説明

ポリエステル製造用固体酸触媒の製造方法

【課題】残留触媒のない金属フリーなポリエステル樹脂を製造でき、製造上のユーティリティー効率が良く、かつ副生成物が検出限界以下となる極めてポリエステル化選択率の高い触媒であり、単離、回収、再利用が可能であるポリエステル製造用触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】金属酸化物からなる担体(A)に金属酸化物(B)を担持させて得られる固体酸触媒の製造方法において、前記金属酸化物からなる担体(A)がジルコニアで、前記金属酸化物(B)がモリブデン酸化物である固体酸触媒の製造時の焼成温度を673K〜1473Kとすることを特徴とするポリエステル製造用固体酸触媒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル製造用固体酸触媒製造方法関するものであり、詳しくは多価アルコールと多価カルボン酸とを脱水縮合反応させポリエステルを製造するための固体酸触媒製造方法関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在化学工業でのポリエステル樹脂の合成は、チタン系もしくは錫系の均一系触媒を用いて行っている。このような均一系触媒は樹脂中に溶け込んでしまうために、単離・回収をして取り除くことが難しく、残留触媒のないポリエステル樹脂を合成することは非常に困難である。これらの残留触媒は、得られたポリエステル樹脂中に存在する水分とエステル結合との反応を促進させ、加水分解を引き起こすため、ポリエステル樹脂の耐久性や保存安定性を低下させる問題がある。さらに、このポリエステル樹脂中に残留した触媒は、得られたポリエステルポリオールとイソシアネートとのウレタン樹脂の製造時にも関与し、その反応性を促進させる効果をもつため、反応性を制御することが難しく、こういった触媒がポリエステルポリオールに残留しない触媒フリーなポリエステルポリオールが現在求められている。
【0003】
均一系触媒は、先に述べた問題で通常使用可能な触媒量がごく微量に制限されるため、ポリエステル製造には多くの時間が必要となる。さらに単離・回収が困難であることから、ポリエステルの着色や物性への影響が避けられないという問題もある。
そこで、有機金属化合物からなる高活性な有機酸系触媒を用いて少量でもエステル化反応を促進させる効果を有する技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。しかしこの提案には、やはり触媒の使用量に制限があるため、十分な量の触媒を使用することができず、大幅な製造時間の短縮は期待できない。
【0004】
また、固体酸触媒をポリエステル重合補助触媒として使用する技術が提案されているが、この特許で使用されているモリブデン酸ジルコニアはH0関数が−12.4であり、いわゆる超強酸である。しかし、グリコールと酸との脱水縮合反応に、こういった固体超強酸を用いると、その酸強度が強過ぎ、グリコールの脱水反応を経たエーテル化などの副反応を起こすために、選択率の問題で工業的には不利である(実施例6と比較例1参照)(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2005−118714号公報
【特許文献2】特開2006−265416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、残留触媒のない金属フリーなポリエステル樹脂を製造でき、製造上のユーティリティー効率が良く、かつ副生成物が検出限界以下となる極めてポリエステル化選択率の高い触媒であり、単離、回収、再利用が可能であるポリエステル製造用固体酸触媒、その製造方法及びそれを用いるポリエステルの製造方法にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するポリエステル樹脂製造用固体酸触媒を開発すべく鋭意研究を行った結果、多価カルボン酸と多価アルコールとから脱水縮合反応によりポリエステル樹脂を製造するに当たり、ポリエステル製造用固体酸触媒として特定の固体酸触媒を用いると、かかる課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は金属酸化物からなる担体(A)に金属酸化物(B)を担持させて得られる固体酸触媒の製造方法において、前記金属酸化物からなる担体(A)がジルコニアで、前記金属酸化物(B)がモリブデン酸化物である固体酸触媒の製造時の焼成温度を673K〜1473Kとすることを特徴とするポリエステル製造用固体酸触媒の製造方法を提供するものである
【発明の効果】
【0008】
本発明の固体酸触媒は、ジルコニアを含む担体(A)に金属酸化物(B)としてモリブデン酸化物を担持させたもので、ハメットの酸度関数(H0)を−3〜−9の固体酸触媒としたことにより、ポリエステルを効率良く製造できる。本発明の固体酸触媒は、ジルコニア担体上にモリブデン酸ジルコニアを触媒活性点として生成させたもので、この活性点を特定焼成温度で生成し、この特定範囲の酸度関数(H0)としたものである。この触媒活性点が多価アルコールを吸着し、ついで、これに多価カルボン酸が接触することにより、エステル化反応が進みポリエステルが効率よく生成するものと推定している。
本発明の特定の固体酸触媒(以下、触媒(C)あるいは、固体酸触媒(C)と言う)を用いてポリエステル化反応を行うことによって、
(1)触媒(C)が固体であるため触媒と目的物のポリエステルとの単離が容易であり、触媒の回収・再利用可能なので、使用できる触媒量に制限がなく、従来の均一系触媒に比べ、触媒を多量に用いることができ、生産性が向上し、工業的に有利である。
(2)ポリエステル合成後に触媒(C)を単離することで、ポリエステル内に触媒が残らず、金属フリーなポリエステルを得ることができる。
(3)現在使用されている触媒に比べ、より低温で縮合反応をすることができるので、ポリエステルを合成する際に要するエネルギーを減少することが可能である。
等の効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明の触媒(C)は、金属酸化物担体(A)表面に担持金属酸化物(B)を担持してなる固体酸触媒である。
