説明

ポリエステル系偏平加工糸及びその製造方法並びにその繊維製品

【課題】染色性のバラツキが少なく、ソフトでクリンプがなく、光沢、軽量感に優れたポリエステル系偏平加工糸を提供し、またその偏平加工糸を工業的に得る。
【解決手段】ポリエステルマルチフィラメントからなる偏平加工糸であって、180℃30分での乾熱収縮率が7%以下、ヤング率が50CN/dtex以下であるポリエステル系偏平加工糸、及びこれを複屈折率Δnが0.020〜0.080のポリエステルマルチフィラメントを冷延伸し、次いで、6〜19%の熱緩和を行う間に、加熱体へ接触させることにより得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系偏平加工糸及びその製造方法並びにその繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
偏平加工糸は、その形態上の特徴から、光沢、風合い、軽量感を呈することから、衣料分野における素材として用いられている。従来、偏平加工糸を得る手段として、アクリル繊維、アセテート繊維等の溶剤可溶繊維を溶剤で処理して押し潰す方法、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維等の熱可塑性繊維を加熱ローラや加熱ギヤを通して押し潰す方法(特許文献1、2参照)や、ポリエステル繊維を加熱後ギヤ賦型加工して融着部と非融着部を一定ピッチで交互に繰り返し形成する方法(特許文献3参照)等が提案され、また実施もされている。
【0003】
しかしながら、これら従来法では、特に加熱ローラや加熱ギヤによる方法では、熱の不均一付与が生じ易く偏平加工糸の熱収縮が大きくバラツキも大きい、また染色性のバラツキも大きくなっている。また、ギヤ賦型加工による方法では、バラツキは改善されるが、クリンプのないプレーンな外観表面を有する加工糸を得ることは困難である。
【0004】
【特許文献1】特開昭53−45443号公報
【特許文献2】特開平7−238430号公報
【特許文献3】特開平10−226937号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、染色性のバラツキが少なく、ソフトでクリンプがなく、光沢、軽量感に優れたポリエステル系偏平加工糸を提供し、またそのポリエステル系偏平加工糸を工業的に得ること、さらにはそのポリエステル系偏平加工糸を用いた繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、180℃30分での乾熱収縮率が7%以下、ヤング率が50CN/dtex以下であるポリエステル系偏平加工糸、及び、複屈折率Δnが0.020〜0.080のポリエステルマルチフィラメントを冷延伸し、次いで、6〜19%の熱緩和を行う間に、加熱体へ接触させることを特徴とするポリエステル系偏平加工糸の製造方法、並びに、前記のポリエステル系偏平加工糸を含む繊維製品、にある。
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリエステル系偏平加工糸は、染色性のバラツキがなく、風合いがソフトで、クリンプがなくプレーンな表面で、糸割れのない偏平外観を有するものであり、かつ偏平加工糸であることによる光沢、透明感、軽量感を有するものである。本発明の製造方法によれば、原糸に未延伸糸、部分配向未延伸糸が用いられ、また仮撚機を、改造することなく、スピナー部を回避させるだけで使用でき、コストダウン上有利であるだけでなく、仮撚機の使用により均一熱付与が可能で、染色性、熱収縮性のバラツキなく安定に本発明のポリエステル系偏平加工糸を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のポリエステル系偏平加工糸は、ポリエチレンテレフタレート主体のポリエステルマルチフィラメントからなる偏平加工糸であり、180℃30分での乾熱収縮率が7%以下なる低収縮特性を有する。180℃30分での乾熱収縮率が7%を超えると、染色工程での乾熱収縮や湿熱処理による加工収縮が大きくなり、また収縮のバラツキが生じ易いため、加工皺や幅不同、段皺、光沢段、色段、ピン外れ等の問題が生じ、また生機幅に対して仕上幅が大きく減少し、カーテン等広幅が要求される用途では不都合を生じる。
【0009】
本発明のポリエステル系偏平加工糸は、そのヤング率が50CN/dtex以下であり、ヤング率が50CN/dtexを超えると、風合いが硬くなり、衣料分野やカーテン分野での商品性を低下させる。また、本発明のポリエステル系偏平加工糸は、偏平度(糸の幅/厚み)は3以上であることが好ましく、偏平度が3未満では、高度の光沢や透明感が得られ難い。
【0010】
次に、本発明のポリエステル系偏平加工糸の製造方法について説明すると、本発明のポリエステル系偏平加工糸は、複屈折率Δn0.020〜0.080のポリエステルマルチフィラメントを冷延伸し、次いで、6〜19%の熱緩和を行う間に、加熱体へ接触させることによって製造される。
