説明

ポリエステル及びポリアクリレート片を用いた形状記憶ポリマ及び、その製造及びプログラミングのための方法

本発明は、形状記憶ポリマ、その製造工程、そのプログラミング工程に関する。本発明による形状記憶ポリマは、異なる転移温度(Ttrans、1、Ttrans、2)を有する少なくとも二つのスイッチ片を有しており、該ポリマは、温度に応じて、永久形状(PF)ばかりか、少なくとも二つの一時的な形状(TF1、TF2)を取ることが出来る。第1のスイッチ片は本質的に一般式(I),n=1…6を有するポリエステル又は、異なるnを有する一般式(I)を有するコポリエステル又は、その誘導体からなる。第2のスイッチ片は、本質的に、RがH又はCHで、Rが飽和又は不飽和の、環状の又は脂肪族の、置換された又は非置換のC1−C10基を示す、一般式(II)を有するポリアクリレートを基礎として構成される、
【化1】


【化2】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状記憶ポリマに係わり、永久的な形状に加えて、少なくとも二つの一時的な形状を記憶することの出来る、形状記憶ポリマ、その製造方法及び、使用及びその形状をプログラムする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
所謂、形状記憶ポリマ又はSMPは、適当な刺激に反応し、前もって行なわれたプログラムにより、一時的な形状より永久的な形状への形状変化を示すことが従来から知られている。しばしば、この形状記憶効果は、熱的に励起される。即ち、ポリマ材料がある特定の転移温度以上に加熱されると、エンロトピー弾性によって駆動される復元効果が生じる。原則的には、形状記憶ポリマは、化学的(共有結合性)なサイト又は物理的(非共有結合性)な架橋サイトが永久形状を規定しているポリマネットワークである。プログラミングは、ポリマ材料を、「スイッチ片の転移温度以上で変形させ、次いで変形力が保持したまま、この温度以下にポリマを冷却すると、一時的な形状が固定される。再度、転移温度以上に加熱すると、相転移状態となり、オリジナルな永久形状が回復する。
【0003】
更に、最近では、異なる転移温度を有する二つのスイッチ片を持ったポリマネットワークが知られるようになった。
【0004】
例えば、EP 1362879A公報には、形状記憶ポリマ(この場合、IPN(相互侵入ネットワーク)であるが)が共有結合性の架橋ポリマ成分からなるもの、特に、カプロラクトンユニット、ラクチドユニット、グリコールユニット又はp−ジオキサンユニットを基礎とするもの、及び非共有結合性架橋ポリエステルウレタン成分からなるものが述べられている。該ポリマは、二つの一時的な形状を格納することが出来、そこでは、転移温度は摂氏約50度及び90度と報告されている。
【0005】
また、ルイ、他(Macromol. Rap. Comm. 26, 2005,
649 ff)は、ポリメタクリル酸メチルユニット(PMMA)及びポリエチレングリコールユニット(PEG)からなるSMP(準相互侵入ネットワーク−SIPN)も二つの転移温度(摂氏40度及び86度)を持っていることを開示している。しかし、プログラミング方法については、一つの一時的な形状の記憶についてのみが記載されている。
【0006】
多様な用途における既知の形状記憶ポリマの一つの欠点は、それらのスイッチ温度が比較的、お互いに近いということである。そして、このことは、二つの転移温度間で加熱する場合、温度を正確にセットする必要がある。更に、比較的低い転移温度は、ある用途においては問題となる。即ち、使用に関わる温度が高いと、所望する永久形状の回復が出来ない場合がある。
【0007】
本発明の目的は、少なくとも二つの一時的な形状を記憶することの出来る生体親和性を有する新しい形状記憶ポリマを提供することである。特に、該ポリマの対応するスイッチ温度は、とても離れており、少なくとも転移温度の一つは、比較的高い温度レベルであるべきである。また、形状記憶ポリマの少なくとも二つの一時的な形状をプログラミングする方法を利用可能とするものである。
【0008】
この目的は、クレーム1の形状記憶ポリマにより達成される。本発明による形状記憶ポリマは、異なる転移温度を有する少なくとも二つのスイッチ片を有し、該ポリマの材料は、一つの永久的な形状に加えて、温度に依存する形で少なくとも二つの一時的な形状を取ることが出来る。本発明によるポリマシステムは、n=1……6の一般式Iを有するポリエステル又はその誘導体、又は、異なる鎖長nを有する少なくとも二つのエステルユニットが存在する、n=1……6の一般式Iを有するコポリエステル、又はその誘導体を本質的に基礎とする第1のスイッチ片を有している。
【化1】

