説明

ポリエステル系繊維

【課題】通常のポリエステル繊維の耐熱性、強伸度など繊維物性を維持し、燃焼時に溶融滴下しない難燃性ポリエステル系繊維を提供する。
【解決手段】平均層厚が500Å以下である層状化合物と分散媒を撹拌混合した後、水溶性または水混和性のリン系難燃剤を添加することにより得られる処理された層状化合物と、熱可塑性ポリエステル樹脂、とからなるポリエステル組成物より形成されるポリエステル系繊維である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリエステル樹脂および層状化合物を含有するポリエステル組成物より形成され、燃焼時のドリップ性が改善されたポリエステル系繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンテレフタレートを主体とするポリエステルからなる繊維は、高融点、高弾性率で優れた耐熱性、耐薬品性を有している。このため、カーテン、敷物、衣料、毛布、シーツ地、テーブルクロス、椅子張り地、壁装材、かつら、ヘアーウィッグ、付け毛などの人工毛髪、自動車内装資材、屋外用補強材、安全ネットなどに広く使用されている。
【0003】
しかしながら、ポリエチレンテレフタレートを代表とするポリエステル繊維は、可燃性素材であり、燃焼しやすいが、燃焼時に溶融滴下し、繊維の溶融によるやけどや着火部の火は消えたとしても滴下した火でやけどしたり延焼したりする問題があった。
【0004】
ポリエステル繊維の耐燃性を向上させようとする試みは種々なされている。たとえば、ポリエステル樹脂にリン原子を含有する難燃モノマーを共重合する方法や、ポリエステル繊維に難燃剤を含有させる方法などが知られている。前者の難燃モノマーを共重合する方法としては、たとえば、特公昭55−41610号公報には、リン原子が環員子となっていて熱安定性の良好なリン化合物を共重合する方法、また、特公昭53−13479号公報には、カルボキシホスフィン酸を共重合する方法、特開平11−124732号公報には、ポリアリレートを含むポリエステルにリン化合物を配合または共重合する方法が提案されている。一方、後者の難燃剤を含有させる方法としては、特公平3−57990号公報には、微粒子のハロゲン化シクロアルカン化合物をポリエステル繊維に含有させる方法、また、特公平1−24913号公報には、臭素原子含有アルキルシクロヘキサンを含有させる方法などが提案されている。
【0005】
これらの方法を用いた難燃ポリエステル繊維は、製糸性が低かったり、繊維の機械的性質を低下させたり、燃焼時に有毒ガスが発生したりする欠点があるばかりでなく、消火機構がすべて溶融滴下によるものばかりであり、難燃性が付与されていないポリエステル繊維と同様に、溶融滴下による問題が存在する。
【0006】
一方、燃焼時の溶融滴下を防止する試みがなされており、たとえば、特開平5−9808号公報には、リン系難燃剤と架橋助剤を含有するポリエステル繊維に電子線を照射し、溶融滴下を防止する方法、特開平7−166421号公報には、炭化を促進するリン系化合物を含有させ、燃焼時に炭化させて溶融滴下を防止する方法、また、特開平8−170223号公報、特開平9−268423号公報には、官能基を有するシリコーンオイルを含有させ、燃焼時の溶融滴下を防止する方法などが提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、通常のポリエステル繊維の耐熱性、強伸度など繊維物性を維持し、燃焼時に溶融滴下しない難燃性ポリエステル系繊維を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成させるにいたった。
【0009】
すなわち、本発明は、ポリエーテル化合物およびシラン化合物からなる群から選択される少なくとも1種で処理された層状化合物と熱可塑性ポリエステル樹脂とを含有するポリエステル組成物より形成されるポリエステル系繊維に関する。
【0010】
さらに、リン系難燃剤を含むことが好ましい。
【0011】
前記熱可塑性ポリエステル樹脂が、反応型リン系難燃剤が共重合された熱可塑性共重合ポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0012】
前記ポリエーテル化合物が、環状炭化水素基を有するものであることが好ましい。
【0013】
前記ポリエーテル化合物が下記一般式(1)で表わされることが好ましい。
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、−A−は、−O−、−S−、−SO−、−SO2−、−CO−、炭素数1〜20のアルキレン基、または炭素数6〜20のアルキリデン基であり、R1〜R8は、いずれも水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜5の1価の炭化水素基、R9、R10はいずれも炭素数1〜5の2価の炭化水素基であり、R11、R12はいずれも水素原子、炭素数1〜20の1価の炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。mおよびnはオキシアルキレン単位の繰返し単位数を示し、2≦m+n≦50である。)
【0016】
前記シラン化合物が下記一般式(2)で表わされるものであることが好ましい。
YnSiX4-n (2)
(ただし、nは0〜3の整数であり、Yは、炭素数1〜25の炭化水素基、および炭素数1〜25の炭化水素基と置換基から構成される有機官能基であり、Xは加水分解性基および/または水酸基である。n個のY、n個のXは、それぞれ同種でも異種でもよい。)
【0017】
前記層状化合物の平均層厚が500Å以下であることが好ましい。
【0018】
前記層状化合物の最大層厚が2000Å以下であることが好ましい。
【0019】
樹脂組成物中の層状化合物の平均アスペクト比(層長さ/層厚の比)が10〜300であることが好ましい。
【0020】
前記層状化合物が層状ケイ酸塩であることが好ましい。
【0021】
前記リン系難燃剤が、ホスフェート系化合物、ホスホネート系化合物、ホスフィネート系化合物、ホスフィンオキサイド系化合物、ホスホナイト系化合物、ホスフィナイト系化合物およびホスフィン系化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【0022】
さらに、本発明は、水溶性または水混和性のリン系難燃剤で処理された層状化合物と、熱可塑性ポリエステル樹脂、とからなるポリエステル組成物より形成されるポリエステル系繊維に関する。
【0023】
前記層状化合物の平均層厚が500Å以下であることが好ましい。
【0024】
前記層状化合物の最大層厚が2000Å以下であることが好ましい。
【0025】
樹脂組成物中の層状化合物の平均アスペクト比(層長さ/層厚の比)が10〜300であることが好ましい。
【0026】
前記層状化合物が層状ケイ酸塩であることが好ましい。
【0027】
前記水溶性または水混和性のリン系難燃剤が、ジエチル−N、N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノメチルホホネート、トリス(ヒドロキシアルキル)ホスフィン、トリス(ヒドロキシアルキル)ホスフィンオキシド類、アルキル−ビス(ヒドロキシアルキル)ホスフィンオキシド類、アルキル−ビス(ヒドロキシカルボニルアルキル)ホスフィンオキシド類、ジポリオキシアルキレンヒドロキシアルキルホスフェート類、アルキル(ヒドロキシカルボニルアルキル)ホスフィン酸類および縮合リン酸エステル類からなる群より選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
熱可塑性ポリエステル樹脂および層状化合物を含有するポリエステル組成物より形成され、通常のポリエステル繊維の耐熱性、強伸度など繊維物性を維持し、燃焼時に溶融滴下しない難燃性ポリエステル系繊維を提供し、燃焼時のドリップ性が改善されたポリエステル系繊維を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明で用いられる熱可塑性ポリエステル樹脂とは、ジカルボン酸化合物および/またはジカルボン酸のエステル形成性誘導体を主成分とする酸成分、ジオール化合物および/またはジオール化合物のエステル形成性誘導体を主成分とするジオール成分との反応により得られる従来公知の任意の熱可塑性ポリエステル樹脂である。
【0030】
前記の主成分とするとは、酸成分またはジオール成分中に占めるそれぞれの割合が70%以上、さらには80%以上であることを意図し、上限は100%である。
【0031】
熱可塑性ポリエステル樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサン−1,4−ジメチレンテレフタレート、ポリネオペンチルテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリヘキサメチレンナフタレートなどがあげられる。また、これらの樹脂の製造に使用される酸成分および/またはジオール成分を2種以上用いて製造した共重合ポリエステルがあげられる。
【0032】
