説明

ポリエステルモノフィラメント

【課題】高精密なスクリーン印刷に用いるハイメッシュスクリーン紗を得ることが出来る細繊度、高強度、高タフネスを両立するポリエステルモノフィラメントを提供する。
【解決手段】芯成分がポリエチレンテレフタレート(PET)、鞘成分が芯成分より0.2以上小さい固有粘度(IV)のポリエチレンテレフタレートからなる芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントであり、繊度3〜8dtex、強度7.5cN/dtex以上、かつタフネス(強度×伸度0.5)が29以上であるポリエステルモノフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、#400(#:メッシュ数、1インチ=2.54cmあたりの糸条本数)以上のハイメッシュスクリーン紗に好適なポリエステルモノフィラメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スクリーン印刷用織物としては、シルクなどの天然繊維やステンレスなどの無機繊維からなるメッシュ織物が広く使用されてきたが、近年は、柔軟性や耐久性、コストパフォーマンスに優れる合繊メッシュが広く用いられている。中でもポリエステルからなるモノフィラメントは寸法安定性に優れるなどスクリーン紗適正が高く、コンパクトディスクのレーベル印刷などのグラフィックデザイン物の高精密印刷や電子基板回路印刷などに幅広く使用されている。
【0003】
近年、電子機器の高性能化やコンパクト化が著しく進行する中、電子機器を構成する電子基板のコンパクト化や基板回路の精密化に応えるべく、よりハイメッシュ、かつ繊径ムラなどの織物欠点が少ないスクリーン紗への要求が高まっている。従って、これらのスクリーン紗要求特性を満足するポリエステルモノフィラメントとして、より細繊度かつ高強度であり、同時に繊径均一性の優れ、製織時にスカム等の欠点が生じないことが必須である。
【0004】
例えば、芯成分・鞘成分が共にポリエチレンテレフタレートであるポリエステルモノフィラメントは破断強度が高く、かつ製織時にモノフィラメント表面と筬羽との擦過によって生じるスカムの発生が少ないものとなる。しかしながら、具現化された実施例に記載された繊度は10.0dtexと高く、#400以上のハイメッシュスクリーン紗を得るには不適であった(特許文献1)。更に細繊度、高強度となる発明の開示がある(特許文献2)が、細繊度化・高強度化により伸度が大幅に低下するため実施例に示されたタフネスは高々27程度と脆く、整経・製織時の僅かな張力変動によって糸が破断し易くなるため、このポリエステルモノフィラメントでは安定的に#400以上のハイメッシュスクリーン紗を製造することが困難であった。
【特許文献1】特開2005−47020号公報(請求の範囲、実施例)
【特許文献2】特開2003−213520号公報(請求の範囲、実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記問題を解決し、高精密なスクリーン印刷に用いるハイメッシュスクリーン紗を得ることができる細繊度、高強度、高タフネスを両立するポリエステルモノフィラメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するための本発明は、以下の構成を採用する。すなわち、
芯成分がポリエチレンテレフタレート(PET)、鞘成分が芯成分より0.2以上小さい固有粘度(IV)のポリエチレンテレフタレートからなる芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントであり、繊度3〜8dtex、強度7.5cN/dtex以上、かつタフネス(強度×伸度0.5)が29以上であるポリエステルモノフィラメント。
【発明の効果】
【0007】
