説明

ポリエステル混繊糸

【課題】色相に優れ、工業的に製造可能で、紡糸口金を通して長時間連続的に溶融紡糸しても口金異物の発生量が非常に少なく、安定して混繊することができ、染め品質が優れたポリエステル混繊糸を提供すること。
【解決手段】2種類以上の糸を引き揃えた、または混繊した、または合撚した、または複合した糸で、構成する糸または単糸のうち少なくとも1種類が、比重5.0以上の金属元素の含有量が0〜10重量ppmであり、単糸繊度が5デジテックス以下の単糸を含んでなるポリエステル混繊糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣料用のポリエステル混繊糸に関する。さらに詳しくは、比重5.0以上の金属元素、特にアンチモン、ゲルマニウムの含有量が極めて少なく、色相に優れ、長時間連続的に溶融紡糸しても口金付着物の発生量が極めて少なく、混繊工程での完捲原糸生産による生産性向上と、毛羽、染めなどの混繊糸品質が優れたポリエステル混繊糸に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは、その重縮合反応段階で使用する触媒の種類によって、反応速度および得られるポリエステルの品質が大きく左右されることはよく知られている。ポリエチレンテレフタレートの重縮合触媒としては、アンチモン化合物が、優れた重縮合触媒性能を有し、かつ、色調の良好なポリエステルが得られるなどの理由から最も広く使用されている。
しかしながら、アンチモン化合物を重縮合触媒として使用した場合、ポリエステルを長時間にわたって連続的に溶融紡糸すると、口金孔周辺に異物(以下、単に「口金異物」と称することがある)が付着堆積し、溶融ポリマー流れの曲がり現象(ベンディング)が発生し、これが原因となって紡糸、延伸工程において毛羽および/または断糸などを発生するという工程通過性低下の問題がある。
特に、衣料用ポリエステル混繊糸では、その特徴を最大限に引き出す目的から、後の布帛形成する製織工程において経糸に使用される場合が多く、そのとき、混繊糸の毛羽数によって製織生産性が大きく左右されるという深刻な問題を発生する。また染め品質、均染性は衣料用繊維にとっては最も重要な品質の一つである。過去、毛羽の改善と染め品質の向上はポリエステル繊維では長い間研究されてきた。
口金異物を抑制するには、ポリエチレンテレフタレートの重合触媒としてアンチモンを使用しないことが有効な手段であるが、アンチモンを使用しない方法では、糸のカラーが低下してしまうため、ポリエステル混繊糸を淡色に染めて使用される場合には深刻な問題となった。
【0003】
このような問題を解決するために、チタン化合物と特定のリン化合物とを反応させて得られた生成物を(例えば、特許文献1および特許文献2参照)、またチタン化合物と特定のリン化合物の未反応混合物あるいは反応生成物を(例えば、特許文献3参照)、それぞれポリエステル製造用触媒として使用することが開示されている。確かにこの方法によれば、ポリエステルの溶融熱安定性は向上し、得られるポリマーの色相も大きく改善される。しかしながら、これらの方法では、ポリエステル製造時の重合反応速度が遅いため、ポリエステルの生産性がやや劣ってしまう問題を有している。
したがって、触媒としてアンチモンを使用せず、かつ色相および紡糸、延伸工程および混繊工程においての工程通過性に優れ、ポリエステル製造時の生産性が低下しないポリエステル混繊糸が求められていた。
【特許文献1】国際公開第01/00706号パンフレット
【特許文献2】国際公開第03/008479号パンフレット
【特許文献3】国際公報第03/027166号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、色相に優れ、工業的に製造可能で、紡糸口金を通して長時間連続的に溶融紡糸しても口金異物の発生量が非常に少なく、安定して混繊することができ、染め品質が優れたポリエステル混繊糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、2種類以上の糸を引き揃えた、または混繊した、または合撚した、または複合した糸で、構成する糸または単糸のうち少なくとも1種類が、比重5.0以上の金属元素の含有量が0〜10重量ppmであり、単糸繊度が5デジテックス以下の単糸を含んでなることを特徴とするポリエステル混繊糸に関する。