前記熱可塑性ポリエステル樹脂の中では、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサン−1,4−ジメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが好ましい。
【0033】
前記熱可塑性ポリエステル樹脂は単独で、または組成もしくは成分の異なるものおよび/または固有粘度の異なるものを2種以上組み合わせて使用し得る。
【0034】
前記熱可塑性ポリエステル樹脂の分子量は、フェノール/テトラクロロエタン(5/5重量比)混合溶媒を用いて、25℃で測定した固有粘度が0.3〜1.5(dl/g)のものが好ましく、より好ましくは0.3〜1.2(dl/g)であり、さらに好ましくは0.4〜1.0(dl/g)である。固有粘度が0.3(dl/g)未満であると、溶融粘度が低くなりすぎるため、溶融紡糸が困難になったり、延伸、熱処理の過程または製品加工時に短繊維間の融着が発生する傾向がある。また、1.5(dl/g)を超えると、溶融粘度が高くなりすぎ、溶融紡糸が困難になる傾向がある。
【0035】
共重合ポリエステルに用いられる前記酸成分としては、たとえば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、セバシン酸などがあげられ、これらの置換体や誘導体も使用し得る。
【0036】
また、前記ジオール成分としては、たとえば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどがあげられる。
【0037】
また、p−オキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸およびこれらのエステル形成性誘導体も使用し得る。
【0038】
本発明で用いられる層状化合物とは、ケイ酸塩、リン酸ジルコニウムなどのリン酸塩チタン酸カリウムなどのチタン酸塩、タングステン酸ナトリウムなどのタングステン酸塩、ウラン酸ナトリウムなどのウラン酸塩、バナジウム酸カリウムなどのバナジウム酸塩、モリブデン酸マグネシウムなどのモリブデン酸塩、ニオブ酸カリウムなどのニオブ酸塩、黒鉛からなる群より選択される1種以上の化合物があげられる。なかでも、入手の容易性、取り扱い性の点から層状ケイ酸塩が好ましい。
【0039】
前記層状ケイ酸塩とは、主として酸化ケイ素の四面体シートと主として金属水酸化物の八面体シートから形成され、たとえば、スメクタイト族粘土および膨潤性雲母などがあげられる。
【0040】
前記スメクタイト族粘土は下記一般式(3)
10.20.61231410(OH)2・nH2O (3)
(ただし、X1はK、Na、1/2Caおよび1/2Mgからなる群より選ばれる1種以上であり、Y1はMg、Fe、Mn、Ni、Zn、Li、AlおよびCrからなる群より選ばれる1種以上であり、Z1はSiおよびAlからなる群より選ばれる1種以上である。なお、H2Oは層間イオンと結合している水分子を表わすが、nは層間イオンおよび相対湿度に応じて著しく変動する。)で表わされる、天然または合成されたものである。前記スメクタイト族粘土の具体例としては、たとえば、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、鉄サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチブンサイト、ベントナイトなど、またはこれらの置換体、誘導体あるいはこれらの混合物があげられる。なかでも、層状化合物をポリオール化合物またはシラン化合物で処理したときの層状化合物の層間の乖離性、熱可塑性樹脂と混練した場合の層状化合物の微分散性の点でモンモリロナイト、ヘクトライト、ベントナイトが好ましい。
【0041】
また、膨潤性雲母は下記一般式(4)
20.51.0223(Z2410)(F、OH)2 (4)
(ただし、X2はLi、Na、K、Rb、Ca、BaおよびSrからなる群より選ばれる1種以上であり、Y2はMg、Fe、Mn、Ni、LiおよびAlからなる群より選ばれる1種以上であり、Z2はSi、Ge、Fe、BおよびAlからなる群より選ばれる1種以上である。)で表わされる、天然または合成されたものである。これらは、水、水と任意の割合で相溶する極性溶媒または水と前記極性溶媒の混合溶媒中で膨潤する性質を有する。たとえば、リチウム型テニオライト、ナトリウム型テニオライト、リチウム型四ケイ素雲母、ナトリウム型四ケイ素雲母など、またはこれらの置換体、誘導体あるいはこれらの混合物があげられる。なかでも、層状化合物をポリオール化合物またはシラン化合物で処理したときの層状化合物の層間の乖離性、熱可塑性樹脂と混練した場合の層状化合物の微分散性の点でリチウム型四ケイ素雲母、ナトリウム型四ケイ素雲母が好ましい。
【0042】
前記膨潤性雲母の中には、バーミキュライト類と似通った構造を有するものもあり、このようなバーミキュライト類相当品なども使用し得る。前記バーミキュライト類相当品には3八面体型と2八面体型がある。ここで、3八面体型とは、金属イオンを6つのOH−またはO2-が囲んだ八面体が稜を共有して2次元的に広がった八面体シートのうち、2価の金属イオンを含む八面体の金属イオン位置すべてが満席になっているものをいい、2八面体型とは3価の金属イオンを含む八面体のように八面体の金属イオン位置の3分の1が空席になっているものをいう。
【0043】
層状ケイ酸塩の結晶構造は、板状の結晶構造を有しており、板状結晶の面内の直交する二軸をa軸、b軸といい、板状結晶面に垂直に交差する軸をc軸という。本発明においてはc軸方向に規則正しく積み重なった純粋度が高いものが好ましいが、結晶周期が乱れ、複数種の結晶構造が交じり合った、いわゆる混合層鉱物も使用され得る。
【0044】
層状ケイ酸塩は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中では、モンモリロナイト、ベントナイト、ヘクトライトまたは層間にナトリウムイオンを有する膨潤性雲母が好ましい。
【0045】
本発明の層状ケイ酸塩はポリエーテル化合物およびシラン化合物からなる群から選択される少なくとも1種により処理したものを用いる。
【0046】
前記ポリエーテル化合物とは、主鎖がポリオキシエチレンやポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体などのようなポリオキシアルキレンである化合物を意図し、繰返し単位が2〜100程度のものを意図する。前記ポリエーテル化合物の側鎖および/または主鎖中に、炭化水素基、エステル結合で結合している基、エポキシ基、アミノ基、カルボニル基、アミド基、ハロゲン原子などの置換基を有していてもよい。
【0047】
前記ポリエーテル化合物は、水または水を含有する極性溶媒に可溶であることが好ましい。具体的には、たとえば、室温の水100gに対する溶解度が1g以上であることが好ましく、5g以上であることがより好ましく、10g以上であることがさらに好ましい。溶解度が1g未満であると、層状化合物を処理したときに、層状化合物の層間の乖離が不充分となり、熱可塑性樹脂と混練した場合の層状化合物の微分散性が不充分となる傾向がある。ここでいう極性溶媒とは、たとえば、メタノール、エタノールなどのアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド化合物、ピリジンなどの含窒素化合物などがあげられる。
【0048】
本発明で用いられるポリエーテル化合物の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール類、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノエチルエーテルなどのポリアルキレングリコールモノエーテル類、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリプロピレングリコールジエチルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルなどのポリアルキレングリコールジエーテル類、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのポリアルキレングリコールモノエステル類、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリアルキレングリコールジエステル類、ビス(ポリエチレングリコール)ブチルアミン、ビス(ポリエチレングリコール)オクチルアミンなどのアミン類、ポリエチレングリコールビスフェノールAエーテル、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレートなどの変性ビスフェノール類などがあげられる。なかでも、熱可塑性樹脂と混練した場合の層状化合物の微分散性の点でポリエチレングリコールビスフェノールAエーテル、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレートなどの変性ビスフェノール類が好ましい。
【0049】
本発明のエーテル化合物の中では、環状炭化水素基を有するものが好ましく、芳香族炭化水素基を有するものがより好ましく、下記一般式(1)
【0050】
【化2】

