説明

ポリエステル粒子及びその製造方法、樹脂組成物、並びに、成形体

【課題】環境負荷が低く、高い難燃性を有し、且つ主材料の機械強度の低下を招かないポリエステル粒子及びその製造方法を提供すること。また、それを用いた樹脂組成物及び成形体を提供すること。
【解決手段】少なくとも下記式(I)〜(VI)のいずれか1つで表されるリン酸構造を構成単位として有し、粒径が10μm以下であることを特徴とするポリエステル粒子、その製造方法、これを用いた樹脂組成物及び成形体。式中、R1、R2、R5及びR6はそれぞれ独立に、アルキレン基、又は、アリーレン基を表し、R3及びR4はそれぞれ独立に、アルキル基、又は、アリール基を表し、また、n及びmはそれぞれ独立に、2〜4の整数を表す。なお、波線部分はポリエステル中における他の構成単位と結合している部分である。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル粒子に関し、より詳しくは、成形材料への分散性が極めて良好で、少量の添加で高い難燃効果を発揮できるため、成形体の機械強度を損なうことなく難燃化が可能であり、小粒径難燃剤として好適に用いることができるポリエステル粒子に関する。また、本発明のポリエステル粒子を少なくとも含有する樹脂組成物、及び、前記樹脂組成物より成形した成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、事務機器や家庭電器製品など、公の場で使用される製品に使用されるプラスチック材料には、火災防止の観点から難燃性が要求される。特に、オフィスなど火災が大規模になりやすい場で使用される事務機器には高い難燃性が必要である。
プラスチック材料の難燃剤として、最も効果が高いのが臭素化合物に代表されるハロゲン系難燃剤である。特に三酸化アンチモンに代表されるアンチモン系難燃剤と組み合わせた時に、難燃効果は極めて高くなる。難燃メカニズムは、大きく分けて、ラジカルトラップ機能、チヤー形成機能、吸熱(水分蒸発)機能の三つで説明されるが、ハロゲン系とアンチモン系の組み合わせた場合に難燃効果が高い理由は、ハロゲン系がアンチモンを含めた段階的化学反応により極めて高いラジカルトラップ機能を、更にはチヤー形成機能を有しており、一方で燃焼源を抑制し、他方で燃焼してもそれを外部の空気と遮断する機能がバランスよく働いているためである。
【0003】
しかし、ハロゲンもアンチモンも環境に対して決して優しい材料では無く、燃焼時に有毒ガスが発生する懸念があることから、環境負荷の低い難燃剤の開発が望まれている。
また、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムに代表される無機難燃剤は環境に対しての負荷が低いが、難燃メカニズムが吸熱機能だけであり、難燃性を確保するためには多量の添加が必要であり、結果成形体の機械強度を著しく低下させてしまうという課題がある。
【0004】
リン酸エステルに代表されるリン系難燃剤はラジカルトラップ機能と、チヤー形成機能の両方を有し、且つハロゲン系のように有毒ガス発生の懸念も無い難燃剤である(特許文献1〜5)。しかし主材料との相溶性の点で材料選択性が強く、また、主材料の構造内に入り込み、主材料の加水分解を促進させるなど、実用上の課題が多い。
【0005】
【特許文献1】特公昭51−39271号公報
【特許文献2】特公昭55−50506号公報
【特許文献3】特開昭57−96039号公報
【特許文献4】特開平11−335538号公報
【特許文献5】特開2000−212412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、環境負荷が低く、高い難燃性を有し、且つ主材料の機械強度の低下を招かないポリエステル粒子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記課題は、以下に示す<1>、<2>、<5>及び<6>の手段により解決された。好ましい実施態様である<3>及び<4>と共に以下に記載する。
<1> 少なくとも下記式(I)〜(VI)のいずれか1つに記載のリン酸構造を構成単位として有し、粒径が10μm以下であることを特徴とするポリエステル粒子、
【0008】
【化1】

(式(I)〜(VI)中、R1、R2、R5及びR6はそれぞれ独立に、アルキレン基、又は、アリーレン基を表し、R3及びR4はそれぞれ独立に、アルキル基、又は、アリール基を表し、また、n及びmはそれぞれ独立に、2〜4の整数を表す。なお、波線部分はポリエステル中における他の構成単位と結合している部分である。)
<2> 少なくとも、式(VII)〜(XII)で表される化合物、及び、重縮合性単量体を130℃以下の温度で重縮合する工程を含む上記<1>に記載のポリエステル粒子の製造方法、
【0009】
【化2】

(式(VII)〜(XII)中、R1、R2、R5及びR6はそれぞれ独立に、アルキレン基、又は、アリーレン基を表し、R3及びR4はそれぞれ独立に、アルキル基、又は、アリール基を表し、Mは1〜3価の金属原子を表し、n及びmはそれぞれ独立に、2〜4の整数を表し、また、p及びqはそれぞれ独立に、1〜3の整数を表す。)
<3> 重縮合を水中で行う上記<2>に記載のポリエステル粒子の製造方法、
<4> 硫黄酸を重縮合触媒として用い重縮合を行う上記<2>又は<3>に記載のポリエステル粒子の製造方法、
<5> 上記<1>に記載のポリエステル粒子を少なくとも含有する樹脂組成物、
