説明

ポリエステル製造用重合触媒、ポリエチレンテレフタレートの製造、および重合触媒の使用

本発明はポリエステル製造用重合触媒に関する。触媒は第1成分として水酸化アルミニウムおよび/または酢酸アルミニウムならびに第2成分としてリン酸エステルまたはホスホン酸エステルを含む。また、本発明はエステル交換反応によるテレフタル酸ジメチルおよびエチレングリコール、または重縮合反応によるテレフタル酸およびエチレングリコールからのポリエチレンテレフタレート製造の重合方法に関する。さらに、本発明は重縮合反応またはエステル交換反応によりポリエステルを製造する重合触媒として、少なくとも一つのリン酸エステルまたはホスホン酸エステルと組み合わせる水酸化アルミニウムおよび/または酢酸アルミニウムの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート製造のための重合触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
線状ポリエステルは、ジカルボン酸、または、これらの無水物や塩化物のような官能性誘導体とジオールとの縮合重合により製造することができる。脂肪族ジカルボン酸から製造した線状ポリエステルは、その軟化点が低いために直接使用することができないにも関わらず、テレフタル酸の線状ポリステルは織物繊維や成形材料として市場における重要性が著しい。これらのテレフタル酸ポリステルの中で、ポリエチレンテレフタレートが最も重要なものである。
【0003】
ポリエチレンテレフタレートはテレフタル酸とエチレングリコールとの重縮合により製造できる。重縮合は2段階で行う。第1段階では、窒素雰囲気下、190〜280℃でテレフタル酸を過剰のグリコールでエステル化する。中間体としてグリコールエステルが生成する。第2段階では、例えば金属酸化物触媒を存在させて、減圧下、290℃の温度で縮合反応を行う。製造中に出た過剰のグリコールは蒸留除去する。粘稠な縮合の塊を所望の粘度にまで搾り、水中で冷却した後、小片にする。ポリエチレンテレフタレートはモル質量15,000〜30,000g/モルの鎖状分子からなる。これらは部分的に結晶性であり、かつポリエチレンテレフタレートは30%〜40%の結晶性を有すことができる。この結晶化速度が遅いために、テレフタル酸とエチレングリコールからのものと同様に、急冷することで無定形品質のものとすることも可能である。
【0004】
また、テレフタル酸とエチレングリコールとからの製造と同様に、ポリエチレンテレフタレートはテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとのエステル交換反応で製造することができる。
【0005】
特許文献1には、コバルト塩を塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酢酸アルミニウムまたは水酸化アルミニウムクロリドと組み合せた重合触媒を使用してポリエチレンテレフタレートを製造する方法が開示されている。
【0006】
テレフタル酸製造時の触媒が残存しているため、高分子量のポリエチレンテレフタレートに所望しない着色が見られる。これらの触媒残渣には、マンガン、亜鉛、鉄およびモリブデンが含まれている。上記の特許文献1には、該触媒残渣をリン酸で封鎖することにより、理想的に無色または白色の最終生成物を得ることが記述されている。強酸性媒質中で、多くの金属がリン酸と結合してヘテロポリ酸を生成することが知られている。金属不純物をリン酸で封鎖することが本反応の基本である。強くて、非常に激しい酸であるリン酸を使用することが、これについての不利な点である。
【0007】
【特許文献1】US−A−5 674 801
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的はポリエステル製造用触媒、ポリエチレンテレフタレート製造用の重合方法を提供することである。これにより、特に、厄介な着色を生じることが無く、理想的な無色または白色のポリエステルおよびポリエチレンテレフタレートを製造することが可能となる。激しい酸の使用を避けることができる。本発明の更なる目的は、ジエチレングリコールおよびカルボキシル基の量が少ないポリエステルを製造することである。該ポリエステルは紡糸性が非常に良く、紡糸口金に堆積物が残存せず、かつ熱安定性が良い。
