説明

ポリエステルポリオールの製造方法およびそれらの使用

本発明は、マイクロ波放射を使用するアルコリシスによる平衡重量のポリエステルポリオールの促進製造方法、並びに発泡および非発泡ポリウレタン材料の合成のためのこのようなポリオールの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波放射を使用する高分子ポリエステルポリオールのグリコリシスによるポリエステルポリオールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルポリオールは、ポリウレタン化学のための価値ある原料であり、発泡および非発泡ポリウレタン(PUR)材料の製造における柔軟性部分単位として工業的に広く使用されている。
【0003】
それらの構成成分は、通常、必要に応じて単官能アルコールとのそれらの低分子エステルの形態および/またはそれらの無水物の形態の、脂肪族および/または芳香族ポリカルボン酸(炭酸およびその低分子誘導体を含む)、並びに、62〜1000 g/mol(好ましくは62〜400 g/mol)の分子量を有するポリオールである。これらのポリオールは、個々にまたは混合物の形態で使用できる。特別な場合、もちろん、例えばプラスチックハンドブック「Polyurethane」第3版、第3.1.1.章(第58頁以降参照)に記載されるような1000 g/molよりも大きい分子量を有する長鎖ポリエーテルポリオールも部分的に同時に使用できる。この場合、個々のポリカルボン酸成分および個々のポリオール成分の両方の官能価は、通常、2である。しかしながら、特別な特性はまた、2と等しくない官能価(例えば、1、3、4など)を有する成分を併用することにより得ることができる。
【0004】
同様に、ポリエステルポリオールは、1.7〜4.5(好ましくは1.90〜3.5)の官能価を有する。それらの数平均分子量は、用途に応じて200〜6000 g/molであり、それらの稠度は、組成に応じて非晶質から部分結晶質を経てより高い結晶質までの範囲にわたり得る。
【0005】
ポリエステルポリオールの技術的に最も重要な製造方法は、水の脱離を伴うポリカルボン酸とポリオールとの重縮合である。これは、触媒を用いて、または触媒を用いずに、150〜250℃の高温にて、常圧または好ましくは100 mbar〜0.1 mbarの真空下、成分を反応させることによって行うことができる。さらにまた、このような重縮合反応は、共留剤(例えばトルエン)を用いて行うこともできる。
【0006】
他方、炭酸に由来するポリエステルポリオールは、フェノール、メタノールまたは塩酸の脱離を伴う、例えば炭酸ジフェニル、炭酸ジメチルまたはホスゲンの重縮合反応によって製造される。また、触媒も使用できる。
【0007】
カルボキシル基とヒドロキシル基との化学量論比は、これらの構造成分の数平均官能価と組み合わさって、当業者に既知のように、ポリエステルポリオールの分子量および官能価を決定する。ポリウレタン分野で使用されるポリエステルポリオールは、通常、3.5 mg KOH/g未満、好ましくは3 mg KOH/g未満の酸価を有する。
【0008】
当該技術分野でしばしば起こる問題は、重縮合反応が実質的に完了した場合、酸価は上記範囲内になるが、対応するOH価が想定された値未満になることである。このようなポリエステルポリオールは、カルボキシル基変換に関してほぼ100%の値を有するので、それらは標的OH価に関して仕上げられなければならない。この仕上げは、予め計算された量のポリオールを計量供給し、およびエステル化に組み込まれるように、すなわち、高温(例えば180〜250℃)にて長時間(例えば4〜10時間)にわたって平衡になるように行われる。化学用語で、これはグリコリシス反応である。このグリコリシス反応は、OH値を標的値にするためではなく(なぜなら、該OH価は、ポリオールを、仕上げされるポリエステルポリオールと攪拌することによって予め達成されているからである)、むしろ、ポリエステルポリオールの個々のオリゴマーの分布をFloryオリゴマー分布関数(P.J. Flory、Principles of Polymer Chemistry、Cornell University Press、Ithaca 1953、第317頁以降参照)に従うポリエステル平衡にするために必要である。グリコリシス反応の省略は、仕上げられたが平衡にならなかったポリエステルポリオールが、過剰および好ましくない割合の遊離低分子非エステル化ポリオールを含有することを意味する。同様に、これは、それから製造されるポリウレタンの材料特性を変化させる。例えば、柔軟性部分領域のガラス転移温度は変化し、およびそれとともに、硬質部分領域の異なる割合の結果として、材料の硬度も変化する。補填されるポリオールの量はバッチとバッチの間で変動するので、通常、ポリウレタンの材料特性の再現性は保証されない。これらのことは、更なる平衡工程が高コストで時間がかかり、それゆえに好ましくないとしても、この工程を省略することができない実質的な理由である。
【0009】
短鎖ポリオールで補うことの必要性の原因は、ポリオールの過小用量またはポリカルボン酸の過剰用量であり得る。この原因は、技術的手段によって大々的に除くことができる。他方、例えば、ジエチレングリコールからのジオキサン、1,4-ブタンジールからのテトラヒドロフラン、または1,6-ヘキサンジオールからのオキセパンの形成を導く二次反応の程度を再現性良く予測することはできない。これらの環化反応の程度は、反応条件、すなわち、特に反応温度、使用されるエステル化触媒のタイプおよび量、および反応に(例えば中間体を介して)導入される不純物に極めて依存している。