<6> 上記<5>に記載の樹脂組成物を成形して得られる成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、環境負荷が低く、高い難燃性を有し、且つ主材料の機械強度の低下を招かないポリエステル粒子及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のポリエステル粒子は、少なくとも下記式(I)〜(VI)のいずれか1つに記載のリン酸構造(以下、「特定リン酸構造」ともいう。)を構成単位として有し、粒径が10μm以下であることを特徴とする難燃性ポリエステル粒子であり、小粒径難燃剤として好適に用いることができる。
また、本発明のポリエステル粒子は、後述する本発明のポリエステル粒子の製造方法により製造されることが好ましい。
【0012】
【化3】

(式(I)〜(VI)中、R1、R2、R5及びR6はそれぞれ独立に、アルキレン基、又は、アリーレン基を表し、R3及びR4はそれぞれ独立に、アルキル基、又は、アリール基を表し、また、n及びmはそれぞれ独立に、2〜4の整数を表す。なお、波線部分はポリエステル中における他の構成単位と結合している部分である。)
【0013】
本発明のポリエステル粒子は、主材料選択性の極めて広い難燃剤として効果的であり、主材料との高い相溶性から、機械強度を低下させることなく、優れた難燃性能を発揮できる。更に、自身の耐加水分解性が高く、主材料の加水分解も促進しないので、高温多湿環境下でも、高い難燃性と機械強度を維持できる。
また、本発明のポリエステル粒子の製造方法は、粒径を小さくすることが困難なリン酸含有モノマーユニットを含むポリエステルを、10μm以下の粒径にまで粒子化できる、有効な製造方法である。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
(ポリエステル粒子)
本発明のポリエステル粒子は、粒径10μm以下の粒子にすることで、主材料への相溶解性を著しく改善し、材料選択性を広げることができる。
通常のリン系難燃剤は、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂などには有効だが、相溶性の悪さから、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系には効果が低かった。しかし、本発明のポリエステル粒子は、粒径を小さくすることが可能であるため、ポリオレフィン系にも効果が高い。
本発明のポリエステル粒子の粒径は、好ましくは5μm以下、より好ましくは1μm以下である。なお、本発明における「粒径」とは、特に断りのない場合、「平均粒径」を表す。
また、ポリエステル粒子の粒径は、例えば、レーザー回析式粒度分布測定装置(堀場製作所製、LA−920)で測定することができる。
また、本発明のポリエステル粒子の形状は、粒径10μm以下であれば特に制限はなく、球状、多角柱状、多角錐状、板状、針状、ポテト状等の何れであってもよい。
【0015】
また、通常のリン系難燃剤は、特に主材料がポリエステルやポリカーボネートである場合に、リン系難燃剤自身が加水分解することで、主材料の加水分解を促進し、成形体として、高熱、高湿条件下の機械強度の維持性を極端に悪くしてしまうという致命的な課題があった。更にリン系難燃剤自身が加水分解するので、難燃性も維持できなくなってしまうという課題があった。
本発明のポリエステル粒子は、含有される特定リン酸構造が難燃性を発揮し、且つ高分子量であるため、容易に加水分解しない。万一加水分解する場合も、粒子の表面だけが加水分解し、内部は守られるため、主材料の機械強度を維持しつつ、高い難燃性の維持もできる。
【0016】
本発明のポリエステル粒子は、通常のリン原子を分子構造内に含むポリエステルとは異なり、粒子形状であるがゆえに、成形体中で、強化フィラーのように作用し、例えば、成形体の耐衝撃強度、熱変形温度などの補強材となり、それらの特性が飛躍的に向上する。また、樹脂中にコンパウンドする工程において、適度の滑り性が発現され、コンパウンド時にシェアーがかかりにくく、生産性や熱による機械特性劣化抑制の効果も高い。また、粒子であるゆえ、様々の表面処理が可能であり、樹脂種類、改善すべき特性に合わせた構造設計が可能である。
本発明のポリエステル粒子は、少なくとも前記式(I)〜(VI)のいずれか1つで表されるリン酸構造を構成単位として有する。また、本発明のポリエステル粒子は、前記特定リン酸構造のうち、1種の構造のみを有していてもよく、2種以上の構造を任意の割合で有していてもよい。
【0017】
式(I)〜(VI)中、R1、R2、R5及びR6はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキレン基、又は、置換基を有していてもよいアリーレン基を表す。
前記アルキレン基は、直鎖であっても、分岐を有していてもよく、また、環状構造を有していてもよい。
1及びR2におけるアルキレン基は、それぞれ独立に、炭素数2〜40であることが好ましく、炭素数4〜30であることがより好ましく、炭素数6〜20であることがさらに好ましい。
5におけるアルキレン基は、炭素数2〜40であることが好ましく、炭素数2〜30であることがより好ましく、炭素数2〜20であることがさらに好ましい。
また、R6におけるアルキレン基は、それぞれ独立に、炭素数2〜40であることが好ましく、炭素数6〜30であることがより好ましく、炭素数10〜20であることがさらに好ましい。
1、R2、R5及びR6におけるアリーレン基は、炭素数6〜40であることが好ましく、炭素数6〜18であることがより好ましく、炭素数6〜14であることがさらに好ましい。
前記アルキレン基及び前記アリーレン基が有していてもよい置換基は、アリール基又はアリーレン基であり、置換基におけるアリール基の好ましい範囲は後述するアリール基の範囲と同様であり、また、置換基におけるアリーレン基の好ましい範囲は前記アリーレン基と同様である。これらの置換基は、上記置換基でさらに置換されていてもよい。また、前記アルキレン基をアリーレン基で置換する場合、アリーレン基はアルキレン基の内部にあってもよく、末端にあってもよい。
