説明

ポリエステル複合繊維

【課題】 芳香族ポリエステルとポリ乳酸からなる芯鞘型の複合繊維において、芯部と鞘部間の界面接着性に優れ、かつ耐摩耗性にも優れており、様々な用途に使用することが可能なポリエステル複合繊維を提供する。
【解決手段】 芳香族ポリエステルを鞘成分、ポリ乳酸を芯成分とする芯鞘型複合繊維であって、鞘成分と芯成分の少なくとも一方にポリグリセリン酢酸エステルが含まれているポリエステル複合繊維。ポリグリセリン酢酸エステルの含有量は1〜15質量%であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物由来のポリ乳酸を一成分とする芯鞘型の複合繊維であって、芯部と鞘部間の界面接着性や耐摩耗性に優れ、衣料用途、産業資材用途等の様々な用途に使用することができるポリエステル複合繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成繊維、その中でも特にポリエステル繊維は、その優れた寸法安定性、耐候性、機械的特性、耐久性、さらにはリサイクル性等から、衣料、産業資材として不可欠のものとなっており、様々な分野、用途において広く使用されている。
【0003】
従来の合成繊維は、その大部分が石油などの限りある貴重な化石資源を原料としている。また、これらは自然環境下ではほとんど分解されず、廃棄処理が問題となっている。これに対し、ポリ乳酸はトウモロコシ等の植物資源を原料としており、ポリ乳酸を繊維化したポリ乳酸繊維は、種々の製品に加工された後、コンポスト又は土壌中等の自然環境下では最終的に炭酸ガスと水に分解される完全生分解性を持つ。
【0004】
しかしながら、ポリ乳酸繊維は、強度や耐摩耗性が従来の合成繊維よりも劣っている。このため、従来のポリ乳酸繊維は、ディスポーザブルの日用資材、農林園芸資材等の用途が主流であり、衣料用、土木建築用、水産資材用、自動車資材用等の強度や耐摩耗性が要求される分野での使用は限定されているのが現状である。
【0005】
このようなポリ乳酸繊維の問題点を解決する手段の一つとしては、強度が要求される用途に使用する場合、質量や厚みを増大させて強度をカバーしているが、このような対策を施しても耐摩耗性は改善されない。
【0006】
また、ポリ乳酸に芳香族ポリエステル等の耐摩耗性に優れた樹脂をブレンドすることが考えられる。しかし、ブレンド品は、均一にブレンドすることが困難であるため、溶融紡糸において、安定して繊維化することが困難であった。
【0007】
そこで、ポリ乳酸繊維の耐摩耗性を改善する方法として、ポリ乳酸を芯部とし、芳香族ポリエステルを鞘部とした複合繊維とすることが考えられる。しかしながら、ポリ乳酸と芳香族ポリエステルは相溶性が悪いため、芯部と鞘部間の界面接着性が悪く、芯部と鞘部の剥離が生じやすいという問題があり、芯部と鞘部の複合界面で剥離が生じると、紡糸、延伸工程や製編織工程等の工程通過性が悪化したり、得られる布帛に白化が生じたり、繊維の強度が低下するという問題が生じる。
【0008】
特許文献1では、鞘部が芳香族ポリエステル、芯部がポリ乳酸の芯鞘型のポリエステル複合繊維であって、鞘部を形成する芳香族ポリエステルの皮膜厚さが0.4μm以上である複合繊維が提案されている。そして、芳香族ポリエステルとポリ乳酸を用いた複合繊維では複合界面の接着性が悪くなることから、芯部と鞘部との複合界面の接着性を高め、界面剥離を抑制するために、芯部及び/又は鞘部に相溶化剤を含有させることが記載されている。
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の方法で使用される相溶化剤では、界面剥離を防ぐ効果は十分ではなく、未だポリ乳酸を用いた芯鞘型の複合繊維において、界面接着性に優れた繊維は提案されていない。
【特許文献1】特開2005−187950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題を解決し、芳香族ポリエステルとポリ乳酸からなる芯鞘型の複合繊維において、芯部と鞘部間の界面接着性に優れ、かつ耐摩耗性にも優れており、様々な用途に使用することが可能なポリエステル複合繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、次の構成を要旨とするものである。
(1)芳香族ポリエステルを鞘成分、ポリ乳酸を芯成分とする芯鞘型複合繊維であって、鞘成分と芯成分の少なくとも一方にポリグリセリン酢酸エステルが含まれていることを特徴とするポリエステル複合繊維。