精密印刷用のハイメッシュスクリーン紗に適したモノフィラメントが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明におけるポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略す)は、繰り返し単位の90モル%以上がエチレンテレフタレートである。
【0010】
本発明のポリエステルモノフィラメントは芯成分、鞘成分いずれもPETである芯鞘型の複合繊維である。鞘成分の固有粘度(IV)は芯成分のIVより0.2以上小さいものであり、好ましくは0.3以上である。鞘成分のIVと芯成分のIVの差が0.2未満の場合や鞘成分のIVが芯成分のIVと同等以上の場合、得られるポリエステルモノフィラメント表層部の分子配向度が高くなるため、製織時に筬羽との擦過によって毛羽状あるいは粘着質状のスカムが生じ易くなる。更には、鞘成分のIVが芯成分のIVより0.2以上小さいことにより、溶融紡糸の口金吐出孔内壁面におけるせん断応力を鞘成分が担うため、芯成分が受けるせん断力は小さくなる。これにより芯成分は分子鎖配向度が低く、かつ均一な状態で紡出されるため、最終的に得られるポリエステルモノフィラメントの強度が向上する。
【0011】
芯成分のIVは、高強度化という観点から0.7以上が好ましく、更に好ましくは0.8以上である。一方、溶融紡糸における溶融ポリマの流動性という観点から芯成分のIVは1.4以下が好ましく、更に好ましくは1.3以下である。
【0012】
芯成分のPETはポリエステルモノフィラメントの強度を主として担うため、通常ポリエステル繊維に添加される酸化チタンに代表される無機粒子の添加物は0.5wt%未満であることが好ましい。
【0013】
鞘成分のIVは、芯成分のIVよりも0.2以上小さい。溶融押出機や紡糸口金内での安定計量性の観点からIVとして0.4以上が好ましい。
【0014】
鞘成分のPETはポリエステルモノフィラメントの耐磨耗性を主として担うため、酸化チタンに代表される無機粒子を0.1〜0.5wt%程度添加させることが好ましい。
【0015】
また、本発明の効果を損なわない限り、芯成分、鞘成分いずれのPETにも、10モル%以下の共重合をしてもかまわない。
【0016】
共重合成分の例として、酸成分にはイソフタル酸、フタル酸、ジブロモテレフタル酸、ナフタリンジカルボン酸、ジフェニルキシエンタンカルボン酸、オキシエトキシ安息香酸の如き二官能性芳香族カルボン酸、セバシン酸、アジピン酸、シュウ酸の如き二官能性脂肪族カルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸が挙げられる。グリコール成分にはプロパンジオール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールAや、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコールが挙げられる。
【0017】
更には、芯成分、鞘成分いずれのPETにも、添加物として酸化防止剤、制電剤、可塑剤、紫外線吸収剤、着色剤等を適宜添加しても良い。
【0018】
本発明におけるポリエステルモノフィラメントの芯/鞘面積比は40/60〜5/95であることが好ましい。前述の通り、芯成分は強度を担い、鞘成分は耐磨耗性を担うため、該範囲とすることでいずれの効果も両立することができる。更に好ましくは30/70〜10/90である。
【0019】
本発明のポリエステルモノフィラメントの繊度としては3〜8dtexである。精密印刷に適した好ましくは#400以上、さらに好ましくは#450以上のハイメッシュスクリーン紗を得るためには、繊度として8dtex以下である。従来の比較的高メッシュなスクリーン紗は#250〜350程度であり、これらに対して繊度10〜20dtexのモノフィラメントが用いられている。しかしながら、#400(1インチ=2.54cm当たり400本)のハイメッシュスクリーン紗の場合、1本当たりのメッシュ格子間隔は約63μmとなる。一般的なポリエステル繊維の比重1.38g/cmを前提に計算すると、繊度10dtex(直径約30μm)を用いた場合、1格子当たりにオープニング(目開き)はおよそ33μm(52%)であり、筬とポリエステルモノフィラメントのクリアランスが極度に小さくなるため、筬羽とポリエステルモノフィラメントの擦過によってスカムが発生し易くなり、結果として#400以上のハイメッシュスクリーン紗が得られないこととなる。従って、本発明のポリエステルモノフィラメントの繊度の上限として8dtexであり、6.5dtex以下がより好ましい。繊度の下限としては、製織性、特に緯糸飛送性を十分とするため3dtex以上であり、より好ましくは4dtex以上である。