この金属酸化物担体(A)としては、触媒の設計・装飾の容易性、触媒能を充分に発揮するか否か、ポリエステルもしくはその原料への溶解性などの点から、ジルコニア(二酸化ジルコニウム、ZrO2)を用いる。また、このジルコニアは、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al23)、チタニア(TiO2)、酸化スズ(SnO2、SnO)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化鉄(Fe23、Fe34)、又はゼオライト等を併用したものであっても良い。これらを併用する場合、触媒(C)中のジルコニアの含有量が、モル比で10%以上含んでいることが好ましく、さらに好ましくは30%以上含んだものである。なぜなら、これより少ないと、触媒(C)が、ポリエステル樹脂へ溶解することが問題となり、ポリエステル製造用固体酸触媒として使用し難くなるからである。
【0010】
前記担持させる金属酸化物(B)の金属元素としては、触媒の設計上からモリブデンである。この担持させる金属酸化物(B)としては、モリブデン酸化物(三酸化モリブデン、MoO3など)である。さらに、担持させる金属酸化物(B)の金属元素としては、モリブデンであるが、モリブデンと共にタングステン、タンタル等他の金属元素を併用し複合化したものであっても良い。これら複合化しても良い担持する金属酸化物としては、タングステン酸化物(WO3など)、タンタル酸化物(Ta25など)等が挙げられる。
本発明の触媒(C)の金属元素であるMo/Zr(Moはモリブデン、Zrはジルコニウム)比は、質量比で0.01〜0.40が好ましい。この範囲より少ないと、反応場となる触媒の活性点としての、モリブデン酸ジルコニアが充分に形成されず、触媒能を充分に発揮しないからである。また、この範囲を超えると、担体であるジルコニア表面に比べ、担持するモリブデン酸化物が多すぎ、モリブデン酸化物はジルコニア表面に多層に担持されることになり、結果として触媒能を充分に発揮できなくなるからである。これらの観点から、Mo/Zrの質量比はさらに好ましくは0.1〜0.2である。
【0011】
本発明の触媒(C)は、例えば水酸化ジルコニウムとモリブデン酸アンモニウムとの反応生成物(モリブデン酸ジルコニア等)を溝、孔、クラック等を有するジルコニアの表面に形成することにより製造できる。その製造方法としては、金属酸化物担体(A)の前駆体である水酸化ジルコニウムに、担持する金属酸化物(B)の前駆体であるモリブデン酸アンモニウムを平衡吸着法、インシピエント・ウェットネス(Incipient wetness)法、蒸発乾固法等公知の担持方法により担持し、さらにこれら吸着混合物を焼成することにより得られるものである。この時の焼成温度は、好ましくは673K〜1473K、より好ましくは973K〜1273Kとするのが良い。この温度から外れた場合、例えば、焼成温度が673Kより低いと、モリブデン−酸素−ジルコニウム(Mo−O−Zr)の結合が充分に形成されず、得られた触媒の活性が不十分となる恐れがある、また1473Kより高いと、表面積が激減するために反応基質との接触面積が充分に得られず、触媒活性が激減する恐れがあるため、好ましくない。
【0012】
酸度関数とは、溶液の酸塩基の強さを定量的に表わす数値のひとつで、溶液が水素イオンを与える能力、または水素イオンを受け取る能力を示す関数であり、酸についてはルイス・ハメットによるハメットの酸度関数が一般的に用いられ、溶液が中性塩基にプロトンを移動させる傾向を表現している。
ハメットの酸度関数は、電気的に中性の塩基Bが水溶液中で下記式のように結合する。
B + H+ ⇔ BH+
そして、BH+の酸解離定数をpKBH+とし、Bをある溶液に入れたときH+と結合する割合をCBH+、結合しない割合をCBとすると、ハメットの酸度関数(H0)は下記式で表される。
0=−pKBH+ +log(CBH+/CB)
本発明の触媒(C)のハメットの酸度関数(H0)は、−3〜−9のものである。ハメットの酸度関数(H0)は、水溶液の酸・塩基の強さがpHで表されるように、固体表面の酸・塩基点の強度を表す指標になる。この関数は、水溶液中ではpH=H0であるため、その強度が直感的に理解され、また、実験操作が簡便であるため広く受け入れられている。H0の値が小さい程強い酸性を示し、H0の値が大きい程強い塩基性を示している。
本発明におけるエステル化反応系では、本発明の固体酸触媒(C)の酸度関数(H0)が−3より大き過ぎると触媒活性を示さず、エステル化反応が進行しにくくなり、ポリエステル製造触媒として使用できない。一方、本発明の固体酸触媒(C)の酸度関数(H0)が−9より小さ過ぎるとグリコールの分子内脱水による炭素−炭素二重結合の生成、さらにはこの二重結合とグリコールによるエーテル化反応などの副反応を起こすおそれがあり、ポリエステル製造固体酸触媒として好ましくないからである。
【0013】
<NH3−TPD測定によるハメットの酸度関数(H0)の測定方法>
測定方法:
試料として固体酸触媒 0.1gを日本ベル製TPD-AT-1型昇温脱離装置の石英セル(内径10 mm)にセットし、ヘリウムガス (30 cm3 min-1, 1 atm)流通下で423 K (150℃)まで5 K min-1で昇温し、423 Kで3時間保った。その後ヘリウムガスを流通させたまま373 K (100℃)まで7.5 K min-1で降温した後に真空脱気し、100 Torr (1 Torr = 1/760 atm = 133 Pa)のNH3を導入して30分間吸着させ、その後12 分間脱気した後に水蒸気処理を行った。水蒸気処理としては、373 Kで約25 Torr (約3 kPa)の蒸気圧の水蒸気を導入、そのまま30分間保ち、30分間脱気、再び30分間水蒸気導入、再び30分間脱気の順に繰り返した。その後ヘリウムガス 0.041 mmol s-1 (298 K, 25℃, 1 atmで60 cm3 min-1に相当する)を減圧(100 Torr)を保ちながら流通させ、373 Kで30分間保った後に試料床を10 K min-1で983 K (710℃)まで昇温し、出口気体を質量分析計(ANELVA M-QA 100F)で分析した。