【0051】
(式中、−A−は、−O−、−S−、−SO−、−SO2−、−CO−、炭素数1〜20のアルキレン基、または炭素数6〜20のアルキリデン基であり、R1〜R8は、いずれも水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜5の1価の炭化水素基、R9、R10はいずれも炭素数1〜5の2価の炭化水素基であり、R11、R12はいずれも水素原子、炭素数1〜20の1価の炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。mおよびnはオキシアルキレン単位の繰返し単位数を示し、2≦m+n≦50である。)で表わされるものが層状化合物の分散性および熱安定性の点から好ましい。
【0052】
ポリエーテル化合物の使用量は、層状化合物と熱可塑性ポリエステル樹脂との親和性、ポリエステル系繊維中での層状化合物の分散性が充分に高まるように調整し得る。したがって、ポリエーテル化合物の使用量は、一概に数値で限定されるものではないが、層状化合物100重量部に対し、0.1〜200重量部含有されるのが好ましく、0.3〜160重量部がより好ましく、0.5〜120重量部がさらに好ましい。含有量が0.1重量部未満であると層状化合物の微分散化効果が不充分となる傾向があり、上限値の200重量部を超えても効果は変わらない傾向があるので、200重量部以上使用する必要はない。
【0053】
また、本発明では層状化合物の処理に下記一般式(2)
YnSiX4-n (2)
(ただし、nは0〜3の整数であり、Yは、炭素数1〜25の炭化水素基、および炭素数1〜25の炭化水素基と置換基から構成される有機官能基であり、Xは加水分解性基および/または水酸基である。n個のY、n個のXは、それぞれ同種でも異種でもよい。)で表わされるシラン化合物を使用してもよい。
【0054】
前記シラン化合物の具体例としては、たとえば、メチルトリメトキシシラン、2−エチルへキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシランなどのアルキル基を有する化合物、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどの炭素炭素二重結合を有する化合物、γ−ポリオキシエチレンプロピルトリメトキシシラン、2−エトキシエチルトリメトキシシランなどのエーテル結合を有する化合物、γ−グリジドキシプロピルトリメトキシシランナどのエポキシ基を有する化合物、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基を有する化合物などがあげられる。なかでも、熱可塑性樹脂と混練した場合の層状化合物の微分散性の点でγ−ポリオキシエチレンプロピルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0055】
前記シラン化合物の置換体または誘導体もまた使用し得る。これらのシラン化合物は、単独または2種以上を組み合わせて使用され得る。
【0056】
シラン化合物の使用量は、層状化合物と熱可塑性ポリエステル樹脂との親和性、層状化合物の分散性が充分に高まるように調製し得る。必要であるならば、異種の官能基を有する複数種のシラン化合物を併用し得る。したがって、シラン化合物の使用量は、一概に数値で限定されるものではないが、層状化合物100重量部に対し、0.1〜200重量部含有されるのが好ましく、0.3〜160重量部がより好ましく、0.5〜120重量部がさらに好ましい。含有量が0.1重量部未満であると層状化合物の微分散化効果が不充分となる傾向があり、上限値の200重量部を超えても効果は変わらない傾向があり、200重量部以上使用する必要はない。
【0057】
本発明において、ポリエーテル化合物およびシラン化合物からなる群から選択される少なくとも1種で層状化合物を処理する方法はとくに限定されず、たとえば、以下に示すような方法で行ない得る。
【0058】
まず、層状化合物と分散媒を攪拌混合する。前記分散媒とは水または水を含有する極性溶媒を意図する。層状化合物と分散媒との攪拌の方法はとくに限定されず、たとえば、従来公知の湿式攪拌機を用いて行なわれる。該湿式攪拌機としては、攪拌翼が高速回転して攪拌する高速攪拌機、高せん断速度がかかっているローターとステーター間の間隙で試料を湿式粉砕する湿式ミル類、硬質媒体を利用した機械的湿式粉砕機類、ジェットノズルなどで試料を高速度で衝突させる湿式衝突粉砕機類、超音波を用いる湿式超音波粉砕機などをあげることができる。より効率的に混合したい場合は、攪拌の回転数を1000rpm以上、好ましくは1500rpm以上、より好ましくは2000rpm以上にするか、または500(1/秒)以上、好ましくは1000(1/秒)、さらに好ましくは1500(1/秒)以上のせん断速度を加える。回転数の上限値は約25000rpm、せん断速度の上限値は約500000(1/秒)であることが好ましい。上限値を超える値で攪拌を行なったり、せん断を加えてもそれ以上変わらない傾向があるため、上限値を超える値で行なう必要はない。また、混合に要する時間は1分以上行なうのが好ましい。ついで、ポリエーテル化合物やシラン化合物を加えてから同様の条件でさらに攪拌を続け、充分に混合する。混合時の温度は室温で充分であるが、必要に応じて加温してもよい。加温時の最高温度は用いるポリエーテル化合物またはシラン化合物の分解温度未満であり、かつ分散媒の沸点未満であれば任意に設定され得る。そののち、乾燥し、必要に応じて粉体化する。