【0009】
更に、本ポリマシステムは、RがH又はCHで、Rが飽和又は不飽和の、環状の又は脂肪族の、置換された又は非置換のC1−C10基を示す、一般式IIを有するポリアクリレートを本質的に基礎とする第2のスイッチ片を有している。
【化2】

【0010】
これに関連して、スイッチ片という言葉は、与えられた式I又はIIに基づくオリゴマ又はポリマを意味するものとする。該オリゴマ又はポリマはp又はqの鎖長を有し、固体状態で、相分離による分離相の構成でもよく、対応する合成物の典型的な材料特性を開発する基礎を提供する。こうした方法で、本ポリマシステムは全体として、それぞれのスイッチ片に割り当てることの可能な材料特性、特に、熱的に引き起こされる効果に関する二つ以上の異なるスイッチ温度を持つ。それらの温度は潜在的に−互いに独立はしているが−ガラス転移温度又は溶融温度を示す。構造の観点から、スイッチ片は、終端位置で、一端及び/又は両端が、及び/又は、ポリマバックボーンに、共有結合的又は非共有結合的に架橋されていても、一緒に結合していてもよい。更に、本発明の限定の範囲内で、式Iに基づくポリエステルの誘導体は、メチレンユニット(−CH−)の水素基の一つ以上が、枝分かれした又は枝なしの、飽和又は不飽和のC1からC6基で置換された構造を含むものである。前述の範囲内での置換基の選択に際して決定的な要素は、スイッチ片の分離相の成長を妨げないようにすることである。
【0011】
本発明の配合を通して、適切なプログラミングの後、同時に少なくとも二つの変形を行なわせることが出来、これらの形を、起動後に適切な熱刺激により回復させることが可能な材料が提供される。スイッチ温度における大きな温度差があることは、本発明のポリマシステムにとって極めて有利であることが判明した。特に、式I及びIIによるスイッチ片の二つのスイッチ温度は互いに、少なくとも40K、特に少なくとも50K、好ましくは少なくとも60K、異なっている。本発明の材料の他の利点は、ポリ(メタ)アクリレート片の高いスイッチ温度であり、R基及び平均鎖長qによるが、それは少なくとも、摂氏110度、特に少なくとも摂氏120度である。他の利点としては、二つのポリマ片は、生理学的に吸収可能であり、その分解生成物も生理学的に融和性のある点である。
【0012】
本発明の好適な実施例において、第1のスイッチ片は、n=5のポリ(ε−カプロラクトン)片又はその誘導体からなり、それは、互いに独立した脂肪族炭素原子が、一つ又は二つの、枝なしの又は枝分かれした、飽和又は不飽和のC1からC6基で置換されていてもよい。しかし、特に望ましいものは、誘導体化されていない、即ち置換基のない、式Iに基づく、n=5のポリ(ε−カプロラクトン)である。
【0013】
本発明の別の好適な実施例を参照すると、第2のスイッチ片は、式IIに基づく、R=CH及びR=C11(シクロヘキシル)のポリシクロヘキシルメタクリレート片又は、R=H及びR=C11のポリシクロヘキシルアクリレート片からなる。この中で、ポリシクロヘキシルメタクリレートが特に好ましい。式IIに含まれる、ほかの有効なスイッチ片としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)及びポリ(2−ヒドロキシエチル)メタクリレート(PHEMA)である。
【0014】
ポリマ中の質量含有率及び片の分子量とそれらの相対的な質量比(第1スイッチ片/第2スイッチ片)は、上記したスイッチ温度に関する基準に適合し、明瞭な形状変化が少なくとも二つのスイッチング転移により行なわれるように、調整される。第1のスイッチ片(ポリエステル)は、平均分子量が2000g/molから100000g/molの範囲であり、特に、5000g/molから40000g/mol、好ましくは、約10000g/molである。
【0015】
本発明に基づくポリマシステムは、ポリマネットワークがスイッチ片を有するポリマ鎖が互いに架橋していても、又は相互侵入ネットワーク(IPN)(interpenetrating network)、又は準相互侵入ネットワーク(SIPN)(semi-interpenetrating
network)を形成していてもよい。好ましくは、スイッチ片の一つが他のスイッチ片と架橋し、両端で結合しているABポリマネットワークの形で存在することが望ましい。特に、形状記憶ポリマはポリエステル鎖により架橋されたポリアクリレート片から構成される。ポリエステル鎖は、ポリアクリレート片とその二つの端部で共有結合的に結合している。しかし、ポリアクリレート片がポリエステル片とその両端で架橋している、逆の配置も考えられる。
【0016】
本発明による形状記憶ポリマは以下の方法で製造されると都合がよい。該方法は、
−n=1……6及び何らかの接続基を表すYの、一般式Iaを有するポリエステル マクロモノマ(macromonomer)又は、異なるnの値を持った少なくとも二つのエステルユニットを持った一般式Iaを有するコポリエステル(ここで、n及びYは上記の意味を有する)又は、その誘導体、及び、
【化3】