【0018】
式(II)及び(V)中、R3及びR4はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、又は、置換基を有していてもよいアリール基を表す。
前記アルキル基は、直鎖であっても、分岐を有していてもよく、また、環状構造を有していてもよい。また、前記アルキル基は、炭素数1〜40であることが好ましく、炭素数1〜30であることがより好ましく、炭素数2〜20であることがさらに好ましい。
前記アリール基は、炭素数6〜40であることが好ましく、炭素数6〜18であることがより好ましく、炭素数6〜14であることがさらに好ましい。
前記アルキル基及び前記アリール基が有していてもよい置換基は、アリール基又はアリーレン基であり、置換基におけるアリール基の好ましい範囲は前記アリール基と同様であり、また、置換基におけるアリーレン基の好ましい範囲は前記アリーレン基と同様である。これらの置換基は、上記置換基でさらに置換されていてもよい。また、前記アルキル基をアリーレン基で置換する場合、アリーレン基はアルキル基の内部にあってもよく、末端(結合端又はその他端)にあってもよい。
【0019】
式(II)及び(V)中、n及びmはそれぞれ独立に、2〜4の整数を表し、2であることが好ましい。
式(I)〜(VI)中、波線部分はポリエステル中における他の構成単位と結合している部分である。本発明において、ポリエステル中における構成単位とは、エステル部位及びポリエステル末端により区分される構成単位であり、また、2つの構成単位の境界はエステル部位では−COO−構造であり、−CO−と−O−とで分かれるものとする。また、ポリエステル末端の場合は、末端ヒドロキシ基では−Hを、末端カルボキシル基では−OHを除くものとする。また、本発明において、前記構成単位は単量体単位でもあることが好ましい。
【0020】
前記式(I)〜(VI)のいずれか1つで表されるリン酸構造を少なくとも有する本発明のポリエステル粒子は、下記式(VII)〜(XII)で表される化合物(以下、「特定リン酸化合物」ともいう。)、及び、重縮合性単量体を重縮合し、粒子化することにより得ることができる。
【0021】
【化4】

(式(VII)〜(XII)中、R1、R2、R5及びR6はそれぞれ独立に、アルキレン基、又は、アリーレン基を表し、R3及びR4はそれぞれ独立に、アルキル基、又は、アリール基を表し、Mは1〜3価の金属原子を表し、n及びmはそれぞれ独立に、2〜4の整数を表し、また、p及びqはそれぞれ独立に、1〜3の整数を表す。)
【0022】
式(VII)〜(XII)中、R1、R2、R5及びR6におけるアルキレン基、及び、アリーレン基は、前記式(I)〜(VI)中のR1、R2、R5及びR6におけるアルキレン基、及び、アリーレン基と同義であり、また、前述の置換基を有していてもよく、好ましい範囲も同様である。
式(VIII)及び(XI)中、R3及びR4におけるアルキル基、及び、アリール基は、前記式(II)及び(V)中のR3及びR4におけるアルキル基、及び、アリール基と同義であり、また、前述の置換基を有していてもよく、好ましい範囲も同様である。
式(IX)及び(XII)中、Mは1〜3価の金属原子を表し、また、p及びqはそれぞれ独立に、1〜3の整数を表し、Mの原子価に対応する。
金属原子としては特に限定はないが、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、ランタノイド原子、又は、11〜13属の金属原子であることが好ましく、アルカリ金属原子、又は、アルカリ土類金属原子であることがより好ましい。
式(VIII)及び(XI)中、n及びmは、前記式(II)及び(V)におけるn及びmと同義である。
【0023】
本発明に用いることができる式(VII)〜(XII)で表される化合物として具体的には、以下に示す化合物を好ましく例示できる。また、本発明のポリエステル粒子は、下記に示す化合物由来の特定リン酸構造を有することが好ましい。
【0024】
【化5】

【0025】
本発明に用いることができる特定リン酸化合物は、重縮合性単量体の総量に対し、1〜50重量%の割合で用いることが好ましく、5〜30重量%がより好ましく、10〜20重量%がさらに好ましい。
【0026】
本発明に用いることができるポリエステルは、前記特定リン酸化合物、及び、重縮合性単量体を用いた直接エステル化反応、エステル交換反応等により重縮合を行い作製することができる。
本発明に用いることができる重縮合性単量体は、多価カルボン酸、ポリオール及びヒドロキシカルボン酸等が挙げられ、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。本発明のポリエステル粒子は、少なくとも多価カルボン酸及び/又はポリオールを用いて製造されることが好ましく、多価カルボン酸及びポリオールを用いて製造されることがより好ましい。
本発明において、多価カルボン酸は、脂肪族、脂環族、芳香族の多価カルボン酸、それらのアルキルエステル、酸無水物、酸ハロゲン化物などを含み、ポリオールは、多価アルコール、それらのエステル化合物、ヒドロキシカルボン酸などを含む。
また、重縮合性単量体としては、多価カルボン酸、及び、ポリオール等のオリゴマーやプレポリマーも含む。
【0027】