【0020】
3〜8dtexという細繊度のポリエステルモノフィラメントからハイメッシュスクリーン紗を得る製織工程での負荷や、スクリーン印刷にかかる負荷に十分耐えうるレベルとして、本発明のポリエステルモノフィラメントの強度は7.5cN/dtex以上である。好ましく8.0cN/dtex以上であり、更に好ましくは8.5cN/dtex以上である。
【0021】
糸の破断とは、破断強度と破断伸度によって決定されるものであります。定応力的な変形に関しては強度、定長的な変形に関しては伸度が係わるため、例え前述の強度7.5cN/dtexを達成していたとしても、破断伸度が小さければ糸は脆く破断し易いものと言える。
【0022】
従って、破断に対する耐性としては強度・伸度のいずれかではなく、いずれも加味したパラメーターで表現されるべきである。例えば引張試験の応力―歪曲線における、破断に至るまでの曲線の積分値がそれに相当するが、簡便的な指標としてタフネス(強度×伸度0.5)を用いればそれと良い相関を示す。
【0023】
3〜8dtexという細繊度のポリエステルモノフィラメントをハイメッシュスクリーン紗とし、更にはスクリーン紗として印刷に耐えうるものとするには、前記の通り強度を7.5cN/dtex以上とするとともにタフネスを29以上とする。好ましくは31以上、より好ましくは32以上である。
【0024】
本発明のポリエステルモノフィラメントの伸度としては、伸度11%以上であれば製織性、特に緯入れ時の張力が安定し、糸切れが発生しにくくなるため好ましい。
【0025】
#400以上のハイメッシュスクリーン紗とし精密印刷を施す際の印刷品位や、メッシュを構成する1本1本の強伸度特性を均一化させる観点から、本発明のポリエステルモノフィラメントの糸長繊度変動は1.5%以下が好ましく、より好ましくは1.0%以下、更に好ましくは0.7%以下である。
【0026】
尚、一般に繊維の糸長方向繊度ムラの評価にはウースター社のウースター測定機が用いられるが、該測定機の検出下限は10dtexであるため、本発明のポリエステルモノフィラメントのように3〜8dtexの細繊度糸を測定すると、実際に存在する繊度むらを十分に検知しない。従って、3〜8dtexのポリエステルモノフィラメントの繊度ムラを評価するには、光学式外径測定器による繊径データを糸長方向連続的に採取し、後述の方法によりデータ演算し、糸長繊度変動(%)として得る。この方法であれば、概ねウースター測定器によるウースター値(ノーマル)と同等の値を示すことが分かっている。
【0027】
本発明のポリエステルモノフィラメントを得る紡糸工程としては、芯成分・鞘成分のPETをそれぞれ別々の溶融押出機に供給、溶融せしめ、一定量に計量した後に紡糸口金から吐出させ、冷却・固化させながら一定速度のゴデットローラーにて引き取る。得られるポリエステルモノフィラメントのタフネスを最大限に引き出すためには、主に以下の点に留意すれば良い。
(1)溶融から紡出直前までのPET溶融通過時間、加熱温度を極力小さくし、PETの分子量低下を抑制する。
(2)ゴデットローラーによる引取速度を好ましくは800m/分以下、より好ましくは300〜600m/分という低速とし、紡出糸条の分子配向度上昇を抑制する。
(3)紡糸口金直下に加熱体を設け、好ましくは雰囲気温度を260℃以上に積極保持し、伸張変形による紡出糸条の分子配向度上昇を抑制する。
(4)紡糸ドラフト(=引取速度/口金吐出口内の平均線速度)を好ましくは100以下、より好ましくは70以下とし、紡出糸条の紡糸線上変形を緩やかにし、紡出糸条の分子配向度を抑制する。
