ニトロキシルラジカル化合物を効率よく回収、再利用することができる、工業的に有利な製造方法を提供する。
【解決手段】ニトロキシルラジカル化合物及び酸化剤の存在下、水相及び有機溶媒相からなる二相系で、かつ水相のpHが4.0〜9.0の条件で多糖又はその誘導体の酸化を行い、ポリウロン酸塩を得る工程1;得られたポリウロン酸塩を含む二相系に塩基を加えて水相のpHを9.0を超え12.0以下に調整し、ニトロキシルラジカル化合物を有機溶媒相に抽出する工程2;ポリウロン酸塩を含む水相と、ニトロキシルラジカル化合物を含む有機溶媒相をそれぞれ回収する工程3を有する、ポリウロン酸塩の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリウロン酸塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に対する意識が高まるにつれ、環境に対して負荷の少ない材料が強く求められるようになってきた。このような流れの中、粒子分散剤、凝集剤、粘度調整剤、接着剤、皮膜形成剤等として、再生可能な天然原料であるセルロースからポリウロン酸塩を製造することが検討されている。
特許文献1〜4には、N−オキシル化合物の存在下、アルカリ性領域でセルロースを酸化し、ポリウロン酸塩等のセルロース誘導体を製造する方法が開示されている。
また、特許文献5には、N−オキシル化合物を含む触媒の存在下でセルロース繊維を酸化して、酸化セルロースの水分散液を得た後、触媒を回収する方法が開示されている。ここで、N−オキシル化合物として使われている2,2,6,6‐テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)を回収する方法として、酸化反応後の反応液に有機溶媒を加え、触媒を有機溶媒相に抽出して回収する方法(a)、吸着剤やイオン交換樹脂を添加して、触媒又は触媒を含む水溶液を回収する方法(b)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−251302号公報
【特許文献2】特開2005−15680号公報
【特許文献3】特開2006−124598号公報
【特許文献4】特開2009−263641号公報
【特許文献5】特開2009−242590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1〜5に開示の酸化技術は、原料としてセルロースのみならず、セルロース以外の1級水酸基を有する天然多糖、及び化学修飾多糖に対しても応用が可能である。
しかしながら、上記特許文献1〜4ではN−オキシル化合物の回収、再利用については検討されていない。例えば、反応後の触媒を含有する反応溶媒を単に再循環させて反応を行うと、触媒とともに塩等の副生成物が反応系に混入する。そのため、副生成物を含む触媒の再利用を繰り返すと、再循環反応を重ねる毎に副生成物の量が増加し、安定した条件でポリウロン酸塩を連続的に生産することができない。
一方、特許文献5に記載の触媒回収方法(a)では、触媒の再利用時に効率的な反応を行うため、触媒を溶解した有機溶媒相から有機溶媒を除去する工程が必要となり、触媒回収方法(b)では、触媒の吸着した吸着剤やイオン交換樹脂から触媒を脱離・回収する工程が必要となり、いずれの方法も操作が煩雑であり、コスト的にも好ましくない。
【0005】
従って、本発明の課題は、ニトロキシルラジカル化合物の存在下、多糖又はその誘導体の酸化によるポリウロン酸塩の製造において、ニトロキシルラジカル化合物を効率よく回収、再利用することができる、工業的に有利な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、かかる課題に対し、触媒としてニトロキシルラジカル化合物の存在下、水相及び有機溶媒相からなる二相系において、弱酸性〜弱アルカリ性条件で多糖誘導体の酸化反応を行い、その後水相をアルカリ性に調整することで、該触媒を有機溶媒溶液として効率よく回収できること、また回収した該触媒含有溶液を再利用して効率的にポリウロン酸塩が製造できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、下記工程1〜3を有する、ポリウロン酸塩の製造方法を提供する。
工程1:ニトロキシルラジカル化合物及び酸化剤の存在下、水相及び有機溶媒相からなる二相系で、かつ水相のpHが4.0〜9.0の条件で多糖又はその誘導体の酸化を行い、ポリウロン酸塩を得る工程
工程2:工程1で得られたポリウロン酸塩を含む二相系に塩基を加えて水相のpHを9.0を超え12.0以下に調整し、ニトロキシルラジカル化合物を有機溶媒相に抽出する工程
工程3:ポリウロン酸塩を含む水相と、ニトロキシルラジカル化合物を含む有機溶媒相をそれぞれ回収する工程
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ニトロキシルラジカル化合物の存在下、多糖又はその誘導体の酸化によるポリウロン酸塩の製造において、ニトロキシルラジカル化合物を効率よく回収、再利用することができる、工業的に有利な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のポリウロン酸塩の製造方法は、工程1(多糖又はその誘導体の酸化工程)、工程2(ニトロキシルラジカル化合物の有機溶媒相への抽出工程)及び工程3(ポリウロン酸塩を含む水相の回収工程、及びニトロキシルラジカルを含む有機溶媒相の回収工程)を有する。以下、本発明の各工程を詳細に説明する。
【0010】
[工程1;多糖又はその誘導体の酸化工程]
本発明における工程1は、ニトロキシルラジカル化合物及び酸化剤の存在下、水相及び有機溶媒相からなる二相系で、かつ水相のpHが4.0〜9.0の条件で多糖又はその誘導体の酸化反応(以下「工程1の反応」ともいう)を行い、ポリウロン酸塩を得る工程である。
