説明

ポリエステル仮撚捲縮糸

【課題】医療、介護、食品などの分野で使用されるユニフォーム衣料に好適な布帛であって、工業洗濯を繰り返しても強度が低下し難く、ソフトで嵩高感に優れた布帛をなす上で、有利なポリエステル仮撚捲縮糸を提供する。
【解決手段】カルボキシル末端基濃度が25eq/ton以下であるポリエステル繊維からなる仮撚捲縮糸であって、捲縮率が30%以上であり、135℃下で20時間蒸気処理した後の引張り強度保持率が70%以上であるポリエステル仮撚捲縮糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温の工業洗濯を繰り返ししても強度、風合いが低減し難い布帛を得るのに好適なポリエステル仮撚捲縮糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ユニフォーム衣料を構成する布帛として、綿とポリエステルとからなる混用織物が多用されているが、仕立て映えやイージーケア性の点で十分な効果が得られないなどの欠点がある。このため、一般に仕立て映えが良好でイージーケア性に優れるとされるポリエステル布帛をユニフォーム衣料に適用する試みがある。
【0003】
しかしながら、ユニフォーム衣料を洗濯する際、用途にもよるが家庭洗濯ではなく工業洗濯を採用するものがあり、工業洗濯が高温下で実施されるところ、ポリエステル分子の加水分解による布帛の強度低下が懸念されている。
【0004】
そこで、繊維中に特定の無機化合物を含有させることにより、糸条の耐湿熱性を向上させる技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−291409公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献によれば、耐湿熱性に優れる繊維が得られるとあるから、この繊維からなる糸条を用いることは、確かに医療、介護、食品などの分野におけるユニフォーム衣料を得る上で有利となる。
【0007】
しかし、上記特許文献では、かかる糸条を仮撚加工する点について示唆こそあるものの、仮撚加工する目的や具体的な仮撚条件などについては一切記載がない。つまり、上記特許文献記載の発明では、仮撚加工は、採用しうる付帯加工の一選択肢に過ぎず、仮撚加工によりどのような効果が奏されるかについては具体的に検討されていない。
【0008】
本発明は、上記のような従来技術の欠点を解消するものであり、医療、介護、食品などの分野で使用されるユニフォーム衣料に好適な布帛であって、工業洗濯を繰り返しても強度が低下し難く、ソフトで嵩高感に優れた布帛をなす上で、有利なポリエステル仮撚捲縮糸を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、このような課題を解決するものであって、本発明の要旨は、カルボキシル末端基濃度が25eq/ton以下であるポリエステル繊維からなる仮撚捲縮糸であって、捲縮率が30%以上であり、135℃下で20時間蒸気処理した後の引張り強度保持率が70%以上であることを特徴とするポリエステル仮撚捲縮糸にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明の仮撚捲縮糸は、工業洗濯を繰り返しても強度が低下し難く、ソフトで嵩高感に富む布帛を得る点で有利である。そして、かかる布帛は、医療、介護、食品などの分野におけるユニフォーム衣料に好適であり、快適で機能的なユニフォーム衣料を提供する点で有利である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明の仮撚捲縮糸は、ポリエステル繊維からなるものである。
【0013】
本発明におけるポリエステル繊維は、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエチレンテレフタレート(PET)からなる。具体的に、PET中では、繰り返し単位たるエチレンテレフタレートが、全繰り返し単位に対し好ましくは85モル%以上を占め、本発明の目的を損なわない範囲で、第三成分が共重合されていてもよい。共重合成分としては、各種ジカルボン酸成分、各種脂肪族グリコールなどがあげられる。
【0014】