【0028】
紡糸工程でのタフネス向上に関する技術としては、(1)はPETの加水分解による分子量低下を極力抑制することに加え、紡糸工程での分子配向度が小さい紡糸糸条を延伸工程で高い延伸倍率で配向せしめる観点から、(2)〜(4)は紡糸糸条の分子配向度を極力抑制することが有効である。吐出された糸条の分子配向度は、簡単に言えば紡糸で“引き伸ばす”力が強ければ強いほど大きくなる。紡糸線上に働く力としては、引取速度による引張り力、伸張粘性や空気抵抗力による変形抵抗力が挙げられるが、モノフィラメントの場合空気抵抗力は極めて小さいため殆ど無視しても良い。
【0029】
繊度3〜8dtexのポリエステルモノフィラメントを得るべく常法で紡糸すると、紡出糸条が細いために冷却され易く、変形抵抗力が大きくなるため紡出糸条の分子配向度が大きくなり、結果としてタフネス29以上を得ることは困難となるため、(2)〜(4)は特に重要な項目となる。
【0030】
引取速度による引張り力を小さくするには(2)ゴデットローラーによる引取速度を好ましくは800m/分以下、より好ましくは300〜600m/分の低速域とすればよい。
【0031】
伸張粘性による変形抵抗力を小さくするには、伸張変形する際の糸条温度を高くし、伸張粘性を低くするという観点から(3)紡糸口金直下を260℃以上に加熱保温すること、(4)紡糸ドラフトを小さく、具体的には100以下、さらに好ましくは70以下、とすれば、得られるポリエステルモノフィラメントのタフネスは向上する。
【0032】
但し、本発明のポリエステルモノフィラメントのように3〜8dtexの細繊度繊維は、高タフネスを得るべく口金直下雰囲気温度を高くし過ぎたり、冷却までの加熱区間を長くし過ぎたりすると、糸長繊度変動(%)が大きくなり易いので注意が必要である。これらはタフネスを維持できる範囲内で適宜調整すればよいが、口金下の雰囲気温度を口金面温度+20℃以下とすることが好ましい。
【0033】
本発明のポリエステルモノフィラメントを得る延伸・巻取り工程としては、紡出され引き取られた糸条をガラス転移点以上に加熱された加熱ローラー、結晶化温度以上に加熱された延伸ローラーの間で延伸し、パーン状あるいはチーズ状に巻き取る。得られるポリエステルモノフィラメントのタフネスを最大限に引き出すためには、主に以下の点に留意すれば良い。
(5)得られるモノフィラメントの繊度ムラ・物性バラツキ低減の観点から未延伸糸を一旦巻き取らず直接延伸を行うスピンドローとする。
(6)延伸は3対以上のローラーによる多段延伸とし、一段目の延伸倍率比率を好ましくは50〜80%とする。
(7)最終延伸ローラー以前の延伸ローラー温度は好ましくは130℃以下、より好ましくは110℃以下とし、延伸途中での結晶化を抑制する。
(8)最終延伸ローラーの温度は好ましくは180℃以上、より好ましくは200℃以上とし、得られるポリエステルモノフィラメントの結晶化度を向上させる。
【0034】
前述の紡糸方法によって得られた紡糸糸条は極度に配向度が低いため、未延伸糸として一旦巻き取ると、延伸するまで経時的に分子配向・結晶状態が変化し、長手にばらつきを生じ易い。特に本発明のポリエステルモノフィラメントのように細繊度、高強度を得るためには、細繊度未延伸糸に4.5〜7.0倍の高倍率延伸を施すため、未延伸糸の分子配向・結晶状態の差が糸長繊度変動として顕在化し易い。未延伸糸の分子配向・結晶状態が均一なまま延伸を行えば糸長繊度変動や物性のばらつきを低減することができるため、(5)紡糸後に一旦巻き取らず直ちに延伸を施すスピンドローが好ましい。
【0035】
更に、低配向度・細繊度モノフィラメント未延伸糸を均一に延伸するには(6)、(7)のように一段目倍率比率が50〜80%の多段延伸を行うのが好ましく、最終延伸ローラー以前の延伸ローラーの加熱温度は好ましくは130℃以下、より好ましくは110℃以下である。ローラーの個数の上限は特に限定するものでなく、3対以上のホットローラーがあれば同じように多段延伸の効果が得られるが、極端に個数を増やすと装置が複雑化することとなるため、通常3、4対程度で十分である。なお、ホットロールについては、1ホットロール−1セパレートロールの構成、あるいは2ホットロール構成(いわゆるデュオタイプ)の何れを用いても良く、デュオタイプでは、2ホットロールで1対とカウントするものである。