この酸化工程において、多糖又はその誘導体を溶媒に溶解又は分散させ、ニトロキシルラジカル化合物、酸化剤及び必要に応じて更に共酸化剤の存在下で工程1の反応として酸化反応を行うことにより、ポリウロン酸塩を製造することができる。ここで「酸化反応」とは、多糖又はその誘導体の構成成分である、単糖から一分子の水が脱離した単糖残基(以下、糖から一分子の水が脱離した糖残基を単に「糖残基」ともいう)の一級水酸基、すなわちC6位の一級水酸基を選択的に酸化し、カルボキシ基を生成させる反応である。例えば、多糖がセルロースである場合、セルロース中のグルコース残基からグルクロン酸残基を生成させる反応である。
【0011】
<多糖又はその誘導体>
本発明において原料として用いられる多糖とは、セルロース、アミロース、アミロペクチン、キチン、キトサン、カラギーナン等の1級水酸基を有する天然多糖を意味し、多糖の誘導体とは、1級水酸基を有する天然多糖を化学修飾して得られる1級水酸基を有する多糖を意味する。
多糖の誘導体の具体例としては、炭素数4〜40の炭化水素基がエーテル基、エステル基、アミド基等を介して多糖に導入された、オクテニルコハク酸デンプンやドデシルセルロース等の疎水化多糖(i)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カチオン化でんぷん、メチルセルロースやカルボキシメチルセルロース等のエーテル化多糖(ii)(前記(i)を除く)、酢酸セルロースやリン酸でんぷん、架橋でんぷん等のエステル化多糖(iii)(前記(i)を除く)等が挙げられる。
以下、多糖又は多糖の誘導体を総称して、「多糖誘導体」ともいう。
これらの多糖誘導体の内、本発明の工程2におけるニトロキシルラジカル化合物とポリウロン酸塩の分離の効率の観点から、1級水酸基を有する天然多糖、1級水酸基を有するエーテル化多糖(ii)、又は1級水酸基を有するエステル化多糖(iii)が好ましく、中でも反応終了後の触媒分離の観点から不均一触媒の利用が困難な、水への溶解性が低い多糖誘導体、特にセルロースの酸化に対し、本発明の製造方法の適用は高い価値を有する。
多糖誘導体はそのまま反応原料として用いることもできるが、セルロースやキチンのように、結晶性が高く反応性が低い多糖誘導体を原料に用いる場合には、工程1における反応性の観点から、結晶性を低下させた低結晶性セルロース等の低結晶性多糖誘導体を用いることが好ましい。
【0012】
(低結晶性セルロース)
セルロースの場合、結晶化の程度は、下記計算式(1)に、X線結晶回折スペクトルから求められる数値を入れることにより、結晶化指数として数値化できる。
結晶化指数(%)=〔(I22.6−I18.5)/I22.6〕×100 (1)
〔I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度を示し、及びI18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。〕
結晶化指数は、結晶からアモルファスへの変化に伴うセルロースのI型結晶の002面におけるX線回折強度の変化を、その指標としている。従って、セルロース中に含まれる結晶形がI型のみであれば、理論上、結晶化指数は0〜100%の値となる。実際にはセルロース中には複数の結晶形が存在するため、I型以外の結晶も十分に破壊されアモルファス化されている場合は、負の値も採り得るが、本願においては上記計算式(1)で負の値が得られた場合は、結晶化指数は0%とみなす。
通常の粉末セルロースは、少量のアモルファス部を有し、それらの結晶化指数は、上記計算式(1)によれば、概ね60〜80%の範囲にあるいわゆる結晶性セルロースである。
本発明の原料としてセルロースを用いる場合には、工程1における反応性の観点から結晶化指数が0〜50%であることが好ましく、0〜10%であることがより好ましく、0〜6%であることが更に好ましい。
【0013】
(低結晶性多糖誘導体の調製)
結晶化指数を低下させた多糖誘導体の調製方法は特に限定されない。例えば、特開昭62−236801号公報、特開2003−64184号公報、特開2004−331918号公報、特開2010−37526号公報、特開2010−47622号公報等に記載の方法を挙げることができる。これらの中では、容器駆動媒体ミル、又は媒体攪拌式ミル等の媒体式粉砕機を用いた粉砕処理により結晶化指数を低下させることが、操作が簡便であり好ましい。
【0014】
(粉砕機)
容器駆動式粉砕機としては転動ミル、振動ミル、遊星ミル、遠心流動ミル等が挙げられる。この中で、多糖誘導体の低結晶化の効率及び生産性の観点から、振動ミルや遊星ミルが好ましい。
媒体撹拌式粉砕機としてはタワーミル等の塔型粉砕機;アトライター、アクアマイザー、サンドグラインダー等の撹拌槽型粉砕機;ビスコミル、パールミル等の流通槽型粉砕機;流通管型粉砕機;コボールミル等のアニュラー型粉砕機;連続式のダイナミック型粉砕機等が挙げられる。この中で、原料セルロースの低結晶化効率の観点、及び生産性の観点から、撹拌槽型粉砕機が好ましい。媒体攪拌式粉砕機を用いる場合の攪拌翼の先端の周速は、好ましくは0.5〜20m/s、より好ましくは1〜15m/sである。
処理方法としては、バッチ式、連続式のどちらでもよい。
多糖誘導体の低結晶化効率の観点及び設備コストの観点から、容器駆動式粉砕機が好ましい。
粉砕機の媒体の材質としては、特に制限はなく、例えば、鉄、ステンレス、アルミナ、ジルコニア、炭化珪素、チッ化珪素、ガラス等が挙げられる。
媒体式粉砕機が振動ミルであって、媒体がロッドの場合には、ロッドの外径としては、好ましくは0.1〜100mm、より好ましくは0.5〜50mmの範囲である。一方、媒体がボールの場合には、ボールの外径としては、好ましくは0.1〜100mm、より好ましくは0.5〜50mmの範囲である。ロッドやボールの大きさが上記の範囲であれば、効率的に原料セルロースの結晶化指数を低下させることができる。媒体としては、その他にチューブ等を用いることができる。