【0011】
本発明の製造方法においては、仮撚加工における2ヒーター仮撚機を、改造することなく、スピナー部を回避させるだけで使用することができる。したがい、既存の仮撚機をそのスピナーを外すだけでも使用でき、専用の装置を必須とするものではない。
【0012】
製造の際に加工原糸として用いるポリエステルマルチフィラメントとしては、複屈折率Δnが0.020〜0.080であるポリエステル未延伸糸、好ましくは部分配向未延伸糸(POY)を用いる。ポリエステルマルチフィラメントの複屈折率Δnが0.020未満では、張力の影響を極めて受け易く、加工工程での取り扱いが困難であり、また原糸の糸質が経時的に変化し易く保管が困難であり、複屈折率Δnが0.080を超えると、加工糸のヤング率が高くなり、ソフトな風合いが得られず、また偏平加工糸を構成する単糸の融着部を形成するのが難くなる。
【0013】
加工原糸を構成するポリエステルは、複屈折率Δnが前記範囲を満足するポリエチレンテレフタレート主体のポリエステルが用いられるが、染色性を本発明の偏平加工糸の優れた特徴とする場合は、ポリエチレンテレフタレートにイソフタル酸、アジピン酸、5−ナトリウムイソフタル酸等の第3成分を共重合、ポリエチレングリコール等の低分子量化合物をブレンドしたポリマーを用いることが望ましい。
【0014】
本発明の製造方法において、かかる未延伸糸或いはPOYを、好ましくは緊張率20〜25%の室温下で冷延伸する。この冷延伸は、2対のローラ間で行うのがよく、冷延伸によって糸条を偏平化する。冷延伸した後は、6〜19%の緩和を行う間に糸条を加熱体へ接触させることが必要である。緩和率が6%未満では、単糸の融着部の形成が不十分となり、緩和率が19%を超えると、偏平加工糸としての巻き取りが不安定になるだけでなく、一度付与した偏平状態がもどり偏平度が低下する。
【0015】
本発明の製造方法において、2ヒーターの仮撚機を用いる場合、この緩和は、第2ヒーターゾーンで非接触状態下で行ってもよい。また、本発明の製造方法においては、加熱体の温度は、糸条の構成本数、走行速度、接触時間等にもよるが、210〜225℃であることが好ましい。
【0016】
本発明によるポリエステル系偏平加工糸は、衣料用途、建寝装用途での繊維製品の素材として好適に用いられ、本発明のポリエステル系偏平加工糸を含む繊維製品は、本発明のポリエステル系偏平加工糸の特徴であるバラツキのない染色性、クリンプのないプレーン表面で、ソフトな風合い、光沢感、透明感、軽量感が付与されたものとなる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例中における測定項目は、以下の方法によって求めた。
【0018】
偏平度:糸断面観察用に撮影した写真から加工糸の幅と厚みを計測し、幅/厚み比で求める。
ヤング率(初期引張抵抗度):JIS L1013に準拠して測定した。
乾熱収縮率(HAS):加工糸を枠周1m、10回巻きに綛取りし、0.033CN/dtexの荷重下での綛長がL0の試料を、乾燥機中で無荷重下180℃で30分間処理し 、0.033CN/dtexの荷重下での綛長L1を求め、次式により算出した。
HAS(%)=[(L0−L1)/L0]×100
【0019】
強伸度:JIS L1013−1999に準拠して測定。測定条件は、定速伸長型試験機使用、つかみ間隔20cm、引張り速度20cm/分、測定回数10回。
沸水収縮率(BWS):1dtexあたり0.034CNの張力下で試長1mの10回巻カセを準備し、1dtexあたり0.034CNの荷重を負荷して初期カセ長(L0)を測定し、そのカセを無荷重状態で沸騰水中に30分間浸漬した後、再び荷重をかけて測定カセ長(L1)を測定して次式より算出した。
BWS(%)=[(L0−L1)/L0]×100
【0020】
断面観察:パラフィン系包埋剤を加熱溶解し、糸を張った容器に流し入れて室温で冷却固化する。糸部分を中心に適当な大きさに切り出し、ミクロトーム(日本ミクロトーム社製RM・S)にセットし、厚さ約1μmの切片を切り出す。卵白−グリセリン溶液を薄く塗布したスライドグラスに、切り出した切片を貼付し、焦がさない様に加熱し卵白を固化させる。切片を貼付したスライドグラスをキシレンに10分程度浸漬し、パラフィン系包埋剤を溶解除去しスライドグラスを取り出し、乾燥する。切片を貼付した部分にマウント剤(流動パラフィン等)を一滴、滴下しカバーグラスで覆い顕微鏡観察する。顕微鏡はオムロン社製製VC4500−PCで350倍で観察した。
【0021】
(実施例1)
5−ナトリウムスルホイソフタル酸2モル%、アジピン酸5モル%を共重合したポリエチレンテレフタレートポリマーを、孔数48の丸断面の紡糸口金を用いて紡糸温度278℃、吐出量77g/分で溶融紡糸し、3000m/分で巻取って、Δnが0.033の260dtex/48フィラメントの未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を2本用いて引き揃え、装置として図1に示すスピナーなしの2ヒーター仮撚機を用いて、下記条件で、フィードローラ間での冷延伸、ヒーター接触による偏加熱、ヒーター非接触の熱緩和の順の工程の加工を、糸速43m/分で行った。