【0036】
更には、(8)最終的に得られるポリエステルモノフィラメントの結晶化度を向上させ、高タフネスを得る最終延伸ローラー温度は、好ましくは180℃以上、より好ましくは200℃以上である。
【0037】
また最終延伸ローラーから巻取機の間に更に数個のゴデットローラーを配してもよい。最終延伸ローラーとゴデットローラーの間で負の速度差を付与する場合、延伸によって生じた分子非晶部位の歪みを緩和することができるため、伸度が上昇しタフネスが向上する効果と、スカムが発生しにくくなる耐磨耗性向上効果が得られる。一方、最終延伸ローラーとゴデットローラーの間で正の速度差を付与する場合、得られるポリエステルモノフィラメントの初期弾性率が向上することでハイメッシュスクリーン紗として印刷に使用した際にズレが小さく、印刷精度が向上する。これらは印刷用途毎の要求特性を鑑みた上で適宜決定すればよい。
【0038】
本発明のポリエステルモノフィラメントを得る工程のいずれかの部分において、得られるポリエステルモノフィラメントの平滑性、耐磨耗性、制電性を向上させる目的で油剤を付与することが好ましい。給油方式としては給油ガイド方式、オイリングローラー方式、スプレー方式などを挙げることができ、紡出から巻取りまでの間で複数回数給油しても構わない。
【実施例】
【0039】
以下本発明を実施例により詳細に説明する。なお、実施例中の評価は以下の方法に従った。
【0040】
固有粘度(IV)
試料0.8gをオルソクロロフェノール10mlに完全溶解させ、25℃で測定した。
【0041】
(繊度)
糸条を500mかせ取り、かせの重量に20を乗じた値を繊度とした。
【0042】
(強度、伸度、タフネス)
オリエンテックス社製テンシロン引張試験機を用い、初期試料長20cm、引張速度2cm/分にて破断した際の強度、伸度を測定し、それぞれ5回測定した値の平均値を強度(cN/dtex)、伸度(%)とした。またこれらの強度、伸度からタフネス(強度×伸度0.5)を算出した。
【0043】
(糸長繊度変動)
アンリツ株式会社製レーザ外径測定機KL1002A/E検出部に、得られた糸条を速度500m/分にて通過させ、データ平均化個数16点の出力条件下において120秒間約22000点の糸径データを得た。得られた糸径データr(μm)は下記式にて糸長繊度変動(%)に換算した。
【0044】
【数1】

【0045】
ただし、n:データ点数、Dave:n個のDの平均値、D=9.6×(r0.5
:i番目のデータr
(製織評価)
スルーザー製織機により織機の回転数120rpmとして幅2.2m、長さ300mの#480メッシュ織物を製織した。その際の糸切れ、筬汚れ状態に注目し、以下の指標で判定し、○および△を合格とした。
○:良好(糸切れ5回以下、かつ筬汚れなし)
△:良(糸切れ、筬汚れとも○と×の間の範囲)
×:量産不可(糸切れ15回以上、もしくは筬汚れが著しく継続して製織不可能)
(印刷評価)
得られたメッシュ織物に感光性乳剤にて50μm間隔で50μmのラインパターンを形成、印刷後の状態を観察し、以下の指標で判定した。
○:ライン再現良好、△:ラインの境界に凹凸が見られるが問題なし、×:不良
(実施例1)
