説明

ポリエステルおよびその製造方法

【課題】 アンチモン化合物以外の新規の重縮合触媒を用いて製造することで、衣料用繊維、産業資材用繊維、各種フィルム、シート、ボトルやエンジニアリングプラスチックなどの各種成形物、および塗料や接着剤などへの応用が可能なポリエステルを提供する。
【解決手段】 ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を主成分とし、ジオール成分としてエチレングリコールを主成分とするポリエステルにおいて、チタン酸からなる被覆層が形成されたマグネシウム化合物を30〜250ppm含有することを特徴とするポリエステル。マグネシウム化合物が水酸化マグネシウムであることを特徴とする上記ポリエステル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色調、透明性が良好なポリエステルおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略す)は、機械的特性および化学的特性に優れており、多用途への応用、例えば、衣料用や産業資材用の繊維、包装用や磁気テープ用などの各種フィルムやシート、ボトルやエンジニアリングプラスチックなどの成形物への応用がなされている。
【0003】
PETの工業的な製造方法は、テレフタル酸もしくはテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとのエステル化もしくはエステル交換によってビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレートを得る工程と、これを高温、真空下で触媒を用いて重縮合する工程からなっている。この際、重縮合触媒として、安価で優れた触媒活性を有するという理由から、三酸化アンチモンが広く用いられている。三酸化アンチモンは、安価で、かつ優れた触媒活性をもつ触媒であるが、重縮合時に金属アンチモンが析出するため、PETに黒ずみや異物が発生するという問題点を有している。また、最近環境面からアンチモンの安全性に対する問題が指摘されており、アンチモンを含まないポリエステルが望まれている。
【0004】
三酸化アンチモンの代わりとなる重縮合触媒としては、ゲルマニウム化合物が実用化されているが、この触媒は非常に高価であるという問題点や、重合中に反応系から外へ溜出しやすいため反応系の触媒濃度が変化し重合の制御が困難になるという問題点を有している。
【0005】
また、テトラアルコキシチタネートは、従来から広く知られているが、これを触媒として製造されたPETは著しく着色すること、ならびに熱分解を容易に起こすという問題がある。
【0006】
さらに、特許文献1には、テトラアルキルチタネートとマグネシウム化合物とを接触させた成分を触媒として使用することが提案されているが、この触媒においても得られるPETの着色の問題は解決するに至っていない。
【特許文献1】特開2002−293906号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するものであり、アンチモン化合物以外の新規の重縮合触媒を用いて製造されたポリエステルを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するもので、その要旨は、次の通りである。
(1)ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を主成分とし、ジオール成分としてエチレングリコールを主成分とするポリエステルにおいて、チタン酸からなる被覆層が形成されたマグネシウム化合物を30〜250ppm含有することを特徴とするポリエステル。
(2)マグネシウム化合物が水酸化マグネシウムであることを特徴とする(1)記載のポリエステル。
(3)ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を主成分とし、ジオール成分としてエチレングリコールを主成分とするポリエステルを重縮合して製造する方法において、重縮合触媒としてチタン酸からなる被覆層が形成されたマグネシウム化合物を使用することを特徴とするポリエステルの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリエステルは、チタン酸からなる被覆層が形成されたマグネシウム化合物を重縮合触媒に用いており、チタン酸とマグネシウム化合物の複合効果により、適度な重合活性が得られ、色調および透明性に優れたポリエステルが提供される。さらに、このポリエステルは、衣料用繊維、産業資材用繊維、各種フィルム、シート、ボトルやエンジニアリングプラスチックなどの各種成形物、および塗料や接着剤などへ応用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリエステルは、ジカルボン酸として、テレフタル酸、ジオール成分としてエチレングリコールを主成分とするものであるが、ポリエステルの特性を損なわない範囲で、テレフタル酸以外のジカルボン酸、多価カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、環状エステル、またはエチレングリコール以外のグリコール、多価アルコールを共重合してもよい。
【0011】