(2)ポリグリセリン酢酸エステルの含有量が1〜15質量%であることを特徴とする上記(1)記載のポリエステル複合繊維。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリエステル複合繊維は、芯部と鞘部間の界面接着性に優れているため、製糸や糸加工、整経、製織等の製布での工程通過性に優れるとともに、耐摩耗性に優れ、このため製編織して得られる布帛の品位も高く、ポリ乳酸成分を構成成分としながらも衣料、産業資材用途等の様々な用途に使用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリエステル複合繊維は、芳香族ポリエステルを鞘成分、ポリ乳酸を芯成分とする芯鞘型複合繊維である。まず、本発明のポリエステル複合繊維の芯成分となるポリ乳酸について説明する。
【0014】
芯成分となるポリ乳酸としては、ポリD−乳酸、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との共重合体であるポリDL−乳酸、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との混合物(ステレオコンプレックス)、ポリD−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリD−乳酸又はポリL−乳酸と脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとの共重合体、あるいはこれらのブレンド体等を採用することができる。
【0015】
そして、ポリ乳酸は、上記のようにL−乳酸とD−乳酸が単独で用いられているもの、もしくは併用されているものであるが、中でも融点が120℃以上、融解熱が10J/g以上であることが好ましい。
【0016】
ポリ乳酸のホモポリマーであるL−乳酸やD−乳酸の融点は約180℃であるが、D−乳酸とL−乳酸との共重合体の場合、いずれかの成分の割合を10モル%程度とすると、融点はおよそ130℃程度となる。さらに、いずれかの成分の割合を18モル%以上とすると、融点は120℃未満、融解熱は10J/g未満となって、ほぼ完全に非晶性の性質となる。このような非晶性のポリマーとなると、製造工程において特に熱延伸し難くなり、高強度の繊維が得られ難くなるという問題が生じたり、繊維が得られたとしても、耐熱性、耐摩耗性に劣ったものとなりやすいため好ましくない。
【0017】
そこで、ポリ乳酸としては、ラクチドを原料として重合する時のL−乳酸やD−乳酸の含有割合で示されるL−乳酸とD−乳酸の含有比(モル%)が、多い方が82%以上のもの好ましく、中でも90%以上、さらには95%とすることが好ましい。
【0018】
また、ポリ乳酸の中でも、上記したようなポリD−乳酸とポリL−乳酸との混合物(ステレオコンプレックス)は、融点が200〜230℃と高く、布帛にした後の高温染色やアイロン加工も可能となり、特に好ましい。
【0019】
ポリ乳酸とヒドロキシカルボン酸の共重合体である場合は、ヒドロキシカルボン酸の具体例としてはグリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等が挙げられる。中でもヒドロキシカプロン酸又はグリコール酸を用いることがコスト面からも好ましい。
【0020】
ポリ乳酸と脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとの共重合体の場合、脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとしては、セバシン酸、アジピン酸、ドデカン二酸、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等が挙げられる。
【0021】
上記のようにポリ乳酸に他の成分を共重合させる場合は、ポリ乳酸を80モル%以上とすることが好ましい。ポリ乳酸が80モル%未満であると、共重合ポリ乳酸の結晶性が低くなり、融点120℃未満、融解熱10J/g未満となりやすい。
【0022】
また、ポリ乳酸の分子量としては、分子量の指標として用いられるASTM D−1238法により、温度210℃、荷重2160gで測定したメルトフローレートが、1〜100(g/10分)であることが好ましく、より好ましくは5〜50(g/10分)である。メルトフローレートをこの範囲とすることにより、強度、湿熱分解性、耐摩耗性が向上する。
【0023】
さらには、ポリ乳酸の耐久性を高める目的で、ポリ乳酸に脂肪族アルコール、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、エポキシ化合物等の末端封鎖剤を添加してもよい。
【0024】
本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて、ポリ乳酸中に熱安定剤、結晶核剤、艶消剤、顔料、耐候剤、耐光剤、滑剤、酸化防止剤、抗菌剤、香料、可塑剤、染料、界面活性剤、難燃剤、表面改質剤、各種無機及び有機電解質、その他類似の添加剤を添加してもよい。
