説明

ポリエステル樹脂水性分散体

【課題】 有機溶剤と、ポリエステル樹脂を分散させるための界面活性剤とを使用せずに得られ、分散安定性に優れると共に、乾燥皮膜の耐水性に優れるポリエステル樹脂水性分散体を提供する。
【解決手段】 カルボキシル基及び/又はスルホ基を有するポリエステル樹脂(A)並びに水を含有してなり、有機溶剤と、前記ポリエステル樹脂(A)を分散させるための界面活性剤とを含まないことを特徴とするポリエステル樹脂水性分散体。前記ポリエステル樹脂(A)の酸価は5〜300であることが好ましく、前記カルボキシル基及び/又はスルホ基の少なくとも一部が、アンモニア、モノメチルアミン、モノエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン及びエチルジメチルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の中和剤で中和されてなることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂水性分散体に関する。更に詳しくは、耐熱性及び耐薬品性に優れるコーティング剤として好適に使用できるポリエステル樹脂水性分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアリレート及びアルキド樹脂を含むポリエステル樹脂は耐熱性及び耐薬品性が優れることから、塗料、絶縁材料、電気・電子機器、自動車電装部品、光学用機能性フィルム、磁気テープ、写真フィルム及び包装フィルム等に使用されている。近年、このポリエステル樹脂の耐熱性及び耐薬品性に着目してポリエステル樹脂系コーティング剤の開発が進められ、特に環境対策として、これらポリエステル樹脂コーティング剤の水性化が検討されている。
【0003】
ポリエステル樹脂を水に分散させる方法として、ポリエステル樹脂を有機溶剤に溶解させて水性分散体を得る方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、特許文献1に記載の水性分散体は、製造工程で引火性の有機溶剤を使用しなければならず、安全性に問題があるばかりでなく、残留する有機溶剤による環境汚染にも繋がる等の欠点を有していた。
この問題に対して、有機溶剤を使用せずにポリエステル樹脂を水に分散させる方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、この方法は水分散時に、分散安定性を向上させる目的で界面活性剤を使用しているため、塗膜の耐水性の低下や塗膜から界面活性剤がブリードアウトするという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭64−10547号公報
【特許文献2】特開2010−275407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、有機溶剤と、ポリエステル樹脂を分散させるための界面活性剤とを使用せずに得られ、分散安定性に優れると共に、乾燥皮膜の耐水性に優れるポリエステル樹脂水性分散体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、本発明に到達した。即ち本発明は、カルボキシル基及び/又はスルホ基を有するポリエステル樹脂(A)並びに水を含有してなり、有機溶剤と、前記ポリエステル樹脂(A)を分散させるための界面活性剤とを含まないことを特徴とするポリエステル樹脂水性分散体である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリエステル樹脂水性分散体は、有機溶剤と、ポリエステル樹脂を分散させるための界面活性剤とを使用することなく分散安定性に優れ、その乾燥皮膜の耐水性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明におけるポリエステル樹脂(A)は、カルボキシル基及び/又はスルホ基を有する。カルボキシル基及び/又はスルホ基を有することにより、有機溶剤と、(A)を分散させるための界面活性剤とを含有することなく分散安定性に優れ、乾燥皮膜の耐水性に優れる水性分散体を得ることができる。
【0009】
通常、ポリエステル樹脂は、重合触媒を用いて以下の(1)〜(3)の方法又はこれらの併用により得られる。
(1)多価アルコール(a1)と多価カルボン酸(a2)及び/又はそのエステル形成性誘導体とのエステル化による方法。
(2)1分子中に水酸基とカルボキシル基をそれぞれ1つ以上有するヒドロキシカルボン酸(a3)のエステル化による方法。
(3)炭素数4〜12の環状エステル化合物(a4)の開環重合による方法。
【0010】
