説明

ポリエステル樹脂、その製造方法、及び成形品

【課題】高重合度化することによる品質安定化に優れた成形品を製造するために用いることができる、新規なポリエステル樹脂及びその製造方法を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される構造単位を有し、数平均分子量が11万〜19万であるポリエステル樹脂。式中、Rは置換されていてもよい芳香族炭化水素基又は置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を示す。
【化5】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種樹脂材料等に有用なポリエステル樹脂、その製造方法、及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは機械強度等物理的特性、化学的特性に優れ、かつ射出成形、押出成形等の加工特性に優れることから、様々な分野に利用可能であり、種々のエンジニアリングプラスチックとして開発が進められている。
ポリエステルの製造方法としては、ジカルボン酸とグリコールとのエステル化反応や、ジカルボン酸のアルキルエステルとグリコールとのエステル交換反応により、グリコールエステルを得て、これを重縮合する方法が、広く工業的に採用されている。エンジニアリングプラスチックとして使用するには強度等の機械的物性に優れることが必要とされる。エステル交換反応を経てポリエステルを製造する場合、グリコールエステルの重縮合は高真空下で加熱攪拌を行うため、高重合化ポリエステルを得るためには高真空を長時間保ち攪拌する必要があり、より簡易な製造方法が要請されている。
高重合度化ポリエステルの製造方法の改良おいて、具体的には重合度が185〜600の高重合度ポリエステル樹脂が報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−146153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1ではフラン環を含む骨格構造を持ち、重合度(繰り返しユニット数)を規定することにより、成形性及び機械強度が優れた高分子化合物が得られている。しかし、特許文献1に記載されているポリエステル樹脂では、高重合度化による品質安定化の改善は必ずしも十分とは言えず、様々な用途に展開するためには高重合度化の一層の改善が求められる。
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、高重合度化することにより品質安定化に優れた成形品を製造するために用いることができる、新規なポリエステル樹脂及びその製造方法を提供するものである。また、本発明は、上記ポリエステル樹脂を製造することが出来るより簡単な製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するポリエステル樹脂は、下記式(1)で表される構造単位(繰り返し単位)を有し、数平均分子量が11万〜19万であることを特徴とする。
【化1】

式中、Rは置換されていてもよい芳香族炭化水素基又は置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を示す。
【0006】
また、上記の課題を解決する成形品は、上記のポリエステル樹脂を含む成形品用組成物を成形してなることを特徴とする。
また、上記の課題を解決するポリエステル樹脂の製造方法は、フランジカルボン酸又はそのエステルを、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールからなる群から選ばれる少なくとも1つとエステル化又はエステル交換する工程及び重合する工程を有し、エステル化又はエステル交換の際及び重合の際にジメチルスルホキシド(DMSO)が存在することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、高重合度を持ち品質安定化に優れ、各種成形品製造用材料に好適であるポリエステル樹脂及びその製造方法を提供できる。
また、本発明は、上記ポリエステル樹脂を用いることにより、品質安定化に優れた各種成形品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施例1のポリエステル樹脂のプロトン核磁気共鳴分光法(1H−NMR)測定によるスペクトルを示す図である。
【図2】本発明の実施例2のポリエステル樹脂の1H−NMR測定によるスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明者は、鋭意検討した結果、下記式(1)で表される構造単位を有し、数平均分子量が11万〜19万であるポリエステル樹脂によって、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【化2】

(式中、Rは置換されていてもよい芳香族炭化水素基又は置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を示す。)
フラン環を有するポリエステル樹脂の数平均分子量を11万〜19万に高重合度化させた時、品質安定化できる。