そして、かかるポリエステル繊維では、カルボキシル末端基濃度が25eq/ton以下である必要がある。カルボキシル末端基濃度が25eq/tonを超えると、ポリエステルの加水分解が進み、所望の耐湿熱性が得られない。カルボキシル末端基濃度は、少ないほど好ましく、好ましくは18eq/ton以下である。
【0015】
ポリエステル繊維において、カルボキシル末端基濃度を所定の範囲となすことは、繊維中に特定の無機化合物を特定量含有させることにより可能である。一例を示すと、無機化合物として、アンチモン化合物、コバルト化合物及びリン化合物があげられ、使用量として、アンチモン化合物は0.5×10−4〜3.0×10−4モル/酸成分モルが、コバルト化合物は0.1×10−4〜0.6×10−4モル/酸成分モルが、リン化合物0.1×10−4〜20.0×10−4モル/酸成分モルがそれぞれ好ましい。
【0016】
また、本発明の仮撚捲縮糸は、捲縮率が30%以上である必要がある。捲縮率が30%未満になると、嵩高感ある布帛を得ることができない。ただし、捲縮率が高くなり過ぎると、仮撚捲縮糸の強度が低減し、ひいては布帛の耐湿熱性が低減することもあるので、上限を90%とするのが好ましい。
【0017】
捲縮率を30%以上となすことは、特定の仮撚条件を採用することにより可能である。
【0018】
具体的には、仮撚係数として15000/D1/2〜25000/D1/2(T/M)(D:仮撚捲縮糸のトータル繊度)の範囲を採用しつつ、仮撚捲縮糸の伸度が、好ましくは10〜35%、より好ましくは15〜25%となるように延伸しながら仮撚する。仮撚係数が15000/D1/2未満になると、仮撚捲縮糸の捲縮率が低減する傾向にあり、一方、25000/D1/2を超えると、仮撚捲縮糸の強度と共に後述する蒸気処理後の引張り強度保持率も低減する傾向にあり、いずれも好ましくない。
【0019】
また、ヒーター温度としては、170〜230℃が好ましく、この範囲を採用することで、繊維同士の融着を抑えつつ仮撚することができる。
【0020】
仮撚加工に供する糸条(供給糸)としては、半未延伸糸(POY)、延伸糸(FDY)のいずれも使用可能であるが、仮撚工程の安定性や布帛の風合いなどを考慮し、半未延伸糸を採用するのがよい。
【0021】
本発明の仮撚捲縮糸は、耐湿熱性に優れており、耐湿熱性に優れるとは、工業洗濯を繰り返しても布帛の強度、風合いが低減し難いことをいう。工業洗濯では70〜80℃程度の湯浴が使用されるから、家庭洗濯に比べ洗浄力、殺菌力の点で優れている。それゆえ、医療、介護、食品などの分野で使用されるユニフォーム衣料において、少なからず採用されている。工業洗濯は、衣料を廃棄するまでにおよそ100回程度繰り返されるともいわれている。ただ、工業洗濯には、高温であるがゆえ衣料を傷めやすいという短所があり、それゆえ衣料自身に相応の耐湿熱性が求められるのである。
【0022】
具体的に、本発明の仮撚捲縮糸では、耐湿熱性の目安として135℃下で20時間蒸気処理した後の引張り強度保持率が70%以上を満足する必要がある。先に記載したように、繊維のカルボキシル末端基濃度が所定範囲を満足しない場合、所望の耐湿熱性が得られないが、同時に、捲縮糸製造時の仮撚条件によっても耐湿熱性は大きく変動する。つまり、目標の耐湿熱性は、カルボキシル末端基濃度と仮撚条件とを適切なものとなすことにより達成できるといえ、いわば両者の相乗効果であるといえる。
【0023】
引張り強度保持率の測定、算出にあたっては、当然ながら工業洗濯に伴う衣料の強度低下が反映されるような手段を採用する。つまり、仮撚捲縮糸をじかに蒸気処理し処理前後の引張り強度から保持率を算出するのではなく、蒸気処理に先立ち染色加工に相当すると認められる湿熱処理を取り入れる。この点、ポリエステル織編物の染色は、一般に130℃下で30分間行われるから、引張り強度保持率を測定、算出する際は、まず仮撚捲縮糸を筒編し、これを130℃下で30分間湿熱処理する。その後、編地から糸を抜き取り、JIS L1031 8.5.1記載の定速伸長形による手段にて引張強さを測定、記録した後、残りの編地を135℃下で20時間蒸気処理し、先と同様の手段で捲縮糸の引張強さを測定、記録する。記録後、強度保持率(%)=(蒸気処理後の引張強さ/蒸気処理前の引張強さ)×100なる式へ記録した数値を代入し、目的の強度保持率を算出する。
【0024】