本発明に用いることができる多価カルボン酸は、1分子中にカルボキシル基を2個以上含有する化合物である。このうち、ジカルボン酸は1分子中にカルボキシル基を2個含有する化合物であり、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、グルタル酸、β−メチルアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、フマル酸、シトラコン酸、ジグリコール酸、グルタコン酸、n−ドデシルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸、イソドデシルコハク酸、イソドデセニルコハク酸、n−オクチルコハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキサン−3,5−ジエン−1,2−ジカルボン酸、リンゴ酸、クエン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、マロン酸、ピメリン酸、酒石酸、粘液酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラクロロフタル酸、クロロフタル酸、ニトロフタル酸、p−カルボキシフェニル酢酸、p−フェニレン二酢酸、m−フェニレンジグリコール酸、p−フェニレンジグリコール酸、o−フェニレンジグリコール酸、ジフェニル酢酸、ジフェニル−p,p’−ジカルボン酸、ナフタレン−1,4−ジカルボン酸、ナフタレン−1,5−ジカルボン酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸等を例示できる。また、ジカルボン酸以外の多価カルボン酸としては、トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、ピレントリカルボン酸、ピレンテトラカルボン酸等を例示できる。
これらの中でも、シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸を好ましく例示できる。
【0028】
本発明に用いることができるポリオールは、1分子中に水酸基を2個以上含有する化合物である。このうち、ジオールは1分子中に水酸基を2個含有する化合物であり、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ブテンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、オクタンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールZ、水素添加ビスフェノールA等を例示できる。また、ジポリオール以外のポリオールとしては、グリセリン、ペンタエリスリトール、ヘキサメチロールメラミン、ヘキサエチロールメラミン、テトラメチロールベンゾグアナミン、テトラエチロールベンゾグアナミン等を例示できる。
これらの中でも、1,4−ブタンジオール、n−ヘキサンジオールを好ましく例示できる。
【0029】
また、ヒドロキシカルボン酸としては、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸、ヒドロキシデカン酸、ヒドロキシウンデカン酸などを例示できる。
【0030】
前記多価カルボン酸及びポリオールは、1種の重縮合樹脂を作製するために、それぞれ1種ずつを単独で用いても、一方が1種で他方が2種以上用いても、それぞれ2種以上ずつを用いてもよい。また、1種の重縮合樹脂を作製するためヒドロキシカルボン酸を用いる場合、1種単独で用いても、2種以上を用いてもよく、多価カルボン酸やポリオールを併用してもよい。
【0031】
(ポリエステル粒子の製造方法)
次に、本発明のポリエステル粒子の製造方法について説明する。
ポリエステル樹脂を粒子にするには、長さ3〜5mm、径1〜3mmのペレットを機械的に粉砕する方法があるが、本発明のポリエステル粒子において、特定リン酸構造を含むポリエステルは非結晶性であるため、機械的粉砕では融着が起こり、粒径を小さくすることが容易でなく好ましくない。
本発明のポリエステル粒子の製造方法は、少なくとも、前記式(VII)〜(XII)で表される化合物、及び、重縮合性単量体を130℃以下の温度で重縮合する工程を含むことが好ましい。
【0032】
前記重縮合工程における重縮合時の反応温度は、130℃以下であり、70〜130℃であることが好ましく、75〜120℃であることがより好ましく、80〜110℃であることがさらに好ましい。反応温度が70℃以上であると、モノマーの溶解性、触媒活性度に優れ、反応性が十分であり、分子量の伸長抑制等が起こらないため好ましい。また、反応温度が130℃以下であると、低エネルギー製法であり、更に高温に起因する樹脂の着色等が起こらない。
【0033】
また、本発明のポリエステル粒子の製造方法では、重縮合性単量体を130℃以下の低温で重縮合するため、重縮合時に重縮合触媒が用いることが好ましい。このような低温で触媒活性を有する重縮合触媒としては、硫黄酸、界面活性効果を有する酸、希土類含有触媒、又は、加水分解酵素などが挙げられ、その中でも、硫黄酸が好ましい。
【0034】
硫黄酸としては、無機硫黄酸又は有機硫黄酸等が好ましく挙げられる。無機硫黄酸としては、硫酸、亜硫酸、及び、これらの塩等が挙げられ、また、有機硫黄酸としては、アルキルスルホン酸、アリールスルホン酸、及び、これらの塩等のスルホン酸類や、アルキル硫酸、アリール硫酸及びその塩等の有機硫酸類が挙げられる。
硫黄酸としては、有機硫黄酸であることが好ましく、界面活性効果を有する有機硫黄酸であることがより好ましい。なお、界面活性効果を有する酸とは、疎水基と親水基とからなる化学構造を有し、少なくとも親水基の一部がプロトンからなる酸の構造を有し、乳化機能と触媒機能とを併せ持つ化合物である。