式(1)中のRはエチレン基であることが好ましい。
また、上記ポリエステル樹脂を成形品用組成物として用いると品質安定性に優れた成形品となることを見出した。
【0010】
本発明に係るポリエステル樹脂の製造方法は、フランジカルボン酸又はそのエステルを、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールからなる群から選ばれる少なくとも1つとエステル化又はエステル交換する工程及び重合する工程を有し、エステル化又はエステル交換の際及び重合の際にDMSOが存在することを特徴とする。
また、上記ポリエステル樹脂の重合時に、DMSOを添加することにより、ポリエステル樹脂がDMSO中に分散し、高重合度化が容易に進行することがわかった。また、重合時の樹脂の高粘度化が抑えられ、高重合度化したポリエステル樹脂が簡易に製造できるという知見を得た。
DMSOは、フランジカルボン酸がDMSOに溶解して均一に反応が進むため、フランジカルボン酸、2価アルコール及び触媒と同時に添加することが好ましい。
【0011】
フラン環を有するジカルボン酸としては、2,5−フランジカルボン酸を原料として用いることができる。2,5−フランジカルボン酸はセルロースやグルコース,フルクトース、粘液酸などのバイオマスから公知の方法で変換して得たものを用いることができる。そのためフラン環を用いると、耐熱性に寄与する芳香族環として植物由来の材料を用いることができる。
【0012】
式(1)におけるRは、それぞれ、芳香族炭化水素基、直鎖状若しくは環状の脂肪族炭化水素基を示し、これらは置換基を有していてもよい。上記芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環、ビフェニル環及びビス(フェニル)アルカンの他、ナフタレン環、インデン環、アントラセン環、フェナントレン環等の縮合環や、複素環の2価の基を挙げることができる。上記ビス(フェニル)アルカンとしては、例えば、ビス(2−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2’−ビス(ヒドロキシフェニル)プロパン等を挙げることができる。一方、上記複素環としては、例えばフラン、チオフェン、ピロール、オキサゾール、チアゾール、イミダゾール等の五員環。ピラン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン等の六員環。インドール、カルバゾール、クマリン、キノリン、イソキノリン、アクリジン、ベンゾチアゾール、キノリキサン、プリン等の縮合環を挙げることができる。
【0013】
上記直鎖状の脂肪族炭化水素基としては、エチレン基、プロピレン基、n−ブチレン基、n−ペンチレン基、n−ヘキシレン基、n−ヘプチレン基等を挙げることができる。これらのうち、エチレン基、プロピレン基及びn−ブチレン基の炭素数が2から4の直鎖状アルキレン基が好ましく、エチレン基及びn−ブチレン基を特に好ましいものとして挙げることができる。
本発明のポリエステル樹脂の分子量としては、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(HFIP)に溶解させたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法による分子量測定で、数平均分子量が10万以上50万以下、好ましくは11万以上19万以下の範囲が望ましい。この分子量の範囲では、優れた品質安定性を示すともに、成型加工が容易であるため好ましい。
【0014】
本発明の式(1)で表される構造単位を有するポリエステル樹脂は、多価アルコール過剰下で、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールからなる群から選ばれる少なくとも1つと、フランジカルボン酸又はそのエステルをDMSOの存在下で重縮合させることにより得ることができる。
フラン環を有するジカルボン酸として、具体的には、2,5−フランジカルボン酸、2,4−フランジカルボン酸、又は3,4−フランジカルボン酸を挙げることができる。特に、2,5−フランジカルボン酸を用いることが好ましい。2,5−フランジカルボン酸はセルロースやグルコース,フルクトース、粘液酸などのバイオマスから公知の方法で変換して得たものを用いることができる。そのためジカルボン酸として植物由来の原料を転換して合成した2,5-フランジカルボン酸を用いることにより、植物由来の原料の割合を高めることが出来る。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0015】
フランジカルボン酸のエステルとしては、先に挙げたフラン環を有するジカルボン酸のメチルエステル、エチルエステル等を挙げることができる。具体的には2,5−フランジカルボン酸ジメチル、2,5−フランジカルボン酸ジエチル、2,5−フランジカルボン酸エチルメチル、2,5−フランジカルボン酸ジプロピル、2,5−フランジカルボン酸ジブチル、2,4−フランジカルボン酸ジメチル、2,4−フランジカルボン酸ジエチル、3,4−フランジカルボン酸ジメチル、3,4−フランジカルボン酸ジエチルなどを例示することができる。また、上記の混合物等も挙げることができる。