【0010】
このような評価不可能なことにより、予測不可能な程度の環状エーテル形成がもたらされる。これは、説明したように、ポリオールの補填および平衡によって、可能であればFloryオリゴマー平衡まで、補われなければならない。
【0011】
Flory平衡状態である所定のタイプのポリエステルポリオールは、通常、同じオリゴマー分布を有し、したがって、それから製造されるPUR材料の一貫した材料特性が生じる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の目的は、Flory平衡状態のポリエステルポリオール混合物およびそれらの単純な時間節約的製造方法を提供することであった。ここでFlory平衡状態のポリエステルポリオール混合物を得るためのプロセス温度はできるだけ低い。
驚くべきことに、上記の目的は、マイクロ波放射を使用して有利に達成することができた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって、本発明は、グリコリシスによるポリエステルポリオール(A)の製造方法であって、
a)数平均分子量がポリエステルポリオール(A)のものよりも大きいポリエステルポリオール(B)を、ポリエステルポリオール(B)とは異なる62〜1000 g/mol(好ましくは62〜400 g/mol)の分子量を有するポリオール(C)と混合する工程と、
b)この混合物をマイクロ波放射に曝す工程
を含む、方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本明細書において、マイクロ波放射は、300 MHz〜300 GHzの周波数範囲または1 m〜1 mmの波長範囲を意味すると理解される(Roempp、Chemie Lexikon、Thieme Verlag、増補改訂第9版(1995年)、第2785頁)。
【0015】
適当なポリエステルポリオール(B)は、典型的に200〜6000 g/molの平均分子量および1.9〜4.5(好ましくは1.95〜3.5)の官能価を有する。それらは、好ましくはポリカルボン酸とポリオールとの反応生成物である。
【0016】
好ましくは、エステル基非含有ポリオールが成分(C)として使用される。その官能価は、1〜4の間、好ましくは2である。ポリオール(C)の分子量は、ポリエステルポリオール(B)の分子量よりも低い。
【0017】
溶剤中のマイクロ波放射による低分子化合物の製造のための多数の合成法が文献に記載されているが、この方法によるポリエステルポリオールの製造に対する、または特に、溶剤中での製造に対する言及は存在しない(B.L. Hayes、Microwave Synthesis、Chemistry at the Speed of Light、CEM Publishing、Matthews、NC 28105、第77〜156頁)。
【0018】
驚くべきことに、非常に低い温度でさえも、マイクロ波がポリエステルポリオールのアルコリシスを著しく促進することが分かった。
【0019】
市販のマイクロ波装置としては、単一モード装置および多モード装置の両方が挙げられる。モデルに応じて、10 W〜数百Wの間のエネルギー入力が産出され得る。もちろん、操作は、必要とされる場合、より大きなまたはより小さなエネルギー入力で行われ得る。
【0020】
CEMから市販の単一モードマイクロ波装置「Discover」(周波数2.45 GHz)を、例えば、典型的実験的セットアップにおいて使用できる。100 mlの反応容器を、以下により詳細に記載される実験において使用した。CEM装置の際だった特徴の1つは、その装置が、マイクロ波装置に関して比較的高く、および同時に存在する冷却設備によって長時間維持され得るエネルギー密度を生じさせ得ることである。また、反応混合物への温度ストレスは、非常に低く保持され得る。
【0021】
好ましいエネルギー密度は、200ワット/リットルを超える。更に好ましくは、高いエネルギー入力にもかかわらず、比較的低い反応温度のみに到達するように、反応混合物を同時に冷却しつつマイクロ波エネルギーを放射することである。冷却は、好ましくは圧縮空気によって達成されるが、他の冷却系(特に液体冷却媒体による系)も使用できる。
【0022】
もちろん、マイクロ波装置の使用は、単一モード装置に制限されず、上記の多モード装置も使用できる。多モード装置は、一般によく知られた家庭用器具に匹敵し、および不均一なマイクロ波場を有する。すなわち、この不均一なマイクロ波分布のために、いわゆる温点および冷点がマイクロ波チャンバーの内側で発生し、そして、これはマイクロ波プレートの回転によって大々的に補われている。
【0023】
他方、単一モード装置は、均一なマイクロ波場を有し、およびそれらの特別なチャンバー設計は、そのような温点および冷点を排除する。
【0024】
本発明の方法は、バッチ式ばかりでなく、ポンプおよび適当なチューブ反応器を用いることによって連続的に行うこともできる。また、幾つかのマイクロ波装置を、直列または並列に連結させることもできる。
【0025】
また、マイクロ波放射を使用するポリエステルポリオールのアルコリシス反応は、触媒を添加することによって促進させることもできる。しかしながら、反応は、好ましくは触媒なしで行われる。
【0026】
上記方法は、高圧下または低圧下で行うこともできる。後者は、アルコリシスに加えて、例えば、酸価を低下させることも意図される場合、すなわち、例えば、少量の水を反応混合物から除去しなければならない場合、特に有利である。