界面活性効果を有する有機硫黄酸としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸、アルキルジスルホン酸、アルキルフェノールスルホン酸、アルキルナフタリンスルホン酸、アルキルテトラリンスルホン酸、アルキルアリルスルホン酸、石油スルホン酸、アルキルベンゾイミダゾールスルホン酸、高級アルコールエーテルスルホン酸、アルキルジフェニルスルホン酸、長鎖アルキル硫酸エステル、高級アルコール硫酸エステル、高級アルコールエーテル硫酸エステル、高級脂肪酸アミドアルキロール硫酸エステル、高級脂肪酸アミドアルキル化硫酸エステル、硫酸化脂肪、スルホ琥珀酸エステル、樹脂酸アルコール硫酸、及び、これらすべての塩化合物などが挙げられ、必要に応じて複数を組み合わせてもよい。これらの中でも、アルキル基若しくはアラルキル基を有するスルホン酸、アルキル基若しくはアラルキル基を有する硫酸エステル、又は、これらの塩化合物であることが好ましく、前記アルキル基又はアラルキル基の炭素数が7〜20であることがより好ましい。具体的には、ドデシルベンゼンスルホン酸、イソプロピルベンゼンスルホン酸、しょうのうスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、モノブチルフェニルフェノール硫酸、ジブチルフェニルフェノール硫酸、ドデシル硫酸、ナフテニルアルコール硫酸等が挙げられる。
【0035】
界面活性効果を有する酸としては、例えば、各種脂肪酸、高級アルキルリン酸エステル、樹脂酸、及び、これらすべての塩化合物などが挙げられ、必要に応じて複数を組み合わせてもよい。
【0036】
希土類含有触媒としては、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド元素としてランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)などの元素を含むものが有効であり、特にアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、又はトリフラート構造を有するものなどが有効である。
希土類含有触媒としては、スカンジウムトリフラート、イットリウムトリフラート、ランタノイドトリフラートなどのトリフラート構造を有するものがより好ましい。ランタノイドトリフラートについては、例えば、有機合成化学協会誌、第53巻第5号、p44〜54に詳述されている。前記トリフラートとしては、構造式では、X(OSO2CF33が挙げられる。Xは、希土類元素であり、これらの中でも、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、イッテルビウム(Yb)、サマリウム(Sm)などであることがさらに好ましい。
【0037】
加水分解酵素としては、エステル合成反応を触媒するものであれば特に制限はない。加水分解酵素としては、例えば、カルボキシエステラーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、アセチルエステラーゼ、ペクチンエステラーゼ、コレステロールエステラーゼ、タンナーゼ、モノアシルグリセロールリパーゼ、ラクトナーゼ、リポプロテインリパーゼ等のEC(酵素番号)3.1群(丸尾・田宮監修「酵素ハンドブック」朝倉書店(1982)等参照)に分類されるエステラーゼ、グルコシダーゼ、ガラクトシダーゼ、グルクロニダーゼ、キシロシダーゼ等のグリコシル化合物に作用するEC3.2群に分類される加水分解酵素、エポキシドヒドラーゼ等のEC3.3群に分類される加水分解酵素、アミノペプチダーゼ、キモトリプシン、トリプシン、プラスミン、ズブチリシン等のペプチド結合に作用するEC3.4群に分類される加水分解酵素、フロレチンヒドラーゼ等のEC3.7群に分類される加水分解酵素等を挙げることができる。
【0038】
これらエステラーゼのうち、グリセロールエステルを加水分解し脂肪酸を遊離する酵素を特にリパーゼと呼ぶが、リパーゼは有機溶媒中での安定性が高く、収率良くエステル合成反応を触媒し、さらに安価に入手できることなどの利点がある。したがって、本発明の製造方法においても、収率やコストの面からリパーゼを用いることが好ましい。
【0039】
リパーゼには種々の起源のものを使用できるが、好ましいものとして、シュードモナス(Pseudomonas)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、アクロモバクター(Achromobacter)属、カンジダ(Candida)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、リゾプス(Rhizopus)属、ムコール(Mucor)属等の微生物から得られるリパーゼ、植物種子から得られるリパーゼ、動物組織から得られるリパーゼ、さらに、パンクレアチン、ステアプシン等を挙げることができる。このうち、シュードモナス属、カンジダ属、アスペルギルス属の微生物由来のリパーゼを用いることが好ましい。
【0040】
これら重縮合触媒は、単独で使用しても、複数を組み合わせて使用してもよい。重縮合触媒の使用量は、特定リン酸化合物及び重縮合性単量体の総重量に対し、0.01〜15重量%であることが好ましく、0.1〜10重量%がより好ましい。
【0041】
前記重縮合工程における重縮合反応は、バルク重合、乳化重合、懸濁重合等の水中重縮合、溶液重合、界面重合等一般の重縮合法で実施することが可能であるが、好適には水中重縮合が用いられる。また、重縮合反応は、大気圧下で反応が可能であるが、ポリエステル分子量の高分子量化等を目的とした場合、減圧、窒素気流下等の一般的な条件を広く用いることができる。
【0042】
前記水中重縮合は、水系媒体を用いて行ってもよい。
本発明に用いることのできる水系媒体としては、例えば、蒸留水、イオン交換水等の水や、エタノール、メタノール等のアルコール類などが挙げられる。これらの中でも、エタノールや水であることが好ましく、蒸留水及びイオン交換水等の水が特に好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、水系媒体には、水混和性の有機溶媒を含んでいてもよい。水混和性の有機溶媒としては、例えば、アセトンや酢酸等が挙げられる。