−R=H又はCH及びRが飽和又は不飽和の、環状の又は脂肪族の、置換された又は非置換のC1−C10基である、一般式IIaを有するアクリレートモノマ、
【化4】

を共重合させて構成される。
ポリエステルとアクリレートモノマの好ましい実施例は上記した記述に基づいて選択される。その際、式Iaのp1及びp2、即ちポリエステル及び/又はコポリマの鎖長は、同じでも異なっていても良い。基Yは、鎖の方向を逆転させて、二つのポリエステルユニットを接続するためにだけ使用され、重合可能な末端基を両端に加えても良い。それらの基は架橋のために使用される(以下参照)。
【0017】
ポリエステル成分の好適なマクロモノマは、例えば、r=2……8及びX=O又はNHの、一般式Ibに対応するものである。特に好適なものは、r=2,p3=2及びX=Oを持った成分である。即ち、ポリエステル マクロモノマは、対応したエステルモノマを伴ったジエチレングリコール HO−CH−CH−O−CH−CH−OHの重合によって得られる。
【化5】

【0018】
好ましくは、第1のスイッチ片の第1の末端基R及び/又は第2の末端基Rは、互いに独立しており、重合可能な基を表す。好ましくは、各R及びRは重合可能な基である。更に好ましくは、各R及び/又はRは、アクリル基又はメタクリル基、特に好ましくは、それぞれが一つのメタクリル基である。こうして両方の成分が共重合されると、ポリエステル片が両端で連鎖したネットワークが得られる。
【0019】
特に好ましい実施例によると、式IIbによるシクロヘキシルメタクリレートがアクリレート成分として使用され、(単独)重合で、式IIcに基づくポリシクロヘキシルメタクリレート片となる。
【化6】

【化7】

【0020】
特に好適な実施例では、式Icに基づくマクロモノマ ポリ(ε−カプロラクトン)ジメタクリレート(PCLDMA)が、式IIbに基づく、モノマシクロヘキシルメタクリレート(CHMA)と共重合される。こうして、式Icに基づく片及び式IIcに基づく片を有する、架橋されたABブロックコポリマが得られる。
【化8】