多価アルコール(a1)としては、炭素数2〜12のアルキレングリコール(エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール及び1,6−ヘキサンジオール等);炭素数4〜20のアルキレンエーテルグリコール(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びポリテトラメチレンエーテルグリコール等);炭素数6〜20の脂環式ジオール(1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、スピログリコール及びジヒドロキシメチルトリシクロデカン等);炭素数13〜15のビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF及びビスフェノールS等);上記脂環式ジオールの炭素数2〜4のアルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド及びブチレンオキサイド等;以下、AOと略記)付加物;上記ビスフェノール類のAO付加物;炭素数3〜20の3〜8価又はそれ以上の脂肪族多価アルコール(グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール及びソルビトール等);上記脂肪族多価アルコールのAO付加物;トリスフェノール類(トリスフェノールPA等);ノボラック樹脂(フェノールノボラック及びクレゾールノボラック等);上記トリスフェノール類のAO付加物;上記ノボラック樹脂のAO付加物;等が挙げられる。
【0011】
多価カルボン酸(a2)としては、炭素数2〜20のアルキレンジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、セバシン酸及びドデセニルコハク酸等)、炭素数4〜20のアルケニレンジカルボン酸(マレイン酸及びフマル酸等)、炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸及びナフタレンジカルボン酸等)、炭素数6〜20の3価以上の脂肪族カルボン酸(トリカルバリル酸及び1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸等)、炭素数9〜20の3価以上の芳香族カルボン酸[トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)及びグリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)等]及び不飽和カルボン酸のビニル重合体(スチレン/マレイン酸共重合体、スチレン/アクリル酸共重合体、α−オレフィン/マレイン酸共重合体及びスチレン/フマル酸共重合体等)等が挙げられる。
【0012】
多価カルボン酸(a2)のエステル形成性誘導体としては、(a2)の酸無水物、低級アルキル(炭素数1〜4)エステル(メチルエステル、エチルエステル及びイソプロピルエステル等)及び酸ハライド等が挙げられる。
【0013】
1分子中に水酸基とカルボキシル基をそれぞれ1つ以上有するヒドロキシカルボン酸(a3)としては、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシブチルカルボン酸、ヒドロキシステアリン酸及び硬化ヒマシ油脂肪酸等が挙げられる。
【0014】
炭素数4〜12の環状エステル化合物(a4)としては、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン及びε−カプロラクトン等のラクトン並びに乳酸等のα−オキシ酸のラクチド等が挙げられる。
【0015】
カルボキシル基を有するポリエステル樹脂(A1)を製造する方法としては、上記方法(1)〜(3)において、重縮合反応開始から終了までの間に上記(a2)の内の3官能以上の多価カルボン酸(a5)又はそのエステル形成性誘導体[酸無水物、低級アルキル(炭素数1〜4)エステル及び酸ハライド]を添加する方法、重縮合反応の終了直後に(a5)の酸無水物又は酸ハライドを添加する方法、大部分の分子鎖末端がカルボキシル基である低分子量ポリエステル樹脂を多価アルコール(a1)により高分子量化させる方法及びこれらの方法の併用等が挙げられる。
【0016】
スルホ基を有するポリエステル樹脂(A2)を製造する方法としては、上記方法(1)〜(3)において、多価カルボン酸として、スルホ基を有する芳香族ジカルボン酸を使用する方法等が挙げられる。
スルホ基を有する芳香族ジカルボン酸としては、例えば、4−スルホイソフタル酸、5−スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸及び4−スルホナフタレン−2,7−ジカルボン酸等が挙げられる。
【0017】
上記のポリエステル樹脂(A)の製造用の重合触媒としては、有機スズ系触媒(ジブチルチンオキサイド、ジオクチル酸スズ及びジオレイン酸スズ等)、アンチモン系触媒(三酸化アンチモン等)、アルカリ金属の水酸化物(水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等)及びチタン系触媒(チタン酸テトラノルマルブチル及びチタン酸テトライソプロピル等)等が挙げられる。