【課題を解決するための手段】
【0009】
当初に述べた種類の重合触媒、すなわち、第1成分として水酸化アルミニウムおよび/または酢酸アルミニウム、および第2成分としてリン酸エステルまたはホスホン酸エステルを含む重合触媒により、本発明の目的を達成することができる。上述したアルミニウム化合物の中で、低毒性であり、かつ環境適合性の点から水酸化アルミニウムが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の重合触媒の使用および該重合方法により、激しい酸を使用することなく、無色〜白色で、ポリマー中にジエチレングリコールおよびカルボキシル基の量が少ないポリエステルおよびポリエチレンテレフタレートを製造することができる。生成物は紡糸性が非常に良く、紡糸口金に堆積物が残存せず、熱安定性が良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の重合触媒の二つの成分は混合物の形とすることができる。しかしながら、使用する該重合触媒に柔軟性を持たせるために、第1成分と第2成分が別々にされているキットにするのが良い。この場合には、使用する前に直接、所望の混合比でこれらの成分を混合するか、これらの成分をポリエステル製造の工程中に連続して加えることができる。
【0012】
特に、第2成分として、リン酸トリエチルおよびホスホノ酢酸トリエチルが好ましい。これらの化合物は厄介な金属のための最良の錯化剤とされている。
【0013】
第1成分および/または第2成分はモノエチレングリコールまたはジエチレングリコール中に懸濁液または溶液として存在するのが良い。このことが触媒の取り扱いを容易にする。エチレングリコールはポリエステル製造のための重要なジオール成分であるので、このジオールを懸濁媒質または溶液媒質として使用すれば、反応系から引続き除去しなければならない他の溶媒を使用する必要が無くなる。
【0014】
更に、本発明はテレフタル酸ジメチルおよびエチレングリコールからエステル交換反応により、またはテレフタル酸およびエチレングリコールから重縮合反応により、ポリエチレンテレフタレートを製造するための製造方法も提供する。
本発明によると、出発原料の反応は水酸化アルミニウムおよび/または酢酸アルミニウム、および少なくとも一つのリン酸エステルまたはホスホン酸エステルの存在下に行われる。
【0015】
使用する水酸化アルミニウムおよび/または酢酸アルミニウムの濃度は、最終のポリエチレンテレフタレート生成物を基準にして、50〜3,500ppm、好ましくは1,000〜2,500ppmが有利である。50ppm未満の濃度では効果が十分ではなく、3,500ppmを超える濃度ではその効果が得られないので必要がない。
【0016】
本発明の方法において使用するリン酸エステルおよびホスホン酸エステルとしては、それぞれリン酸トリエチルおよびホスホノ酢酸トリエチルが好ましい。
【0017】
リン酸トリエチルおよび/またはホスホノ酢酸トリエチルの濃度は、製造するポリエチレンテレフタレートを基準にして、5から150ppmが有利である。
【0018】
本発明の重合方法において、反応開始前にエチレングリコールの5〜50%懸濁液として、水酸化アルミニウムまたは酢酸アルミニウムを反応混合物に加える、ついで、13,332 Pa〜133.32Paの圧力下、270〜300℃の温度で出発原料の反応を行うのが良い。これらの条件で反応速度が良くなる。
【0019】
テレフタル酸とエチレングリコールとの直接の重縮合反応によりポリエチレンテレフタレートを製造する場合には、リン酸トリエチルおよび/またはホスホノ酢酸トリエチルをエステル反応中に加えるのが良い。一方、テレフタル酸ジメチルおよびエチレングリコールのエステル交換反応でポリエチレンテレフタレートを製造する場合には、リン酸トリエチルおよび/またはホスホノ酢酸トリエチルはエステル交換反応後までは加えない方が良い。
【0020】
また、本発明は、重縮合反応またはエステル交換反応によるポリエステル製造の重合触媒として、少なくとも一つのリン酸エステルまたはホスホン酸エステルとを組み合わせて、水酸化アルミニウムおよび/または酢酸アルミニウムを使用することを提供する。
【0021】
本発明の重合触媒の使用および該重合方法により、激しい酸を使用することなく、無色〜白色で、ポリマー中にジエチレングリコールおよびカルボキシル基の量が少ないポリエステルおよびポリエチレンテレフタレートを製造することができる。生成物は紡糸性が非常に良く、紡糸機に堆積物が残存せず、熱安定性が良い。
