説明

ポリエステル繊維

【課題】易滑風合いに優れながら洗濯後も易滑風合いの変化が少なく、また布団等加工後の製品の洗濯前と洗濯後の綿ヨレが少ない、詰め綿素材として最適なポリエステル短繊維を提供する。
【解決手段】下記[A]〜[C]を必須成分とする油剤が繊維表面に樹脂化して該繊維を被覆している。
[A]カルボキシ変性シリコーン
[B]アミノ変性シリコーン
[C]アミノアルコキシシラン
ポリエステル繊維にけん縮を付与した後に前記油剤を0.4〜0.6重量%付与し、150〜160℃で加熱処理した後に、さらに制電剤を0.1〜0.3重量%付与してポリエステル繊維を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制電性、滑りが良好で、易滑風合いの保持性が著しく優れたポリエステル繊維及びその製造方法に関する。更に詳しくは、易滑風合いが良好で易滑風合いの洗濯耐久性が極めて良好で、羽毛調の詰め綿素材として最適なポリエステル短繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリエステル繊維は、加工性、取扱易さ、仕事回復性などに優れた特性を有しているため、広範囲にわたって利用されている。衣料用としては勿論のこと、産業資材用あるいは衛生用品や布団用としても近年多量に使用されるようになってきた。布団用途の場合は主に掛け布団用であり、類似するものとしては背当てクッションやシートクッションなどいわゆるクッション類、枕、座布団などがあり、また、さらにはキルティング分野の詰め綿にも利用されている。上記布団用途に提供される素材の要求特性としては、(1)嵩高であること、(2)風合いが良いこと、(3)反発性が高いこと、(4)制電性が高いこと、(5)軽量であること、(6)洗濯耐久性があること、(7)黄変しないことがあり、従来よりシリコーン系油剤によるポリエステル繊維の表面改質が提案されている。例えば、特許文献1ではエポキシ変性シリコーンとアミノ変性シリコーンからなる油剤、特許文献2ではヒドロキシ末端シリコーンとアミノアルコキシシランからなる油剤、特許文献3ではアミノアルキルシランとエポキシ変性シリコーンからなる油剤、特許文献4ではヒドロキシ末端エポキシ変性シリコーンとアミノシラン化合物から成る油剤、特許文献5ではアミノ変性シリコーン、ヒドロキシ末端シリコーン、アミノアルコキシシランから成る油剤、特許文献6ではアミノ変性ポリシロキサンを含有するシリコーン油剤組成物がそれぞれ提案されているが、風合いや制電性が不十分であったり、繊維上での架橋・固着が弱いため初期の風合いが良好でも洗濯後の風合い変化が大きくなるなどの欠点を有する。
【特許文献1】特公昭48−17514号公報
【特許文献2】特公昭53−36079号公報
【特許文献3】特公昭53−19715号公報
【特許文献4】特公平1−33594号公報
【特許文献5】特開昭58−214585号公報
【特許文献6】特開平8−209543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、易滑風合いに優れ洗濯後も易滑風合いの変化が少なく、また布団等加工後の製品の洗濯前と洗濯後の綿ヨレが少ない、詰め綿素材として最適なポリエステル短繊維を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。
【0005】
すなわち、本発明のポリエステル繊維は、下記[A]〜[C]を必須成分とする油剤が繊維表面に樹脂化して該繊維を被覆していることを特徴とするするものである。
【0006】
[A]カルボキシ変性シリコーン
[B]アミノ変性シリコーン
[C]アミノアルコキシシラン
本発明のポリエステル繊維の製造方法は、ポリエステル繊維にけん縮を付与した後に前記[A]〜[C]を必須成分とする油剤を0.4〜0.6重量%付与し、150〜160℃で加熱処理した後、さらに制電剤を0.1〜0.3重量%付与することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、制電制、滑りが良好で、易滑風合いの保持性が著しく優れたポリエステル繊維、さらに詳しくは、易滑風合いが良好で易滑風合いの洗濯耐久性が極めて良好で、羽毛調の詰め綿素材として、特に業務用布団用途に最適なポリエステル短繊維を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のポリエステル繊維は、[A]カルボキシ変性シリコーン、[B]アミノ変性シリコーン、[C]アミノアルコキシシランを必須成分とする油剤が繊維表面に樹脂化して、該繊維を被覆しているものである。