テレフタル酸以外のジカルボン酸としては、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、エイコサン二酸、トリシクロデカンジカルボン酸、1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルナンジカルボン酸、ダイマー酸などに例示される飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などに例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、オルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5−(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、ジフェニン酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、4、4’−ビフェニルジカルボン酸、4、4’−ビフェニルスルホンジカルボン酸、4、4’−ビフェニルエーテルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−p,p’−ジカルボン酸、パモイン酸、アントラセンジカルボン酸などに例示される芳香族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0012】
これらジカルボン酸以外の多価カルボン酸として、エタントリカルボン酸、プロパントリカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、トリメシン酸、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0013】
ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、ヒドロキシ酢酸、3−ヒドロキシ酪酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸、4−ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸、またはこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0014】
多価カルボン酸もしくはヒドロキシカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、これらのアルキルエステル、酸クロライド、酸無水物などが挙げられる。
【0015】
エチレングリコール以外のグリコールとしては、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジエタノール、1,10−デカメチレングリコール、1、12−ドデカンジオール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどに例示される脂肪族グリコール、ヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビスフェノール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)メタン、1,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)エタン、ビスフェノールA、ビスフェノールC、2,5−ナフタレンジオール、これらのグリコールにエチレンオキシドが付加したグリコール、などに例示される芳香族グリコールが挙げらる。
【0016】
これらグリコール以外の多価アルコールとして、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセロール、ヘキサントリオールなどが挙げられる。
【0017】
環状エステルとしては、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、β−メチル−β−プロピオラクトン、δ−バレロラクトン、グリコリド、ラクチドなどが挙げられる。
【0018】
本発明において、チタン酸からなる被覆層が形成されたマグネシウム化合物とは、5〜100℃の範囲の温度、好ましくは、15〜70℃の範囲の温度で、マグネシウム化合物の存在下に、チタン化合物を加水分解して、その表面にチタン酸を析出させることによって、マグネシウム化合物の表面にチタン酸からなる被覆層を有せしめたものである。
【0019】
上記マグネシウム化合物としては、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、マグネシウムアセチルアセトネート、酢酸以外のカルボン酸塩などが挙げられ、特に水酸化マグネシウムが好ましい。また、チタン化合物としては、チタンハロゲン化物、チタン酸塩、チタンアルコキシド類が用いられる。
【0020】
本発明において、チタン酸からなる被覆層が形成されたマグネシウム化合物の含有量は、ポリエステルに対して30〜250ppmであることが必要であり、さらに、50〜180ppmであることが好ましい。なお、本発明において、ppmはすべて質量ppmである。重縮合反応時に、チタン酸からなる被覆層が形成されたマグネシウム化合物が、生成するポリエステルに対して30ppm未満になるように添加された場合、重合活性が不足し、得られるポリエステルの極限粘度は低いものとなる。一方、250ppmを超えて添加されると、添加量が多すぎるため、透明性が悪く、b値の高いポリエステルとなる。
【0021】
本発明のポリエステルの製造は、従来公知の方法で行うことができる。例えば、テレフタル酸とエチレングリコールとのエステル化後、重縮合する方法、もしくは、テレフタル酸ジメチルなどのテレフタル酸のアルキルエステルとエチレングリコールとのエステル交換反応を行った後、重縮合する方法のいずれの方法でも行うことができる。
【0022】
本発明のポリエステルの製造において、重縮合触媒としてチタン酸からなる被覆層が形成されたマグネシウム化合物を添加する時期は、重縮合反応の開始前が望ましいが、エステル化反応もしくはエステル交換反応の開始前および反応途中の任意の段階で反応系に添加することもできる。
【0023】
本発明のポリエステルの製造において、重縮合触媒としてチタン酸からなる被覆層が形成されたマグネシウム化合物を添加する方法は、粉末状態であってもよいし、エチレングリコールなどの溶媒のスラリー状であってもよい。
【0024】