【0025】
次に、本発明のポリエステル複合繊維の鞘成分となる芳香族ポリエステルについて説明する。
鞘成分となる芳香族ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリアルキレンテレフタレート、及びこれらを主体としたポリエステルであって、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸、及びエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族ジオールや、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等のヒドロキシカルボン酸、ε−カプロラクトン等の脂肪族ラクトン等を共重合したものを採用することができる。
【0026】
本発明で使用する芳香族ポリエステルとしては、中でも芳香族ジカルボン酸成分が全酸成分の70モル%以上である芳香族ポリエステルが好ましい。芳香族ジカルボン酸成分が全酸成分に対して70モル%未満であると、芳香族ポリエステルの耐湿熱分解性、耐候性等が低下しやすくなる。
【0027】
また、芳香族ポリエステルの融点は、本発明の芯鞘複合繊維の芯部を構成するポリ乳酸との融点差が大きすぎると、複合紡糸に際して紡糸操業性を阻害したり、ポリ乳酸の熱分解を引き起こすことがあるので、融点が200〜255℃程度のものを用いることが好ましい。
【0028】
このような融点を有し、芳香族ジカルボン酸成分が全酸成分の70モル%以上である芳香族ポリエステルとしては、イソフタル酸を20〜80モル%共重合したPET、ポリトリメチレンテレフタレート(ホモポリエステル)、ポリブチレンレテフタレート(ホモポリエステル)を用いることが好ましい。
【0029】
また、芳香族ポリエステル中にも、本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて、熱安定剤、結晶核剤、艶消剤、顔料、耐候剤、耐光剤、滑剤、酸化防止剤、抗菌剤、香料、可塑剤、染料、界面活性剤、難燃剤、表面改質剤、各種無機及び有機電解質、その他類似の添加剤を添加することができる。
【0030】
そして、本発明のポリエステル複合繊維には、鞘成分と芯成分の少なくとも一方にポリグリセリン酢酸エステルが含まれている。中でも芯成分と鞘成分の両成分にポリグリセリン酢酸エステルが含まれていることが好ましい。
【0031】
ポリグリセリン酢酸エステルは、相溶化剤として芯部と鞘部との接合部分の界面接着性を著しく向上させるものであり、本発明のポリエステル複合繊維は、芯部と鞘部間の界面接着性に優れているため、製糸や糸加工、整経、製織等の製布での工程通過性に優れるとともに、耐摩耗性に優れたものである。
【0032】
上記したポリグリセリン酢酸エステルの製造に使用するポリグリセリンとしては、グリセリンの平均重合度2〜12のものが挙げられるが、好ましい平均重合度は2〜6であり、さらに好ましい平均重合度は2〜4である。具体的にはジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン等を例示でき、これらは単独もしくは任意の組み合わせの混合物として使用することができる。グリセリンの平均重合度が13を超えると相溶性が低下し、紡糸、延伸性等が悪化しやすくなる。
【0033】
ポリグリセリン酢酸エステルの製法は特に限定されるものではないが、例えば無水酢酸を用いる方法、酢酸を用いるエステル化反応等が挙げられる。ポリグリセリンの水酸基に対する酢酸のエステル化の度合い(以下「アセチル化率」と略す。)は50%以上が好ましく、より好ましくは75〜100%である。アセチル化率が50%未満であれば、相溶化剤としての効果が弱まり、芯部と鞘部との界面が接着され難くなる。
【0034】
本発明において、ポリグリセリン酢酸エステルの含有量は、複合繊維の1〜15質量%とすることが好ましく、特に3〜12質量%とすることが好ましい。含有量が1質量%未満であると、上記したような芯部と鞘部の界面における接着性を向上させることが困難となりやすい。一方、15質量%を超えると、紡糸、延伸性等が悪化しやすくなる。
【0035】
次に、本発明のポリエステル複合繊維の形状について説明する。本発明のポリエステル複合繊維は、繊維の長さ方向に対して垂直に切断した断面の形状(横断面形状)が芯鞘形状を呈する芯鞘型複合繊維であって、前記した芳香族ポリエステルが鞘部に配され、ポリ乳酸が芯部に配された繊維である。
【0036】
鞘部に芳香族ポリエステルが配されるということは、繊維の表面全体を芳香族ポリエステルが覆うように配置されていることである。そして、芯部は1つであっても複数であってもよい。つまり、芯鞘形状としては、芯部が1つである同心芯鞘型や偏心芯鞘型のものであっても、芯部が複数個である海島型等の複合形態のものであってもよい。