【0018】
本発明におけるポリエステル樹脂(A)は、通常のポリエステル製造法と同様に、例えば不活性ガス(窒素ガス等)雰囲気中で、反応温度が好ましくは150〜280℃、更に好ましくは160〜260℃、特に好ましくは170〜240℃で反応させることにより行うことができる。また反応時間は、重縮合反応を確実に行う観点から、好ましくは30分以上、特に2〜40時間である。
【0019】
開環重合による上記(3)の重合法では、1価のカルボン酸、1価のアルコール、多価カルボン酸(a2)又は多価アルコール(a1)を併用することにより、分子量を適宜コントロールすることができる。
【0020】
1価のカルボン酸としては、アルカンモノカルボン酸(酢酸、プロピオン酸、オクチル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及びベヘニン酸等)、アルケンモノカルボン酸(クロトン酸及びオレイン酸等)及び芳香族モノカルボン酸(安息香酸等)等が挙げられる。
【0021】
1価のアルコールとしては、炭素数1〜20のアルキルアルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール及びデカノール等)、炭素数2〜20のアルケニルアルコール(オレイルアルコール等)、炭素数6〜20の芳香族又は芳香脂肪族アルコール(フェノール及びベンジルアルコール等)が挙げられる。
【0022】
ポリエステル樹脂(A)におけるカルボキシル基及びスルホ基の含有量は、樹脂の酸価を測定することにより定量することができる。ポリエステル樹脂(A)の酸価は、分散安定性の観点から、5〜300であことが好ましく、更に好ましくは10〜280、特に好ましくは20〜260である。
【0023】
ポリエステル樹脂(A)が有するカルボキシル基及びスルホ基を中和剤により中和することにより樹脂粒子の分散安定性が更に向上する。
【0024】
中和剤としては、例えばアンモニア、炭素数1〜10のアミン化合物及びアルカリ金属(ナトリウム、カリウム及びリチウム等)の水酸化物が挙げられる。
炭素数1〜10のアミン化合物としては、モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノブチルアミン及びモノエタノールアミン等の1級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン及びジエタノールアミン等の2級アミン並びにトリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミン及びトリエタノールアミン等の3級アミンが挙げられる。
【0025】
カルボキシル基及びスルホ基の中和剤としては、生成するポリエステル樹脂(A)の水性分散体の乾燥性及び乾燥後の耐水性の観点から、25℃における蒸気圧が高い化合物が好適である。このような観点から、アンモニア、モノメチルアミン、モノエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン及びエチルジメチルアミンが好ましく、更に好ましいのはアンモニア、モノエチルアミン、ジメチルアミン及びジエチルアミン、特に好ましいのはアンモニアである。
【0026】
中和剤の使用量は、ポリエステル樹脂水性分散体の分散安定性の観点から、ポリエステル樹脂(A)中のカルボキシル基及びスルホ基1当量に対して、好ましくは0.1〜3当量であり、更に好ましくは0.5〜1当量である。
【0027】
本発明におけるポリエステル樹脂(A)の数平均分子量は、好ましくは2,000〜2,000,000又はそれ以上、更に好ましくは5,000〜500,000、特に好ましくは10,000〜100,000である。本発明における数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって、ジメチルホルムアミドを溶媒とし、標準ポリスチレンを基準にして測定される。
【0028】
ポリエステル樹脂(A)を製造するための装置は、撹拌又は混練可能なものであれば特に限定されず、コルベン、簡易加圧反応装置(オートクレーブ)及び一軸又は二軸の混練機等が使用できるが、混練強度、密閉性及び加熱能力の観点から、一軸又は二軸の混練機が好ましい。一軸又は二軸の混練機としては、ニーダー[(株)栗本鐵工製「KRCニーダー」等]、一軸混練機及び二軸押出機[池貝(株)製「PCM−30」等]等が挙げられる。
【0029】
ポリエステル樹脂(A)の製造に際しては、酸化防止剤、着色防止剤、遅延剤及び可塑剤等の添加剤を併用することができる。
【0030】
本発明のポリエステル樹脂水性分散体は、ポリエステル樹脂(A)、水並びに必要により中和剤及びその他の添加剤を構成成分とする。
【0031】
その他の添加剤としては、pH調整剤、破泡剤、抑泡剤、脱泡剤、酸化防止剤、着色防止剤、可塑剤及び離型剤等が挙げられる。
【0032】
本発明のポリエステル樹脂水性分散体の固形分濃度は、分散安定性及び輸送コストの観点から、好ましくは10〜65重量%、更に好ましくは20〜55重量%である。