測定に際しては質量数(m/e) 2, 4, 14, 15, 16, 17, 18, 26, 27, 28, 29, 30, 31, 32, 44のマススペクトルを全て記録した。終了後に1 mol %-NH3/He標準ガスをさらにヘリウムで希釈してアンモニアガス濃度0, 0.1, 0.2, 0.3, 0.4 mol %、合計流量が0.041 mmol s-1となるようにして検出器に流通させ、スペクトルを記録し、アンモニアの検量線を作成して検出器強度を補正した。昇温脱離時に測定した主な各質量スペクトルのアンモニア離脱TPDスペクトルから、実測に基づく1点法で、ピーク面積から酸量、ピーク位置などから平均酸強度を決定する。酸量と酸強度(ΔH)を算出し、酸度関数(H0)を計算した。
【0014】
前記の固体酸触媒(C)の表面は、水との接触角を浸透速度法で測定することで、濡れ性を判断できる。この濡れ性は、触媒(C)の製造時の焼成温度で制御することができる。固体酸触媒(C)の濡れ性の浸透速度法による測定は、
測定装置:表面張力計K12(クルス社製)の粉体濡れ速度測定用オプションで、
測定方法:試料(触媒)2.5gをサンプル管に詰め溶剤の浸透速度を測定した。
ヘキサンの接触角が0°であると仮定してファクターを求め、水の濡れ速度から水の接触角を測定した。下記数1のウォッシュバーンの式から計算した。
【0015】
【数1】


その平均粒径が1μmの場合、固体酸触媒(C)を充填したカラム内を水が浸透する速度(浸透速度法)から算出された水との接触角が、30°〜110°であることがポリエステル製造用固体酸触媒(C)として好ましい。より好ましくは接触角70°〜90°である。
【0016】
本発明の固体酸触媒(C)を上記接触角に制御するのは、この固体酸触媒(C)の触媒表面の水との接触角が30°より小さいと、ポリエステル合成時に生成する水が触媒表面にある活性点に吸着し易く、原料であるグリコールと酸が触媒表面の活性点に到達しにくいことが考えられ、また110°より大きいと水の他に原料であるグリコールと酸をも触媒表面上の活性点に到達しにくくなることが考えられるからである。一方、触媒表面が上記接触角の範囲内、特に70°〜90°であれば触媒表面に水が吸着しにくく、かつ原料であるグリコールと酸が触媒表面上の活性点に到着し易いため、ポリエステル化反応が進むものと考えられる。結果として触媒表面を上記接触角の範囲内に調製したものは、反応速度が大きくなると考えられる。
【0017】
固体酸触媒(C)は、反応原料物に対して触媒作用を発揮してポリエステル化反応を進行させる。すなわち、反応原料物である多価アルコール(D)と多価カルボン酸(E)とは、触媒表面上の活性点に吸着、反応、脱離などのプロセスを経て反応が進行することになる。金属酸化物担体(A)に担持する金属元素を含む酸化物(B)とからなる活性点を固体酸触媒(C)の表面に形成することが好ましく、特に金属酸化物担体(A)表面で触媒作用を発揮させることが好ましいことから、主に金属酸化物担体(A)の表面に担持する金属元素を含む酸化物(B)を担持させることが好ましい。
【0018】
金属酸化物担体(A)に、担持する金属酸化物(B)を担持する方法としては、平衡吸着法、インシピエント・ウェットネス(Incipient wetness法)、蒸発乾固法等が挙げられる。
平衡吸着法は、金属酸化物担体(A)を担持させる金属の溶液に浸して吸着させた後、過剰分の溶液を濾別する方法である。担持量は溶液濃度と細孔容積で決まる。担体を加えるにつれて溶液の組成が変化するなどの問題がある。
インシピエント・ウェットネス(Incipient Wetness)法は、金属酸化物担体(A)を排気後、細孔容積分の担持させる金属の溶液を少しずつ加えて金属酸化物担体(A)の表面が均一に濡れた状態にする方法である。金属元素の担持量は溶液濃度で調節する。
蒸発乾固法は、金属酸化物担体(A)を溶液に浸した後、溶媒を蒸発させて溶質を担持する方法である。担持量を多くできるが、担体と弱く結合した金属成分は乾燥時に濃縮されて還元処理後には大きな金属粒子になりやすい。
これらの中で、触媒の特性を考慮しつつ担持方法を選ぶことが好ましく、本発明の固体酸触媒(C)では、インシピエント・ウェットネス(Incipient Wetness)法もしくは蒸発乾固法が好ましく用いられる。
【0019】
本発明の固体酸触媒(C)を製造する方法としては、例えば、モリブデン化合物及びジルコニウム化合物を上記の担持方法により共存させ、空気中もしくはHe、Ne、Ar、N2、O2などの雰囲気下で、好ましくは673K〜1473Kで焼成処理を行うことにより得られる。これらのモリブデン酸化物及びジルコニウム化合物の選定には、担体表面の等電点を考慮し、担持させる金属化合物を選定する必要がある。例えば、そのモリブデン化合物としては、モリブデン酸アンモニウム((NH46Mo724・4H2O)が好ましく挙げられ、ジルコニウム化合物としては水酸化ジルコニウムが好ましく挙げられる。焼成温度は673K〜1473Kの範囲で行うことが好ましい。更に好ましくは773K〜1273Kの範囲である。これは、焼成温度が673Kより低いと、モリブデン−酸素−ジルコニウム(Mo−O−Zr)の結合が充分に形成されず、得られた触媒の活性が低下する恐れがあるためである。また、1473Kより高い場合、表面積が激減するために反応基質との接触面積が充分に得られないために、活性が低下する恐れがあるためである。さらに、前記の濡れ性(疎水性)評価と触媒活性評価(実施例)により、更に好ましい焼成温度は973K〜1273Kである。
【0020】
本発明の固体酸触媒(C)は、固体状の触媒であり、エステル化反応の原料である多価アルコール(D)、多価カルボン酸(E)の液相に溶解しないものである。また、本発明の固体酸触媒(C)は、必要に応じて任意の元素をさらに1種類あるいはそれ以上の種類を併用して担持させても良い。その任意の元素としてはケイ素、アルミニウム、リン、タングステン、セシウム、ニオブ、チタン、スズ、銀、銅、亜鉛、クロム、テルル、アンチモン、ビスマス、セレン、鉄、マグネシウム、カルシウム、バナジウム、セリウム、マンガン、コバルト、ヨウ素、ニッケル、ランタン、プラセオジウム、ネオジウム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムなどが挙げられる。
【0021】
かかる任意に担持する金属酸化物の形態としては、特に限定されるものではないが、例えば粒子状、クラスター等の形態が好ましく挙げられる。また、この担持させる金属酸化物(B)の微粒子のサイズにも限定されないが、サブミクロンからミクロン単位以下となる粒子状態などを形成する状態が好ましく、各粒子が会合・凝集などをしていても良い。