【0037】
本発明のポリエステル複合繊維は、上記のような芯鞘型の複合形状を呈していれば、断面形状は丸断面に限定されるものではなく、扁平断面、多角形、多葉形、ひょうたん形、アルファベット形(T型、Y型等)、井型等の各種の異形のものであってもよい。また、これらの形状において中空部を有するものでもよい。
【0038】
芯鞘成分の質量比率は、鞘成分が芯成分を十分に覆うために、80/20〜20/80とすることが好ましく、さらに好ましくは70/30〜30/70である。芯成分の比率を大きくすれば、ポリ乳酸の比率が大きくなって、生分解性が向上し、鞘成分の比率を大きくすれば、芳香族ポリエステルの比率が大きくなって、強度や耐熱性が向上する。このため、目的や用途に応じてこれらの範囲内で芯鞘比率を適宜選択することが好ましい。
【0039】
本発明のポリエステル複合繊維は、単糸の形状を示すものであるので、本発明のポリエステル複合繊維(単糸)を複数本集合させた繊維(マルチフィラメント)として、長繊維や短繊維として使用することができる。また、複数本集合させることなくモノフィラメントとして用いてもよい。
単糸繊度は、生産性、操業安定性や生分解性を考慮して、1.0〜40dtexが好ましく、中でも2.0〜20dtexが好ましい。
【0040】
次に、本発明のポリエステル複合繊維の製造方法について、一例(長繊維とする場合)を用いて説明する。
溶融紡糸は、常法である複合紡糸によって行うことができるが、芯成分内や鞘成分内での相分離を抑制するため、紡糸ライン中あるいはノズルパック中に静止混合素子を装填して紡糸することが好ましい。
【0041】
紡糸温度は350℃以下、好ましくは310℃以下とし、溶融紡糸に際しては、得られるフィラメントの相対粘度が1.40未満とならないように、紡糸温度や滞留時間を調整する。
【0042】
そして、紡出されたフィラメントは、液体又は空気中で冷却、固化させる。次に、冷却固化したフィラメントを、一旦巻き取った後、又は巻き取ることなく延伸する。
【0043】
延伸は一段又は二段以上の多段で行うことができるが、多段で行うことが好ましい。まず、65〜95℃の液体中又は70〜200 ℃の気体中で3.0〜6.5倍の第一段延伸を行い、続いて第一段延伸よりも高温の150〜300℃の液体又は気体中で全延伸倍率が5.0〜8.0倍となるように第二段目以降の延伸を行う。
【0044】
この際、全延伸倍率が第一段延伸倍率よりも高くなるように設定する。延伸温度が上記の範囲より低いと加熱不足となり、延伸斑及び糸切れが発生し、一方、延伸温度が高すぎるとフィラメントの融解及び熱劣化が起こり、好ましくない。また、全延伸倍率が5.0倍未満であると、得られるフィラメントの糸質特性、特に直線強度が低くなりやすい。一方、全延伸倍率を8.0倍より大きくすると、繊維内での塑性変形に分子配向が対応できなくなるため、繊維中にミクロボイドが発生し、満足な性能を示すフィラメントが得られ難くなる。
【0045】
また、延伸後、150〜500℃の気体中で1.0〜15.0%の弛緩率で弛緩熱処理を行うことが好ましい。
【実施例】
【0046】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、実施例における各物性は、次の方法にて測定、評価した。
(1)ポリ乳酸のメルトフローレート値(g/10分)
前記の方法で測定した。
(2)芳香族ポリエステルの相対粘度
フェノールと四塩化エタンの等質量混合物を溶媒とし、ウベローデ粘度計を使用して、試料濃度0.5g/100cc、温度20℃の条件で測定した。
(3)ポリ乳酸の融点(℃)、融解熱(J/g)
パーキンエルマー社製の示差走査熱量計DSC−2型を使用し、昇温速度20℃/分の条件で測定した。
【0047】
(4)ポリ乳酸のL−乳酸とD−乳酸の含有比(モル比)
超純水と1Nの水酸化ナトリウムのメタノール溶液の等質量混合溶液を溶媒とし、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法により測定した。カラムにはsumichiral OA6100を使用し、UV吸収測定装置により検出した。
(5)強度(cN/dtex)
島津製作所(株)製オートグラフ AG−1型を用い、試料長25cm、引張速度30cm/分、初荷重が繊度の1/20で測定した。
【0048】
(6)複合繊維の界面接着性
得られた複合繊維(マルチフィラメント)に1000T/mの撚りをかけ、撚りをかけたままの状態で繊維の長手方向に対して垂直に繊維を切断し、切断面を電子顕微鏡で500倍に拡大して観察した。断面写真10枚を観察し、単糸1本でも剥離が生じているものがあれば剥離有りとし、次の基準により4段階で評価した。