また、多価アルコールとしては、下記の式(2)で示すものを挙げることができる。
【0016】
【化3】

式(2)のaは2以上の整数であればよいが、式(1)で表される構造単位を有するポリエステル樹脂を得るためには2が好ましい。式(2)のR’は、置換されていてもよい芳香族炭化水素基又は置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を示す。具体的には、式(1)中のRに関して例示した基を挙げることができる。
式(2)で示される2価のアルコールとしては、具体的には、以下のものを例示することができる。鎖状又は環状脂肪族ジオールとしてエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール。ジヒドロキシベンゼンとして1,3−ジヒドロキシベンゼン、1,4−ジヒドロキシベンゼン。ビスフェノールとしてビス(2−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2’−ビス(ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−スルホン。グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、糖類。ヒドロキシ安息香酸。1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール等の脂環式ジオール類など。これらは適宜組み合わせて使用してもよい。
これらのうち、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールが好ましい。ポリエステル樹脂を合成する際の重縮合反応においては、過剰な2価アルコールや重縮合が進行するにつれて生成する2価アルコールを減圧した時に留去させて反応を進行させる必要がある。エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールは他の2価のアルコールと比較して沸点が低い。そのためエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールを用いた時には過剰な2価アルコールや重縮合が進行するにつれて生成する2価アルコールを減圧した時に留去させやすく、重縮合反応を進行させて高分子量化させることが出来る。
【0017】
DMSO存在下で、上記2価アルコールとフランジカルボン酸を重縮合する方法としては、これらを直接重縮合する方法(エステル化の後に重縮合する方法)が挙げられる。また、DMSO存在下で、上記2価アルコールとフランジカルボン酸とのエステルを合成した後、これを重縮合する方法(エステル化とエステル交換の後に重縮合する方法)等を挙げることができる。
重縮合する方法としては、例えば、溶液重合、塊状重合、懸濁重合、乳化重合等を挙げることができ、成形する成形品に応じて適宜選択することができる。重合温度、重合触媒、溶剤などの媒体等についてはそれぞれの重合方法により適宜選択することができる。
DMSO存在下で、上記2価アルコールとフランジカルボン酸を重縮合する方法としては、エステル化工程と、その後のエステル化合物の重縮合工程からなるエステル交換法によることが好ましい。直接重縮合は高分子量化させるためには厳密に仕込み比を制御しなければならないとされる。それに対して、エステル交換法では過剰に仕込んだ2価アルコールでは減圧したときに留去させて反応を進行させることが出来る。そのためエステル交換法を用いると直接重縮合よりも容易に高分子量化させることが出来る。
【0018】
上記エステル化工程においては、DMSO存在下で、2価アルコールとフランジカルボン酸と触媒を撹拌しながら徐々に80℃から190℃、好ましくは90℃から185℃に加熱し、エステル化合物を得る。DMSO存在下で、2価アルコールとフランジカルボン酸を脱水させてエステルを得るためには80℃から190℃の範囲で段階的に昇温させることが好ましい。具体的には1〜2時間程度保持した後、温度を上げて更に1〜2時間程度保持して段階的に昇温して反応を進行させることをおこなうのが好ましい。
DMSOの使用量は、フランジカルボン酸、2価アルコール、DMSO及び触媒の合計量100重量部に対して50重量部以上82重量部以下が好ましい。50重量部に満たないと重合度が十分に上がらず、82重量部を超えるとフランジカルボン酸、2価アルコール及びDMSOの合計量に対するアルコールとフランジカルボン酸の濃度が低くなり、反応に長時間を要するため好ましくない。より好ましくは55重量部以上82重量部以下である。
【0019】
また、2価アルコールの使用量は、フランジカルボン酸又はそのエステルのモル数に対し、2価アルコールのモル数が1倍から3倍であることが好ましい。過剰な2価アルコールや、重縮合反応が進行するにつれて生成する2価アルコールは、反応系を加熱又は減圧下にすることで留去するか、又は他の溶媒と共沸させ留去するか、又は他の方法により反応系外へ除去することができる。
【0020】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法において、フランジカルボン酸又はそのエステル、DMSO、及び多価アルコール以外のその他のモノマーを用いることができる。