【0027】
高圧下での方法の実施は、反応成分のうちの1つの沸点が、(例えば他の境界条件によって予め決定された)方法の反応温度よりも低い場合に考慮される。
【0028】
上記方法は、好ましくは溶媒を使用することなく行う。必要に応じて、特別な場合、例えば非常に高分子量および/または対応して高い粘度を有するポリエステルポリオールのために、溶媒を同時に使用できる。
【0029】
以下の実施例によって、本発明をより詳細に説明する。
【実施例】
【0030】
〔比較例〕
撹拌機、温度計および還流冷却器を備えた4 lの四つ首フラスコにおいて、50 mg KOH/gのヒドロキシル価および0.4 mg KOH/gの酸価を有するポリブチレンアジペート1500 gを、1,4-ブタンジオール30 gと共に70℃で迅速に攪拌した。試料(「ゼロ値試料」)を採取し、次いで、反応温度を200℃まで上昇させた。この温度にて、1、2、4および8時間後に、更なる試料をガスクロマトグラフ分析のために採取した。
【0031】
【表1】

【0032】
エステル化への完全な組み込みについての理論値:0.8重量%。
比較例は、200℃で8時間でさえも、Flory平衡に達するのに十分ではないことを示す。
【0033】
〔実施例1〕 (本発明)
100 mlの一つ首ガラスフラスコにおいて、50 mg KOH/gのヒドロキシル価および0.4 mg KOH/gの酸価を有するポリブチレンアジペート100 gを、1,4-ブタンジオール2 gと共に70℃で迅速に撹拌した。次いで、この混合物を、CEMからの単一モードマイクロ波装置(Discover)中で、以下の反応条件下、マイクロ波放射に曝した(反応時間:2時間、圧縮空気による連続冷却下での300Wの一定のマイクロ波エネルギー入力)。赤外線センサーにより測定された最大の反応温度は、89℃であった。
【0034】
次いで、反応混合物を、遊離ブタンジオールの割合についてガスクロマトグラフィーにより分析した。1.0重量%の遊離ブタンジオールが見出された(理論値:約0.8%)。
ゼロ値試料の値は、2.6重量%の遊離ブタンジオールであった(理論値:2.4%)。
【0035】
実験の比較は、本発明の方法において、低温(比較試験における200℃の代わりに約90℃)で、わずか2時間後にFlory平衡に実際に到達したことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルポリオール(A)の製造方法であって、
a)数平均分子量がポリエステルポリオール(A)のものよりも大きいポリエステルポリオール(B)を、ポリエステルポリオール(B)とは異なる62〜1000 g/mol(好ましくは62〜400 g/mol)の分子量を有するポリオール(C)と混合する工程と、
b)この混合物をマイクロ波放射に曝す工程
を含む、方法。
【請求項2】
均一なマイクロ波放射場による単一モードマイクロ波放射を使用することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
不均一なマイクロ波放射場による多モードマイクロ波放射を使用することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
マイクロ波放射のエネルギー入力が、少なくとも10 W/lであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
マイクロ波放射のエネルギー入力が、少なくとも50 W/lであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
マイクロ波放射のエネルギー入力が、好ましくは200 W/lよりも大きいことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ポリエステルポリオール(B)が、脂肪族および/または芳香族ポリカルボン酸単位と、62〜1000 g/mol(好ましくは62〜400 g/mol)の分子量を有する脂肪族、芳香脂肪族および/または脂環族ポリオールまたは必要に応じてポリオール混合物とから合成されたものであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ポリエステルポリオール(B)が、200〜6000 g/molの数平均分子量および1.9〜4.5(好ましくは1.95〜3.5)の官能価を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ポリエステルポリオール(B)が、カーボネート基を含有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
発泡および非発泡ポリウレタン材料の製造方法であって、請求項1〜9のいずれかに記載の方法により製造されたポリエステルポリオール(A)を使用することを含む、方法。

【公表番号】特表2009−506176(P2009−506176A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−528378(P2008−528378)
【出願日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際出願番号】PCT/EP2006/008113
【国際公開番号】WO2007/025649
【国際公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】