本発明のポリエステルには、他の任意の重合体や安定剤、酸化防止剤、制電剤、消泡剤、染色性改良剤、染料、顔料、艶消剤、蛍光増白剤、その他の添加剤が含有されていてもよい。
【実施例】
【0025】
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、実施例において特性評価は次のようにして行った。
(a)重縮合触媒の含有量
ポリエステルを円盤状に溶融成形し、リガク社製のX線スペクトロメーター3270を用いて測定した。
(b)極限粘度
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、温度20℃で測定した。
(c)ポリエステルの色調(L値、b値)
日本電色工業社製の色差計ND−Σ80型を用いて測定した。色調の判定は、ハンターのLab表色計で行った。L値は明度(値が大きい程明るい)、a値は赤−緑系の色相(+は赤味、−は緑味)、b値は黄−青系の色相(+は黄味、−は青味)を表す。
ここでは、b値が7以下であれば合格とした。
(d)ポリエステルの透明性
ポリエステルペレットを常法により乾燥し、内径6cm、外径6.6cmの透明なガラス管に入れ、窒素雰囲気下、280℃で30分間保持して溶融し、このときの見かけの濁度を標準サンプルと比較することにより透明性を判定した。標準サンプルは、同様のガラス管に二酸化チタンを異なる濃度で溶融アクリル樹脂に分散させたものである。
S1:二酸化チタン濃度0
S2:二酸化チタン濃度0.5ppm
S3:二酸化チタン濃度1.0ppm
また、透明性の判定は次の3水準とした。
○:濁度が、標準サンプルS1とS2との間にあり透明性良好
△:濁度が、標準サンプルS2とS3との間にあり透明性普通
×:濁度が、標準サンプルS3を超えるもので透明性不良
【0026】
なお、実施例において用いた重縮合触媒は次の通りである。
堺化学社製TiコートMGZ(水酸化マグネシウムの表面にチタン酸からなる被膜層を有せしめたもの)
【0027】
実施例1
ビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート及びその低重合体の存在するエステル化反応缶に、テレフタル酸とエチレングリコールとのモル比1/1.6のスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力50hPaGの条件で反応させ、滞留時間を8時間としてエステル化反応率95%のPETオリゴマー(平均重合度:7)を連続的に得た。
このPETオリゴマー60.3kgを重合反応器に移送し、重縮合触媒として、TiコートMGZ6.3g(ポリエステル対して120ppmとなる量)を加え、重縮合反応器中を減圧にして、最終的に0.9hPa、280℃で3時間重縮合反応を行って、極限粘度0.61、L値62.0、b値4.1のポリエステルを得た。得られたポリエステルの特性値を表1に示す。
【0028】
実施例2
TiコートMGZの添加量を10.5g(ポリエステル対して200ppmとなる量)に変えた以外は、実施例1と同様にしてポリエステルを重合した。得られたポリエステルの特性値を表1に示す。
【0029】
比較例1
TiコートMGZの添加量を15.8g(ポリエステル対して300ppmとなる量)に変えた以外は、実施例1と同様にしてポリエステルを重合した。得られたポリエステルの特性値を表1に示す。
【0030】
比較例2
TiコートMGZの添加量を1.0g(ポリエステル対して20ppmとなる量)に変えた以外は、実施例1と同様にしてポリエステルを重合した。得られたポリエステルの特性値を表1に示す。
【0031】
比較例3
TiコートMGZに代えて、重縮合触媒としてテトラブトキシチタネート6.3g(ポリエステル対して120ppmとなる量)を用いた以外は、実施例1と同様にしてポリエステルを重合した。得られたポリエステルの特性値を表1に示す。
【0032】
比較例4
TiコートMGZに代えて、重縮合触媒として三酸化アンチモン14.4g(ポリエステルに対して250ppmとなる量)を用いた以外は、実施例1と同様にしてポリエステルを重合した。得られたポリエステルの特性値を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
実施例1、2では、良好な特性を有するポリエステルが得られたが、比較例では、次のような問題があった。
比較例1では、触媒量が多いため、透明性が悪くb値の高いポリマーとなった。
比較例2では、触媒量が少ないため、重合活性が低く、極限粘度の低いポリマーとなった。
比較例3では、重縮合触媒としてテトラブトキシチタネートを用いたところ、得られたポリマーのb値が高かった。
比較例4では、重縮合触媒として、三酸化アンチモンを用いたところ、得られたポリマーの透明性が悪かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を主成分とし、ジオール成分としてエチレングリコールを主成分とするポリエステルにおいて、チタン酸からなる被覆層が形成されたマグネシウム化合物を30〜250ppm含有することを特徴とするポリエステル。
【請求項2】
マグネシウム化合物が水酸化マグネシウムであることを特徴とする請求項1記載のポリエステル。
【請求項3】
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を主成分とし、ジオール成分としてエチレングリコールを主成分とするポリエステルを重縮合して製造する方法において、重縮合触媒としてチタン酸からなる被覆層が形成されたマグネシウム化合物を使用することを特徴とするポリエステルの製造方法。


【公開番号】特開2007−46007(P2007−46007A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−234413(P2005−234413)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】