説明

ポリエステル繊維およびその製造方法

【課題】本発明の課題は、紡糸調子が良好であり、経済性の高い、低タフネスのポリエステル繊維を提供することにある。
【解決手段】上記課題は、主たる繰返し単位がエチレンテレフタレートからなるポリエステル(A)99.9〜97.0重量%と、ガラス転移温度が90〜270℃である非晶性ポリマー又はガラス転移温度が90℃以上かつ融点が275℃以下である結晶性ポリマー(B)0.1〜3.0重量%のポリマーブレンドからなるポリエステル繊維であり、引張強度が0.5〜3.5cN/dtex、引張伸度が5.0〜40.0%であることを特徴とするポリエステル繊維によって解決する事が出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タフネスの低いポリエステル繊維に関し、更に詳しくは、極度に低い分子量のポリエステルを使用せずとも抗ピル性や繊維裁断性に優れ、かつ紡糸調子の良好なポリエステル繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維からなる布帛は、機械的特性、耐皺性や耐久性をはじめ様々な優れた特性を有しているため、衣料用途の多く利用されている。しかしながら、着用中や洗濯によって摩擦を受け、繊維が布帛の組織から引き出され、更に絡み合うことによりピルと呼ばれる毛玉が発生し、品質、外観が大きく損なわれ、問題となっていた。これは表面の短繊維毛羽が揉まれることにより、表面に存在している毛羽、あるいは織編物中から毛羽が引き出されて毛羽同士が絡み合うためであった。からみあった毛羽は脱落しにくく、繊維の強度、伸度が大きいポリエステルやポリアクリルなどの合成繊維が特に問題となっていた。
【0003】
このようなピリングを抑制する目的で、低重合度のポリエステル繊維を用いることで繊維の強度を低下させ、発生したピリングの脱落を促進させる方法が知られている。この抗ピル性発現のメカニズムは、織編物表面の摩耗により一旦ピルが生成されるが、繊維強度が低いため、容易にピルが脱落しやすく、ピルの生成、脱落を繰り返していた。
【0004】
しかしながらかかる方法で十分な抗ピル性を有する繊維を得るにはポリマーの重合度を大幅に低下させなくてはならず、このため紡糸工程における曳糸性の低下や紡績工程での紡績糸の糸切れが多発するなど欠点がある。曳糸性を維持するためにノズルから出たポリマーをなるべく早いタイミングで冷却固化させることが必要となるが、冷却位置が口金直下に近い位置となるために、口金面が冷えやすく、吐出孔の詰りによる紡糸断糸が起こり易い。更には、低溶融粘度のためノズル上のポリマーの均一分配が難しく、単糸間の繊度バラツキが起こり易い。
【0005】
ホモポリエステルと共重合ポリエステルを重量比で20:80〜80:20の範囲でポリマーブレンドしてなる中空ポリエステル繊維が示されている。但し、少なくとも20重量%を他方の成分が占めるために、染色斑や強伸度斑が大きい欠点がある(例えば特許文献1参照。)。
【0006】
エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル繊維において、製糸後のアルカリ処理によりポリエステルを加水分解してタフネスを下げる抗ピル性繊維が示されているが(例えば特許文献2参照。)、アルカリ加水分解処理において廃アルカリ溶液が発生することによる環境面の問題や、元来アルカリ処理を要しない布帛や用途等では工程が増えるためにコストアップ、リードタイムが長くなるといったデメリットがある。
【0007】
【特許文献1】特開2003−13332号公報
【特許文献2】特開平6−128815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、紡糸調子が良好であり、経済性の高い、低タフネスであり、抗ピル性にも優れるポリエステル繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、主たる繰返し単位がエチレンテレフタレートからなるポリエステル(A)99.9〜97.0重量%と、ガラス転移温度が90〜270℃である非晶性ポリマー又はガラス転移温度が90℃以上かつ融点が275℃以下である結晶性ポリマー(B)0.1〜3.0重量%のポリマーブレンドからなるポリエステル繊維であり、引張強度が0.5〜3.5cN/dtex、引張伸度が5.0〜40.0%であることを特徴とするポリエステル繊維により課題が解決することを見出した。また(1)ポリエステル(A)と非晶性ポリマー又は結晶性ポリマー(B)を99.9:0.1〜97.0:3.0の重量比率で溶融混練し、ポリマーブレンドを製造する工程