媒体式粉砕機が遊星ミルであって媒体がボールの場合には、ボールの外径は、好ましくは0.1〜50mm、より好ましくは0.5〜30mmの範囲である。ボールの大きさが上記範囲であれば、効率的に多糖誘導体の結晶化指数を低下させることができる。
媒体の充填率は、ミルの機種により好適な充填率が異なるが、好ましくは10〜97%、より好ましくは15〜95%の範囲である。充填率がこの範囲内であれば、多糖誘導体と媒体との接触頻度が向上するとともに、媒体の動きを妨げずに、多糖誘導体の結晶化指数の低下効率を向上させることができる。ここで充填率とは、ミルの攪拌部の容器容積に対する媒体の見かけの体積をいう。
【0015】
(粉砕処理)
粉砕処理の時間は、粉砕機の種類、媒体の種類、大きさ及び充填率等により低結晶化速度が変化するため一概に決定できないが、結晶化指数の低下量の観点から、好ましくは0.01〜50時間、より好ましくは0.05〜20時間、更に好ましくは0.1〜10時間である。
粉砕処理温度は、特に制限はないが、熱による多糖誘導体の重合度の低下を防ぐ観点から、好ましくは5〜250℃、より好ましくは10〜200℃である。
また、粉砕処理時の着色を避ける観点から、必要に応じて窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
粉砕処理時の系内水分量は、多糖誘導体の低結晶化効率の観点から、多糖誘導体に対し100質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、20質量%が以下が更に好ましく、10質量%以下がより更に好ましい。また、系内水分量は、入手性の観点から、多糖誘導体に対し0質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、1質量%以上が更に好ましい。
粉砕処理を行う多糖誘導体の形状は、粉砕機内への導入に支障がでない限り特に限定されないが、操作上の観点からシート状や、シートを裁断又は粗粉砕して得られるペレット状又はチップ状、又はエクストルーダー等の押し出し機等で微粉砕して得られる粉末状多糖誘導体であることが好ましい。
上記の粉砕処理により、結晶化指数が低下した多糖誘導体を、重合度の低下を抑えて効率よく得ることができる。
【0016】
(ニトロキシルラジカル化合物)
本発明の工程1で触媒として用いられるニトロキシルラジカル化合物は、ヒンダードアミンのN−酸化物であり、その分子内に、下記構造式(1)で表されるニトロキシルラジカルを有し、該構造中の窒素原子のα位に水素原子を有しないものである。
【0017】
【化1】

【0018】
ニトロキシルラジカル化合物としては、窒素原子のα位に嵩高い基を有するものが好ましく、炭素数1又は2のアルキル基を有するピペリジンオキシル化合物がより好ましく、ジ−tert−アルキルニトロキシル化合物がより好ましい。
ジ−tert−アルキルニトロキシル化合物としては、例えば、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル等の2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン−1−オキシル;2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル等の2,2,5,5−テトラアルキルピペリジン−1−オキシル;4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−アセトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−プロピオニルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル等の4−アルコキシ−2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン−1−オキシル;4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン−1−オキシル、4−ベンジルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル等が挙げられる。
【0019】
これらの中では、ニトロキシルラジカル化合物回収効率の観点から、工程2のpH調整後の条件において水への溶解性が低い2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPO)等の2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン−1−オキシル、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル等の4−アルコキシ−2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン−1−オキシルが好ましく、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPO)がより好ましい。
なお、ニトロキシルラジカル化合物を触媒として用いる酸化反応では、後述する酸化剤によりニトロキシルラジカルの一電子酸化体であるオキソアンモニウムイオンが生成し、これが触媒活性種として機能すると考えられる。
工程1におけるニトロキシルラジカル化合物の使用量は、工程1の反応速度及び酸化効率の観点から、原料に用いる多糖誘導体中の1級水酸基1モルに対して、0.00001〜0.2モルが好ましく、0.0001〜0.1モルがより好ましく、0.001〜0.05モルが更に好ましい。
【0020】