常法によって重合およびチップ化した固有粘度1.15のPETを芯成分、固有粘度0.63で酸化チタンを0.3wt%含有するPETを鞘成分となるよう、それぞれ個別のエクストルーダーによって溶融させた。溶融PETは290℃に保温した配管内を通過させた後、公知の芯鞘型複合紡糸口金から芯:鞘の重量比率が8:2となるよう芯鞘型複合糸条を紡出させた。吐出糸条は口金面から下方に100mmの間、雰囲気温度を290℃±10℃となるようにの加熱体により積極保温した後、25℃のエアーを10m/分の風速で糸条に吹き付け、冷却固化せしめた。冷却固化された糸条は給油ロールにより紡糸油剤を給油したのち、表面速度500m/分のゴデットロール1、表面速度505m/分、表面温度90℃のホットロール2、表面速度1800m/分、表面温度100℃のホットロール3、表面速度2930m/分、表面温度220℃のホットロール4、表面速度2959m/分のゴデットロール5を介した後、巻き取り張力0.5gとなるように速度が制御された糸条巻取装置にてポリエステルモノフィラメントを巻き取った。このとき、紡糸ドラフトは64、総延伸倍率は5.8倍、1段目倍率比率(1段目延伸倍率/総延伸倍率×100)は62%とした。製糸プロセスの概略図を図1に示す。得られたモノフィラメントの繊度は4.5dtex、強度9.1cN/dtex、伸度13.1%、タフネス32.9、糸長繊度変動は0.49%であった。得られたポリエステルモノフィラメントを用いた製織評価ではスカム発生、糸切れ発生がほとんどなく良好であり、印刷評価においてはラインの再現性が良好であった。
【0046】
(実施例2〜4、比較例1)
得られるポリエステルモノフィラメントの繊度を表1の通り変更した以外、実施例1と同様の方法にてポリエステルモノフィラメントを得た。実施例4は印刷評価において若干ラインの再現に乱れがあったものの、十分な印刷性能を持っていたが、比較例1では製織においてスカム状の欠点が生じたばかりか、印刷評価においてラインの再現性が不十分であった。
【0047】
(実施例5〜7、比較例2)
原料となるPETのIVを表1のとおり変更した以外、実施例2と同様の方法にてポリエステルモノフィラメントを得た。実施例7では強度,タフネスが若干低下したため、製織において糸切れが発生したほか、印刷評価において耐印刷性が低下したが、十分な性能を有していた。一方、比較例2では製織においてスカムが多発し使用に耐えないものであった。
【0048】
以上、実施例1〜7、比較例1,2の結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
(実施例8,9、比較例3)
総延伸倍率をそれぞれ5.3倍、5.0倍、4.6倍に変更した以外、実施例1と同様の方法にてポリエステルモノフィラメントを得た。延伸倍率の低下に伴い強度が低下したため、実施例8では製織時の糸切れが増加、実施例9では製織時の糸切れの増加と耐印刷性の低下が認められたが、十分な性能を有するものであった。一方、比較例3では強度が7.3cN/dtexと低く、製織時に糸切れが多発し実質生産不可能な製織性であったばかりか、印刷精度・耐印刷性も不十分なものであった。
【0051】
(実施例10〜12)
原料となるPETに添加する酸化チタンの量を表2の通り変更した以外、実施例1と同様の方法にてポリエステルモノフィラメントを得た。実施例10では芯成分の酸化チタン含有量を増加させたため、タフネスの低下が認められ、製織において糸切れが増加したが、生産可能なレベルにあった。実施例12では鞘成分の酸化チタン含有量を低下させたため、ポリエステルモノフィラメントの耐摩耗性が低下、製織においてスカムが増加したが、生産可能なレベルであった。
【0052】
以上、実施例8〜12、比較例3の結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
(実施例13〜15)
口金下加熱体温度を表3の通り変更した以外、実施例1と同様の方法でポリエステルモノフィラメントを得た。加熱体温度を上昇させた実施例13ではポリエステルモノフィラメントの糸長繊度変動が上昇し、印刷評価においてラインの再現性が低下したものの、十分な性能を有するものであった。一方、実施例14,15の通り加熱体温度を低下させるに伴い、ポリエステルモノフィラメントのタフネス,伸度が低下し、実施例15では製織における糸切れおよび、耐印刷性の低下が認められたが、十分な性能を有するものであった。
【0055】
(実施例16,17、比較例4)