(2)繊維紡糸用ノズルより吐出した該ポリマーブレンドを、該繊維紡糸用ノズルから40mm以上下流から気体の流れにより空冷し、冷却固化する工程
(3)該繊維紡糸用ノズルより吐出した該ポリマーブレンドを紡糸速度1500m/min以下で引き取り、更に延伸、熱処理する工程
によっても上記の課題を解決することを見出した。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、従来知られている低極限粘度のポリエステルを使用しないため、溶融粘度の低下に伴うポリマー分配斑や急冷紡糸による口金面冷却の影響を受けにくく、紡糸調子が極めて良好な低タフネス繊維を得ることができる。また、スルホイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレートのように、高温下の経時変化で未延伸糸にクラックを生じることもなく、温度管理の必要がない。更には、繊維のタフネス、すなわち強伸度特性を、高ガラス転移点樹脂の添加量を変えることによって、所望の値に設定することが可能である。
【0011】
本発明の繊維は、特に汎用の極限粘度を有するポリエチレンテレフタレートを主たる成分として使用することができ、抗ピル性繊維のみならず、賦型成型繊維構造体を製造する際の主体繊維として、裁断性に優れたポリエステル繊維を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明のポリエステル繊維を構成するポリマーは、主たる繰返し単位がエチレンテレフタレートからなるポリエステル(A)99.9〜97.0重量%と、ガラス転移温度が90〜270℃である非晶性ポリマー又はガラス転移温度が90℃以上かつ融点が275℃以下である結晶性ポリマー(B)0.1〜3.0重量%のポリマーブレンドの形態である。ここで「主たる」とは該エチレンテレフタレートの繰り返し単位がポリエステル中の全繰り返し単位を基準として70モル%以上を占めていることをいう。
【0013】
ポリエステル(A)を構成する代表的なポリエステルとして、ポリエチレンテレフタレート(PET)の他、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等が例示されるが、本発明のポリエステル(A)として用いられるポリエステルとしては、強伸度特性、剛性面で主たる繰返し単位がアルキレンテレフタレートであるポリエステルが好適であり、中でもポリエチレンテレフタレートが最も好ましい。このポリエチレンテレフタレートには、本発明の強伸度特性を阻害しない範囲で、目的に応じて、テレフタル酸以外のジカルボン酸(例えば、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、4−ナトリウムスルホ−2,6−ナフタレンジカルボン酸、2−ナトリウムスルホテレフタル酸、2−カリウムスルホテレフタル酸などの金属スルホネート基を含む芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、デカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸)やエチレングリコール以外のジオール成分(例えば、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンメチレングリコール、ドデカメチレングリコール等の脂肪族ジオール、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ハイドロキノン、2,2−ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン類などの芳香族ジオール等)を共重合した、共重合ポリエステルとしてもよい。さらに、トリメシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールメタン、ペンタエリスリトールなどの多官能性化合物を少量共重合してもよい。