【0043】
水系媒体での重縮合は、水相に作製される油滴表面で重縮合性単量体と触媒が相互作用するため、重縮合性単量体と油滴粒子表面の共界面活性剤親水性基のバランスが重要である。前記バランスが適当な範囲であると、粒子が安定化し、重縮合が十分に進行する等、反応性に優れるため好ましい。粒子表面で単量体が重縮合すると、新たに発現する疎水性の性質に従い、重縮合物は粒子内部へ引き込まれ、代わりにより親水性である低重合度成分が表面に現れるものと予測できる。この反応は重縮合体の重合度に従い、粒子内を物質が移動するものであり、さらに非常に低温下で重縮合が可能であるため、不純物や副生成物の発生が抑制できるばかりか、低分子量成分を塊状重合よりも低減することや、重合度の組成分布を均質に制御でき好ましい。
【0044】
また、水系媒体中での重縮合は、使用する重縮合触媒と使用する単量体の性質を制御することにより達成できる。例えば、重縮合触媒としては、界面活性能と重縮合触媒としての両方の性質を有する酸である、界面活性効果を有する酸(界面活性効果を有する有機硫黄酸を含む)を好ましく用いることができる。この場合、上述したように、重縮合触媒は水系媒体中に形成される油滴表面であるために、モノマーの水相への拡散を抑制し、更に粒子表面は界面活性効果有する触媒に覆われることにより、水による加水分解が抑制できるものと推測できる。つまり、油滴表面はバルク重合に近い状態となっている。よって、乳化重合等に認められるような、水相への拡散、またそれに起因する水相での粒子発生等がなく、また、生成するポリエステルがいわゆるミニエマルジョン重合における共界面活性剤の役割をして、オストワルド熟成を阻止するために、粒子径を調節でき、粒子製造工程中にその粒子径を保持し、粒子径分布を狭くすることができる。また、オストワルド熟成を防ぐため、ヘプタノールやオクタノールに代表される高級アルコール類、ヘキサデカンに代表される高級脂肪族炭化水素類を安定助剤として配合することも可能である。
【0045】
前記のように水中重縮合によりポリエステル粒子を作製した場合、水系媒体中に分散しているポリエステル粒子は、濾過等の公知の方法により、水系媒体と分離することができる。さらに、分離後、洗浄や乾燥などを行うことも好ましい。また、本発明のポリエステル粒子の表面に、公知の方法により表面処理を施してもよい。
【0046】
前記水中重縮合においては、分散効率の上昇のため、界面活性剤を添加することもできる。
本発明に用いることができる界面活性剤としては、例えば、硫酸エステル塩系、スルホン酸塩系、リン酸エステル系等のアニオン界面活性剤;アミン塩型、4級アンモニウム塩型等のカチオン界面活性剤;ポリエチレングリコール系、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物系、多価アルコール系等の非イオン系界面活性剤などが挙げられる。これらの中でもアニオン界面活性剤、カチオン系界面活性剤が好ましい。前記非イオン系界面活性剤は、前記アニオン界面活性剤又はカチオン系界面活性剤と併用することが好ましい。前記界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
アニオン界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、アリールアルキルポリエーテルスルホン酸ナトリウム、3,3’−ジスルホンジフェニル尿素−4,4’−ジアゾ−ビス−アミノ−8−ナフトール−6−スルホン酸ナトリウム、オルト−カルボキシベンゼン−アゾ−ジメチルアニリン、2,2’,5,5’−テトラメチル−トリフェニルメタン−4,4’−ジアゾ−ビス−β−ナフトール−6−スルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、ペンタデシル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、カプリン酸ナトリウム、カプリル酸ナトリウム、カプロン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、オレイン酸等などが挙げられる。
カチオン界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンジメチルアンモニウムクロライド、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルアンモニウムクロライドなどが挙げられる。
非イオン系界面活性剤としては、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイドとポリエチレンオキサイドの組み合わせ、ポリエチレングリコールと高級脂肪酸とのエステル、アルキルフェノールポリエチレンオキサイド、高級脂肪酸とポリエチレングリコールのエステル、高級脂肪酸とポリプロピレンオキサイドのエステル、ソルビタンエステル等を挙げることができる。
【0047】
本発明においては、油滴の平均粒子径を特定の範囲に保つために、共界面活性剤を併用することができる。その共界面活性剤としては、水不溶性若しくは難溶性で且つ単量体可溶性であり、詳細後述する、従来公知の“ミニエマルジョン重合”において用いられているものを用いることができる。
好適な共界面活性剤の例としては、ドデカン、ヘキサデカン、オクタデカン等の炭素数8〜30のアルカン類、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の炭素数8〜30のアルキルアルコール類、ラウリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の炭素数8〜30のアルキル(メタ)アクリレート類、ラウリルメルカプタン、セチルメルカプタン、ステアリルメルカプタン等の炭素数8〜30のアルキルメルカプタン類、及び、その他、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等のポリマー又はポリアダクト類、カルボン酸類、ケトン類、アミン類等が挙げられる。