ここで、本発明のポリエステル混繊糸は、濃度20mg/L、光路長1cmでのクロロホルム溶液において測定された380〜780nm領域の可視光吸収スペクトルでの最大吸収波長が540〜600nmの範囲にあり、かつ最大吸収波長での吸光度に対する下記各波長での吸光度の割合が下記式(1)〜(4)のすべてを満たす有機化合物系整色剤を全重量に対して0.1〜10重量ppm含有していることが好ましい。
【0006】
【数1】

【0007】
[上記式中、A400、A500、A600およびA700はそれぞれ波長400nm、500nm、600nmおよび700nmでの可視光吸収スペクトルにおける吸光度を、Amaxは最大吸収波長での可視光吸収スペクトルにおける吸光度を表す。]
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ポリエステルの優れた特性を保持しながら、SbやGe触媒を使用しないポリエステルの欠点であった色相の悪化を解消することができる。その結果、色相および紡糸、延伸工程および混繊工程においての工程通過性に優れ、ポリエステル製造時の生産性が低下せず、このようにして得られる糸を混繊して得られる混繊糸は、色相および染斑が良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明における芳香族ポリエステルとは、テレフタル酸やナフタレンジカルボン酸、あるいはこれらのエステル形成性誘導体に代表される芳香族ジカルボン酸成分と、グリコール成分を重縮合反応せしめて得られるポリエステルのことである。このポリエステルは、共重合ポリエステルであってもよく、共重合成分として、芳香族ジカルボン酸成分とグリコール成分以外の成分、例えば脂肪族ジカルボン酸成分、芳香族ジヒドロキシ化合物、オキシカルボン酸成分が共重合されていても良い。
上記芳香族ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンナフタレートよりなる群から少なくとも1種選ばれるポリエステルであることが好ましく、これらの中でも特にポリエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステルであることが好ましい。
なお「主たる構成成分」とはポリエステルの全繰り返し単位の80モル%以上が芳香族ポリエステルであることを示す。
【0010】
本発明における比重5.0以上の金属元素とは、通常、ポリエステル中に含有される触媒や金属系の整色剤、艶消剤などに含有されている金属化合物に由来するものである。具体的には、アンチモン、ゲルマニウム、マンガン、コバルト、セリウム、スズ、亜鉛、鉛、カドミウムなどが該当する。これらに対し、チタン、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウムなどは、ここでいう比重5.0以上の金属には該当しない。
【0011】
本発明に用いられるポリエステル組成物は、比重5.0以上の金属元素の含有量が0〜10重量ppmである必要がある。含有される金属の種類によって、その特徴、特性は変わるが、例えばアンチモン金属含有量が10重量ppmより多い場合、製糸や製膜時に異物となって口金やダイ周辺に付着し、長期間の連続成形性に悪影響を与える。ゲルマニウムの場合は、それ自体が高価なため、含有量が多くなると得られるポリエステル組成物の価格が上昇してしまい好ましくない。また、鉛やスズ、カドミウムなどの場合は、金属元素そのものに毒性があるため、ポリエステル中に多量に含有していることは好ましくない。上記金属元素の含有量は、0〜7重量ppmであることが好ましく、0〜5重量ppmであることがさらに好ましい。
上記金属元素の含有量を10重量ppm以下にするには、該金属を含まない触媒や整色剤、艶消剤を使用することが望ましい。
【0012】