【0014】
ポリエステル(A)としては、極限粘度0.55〜0.70dL/gのものを用いることが好ましい。極限粘度が0.55dL/g未満の場合は、従来の抗ピル繊維と同様に、ポリマーの溶融粘度が著しく小さいために口金面の直下で冷却をする必要があり、その結果、ノズル詰りによる断糸が多発し易い。更には、本発明のポリマー(B)を添加した場合は、タフネスが下がりすぎることによる布帛そのものの強度が著しく低下し、取り扱い性、洗濯耐久性などに問題を生じる。一方、極限粘度が0.70dL/gを超える場合は、タフネスが抗ピル性に適した範囲を超えてしまうため、本発明の目的である抗ピル性能を得ることができない。より好ましい範囲としては、0.57〜0.68dL/gの範囲である。
【0015】
ポリマー(B)は、ガラス転移温度(Tg)が90〜270℃である非晶性ポリマー又はガラス転移温度が90℃以上かつ融点(Tm)が275℃以下である結晶性ポリマーより選択される。好ましくは線状の熱可塑性ポリマーの中から採用することができ、上記のTg及びTmの要件を充足するポリマーであれば、付加重合系ポリマーであっても重縮合系ポリマーであっても構わない。非晶性ポリマーについて好ましくはTgが100〜250℃であるポリマーであり、結晶性ポリマーについて好ましくはガラス転移温度が100℃以上かつ融点が180〜270℃であるポリマーである。代表的なポリマー例としては、ポリスチレン(Tg=約100℃)、ポリメタクリル酸メチル(Tg=約115℃)、ビスフェノールAポリカーボネート(Tg=約150℃、Tm=約267℃)である。中でも、シンジオタクティックポリスチレンは、Tg=100℃、Tm=270℃と高い融点をもち、タフネス低下効果が大きい。ここで「ビスフェノールAポリカーボネート」とはビスフェノールA(2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン)と炭酸結合形成化合物(例えばホスゲン、ジフェニルカーボネート、ジアルキルカーボネート)を反応させて得られるポリカーボネートをさす。
【0016】
ポリマー(B)の添加量は、0.1〜3.0重量%に限定される。0.1重量%未満では、本発明の目的とすべきタフネス低下効果が見られない。一方、3.0重量%を超えると、未延伸糸のタフネスが下がりすぎ、更に添加量を上げるとブレンド状態が不均一になり、曳糸性が極度に悪くなり、紡糸不可となる。好ましい範囲は0.3〜2.5重量%、更に好ましくは0.5〜2.0重量%の範囲である。本発明の繊維の特徴は、ポリマー(B)の添加量を変えることにより、タフネスを調整することが可能な点にあり、ポリエステル(A)の組成や極限粘度によっては、目標強伸度物性に調整するために、ポリマー(B)の種類や添加量を調整することができる。
【0017】
更にタフネス低下効果を発揮させるために、ポリマー(B)のメルトフローレイト(MFR)は0.1〜1.5g/10minの範囲に限定することが好ましい。MFRが1.5g/10minを超えると、タフネスが大きくなり過ぎる傾向であり、好ましくない。MFRが0.1g/10min未満であると、ノズルから吐出されるポリマーの溶融粘度が上がり過ぎ、メルトフラクチャーを起こし、曳糸性に劣る。好ましい範囲は0.2〜1.3g/10minである。
【0018】