その他のモノマーとしてはジカルボン酸成分として、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4´−ジフェニルスルホンジカルボン酸、4,4´−ビフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸のような芳香環を有する脂肪族ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ジグリコール酸などの脂肪族ジカルボン酸など、以上のジカルボン酸のエステルも挙げることができる。また、ヒドロキシカルボン酸成分として、p−ヒドロキシ安息香酸、4−(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸、グリコール酸、乳酸などを挙げることができる。また、ラクトン類としてカプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトンなどを挙げることができる。また、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール等の脂環式ジオール類を挙げることができる。
【0021】
スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロルスチレン、ジクロルスチレン、ビニルナフタレン、エチルビニルエーテル、メチルビニルケトン、メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニル化合物及びジアリルフタレート、ジアリルフマレート、ジアリルサクシネート、トリアリルシアヌレート等のアリル化合物も挙げることができる。
これらは単独あるいは併用で使用してもよい。また、その他のモノマーの添加量は、原料の合計量100重量部に対して50重量部以下、好ましくは5重量部以下が好ましい。
【0022】
触媒は、ジカルボン酸の自己触媒作用のために添加しなくとも反応は進行するが、反応の進行に伴いジカルボン酸の濃度が低下するため、添加することが好ましい。使用する触媒としては、金属酸化物や塩、スズ、鉛、チタン等の有機金属化合物が好ましい。触媒の使用量としては、フランジカルボン酸及び2価アルコール及びDMSOの合計量100重量部に対して0.05重量部以上5重量部以下が好ましい。触媒の使用量が0.05重量部に満たないと触媒の効果が少なく反応が進行しにくくなり、5重量部を超えると触媒が多量に使用されるため材料の耐熱性などの安定性が低下するため好ましくない。
このエステル化工程の終点は、反応混合物が透明になることで確認することができる。
【0023】
その後の重縮合工程においては、反応系の温度を80℃から190℃、好ましくは90℃から185℃の範囲に加熱し、重縮合反応を開始させる。重縮合反応は真空下又は大気圧下で行うことができるが、DMSOが存在したまま重縮合反応を進行させるため、大気圧下で行うことが好ましい。一般的な重縮合工程では、1〜2torrの真空に長時間保ち、重合度を上昇させる必要があるが、本発明では、大気圧下で簡便に重合度を上昇させることができる。
【0024】
この重縮合に最適な触媒として、具体的には以下のものを挙げることができる。鉛、亜鉛、マンガン、カルシウム、コバルト、マグネシウム等の酢酸塩や炭酸塩、又はマグネシウム、亜鉛、鉛、アンチモン等の金属酸化物やスズ、鉛、チタン等の有機金属化合物。
また、エステル化、エステル交換、重縮合の各工程に有効な触媒としてチタンアルコキシドを用いることもできる。触媒の添加時期としては、エステル化工程と重縮合工程において、それぞれ別途に加えても、また、重縮合工程における触媒を当初から添加してもよい。触媒の添加に当たり、必要に応じてフランジカルボン酸と2価アルコールを加熱してもよく、複数回に分割して添加してもよい。
【0025】
重縮合反応においては、エステル化又はエステル交換工程で消費されなかった余剰の2価アルコールや副生成物として生成する2価アルコ−ルを反応系から除去することにより重縮合反応を促進させることができる。2価アルコールの除去は加熱又は反応系を減圧して留去するか、又は他の溶媒と共沸させ留去する等の方法により反応系外へ除去する方法によることができる。また、重縮合反応により高分子を得た後に、公知の方法で固相重合を行うこともできる。
【0026】
このような重縮合工程において得られる本発明のポリエステル樹脂の数平均の重合度は610以上1040以下である。
また、本発明のポリエステル樹脂の分子量としては、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(HFIP)に溶解させたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法による分子量測定で、数平均分子量が11万以上19万以下、好ましくは12万以上19万以下である。数平均分子量が11万以上の時、高重合度化による品質安定化を示す。19万を超えると重縮合に長時間要し、ポリエステルに過度の着色が見られるなどの問題が発生するため好ましくない。
【0027】
本発明のポリエステル樹脂には、上記式(1)で表される構造単位以外の他の構造単位を含んでいてもよい。