【0033】
本発明のポリエステル樹脂水性分散体中のポリエステル樹脂(A)の体積平均粒子径は、分散安定性の向上の観点から、0.01〜5μmであることが好ましく、更に好ましくは0.01〜4μm、特に好ましくは0.02〜2μm、最も好ましくは0.03〜0.8μmである。体積平均粒子径は、ポリエステル樹脂(A)が有するカルボキシル基及びスルホ基の量等により制御することができる。
【0034】
本発明における体積平均粒子径は、レーザー回折粒度分布測定装置[例えば、LA−750(堀場制作所製)]又は光散乱粒度分布測定装置[例えば、ELS−8000(大塚電子株製)]を用いて測定できる。
【0035】
本発明のポリエステル樹脂水性分散体は、ポリエステル樹脂(A)を必要により中和剤で中和し、水に分散させることで製造することができる。具体的には、分散混合装置として回転式分散混合装置を用いてポリエステル樹脂(A)の溶融温度未満の温度で水中に分散させる方法等が挙げられる。
【0036】
中和剤を使用する場合は、水分散工程前、水分散工程中又は水分散後のいずれの時期に添加してもよいが、ポリエステル樹脂(A)の分散安定性の観点から、水分散工程前又は水分散工程中に添加することが好ましい。尚、ポリエステル樹脂水性分散体の製造に当たっては、必要により任意成分である上記のその他の添加剤を併用することができる。
【0037】
上記方法を用いる場合、ポリエステル樹脂(A)の形状を0.2〜50mmの粒状又はブロック状にすることが回転式分散混合装置に供給し易いという観点から好ましく、その大きさは、更に好ましくは0.5〜30mm、特に好ましくは1〜10mmである。
【0038】
ポリエステル樹脂(A)を粒子状に調整する手段としては、裁断、ペレット化、粒子化又は粉砕する等の手段を用いることができる。この粒子状への調整は、水中又は水の非存在下において実施することができる。例えば、シート状に圧延したポリエステル樹脂(A)を角形ペレット機[(株)ホーライ製]で粒子状にする方法が挙げられる。
【0039】
粒子状に調整されたポリエステル樹脂(A)を、水等とともに回転式分散混合装置に導入するが、この装置の主たる分散原理は、駆動部の回転等によって粒子に外部から剪断力を与えて粉砕し、分散させるという原理である。またこの装置は、常圧又は加圧下で稼働させることができる。
【0040】
回転式分散混合装置としては、例えばTKホモミキサー[プライミクス(株)製]、クレアミックス[エムテクニック(株)製]、フィルミックス[プライミクス(株)製]、ウルトラターラックス[IKA(株)製]、エバラマイルダー[荏原製作所(株)製]、キャビトロン(ユーロテック社製)及びバイオミキサー[日本精機(株)製]が挙げられ、これらの2種類以上の装置を併用してもかまわない。
【0041】
回転式分散混合装置を用いてポリエステル樹脂(A)を分散混合処理する際の分散液の温度としては、分散体であるポリエステル樹脂(A)の分解や劣化等を防ぐ観点から、ポリエステル樹脂(A)の溶融温度未満、好ましくは溶融温度よりも5℃以上低い温度で室温以上の温度、更に好ましくは溶融温度よりも10〜120℃低い温度で室温以上の温度が、分散効率及び分解・劣化抑制の観点から好ましい。
【0042】
ポリエステル樹脂(A)と水との回転式分散混合装置内の滞留時間は、分解・劣化抑制の観点から0.1〜60分であることが好ましく、更に好ましくは10〜30分である。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を以て本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。以下、部は重量部を意味する。
【0044】
<実施例1>
アジピン酸100部、5−スルホイソフタル酸エチレングリコールエステル19.4部及びエチレングリコール38.4部及び重合触媒としてのジブチルチンオキサイド3部をガラス製フラスコに仕込み、窒素ガスを通じながら撹拌し、常圧下徐々に昇温し、生成する水を留去しながら200〜230℃にて約10時間反応させた。次いで230℃、60mmHgの圧力下にて2時間、更に230℃、1mmHgの圧力下にて1.5時間、生成する水を留去しながら反応させた後 、200メッシュ金網にて濾過して数平均分子量 20,000のスルホ基を有するポリエステル樹脂を得た。このポリエステル樹脂100部を250℃に熱した加圧プレス機で圧延し、角形ペレタイザー[(株)ホーライ製]にて裁断した後、温度制御可能な耐圧容器にイオン交換水220.7部及びトリエチルアミン5.4部と共に仕込み、TKホモミキサー[プライミクス(株)製]を用いて150℃30分間分散処理することで本発明のポリエステル樹脂水性分散体を得た。
【0045】
<実施例2>