ポリエステル(A)とポリマー(B)のポリマーブレンドを作成する方法としては、両ポリマーのペレットをナウターミキサー、ダブルコーン式ブレンダー等の回分式混合装置で予め所定の混率、即ち本発明のポリエステルを製造する場合であれば、99.9:0.1〜97.0:3.0の重量比率にブレンドしておき、溶融押出機(エクストルーダー)で溶融混練する方法、各ペレットを所定の混率となるように別々の計量機で連続的にエクストルーダーに供給し溶融混練する方法、あるいは別々に溶融したポリエステル(A)とポリマー(B)を多段のスタティックミキサーを通して上記重量混率で混練する方法等を用いて溶融混練することができる。エクストルーダーとしては1軸エクストルーダーより2軸エクストルーダーの方が混練性に優れているが、(A)と(B)を別々の計量機から供給する場合は、特に2軸エクストルーダーを用いる方が好ましい。なおポリエステルのペレットは加水分解による分子量低下を抑制するために真空乾燥や加熱窒素あるいは減湿空気などで乾燥する必要があるが、エクストルーダーに脱気装置(ベント装置)が設置されている場合では無乾燥でペレットを供給してもよい。また、ペレットの乾燥は、混合ペレットを乾燥する方法でも、別々に乾燥したペレットを乾燥後に混合する方法でもよい。
【0019】
上述のポリマーブレンドを両ポリマーが融解した状態、好ましくは280℃以上の溶融ポリマーブレンドとして、公知の繊維紡糸用ノズルより吐出させ、ノズルから40mm以上の下流の地点から気体の流れにより空冷し、好ましくはノズルから40〜100mmの下流の地点から冷却固化させながら、1500m/min以下の紡糸速度で引き取り、まず未延伸糸を得る。次に得られた未延伸糸を、従来知られている延伸処理を行い、その後熱処理する工程を通して、本発明のポリエステル繊維を得ることができる。気体の流れは空気、窒素、その他の通常の気体の中から任意に選ぶ事ができるが、空気を用いる事が最も簡便で好ましい。またその気体の温度は吐出ポリマーより50℃以上低温であれば特に限定はなく、20℃以上であり吐出ポリマー温度より50℃以下がより好ましい。また流量は0.5Nm/min以上が冷却効率の面で特に好ましい。
【0020】
ノズルから40mm未満の下流の地点から気体の流れにより空冷した場合には冷却位置が口金直下に近い位置になるために口金面が冷却されやすく、その結果吐出孔の詰まりにより断糸が起こりやすくなり好ましくない。また引き取り速度が1500m/minを超える場合には、抗ピル性に優れる繊維が得られないことがあり、好ましくない。
【0021】
延伸条件としては、冷延伸でも、温水中やオイル浴、蒸気、ヒーター等で加熱して延伸してもよいが、熱収縮率を下げるために、1.05倍以下での緊張熱処理あるいはローラー間のオーバーフィードや完全なテンションフリー状態で弛緩熱処理することが必要である。延伸後、用途に応じて必要な油剤を付与した後、クリンパーで機械捲縮を付与して、乾燥したのち、所望の繊維長にカットする。また、用途に応じて捲縮を付与する必要がない場合は、クリンパーを使用しなくてもよい。
【0022】
これらの製造条件を採用する事によって引張強度が0.5〜3.5cN/dtex、引張伸度が5.0〜40.0%の熱接着性複合繊維を得ることができ、本発明の課題を解決することができる。
【0023】
本発明の如きポリエステル(A)とポリマー(B)のポリマーブレンドによりタフネスが低下するメカニズムは明確ではないが、以下のような推定をしている。ポリマー(B)はポリエステル(A)より高いTgを持つため、ノズルより吐出された後、ポリエステル(A)よりも先に固化して、ポリエステル(A)の配向を抑制する。そこで、1500m/min以下の比較的遅い紡糸速度であれば、ポリエステル(A)の配向は比較的ルーズに留められ、結果として、低極限粘度のポリエステルを吐出後早いタイミングで急冷し、固化点を上流側に持ってきた構造と類似することになる。低極限粘度のポリエステルと異なり、口金直下で冷却する必要がなくなるため、ポリマーの孔詰りによる断糸が生じる可能性も少なくなり、紡糸調子としては良好となる。更に、ポリマー(B)が、シンジオタクティックポリスチレンのような結晶化速度の速い高融点の結晶成分や、低MFRの高Tgポリマーとなれば、ポリエステル(A)の固化点を早める効果に相まって、繊維中で島状態に分散しているポリマー(B)が力学的欠陥となって、引張力が生じたときに島成分に応力集中し、低タフネス性を助長していると考えられる。
【0024】
以上のような本発明のポリエステル繊維及びその製造方法の技術を用いることで、引張強度が0.5〜3.5cN/dtex、引張伸度が5.0〜40.0%のポリエステル繊維、更に好ましくは低タフネス(シルクファクター)として20以下の、抗ピル性や裁断性に優れたポリエステル繊維を得ることができる。