【0059】
前記層状化合物は、熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、0.1〜30重量部含有されるのが好ましく、0.3〜25重量部がより好ましく、0.5〜20重量部がさらに好ましい。含有量が0.1重量部未満であると層状化合物含有による補強効果が不充分となる傾向があり、30重量部を超えると強伸度などの繊維物性が低下する傾向がある。
【0060】
本発明のポリエステル系繊維中で分散している層状化合物の構造は、使用前の層状化合物が有していたような、層が多数積層したμmサイズの凝集構造とは全く異なる。すなわち、層状化合物の層同士が乖離し、互いに独立して細分化する。その結果、層状化合物はポリエステル樹脂中で非常に細かくお互いに独立した薄板状で分散し、その数は、使用前の層状化合物に比べて著しく増大する。このような薄板状の層状化合物の分散状態は以下に述べる等価面積円直径[D]、アスペクト比(層長さ/層厚の比率)、分散粒子数[N]、最大層厚および平均層厚で表現される。
【0061】
まず、等価面積円直径[D]を顕微鏡などで得られる像内でさまざまな形状で分散している個々の層状化合物の該顕微鏡像上での面積と等しい面積を有する円の直径であると定義する。その場合、樹脂組成物中に分散した層状化合物のうち、等価面積円直径[D]が3000Å以下である層状化合物の数の比率は20%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましい。等価面積円直径[D]が3000Å以下である比率が20%未満であると、ポリエステル系繊維の燃焼時の滴下防止効果や繊維物性の改良効果が不充分となる傾向がある。また、本発明のポリエステル系繊維中の層状化合物の等価面積円直径[D]の平均値は5000Å以下が好ましく、40000Å以下がより好ましく、3500Å以下がさらに好ましい。等価面積円直径[D]の平均値が5000Åを超えると、ポリエステル系繊維の燃焼時の滴下防止効果や繊維物性の改良効果が不充分となる傾向がある。
【0062】
平均アスペクト比を、樹脂組成物中に分散した層状化合物の層長さ/層厚の比の平均値であると定義する。この場合、本発明のポリエステル繊維中の層状化合物の平均アスペクト比は10〜300が好ましく、15〜300がより好ましく、20〜300がさらに好ましい。層状化合物の平均アスペクト比が10未満であると、ポリエステル系繊維の燃焼時の滴下防止効果や繊維物性の改良効果が不充分となる傾向がある。また、300を超えても効果は変わらない傾向のため、平均アスペクト比を300以上にする必要はない。
【0063】
また、分散粒子数[N]を樹脂組成物の面積100μm2における層状化合物の単位重量当りの分散粒子数であると定義する。この場合、[N]は30以上であることが好ましく、45以上がより好ましく、60以上がさらに好ましい。[N]が30未満になると、ポリエステル系繊維の燃焼時の滴下防止効果や繊維物性の改良効果が不充分となる傾向がある。[N]には上限値はないが、1000程度を超えると、それ以上効果は変わらない傾向なので、それ以上大きくする必要はない。
【0064】
また、平均層厚を、薄板状で分散した層状化合物の層厚みの数平均値であると定義する。この場合、層状化合物の平均層厚は500Å以下が好ましく、450Åがより好ましく、400Åがさらに好ましい。平均層厚が500Åを超えると、ポリエステル系繊維の燃焼時の滴下防止効果や繊維物性の改良効果が不充分となる傾向がある。平均層厚に下限値はないが、50Åより大きいことが好ましい。
【0065】
また、最大層厚を薄板状で分散した層状化合物の層厚みの最大値であると定義する。この場合、層状化合物の最大層厚は2000Å以下が好ましく、1800Åがより好ましく、1500Åがさらに好ましい。最大層厚が2000Åを超えると、ポリエステル系繊維の燃焼時の滴下防止効果や繊維物性の改良効果が不充分となる傾向がある。最大層厚に下限値はないが、100Åより大きいことが好ましい。
【0066】
本発明で用いられる添加型および/または反応型のリン系難燃剤は、とくに限定されることはなく、通常一般に用いられるリン系難燃剤が使用でき、代表的には、ホスフェート系化合物、ホスホネート系化合物、ホスフィネート系化合物、ホスフィンオキサイド系化合物、ホスホナイト系化合物、ホスフィナイト系化合物、ホスフィン系化合物などの有機リン系化合物があげられる。
【0067】
添加型リン系難燃剤の具体例としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(フェニルフェニル)ホスフェート、トリネフチルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、トリフェニルホスフィンオキサイド、トリクレジルホスフィンオキサイド、メタンホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジエチルなどのほか、レゾルシノールポリフェニルホスフェート、レゾルシノールポリ(ジ−2,6−キシリル)ホスフェート、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート、ハイドロキノンポリ(2,6−キシリル)ホスフェートなど、下記一般式(5)で表わされる縮合リン酸エステル系化合物があげられる。
【0068】
【化3】