他の構造単位としては、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4´−ジフェニルスルホンジカルボン酸、4,4´−ビフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸のような芳香環を有する脂肪族ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ジグリコール酸などの脂肪族ジカルボン酸など、以上のジカルボン酸のエステルも挙げることができる。また、ヒドロキシカルボン酸成分として、p−ヒドロキシ安息香酸、4−(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸、グリコール酸、乳酸などを挙げることができる。また、ラクトン類としてカプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトンなどを挙げることができる。
また、他の構造単位の導入は、フランジカルボン酸又はそのエステルと、多価アルコールの存在下で共重合するとき、共重合したのちのいずれであってもよい。
ポリエステル樹脂に含有され他の構造単位の含有量はポリエステル樹脂の合計量100重量部に対して50重量部以下、好ましくは5重量部以下の範囲である。
【0028】
本発明の成形品用組成物は、上記ポリエステル樹脂を含む。本発明の成形品用組成物に含有されるポリエステル樹脂の含有量は、50重量%以上100重量%以下が好ましい。
更に、本発明の成形品用組成物は上記ポリエステル樹脂の機能を阻害しない範囲で、必要に応じて、添加剤を含有していてもよい。具体的には、難燃剤、着色剤、内部離型剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、各種フィラー等を挙げることができる。本発明の成形品用組成物に含有される添加剤の含有量は、0.5重量%以上50重量%以下が好ましい。
【0029】
上記成形品用組成物を用いて成形可能な成形品としては、耐熱性に優れることから、繊維・フィルム、シート、各種成形品等、広い分野における成形品を挙げることができる。例えば、ボトル等の容器や、パイプ、チューブ、シート、板、フィルム等である。特に、好ましい成形品としては、インクジェットプリンターのインクタンク、電子写真のトナー容器、包装用樹脂や複写機、プリンター等の事務機又はカメラの筐体等の構成材料を挙げることができる。
上記成形品用組成物を用いた成形品の成形方法としては、熱可塑性樹脂の成形方法と同様の方法を使用挙げることができ、例えば、圧縮成形、押出成形又は射出成形等を利用することができる。
【実施例】
【0030】
本発明のポリエステル樹脂を、具体的に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例のポリエステル樹脂の評価は以下の測定方法を用いて行った。
[分子量測定]
分析機器:高速液体クロマトグラフ Waters社製アライアンス2695
検出器:示差屈折検出器
溶離液:5mMトリフルオロ酢酸ナトリウムの濃度のヘキサフルオロイソプロパノール溶液
流量:1.0ml/min
カラム温度:40℃
分子量:ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)の標準を用いて、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、多分散度(Mw/Mn)を求めた。
[NMR測定]
装置名:日本電子株式会社製核磁気共鳴装置JNM−ECA−400
測定条件:1H−NMR
溶媒:CFCOOD
以下の実施例及び比較例において、PEFはポリエチレン−2,5−フランジカルボキシレート、を示す。また、PEFの%はモル%を示す。
品質安定化の評価としてポリエステル樹脂の耐加水分解性の試験を行った。
試験は試料0.1gを1mol/lNaOH水溶液10gに入れてオーブンで100℃24時間加熱することで加水分解させた。
加水分解した試料溶液をろ過し、ろ物を60℃で3日間真空乾燥した。
耐加水分解性は以下の計算式で評価した。
ろ物重量/0.1*100(%)
【0031】
実施例1
[DMSO存在下での、エチレングリコール、2,5−フランジカルボン酸からなるポリエステル樹脂(PEF)の調製]
温度計、ステンレス鋼(SUS)製撹拌羽根を取り付けた100mLの三口フラスコを用意した。この三口フラスコに、2,5−フランジカルボン酸、エチレングリコール及びDMSOの合計に対して、DMSOが82モル%となるように仕込んだ。すなわち、2,5−フランジカルボン酸(3.9g)、エチレングリコール(3.5g)、DMSO(39g)、モノブチルスズオキシド触媒(0.50g)、チタニウム−n−ブトキシド触媒(0.50g)を加えた。
三口フラスコ内にて窒素を導入しながら撹拌を開始するとともに、オイルバスによりこれら内容物を昇温させた。内温が100℃に達した後、1時間保持し、さらに185℃で9時間保持して、PEFを大気圧下で調製した。
【0032】
実施例2
[DMSO存在下での、エチレングリコール、2,5−フランジカルボン酸からなるポリエステル樹脂(PEF)の調製]