【0025】
これらの繊維には、目的に応じて少量の添加剤、例えば艶消剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料、染料、酸化防止剤、光安定剤、熱安定剤、相溶化剤、蛍光増白剤、抗菌剤、紫外線吸収剤等を含有していてもよい。
【0026】
また、繊維の断面形状には特に制限は無く、中実であっても中空部を有するものでもよく、また、目的に応じて、丸断面以外に、三角断面、四角断面、偏平断面、十字断面等の多葉断面、H字型、W字型といった異型断面を有してもよい。
単糸繊度についても特に制限はなく、比較的抗ピル性や裁断性が不良である太繊度の用途として好適である。好ましい範囲としては、0.1〜200dtexである。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれによって何ら限定を受けるものでは無い。なお、実施例における各項目は次の方法で測定した。
(1)極限粘度(IV)
ポリエステルポリマーを一定量計量し、o−クロロフェノールに0.012g/mLの濃度に溶解してから、常法に従って35℃にて求めた。
(2)メルトフローレイト(MFR)
ポリメタクリル酸メチル樹脂はJIS−K7210条件15(230℃、37.26N)、それ以外の樹脂はJIS−K7210条件21(300℃、11.77N)に準じて測定した。なお、メルトフローレイトは溶融紡糸前のペレットを試料とし測定した値である。
(3)融点(Tm)、ガラス転移点(Tg)
TAインスツルメント・ジャパン(株)社製のサーマル・アナリスト2200を使用し、昇温速度20℃/分で測定した。
(4)繊度
JIS L 1015:2005 8.5.1 A法に記載の方法により測定した。
(5)引張強度(Te)・引張伸度(El)
JIS L 1015:2005 8.7.1法に記載の方法により測定した。
(6)シルクファクター(Sf)
測定した引張強度(Te)、引張伸度(El)より、下記の式で算出する。
なお、シルクファクターとタフネスは同意である。
Sf=Te(cN/dtex)×√{El(%)}
(7)捲縮数(CN)、捲縮率(CD)
JIS L 1015:2005 8.12.1〜8.12.3法に記載の方法により測定した。
(8)乾熱収縮率
JIS L 1015:2005 8.15 b)において、180℃にて測定した。(9)抗ピル性
繊維長64mmにカットした短繊維100%からなる紡績糸とした後、これを用いて平織物を作成し、JIS L 1076:1992 A法に記載の方法により評価した。等級が高いほどピルが少なく、良好であることを示す。
【0028】
[実施例1]
ポリマー(A)として、IV=0.64dL/g、Tg=70℃、Tm=256℃のポリエチレンテレフタレート(PET)98重量部、ポリマー(B)として、MFR=3g/10min、Tg=100℃、Tm=270℃のシンジオタクティックポリスチレン(出光石油化学株式会社製 XAREC F2907(商品名)、以下SPSと略す)2重量部となるように両種のペレットを混合した後、80℃で1時間、170℃で4時間減湿空気下の乾燥を行って、1軸エクストルーダーで溶融混練して280℃のポリマーブレンドとし、これを孔径0.4mm、孔数240の丸孔ノズルをもつ紡糸口金より吐出量220g/minで吐出させ、紡糸速度1050m/minにて未延伸糸を得た。この際、口金の50mm下流で1.7Nm/minの冷却風(25℃、60%RH)を当て、ポリマーブレンドを固化させた。得られた未延伸糸を約50万デシテックスのトウに集束し、70℃の温水中で2.5倍に延伸した後、90℃の温水中で1.2倍に2段延伸を行い、ラウリルホスフェートカリウム塩/ポリエチレングリコールラウレート=50/50からなる界面活性剤の水溶液に糸条を浸漬した後、押し込み型クリンパーを用いて11個/25mmの機械捲縮を付与し、135℃で乾燥した後、繊維長64mmに切断した。このときの単糸繊度は3.3dtex、強度2.5cN/dtex、伸度21.0%、シルクファクター11.5、CN=11.2山/25mm、CD=16.0%、乾熱収縮率は6%であった。この繊維の抗ピル性を表1に示す。