【0048】
<有機溶剤>
また、前記重縮合工程における重縮合反応では、有機溶剤を用いて行ってもよい。
本発明に用いることができる有機溶剤の具体例としては、例えば、トルエン、キシレン、メシチレン等の炭化水素系溶媒、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン、ジクロロベンゼン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、p−クロロトルエン等のハロゲン系溶媒、3−ヘキサノン、アセトフェノン、ベンゾフェノン等のケトン系溶媒、ジブチルエーテル、アニソール、フェネトール、o−ジメトキシベンゼン、p−ジメトキシベンゼン、3−メトキシトルエン、ジベンジルエーテル、ベンジルフェニルエーテル、メトキシナフタレン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、フェニルスルフィド、チオアニソール等のチオエーテル溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、安息香酸メチル、フタル酸メチル、フタル酸エチル、酢酸セロソルブ等のエステル系溶媒、ジフェニルエーテル、又は、4−メチルフェニルエーテル、3−メチルフェニルエーテル、3−フェノキシトルエン等のアルキル置換ジフェニルエーテル、又は、4−ブロモフェニルエーテル、4−クロロフェニルエーテル、4−ブロモジフェニルエーテル、4−メチル−4’−ブロモジフェニルエーテル等のハロゲン置換ジフェニルエーテル、又は、4−メトキシジフェニルエーテル、4−メトキシフェニルエーテル、3−メトキシフェニルエーテル、4−メチル−4’−メトキシジフェニルエーテル等のアルコキシ置換ジフェニルエーテル、又は、ジベンゾフラン、キサンテン等の環状ジフェニルエーテル等のジフェニルエーテル系溶媒が挙げられ、これらは混合して用いてもよい。また、溶媒として容易に水と分液分離できるものが好ましく、特に平均分子量の高いポリエステルを得るためにはエステル系溶媒、エーテル系溶媒及びジフェニルエーテル系溶媒がより好ましく、アルキル−アリールエーテル系溶媒及びエステル系溶媒が特に好ましい。
【0049】
(樹脂組成物及び成形体)
本発明の樹脂組成物は、本発明のポリエステル粒子を少なくとも含有する樹脂組成物である。また、本発明の成形体は、本発明の樹脂組成物を成形して得られるものである。
本発明の樹脂組成物及び成形体の主材料である樹脂としては、広範な種類の樹脂を用いることができ、ポリオレフィン、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、フッ素樹脂、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ABS樹脂、ポリマーアロイ等を好ましく例示できる。
また、粒径の小さな本発明のポリエステル粒子を難燃剤として用いることで、通常のリン系難燃剤では難燃効果が十分ではなかったポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)に対しても、十分な相溶性が得られるため、高い難燃効果を得ることができ好ましい。
【0050】
本発明の樹脂組成物及び成形体は、樹脂の種類や使用目的にもよるが、主材料である樹脂の全量に対し、ポリエステル粒子を1〜50重量%使用していることが好ましく、5〜30重量%使用していることがより好ましい。上記範囲であると、難燃効果が十分得られ、また、コスト面においても優れるため好ましい。
【0051】
本発明の樹脂組成物の製造方法としては、特に制限はなく、公知の混合方法を用いることができ、公知の混練機を好適に用いることができる。
本発明の成形体の製造方法としては、特に制限はなく、公知の樹脂成形方法を用いることができ、例えば、公知の射出成形方法を好適に用いることができる。
成形体中のポリエステル粒子は、全体に均一に分布している必要はなく、用途等に応じ、成形体の一部に局在していても、成形体の表面のみにあってもよく、また、本発明のポリエステル粒子が主材料である樹脂に相溶していてもよい。
本発明の成形体は、用途に応じ、本発明の樹脂組成物と他の樹脂組成物とを同時に成形してもよく、成形物の一部が本発明の成形体であってもよい。
また、本発明の樹脂組成物は、公知の各種添加剤(例えば、無機充填剤、着色剤、可塑剤、離型剤など)を添加することができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、これらによって本発明は何ら限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
三ツ口フラスコ中でドデシルベンゼンスルホン酸5重量部をイオン交換水1,000重量部に混合し、溶解した。これに、表1における化合物(1−1)30重量部とシクロヘキサンジカルボン酸100重量部と1,4−ブタンジオール150重量部とを混合し、110℃に加熱し溶解したものを投入し、ホモジナイザー(IKA社製、ウルトラタックス)で10分間乳化した後、さらに超音波バス中で10分間乳化後、乳化物を撹拌しながらフラスコ中で80℃に維持し、更に18時間保持した。
これにより、体積平均粒径1μmのポリエステル粒子を得た。
【0054】
得られたポリエステル粒子20重量部と、ポリカーボネート樹脂(帝人化成社製、パンライトL−1225Z)80重量部を、2軸混練機((株)東洋精機製作所製、ラボプラストミル)にて混練し、コンパウンドペレットを得た。