【実施例】
【0022】
本発明を実施例により以下に詳しく説明する。
【0023】
1.比較例:アンチモントリオキシドおよびH3PO4による標準の製造方法
23プレート(plate)のエステル交換反応カラムのプレート15にテレフタル酸ジメチル(DMT)を4,770kg/hで供給する。モノエチレングリコール(MEG)をプレート18に2,950kg/hで供給する。モノエチレングリコールと一緒に、溶解させたMn(CH3COO)2・4H2Oを22.21kg/hでエステル交換反応触媒として加える。
【0024】
該カラムを熱伝導流体(Dowtherm:Dow Chemical Co.の登録商標)使用のヒーターを用いて加熱する。
触媒の影響下、高温でDMTおよびMEGが相互に反応し、カラムの底部温度242±2℃でモノマーとメタノールが生成する。
メタノールはカラムのトップで凝縮し、その一部を温度調節のためにカラムに還流させる。
【0025】
エステル交換反応のカラムの底部に、重合触媒としてMEGに溶解したアンチモントリオキシドを140kg/hで連続的に供給する。この速度はSb23の3.35kg/hに相当する。
【0026】
カラム底部に生成したモノマーをモノマーラインを経由して予備重合カラムに移管する。MEG中の10%リン酸を6.0l/h (これはH3PO4の0.714kg/hに相当する)で該モノマーラインに供給して、酢酸マグネシウムを失活させる。
更に、MEGに懸濁した20%TiO2を艶消し剤として、54l/h(これはTiO2の13.8kg/hに相当する)でモノマーラインに供給する。この二つの物質がモノマーと強力に混合される。
【0027】
アンチモントリオキシドを用い、2,133.12Paまでの減圧下、熱伝導流体(Dowtherm:Dow Chemical Co.の登録商標)使用のヒーターを用いて加熱し、最高温度292℃で予備重合カラムの16プレートにおいてモノマーが重合を開始する。この反応の途中に出て来るMEGの95%は予備重合カラムの塔頂で凝縮されて、工程から除去される。
【0028】
次いで、プレポリマーは重力と差圧によりサイホンラインを経由して、多くのディスクからなる攪拌器の付いた水平に設置されたケトル(kettle)に移す。次いで、プレポリマーを295℃および266.64Paで、所望の粘度(重量平均分子量)になるまで重合して、さらにMEGを除去する。該粘度を減圧で調節して、22.5のNLRV(約0.65のIV(固有粘度)に対応する)とする。
相対粘度の尺度であるNLRVは純粋溶媒および溶液のための毛細管粘度計中の25℃での流れ時間の比である。該溶液は溶媒中に4,75%のポリマーが入っていている。該溶媒はヘキサフルオロイソプロパノールである。
【0029】
次いで、予め製造したポリマーを4、788kg/hで紡糸機に供給し、290℃で紡糸口金プレートを通して単一孔空所量(single hole void content)が20%の15デシテックス(dtex)繊維とし、50℃未満の温度に急速空冷した。
その後、得られた単繊維を湿式延伸して6.1デシテックスとし、捲縮、緩和、切断し、ついで梱包した。
【0030】
2.Al(OH)3およびホスホノ酢酸トリエチル(TEPA)を用いた本発明の実施例
アンチモントリオキシドおよびH3PO4を添加しないことを除いて、アンチモントリオキシドおよびH3PO4を用いた標準の製造方法を同じ装置および同じ操作条件で繰り返す。
【0031】
代わりに、MEG中にTEPAを30%加えたものを6.0kg/h(これはTEAPの1.8kg/hに相当する)で、エステル交換反応カラムの底部に加える。
該混合物を製造するために、純度が少なくとも98%で最大酸価が2.0mgKOH/gのTEPAを室温で攪拌しながら、適量のMEGに加えた。
【0032】
MEGにAL(OH)3が20%懸濁したものを70kg/hで(これはAL(OH)3の14kg/hに相当する)、該モノマーラインに注入する。
該混合物を製造するために、純度が少なくとも99%、最大水分含量が0.35%、可溶Na25が最大0.25%および平均粒子径が0.25μmであるAL(OH)3を室温で攪拌しながら、適量のMEGに加えた。
【0033】
表3 比較例と実施例との比較