かかるニトロキシルラジカル化合物は、市販品を用いることもできるし、公知の方法、例えば、(a)二級アミン類を有機過酸化物を用いて酸化する方法(欧州特許出願公開157738号)、(b)タングステン酸塩の存在下、過酸化水素で酸化する方法(英国特許1199351号)、(c)カーボネート類、ケイ酸塩等の存在下、過酸化水素で酸化する方法(特開2002−145861号)等の方法により製造したものを用いてもよい。
また、ニトロキシルラジカル化合物は、そのまま用いることもできるし、溶媒に溶解又は懸濁させて用いてもよい。
ニトロキシルラジカル化合物を溶解又は懸濁させるための溶媒は、酸化反応に不活性なものであれば特に制限されない。例えば、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル等のエーテル、メチルイソブチルケトン、メチルtert−ブチルケトン等のケトン、水等の単独又は混合溶媒が挙げられる。かかる溶媒の使用量も特に制限されない。
溶媒は、後述する工程1の有機溶媒相の有機溶媒と同じものであることが、有機溶媒相の再利用の観点から好ましい。
【0021】
(酸化剤)
工程1の酸化反応に用いられる酸化剤としては、例えば塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン;次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸リチウム、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸等の次亜ハロゲン酸又はその塩;亜塩素酸、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム、亜塩素酸リチウム、亜臭素酸、亜ヨウ素酸等の亜ハロゲン酸又はその塩;過塩素酸、過臭素酸、過ヨウ素酸等の過ハロゲン酸又はその塩;ClO、ClO2、Cl26、BrO2、Br37等のハロゲン酸化物、NO、NO2、N23等の窒素酸化物;過酸化水素;過酢酸等の過有機酸又はその塩、酸素等が挙げられる。これらの酸化剤は単独で又は二種以上組み合わせて用いることができる。
これらの酸化剤の中では、次亜ハロゲン酸又はその塩、亜ハロゲン酸又はその塩、過ハロゲン酸又はその塩、過酸化水素、及び過有機酸又はその塩から選ばれる少なくとも1種が好ましく、次亜塩素酸又はその塩がより好ましく、次亜塩素酸ナトリウムが更に好ましい。
酸化剤の使用量は、所望の酸化度に応じて適宜調整することが可能であり、特に限定されないが、酸化反応速度及び酸化剤の添加効率の観点から、原料に用いる多糖誘導体中の1級水酸基1モルに対して、0.1〜20モルが好ましく、0.5〜10モルがより好ましく、1.4〜3モルが更に好ましい。
添加時の酸化剤の形態は気体、液体、固体のいずれでもよく、水や有機溶媒に溶解させた状態で用いてもよい。酸化剤の添加は反応初期に一括で添加してもよく、また、酸化反応工程において分割で添加してもよい。
【0022】
(共酸化剤)
工程1の酸化工程においては、より温和な条件でも酸化反応を円滑に進行させる観点から、酸化剤と共に共酸化剤を共存させることができる。
共酸化剤としては、例えば、臭化又はヨウ化アンモニウム;臭化リチウム、臭化カリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム等の臭化又はヨウ化アルカリ金属;臭化カルシウム、臭化マグネシウム、臭化ストロンチウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化ストロンチウム等の臭化アルカリ土類金属又はヨウ化アルカリ土類金属等が挙げられる。これらの臭化物塩やヨウ化物塩は単独で又は二種以上組み合わせて用いることができる。これらの中では、臭化ナトリウムが好ましい。
共酸化剤の使用量は、酸化反応速度及び酸化剤の添加効率の観点から、原料に用いる多糖誘導体中の1級水酸基1モルに対して0.0001〜1モルが好ましく、0.001〜0.5モルがより好ましく、0.01〜0.3モルが更に好ましい。
【0023】
(ポリウロン酸塩)
本発明で得られるポリウロン酸塩は、原料の多糖誘導体の1級水酸基の全部又は一部が、酸化されてカルボン酸になり、更に該カルボン酸の全部又は一部の水素イオンが系中の陽イオンと交換して塩となったものである。
カルボン酸塩の対イオンには特に限定はなく、通常、本発明の製造方法で用いる塩基、酸化剤等の陽イオンである。具体的には、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン、炭素数1〜4の炭化水素基を有する第一級〜第三級アミンのプロトン化物イオン、第四級アンモニウムイオン等が挙げられる。
原料の多糖誘導体がセルロースである場合は、得られるポリウロン酸塩の構造は、下記構造式(2)で表される。
【0024】
【化2】

【0025】
構造式(2)中、Xは、水素又はアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、炭素数1〜4の炭化水素基を有する第一級〜第三級アミンのプロトン化物、第四級アンモニウムを示し、全てのXが水素であることは無い。
本発明において、得られたポリウロン酸塩中の全単糖残基数に占めるウロン酸残基及びその塩の数の割合を百分率で表したものを、ポリウロン酸塩の酸化度(%)という。
構造式(2)中のmは、ポリウロン酸塩中の全糖残基に対するグルクロン酸残基及びその塩のモル百分率を示し、ポリウロン酸塩の酸化度と同義である。mは、ポリウロン酸塩の水への溶解性の観点から好ましくは40%以上、より好ましくは60%以上、更に好ましくは70〜100%である。
構造式(2)中のnは、ポリウロン酸塩中の全単糖残基に対するグルコース残基のモル百分率を示し、nは好ましくは60%以下、より好ましくは40%以下、更に好ましくは0〜30%である。
【0026】