【0022】
本発明の固体酸触媒(C)の形状としては、粉末状、球形粒状、不定形顆粒状、円柱形ペレット状、押し出し形状、リング形状等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、数オングストローム程度もしくはそれ以上の大きさの細孔を有するものであっても良く、反応場がその細孔内で空間を制御した状態であっても良い。また、固体酸触媒(C)の大きさも特に限定されないが、ポリエステルを合成した後に触媒(C)を単離することを考慮すると、触媒(C)を形成する担体(A)は比較的粒子径が大きいものが好ましい。反応に際して固定床流通式反応器を用いる際は、担体(A)が球状である場合、その粒子直径が極端に小さいと反応物を流通させる時に大きな圧力損失が生じ、有効に反応物が流通できなくなる恐れがある。また、粒子径が極端に大きいと反応原料物が固体酸触媒(C)と効率良く接触しなくなり、有効に触媒反応が進まなくなる恐れがある。そこで、本発明の固体酸触媒(C)のサイズは、触媒を充填するカラムの大きさと、最適な空隙率により決定することが好ましく、本発明の触媒(C)平均粒径は、光散乱法(マイクロトラックX100装置)もしくはふるい分け法で1μm〜1cmであり、10μm〜10mmがより好ましい。さらに好ましくは平均粒径0.5mm〜8mmの顆粒状の金属酸化物担体(A)に、egg shell型(外層担持)に担持する金属酸化物(B)を担持したものが好ましい。
【0023】
本発明のポリエステルの製造方法は、多価アルコール(D)と多価カルボン酸(E)とを、固体酸触媒(C)の存在下にてエステル化反応する。その際のポリエステルとは、ポリエステル樹脂、ポリエステルポリオール、不飽和ポリエステル等である。その際の装置は、固体酸触媒(C)を充填した流通式反応器又は回分式反応器に反応原料である前記多価アルコール(D)、多価カルボン酸(E)を供給して脱水縮合反応させることが好ましい。さらに本発明の製造法は、固体酸触媒(C)の存在下に多価アルコール(D)と多価カルボン酸(E)とを脱水縮合反応させ、所定の分子量に達した時点で固体酸触媒(C)を除去するものである。
触媒の除去方法としては、特別な操作は特に無い。例えば回分式反応器を用いた場合は、簡単な濾過操作で行え、固定床流通式反応器を用いた場合はそういった濾過操作の必要も無く、固体酸触媒を充填したカラム内を流通して得られたポリエステル、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル中に固体酸触媒(C)が残らない製造方法である。
【0024】
回分式反応器では、反応原料物である多価アルコール(D)と多価カルボン酸(E)とを反応器に仕込んで、撹拌しながら反応を行ない、一定時間後にポリエステル、ポリエステル樹脂等生成物を取り出す方法で行う。非定常操作であるから、反応器内の組成は時間とともに変化することになる。遅い反応で高ポリエステル転化率を要求されるときは、回分式反応器が有利であり、小規模生産に有利に使用できる。
一方、流通式反応器は、定常的な流通操作によって、物質の損失を少なくし、反応状態を安定にしてポリエステル、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステルの品質を一定に保ち、生産費を低減させることが可能であり、ポリエステル樹脂を連続的に製造する方法としてはより有利である。
これらの反応器のうち、反応終了後に触媒の回収を特殊な操作をする必要なく行える固定床流通式反応器もしくは流動床流通式反応器を用いるのが特に好ましい。
【0025】
本発明で用いられる多価アルコール(D)としては、通常ポリエステルの合成に用いられる脂肪族、脂環式、及び芳香族多価アルコールが挙げられ、必要により一価アルコールも使用できる。例えばエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、2,4−ジエチルー1,5−ペンタンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール等の二価アルコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。これらの多価アルコールは、二価アルコールが主に使用され、これら単独又は2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0026】
本発明で用いられる多価カルボン酸(E)としては、通常ポリエステルあるいは不飽和ポリエステルの合成に使用される飽和二塩基酸、α,β−不飽和二塩基酸等の多塩基酸を挙げることができ、必要により一塩基酸も使用できる。飽和二塩基酸とは、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタール酸、アジピン酸、ピメリン酸、シュベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,12ドデカンジカルボン酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ダイマー酸、ハロゲン化無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸無水物、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、またこれらのジアルキルエステル等の二塩基酸、もしくはこれらに対応する酸無水物等、ピロメリット酸等の多塩基酸が挙げられる。これらの多価カルボン酸を単独又は2種類以上組み合わせて用いることができる。α,β−不飽和二塩基酸としては、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸等を挙げることができる。不飽和ポリエステル中における多価カルボン酸量は、好ましくは30〜50質量%である。
【0027】
本発明で使用する多価アルコール(D)と多価カルボン酸(E)との割合は、それらの官能基数を考慮し、当量比で1:3〜3:1であることが好ましく、より好ましくは1:2〜2:1である。目的とする樹脂により、適宜当量比が選択される。
【0028】