【0069】
(式中、R13〜R17は一価の芳香族炭化水素基または脂肪族炭化水素基、R18、R19は二価の芳香族炭化水素基、pは0〜15を示し、p個のR15およびR18はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【0070】
反応型リン系難燃剤の具体例としては、ジエチル−N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノメチルホスホネート、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、トリス(3−ヒドロキシプロピル)ホスフィン、トリス(4−ヒドロキシブチル)ホスフィン、トリス(3−ヒドロキシプロピル)ホスフィンオキシド、トリス(3−ヒドロキシブチル)ホスフィンオキシド、3−(ヒドロキシフェニルホスフィノイル)プロピオン酸、一般式(6)で表わされるアルキル−ビス(ヒドロキシアルキル)ホスフィンオキシド類、一般式(7)で表わされるアルキル−ビス(ヒドロキシカルボニルアルキル)ホスフィンオキシド類およびその誘導体、一般式(8)で表わされるジポリオキシアルキレンヒドロキシアルキルホスホネート、一般式(9)で表わされるアルキル(ヒドロキシカルボニルアルキル)ホスフィン酸類およびその誘導体などがあげられる。
【0071】
【化4】

【0072】
(式中、R20は炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基または、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、qは1〜12の整数を示す。)
【0073】
【化5】

【0074】
(式中、R21は炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基または、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、rは1〜11の整数を示す。)
【0075】
【化6】

【0076】
(式中、s、tは1〜20の整数を示す。)
【0077】
【化7】

【0078】
(式中、R22は炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基または、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、uは1〜11の整数を示す。)
【0079】
前記リン系難燃剤は、単独または2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0080】
本発明のポリエステル系繊維において、熱可塑性ポリエステル100重量部に対して、リン系難燃剤の使用量はリン原子量換算で0.01〜15重量部であり、0.05〜10重量部がより好ましく、0.1〜8重量部がさらに好ましい。添加量が0.01重量部より少ないと難燃効果が得られ難くなる傾向がある。15重量部を超えると、機械的特性が損なわれる傾向がある。また、反応型難燃剤を用いる場合には、熱可塑性ポリエステル樹脂に添加して使用してもよいが、反応させて難燃剤共重合ポリエステルとして使用してもよい。共重合ポリエステルの製造は、公知の方法を用いることができ、ジカルボン酸ならびにその誘導体、ジオール成分ならびにその誘導体および反応型難燃剤を混合し重縮合する方法が好ましい。また、熱可塑性ポリエステルをエチレングリコールなどのジオール成分を用いて解重合し、解重合時に反応型難燃剤を混在させ、再度、重縮合させて共重合体を得る方法などが好ましい。
【0081】
さらに、本発明は、水溶性または水混和性のリン系難燃剤で処理された層状化合物と、熱可塑性ポリエステル樹脂、とからなるポリエステル組成物より形成されるポリエステル系繊維に関する。
【0082】
本発明で用いられる水溶性または水混和性のリン系難燃剤の具体例としては、ジエチル−N、N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノメチルホホネート、一般式(10)で表わされるトリス(ヒドロキシアルキル)ホスフィン類、一般式(11)で表わされるトリス(ヒドロキシアルキル)ホスフィンオキシド類、一般式(12)で表わされるアルキル−ビス(ヒドロキシアルキル)ホスフィンオキシド類、一般式(13)で表わされるアルキル−ビス(ヒドロキシカルボニルアルキル)ホスフィンオキシド類、一般式(14)で表わされるジポリオキシアルキレンヒドロキシアルキルホスフェート類、一般式(15)で表わされるアルキル(ヒドロキシカルボニルアルキル)ホスフィン酸類、一般式(16)で表わされる縮合リン酸エステル類などがあげられる。
【0083】
(HO(CH2n3P (10)
(式中、nは1〜8の整数を表わす。)
【0084】
【化8】