ここでポリウロン酸塩の酸化度は、ポリウロン酸塩を一旦酸型に戻した後のポリウロン酸の中和滴定に要した塩基性化合物の当量数を用いて算出される。具体的には、例えばセルロースを原料多糖として用いた場合には、実施例記載の滴定法により測定されたポリウロン酸塩単位重量当りのカルボン酸量から、下記計算式(3)によって求められる。
酸化度(%)=〔(162.1×A)/(1−14.0×A)〕×100 (3)
ここで、Aは滴定によって求めたカルボン酸量(mol/g)である。
なお、中和に用いられる塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属水酸化物、アンモニアやアミン化合物等が挙げられる。
本発明のポリウロン酸塩の重量平均分子量(Mw)は、水への溶解性、界面活性能等の観点から、5000〜500万が好ましく、6000〜100万がより好ましく、8000〜30万が更に好ましく、1万〜10万がより更に好ましい。なお、重量平均分子量(Mw)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により、溶離液として、0.2Mリン酸緩衝液/アセトニトリル=90/10(容量比)を使用し、プルラン換算の分子量として求める。詳細については、実施例に記載のとおりである。
【0027】
(水相)
本発明の工程1における水相は、原料多糖誘導体、ニトロキシルラジカル化合物、酸化剤、反応生成物、及び水を含む。
工程1における水相のpHは9.0以下であれば、ニトロキシルラジカル化合物が多糖誘導体が主として存在する水相へ分配されるため、工程1の酸化反応が効率よく進行する。また水相のpHは4.0以上であれば、ニトロキシルラジカル化合物による工程1の酸化反応は速やかに進行する。本発明におけるpHは、25℃における値をいう。
工程1における酸化反応の進行に伴い、水相のpHは低下し反応速度が低下するので、反応速度の観点から、塩基を逐次又は連続的に添加してpHを4.0〜9.0、好ましくは7.0〜9.0の範囲に維持することが好ましい。
ここで添加する塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化マグネシウムや水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、アンモニアや炭素数1〜4の炭化水素基を有する第一級〜第三級アミン、第四級アミンの水酸化物等が挙げられる。塩基の形態は気体、液体、固体のいずれでもよく、水や有機溶媒に溶解させた状態で用いてもよい。これらの中では水酸化ナトリウムを水溶液として用いることが好ましい。
工程1で用いる水量は、操作性、生産性の観点から、原料として用いる多糖誘導体に対して、好ましくは1〜100質量倍、より好ましくは3〜75質量倍、更に好ましくは5〜50質量倍である。
【0028】
(有機溶媒相)
本発明の工程1における有機溶媒相は、ニトロキシルラジカル化合物の他は主として有機溶媒からなるが、水を溶解していてもよい。
有機溶媒相を形成する有機溶媒(以下「工程1の有機溶媒」ともいう)としては、融点が工程1における反応温度以下であって、工程1の反応条件において水相と相分離し、ニトロキシルラジカル化合物を溶解する有機溶媒であればよい。
該有機溶媒の具体例としては、例えばガソリン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル等の脂肪族カルボン酸エステル;酢酸シクロペンチル、酢酸シクロヘキシル、酢酸シクロへプチル等の脂環式カルボン酸エステル;安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸ブチル等の芳香族カルボン酸エステル;t-ブタノール、3−オクタノール、2−テトラデカノール等の炭素数4〜20の2級又は3級アルコール等が挙げられる。
これらの有機溶媒の中では、後述する工程2におけるニトロキシルラジカル化合物の抽出効率の観点から、ガソリン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等の脂環式炭化水素、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素芳香族炭化水素等の炭化水素が好ましく、ガソリン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素がより好ましい。
【0029】
有機溶媒相は工程1の酸化反応時には液体である必要があり、該酸化反応は、工程1の有機溶媒の融点以上の温度で行われる。よって後述する酸化反応温度の好適範囲の観点から、工程1の有機溶媒の融点は50℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましく、30℃以下が更に好ましい。一方、融点の低い化合物は沸点も低い傾向が見られる。後述する沸点の好適な範囲の有機溶媒を選択するという観点から、融点は−250℃以上であることが好ましく、−200℃以上であることがより好ましく、−150℃以上であることが更に好ましい。
有機溶媒の沸点が酸化反応温度を下回る場合、工程1における反応は加圧下で行えばよいが、設備負荷の観点から工程1の有機溶媒の沸点は反応温度を超えることが好ましい。この観点及び後述する反応温度の好適範囲の観点から、工程1の有機溶媒の沸点は30℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、60℃以上が更に好ましい。また上述した融点との関係から、該沸点は400℃以下が好ましく、350℃以下がより好ましく、320℃以下が更に好ましい。
前記の有機溶媒は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