本発明の固体酸触媒(C)を用いたポリエステルの製造方法は、原料である多価カルボン酸(E)、多価アルコール(D)を脱水縮合させるに当り、例えば(1)常圧下に多価アルコール(D)と多価カルボン酸(E)とを縮重合させる方法、(2)真空下で両者を縮合重合せしめる方法、(3)トルエンの如き不活性溶剤の存在下で縮重合を行ったのち、縮合水と溶剤とを共沸させて反応系外に除去せしめる方法などがある。縮重合反応は、窒素等の不活性ガスの雰囲気下で行うことが、得られるポリエステル、ポリエステルポリオール、不飽和ポリエステルの着色を防止する点で好ましい。
【0029】
従来の均一系触媒として用いられていたチタン系及び錫系の触媒は、反応温度が140℃以下ではほとんど縮重合反応が進行しないため、それ以上の温度で反応させる必要があった。
しかしながら、本発明の固体酸触媒(C)は、低温例えば、115℃でも縮重合反応を進行させることが可能であり(実施例参照)、本発明の固体酸触媒(C)を用いることで従来に比べ低温で、エステル化反応をすることが可能となるため、省エネルギー化の観点から工業的に有利である。
【実施例】
【0030】
次に、実施例及び比較例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。実施例及び比較例の部は、特記しないかぎり質量部を表す。
【0031】
実施例1<固体酸触媒Aの製造>
製造方法としては、100℃で一晩乾燥させた水酸化ジルコニウム(Zr(OH)4、日本軽金属工業製)50gを、純水にモリブデン酸アンモニウム[(NH46Mo724・4H2O(キシダ化学製)]を必要量溶かした水溶液(0.04mol・dm-3)を用い、水酸化ジルコニウムの細孔容積分の前記モリブデン酸アンモニウム水溶液を少しずつ加えてジルコニウム担体表面が均一に濡れた状態にして焼成前の前駆体を得た(インシピエント・ウェットネス法)。三酸化モリブデン(MoO3)の担持量が、質量比でMo/Zr=0.1となるように溶液濃度で調節した。反応前処理として酸素雰囲気下で焼成温度1073Kで3時間焼成を行った。自然放置冷却し、常温にして、固体酸触媒Aを得た。
【0032】
実施例2<固体酸触媒Bの調製>
焼成温度を673Kに変えた以外は上記実施例1と同様に調製し、固体酸触媒Bを得た。
【0033】
実施例3<固体酸触媒Cの調製>
焼成温度を773Kに変えた以外は上記実施例1と同様に調製し、固体酸触媒Cを得た。
【0034】
実施例4<固体酸触媒Dの調製>
焼成温度を873Kに変えた以外は上記実施例1と同様に調製し、固体酸触媒Dを得た。
【0035】
実施例5<固体酸触媒Eの調製>
焼成温度を973Kに変えた以外は上記固体酸触媒Aと同様に調製し、固体酸触媒Eを得た。
【0036】
(触媒の特性)
<NH3−TPD測定によるH0関数の測定方法>
測定方法:
試料(固体酸触媒A及び固体酸触媒B)約0.1 gを日本ベル製TPD-AT-1型昇温脱離装置の石英セル(内径10 mm)にセットし、ヘリウムガス (30 cm3 min-1, 1 atm)流通下で423 K (150℃)まで5 K min-1で昇温し、423 Kで3時間保った。その後ヘリウムガスを流通させたまま373 K (100℃)まで7.5 K min-1で降温した後に真空脱気し、100 Torr (1 Torr = 1/760 atm = 133 Pa)のNH3を導入して30分間吸着させ、その後12 分間脱気した後に水蒸気処理を行った。水蒸気処理としては、373 Kで約25 Torr (約3 kPa)の蒸気圧の水蒸気を導入、そのまま30分間保ち、30分間脱気、再び30分間水蒸気導入、再び30分間脱気の順に繰り返した。その後ヘリウムガス 0.041 mmol s-1 (298 K, 25℃, 1 atmで60 cm3 min-1に相当する)を減圧(100 Torr)を保ちながら流通させ、373 Kで30分間保った後に試料床を10 K min-1で983 K (710℃)まで昇温し、出口気体を質量分析計(ANELVA M-QA 100F)で分析した。
【0037】
測定に際しては質量数(m/e) 2, 4, 14, 15, 16, 17, 18, 26, 27, 28, 29, 30, 31, 32, 44のマススペクトルを全て記録した。終了後に1 mol %-NH3/He標準ガスをさらにヘリウムで希釈してアンモニアガス濃度0, 0.1, 0.2, 0.3, 0.4 mol %、合計流量が0.041 mmol s-1となるようにして検出器に流通させ、スペクトルを記録し、アンモニアの検量線を作成して検出器強度を補正した。
【0038】
図1,図2に、昇温脱離時に測定した主な各質量スペクトルを示した。他の質量数(m/e)の信号はほぼベースライン上にあり、ピークを示さなかった。
どちらの試料でも、500 K付近にアンモニアの脱離を示すm/e = 16のピークが見られ、さらに固体酸触媒Aでは900 K以上、固体酸触媒Bでは780 K付近に小さなm/e = 16のショルダーが見られる。しかし、これら高温のショルダーの出現と同時に、m/e = 44の大きなピーク(CO2のフラグメント)およびm/e = 28 (CO2のフラグメント+N2)も見られていることから、高温のショルダーはCO2のフラグメントによるものであって、アンモニアによるものではないと考えられる。そこで、後述のアンモニアの定量ではこの部分を除いた。
図3には、m/e = 16から算出したアンモニアTPDスペクトルを示した。これらのスペクトルから酸量と酸強度(ΔH)を算出し、表−1に示した。
実測に基づく1点法では、ピーク面積から酸量、ピーク位置などから平均酸強度を決定できる。この方法によると質量当たりの固体酸触媒Aの酸量は約0.03 mol kg-1、固体酸触媒Bの酸量は約0.2 mol kg-1と差があるように思われるが、表面密度(酸量/表面積)は固体酸触媒A, Bとも0.4〜0.7 nm-2程度であった。平均酸強度は固体酸触媒AがΔH = 133 kJ mol-1、H0に換算して−7.4に対して、固体酸触媒BがΔH = 116 kJ mol-1、H0に換算して−4.4とやや弱かった。
【0039】
【表1】


【0040】
(触媒の濡れ性試験による触媒と水との接触角の測定)
試験方法:測定装置:表面張力計K12(クルス社製)の粉体濡れ速度測定用オプション
測定方法:試料約2.5gをサンプル管に詰め溶剤の浸透速度を測定した。
ヘキサンの接触角が0°であると仮定してファクターを求め、水の濡れ速度から水の接触角を測定した。(ウォッシュバーンの式)