パラメータ 比較例 実施例

紡糸繊維の色
ミノルタ色差計
L方向カラー(L colour, exclude)
86.5 88.5
B方向カラー(B colour, exclude)
6.4 6.8
A方向カラー(A colour, exclude)
0.7 0.0

ポリマーの分析
Mn(ppm) 114 111
P (ppm) 38 40
Sb(ppm) 269 16*
Al(OH)3(ppm) 10* 3,053
TiO2(%) 0.289 0.288
DEG(%) 0.63 0.64

延伸繊維(ファイバーフィル)
初期バルク(cm) 10.0 10.3
サポートバルク(cm) 2.1 2.2
引張強度(テナシティ)(cN/dtex)
2.6 2.9
伸び(%) 30 31

*使用したX線分析機の検出限界
【0034】
本発明による物質は紡糸操作中に何の欠陥も示さなかった[パック圧力(pack pressure)または位置間違い(position failures)]。
得られた繊維の断面部にAL(OH)3粒子は検出されなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1成分として水酸化アルミニウムおよび/または酢酸アルミニウムならびに第2成分として少なくとも一つのリン酸エステルまたはホスホン酸エステルを含有するポリエステル製造用の重合触媒。
【請求項2】
第1成分および第2成分が空間的に区分されキットを形成することを特徴とする請求項1に記載の重合触媒。
【請求項3】
第2成分がリン酸トリエチルまたはホスホノ酢酸トリエチルであることを特徴とする請求項1または2に記載の重合触媒。
【請求項4】
第1成分および/または第2成分がモノエチレングリコールまたはジエチレングリコールの懸濁液または溶液であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の重合触媒。
【請求項5】
出発原料の反応を水酸化アルミニウムおよび/または酢酸アルミニウムならびに少なくとも一つのリン酸エステルまたはホスホン酸エステルの存在下に行うことを特徴とする、エステル交換反応によるテレフタル酸ジメチルおよびエチレングリコール、または重縮合反応によるテレフタル酸およびエチレングリコールからのポリエチレンテレフタレート製造の重合方法。
【請求項6】
ポリエチレンテレフタレートを基準にして、水酸化アルミニウムおよび/または酢酸アルミニウムを50〜3,500ppmの濃度で使用することを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
使用するリン酸エステルまたはホスホン酸エステルがそれぞれリン酸トリエチルまたはホスホノ酢酸トリエチルであることを特徴とする請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
ポリエチレンテレフタレートを基準にして、リン酸トリエチルまたはホスホノ酢酸トリエチルを5〜150ppmの濃度で使用することを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
反応の開始前に、エチレングリコール中の5〜50%の懸濁液として水酸化アルミニウムおよび/または酢酸アルミニウムを反応混合物に加え、次いで、温度270〜300℃、圧力13,32Pa〜133.32Paで出発原料を反応させることを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
テレフタル酸とエチレングリコールとの重縮合反応の場合には、エステル化反応の前、途中または後に、およびテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとのエステル交換反応の場合には、該エステル交換反応の後に、リン酸トリエチルまたはホスホノ酢酸トリエチルを加えることを特徴とする請求項5〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
重縮合反応またはエステル交換反応によりポリエステルを製造する重合触媒として、少なくとも一つのリン酸エステルまたはホスホン酸エステルと組み合わせる水酸化アルミニウムおよび/または酢酸アルミニウムの使用。


【公表番号】特表2006−528270(P2006−528270A)
【公表日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−529786(P2006−529786)
【出願日】平成16年5月12日(2004.5.12)
【国際出願番号】PCT/EP2004/005060
【国際公開番号】WO2004/101645
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(505423623)
【氏名又は名称原語表記】ADVANSA B.V.
【Fターム(参考)】