ゴデットロール速度、ホットロール速度、加熱体温度を表3の通り変更し、得られるポリエステルモノフィラメントの繊度が一定になるようにした以外、実施例1と同様の方法でポリエステルモノフィラメントを得た。実施例17ではポリエステルモノフィラメントのタフネスが低下し、製織時の糸切れが増加、耐印刷性の低下が認められたが、十分な性能を有するものであった。一方、比較例4ではタフネスが著しく低下し、製織時の糸切れが多発、耐印刷性も著しく低下し、実質使用に耐えないものであった。
【0056】
(実施例18〜20)
実施例18,19ではホットロール2の速度を表3の通り変更、また実施例20ではホットロール2を介さず一段延伸とした以外、実施例1と同様の方法でポリエステルモノフィラメントを得た。いずれも製織評価、印刷評価において十分な性能が確認されたものの、実施例19では製織時の糸切れが増加、実施例20では製織時の糸切れの増加に加え、耐印刷性の低下および印刷ラインの再現性の低下が認められた。
【0057】
以上、実施例13〜20、比較例4の結果を表3に示す。
【0058】
【表3】

【0059】
(実施例21〜24)
ホットロール3,4の温度を表4の通り変更した以外、実施例1と同様の方法でポリエステルモノフィラメントを得た。実施例21,22ではホットロール3温度の上昇に伴いタフネスの低下が認められたが十分なレベルを維持するものであった。実施例23,24ではホットロール4温度の低下に伴いタフネスの低下が認められたが、十分なレベルを維持するものであった。
【0060】
以上、実施例21〜24の結果を表4に示す。
【0061】
【表4】

【0062】
(実施例25,比較例5)
実施例1と同一の方法で未延伸糸を紡糸し、冷却・給油した後に一旦巻き取り、その後延伸を付与する2工程法にてポリエステルモノフィラメントを得た。紡糸における巻き取り速度を表5の通り変更して得られた未延伸糸を3ホットロール構成の延伸機にて表5の通り延伸倍率を変更、1段目延伸倍率比率を0.7、ホットロール温度は1つ目から順90℃、100℃、220℃とし、最終巻き取り速度700m/分にて延伸を行った。実施例25では実施例1対比タフネスが低下したため、製織による糸切れ、耐印刷性の低下が認められ、また糸長繊度変動が上昇したため、印刷ライン再現性の低下が認められたが、十分な性能を有するものであった。一方、比較例5では実施例25よりも更にタフネスが低下し、製織における糸切れが多発した他、耐印刷性が著しく低下、実質使用に耐えないものであった。
【0063】
以上、実施例25,比較例5の結果を表5に示す。
【0064】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施形態を示す紡糸設備概略図である。
【符号の説明】
【0066】
1:口金
2:加熱体
3:冷却風吹き出し面
4:給油ロール
5:ゴデットロール1
6:ホットロール2
7:ホットロール3
8:ホットロール4
9:ゴデットロール5
10:糸条巻取装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯成分がポリエチレンテレフタレート(PET)、鞘成分が芯成分より0.2以上小さい固有粘度(IV)のポリエチレンテレフタレートからなる芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントであり、繊度3〜8dtex、強度7.5cN/dtex以上、かつタフネス(強度×伸度0.5)が29以上であるポリエステルモノフィラメント。
【請求項2】
糸長繊度変動が1.5%以下であることを特徴とする請求項1記載のポリエステルモノフィラメント。

【図1】
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【公開番号】特開2010−77563(P2010−77563A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−248239(P2008−248239)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】