触媒:固体酸触媒A 平均粒径1μm
固体酸触媒B 平均粒径1μm
固体酸触媒D 平均粒径1μm
結果を表2に示した。

ウォッシュバーンの式
【0041】
【数2】


【0042】
【表2】

【0043】
(触媒の焼成温度と転化率との関係)
〈実施例6〉(ポリエステルの合成)
三角フラスコに1,4−ブタンジオール24.5質量部とアジピン酸34.8質量部を仕込み、触媒として固体酸触媒A 0.59質量部を添加した。反応温度180℃に維持し、常圧下、振とう機中で振とうさせながら恒温のオイルバス中で反応を行った。
【0044】
〈実施例7〉(ポリエステルの合成)
三角フラスコに1,4−ブタンジオール24.5質量部とアジピン酸34.8質量部を仕込み、触媒として固体酸触媒B0.59質量部を添加した。反応温度180℃に維持し、常圧下、振とう機中で振とうさせながら恒温のオイルバス中で反応を行った。
【0045】
〈実施例8〉(ポリエステルの合成)
三角フラスコに1,4−ブタンジオール24.5質量部とアジピン酸34.8質量部を仕込み、触媒として固体酸触媒C 0.59質量部を添加した。反応温度180℃に維持し、常圧下、振とう機中で振とうさせながら恒温のオイルバス中で反応を行った。
【0046】
〈実施例9〉(ポリエステルの合成)
三角フラスコに1,4−ブタンジオール24.5質量部とアジピン酸34.8質量部を仕込み、触媒として固体酸触媒D 0.59質量部を添加した。反応温度180℃に維持し、常圧下、振とう機中で振とうさせながら恒温のオイルバス中で反応を行った。
【0047】
〈実施例10〉(ポリエステルの合成)
三角フラスコに1,4−ブタンジオール24.5質量部とアジピン酸34.8質量部を仕込み、触媒として固体酸触媒E 0.59質量部を添加した。反応温度180℃に維持し、常圧下、振とう機中で振とうさせながら恒温のオイルバス中で反応を行った。

以上の結果を、表3にまとめて記載した。焼成温度が900K〜1100Kであると、ポリエステル転化率が大きくなることがわかった。
【0048】
【表3】

【0049】
〈実施例11〉(ポリエステルの合成)
セパラブルフラスコに1,4−ブタンジオール82.28質量部とアジピン酸117.72質量部を仕込み、触媒として固体酸触媒Aを2.00質量部添加した。セパラブルフラスコを閉じ、反応温度180℃に維持し、−95KPaの減圧下、300rpmの回転数で撹拌しながら、恒温のオイルバス中で反応を行った。合成終了後、得られたポリエステルを溶剤(トルエン)で溶かし、濾過することにより触媒の単離・回収を行った。
【0050】
〈実施例12〉(ポリエステルの合成)
セパラブルフラスコに1,4−ブタンジオール82.28質量部とアジピン酸117.72質量部を仕込み、触媒として固体酸触媒Aを2.00部添加した。セパラブルフラスコを閉じ、反応温度115℃に維持し、−95KPaの減圧下、300rpmの回転数で撹拌しながら恒温のオイルバス中で反応を行った。
【0051】
〈実施例13〉(ポリエステルの合成)
三角フラスコに1,4−ブタンジオール28.1質量部とコハク酸32.7質量部を仕込み、触媒として固体酸触媒A 0.61質量部を添加した。反応温度180℃に維持し、常圧下、振とう機中で振とうさせながら恒温のオイルバス中で反応を行った。
【0052】
〈実施例14〉(ポリエステルの合成)
三角フラスコに1,4−ブタンジオール20.6質量部とアゼライン酸37.1質量部を仕込み、触媒として固体酸触媒A 0.58質量部を添加した。反応温度180℃に維持し、常圧下、振とう機中で振とうさせながら恒温のオイルバス中で反応を行った。
【0053】
〈実施例15〉(ポリエステルの合成)
三角フラスコに1,4−ブタンジオール19.6質量部とセバシン酸37.7質量部を仕込み、触媒として固体酸触媒A 0.57質量部を添加した。反応温度180℃に維持し、常圧下、振とう機中で振とうさせながら恒温のオイルバス中で反応を行った。
【0054】
〈実施例16〉(ポリエステルの合成)
三角フラスコに1,4−ブタンジオール17.9質量部と1,12ドデカンジカルボン酸38.7質量部を仕込み、触媒として固体酸触媒A 0.57質量部を添加した。反応温度180℃に維持し、常圧下、振とう機中で振とうさせながら恒温のオイルバス中で反応を行った。
【0055】
〈実施例17〉(ポリエステルの合成)
三角フラスコに1,4−ブタンジオール9.3質量部とダイマー酸43.7質量部を仕込み、触媒として固体酸触媒A0.53質量部を添加した。反応温度180℃に維持し、常圧下、振とう機中で振とうさせながら恒温のオイルバス中で反応を行った。
【0056】
〈実施例18〉(ポリエステルの合成)
三角フラスコに1,4−ブタンジオール24.2質量部と無水フタル酸35.0質量部を仕込み、触媒として固体酸触媒A 0.59部を添加した。反応温度180℃に維持し、常圧下、振とう機中で振とうさせながら恒温のオイルバス中で反応を行った。
【0057】
〈実施例19〉(ポリエステルの合成)
三角フラスコにエチレングリコール19.6質量部とアジピン酸41.1質量部を仕込み、冷却管をセットし、反応温度を180℃に維持した恒温のオイルバス中で、常圧下、振とう機中で振とうさせながら反応を行った。反応開始から3.5h後に固体酸触媒A 0.61部を添加し、さらに2時間後冷却管をはずした。
【0058】
〈実施例20〉(ポリエステルの合成)
三角フラスコに1,6−ヘキサンジオール28.1質量部とアジピン酸30.1質量部を仕込み、冷却管をセットし、反応温度を180℃に維持した恒温のオイルバス中で、常圧下、振とう機中で振とうさせながら反応を行った。反応開始から3.5時間後に固体酸触媒A 0.58部を添加し、さらに2時間後冷却管をはずした。
【0059】
〈実施例21〉(ポリエステルの合成)
三角フラスコにネオペンチルグリコール26.4質量部とアジピン酸32.3質量部を仕込み、冷却管をセットし、反応温度を180℃に維持した恒温のオイルバス中で、常圧下、振とう機中で振とうさせながら反応を行った。反応開始から3.5時間後に固体酸触媒A 0.59質量部を添加し、さらに2時間後冷却管をはずした。
【0060】
〈実施例22〉(ポリエステルの合成)
三角フラスコにジエチレングリコール26.7質量部とアジピン酸32.0質量部を仕込み、冷却管をセットし、反応温度を180℃に維持した恒温のオイルバス中で、常圧下、振とう機中で振とうさせながら反応を行った。反応開始から3.5時間後に固体酸触媒A 0.59質量部を添加し、さらに2時間後冷却管をはずした。