温度計、SUS製撹拌羽根を取り付けた100mLの三口フラスコを用意した。この三口フラスコに、2,5−フランジカルボン酸、エチレングリコール及びDMSOの合計に対して、DMSOが82モル%となるように仕込んだ。すなわち、2,5−フランジカルボン酸(3.9g)、エチレングリコール(3.5g)、DMSO(39g)、モノブチルスズオキシド触媒(0.50g)、チタニウム−n−ブトキシド触媒(0.50g)を加えた。
三口フラスコ内にて窒素を導入しながら撹拌を開始するとともに、オイルバスによりこれら内容物を昇温させた。内温が100℃に達した後、1時間保持し、さらに175℃で1時間、180℃で1時間保持した後、185℃で2時間保持して、PEFを大気圧下で調製した。
【0033】
比較例1
[DMSO添加なしでの、エチレングリコール、2,5−フランジカルボン酸からなるポリエステル樹脂(PEF)の調製]
温度計、SUS製撹拌羽根を取り付けた100mLの三口フラスコを用意した。この三口フラスコに、2,5−フランジカルボン酸(7.81g)、エチレングリコール(8.07g)、モノブチルスズオキシド触媒(0.014g)、チタニウム−n−ブトキシド触媒(0.014g)を加えた。
三口フラスコ内にて窒素を導入しながら撹拌を開始するとともに、オイルバスによりこれら内容物を昇温させた。内温が160℃に達した後、1時間保持し、さらに165℃で1時間、185℃で2時間保持した。
185℃で減圧を開始し、約一時間かけて約133Paとし、さらに230℃まで昇温させた。約133Pa、230℃で4.5時間反応を続けた。
【0034】
比較例2
[N−メチルピロリドン(NMP)存在下での、エチレングリコール、2,5−フランジカルボン酸からなるポリエステル樹脂(PEF)の調製]
原料の仕込み量が、2,5−フランジカルボン酸、エチレングリコール及びNMPの合計に対して、NMPが82モル%となるように仕込んだ。すなわち、2,5−フランジカルボン酸(3.9g)、エチレングリコール(3.5g)、NMP(38g)、モノブチルスズオキシド触媒(0.5)、チタニウム−n−ブトキシド触媒(0.5g)とした以外は実施例1の調製と同様に行った。
【0035】
比較例3
[N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)存在下での、エチレングリコール、2,5−フランジカルボン酸からなるポリエステル樹脂(PEF)の調製]
原料の仕込み量が、2,5−フランジカルボン酸、エチレングリコール及びDMFの合計に対して、DMFが82モル%となるように仕込んだ。すなわち、2,5−フランジカルボン酸(3.9g)、エチレングリコール(3.5g)、DMF(40g)、モノブチルスズオキシド触媒(0.5g)、チタニウム−n−ブトキシド触媒(0.5g)とした以外は実施例1の調製と同様に行った。
【0036】
実施例1のPEFの1H−NMRスペクトルを図1に示す。
実施例2のPEFの1H−NMRスペクトルを図2に示す。
次に、実施例1、2、及び比較例1、2、3の分子量測定結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

実施例のポリエステル樹脂は比較例にくらべ数平均分子量の値が大きく、重合度が改善されていることが分かる。
品質安定化評価としての耐加水分解性測定結果を表2に示す。
【0038】
【表2】

実施例1,2のポリエステル樹脂は耐加水分解性が高く、品質安定化されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のポリエステル樹脂は、高重合度化し、品質安定化に優れた成形品を製造するために利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造単位を有し、数平均分子量が11万〜19万であることを特徴とするポリエステル樹脂。
【化4】

(式中、Rは置換されていてもよい芳香族炭化水素基又は置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を示す。)
【請求項2】
前記Rがエチレン基であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれかに記載のポリエステル樹脂を成形してなることを特徴とする成形品。
【請求項4】
フランジカルボン酸又はそのエステルを、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールからなる群から選ばれる少なくとも1つとエステル化又はエステル交換する工程及び重合する工程を有し、前記エステル化又はエステル交換の際及び前記重合の際にDMSOが存在することを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記エステル化工程及び前記重合工程を大気圧下で行うことを特徴とする請求項4に記載のポリエステル樹脂の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−280767(P2010−280767A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133555(P2009−133555)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】