本発明のポリエステル混繊糸は、2種類以上の糸を引き揃えた糸で、単糸繊度が5デジテックス以下の単糸を含んでなる混繊糸によって達成される。
単糸繊度が5デシテックス以下であることは、衣料用を目的とした混繊糸としては重要である。これは、布帛形成後に手触り、風合いに影響する要因に単糸繊度があり細繊度化により、天然繊維に近いまたは類似の繊細なタッチを実現するために欠くことのできない性質となる。特に、5デシテックスを超える単糸では、手触りが固く、合成繊維の欠点である堅さが感じられやすく単調な風合いになりやすい。一方、単糸繊度が5デシテックス以下、好ましくは3.5デシテックス以下で、混繊糸特有の繊細なタッチと染色後の優れた発色性を両立することができる。上記単糸繊度は、好ましくは3.5〜1.0デシテックスである。
【0013】
また、本発明に用いられるポリエステル組成物は、整色剤を0.1〜10重量ppm含有する必要がある。なお、その整色剤とは、有機の多芳香族環系染料または顔料を表す。具体的には、後述のように、青色系整色剤、紫系整色剤、赤色系整色剤、橙色系整色剤などが挙げられる。これらは、単一種で用いても複数種を併用して用いても良い。
さらに、その整色剤においては、整色剤溶液の380〜780nm領域の吸収スペクトルでの最大吸収波長が540〜600nmの範囲にあり、かつ濃度20mg/L、光路長1cmでのクロロホルム溶液において、最大吸収波長での吸光度に対する各波長での吸光度の割合が下記式(1)〜(4)のすべてを満たすことが好ましい。
【0014】
【数2】

【0015】
[上記式中、A400、A500、A600およびA700はそれぞれ波長400nm、500nm、600nmおよび700nmでの可視光吸収スペクトルにおける吸光度を、Amaxは最大吸収波長での可視光吸収スペクトルにおける吸光度を表す。]
【0016】
ここで、可視光吸収スペクトルとは、通常、分光光度計によって測定されるスペクトルである。本発明のポリエステル混繊糸に含有される整色剤のクロロホルム溶液の可視光吸収スペクトルの最大吸収波長が540nm未満の場合は、得られるポリエステル混繊糸の赤味が強くなり、一方、600nmを超える場合は、得られるポリエステル混繊糸の青味が強くなるため好ましくない。最大吸収波長の範囲は、550〜590nmの範囲がさらに好ましい。
【0017】
また、本発明に用いられる有機化合物系整色剤の濃度20mg/Lのクロロホルム溶液について光路長1cmにおいて可視光吸収スペクトルを測定したとき、最大吸収波長での吸光度に対する上記に示す各波長での吸光度の割合が上記式(1)〜(4)のいずれか一つでも外れる場合、得られるポリエステル混繊糸の着色が大きくなり好ましくない。各波長での吸光度の割合は、下記式(6)〜(9)すべてを満たしていることがさらに好ましい。
【0018】
【数3】

【0019】
[上記式中、A400、A500、A600およびA700はそれぞれ波長400nm、500nm、600nmおよび700nmでの可視光吸収スペクトルにおける吸光度を、Amaxは最大吸収波長での可視光吸収スペクトルにおける吸光度を表す。]
【0020】
さらに、本発明のポリエステル混繊糸に含有される上述の整色剤の含有量が0.1重量ppm未満の場合、ポリエステル混繊糸の黄色味が強くなる。一方、10重量ppmを超える場合、明度が弱くなり見た目に黒味が強くなるため好ましくない。上記整色剤の含有量は、0.3重量ppm〜9重量ppmの範囲にあることがさらに好ましい。
【0021】
本発明に使用する有機化合物系整色剤の可視光吸収スペクトルの範囲が上述の範囲となるようにするには、整色剤として青色系整色用色素と紫色系整色用色素を重量比90:10〜40:60の範囲で併用すること、または青色系整色用色素と赤色系もしくは橙色系整色用色素を重量比98:2〜80:20の範囲で併用することが好ましい。
ここで、青色系整色用色素とは、一般に市販されている整色用色素の中で「Blue」と表記されているものであって、具体的には溶液中の可視光吸収スペクトルにおける最大吸収波長が580〜620nm程度にあるものを示す。