【0029】
[実施例2]
SPS添加量を0.2重量部とした他は、実施例1と同様にした。結果を表1に示す。
【0030】
[実施例3]
SPS添加量を1重量部とした他は、実施例1と同様にした。結果を表1に示す。
【0031】
[比較例1]
SPS添加量を4重量部とした他は、実施例1と同様にしたが、紡速を600m/minまで低下させないと断糸する傾向にあった。紡速600m/minにて得た未延伸糸は引っ張ってもネック状に延伸されず、すぐに切断するような弱いものであった。
【0032】
[比較例2]
IV=0.64dL/g、Tg=70℃、Tm=256℃のポリエチレンテレフタレート(PET)を80℃で1時間、170℃で4時間減湿空気下で乾燥した後、1軸エクストルーダーで溶融して290℃の溶融体とし、これを孔径0.4mm、孔数240の丸孔ノズルをもつ紡糸口金より吐出量270g/minで吐出させ、紡糸速度1050m/minにて未延伸糸を得た。この際、口金の56mm下流で1.7Nm/minの冷却風(25℃、60%RH)を当て、ポリマーブレンドを固化させた。得られた未延伸糸を約50万デシテックスのトウに集束し、70℃の温水中で3.5倍に延伸した後、90℃の温水中で1.05倍に2段延伸を行い、ラウリルホスフェートカリウム塩/ポリエチレングリコールラウレート=50/50からなる界面活性剤の水溶液に糸条を浸漬した後、押し込み型クリンパーを用いて11個/25mmの機械捲縮を付与し、135℃で乾燥した後、繊維長64mmに切断した。このときの単糸繊度は3.3dtex、強度4.4cN/dtex、伸度42.2%、シルクファクター28.5、CN=10.8山/25mm、CD=14.8%、乾熱収縮率5.0%であった。この繊維の抗ピル性を表1に示す。
【0033】
[参考例1]
IV=0.43dL/g、Tg=70℃、Tm=256℃のポリエチレンテレフタレート(PET)を80℃で1時間、170℃で4時間減湿空気下で乾燥した後、1軸エクストルーダーで溶融して272℃の溶融体とし、これを孔径0.4mm、孔数240の丸孔ノズルをもつ紡糸口金より吐出量290g/minで吐出させ、紡糸速度1200m/minにて未延伸糸を得た。この際、口金の17mm下流で1.8Nm/minの冷却風(25℃、60%RH)を当て、ポリマーブレンドを固化させた。得られた未延伸糸を約50万デシテックスのトウに集束し、68℃の温水中で3.5倍に延伸した後、90℃の温水中で1.0倍に2段延伸を行い、ラウリルホスフェートカリウム塩/ポリエチレングリコールラウレート=50/50からなる界面活性剤の水溶液に糸条を浸漬した後、押し込み型クリンパーを用いて11個/25mmの機械捲縮を付与し、130℃で乾燥した後、繊維長64mmに切断した。このときの単糸繊度は3.3dtex、強度3.2cN/dtex、伸度39.0%、シルクファクター20.0、CN=10.5山/25mm、CD=16.0%、乾熱収縮率2.1%であった。この繊維の抗ピル性を表1に示す。
なお、繊維の製造工程においては紡糸工程の立上りの時期に断糸が多く、さらに安定した定常運転の状態においても、断糸が多かった。
【0034】
[参考例2]
IV=0.37dL/g、Tg=70℃、Tm=256℃のポリエチレンテレフタレート(PET)を80℃で1時間、170℃で4時間減湿空気下で乾燥した後、1軸エクストルーダーで溶融して270℃の溶融体とし、これを孔径0.4mm、孔数240の丸孔ノズルをもつ紡糸口金より吐出量270g/minで吐出させ、紡糸速度1050m/minにて未延伸糸を得た。この際、口金の17mm下流で1.5Nm/minの冷却風(25℃、60%RH)を当て、ポリマーブレンドを固化させた。得られた未延伸糸を約50万デシテックスのトウに集束し、68℃の温水中で3.4倍に延伸した後、80℃の温水中で1.05倍に2段延伸を行い、ラウリルホスフェートカリウム塩/ポリエチレングリコールラウレート=50/50からなる界面活性剤の水溶液に糸条を浸漬した後、押し込み型クリンパーを用いて11個/25mmの機械捲縮を付与し、130℃で乾燥した後、繊維長64mmに切断した。このときの単糸繊度は3.3dtex、強度2.9cN/dtex、伸度36.1%、シルクファクター17.4、CN=10.6山/25mm、CD=15.8%、乾熱収縮率1.1%であった。この繊維の抗ピル性を表1に示す。