【0021】
本発明の他の重要な点は、本発明に基づいて形状記憶ポリマに少なくとも二つの一時的な形状をプログラミングする方法に関する。本発明に基づく方法は、以下のステップから構成される。
(a) 第1の転移温度より上の温度で、形状記憶ポリマを第1の一時的形状に対応する形状に変形させる。
(b) より高い転移温度より下の温度にまで冷却して、第1の一時的形状を保持し、
(c) より低い転移温度より上で、前記より高い転移温度より下の温度で、形状記憶ポリマを第2の一時的形状に対応する形状に変形させる。そして、
(d) 前記より低い転移温度より下の温度にまで冷却して、第2の一時的形状を保持する。
【0022】
この際、ステップ(b)で生じる冷却は、前記より低い転移温度より上で、前記より高い転移温度より下の、中間温度への冷却、又は前記より低い転移温度より下の温度への冷却により選択的に達成することが出来る。第1の一時的形状を固定する決定的な要素は、ポリマを前記より高い転移温度以下の温度まで冷却することである。もし、形状記憶ポリマが二つ以上の一時的な形状を記憶することが出来るポリマであるなら、即ち、形状記憶ポリマが少なくとも3つのスイッチ片から構成されるならば、追加の一時的な形状は同様にプログラムされる。即ち、それぞれ適当な転移温度より上の状態で、変形力を作用させ、その一時的な形状を、変形力を維持した状態で、その転移温度以下まで冷却させることで、固定する。
【0023】
本発明による形状記憶ポリマは、特に建築技術に用いると好適である。例えば、対応する熱刺激を与えた後、アンカー形状に変形することの出来る、固定部材などである。特に、本発明によるポリマは、作業により比較的高い温度が生じるが、ポリマの永久形状への復帰が望ましくない領域において、有効である。
【0024】
本発明の他の好適な実施例は、従属クレームで言及された他の特色から導き出される。
【0025】
本発明は、ぞれぞれの図面に基づいて、典型的な実施例により以下において詳細に説明される。
【0026】
図1 PCLDMAマクロモノマ及びCHMAモノマの共重合により得られた、本発明のABポリマネットワークの構造を示す。
図2 PCL−PCHMAネットワークの相転移の、DMTA調査を示す。
図3 プログラミング中の、図1に基づいたABポリマネットワーク内の構造変化を示す。
図4 多様なプログラミングパラメータの、周期的、熱機械的実験における、時間的な変化を示す。
図5 一つの例示的な実施例における、本発明による形状記憶ポリマを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
1.ポリ(ε−カプロラクトン)ジメタクリレートPCL10kDMAの合成
平均分子量10000g/mol(PCL10kジオール)を有する、500g(50mmol)のポリ(ε−カプロラクトン)ジオール(アルドリッチ社)を、窒素雰囲気中で乾いた3ネックフラスコ内の5Lのジクロロメタン内に配置する。氷で冷却しながら、20.0mL(0.14mol)のトリエチルアミンを滴状添加する。摂氏0度で10分間攪拌した後、17.4mL(0.18mol)のメタクリル酸クロライドを滴状添加する。溶液を室温まで加熱し、24時間以上攪拌する。沈殿した塩を濾過により取り除く。濾過液は濃縮され、酢酸エチル内に溶解される。この溶液を、摂氏−20度で10倍を超えるヘキサン/ジエチルエーテル/メタノール(18:1:1 部/容積)混合物内で沈殿させる。真空乾燥の後、式Ic(上を参照)による平均分子量が10kD(PCL10kDMA)の、475g(47mmol)のポリ(ε−カプロラクトン)ジメタクリレートPCLDMAが得られる(収率95%)。メタクリレート端末基を持ったPCLジオールの官能化の割合は、H−NMR分光分析法で、約85%と決定された。このことは、マクロモノマの72%が両側で官能化され(ジメタクリレート)、26%が一方で官能化され(モノメタクリレート)、2%が官能化されず、ジオールとして存在することを意味する。
【0028】
2.PCLDMAとCHMAの共重合
例1によって準備したPCL10kDMAと式IIb(上記参照)に基づくシクロヘキシルメタクリレート(CHMA)(純度≧97%、アルドリッチ社)を、表1に基づいて、10wt%から80wt%のPCL10kDMAの範囲で、異なる混合割合で量った。PCL10kDMAとCHMAのこれらの混合物は、油浴のフラスコ中で摂氏70度で溶解された。均一の気泡のない溶解物が得られた後、該混合物はガラスシート(10×10cm)上でキャストし、型は側部をPTFEスペーサ(厚さ0.55cm)を用いて、他のガスの膜を適用することで閉鎖した。止め金により固定された構造体は、UV光に60分間(鉄ドープ水銀蒸気ランプ)曝し、重合/架橋を開始させた。参考材料としての純PCL10kDMAが、PCL10kDMAのホモポリマネットワーク(表1のPCL(100))を得るために、処理された。
【表1】