同様に、紫色系整色用色素とは、市販されている整色用色素の中で「Violet」と表記されているものであって、具体的には溶液中の可視光吸収スペクトルにおける最大吸収波長が560〜580nm程度にあるものを示す。
赤色系整色用色素とは、市販されている整色用色素の中で「Red」と表記されているものであって、具体的には溶液中の可視光吸収スペクトルにおける最大吸収波長が480〜520nm程度にあるものである。
橙色系整色用色素とは、市販されている整色用色素の中で「Orange」と表記されているものである。
【0022】
これらの整色用色素としては油溶染料が特に好ましく、具体的な例としては、青色系整色用色素には、C.I.Solvent Blue 11、C.I.Solvent Blue 25、C.I.Solvent Blue 35、C.I.Solvent Blue 36、C.I.Solvent Blue 45 (Telasol Blue RLS)、C.I.Solvent Blue 55、C.I.Solvent Blue 63、C.I.Solvent Blue 78、C.I.Solvent Blue 83、C.I.Solvent Blue 87、C.I.Solvent Blue 94などが挙げられる。
紫色系整色用色素には、C.I.Solvent Violet 8、C.I.Solvent Violet 13、C.I.Solvent Violet 14、C.I.Solvent Violet 21、C.I.Solvent Violet 27、C.I.Solvent Violet 28、C.I.Solvent Violet 36などが挙げられる。
赤色系整色用色素には、C.I.Solvent Red 24、C.I.Solvent Red 25、C.I.Solvent Red 27、C.I.Solvent Red 30、C.I.Solvent Red 49、C.I.Solvent Red 52、C.I.Solvent Red 100、C.I.Solvent Red 109、C.I.Solvent Red 111、C.I.Solvent Red 121、C.I.Solvent Red 135、C.I.Solvent Red 168、C.I.Solvent Red 179などが例示される。
橙色系整色用色素には、C.I.Solvent Orange 60などが挙げられる。
【0023】
ここで、青色系整色用色素と紫色系整色用色素を併用する場合、重量比90:10より青色系整色用色素の重量比が大きい場合は、得られるポリエステル組成物のカラーa値が小さくなって緑色を呈し、40:60より青色系整色用色素の重量比が小さい場合は、カラーa値が大きくなって赤色を呈してくるため好ましくない。
同様に、青色系整色用色素と赤色系または橙色系整色用色素を併用する場合、重量比98:2より青色系整色用色素の重量比が大きい場合は、得られるポリエステル組成物のカラーa値が小さくなって緑色を呈し、80:20より青色整色用色素の重量比が小さい場合は、カラーa値が大きくなって赤色を呈してくるため好ましくない。
上記整色用色素は、青色系整色用色素と紫色系整色用色素を重量比80:20〜50:50の範囲で併用すること、あるいは青色系整色用色素と赤色系または橙色系整色用色素を質量比95:5〜90:10の範囲で併用することがさらに好ましい。
【0024】
本発明の混繊糸に用いられるポリエステルマルチフィラメントは、上記のように乾燥したポリエステル組成物を、270℃〜300℃の範囲で溶融紡糸して製造することが好ましく、溶融紡糸の速度は、4,000m/分以上の速度、好ましくは4,500m/分以上、さらに好ましくは4,500〜6,000m/分、の紡糸引取速度にすることによって達成される。
また、本発明に用いられるポリエステルマルチフィラメントは、上記のようなポリエステル組成物を、270〜300℃の範囲で溶融紡糸し、500〜2,000m/分で引き取り、さらに必要に応じて延伸を行なうことによっても得ることができる。なお、延伸は、一旦、未延伸繊維を巻き取ったのち、別に行なってもよいし、未延伸繊維を紡糸引き取り後、連続して行なってもよい。
【0025】