テレフタル酸100部、イソフタル酸100部、エチレングリコール59部、ネオペンチルグリコール98部、アジピン酸88g及び重合触媒としての三酸化アンチモン1.5部をガラス製フラスコに仕込み、窒素ガスを通じながら撹拌し、常圧下徐々に昇温し、生成する水を留去しながら200〜230℃にて約10時間反応させた。次いで230℃、60mmHgの圧力下にて2時間、更に230℃、1mmHgの圧力下にて1.5時間、生成する水を留去しながら反応させた後 、無水トリメリット酸34部を投入し、230℃で2時間反応させ、200メッシュ金網にて濾過して、数平均分子量 10,000のカルボキシル基を有するポリエステル樹脂を得た。このポリエステル樹脂100部を250℃に熱した加圧プレス機で圧延し、角形ペレタイザー[(株)ホーライ製]にて裁断した後、温度制御可能な耐圧容器にイオン交換水220.7部及びトリエチルアミン8.0部と共に仕込み、TKホモミキサー[プライミクス(株)製]を用いて150℃30分間分散処理することで本発明のポリエステル樹脂水性分散体を得た。
【0046】
<比較例1>
5−スルホイソフタル酸エチレングリコールエステルの代わりにテレフタル酸9.1部及びエチレングリコール45.1部を使用した以外は、実施例1と同様にして数平均分子量20,000のポリエステル樹脂を得た。このポリエステル樹脂100部をN−メチル−2−ピロリドン150部に溶解させた溶液を、分散剤としてのオクチルフェノールのエチレンオキサイド12モル付加物の1重量%水溶液150部に攪拌しながら添加し、比較用のポリエステル水性分散体を得た。
【0047】
実施例1、2及び比較例1で得られたポリエステル樹脂の酸価を以下の方法で測定した結果を表1に示す。また、実施例1、2及び比較例1で得られた水性分散体におけるポリエステル樹脂の固形分濃度、体積平均粒子径、造膜性、ポリエステル樹脂皮膜の耐水性を以下の方法で測定又は評価した結果を表1に示す。
【0048】
<樹脂の酸価>
本発明におけるポリエステル樹脂の酸価(mgKOH/g)の測定法は以下の通りである。
(1)ポリエステル樹脂をN,N−ジメチルホルムアミドで約1%に希釈し、N/10KOH水溶液で電位差滴定する。
(2)次式を用いて酸価を決定する。
酸価(mgKOH/g)=(A×f×5.61)/S
但し、Aは0.1mol/L水酸化カリウム滴定用溶液のmL数、fは0.1mol/L水酸化カリウム滴定用溶液の力価、Sは試料採取量(g)である。
【0049】
<固形分濃度>
ポリエステル樹脂水性分散体約1gをペトリ皿上にうすく伸ばし、精秤した後、循環式定温乾燥機を用いて130℃で、45分間加熱した後の重量を精秤し、加熱前の重量に対する加熱後の残存重量の割合(百分率)を計算する。
【0050】
<体積平均粒子径>
ポリエステル樹脂水性分散体を、イオン交換水でポリエステル樹脂の固形分が0.01%となるよう希釈した後、光散乱粒度分布測定装置[ELS−8000(大塚電子(株)製)]を用いて測定する。
【0051】
<皮膜の耐水性>
ポリエステル樹脂水性分散体を10cm×20cm×1cmのポリプロピレン製モールドに乾燥後の膜厚が0.2±0.1mmになる量を流し込み、常温で12時間乾燥後、更に120℃で2時間乾燥して得られた皮膜を、イオン交換水に24時間浸漬した後、取り出した皮膜の状態を目視評価する。全く変化しない場合は○、白化が見られる場合は×とする。
【0052】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のポリエステル樹脂水性分散体は、塗料、絶縁材料、電気・電子機器、自動車電装部品、光学用機能性フィルム、磁気テープ、写真フィルム及び包装フィルム等に用いられる耐熱性及び耐薬品性に優れるコーティング剤として好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基及び/又はスルホ基を有するポリエステル樹脂(A)並びに水を含有してなり、有機溶剤と、前記ポリエステル樹脂(A)を分散させるための界面活性剤とを含まないことを特徴とするポリエステル樹脂水性分散体。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂(A)の酸価が5〜300である請求項1のポリエステル樹脂水性分散体。
【請求項3】
前記カルボキシル基及び/又はスルホ基の少なくとも一部が、アンモニア、モノメチルアミン、モノエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン及びエチルジメチルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の中和剤で中和されてなる請求項1又は2記載のポリエステル樹脂水性分散体。
【請求項4】
前記ポリエステル樹脂(A)の体積平均粒子径が0.01〜5μmである請求項1〜3のいずれか記載のエステル樹脂水性分散体。

【公開番号】特開2012−167179(P2012−167179A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29002(P2011−29002)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】