このコンパウンドを、射出成形機(日精樹脂工業社製、EX500−5E)で、射出温度170℃、金型温度60℃の条件で、ISO3167の多目的試験片1A型と、UL2.0mm試験片を成形体として得た。この試験片を用いて、引張強度、破断伸び、シャルピー耐衝撃強度、UL燃焼試験を測定した。また、この試験片を温度65℃、湿度85%の恒温槽に1,000時間放置し、上記同様の機械強度、難燃性を測定した。
結果を表2にまとめた。
【0055】
(実施例2〜4)
実施例1において化合物(1−1)を用いる代わりに(1−2)〜(1−4)をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様にして成形体を得て、実施例1と同様の評価を実施した。結果を表2にまとめた。
【0056】
(実施例5及び6)
実施例1においてポリカーボネート樹脂を用いる代わりに、実施例5はポリエチレン樹脂(日本ポリエチレン社製、ノバテックHD−HJ360)、実施例6はポリ乳酸(三井化学社製、H−100)を用いる以外は、実施例1と同様にして成形体を得て、実施例1と同様の評価を実施した。結果を表2にまとめた。
【0057】
(実施例7及び8)
実施例1においてポリエステル粒子20重量部及びポリカーボネート樹脂(帝人化成社製、パンライトL−1225Z)80重量部を用いる代わりに、実施例7についてはポリエステル粒子5重量部及びポリカーボネート樹脂(帝人化成社製、パンライトL−1225Z)95重量部、実施例8についてはポリエステル粒子50重量部及びポリカーボネート樹脂(帝人化成社製、パンライトL−1225Z)50重量部を用いる以外は、実施例1と同様にして成形体を得て、実施例1と同様の評価を実施した。結果を表2に示す。
【0058】
(実施例9及び10)
実施例1において、乳化物を撹拌しながらフラスコ中で80℃に維持し、更に18時間保持した代わりに、実施例9については80℃で撹拌しながら50時間保持し、粒径50nmのポリエステル粒子を、実施例10については80℃で撹拌を行わず7時間放置し、粒径5μmのポリエステル粒子を得た以外は、実施例1と同様にして成形体を得て、実施例1と同様の評価を実施した。結果を表2にまとめた。
【0059】
(比較例1)
縮合リン酸エステル難燃剤(大八化学工業(株)製、PX2000)20重量部と、ポリエチレン樹脂(日本ポリエチレン社製、ノバテックHD−HJ360)80重量部を、2軸混練機((株)東洋精機製作所製、ラボプラストミル)にて混練、コンパウンドペレットを得た。
このコンパウンドを、射出成形機(日精樹脂工業社製、EX500−5E)で、射出温度170℃、金型温度60℃の条件で、ISO3167の多目的試験片1A型と、UL2.0mm試験片を得た。この試験片を用いて、引張強度、破断伸び、シャルピー耐衝撃強度、UL燃焼試験を測定した。また、この試験片を温度65℃、湿度85%の恒温槽に1,000時間放置し、上記同様の機械強度、難燃性を測定した。
結果を表2にまとめた。
【0060】
(比較例2)
比較例1においてポリエチレン樹脂を用いる代わりに、ポリカーボネート樹脂(帝人化成社製、パンライトL−1225Z)を用いた以外は、比較例1と同様に成形体を得て、比較例1と同様の評価を実施した。結果を表2にまとめた。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
表2に示すように、本発明のポリエステル粒子を難燃剤として用いた実施例1〜10の成形体は、初期の機械強度、難燃性が優れており、高温、多湿環境下でも、機械強度、難燃性を維持できた。
一方、比較例1の成形体は、初期の耐衝撃性が低く、難燃性もVレベルに至らなかった。更に高温多湿環境下で機械強度が著しく劣化した。また、比較例2の成形体は、初期の機械強度は、耐衝撃強度がやや弱い程度で、難燃性もUL−V−2レベルだが、高温多湿環境下で機械強度が著しく劣化し、難燃性もVレベルを確保できないまで劣化した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記式(I)〜(VI)のいずれか1つで表されるリン酸構造を構成単位として有し、
粒径が10μm以下であることを特徴とする
ポリエステル粒子。
【化1】

(式(I)〜(VI)中、R1、R2、R5及びR6はそれぞれ独立に、アルキレン基、又は、アリーレン基を表し、R3及びR4はそれぞれ独立に、アルキル基、又は、アリール基を表し、また、n及びmはそれぞれ独立に、2〜4の整数を表す。なお、波線部分はポリエステル中における他の構成単位と結合している部分である。)
【請求項2】
少なくとも、式(VII)〜(XII)で表される化合物、及び、重縮合性単量体を130℃以下の温度で重縮合する工程を含む請求項1に記載のポリエステル粒子の製造方法。
【化2】

(式(VII)〜(XII)中、R1、R2、R5及びR6はそれぞれ独立に、アルキレン基、又は、アリーレン基を表し、R3及びR4はそれぞれ独立に、アルキル基、又は、アリール基を表し、Mは1〜3価の金属原子を表し、n及びmはそれぞれ独立に、2〜4の整数を表し、また、p及びqはそれぞれ独立に、1〜3の整数を表す。)
【請求項3】
請求項1に記載のポリエステル粒子を少なくとも含有する樹脂組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の樹脂組成物を成形して得られる成形体。

【公開番号】特開2007−191617(P2007−191617A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−12270(P2006−12270)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】