説明

ポリエステル繊維の製造方法

【課題】 高強度及び高弾性率を両立させたポリエステル繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】 溶融ポリエステルをノズルより圧力3MPa以上の高圧ガス中に吐出し、ノズル先端面から20cm〜100cmの距離に設置した細孔を通して、吐出したポリエステルを高圧ガスと共に噴射し、次いでポリエステルを冷却固化し、延伸することによりポリエステル繊維を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル繊維の製造方法に関し、より詳しくは、紡糸段階で繊維の配向度を向上させ、高強度、高弾性率を有するポリエステル繊維を優れた製糸性で製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は、力学特性、寸法安定性などにおいて優れた特性をバランスよく有し、かつ、溶融紡糸・延伸、さらには高速紡糸法などにより安価に製造できるため、種々の産業分野で広く使用されている。特にタイヤコード用途では、タイヤ構造のラジアル化が進み、高速走行時の乗り心地や操縦安定性が優れ、かつ、燃費節約のため、軽量であることが要求されており、そのため、カーカスプライ用ディップコードとしては、高強度・高弾性率の繊維が強く求められている。
【0003】
繊維の強度及び弾性率を高めるには、一般に繊維の配向度を向上させることが重要であり、特に紡糸の段階で配向度を向上し、その後延伸することが重要である。
紡糸段階での配向度を向上する方法として、溶融ポリマーをノズルから吐出した後に高速で巻き取る方法があるが、この方法では配向度Δnは0.12程度までしか上昇しない。(非特許文献1参照)
一方、特許文献1には、加圧した気体中に溶融ポリマーを吐出し、高速紡糸を行う方法が開示されている。しかし、この方法では、使用する気体の圧力が非常に低く、得られた繊維は、限定された強度、弾性率しか持たない。
【特許文献1】特公昭49−36046号公報
【非特許文献1】繊維機械学会誌 第38巻243頁(1985)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、高強度及び高弾性率を両立させたポリエステル繊維の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的は、ポリエステル繊維を溶融紡糸により製造する方法において、溶融ポリエステルをノズルより圧力3MPa以上の高圧ガス中に吐出し、ノズル先端面から20cm〜100cmの距離に設置した細孔を通して、吐出したポリエステルを高圧ガスと共に噴射し、次いでポリエステルを冷却固化し、巻き取ることなく、または巻き取った後に延伸することを特徴とする、ポリエステル繊維の製造方法により達成される。
【発明の効果】
【0006】
本発明のポリエステル繊維の製造方法によれば、紡糸段階でのポリエステルの配向度を向上させ、高強度、高弾性率のポリエステル繊維を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明においてポリエステルとは、ジカルボン酸化合物とジオール化合物のエステル結合から形成される重合体であり、好ましくは、テレフタル酸を主たる酸成分とし、少なくとも一種のグリコール、例えばエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコールから選ばれた少なくとも一種のアルキレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルである。テレフタル酸成分の一部を他の二官能性カルボン酸成分で置き換えたポリエステルであってもよく、および/またはグリコール成分の一部を主成分以外の上記グリコールもしくは他のジオール成分で置き換えたポリエステルであってもよい。
【0008】
ここで使用されるテレフタル酸以外の二官能性カルボン酸の例としては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、β−ヒドロキシエトキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの、芳香族、脂肪族または脂環式の二官能性カルボン酸を挙げることができる。また上記グリコール以外のジオール成分の例としては、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ネオペンチルグリコールビスフェノールA、ビスフェノールSなどの、脂肪族、脂環式または芳香族のジオール化合物およびポリオキシアルキレングリコール等を挙げることができる。さらに、ポリエステルが実質的に線状である限り、トリメリット酸、ピロメリット酸などのポリカルボン酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどのポリオール、5−ヒドロキシイソフタル酸、3,5−ジヒドロキシ安息香酸などの三官能以上のエステル形成基を有するモノマーを使用することができる。
【0009】
本発明においては、上記のジカルボン酸成分とジオール成分から構成されるポリエステルは、その繰り返し単位の80モル%以上がエチレンテレフタレート単位であることが特に好ましい。
【0010】
さらに、本発明の方法で紡糸するポリエステル中には、少量の他の任意の重合体や、種々の添加剤、例えば酸化防止剤、制電剤、染色改良剤、染料、顔料、艶消剤、蛍光増白剤、不活性微粒子などが含有されていてもよい。特に不活性微粒子を添加する場合は、外部析出法および内部析出法のいずれの方法で添加してもよい。
【0011】
このようなポリエステルを製造するには、特別な重合条件を採用する必要はなく、ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体とジオールを含む原料混合物を重縮合して、ポリエステルにする際に採用される任意の方法で製造することができる。
【0012】
本発明において、ポリエステルの固有粘度は、特に制限されないが、好ましくは0.5dl/g以上である。なお、本発明の方法は、特に高分子量ポリエステルの溶融紡糸に効果的であるため、例えば固有粘度0.8dl/g以上のポリエステルの紡糸に好適に採用できる。
【0013】
本発明において、溶融ポリエステルの吐出工程は常法によって実施することができ、ポリエステル樹脂を溶融、計量し、ノズルより吐出すればよい。