【0085】
(式中、nは1〜8の整数を表わす。)
【0086】
【化9】

【0087】
(式中、R23は炭素数1〜20の1価の炭化水素基、mは1〜8の整数を表わす。)
【0088】
【化10】

【0089】
(式中、R23は炭素数1〜20の1価の炭化水素基、eは1〜7の整数を表わす。)
【0090】
【化11】

【0091】
(式中、fは1〜8の整数を、gは1〜40の整数を表わす。)
【0092】
【化12】

【0093】
(式中、R23は炭素数1〜20の1価の炭化水素基、hは1〜7の整数を表わす。)
【0094】
【化13】

【0095】
(式中、R23、R24は炭素数1〜20の1価の炭化水素基、i、jは1〜8の整数を表わす。)
【0096】
本発明の水溶性または水混和性のリン系難燃剤の中では、前記一般式(12)、(14)または(16)で表わされる化合物が好ましい。
【0097】
水溶性または水混和性のリン系難燃剤の使用量は、層状化合物と熱可塑性ポリエステル樹脂との親和性、ポリエステル系繊維中での層状化合物の分散性が充分に高まるように調整し得る。したがって、リン系難燃剤の使用量は、一概に数値で限定されるものではないが、層状化合物100重量部に対し、0.1〜200重量部含有されるのが好ましく、0.3〜160重量部がより好ましく、0.5〜120重量部がさらに好ましい。含有量が0.1重量部未満であると層状化合物の微分散化効果が不充分となる傾向があり、上限値の200重量部を超えても効果は変わらない傾向となるので、200重量部以上使用する必要はない。
【0098】
本発明において、水溶性または水混和性のリン系難燃剤で層状化合物を処理する方法はとくに限定されず、たとえば、前記ポリエーテル化合物やシラン化合物で層状化合物を処理した方法と同様に行ない得る。
【0099】
本発明の層状化合物を含有するポリエステル組成物の製造方法はとくに制限されるものではなく、たとえば、熱可塑性ポリエステルおよび層状化合物とを種々の一般的な混練機を用いて溶融混練する方法をあげることができる。混練機の例としては、一軸押し出し機、二軸押し出し機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどがあげられ、とくにせん断効率の高い混練機が好ましい。
【0100】
混練する順番はとくに限定されず、熱可塑性ポリエステル樹脂、添加型リン系難燃剤および層状化合物は上記の混練機に一括投入して溶融混練してもよく、あるいは熱可塑性ポリエステル樹脂と層状化合物を混練した後に添加型リン系難燃剤を添加混合してもよく、また、予め溶融状態にした熱可塑性ポリエステル樹脂に層状化合物および添加型リン系難燃剤を添加混練してもよい。
【0101】
また、反応型難燃剤の場合には、公知の方法により、熱可塑性ポリエステル樹脂中に共重合しておくのがよい。
【0102】
本発明のポリエステル系繊維は、層状化合物を含有するポリエステル組成物を用い、通常の溶融紡糸法で製造することができる。すなわち、まず、押し出し機、ギアポンプ、口金などの温度を250〜320℃とし溶融紡糸し、紡出糸条を加熱筒を通過させた後、ガラス転移点以下に冷却し、50〜5000m/分の速度で引き取り未延伸糸が得られる。また、紡出糸条を冷却用の水を入れた水槽で冷却し、繊度のコントロールを行なうことも可能である。加熱筒の温度や長さ、冷却風の温度や吹き付け量、冷却水槽の温度、冷却時間、引き取り速度は、吐出量および口金の孔数によって適宜調整することができる。
【0103】
得られた未延伸糸は熱延伸するが、延伸は未延伸糸を一旦巻き取ってから延伸する2工程法または巻き取ることなく連続して延伸する直接紡糸延伸法のいずれの方法によってもよい。熱延伸は、1段延伸法または2段以上の多段延伸法で行なわれる。熱延伸における加熱手段としては、加熱ローラ、ヒートプレート、スチームジェット装置、温水槽などを使用することができ、これらを適宜併用することができる。
【0104】
得られた延伸糸は、必要に応じて、加熱ローラ、ヒートプレート、スチームジェット装置などを用いて、熱処理される。
【0105】
本発明のポリエステル系繊維を人工毛髪として使用する場合には、モダアクリル、ポリ塩化ビニル、ナイロンなど他の人工毛髪素材と併用してもよい。人工毛髪として使用する場合の繊度は20〜70dtexのものが好ましい。
【0106】
また、本発明のポリエステル系繊維には、必要に応じて、アルカリ減量処理などのつや消し処理を施すことができる。
【0107】
本発明のポリエステル系繊維の加工条件は、とくに限定されるものではなく、通常のポリエステル繊維と同様に加工することができるが、使用する顔料、染料や助剤などは耐候性および難燃性のよいものを使用することが好ましい。
【0108】
なお、本発明のポリエステル系繊維には、必要に応じて、難燃剤、耐熱剤、光安定剤、蛍光剤、酸化防止剤、艶消剤、静電防止剤、顔料、可塑剤、潤滑剤などの各種添加剤を含有させることができる。
【0109】
本発明により提供されるポリエステル系繊維は、高融点、高弾性率で優れた耐熱性、耐薬品性を維持しながら、難燃性を有し、ポリエステル繊維の燃焼時の溶融滴下が防止できることから、カーテン、衣料など種々の分野で好ましく使用でき、とくに、かつら、ヘアーウィッグ、付け毛などの人工毛髪用途での使用に適している。
【実施例】
【0110】
つぎに、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0111】
なお、特性値の測定法は、以下のとおりである。
【0112】
(ポリエステルの固有粘度)
フェノールとテトラクロロエタンとの等重量混合物を溶媒とし、濃度0.5g/dlの溶液についてウベローデ型粘度管を用いて25℃における相対粘度を測定し、式(17)より固有粘度を算出した。
【0113】
【化14】