【0061】
〈実施例23〉(ポリエステルの合成)
三角フラスコに2−メチル−1,3−プロパンジオール24.5質量部とアジピン酸34.8部を仕込み、冷却管をセットし、反応温度を180℃に維持した恒温のオイルバス中で、常圧下、振とう機中で振とうさせながら反応を行った。反応開始から3.5時間後に固体酸触媒A 0.59質量部を添加し、さらに2時間後冷却管をはずした。
【0062】
〈実施例24〉(ポリエステルの合成)
三角フラスコに3−メチル−1,5−ペンタンジオール28.1質量部とアジピン酸30.1質量部を仕込み、冷却管をセットし、反応温度を180℃に維持した恒温のオイルバス中で、常圧下、振とう機中で振とうさせながら反応を行った。反応開始から3.5時間後に固体酸触媒A 0.58質量部を添加し、さらに2時間後冷却管をはずした。
【0063】
〈実施例25〉(ポリエステルの合成)
三角フラスコに1,3−プロピレングリコール22.2質量部とアジピン酸37.8質量部を仕込み、冷却管をセットし、反応温度を180℃に維持した恒温のオイルバス中で、常圧下、振とう機中で振とうさせながら反応を行った。反応開始から3.5時間後に固体酸触媒A 0.60質量部を添加し、さらに2時間後冷却管をはずした。
【0064】
〈実施例26〉(ポリエステルの合成)
三角フラスコにジエチレングリコール26.5質量部と無水フタル酸32.1質量部を仕込み、冷却管をセットし、反応温度を180℃に維持した恒温のオイルバス中で、常圧下、振とう機中で振とうさせながら反応を行った。反応開始から3.5時間後に固体酸触媒A 0.53質量部を添加し、さらに2時間後冷却管をはずした。
【0065】
〈実施例27〉(ポリエステルの合成)
三角フラスコに2−メチル−1,3−プロパンジオール9.3質量部とダイマー酸43.7質量部を仕込み、冷却管をセットし、反応温度を180℃に維持した恒温のオイルバス中で、常圧下、振とう機中で振とうさせながら反応を行った。反応開始から3.5時間後に固体酸触媒A 0.53質量部を添加し、さらに2時間後冷却管をはずした。
【0066】
〈実施例28〉(不飽和ポリエステルの合成)
5LのSUS製釜にジエチレングリコール431.50質量部、テレフタル酸231.8質量部、アジピン酸85.0質量部、固体酸触媒Aを12.7質量部仕込み、窒素導入管より窒素ブローしながら215℃まで昇温し、12時間反応を進行させた。反応中、酸価を2時間毎に追跡し、酸価が3以下になったのを確認後、温度が150度になるまで冷却し、無水フタル酸137.7質量部及び無水マレイン酸114.1質量部を加え、205度まで再昇温させ、さらに反応を9時間進行させた。酸価が33以下になったのを確認後、トルハイドロキノン30ppm、ナフテン酸銅10ppmを添加し、スチレンで希釈し不揮発分60%の液状樹脂を得た。

以上の結果を、表4にまとめて記載した。いずれの多価アルコール、多塩基酸でもポリエステル用触媒となりうることを確認した。
【0067】
【表4】

【0068】
〈実施例29〉(反応速度論的解析とポリエステル化反応機構の推定)
三角フラスコに1,4−ブタンジオール15.45質量部とアジピン酸29.4質量部を仕込み、触媒として固体酸触媒Aを0.45部添加し、冷却管をセットし、反応温度180℃、常圧下、振とう機中で振とうさせながら恒温のオイルバス中で反応を行った。反応から1時間毎にサンプリングし、酸価を測定した。
【0069】
〈実施例30〉(反応速度論的解析とポリエステル化反応機構の推定)
三角フラスコに1,4−ブタンジオール20.6質量部とアジピン酸29.4質量部を仕込み、触媒として固体酸触媒Aを0.50部添加し、冷却管をセットし、反応温度180℃、常圧下、振とう機中で振とうさせながら恒温のオイルバス中で反応を行った。反応から1時間毎にサンプリングし、酸価を測定した。
【0070】
〈実施例31〉(反応速度論的解析とポリエステル化反応機構の推定)
三角フラスコに1,4−ブタンジオール25.75質量部とアジピン酸29.4質量部を仕込み、触媒として固体酸触媒Aを0.55部添加し、冷却管をセットし、反応温度180℃、常圧下、振とう機中で振とうさせながら恒温のオイルバス中で反応を行った。反応から1時間毎にサンプリングし、酸価を測定した。
【0071】
〈実施例32〉(反応速度論的解析とポリエステル化反応機構の推定)
三角フラスコに1,4−ブタンジオール20.6質量部とアジピン酸36.75質量部を仕込み、触媒として固体酸触媒Aを0.57部添加し、冷却管をセットし、反応温度180℃、常圧下、振とう機中で振とうさせながら恒温のオイルバス中で反応を行った。反応から1時間毎にサンプリングし、酸価を測定した。
【0072】
〈実施例33〉(反応速度論的解析とポリエステル化反応機構の推定)
三角フラスコに1,4−ブタンジオール20.6質量部とアジピン酸22.05質量部を仕込み、触媒として固体酸触媒Aを0.43部添加し、冷却管をセットし、反応温度180℃、常圧下、振とう機中で振とうさせながら恒温のオイルバス中で反応を行った。反応から1時間毎にサンプリングし、酸価を測定した。
【0073】
上記実施例29〜実施例33の結果から、低転化率領域における反応速度(Rate)を算出し、反応速度と原料の濃度依存性を調べた(図4参照)。この結果から、固体酸触媒Aでの1,4−ブタンジオール(1,4BG)とアジピン酸(AA)から得られるポリエステル化反応における反応速度式は、
Rate=k[1,4BG]0.1[AA]0.8
で見積もることができる。無触媒下での反応速度式は、
Rate=k[1,4BG]1[AA]1
であるので、この触媒系では、1,4BGに対する反応次数が1→0.1となることから活性点に1,4BGが吸着していることが解かり、AAに対する反応次数は1→0.8となったことからAAが吸着し難いことが解かる。反応次数が小数点となっているが、これは、エステル化反応が、触媒表面および触媒表面外で進行しており、それらの合算値として計算されたためであると考えられる。またこれらの反応次数から、触媒表面には1,4BGが強く吸着されることがわかる。
よって、この触媒系におけるエステル化反応機構は、まず1,4BGが触媒表面の活性点に解離吸着し、続いてAAがその活性点と接触、反応することでエステル化反応が進行していると推定できる。エステル化反応機構の概念図を図5に示す。