本発明のポリエステル混繊糸は、少なくとも1種類が、比重5.0以上の金属元素の含有量が0〜10重量ppmであり、単糸繊度が5デジテックス以下の単糸を含むマルチフィラメントを用いて、2種類以上のマルチフィラメントを引き揃えて、例えば、1〜5%のオーバーフィードをかけつつ、公知のインターレースノズルを用い、交絡度が15〜90個/mとなるように、ノズル圧空圧を調整し、混繊交絡して、本発明のポリエステル混繊糸として得ることができる。
なお、本発明のポリエステル混繊糸の総繊度は、通常、30〜250デシテックス、好ましくは50〜200デシテックス、総フィラメント数は、通常、12〜72フィラメント、好ましくは24〜48フィラメント程度である。
【実施例】
【0026】
本発明をさらに下記実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。なお、実施例中における各種の測定項目は、下記のようにして評価した。
【0027】
(ア)固有粘度
ポリエステル組成物チップを、100℃、60分間でオルトクロロフェノールに溶解した希薄溶液を、35℃でウベローデ粘度計を用いて測定した値から求めた。
(イ)ポリマー中の比重5.0以上の金属成分定性分析
ポリマーサンプルを硫酸アンモニウム、硫酸、硝酸、過塩素酸とともに混合して約300℃で9時間湿式分解後、蒸留水で希釈し、理学製ICP発光分析装置(JY170 ULTRACE)を用いて定性分析し、比重5.0以上の金属元素の存在の有無を確認した。1重量ppm以上の存在が確認された金属元素について、その元素含有量を示した。
【0028】
(ウ)ポリマー中のポリエステルに可溶性のチタン、アルミニウム、アンチモン、マンガン、リン含有量:
ポリマー中のポリエステルに可溶性のチタン元素量、アルミニウム元素量、アンチモン元素量、マンガン元素量、リン元素量は、粒状のポリマーサンプルをアルミ板上で加熱溶融した後、圧縮プレス機で平坦面を有する試験成形体を作成し、蛍光X線装置(理学電機工業株式会社製3270E型)を用いて求めた。ただし、艶消剤として酸化チタンを添加したポリエステル組成物中のチタン元素量については、サンプルをオルトクロロフェノールに溶解した後、0.5規定塩酸で抽出操作を行った。この抽出液について日立製作所製Z−8100形原子吸光光度計を用いて定量を行った。ここで、0.5規定塩酸抽出後の抽出液中に酸化チタンの分散が確認された場合は遠心分離機で酸化チタン粒子を沈降させ、傾斜法により上澄み液のみを回収して、同様の操作を行った。これらの操作により、ポリエステル組成物中に酸化チタンを含有していてもポリエステルに可溶性のチタン元素の定量が可能となる。
【0029】
(エ)ジエチレングリコール含有量:
ヒドラジンヒドラート(抱水ヒドラジン)を用いてポリエステルチップを分解し、この分解生成物中のジエチレングリコールの含有量をガスクロマトグラフィ−(ヒューレットパッカード社製(HP6850型))を用いて測定した。
(オ)整色剤の重量減少開始温度
リガク社製TAS−200熱天秤を用いてJIS K7120に従い、窒素雰囲気下中昇温速度10℃/分で測定した。
【0030】
(カ)色相(L*値、a*値、b*値):
・チップ:
ポリエステルチップを285℃、真空下で10分間溶融し、これをアルミニウム板上で厚さ3.0±1.0mmのプレートに成形後ただちに氷水中で急冷し、該プレートを140℃、1時間乾燥結晶化処理を行った。その後、色差計調整用の白色標準プレート上に置き、プレート表面のハンターL*およびb*を、ミノルタ株式会社製ハンター型色差計(CR−200型)を用いて測定した。L*は明度を示し、その数値が大きいほど明度が高いことを示し、b*はその値が大きいほど黄着色の度合いが大きいことを示す。また、他の詳細な操作はJIS Z−8729に準じて行った。
・繊維:
繊維を常法により筒編とした後、編地を4枚重ね合わせ、ミノルタ株式会社製ハンター型色差計(CR−200型)を用いて測定した。
【0031】
(キ)口金異物高さ
4日間連続紡糸し、口金の吐出口外縁に発生する付着物の層の高さを測定した。この付着物層の高さが大きいほど、吐出されたポリエステルメルトのフィラメント状流にベンディングが発生しやすく、このポリエステルの成形性は低くなる。すなわち、紡糸口金に発生する付着物層の高さは、当該ポリエステルの成形性の指標である。