【0009】
本発明において用いられる[A]カルボキシ変性シリコーンとは、下記一般式(1)に示すものである。良好な易滑風合いを保ちながら洗濯耐久性をよくする観点から、カルボキシ当量が3000〜4000、25℃における粘度が2000〜3000mpa・sであることが好ましい。
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、R1は炭素数1〜5のアルキル基、R2は水素もしくは炭素数1〜5のアルキル基、A1は1〜5個のカルボキシル基を有する炭素数1〜12のアルキル基、hおよびkは正の整数をそれぞれ表す。)
本発明において用いられる[B]アミノ変性シリコーンとは、一般式(2)に示すものである。良好な易滑風合いを保ちながら洗濯耐久性をよくする観点から、アミノ含量が0.1〜1.0%、アミノ当量が100〜10000、25℃における粘度が100〜10000mpa・sであることが好ましい。
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、R3は炭素数1〜5のアルキル基、R4は水素もしくは炭素数1〜5のアルキル基、A2は1〜5個のアミノ基を有する炭素数1〜10のアルキル基、mおよびnは正の整数をそれぞれ表す。)
本発明において用いられる[C]アミノアルコキシシランとは、一般式(3)に示すものである。良好な易滑風合いを保ちながら洗濯耐久性をよくする観点から、アミノ含量が5〜25%であることが好ましい。
【0014】
【化3】

【0015】
(式中、R5およびR6は炭素数1〜5のアルキル基、A3は1〜5個のアミノ基を有する炭素数1〜10のアルキル基をそれぞれ表す。)
本発明における必須成分の比率[A]/[B]/[C]は、良好な易滑風合いを保ちながら洗濯耐久性をよくする観点から、15〜35/60〜80/5であることが好ましく、20〜30/65〜75/5がさらに好ましい。
【0016】
次に、本発明のポリエステル繊維の製造方法について説明する。
【0017】
ポリエステル繊維にけん縮を付与した後、前記した[A]〜[C]を必須成分とする油剤をポリエステル繊維に0.4〜0.6重量%付与し、そのポリエステル繊維を150〜160℃で加熱処理し、その後、さらに制電剤を0.1〜0.3重量%付与する。
【0018】
この場合、油剤と制電剤を同時に付与し加熱処理すると、制電剤が油剤の樹脂皮膜化を阻害したり、熱劣化により制電制が著しく低下するため、制電剤を油剤付与・加熱処理後に付与することが重要である。また、制電剤を後で付与することにより、初期風合いを強制的に下げ、洗濯処理後の風合い変化を小さくすることができる。
【0019】
本発明におけるポリエステル繊維は、特に限定されるものではなく、テレフタル酸、セバシン酸、アジピン酸、トリメリット酸、イソフタル酸、パラオキシ安息香酸等のジカルボン酸成分と、エチレングリコール、トリメチレングリコールまたはブチレングリコール等のジオール成分との縮合反応によって生成される高分子重合体およびその他のポリエステル共重合体、ポリマーブレンド類を含むものである。
【0020】
また、繊維の形態も特に限定されないが、詰め綿用として好適な短繊維が好ましく、具体的には次のとおりである。ポリエステル繊維の単繊維繊度としては0.1〜100dtexが好ましく、1〜30dtexがより好ましい。繊維長は10〜1000mmが好ましく、20〜100mmがより好ましい。捲縮数は3〜20山/25mmが好ましく、捲縮度は10〜30%がより好ましい。中空であることが好ましく、その中空度は0〜40%、より好ましくは15〜30%である。
【0021】