【0074】
〈比較例1〉(ポリエステルの合成)
三角フラスコに1,4−ブタンジオール24.5質量部とアジピン酸34.8質量部を仕込み、固体超強酸として硫酸根ジルコニア(以下これをSO42-/ZrO2と記す, 第一希元素化学製, lotNo.G18088)を0.59質量部添加した。反応温度180℃に維持し、常圧下、振とう機中で振とうさせながら恒温のオイルバス中で反応を行った。このSO42-/ZrO2の酸強度は、ハメットの酸度関数H0で表した時に、H0=−11.93であり、いわゆる固体超強酸である。
【0075】
〈比較例2〉(ポリエステルの合成)
セパラブルフラスコに1,4−ブタンジオール82.28質量部とアジピン酸117.72質量部を仕込み、Ti(OC3H7)4を0.04質量部添加した。セパラブルフラスコを閉じ、反応温度180℃に維持し、−95KPaの減圧下、300rpmの回転数で撹拌しながら恒温のオイルバス中で反応を行った。
【0076】
〈比較例3〉(ポリエステルの合成)
セパラブルフラスコに1,4−ブタンジオール82.28質量部とアジピン酸117.72質量部を仕込み、Ti(OC3H7)4を0.04部添加した。セパラブルフラスコを閉じ、反応温度115℃に維持し、−95KPaの減圧下、300rpmの回転数で撹拌しながら恒温のオイルバス中で反応を行った。
【0077】
〈比較例4〉(ポリエステルの合成)
三角フラスコに1,4−ブタンジオール24.5質量部とアジピン酸34.8質量部を仕込み、無触媒で、反応温度を115℃に維持し、常圧下、振とう機中で振とうさせながら恒温のオイルバス中で反応を行った。
比較例として既存の触媒を使用してポリエステル樹脂を製造した結果を表6に示した。比較例3のごとく、既存のチタン系触媒或いは無触媒では、反応温度115℃でポリエステル樹脂が生成しないことが解る。
【0078】
【表5】

【0079】
実施例、比較例ともに反応が充分に進んでいないものがあるが、反応を途中でストップしたためであり、これは問題ではない。
【0080】
(副反応生成物の解析)
固体酸触媒を用いて合成したポリエステルの副反応・残留触媒について検討する。
副反応の解析には、実施例6〜12と比較例1で合成したポリエステルの副生成物の定量・残留触媒の分析を行った。結果を表に示した。
【0081】
副反応の解析には、NMR及びGC−MSの分析結果に基づく生成物の組成及び仕込量から、下記の式により計算された「転化率(%)」及び「副生成物のモル%」によって評価した。副生成物としては、グリコールの酸化反応によるアルデヒドもしくは酸の生成、グリコールの分子内脱水による二重結合の生成、さらにはこの二重結合とグリコールによるエーテル化反応、炭素−炭素結合の開裂反応が考えられ、これら副生成物の含有量を調べた。分析はNMRを用いて測定を行った。炭素−炭素結合の開裂は生成物の末端CH3を測定した。GC−MSは合成されたポリエステルをアルカリ分解した後、原料であるグリコールと酸以外のものが含まれているか否かを調べた。
【0082】
転化率(%)=(反応後の酸価/反応前の酸価)×100
【0083】
副生成物(モル%)=(グリコールを100とした時のそれぞれの副生成物のモル%)
【0084】
[ポリエステル中に含まれる残留触媒量の定量]
実施例11と比較例2で合成したポリエステルの残留触媒量を蛍光X線分析装置を用いて定量した。結果を表6に示す。
【0085】
【表6】

【0086】
<結果の評価>
上記表6の実施例及び比較例より、以下の諸点が確認できた。
(1)本発明の触媒はポリエステルの選択率が99.9%以上(副生成物が検出限界以下)と極めて良好である。また反応速度も、通常の酸触媒ほどではないが、大量に用いても濾別・再利用可能なことから、それらをカバーし、かつ金属フリーなポリエステルを合成できる。
(2)本発明の固体酸触媒は、酸強度を示すH0関数で表記すると、H0=−3〜−9である。
(3)本発明の固体酸触媒の水との接触角は70°〜90°の範囲である。
(4)焼成温度が触媒の濡れ性と関係しており、これが触媒活性に影響していることがわかった。反応速度は、900〜1100K°付近で最適となる。
(5)現在使用されているチタン系均一触媒に比べ、より低温でポリエステルを合成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】質量分析計による固体酸触媒Aの昇温脱離時に測定した主な質量スペクトル
【図2】質量分析計による固体酸触媒Bの昇温脱離時に測定した主な質量スペクトル
【図3】TPD−AT−1型昇温脱離装置による固体酸触媒A及びBのアンモニアTPDスペクトル
【図4】反応速度と原料(多価カルボン酸と多価アルコール)濃度依存性
【図5】エステル化反応機構の概念図
【符号の説明】
【0088】
A 固体酸触媒A
B 固体酸触媒B

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物からなる担体(A)に金属酸化物(B)を担持させて得られる固体酸触媒の製造方法において、前記金属酸化物からなる担体(A)がジルコニアで、前記金属酸化物(B)がモリブデン酸化物である固体酸触媒の製造時の焼成温度を673K〜1473Kとすることを特徴とするポリエステル製造用固体酸触媒の製造方法。
【請求項2】
前記焼成温度を、973K〜1273Kとする請求項に記載のポリエステル製造用固体酸触媒の製造方法。
【請求項3】
金属酸化物担体(A)と担持する金属元素を含む酸化物(B)とからなる固体酸触媒(C)であり、前記担体(A)がジルコニアで、前記酸化物(B)が三酸化モリブデンであり、前記固体酸触媒(C)のハメットの酸度関数H0が、H0=−3〜−9であることを特徴とするポリエステル製造用触媒の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−149900(P2009−149900A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−5594(P2009−5594)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【分割の表示】特願2008−540373(P2008−540373)の分割
【原出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】