【0029】
PCL10kDMA及びCHMAの開始量が定量的にネットワークに取り込まれなかったが、H−HRMAS−NMR分光器による調査では、ポリマネットワークに使用された二つの成分の割合はほぼ同じに残っていることが確かめられた。取り込まれなかった成分は、最初にクロロホルムにより抽出除去された。
【0030】
図1は、こうして得られた、全体が10に番号付けされたPCL−PCHMAポリマネットワークの構造を示す模式図である。この中で、ポリシクロヘキシルメタクリレート片((PCHMA)片)は番号12が付されており、PCL10kDMA鎖は番号14が付されている。PCHMA片12は、両端で結合されたPCL10kDMA鎖14により、共有結合的に架橋されている。PCHMA片12及びPCL10kDMA片14の端部間の結合点は、番号16が付されている。
【0031】
3.PCLDMAとPCHMAのポリマネットワークの説明
異なる組成を有し、例2に基づいて作られたPCL10kDMAマクロモノマとCHMAモノマのポリマネットワークの熱的な特性は、クロロホルムで抽出された後、示差走査熱量測定(DSC)及び動的機械熱分析(DMTA)により調査された。DSC測定は、Netzsch社のDSC204Phoenix装置で行なわれた。このために、5から10mgの試料が量られ、アルミニウム容器に入れられ、測定は窒素雰囲気中で摂氏−100度から摂氏+150度の温度範囲内で、ガラス転移を検出するために、10K・min−1の冷却又は加熱速度で行ない、また溶解転移及び/又は結晶転移を検出するために、1K・min−1の冷却又は加熱速度で行なった。結果を表2に要約する。DMTA測定は、25Nのフォースピックアップ(force
pickup)を装備したEplexor5N(Gabo社)で行なわれた。静的負荷0.50%、動的負荷0.20%、周波数10Hz及び摂氏−100度から摂氏+170度の温度範囲内で2K・min−1の加熱速度で、行なった。結果を表2に要約する。
【表2】