本発明にかかる前記油剤のポリエステル繊維への付着量は、特に限定されないが、一般的に繊維重量対比0.01〜10重量%が好ましく、0.1〜1重量%がより好ましい。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、本例中の洗濯耐久性(風合い)、帯電圧はそれぞれ次の方法により求めた。
(1)洗濯耐久性
側地25cm×25cm(40番/40番:T120本/25.4mm/L120本/25.4mm)のダウンプルーフに目付0.04g/cm2の開繊した試料綿(6.6dtex、64mm、捲縮数6山/25mm、捲縮度21%)を詰め込み、JIS L1096−1990 6.23のA法にて10回洗濯した。
【0023】
評価方法は、触感による風合い判定とJIS L−1074−1977・6−12に示される方法による静摩擦係数(μs)で判定し、羽毛調のヌメリ感のあることを望ましいとした。
【0024】
優良 (◎):羽毛調のすべり感がある (μs0.22以下)
良 (○):羽毛調のすべり感がややある(μs0.23〜0.26)
やや不良(△):ややキシミ感がある (μs0.27〜0.30)
不良 (×):キシミ感がある (μs0.31以上)
(2)帯電圧
試料綿(6.6dtex、64mm、捲縮数6山/25mm、捲縮度21%)300gを温度30℃、相対湿度40%の条件下で12時間静置した後、該温湿度条件でのカード工程において、50m/分の速度で走行しているウェブ上10cmの帯電圧[V]を測定し、−200〜200Vを望ましいとした。
【0025】
優良 (◎):100V以下
良 (○):101〜300V
やや不良(△):301〜500V
不良 (×):501V以上
実施例1〜3および比較例1〜5
ポリエステル洗浄綿(単繊維繊度6.6dtex、繊維長64mm、捲縮数6山/25mm、捲縮度21%)に、表1に示す油剤をスプレー方式で繊維に対し0.5重量%となるように給油付与し、155℃×15分の熱処理を施し、更に制電剤を0.1重量%となるように給油付与した表2に実施例1〜3及び比較例1〜2として示す。
【0026】
ポリエステル洗浄綿(短繊維繊度6.6dtex、繊維長64mm、捲縮数6山/25mm、捲縮度21%)に、表1に示す油剤をスプレー方式で繊維に対し0.6重量%となるように給油付与し、155℃×15分の熱処理を施した表2に比較例3〜5として示す。
【0027】
これらの試料綿を用いて上述の(1)〜(2)の評価を行い、その結果を表2に示した。また、評価結果について、◎は優秀、○は良、△はやや不良、×は不可とした4段階の判定を行い、その判定結果を表2に併せて示した。本発明の実施例では、◎(優秀)と○(良)を合格とした。)
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
表1,2から明らかなように、実施例のポリエステル繊維はいずれも洗濯耐久性(風合い)、良好な制電性を併せもっていたが、比較例のポリエステル繊維は併せもっていないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記[A]〜[C]を必須成分とする油剤が繊維表面に樹脂化して該繊維を被覆していることを特徴とするポリエステル繊維。
[A]カルボキシ変性シリコーン
[B]アミノ変性シリコーン
[C]アミノアルコキシシラン
【請求項2】
[A]/[B]/[C]=15〜35/60〜80/5であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル繊維。
【請求項3】
ポリエステル繊維にけん縮を付与した後に下記[A]〜[C]を必須成分とする油剤を0.4〜0.6重量%付与し、150〜160℃で加熱処理した後、さらに制電剤を0.1〜0.3重量%付与することを特徴とするポリエステル繊維の製造方法。
[A]カルボキシ変性シリコーン
[B]アミノ変性シリコーン
[C]アミノアルコキシシラン

【公開番号】特開2006−45715(P2006−45715A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−227814(P2004−227814)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】