【0022】
第1フィードローラと第2フィードローラ間の第1オーバーフィード率:−20%
第2フィードローラと第1デリベリローラ間の第2オーバーフィード率:10%
第1デリベリローラと第2デリベリローラ間の第3オーバーフィード率:2.5%
第2フィードローラと第1デリベリローラ間の第1ヒーター温度:220℃
第1デリベリローラと第2デリベリローラ間の第2ヒーター温度:220℃
【0023】
得られた加工糸は、単糸総数96本、繊度472dtex、強度0.98CN/dtex、残留伸度90%であり、表1に示すように、偏平度7.5、BWS2.4%、HAS5.8%、ヤング率33CN/dtexで、風合がソフトで、単糸間の融着により糸割れのない、糸断面形状が偏平な、クリンプのないプレーンな表面で外観に優れた偏平加工糸であった。
【0024】
(比較例1)
実施例1において、その条件から下記条件のみを変更して、同様に加工を行った。
第2オーバーフィード率:0%
第3オーバーフィード率:0%
第2ヒーター温度:室温
得られた加工糸は、表1に示すように、HAS7.3%、ヤング率41.8CN/dtexで、単糸間の融着が弱いため糸割れが多く、糸断面形状が偏平とはならないものであり、偏平度の測定ができなかった。
【0025】
(比較例2)
実施例1において、原糸として使用した未延伸糸に代えて、同じポリマーから得たΔnが0.128の延伸糸である167dtex/48フィラメントの三角断面糸(強度2.8CN/dtex、破断伸度38%、BWS9.0%)を2本用い、実施例1と同じ加工条件で加工を行った。得られた加工糸は、表1に示すように、HAS6.5%、ヤング率69.4CN/dtexで、単糸間の融着が殆どなく、糸断面形状が偏平とはならず、目的とする偏平加工糸にはならなかった。
【0026】
(比較例3)
実施例1において、原糸として使用した未延伸糸に代えて、第3成分を含まないポリエチレンテレフタレートから得たΔnが0.161の延伸糸である167dtex/48フィラメントの丸断面糸(強度4.35cn/dtex、破断伸度30%、BWS9.2%)を2本用い、実施例1と同じ加工条件で加工を行った。得られた加工糸は、表1に示すように、HAS2.0%、ヤング率93.1CN/dtexで、単糸間の融着が殆どなく、糸断面形状が偏平とはならず、目的とする偏平加工糸にはならなかった。
【0027】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、染色性のバラツキのない、クリンプがなく、ソフトな風合い、光沢感、透明感、軽量感のあるポリエステル系偏平加工糸がポリエステル繊維製品のみならず、他繊維での製品展開に寄与しうるものであり、またかかるポリエステル系偏平加工糸を、加熱ローラ、加圧ローラ等を備えた装置を特に必要とせずに、既存の仮撚機の使用、延伸する前の未延伸糸或いはPOYの使用によって、製造コストが低く、経済的に有利に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のポリエステル系偏平加工糸を製造する際に用いる加工装置の一例の概略工程図である。
【符号の説明】
【0030】
1 原糸
2 第1フィードローラ
3 第2フィードローラ
4 第1ヒーター
5 第1デリベリローラ
6 第2ヒーター
7 第1デリベリローラ
8 ガイド
9 巻取りローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
180℃30分での乾熱収縮率が7%以下、ヤング率が50CN/dtex以下であるポリエステル系偏平加工糸。
【請求項2】
複屈折率Δnが0.020〜0.080のポリエステルマルチフィラメントを冷延伸し、次いで、6〜19%の熱緩和を行う間に、加熱体へ接触させることを特徴とするポリエステル系偏平加工糸の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のポリエステル系偏平加工糸を含む繊維製品。


【図1】
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【公開番号】特開2006−52476(P2006−52476A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−232969(P2004−232969)
【出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【出願人】(301067416)三菱レイヨン・テキスタイル株式会社 (102)
【Fターム(参考)】