【0114】
(式中、ηは溶液の粘度、η0は溶媒の粘度、ηrelは相対粘度、ηspは比粘度、[η]は固有粘度、Cは溶液の濃度である。)
【0115】
(層状粘土化合物の分散状態の測定)
透過型電子顕微鏡(JEM−1200EX、以後、TEMという、日本電子株式会社製)を用い、厚み50〜100μmの超薄切片を加速電圧80kVで倍率4万〜100万倍で層状化合物の分散状態を観察撮影した。TEM写真において、100個以上の分散粒子が存在する任意の領域を選択し、層厚、層長、粒子数([N]値)、等価面積円直径[D]を、目盛り付きの定規を用いた手測定または画像解析装置PIASIII(インタークエスト社製)を用いて処理することにより測定した。等価面積円直径[D]は画像解析装置PIASIII(インタークエスト社製)を用いて処理することにより測定した。[N]値の測定は以下のようにして行なった。まず、TEM像上で、選択した領域に存在する層状化合物の粒子数を求める。これとは別に、層状化合物に由来する樹脂組成物の灰分率を測定する。上記粒子数を灰分率で除し、面積100μm2に換算した値を[N]値とした。平均層厚は個々の層状化合物の層厚の数平均値、最大層厚は個々の層状化合物の層厚の中で最大の値とした。分散粒子が大きく、TEMでの観察が不適当である場合は、光学顕微鏡(光学顕微鏡BH−2、オリンパス光学株式会社製)を用いて上記と同様の方法で[N]値を求めた。ただし、必要に応じて、サンプルはホットステージTHM600(LINKAM社製)を用いて250〜270℃で溶融させ、溶融状態のままで分散粒子状態を測定した。板状に分散しない分散粒子のアスペクト比は、長径/短径の値とした。ここで、長径とは、顕微鏡像などにおいて、対称とする粒子の外接する長方形のうち面積が最小となる長方形を仮定すれば、その長方形の長辺を意図する。また、短径とは、上記最小となる長方形の短辺を意図する。
【0116】
(強度および伸度)
INTESCO Model 201型(株式会社インテスコ社製)を用いて、フィラメントの引張強伸度を測定した。長さ40mmのフィラメント1本をとり、フィラメントの両端10mmを接着剤を糊付けした両面テープを貼り付けた台紙(薄紙)で挟み、一晩風乾して、長さ20mmの試料を作製した。試験機に試料を装着し、温度24℃、湿度80%以下、荷重1/30gf×繊度(デニール)、引張速度20mm/分で試験を行ない、強伸度を測定した。同じ条件で試験を10回繰り返し、平均値をフィラメントの強伸度とした。
【0117】
(限界酸素指数)
16cm/0.25gのフィラメントを秤量し、端を軽く両面テープでまとめ、懸撚器で挟み撚りをかける。充分に撚りがかかったら、試料の真中を二つに折り2本を撚り合わせる。端をセロハンテープで止め、全長7cmになるようにする。105℃で60分間前乾燥を行ない、さらにデシケーターで30分以上乾燥する。乾燥したサンプルを所定の酸素濃度に調整し、40秒後、8〜12mmに絞った点火器で上部より着火し、着火後点火器を離す。5cm以上燃えるか、または3分以上燃え続けた酸素濃度を調べ、同じ条件で試験を3回繰り返し、限界酸素指数とする。
【0118】
(ドリップ性)
総繊度が5000dtexとなるようにフィラメントを束ねて、一方の端をクランプで挟んでスタンドに固定して垂直に垂らす。固定したフィラメントに20mmの炎を接近させ、長さ100mmを燃焼させ、そのときのドリップ数をカウントし、ドリップ数が5以下を○、6〜10を△、11以上を×とした。
【0119】
(融点および結晶化度)
示差走査熱量計(DSC−220C、セイコー電子株式会社製)を用いて、フィラメントの融点、結晶化度を測定した。フィラメントを約10mgを採取し、試料パンに入れ、30〜290℃の温度範囲で、20℃/分の昇温速度で昇温し、発熱、吸熱の熱量変化を測定し、融点および融解熱量を求めた。融解熱量を基に、下記計算式(18)
χc=ΔHexp/ΔH0 (18)
を用いて、結晶化度を算出した。ここで、ΔHexpは実測融解熱、ΔH0は完全結晶PETの融解熱(136J/gとした)。
【0120】
(製造例1)
湿式ミル(MILL MIX MM2、日本精機株式会社製)に、イオン交換水5Lを入れ、5000rpmで攪拌しながら、膨潤性雲母(ソマシフME100、コープケミカル株式会社製)350gをゆっくりと加える。5分間攪拌を続け、主鎖にビスフェノールA単位を含有するポリエチレングリコール(ビスオール18EN、東邦化学株式会社製)105gをゆっくりと加え、10〜15分間攪拌を続けた。得られたスラリーをミルから払い出し、120℃で48時間乾燥し、粉砕機を用いて紛体化して、処理された膨潤性雲母(以後、処理雲母Aという)450gを得た。
【0121】
(製造例2)
膨潤性雲母をベントナイト(クニピアF、クロミネ工業株式会社)に変更した以外は、製造例1と同様にして、処理されたベントナイト(以後、処理ベントナイトという)450gを得た。
【0122】
(製造例3)
主鎖にビスフェノールA単位を含有するポリエチレングリコールをγ−(ポリオキシエチレン)プロピルトリメトキシシラン(A−1230、日本ユニカー株式会社製)に変更した以外は、製造例1と同様にして、処理された膨潤性雲母(以後、処理雲母Bという)445gを得た。
【0123】
(製造例4)
窒素導入管、溶剤留去管、圧力計、内温測定部位を備えた耐圧容器にテレフタル酸ジメチル2910g、1,4−シクロヘキサンジメタノール4686gおよびエステル交換反応触媒である酢酸コバルト0.9gを投入し、混合物を窒素雰囲気下で攪拌しながら140℃に加熱した。常圧で、反応温度を5時間かけて230℃に上昇させ脱離メタノールを留去させた。理論量のメタノールを留去した後、過剰の1,4−シクロヘキサンジメタノールを弱減圧下で留去させた。ついで、得られたビス(1,4−シクロヘキサンジメチル)テレフタレートおよびそのオリゴマーに、重合触媒である二酸化ゲルマニウム0.9gを投入し、反応温度を60分かけて280℃まで上昇させ、内部圧力を60分かけて1torr以下まで減圧にして重縮合反応を行ない、溶融物の固有粘度が0.6になるまで攪拌を続け、ポリシクロヘキサン−1,4−ジメチレンテレフタレートを得た。
【0124】
(製造例5)
窒素導入管、溶剤留去管、圧力計、内温測定部位を備えた耐圧容器にポリエチレンテレフタレート2880g、ビスフェノールAのビス(2−ヒドロキシエチル)エーテル(ビスオール2EN、東邦化学株式会社製)490g、エチレングリコール600gおよび三酸化アンチモン0.9gを投入し、混合物を窒素雰囲気下で攪拌しながら190℃に昇温した。30分間、190℃に保持した後に、反応温度を1時間かけて280℃に上昇させ、過剰のエチレングリコールを留去させた。ついで、内部圧を30分かけて1torr以下まで低下させて重縮合を行ない、溶融物の固有粘度が0.6になるまで攪拌を続け、共重合ポリエステルAを得た。
【0125】
(製造例6)
ビスフェノールAのビス(2−ヒドロキシエチル)エーテル490gを1,4−シクロヘキサンジメタノール1435gに変更した以外は、製造例5と同様にして、共重合ポリエステルBを得た。
【0126】
(製造例7)
ビスフェノールAのビス(2−ヒドロキシエチル)エーテル490gをn−ブチル−ビス(3−ヒドロキシプロピル)ホスフィンオキシド167gに変更した以外は、製造例5と同様にして、共重合ポリエステルCを得た。
【0127】
(製造例8)
ビスフェノールAのビス(2−ヒドロキシエチル)エーテル490gをビス(2−ヒドロキシエチル)ヒドロキシメチルホスホネート150gに変更した以外は、製造例5と同様にして、共重合ポリエステルDを得た。
【0128】
(製造例9〜12)
湿式ミル(MILL MIX MM2、日本精機株式会社製)に、イオン交換水5Lを入れ、5000rpmで攪拌しながら、膨潤性雲母(ソマシフME100、コープケミカル株式会社製)350gをゆっくりと加える。5分間攪拌を続け、表1に示すリン系難燃剤175gをゆっくりと加え、10〜15分間攪拌を続けた。得られたスラリーをミルから払い出し、120℃で48時間乾燥し、粉砕機を用いて紛体化して、処理された膨潤性雲母(以後、処理雲母C〜Fという)515gを得た。
【0129】
(実施例1〜30)
表2,3および4に示す、水分量100ppm以下に乾燥させた熱可塑性ポリエステル樹脂、処理された層状化合物の混合物を二軸押し出し機(TEX44、日本製鋼株式会社製)用いて設定温度230〜320℃で溶融混練し、ペレット化した後に、水分量100ppm以下に乾燥した。ついで、ノーベント式30mm単軸押し出し機(シンコーマシナリー株式会社製)でノズル径0.5mmの丸断面ノズル孔を有する紡糸口金を用いて溶融ポリマーを吐出し、口金下30mmの位置に設置した水温30℃の水浴中で冷却し、100m/分の速度で巻き取って未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を90℃の温水浴中で5倍に延伸し、180℃に加熱したヒートロールを用いて、100m/分の速度で巻き取り、熱処理を行ない、単繊維繊度が約50dtexのポリエステル系繊維を得た。
【0130】
【表1】