使用する有機溶媒の量は、使用したニトロキシルラジカル化合物を十分に溶解し、工程2において該ニトロキシルラジカル化合物を有機溶媒相に十分に抽出可能な量であれば特に限定されない。ニトロキシルラジカル化合物の抽出効率及び生産性の観点から、水に対して1〜500質量%であることが好ましく、5〜300質量%であることがより好ましく、10〜100質量%であることが更に好ましい。
【0030】
(酸化反応条件)
本発明の工程1の酸化反応の温度は、反応選択性、副反応抑制の観点から、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下、更に好ましくは30℃以下であり、その下限は、水相の凝固点の観点から、−10℃以上が好ましく、−5℃以上がより好ましく、0℃以上が更に好ましい。
工程1において、反応を円滑に進める観点から、十分な攪拌を行うことが好ましい。
多糖誘導体の酸化が終了すると、ポリウロン酸塩、ニトロキシルラジカル化合物、未反応の酸化剤、副生成物等を含む、水相及び有機溶媒相の二相系からなる反応液が得られる。
【0031】
[工程2;ニトロキシルラジカル化合物の有機溶媒相への抽出工程]
本発明における工程2は、工程1で得られたポリウロン酸塩を含む二相系に塩基を加えて水相のpHを9.0を超え12.0以下に調整することで、水相中のニトロキシルラジカル化合物を有機溶媒相に抽出する工程である。
工程2におけるpH調整後の水相のpHは、ニトロキシルラジカル化合物の抽出効率の観点から、9.1以上に調整することが好ましく、9.4以上に調整することがより好ましく、9.8以上に調整することが更に好ましい。
一方、ポリウロン酸塩を含む水相のpHが高いと、ポリウロン酸塩の応用に際して中和が必要になることがある。この中和に際して用いる酸の量を低減し、中和塩の生成量を低減する観点から、工程2におけるpH調整後の水相のpHは、11.0以下が好ましく、10.5以下がより好ましい。
抽出効率の観点から、工程2のニトロキシルラジカル化合物の抽出時においては、水相と有機溶媒相の接触面積が大きくなるように十分に攪拌することが好ましい。
抽出時間は、ニトロキシルラジカル化合物を有機溶媒相に十分に抽出可能な時間であればよいが、副反応の抑制の観点から、5時間以内が好ましく、3時間以内がより好ましく、1分〜1時間が更に好ましい。
抽出温度は、副反応の抑制の観点から、50℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましく、30℃以下が更に好ましく、その下限は、水相の凝固点の観点から、−10℃以上が好ましく、−5℃以上がより好ましく、0℃以上が更に好ましい。
【0032】
[工程3;ポリウロン酸塩を含む水相の回収工程、及びニトロキシルラジカルを含む有機溶媒相の回収工程]
工程3は、工程2で得られたポリウロン酸塩を含む水相と、ニトロキシルラジカル化合物を含む有機溶媒相の2相からなる反応混合物から、水相、及び有機溶媒相を分離してそれぞれ別個に回収する工程である。
分離回収の方法は特に限定されないが、例えば分液漏斗等の公知の分相装置により行うことができる。
工程3で分離回収したポリウロン酸塩を含む水相は、ニトロキシルラジカル化合物等の含有量が低いため、そのまま、又は必要に応じて中和や水の加減による濃度調整を行ってポリウロン酸塩水溶液として利用することもできるし、メタノール、エタノール、アセトン等への再沈殿、及び塩のイオン交換、透析等による精製操作を加えて高純度ポリウロン酸塩を得ることもできる。
本発明の製造方法により得られたポリウロン酸塩は、生分解性水溶性高分子材料として、分散・安定化剤、凝集剤、粘度調整剤、接着剤、皮膜形成剤等の様々な用途に用いることができる。
【0033】
工程3で分離回収したニトロキシルラジカル化合物を含む有機溶媒相は、工程1の反応の副生成物やポリウロン酸塩等の含有量が低い。従って、該有機溶媒相は、単離・精製を行わずに、ニトロキシルラジカル化合物を含む有機溶媒相として、工程1に再利用することができる。
得られたニトロキシルラジカル化合物を含有する有機溶媒相は、再利用に際し、適宜有機溶媒の蒸発や添加、ニトロキシルラジカル化合物の追加等により所望の濃度のニトロキシルラジカル化合物溶液としてもよい。
工程3で得られたニトロキシルラジカル化合物を含む有機溶媒を再利用する際は、ニトロキシルラジカル化合物を含有する有機溶媒溶液に、水及び酸化剤、原料多糖誘導体、更に必要により共酸化剤を添加し、前記工程1と同様の方法で多糖誘導体の酸化を行うことができる。
更に工程2及び工程3を行うことで、再度ニトロキシルラジカル化合物を含有する有機溶媒相を抽出・分離・回収し、再利用することができる。すなわち、ニトロキシルラジカル化合物は、以降単離・精製を行わずに繰り返し使用が可能となる。
【実施例】
【0034】
以下の製造例、実施例及び比較例において、「%」は特記しない限り「質量%」である。なお、原料の低結晶性セルロース粉末の平均重合度と結晶化指数の測定、ポリウロン酸塩の重量平均分子量と酸化度の測定、TEMPO濃度の測定は以下の方法で行った。
【0035】
(1)原料セルロースの平均重合度の測定(銅アンモニア法)
(i)測定用溶液の調製
メスフラスコ(100mL)に塩化第一銅0.5g、25%アンモニア水20〜30mLを加え、完全に溶解した後に、水酸化第二銅1.0g、及び25%アンモニア水を加えて標線の一寸手前までの量とした。これを30〜40分撹拌して、完全に溶解した。その後、精秤したセルロースを加え、標線まで上記アンモニア水を満たした。空気の入らないように密封し、12時間、マグネチックスターラーで撹拌して溶解し、測定用溶液を調製した。添加するセルロース量を20〜500mgの範囲で変えて、異なる濃度の測定用溶液を調製した。
(ii)平均重合度の測定
上記(i)得られた測定用溶液(銅アンモニア溶液)をウベローデ粘度計に入れ、恒温槽(20±0.1℃)中で1時間静置した後、液の流下速度を測定した。種々のセルロース濃度(g/dL)の銅アンモニア溶液の流下時間(t(秒))とセルロース無添加の銅アンモニア水溶液の流下時間(t0(秒))から、下記式により、それぞれの濃度における還元粘度(ηsp/c)を下記式により求めた。