【0032】
(ケ)染斑
ポリエステル混繊糸を約120mを筒編として、水洗いを5分施し、サンプルの2%の割合でテラトップブルー(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ(株)製)を用い、染色浴槽液の0.2%の割合でポリエスカDS(辰洋化学工業(株)製)を助剤として40℃、10分で放置した後、30分かけて100℃まで昇温、100℃、30分で染色した。10分間乾燥後、この染色筒編の染斑を検査員が目視判定し下記基準で格付けした。
レベル1: 筋状、斑点状の斑が無く全体的に均一な染め上がり。
レベル2: 筋状、斑点状の斑が少し認められるが良品として許容範囲。
レベル3: 強い筋状あるいは大きな斑点状の染め斑が多く認められる。
【0033】
(コ)風合い
ポリエステル混繊糸を経糸および緯糸に用いて平織り組織を形成し、浴洗、精錬、染色、熱セット後、その風合いについて検査員が官能判定し下記基準で格付けした。
レベル1: 非常に柔らかな風合いで、表面の手触りも繊細で良好。
レベル2: 柔らかな風合いで、表面の手触りも良好であり許容範囲。
レベル3: 風合い硬く、表面の手触りも荒い。
【0034】
(サ)ワーパー毛羽
風合いの評価時に経糸を整経準備する工程にて、ワーパー上で毛羽の個数についてカウンターを用いて計測した。整経では1,000本立てで行い、糸長50万mについて評価を行い、100万mあたりの毛羽数を算出した。
【0035】
[参考例1]整色剤(整色用色素)の可視光吸収スペクトル測定、整色剤調製
整色剤としてC.I.Solvent Blue 45(Clariant Japan社製)とC.I.Solvent Violet 36(有本化学社製)の2種類の整色剤を重量比2:1で濃度20mg/Lのクロロホルム溶液とし、光路長1cmの石英セルに充填し、対照セルにはクロロホルムのみを充填して、日立分光光度計U−3010型を用いて、380〜780nmの可視光領域での可視光吸収スペクトルを測定した。最大吸収波長とその波長における吸光度に対する、400、500、600および700nmの各波長での吸光度の割合を測定した。結果を表1に示す。なお、実施例、比較例で整色剤をポリエステル製造工程で添加する場合は、100℃の温度で、原料として用いるグリコール溶液に対し、濃度0.1重量%となるように溶解または分散させて調製した。
【0036】
【表1】

【0037】
*1:最大吸収波長の吸光度に対する各波長下での吸光度の割合
【0038】
[参考例2]チタン触媒Aの合成
無水トリメリット酸のエチレングリコール溶液(0.2重量%)にテトラブトキシチタンを無水トリメリット酸に対して1/2モル添加し、空気中常圧下で80℃に保持して60分間反応せしめた。その後常温に冷却し、10倍量のアセトンによって生成触媒を再結晶化させた。析出物をろ紙によって濾過し、100℃で2時間乾燥せしめ、目的の化合物を得た。これをチタン触媒Aとする。
【0039】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール70重量部の混合物に、参考例2で調製したチタン触媒A 0.016重量部を加圧反応が可能なSUS製容器に仕込んだ。0.07MPaの加圧を行い、140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応させた後、トリエチルホスホノアセテート0.023重量部を添加し、エステル交換反応を終了させた。その後、反応生成物に酸化チタンの20重量%を含有するエチレングリコールスラリー1.5重量部、参考例1で調製した整色剤の0.1重量%エチレングリコール溶液0.2重量部を添加して重合容器に移し、290℃まで昇温し、30Pa以下の高真空にて重縮合反応を行って、ポリエステル組成物を得た。さらに、常法に従いチップ化した。得られたポリエステルは固有粘度0.63、ジエチレングリコール含有量が1.0重量%、カラーL71、a−5、b6であった。
【0040】