なお、繊維の製造工程においては紡糸工程の立上りの時期に断糸が多く、さらに安定した定常運転の状態においても、断糸が多かった。
【0035】
[実施例4]
ポリマー(B)をTg=105℃、MFR=1.8のポリメタクリル酸メチル(奇美実實業股▲分▼有限公司製 Acryrex CM−205(商品名);以降PMMAと略す)とした他は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0036】
[実施例5]
ポリマー(B)をTg=140℃、MFR=2.5g/10minのポリビスフェノールAカーボネート(帝人化成株式会社製 パンライトK−1300Y(商品名);以降PBACと略す)とした他は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0038】
以上本発明により、汎用の極限粘度のポリエチレンテレフタレートを活用して、生産性のよい、安価な衣料用途等の抗ピル繊維を供給することが可能となる。更には、自動車用や建材用などの吸音材、食品包装材、フィルター、衛生材料等の賦型加工前後にウェブの裁断を要する用途に、裁断性が非常によいため、特に主体繊維として好適なポリエステル繊維を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たる繰返し単位がエチレンテレフタレートからなるポリエステル(A)99.9〜97.0重量%と、ガラス転移温度が90〜270℃である非晶性ポリマー又はガラス転移温度が90℃以上かつ融点が275℃以下である結晶性ポリマー(B)0.1〜3.0重量%のポリマーブレンドからなるポリエステル繊維であり、引張強度が0.5〜3.5cN/dtex、引張伸度が5.0〜40.0%であることを特徴とするポリエステル繊維。
【請求項2】
ポリエステル(A)がポリエチレンテレフタレートである、請求項1記載のポリエステル繊維。
【請求項3】
ポリエステル(A)の極限粘度が0.55〜0.70dL/gであることを特徴とする、請求項1又は2記載のポリエステル繊維。
【請求項4】
ポリマー(B)のメルトフローレイトが0.1〜5.0g/10minであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載のポリエステル繊維。
【請求項5】
ポリマー(B)がポリスチレンである、請求項1〜4のいずれか1項記載のポリエステル繊維。
【請求項6】
ポリマー(B)がシンジオタクティックポリスチレンである、請求項5記載のポリエステル繊維。
【請求項7】
ポリマー(B)がポリメタクリル酸メチルである、請求項1〜4のいずれか1項記載のポリエステル繊維。
【請求項8】
ポリマー(B)がビスフェノールAポリカーボネートである、請求項1〜4のいずれか1項記載のポリエステル繊維。
【請求項9】
下記(1)〜(3)の工程を含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項記載のポリエステル繊維の製造方法。
(1)ポリエステル(A)と非晶性ポリマー又は結晶性ポリマー(B)を99.9:0.1〜97.0:3.0の重量比率で溶融混練し、ポリマーブレンドを製造する工程
(2)繊維紡糸用ノズルより吐出した該ポリマーブレンドを、該繊維紡糸用ノズルから40mm以上下流から気体の流れにより空冷し、冷却固化する工程
(3)該繊維紡糸用ノズルより吐出した該ポリマーブレンドを紡糸速度1500m/min以下で引き取り、更に延伸、熱処理する工程

【公開番号】特開2008−169502(P2008−169502A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−2506(P2007−2506)
【出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】