◎:剥離有りが1枚もない
○:剥離有りが1〜2枚
△:剥離有りが3〜5枚
×:剥離有りが6枚以上
【0049】
(7)複合繊維の耐摩耗性
得られたフィラメントを長さ90cmに切断してサンプルとし、サンプルの先端に0.2g/dの荷重をかけ、直径0.8mmの金属棒に90度の角度で接触させながら、ストローク長70mm、40回/分の速度の条件で往復摩擦させ、1000回往復摩擦後のフィラメント(金属棒に接した部分)の状態を目視で観察し、次の3段階で評価した。
○:フィラメントの状態に変化が見られない。
△:フィラメントに若干のフィブリル化又は毛羽立ちが見られる。
×:フィラメントにフィブリル化又は毛羽立ちが多く見られる。
【0050】
実施例1
ポリ乳酸として、融点170℃、L−乳酸とD−乳酸の含有比(モル比)であるL/Dが98.5/1.5、メルトフローレート値が23g/10分、相対粘度1.85のポリDL―乳酸を用い、芳香族ポリエステルとして、相対粘度1.37、融点217℃のイソフタル酸を15モル%共重合したPETを用いた。
【0051】
ポリ乳酸と芳香族ポリエステルの両成分に、ポリグリセリン酢酸エステルとしてアセチル化率85%のジグリセロール酢酸エステルをそれぞれ1質量%含有させてチップを得た。
それぞれのチップを減圧乾燥した後、芯成分がポリ乳酸、鞘成分が共重合PETとなるようにして同心芯鞘型複合溶融紡糸装置に供給して溶融紡糸を行った。このとき、複合比(質量比)を50/50とし、紡糸温度240℃で溶融紡糸を行った。
紡出糸条を冷却した後、引取速度1000m/分で引き取って未延伸糸条を得た。次いで、得られた未延伸糸を延伸倍率1.6倍、温度140℃で延伸し、160dtex/24fのポリエステル複合繊維であった。
【0052】
実施例2〜8
芯成分と鞘成分に含有させるジグリセロール酢酸エステルの含有量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステル複合繊維を得た。
【0053】
比較例1
ポリグリセリン酢酸エステルを含有しない共重合PETとポリ乳酸を用いた以外は、実施例1と同様にしてポリエステル複合繊維を得た。
【0054】
実施例9〜11
芯成分と鞘成分に含有させるポリグリセリン酢酸エステルとしてヘキサグリセロール酢酸エステルを用いた以外は、実施例2〜4と同様にしてポリエステル複合繊維を得た。
【0055】
比較例2
複合繊維ではなく、ポリ乳酸のみの単一型の繊維とし、通常の紡糸装置を用いて紡糸温度250℃で溶融紡糸した以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸単独の繊維を得た。
参考例1
複合繊維ではなく、共重合PETのみの単一型の繊維とし、通常の紡糸装置を用いて紡糸温度250℃で溶融紡糸した以外は、実施例1と同様にして共重合PET繊維を得た。
【0056】
実施例1〜11及び比較例1で得られたポリエステル複合繊維と、比較例2及び参考例1で得られた繊維の特性値と評価結果を併せて表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1から明らかなように、実施例1〜11で得られたポリエステル複合繊維は、製糸性が優れると共に、強度が高く維持され、界面接着性と耐摩耗性ともに優れているものであった。その中でも、特に実施例1〜5及び9〜11で得られた複合繊維は、相溶化剤の含有量が適量であったため、実施例6〜8の繊維より界面接着性と耐摩耗性がさらに向上していた。これら実施例の各複合繊維は、品位の高い布帛を得ることができる、十分な物性を有していた。
【0059】
一方、比較例1で得られた複合繊維は、相溶化剤を含有していなかったため、界面接着性、耐摩耗性ともに劣るものであった。また、比較例2で得られた繊維はポリ乳酸単独の繊維であったため強度が低く、耐摩耗性にも劣るものであった。









【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリエステルを鞘成分、ポリ乳酸を芯成分とする芯鞘型複合繊維であって、鞘成分と芯成分の少なくとも一方にポリグリセリン酢酸エステルが含まれていることを特徴とするポリエステル複合繊維。
【請求項2】
ポリグリセリン酢酸エステルの含有量が1〜15質量%であることを特徴とする請求項1記載のポリエステル複合繊維。





【公開番号】特開2008−231624(P2008−231624A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74748(P2007−74748)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】