このポリエチレンテレフタレートペレットを150℃で5時間乾燥した後、スクリュウ押出機にて押出したのち吐出口金を通過させ、捲取速度1,200m/minにて捲取し210デシテックス、24フィラメントカウントの未延伸糸を得た。
この未延伸糸をいったん3.0倍に予熱延伸、熱セットし70デシテックスの延伸糸を得、その後、この延伸糸よりも高い収縮率を示す30デシテックスの高収縮糸と常法により混繊させ、100デシテックスの混繊糸を得た。
この時の未延伸糸を作製したときの紡糸断糸率、延伸・混繊工程通過性、混繊糸の色相、染斑を、まとめて表2に示す。表2において得られたポリエステル混繊糸は、工程性も良好であり、色相、染斑も良好な結果となった。
【0041】
[実施例2〜3]
吐出口金におけるホール数を変更した以外は、実施例1と同様条件として巻き取った。この時の紡糸断糸率、ポリエステル混繊糸の物性および工程通過性および色相、染斑を、まとめて表2に示す。
【0042】
[比較例1]
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール70重量部との混合物に、酢酸マンガン四水和物0.032重量部を撹拌機、精留塔およびメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、140℃から240℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを系外に留出させながら、エステル交換反応を行った。その後、リン酸トリメチル0.02重量部を添加し、エステル交換反応を終了させた。次いで、得られた反応生成物を撹拌装置、窒素導入口、減圧口、蒸留装置を備えた反応容器に移し、三酸化二アンチモン0.045重量部を添加して290℃まで昇温し、30Pa以下の高真空で重縮合反応を行って、ポリエステル組成物を得た。さらに、常法に従いチップ化した。得られたポリエステルは固有粘度0.63、ジエチレングリコール含有量が0.7重量%、カラーL72、a−5、b6であった。このポリエチレンテレフタレートペレットを実施例1と同じ方法でマルチフィラメントとして巻き取った。この時の紡糸断糸率、ポリエステル混繊糸の物性および工程通過性および色相、染斑を、まとめて表2に示す。



【0043】
【表2】

【0044】
*2:チタン元素濃度
*3:リン元素濃度
【0045】
表2からも明らかなように、重合触媒として三酸化アンチモンを含有している水準(比較例1)に対して本発明のポリエステル糸は溶融紡糸の際に発生する口金異物が著しく少なく紡糸断糸率が低く、ポリエステル混繊糸の色調および染斑も良好である性能が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のポリエステル混繊糸は、紡糸時間に伴う口金異物の成長による紡糸断糸抑制や混繊後の布帛形成工程での毛羽による糸切れ抑制および染斑に優れており、得られた衣料用途に有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類以上の糸を引き揃えた、または混繊した、または合撚した、または複合した糸で、構成する糸または単糸のうち少なくとも1種類が、比重5.0以上の金属元素の含有量が0〜10重量ppmであり、単糸繊度が5デジテックス以下の単糸を含んでなることを特徴とするポリエステル混繊糸。
【請求項2】
濃度20mg/L、光路長1cmでのクロロホルム溶液において測定された380〜780nm領域の可視光吸収スペクトルでの最大吸収波長が540〜600nmの範囲にあり、かつ最大吸収波長での吸光度に対する下記各波長での吸光度の割合が下記式(1)〜(4)のすべてを満たす有機化合物系整色剤を0.1〜10重量ppm含有する、請求項1記載のポリエステル混繊糸。
【数1】


【公開番号】特開2006−169700(P2006−169700A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−367146(P2004−367146)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】