筒編地を蒸気処理するには、一般のオートクレーブが使用でき、例えば平山製作所(株)製、高圧蒸気滅菌器「HV−50(商品名)」などが好適である。なお、当該滅菌器を使用する場合は、圧力を225KPaとする。
【実施例】
【0025】
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、実施例及び比較例で得られた仮撚捲縮糸の物性は、下記手段に基づき測定したものである。
1.カルボキシル末端基濃度
仮撚捲縮糸から繊維を取り出し、この繊維0.1gをベンジルアルコール10mLに溶解し、この溶液にクロロホルム10mLを加えた後、1/10規定の水酸化カリウムベンジルアルコール溶液で滴定して求めた。
2.捲縮率
JIS L1013 8.11B法(10本束ねて測定する場合)に基づいて伸縮伸長率(%)を測定し、これを捲縮率とした。
3.強度、伸度
JIS L1031 8.5.1記載の定速伸長形による手段に基づき、得られた仮撚捲縮糸の引張強さ(強度)及び伸び率(伸度)を測定した。
【0026】
(実施例1、比較例1)
三酸化アンチモン、酢酸コバルト及びリン酸トリエチルをそれぞれ0.98、0.15、0.3(×10−4モル/酸成分モル)含有する、280dtex48fのPET未延伸糸を2本用意した。
【0027】
次に、一方の未延伸糸を仮撚係数22400(仮撚数1808T/M)、延伸倍率1.68倍、ヒーター温度220℃なる条件にて、もう一方を仮撚係数14800(仮撚数1205T/M)とする以外一方と同様の条件にて、それぞれを延伸仮撚し、2種の仮撚捲縮糸を得た(実施例1、比較例1)。
【0028】
(実施例2、比較例2)
三酸化アンチモン、酢酸コバルト及びリン酸トリエチルをそれぞれ0.98、0.15、0.3(×10−4モル/酸成分モル)含有すると同時に、酸化チタンを繊維全質量に対し2.0質量%含有する、109dtex48fの異形断面PET未延伸糸を2本用意した。なお、酸化チタンは、布帛において艶消し効果を得る目的で使用するものである。
【0029】
次に、一方の未延伸糸を仮撚係数24200(仮撚数2953T/M)、延伸倍率1.51倍、ヒーター温度170℃なる条件にて、もう一方を仮撚係数27900(仮撚数3400T/M)、延伸倍率1.49倍、ヒーター温度170℃なる条件にて、それぞれ延伸仮撚し、2種の仮撚捲縮糸を得た(実施例2、比較例2)。
【0030】
(比較例3)
繊維に含有させる酢酸コバルト及びリン酸トリエチルの量をそれぞれ0.68、1.2(×10−4モル/酸成分モル)に変更する以外は、実施例2と同様に行い、仮撚捲縮糸を得た。
【0031】
以下、表1に得られた仮撚捲縮糸の諸物性を示す。実施例にかかる仮撚捲縮糸は、いずれも優れた耐湿熱性を具備しており、医療、介護、食品などの分野におけるユニフォーム衣料に好適であると認められる。実際、これらの糸を用いてユニフォーム衣料を作製し、試着したところ、ソフトで嵩高感があり着用感も良好であった。
【0032】
これに対し、比較例1にかかる仮撚捲縮糸は、仮撚時の仮撚係数が低く、所定の捲縮率を満足させることができなかった。このため、嵩高感ある布帛を得ることができなかった。比較例2にかかる仮撚捲縮糸は、所定の捲縮率を満足させることはできたが、仮撚係数が高く、仮撚捲縮糸の強度が実施例の場合と比べ乏しく、また耐湿熱性の点でも劣っていた。
【0033】
比較例3では、繊維に含有させるべき無機化合物の量が適切でなかったため、繊維中のカルボキシル末端基濃度が目標を達成できず、所定の耐湿熱性が得られなかった。
【0034】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル末端基濃度が25eq/ton以下であるポリエステル繊維からなる仮撚捲縮糸であって、捲縮率が30%以上であり、135℃下で20時間蒸気処理した後の引張り強度保持率が70%以上であることを特徴とするポリエステル仮撚捲縮糸。


【公開番号】特開2010−189813(P2010−189813A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36561(P2009−36561)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(592197315)ユニチカトレーディング株式会社 (84)
【Fターム(参考)】