【0131】
【表2】

【0132】
【表3】

【0133】
【表4】

【0134】
(比較例1)
ポリエチレンテレフタレート(ベルペットEFG−10、カネボウ合繊株式会社製)をノーベント式30mm単軸押し出し機(シンコーマシナリー株式会社製)でノズル径0.5mmの丸断面ノズル孔を有する紡糸口金を用いて溶融ポリマーを吐出し、口金下30mmの位置に設置した水温30℃の水浴中で冷却し、100m/分の速度で巻き取って未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を90℃の温水浴中で5倍に延伸し、180℃に加熱したヒートロールを用いて、100m/分の速度で巻き取り、熱処理を行ない、単繊維繊度が約50dtexのポリエステル繊維を得た。
【0135】
(比較例2)
ポリエチレンテレフタレート(ベルペットEFG−10、カネボウ合繊株式会社製)5000g、1,3−フェニレンビス(ジキシレニルホスフェート)500gの混合物を、比較例1と同様にして、単繊維繊度が約50dtexのポリエステル系繊維を得た。
【0136】
(比較例3)
ポリエチレンテレフタレート(ベルペットEFG−10、カネボウ合繊株式会社製)4500g、膨潤性雲母(ME100、コープケミカル株式会社製)500g、1,3−フェニレンビス(ジキシレニルホスフェート)500gの混合物を、比較例1と同様にして、単繊維繊度が約50dtexのポリエステル系繊維を得た。
【0137】
(比較例4)
ポリエチレンテレフタレート(ベルペットEFG−10、カネボウ合繊株式会社製)4500g、膨潤性雲母(ME100、コープケミカル株式会社製)500gの混合物を、比較例1と同様にして、単繊維繊度が約50dtexのポリエステル系繊維を得た。
【0138】
実施例1〜30および比較例1〜4で得られた繊維について、層状化合物の分散状態、強伸度、融点、結晶化度、限界酸素指数(LOI)、ドリップ性を測定した結果を表5〜8に示す。
【0139】
【表5】

【0140】
【表6】

【0141】
【表7】

【0142】
【表8】

【0143】
(実施例31〜33)
表9に示す、水分量100ppm以下に乾燥させた熱可塑性ポリエステル樹脂、処理された層状化合物の混合物を二軸押し出し機(TEX44、日本製鋼株式会社製)を用いて設定温度230〜320℃で溶融混練し、ペレット化した後に、水分量100ppm以下に乾燥した。次いで、ノーベント式30mm単軸押し出し機(シンコーマシナリー株式会社製)でノズル径0.5mmの丸断面ノズル孔を有する紡糸口金を用いて溶融ポリマーを吐出し、紡糸塔内の温度を70℃に保ち、200m/分の速度で巻き取って未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を90℃の温水浴中で5倍に延伸し、180℃に加熱したヒートロールを用いて、100m/分の速度で巻き取り、熱処理を行い、単繊維繊度が約10dtexのポリエステル系繊維を得た。
【0144】
(実施例34〜36)
表9に示す、水分量100ppm以下に乾燥させた熱可塑性ポリエステル樹脂、処理された層状化合物の混合物を用い、紡糸時の巻き取り速度を500m/分に変更した以外は、実施例31〜33と同様にし、単繊維繊度が約3dtexのポリエステル系繊維を得た。
【0145】
【表9】

【0146】
【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均層厚が500Å以下である層状化合物と分散媒を撹拌混合した後、水溶性または水混和性のリン系難燃剤を添加することにより得られる処理された層状化合物と、熱可塑性ポリエステル樹脂、とからなるポリエステル組成物より形成されるポリエステル系繊維。
【請求項2】
前記層状化合物の最大層厚が2000Å以下である請求項1記載のポリエステル系繊維。
【請求項3】
樹脂組成物中の層状化合物の平均アスペクト比(層長さ/層厚の比)が10〜300である請求項1記載のポリエステル系繊維。
【請求項4】
前記層状化合物が層状ケイ酸塩である請求項1記載のポリエステル系繊維。
【請求項5】
前記水溶性または水混和性のリン系難燃剤が、ジエチル−N、N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノメチルホスホネート、トリス(ヒドロキシアルキル)ホスフィン、トリス(ヒドロキシアルキル)ホスフィンオキシド類、アルキル−ビス(ヒドロキシアルキル)ホスフィンオキシド類、アルキル−ビス(ヒドロキシカルボニルアルキル)ホスフィンオキシド類、ジポリオキシアルキレンヒドロキシアルキルホスフェート類、アルキル(ヒドロキシカルボニルアルキル)ホスフィン酸類および縮合リン酸エステル類からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である請求項1記載ポリエステル系繊維。
【請求項6】
請求項1、2、3、4または5記載のポリエステル系繊維から形成される、繊度20〜70dtexの人工毛髪。

【公開番号】特開2007−77565(P2007−77565A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−278682(P2006−278682)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【分割の表示】特願2002−583719(P2002−583719)の分割
【原出願日】平成14年4月11日(2002.4.11)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】