【0032】
PCHMAホモポリマの場合(結果は示していない)には、比較的反応の悪いDSC測定を用いては、PCHMA片のガラス転移はポリマネットワーク内で観察することは出来なかった。これらはDMTA分析により示された。図2には、PCL(35)CHMAのポリマネットワークにおいて、加熱サイクル(↑)及び冷却サイクル(↓)におけるDMTAで測定された記憶率E‘及び機械的損失ファクタtan δの曲線を示す。これらのカーブから、PCLのガラス転移温度(Tg(PCL))が最大損失率E“から決定された。PCLの溶解転移温度(Tm(PCL))は、E’の転換点から決定された。PCHMAのガラス転移温度(Tg(PCHMA))は、tan δの最大値から決定された。PCL量が重量比で50%より上では、低SN比により、PCHMAのガラス転移が検出されなかった。
【0033】
PCL及びPCHMA片を含んだ本発明のABポリマネットワークは、摂氏0度から摂氏150度までの範囲で、明瞭に区別される相転移を示す。これは、一方はPCL結晶の溶解に起因するものであり、他方は、PCHMA領域のガラス転移によるものである。より低い転移温度Ttrans、1は、PCL片の溶解及び/又は結晶化と明らかに関連しており、それは、ホモポリマPCL(100)において摂氏54度で観察され、10%及び80%の間の重量のPCLのコポリマネットワークでは、摂氏48度から52度[sic]である。しかし、摂氏140度−142度でDMTAで検知された、より高い転移温度Ttrans、2は、明らかにPCHMA片のガラス転移(Tg(PCHMA))と関連している。これらの結果は、本発明のABポリマネットワークは相−分離形態を持つものであり、それはPCLとPCHMA片がそれら自身の転移温度をもってそれら自身の相を形成しているということである。そしてこのことは、温度制御された工程において、二つの一時的な形状を形成させるには好適なものである。相が混じったアモルファスの存在は、DMTAで決定されるポリマネットワーク内のPCL及びPCHMAのTg値が、対応するホモポリマのそれらの値と大して異ならないことから、あり得ないのかもしれない。
【0034】
4.PCLDMAとPCHMAのポリマネットワークのプログラミング
例2に基づいて準備された、45wt%のPCL10kDMAと55wt%のPCHMAによるABポリマネットワークPCL(45)CHMAは、周期的な熱実験でプログラムされ、製品仕様(preparation-specific)である永久形状に加えて、二つの一時的な形状が、ポリマの“形状メモリ”に格納された。基本的にこれは、第1の一時的な形状を、PCHMAのガラス転移温度(Tg(PCHMA))以下の温度又は、PCLの溶解点(Tm(PCL))以下の温度で固定し、次いで、第2の一時的な形状を、PCLの溶解温度(Tm(PCL))以下の温度で固定することで行なわれる。
【0035】
この原理は、図3を参照して説明される。ここで、図1と同じ参照符号を使用する。ここで、図3Aには、上の転移温度より上、即ちPCHMA片14のガラス転移温度(Tg(PCHMA))より上の温度での、ポリマネットワーク10の構造が示されている。この温度では、PCL片14は、図中参照番号14‘として描かれているように、アモルファス状態である。PCHMA片12は、図中参照番号12‘として描かれているように、弾性的なアモルファス状態である。このプログラミング工程の開始相では、ポリマ10は、製造工程で決定されたその永久形状PFを、なお保っており、特に、外部形状は、架橋中に予め規定されたものである。
【0036】
図3Aに示された形状から開始し、最初のステップで、ポリマネットワーク10は第1の一時的な形状TF1に対応する形状にされる。これは、Tg(PCHMA)より上で適当な機械的負荷を与えることで達成され、その負荷は、例えば、ポリマ10を引き伸ばすようなものである。図3Bに詳細に示すように、ポリマが水平方向に引き伸ばされている。この引き伸ばしに次いで、とにかくポリマシステム10はガラス転移温度Tg(PCHMA)以下の温度、特に、Tm(PCL)とTg(PCHMA)の間の温度まで冷却される。冷却により、PCHMA片12のガラス転移が生じ、弾性的なアモルファス状態12‘からガラス質のアモルファス状態12“へ転換される。必要ならば、第1の一時的な形状TF1は、温度T<Tg(PCHMA)で所定時間加熱することで安定させることが出来る。この間、機械的負荷は与え続ける。
【0037】
次のステップでは、第2の一時的な形状TF2は、第1の一時的な形状TF1と同様にプログラムされる。特に、ポリマ10は、第2の一時的な形状TF2へ第2の機械的な刺激により変換され、それは、例えば、Tm(PCL)より高い温度で、更に引き伸しをすることで達成される(図3Cに詳細を示すように、ポリマを水平方向に引き伸ばす)。次いで、第2の一時的な形状TF2を固定するために、ポリマを下の転移温度、即ちPCL片14の溶解温度Tm(PCL)以下の温度まで冷却する。こうすることで、半結晶性PCL片14“が形成される。機械的負荷を維持させることで、ポリマネットワーク10は、このステップで所定時間の間、焼き入れされ、PCL結晶の形成を促進することが出来る。
【0038】