ηsp/c=(t/t0−1)/c
(c:セルロース濃度(g/dL)
更に、還元粘度をc=0に外挿して固有粘度[η](dL/g)を求め、下記式により粘度平均重合度(DP)を求めた。
DP=2000×[η]
(式中2000は、セルロース固有の係数である。)
【0036】
(2)セルロースの結晶化指数の算出
株式会社リガク製「Rigaku RINT 2500VC X-RAY diffractometer」を用いて、以下の条件で測定した回折スペクトルのピーク強度から、前記計算式(1)によりセルロースの結晶化指数を算出した。
X線光源:Cu/Kα−radiation、管電圧:40kV、管電流:120mA
測定範囲:2θ=5〜45°、
測定サンプル:面積320mm2×厚さ1mmのペレットを圧縮して作成
X線のスキャンスピード:10°/min
【0037】
(3)ポリウロン酸塩の重量平均分子量(Mw)の測定
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、以下の条件で測定した。水に溶解しない部分は、0.45μmのフィルターを用いて除去し、水に溶解している部分のみを測定した。
カラム:東ソー株式会社製、G4000PWXL、G2500PWXLをこの順に直列でつないで使用した。
溶離液:0.2Mリン酸緩衝液/アセトニトリル(容量比)=90/10
測定温度:40℃、流速:1.0mL/min、検出器:UV又はRI
標準ポリマー:プルラン(昭和電工株式会社製、「SHODEX STD−P5、STD−P50、STD−P200、STD−P800」)
(4)ポリウロン酸塩の酸化度の測定
製造したポリウロン酸のナトリウム塩の2%水溶液を50g調製し、6N塩酸にてpHを2以下とした。この酸性水溶液をエタノール500mLに投入し、生じた沈殿物を回収、エタノール100mLで数回洗浄した。得られたポリウロン酸を0.3g精秤し、イオン交換水50mLに溶解又は分散させ、フェノールフタレインを指示薬として0.1N水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定し、ポリウロン酸塩単位重量当りのカルボン酸量を求めた。さらにこのカルボン酸量から、下記計算式(3)により酸化度を求めた。
酸化度(%)=〔(162.1×A)/(1−14.0×A)〕×100 (3)
ここで、Aは滴定によって求めたカルボン酸量(mol/g)である。
【0038】
(5)TEMPO濃度(ppm)の測定法
TEMPOをn−ヘキサンに溶解し、500ppmTEMPO/n−ヘキサン溶液を調製した。更に該n−ヘキサン溶液をn−ヘキサンで希釈することにより、250ppm、125ppm、62.5ppmのTEMPO/n−ヘキサン溶液を調製した。紫外可視分光光度計(UV−2550、株式会社島津製作所製)により各溶液の吸収スペクトルを700nm〜190nmの範囲で測定し、249nmに存在するTEMPOの吸収ピーク高さ(吸光度)を用いて検量線を得た。測定には光路長5mmの石英セルを用いた。
工程1又は工程2の所定の段階でサンプリングした有機溶媒相(n−ヘキサン溶媒)の吸収スペクトルを、上記検量線の作成時に用いた方法と同様の方法で測定し、249nmの吸収ピークの有無とその吸収ピーク高さ(吸光度)を測定することにより、得られた検量線から各溶液中に含まれるTEMPO濃度を求めた。
【0039】
製造例1(低結晶性粉末セルロースの製造)
木材パルプシート(ボレガード社製、パルプシート、結晶化指数74%)をシュレッダー(株式会社明光商会製、「MSX2000−IVP440F」)にかけてチップ状にした。
次に、得られたチップ状パルプをスクリューの中央部にニーディングディスク部を備えた二軸押出機(株式会社スエヒロEPM製、「EA−20」)に2kg/hrで投入し、せん断速度660sec-1、スクリュー回転数300rpmの条件で、外部から冷却水を流しながら、1パス処理して粉末状にした。
次に、得られた粉末セルロースを、バッチ式媒体攪拌型ボールミル(日本コークス株式会社製、「アトライタ」:容器容積800mL、6mmφ鋼球を1400g充填(充填率25体積%)、攪拌翼の直径65mm)に前記粉末状のセルロース100gを投入した。容器ジャケットに冷却水を通しながら、粉砕処理18℃、攪拌回転数600rpmで3時間粉砕処理(系内水分量7%)を行い、低結晶性粉末セルロース(結晶化指数0%、平均重合度72、平均粒径40μm)を得た。この低結晶性粉末セルロースの反応には更に32μm目開きの篩をかけた篩下品(投入量の90%)を使用した。
【0040】
実施例1
<工程1;セルロースの酸化>
pHメータを備え付けた200mLビーカーに、製造例1で得られた低結晶性粉末セルロース(平均重合度72)3.2g、及び2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)0.026g(セルロースの1級水酸基1モルあたり0.008モル)、イオン交換水69gを仕込み、フットボール型攪拌子を用いて200rpmの回転数で攪拌して低結晶性粉末セルロースを分散させた。これにn−ヘキサン50gを加えると、反応液はn−ヘキサン相と低結晶性粉末セルロースが分散した水相の2相に別れた。
水浴を用いて反応液の温度を20℃にした後、11%次亜塩素酸ナトリウム(酸化剤)水溶液30g(セルロースの1級水酸基1モルあたり2.2モル)をマイクロチューブポンプを用いて1時間かけて添加した。その後0.5N水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を用いてpHを8.5に調整した。酸化反応が進行するに従い、水相のpHが低下するため、pHが8.5〜8.8になるよう、0.5NのNaOH水溶液40mLを逐次添加した。