本発明では、気体を高圧で注入可能な高圧ガス筒をノズル直下に設置し、該高圧ガス筒内にノズルよりポリマーを吐出し、高圧ガス筒下部に設置した細孔よりにポリマーを噴射した後、冷却固化し、巻き取ることなく、または巻き取った後に延伸する。
高圧ガスの種類は特に限定されないが、ポリマーの劣化を考慮すると、窒素、二酸化炭素、ヘリウムなどの不活性ガスが好ましい。
【0014】
一般に気体は、高圧になれば密度及び粘度が増加する。従って、高圧ガス筒内の紡糸線上では、非常に高い流体抵抗が発生し、紡糸張力が増加しても高圧ガス筒内の紡糸線上では紡糸されたポリエステル糸条の変形が抑制される。また、細孔通過時に気体は非常に大きく膨張し、糸に大きな張力を加わることになる。
つまり本発明の方法では、紡糸線上の細孔を通過する付近で、糸条に局所的に大きな変形速度を印加することが可能となる。
【0015】
高圧ガス筒内の圧力は、通常3MPa以上、より好ましくは5MPa以上である。3MPa以下では、本発明の目的である高配向繊維が得られない。圧力の上限は特に限定されないが、高圧ガス製造のコストから考えて10MPa以下が好ましい。
【0016】
高圧ガス筒下部に設置される細孔の位置は、ポリマーの吐出量、ノズル温度にもよるが、ノズル先端面から20cm〜100cm、好ましくは25cm〜70cmの距離である。100cmを超えると、ポリマーがすでに冷却固化されており、細孔付近で変形を付与できない為、目的とする高配向繊維が得られない。一方、20cm未満であると、細孔を通過する時点でのポリエステルの温度が高く、変形を付与しても高配向化できない。
【0017】
細孔の孔径は、好ましくは0.05mm〜0.3mm、より好ましくは0.1mm〜0.3mmである。0.05mm未満では、孔径が細すぎる為、ポリマーの通糸が困難になる。0.3mmを超えると、高圧ガス筒内から流出するガス量が多くなり、コスト的に不利になることがある。
【0018】
紡糸されたポリエステル繊維の巻取り速度は、好ましくは2000m/分〜6000m/分である。本発明の方法では、糸条が細孔から噴射された時点で、速度が既に2000m/分に達しているので、2000m/分未満で巻き取ることは出来ない。また、6000m/分を超えて紡糸することは、理論的な生産性を考えると好ましいが、紡糸時に発生する、随伴流の制御など工学的に解決しなければならない問題が多くなり、紡糸装置などの改造を実施しなければ、紡糸での糸切れが多発する。
【0019】
本発明においては、延伸方法は特に限定されず、いわゆる2工程法、スピンドロー法などの任意の方法を採用することができる。
【0020】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0021】
実施例中、各特性は下記の方法により測定した。
1)固有粘度
ポリマーを0.4g/dlの濃度でパラクロロフェノール/テトラクロロエタン(容積比3/1)混合溶媒に溶解し、30℃において測定した。
2)複屈折率Δn
偏光顕微鏡を用い、ベレックコンペンセーター法により測定した。
3)強伸度
JIS−L1017の定義に従い、20℃、65%RHの温湿度管理された部屋で24時間放置した後、引張試験機により、破断強度、破断伸度及び初期弾性率を測定した。
【実施例1】
【0022】
ポリエチレンテレフタレート(固有粘度=1.0dl/g)を、1軸押出機を用い、ノズル温度310℃において、ノズル(孔径1.0mmφ、孔数1)より吐出量2g/分で高圧ガス筒内に吐出した。吐出したポリエチレンテレフタレートを細孔(孔径0.3mmφ)に通した。この際、細孔は、ノズル先端面から細孔までの距離が40cmになるように設置し、高圧ガス筒を密閉して6MPaの圧力なるように高圧ガス筒内を二酸化炭素で満たし、細孔より噴射したポリエチレンテレフタレートを4000m/分の紡糸速度で巻き取った。得られた繊維の物性を表1に示す。
【0023】
比較例1
ノズルから細孔までの距離を150cmとした以外は実施例1と同様の方法で溶融紡糸を行い、ポリエステル繊維を得た。得られた繊維の物性を表1に示す。
比較例1では、実施例1の場合より細孔の位置がノズルから離れ、糸条が冷却固化した後に噴射しても効果が得られないことが分かる。
【0024】
比較例2
ノズルから細孔までの距離を40cmとし、高圧ガス筒内の二酸化炭素の圧力を2.5MPaとした以外は実施例1と同様の方法で溶融紡糸を行い、ポリエステル繊維を得た。得られた繊維の物性を表1に示す。
比較例2より高圧ガス筒内の二酸化炭素の圧力が低いたので、高配向化の効果が低減することが分かる。
【0025】
比較例3
ポリエチレンテレフタレート(固有粘度=1.0dl/g:原料メーカーによる測定値)を、1軸押出機を用いてノズル温度310℃において、ノズル(孔径1.0mmφ、孔数1)より吐出量2g/分で吐出し、4000m/分の紡糸速度で巻き取った。紡糸時に糸切れが多発し、紡糸、巻き取りは困難であった。得られた繊維の物性を表1に示す。
比較例3から、高圧ガスを使用しない通常の紡糸方法では、本発明のような高配向化が達成されないことが分かる。
【実施例2】
【0026】
実施例1で得た繊維を、ホットプレートを用い、延伸温度150℃、延伸倍率1.2倍で延伸した。得られた繊維の物性を表2に示す。
【0027】
比較例4
比較例1で得た繊維を、実施例2と同じ条件で延伸した。得られた繊維の物性を表2に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル繊維を溶融紡糸により製造する方法において、溶融ポリエステルをノズルより圧力3MPa以上の高圧ガス中に吐出し、ノズル先端面から20cm〜100cmの距離に設置した細孔を通して、吐出したポリエステルを高圧ガスと共に噴射し、次いでポリエステルを冷却固化し、延伸することを特徴とするポリエステル繊維の製造方法。
【請求項2】
細孔の孔径は、0.05mm〜0.3mmである請求項1に記載のポリエステル繊維の製造方法。

【公開番号】特開2006−328612(P2006−328612A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−157160(P2005−157160)
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成16年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「精密高分子技術プロジェクト」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】