こうしてプログラムされ、第2の一時的な形状TF2を呈していポリマネットワーク10から始め、第1の一時的な形状TP1[sic;TF1]及び永久形状PFを、ポリマ10を最初にTm(PCL)<T<Tg(PCHMA)の中間温度に加熱し、次いで、Tg(PCHMA)より高い温度まで加熱することで、連続的に復元することが出来る。以前に固定された形状の復元を形状記憶又は形状記憶効果(SM効果)と称する。
【0039】
図4に、ポリマPCL(35)CHMAのプログラミングサイクル及び復元サイクル間における、引き伸しと温度曲線を示す。
【0040】
プログラミングサイクルはTg(PCHMA)より高い摂氏150度の温度Th,1で開始される。次に、ポリマは第1の一時的な形状に対応して、50%(εm、1)伸延される。引き続き、機械的負荷をかけながら、5K・min−1の温度勾配で、Tm(PCL)より上でTg(PCHMA)より下の、摂氏70度の中間温度(Th,2)まで冷却する。この際、試料はそのエントロピ弾性で最初にいくらか伸延し、次いで、エネルギ弾性により収縮する。摂氏70度で30分保持した後、ポリマをゆるめる。この際、僅かに逆方向への伸延が観測される。次いで、試料は、機械的負荷を受けることなくTh,2で10分間以上保持され、次いで、第2の一時的な形状TF2(εm、2)に対応して、試料の全伸延が100%となるまで伸延される。次いで、一定の機械的な負荷の下、摂氏−10度(T)まで冷却し、さらに機械的負荷を維持したまま20分間保持して、PCLの結晶化を許容する。次いで、サンプルをゆるめ、摂氏−10度で10分以上保持すると、伸延方向に僅かに縮むこととなる。
【0041】
プログラミングサイクルが完了すると、記憶された形状は、機械的負荷を掛けることなく、1K・min−1の加熱割合で試料を摂氏−10度から摂氏+150度まで再加熱することで、連続的に復元される。PCL結晶の溶解と第1の一時的な形状の復元が、Tm(PCL)付近で最初に観測される。温度を摂氏70度で48時間保持すると、最初の一時的な形状は安定なものとなり、永久形状(図示せず)へ転換することはない。更に、Tg(PCHMA)より上まで加熱すると、ガラス状のPCHMA領域が軟化し、永久形状への殆ど定量的な復元が行なわれる。このプログラミングと復元サイクルは4回以上行なわれ、同じ結果となった。
【0042】
図4に示されたプログラミング及び復元サイクルは、全て例2で示したABコポリマネットワークで行なわれた。第2から第5サイクルから、PCL及びPCHMA片のスイッチ温度が決定され、平均化された。ポリマネットワークPCL(30)CHMAからPCL(60)CHMAにおいて、PCL片のスイッチ温度は摂氏53度から摂氏65度であることが判明した。そして、PCHMA片については、スイッチ温度は摂氏120度から摂氏125度であると決定された。
【0043】
図5に、例2に基づくプログラムされた本発明のポリマネットワークPCL(40)CHMAの実際的な応用例を示す。図の上部には、室温におけるポリマの第2の一時的な形状TF2を示す。第2の一時的な形状TF2は、螺旋形に対応するものである。このポリマシステムを摂氏70度まで加熱すると、螺旋は最初の約4cmから約2.5cmへ縮み、これにより、螺旋の直径が増大する(図5の中央部)。この形状は、第1の一時的形状TF1に対応する。更に、該ポリマシステムを摂氏150度まで加熱すると、ポリマは螺旋形状を失い、完全な撓んだ形状となる。螺旋形状に代えて、ポリマシステムは棒状の永久形状PFに復帰する(図5の底部)。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、PCLDMAマクロモノマ及びCHMAモノマの共重合により得られた、本発明のABポリマネットワークの構造を示す。
【図2】図2は、PCL−PCHMAネットワークの相転移の、DMTA調査を示す。
【図3】図3は、プログラミング中の、図1に基づいたABポリマネットワーク内の構造変化を示す。
【図4】図4は、多様なプログラミングパラメータの、周期的、熱機械的実験における、時間的な変化を示す。
【図5】図5は、一つの例示的な実施例における、本発明による形状記憶ポリマを示す。
【符号の説明】
【0045】
PF 永久形状
TF1 第1の一時的な形状
TF2 第2の一時的な形状
trans,1 第1の転移温度
trans,2 第2の転移温度
Tm(PCL) PCL片の溶解温度
Tg(PCHMA) PCHAM片のガラス転移温度
10 ポリマネットワーク
12 PCHAM片
12‘ アモルファス弾性PCHMA片
12“ アモルファスガラス状PCHMA片
14 PCL片
14‘ アモルファスPCL鎖
14“ 半結晶PCL鎖
16 結合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる転移温度(Ttrans、1、Ttrans、2)を持った相を有する少なくとも二つのスイッチ片を有し、それにより温度の関数として、一つの永久形状(PF)に加えて少なくとも二つの一時的な形状(TF1,TF2)を取ることができる、形状記憶ポリマであって、第1のスイッチ片は本質的に式I,n=1…6を有するポリエステル又は、異なるnの値を有する一般式Iを有するコポリエステル又は、それらの誘導体からなり、第2のスイッチ片は、本質的に、Rが同じH又はCHで、Rが飽和又は不飽和の、環状の又は脂肪族の、置換された又は非置換のC1−C10基を示す、一般式IIを有するポリアクリレートを基礎として構成される、
ことを特徴とする形状記憶ポリマ。
【化1】