pHを8.5〜8.8、温度20℃に保持し、4時間酸化反応を行った。n−ヘキサン相中のTEMPO濃度の経時変化を調べるため、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の添加前、反応開始1時間目、2時間目、3時間目にn−ヘキサン相を2.0gずつサンプリングし、前述のTEMPO濃度の測定法を用いて各n−ヘキサン溶液のTEMPO濃度を測定した。
n−ヘキサン相中のTEMPO濃度は反応開始前で580ppm、反応開始1時間目、2時間目、3時間目でそれぞれ148ppm、146ppm、126ppmであり、反応時はn−ヘキサン相中のTEMPO濃度が低下することが観察された。
【0041】
<工程2;有機溶媒相へのTEMPOの抽出>
4時間の酸化反応後、0.5MのNaOH水溶液を加えて、水相のpHを10.0に調整した。20℃で10分間攪拌して有機溶媒相へのTEMPOの抽出操作を行った後、n−ヘキサン相を2.0gサンプリングし、前述のTEMPO濃度の測定法を用いてn−ヘキサン相のTEMPO濃度を測定した。
n−ヘキサン相中のTEMPO濃度は415ppmであり、水相のpHを10.0に調整することで、n−ヘキサン相のTEMPO濃度が反応時よりも上昇すること、反応開始前のTEMPO濃度との関係より72%の回収率でTEMPO触媒が回収できたことを確認した。
<工程3;水相の回収及び有機溶媒相の回収>
分液漏斗を用いて反応液を水相とn−ヘキサン相を分離し、水相をエタノール600mLに注ぎ、ポリウロン酸塩を沈殿させた。沈殿物をろ取し、アセトン/水(体積比)=7/1の溶媒100mLで洗浄後、さらにアセトン100mLで洗浄した後、40℃で乾燥して、淡黄色のポリウロン酸ナトリウム塩3.8gを得た。
このポリウロン酸塩の酸化度は95%、重量平均分子量は24,000であった。
【0042】
実施例2(触媒の再利用検討)
実施例1の工程3でn−ヘキサン溶液として回収したTEMPO触媒を再利用して酸化反応を行った。
<工程1;セルロースの酸化>
pHメータを備え付けた200mLビーカーに、製造例1で得られた低結晶性粉末セルロース(平均重合度72)3.2g、及びイオン交換水69gを仕込み、フットボール型攪拌子を用いて200rpmの回転数で攪拌して低結晶性粉末セルロースを分散させた。これに実施例1の工程3で回収したTEMPO濃度415ppmのn−ヘキサン溶液50gとTEMPO 0.005gを加え、反応系中のTEMPO触媒量を実施例1と同じ0.026gに調整した。反応液はn−ヘキサン相と低結晶性粉末セルロースが分散した水相の2相に別れた。
水浴を用いて反応液の温度を20℃にした後、11%次亜塩素酸ナトリウム水溶液30gをマイクロチューブポンプを用いて1時間かけて添加した。酸化反応が進行するに従い、水相のpHが低下するため、pHが8.5〜8.8になるよう、0.5NのNaOH水溶液40mLを逐次添加した。
【0043】
<工程2;有機溶媒相へのTEMPOの抽出>
pHを8.5、温度20℃に保持し、4時間酸化反応を行った後、0.5MのNaOH水溶液を加えて、水相のpHを10.0に調整した。10分間攪拌して有機溶媒相へのTEMPOの抽出操作を行った。
<工程3;水相の回収及び有機溶媒相の回収>
分液漏斗を用いて反応液を水相とn−ヘキサン相を分離し、水相をエタノール600mLに注ぎ、ポリウロン酸塩を沈殿させた。沈殿物をろ取し、アセトン/水(体積比)=7/1の溶媒100mLで洗浄後、さらにアセトン100mLで洗浄した後、40℃で乾燥して、淡黄色のポリウロン酸ナトリウム塩3.6gを得た。
このポリウロン酸塩の酸化度は93%、重量平均分子量は22,000であった。
実施例2で得られるポリウロン酸塩の収率、酸化度、重量平均分子量は実施例1と同等であり、本発明の製造方法は、用いるニトロキシルラジカル化合物の再利用を簡便に行えることが分かる。
【0044】
比較例1
<工程1’>
次亜塩素酸ナトリウム水溶液添加後のpHを10.8に調整し、反応時のpHを10.8〜11.0になるよう0.5NのNaOH水溶液を逐次添加したこと以外は、実施例1の工程1と同様に行った。
反応開始4時間での0.5NのNaOH水溶液の総添加量は18.0mLであった。
<工程3'>
反応後のpHの調整を行わなかった以外は、実施例1の工程2と同様の操作を行い、微黄色のポリウロン酸ナトリウム塩2.5gを得た。
このポリウロン酸塩の酸化度は18%、水可溶分の重量平均分子量は3,000であった。
【0045】
上記の実施例と比較例を対比すると、実施例1及び2で得られるポリウロン酸塩の酸化度は、比較例1で得られるポリウロン酸塩の酸化度と比較して高く、反応の進行が速いことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程1〜3を有する、ポリウロン酸塩の製造方法。
工程1:ニトロキシルラジカル化合物及び酸化剤の存在下、水相及び有機溶媒相からなる二相系で、かつ水相のpHが4.0〜9.0の条件で多糖又はその誘導体の酸化を行い、ポリウロン酸塩を得る工程
工程2:工程1で得られたポリウロン酸塩を含む二相系に塩基を加えて水相のpHを9.0を超え12.0以下に調整し、ニトロキシルラジカル化合物を有機溶媒相に抽出する工程
工程3:ポリウロン酸塩を含む水相と、ニトロキシルラジカル化合物を含む有機溶媒相をそれぞれ回収する工程
【請求項2】
工程3で得られたニトロキシルラジカル化合物を含む有機溶媒相を、工程1の有機溶媒相として用いる、請求項1に記載のポリウロン酸塩の製造方法。
【請求項3】
多糖として結晶化指数が50%以下のセルロースを用いる、請求項1又は2に記載のポリウロン酸塩の製造方法。
【請求項4】
ニトロキシルラジカル化合物が、2,2,6,6‐テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシルである、請求項1〜3のいずれかに記載のポリウロン酸塩の製造方法。