【化2】

【請求項2】
請求項1記載の形状記憶ポリマにおいて、
前記第1のスイッチ片は、n=5のポリ(ε−カプロラクトン)片又はその誘導体からなり、それは、互いに独立した脂肪族炭素原子が、一つ又は二つの、枝なしの又は枝分かれした、飽和又は不飽和のC1からC6基で置換されていてもよいことを特徴として構成される。
【請求項3】
請求項1又は2記載の形状記憶ポリマにおいて、
前記第2のスイッチ片は、R=CH及びR=C11のポリシクロヘキシルメタクリレート片又は、R=H及びR=C11のポリシクロヘキシルアクリレート片からなり、特に、ポリシクロヘキシルメタクリレート片が好ましいことを特徴として、構成される。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちいずれか一項記載の形状記憶ポリマにおいて、
前記第1のスイッチ片は、平均分子量が2000から100000g/molの範囲であり、特に、5000から40000g/mol、好ましくは、約10000g/molであることを特徴として構成される。
【請求項5】
請求項1乃至4のうちいずれか一項記載の形状記憶ポリマにおいて、
前記形状記憶ポリマ内のポリエステル片の質量含有率は、25%から75%の範囲にあり、特に、30%から70%の範囲、好ましくは、50%から60%の範囲にあることを特徴として構成される。
【請求項6】
請求項1乃至5のうちいずれか一項記載の形状記憶ポリマにおいて、
前記形状記憶ポリマは、スイッチ片を有するポリマ鎖が互いに架橋するか、又は相互侵入ネットワーク(IPN)(interpenetrating network)、又は準相互侵入ネットワーク(SIPN)(semi-interpenetrating
network)を形成するポリマネットワークである、
ことを特徴として構成される。
【請求項7】
請求項1乃至6のうちいずれか一項記載の形状記憶ポリマにおいて、
前記形状記憶ポリマは、特にポリアクリレート片がポリエステル鎖により架橋されたような、スイッチ片の一つが、両端で結合した他のスイッチ片により架橋されているABポリマネットワークである、
ことを特徴として構成される。
【請求項8】
請求項1乃至7のうちいずれか一項記載の形状記憶ポリマを製造する方法であって、
n=1……6及び何らかの接続基を表すYの、一般式Iaを有するポリエステル マクロモノマ(macromonomer)又は、異なるnの値を持った一般式Iaを有するコポリエステル マクロモノマ又は、その誘導体、及び、
RがH又はCH及びRが飽和又は不飽和の、置換された又は非置換の、環状の又は脂肪族の、C−C10基である、一般式IIaを有するアクリレートモノマを、
共重合させることを特徴とする製造方法。
【化3】

【化4】

【請求項9】
請求項8記載の形状記憶ポリマの製造方法であって、
前記ポリエステル成分の第1の末端基R及び/又は第2の末端基Rは、互いに独立した重合可能な基であり、特に、各R及びRが重合可能な基であることを特徴とする製造方法。
【請求項10】
請求項9記載の形状記憶ポリマの製造方法であって、
前記ポリエステル成分の第1の末端基R及び/又は第2の末端基Rは、アクリル基又はメタクリル基、特に好ましくは、それぞれ、がメタクリル基であることを特徴とする製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至7のうちいずれか1項記載の形状記憶ポリマに、少なくとも二つの一時的な形状(TF1、TF2)をプログラミングする方法であって、該方法は、
(a) より高い転移温度(Ttrans、1)より上の温度で、前記形状記憶ポリマを第1の一時的形状(TF1)に対応する形状に変形させ、
(b) 前記より高い転移温度(Ttrans、1)より下の温度にまで冷却して、前記第1の一時的形状(TF1)を保持し、
(c) より低い転移温度(Ttrans、2)より上で、前記より高い転移温度(Ttrans、1)より下の温度で、前記形状記憶ポリマを第2の一時的形状(TF2)に対応する形状に変形させ、
(d) 前記より低い転移温度(Ttrans、2)より下の温度にまで冷却して、前記第2の一時的形状(TF2)を保持するように、
構成したことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項11の方法において、
前記ステップ(b)において、前記ポリマは、前記より低い転移温度(Ttrans、2)より上で、前記より高い転移温度(Ttrans、1)より下の温度への冷却されるか、又は、前記より低い転移温度(Ttrans、2)より下の温度へ冷却されるように、
構成したことを特徴とする方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2009−533502(P2009−533502A)
【公表日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−504672(P2009−504672)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【国際出願番号】PCT/EP2007/052859
【国際公開番号】WO2007/118766
【国際公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(504187593)ゲーカーエスエス・フォルシュングスツェントルム ゲーストアハト ゲーエムベーハー (14)
【Fターム(参考)】