説明

ポリエステル重合用触媒組成物及びその触媒組成物を用いたポリエステルの重合方法

【課題】マグネシウム塩又は亜鉛塩からなる、並びにクリソタイル石綿、クリソタイル含有蛇紋岩、又は、クリソタイル石綿含有材料を処理し、利用可能なリサイクル用途の一つとして、ポリエステル重合用の触媒を提供する。
【解決手段】ジカルボン酸とジオールを縮重合してポリエチレンテレフタレート樹脂を製造する際に使用する触媒組成物が、塩基性炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム、炭酸亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、水酸化亜鉛又は酢酸亜鉛の少なくとも一種を含むことを特徴とするポリエステル重合用触媒組成物。また、該触媒組成物が、含水ケイ酸マグネシウムを含有する鉱物を加熱により結晶構造を変換させた後、炭酸ガス又は酸を反応させたものであることを特徴とするポリエステル重合用触媒組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルの重合に使用される触媒組成物に関する。更に詳しくは、ジカルボン酸とジオールを縮重合してポリエステルを製造する際に使用する触媒組成物に関し、とくに、低温かつ高収率で、ポリエステルの製造が可能な触媒組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」、「PET樹脂」ともいう)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートなどのポリエステル樹脂は、ジカルボン酸とジオールを縮重合して製造される。この中でも、ポリエチレンテレフタレートは、機械的特性、及び化学的特性に優れており、飲料容器やフィルム、繊維等の素材として、大量に使用されている。
例えば、ポリエチレンテレフタレートの重合は、通常2段階で行われ、まず、テレフタル酸とその2倍モル量のエチレングリコールを仕込み、第三級アミン等の触媒を添加し、加圧下で約250℃に加熱し、脱水反応によりビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)を合成する。
HOOC−C−COOH(テレフタル酸)+2HO(CH)OH(エチレングリコール)
→HO(CHC−C−CO(CHOH(BHET)+2H
次に、BHETを高温(270〜300℃)、減圧下(1mmHg)で触媒を作用させ縮重合し、PET樹脂を得る方法が行われている。
nHO(CHC−C−CO(CHOH(BHET)
→H[O(CHC−C−CO]nO(CHOH(PET)
+(n−1)HO(CHOH(エチレングリコール)
【0003】
また、使用済みPET樹脂を化学的に分解して再重合するリサイクル技術が開発されており、リサイクルPET樹脂から高純度のビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)を回収し、PET樹脂へ再生する方法があるが、これも前記と同様にBHETからPET樹脂を得るものである。
このようにBHETを溶融重合し、PET樹脂を得るための触媒としては、主としてアンチモン(Sb)を含む化合物(三酸化アンチモン)等が使用されているが、縮重合時に金属アンチモンが析出するために、ポリエステルに黒ずみや異物が発生するという問題点がある他、安全性や経済性等において課題を有している。
【0004】
特許文献1には、アルミニウム及びその化合物からなる群より選ばれる1種以上を第1金属含有成分として含むポリエステル重合用触媒が記載されている。この技術は、ポリエステル重合触媒およびこれを用いて製造されたポリエステル、並びにポリエステルの製造方法に関し、ゲルマニウム、アンチモン化合物を触媒主成分として用いない新規のポリエステル重合触媒、及びこれを用いて製造されたポリエステル、並びにポリエステルの製造方法に関するものである。この重合触媒は、アンチモンを重合触媒として使用しないために、前記の欠点が解消されている点で有意義なものである。
【0005】
しかし、上記重合触媒を用いて製造されたポリエステルは溶融成形時に熱劣化を受けやすく、またポリエステルが着色したり、触媒活性が不十分であるという問題点が依然として残るものであった。
【特許文献1】特開2001−354759号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来から、ポリエステルの重合触媒としてアンチモン化合物が広く用いられているが、アンチモン化合物は産出地域が限られることから高価であること、さらに、重合温度が270℃以上と高温での反応が必要であり、重合時に大量のエネルギーを必要とする。さらにアンチモンは人体への有害性も指摘されており、製品中に残存することによる健康への影響が懸念されている。また、特許文献1に記載されたアンチモンを使用しない技術においても、重合には270℃以上の高温での重合が必要であり、重合に大量のエネルギーを必要とすることに変わりはなかった。
従って、本発明の目的の一つは、ジカルボン酸とジオールを縮重合してポリエステル樹脂を製造するに際し、例えば、ビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)を溶融縮重合して得られるポリエチレンテレフタレート(PET)を低温かつ高収率で、BHETの重合を可能にする触媒組成物を提供することである。
【0007】
また、クリソタイルは、繊維状ケイ酸塩鉱物であり、Mg及びSi原子を含み、耐熱性、補強性、耐久性に優れた天然鉱物繊維として、長年、建材をはじめ、様々な工業製品に使用されてきたが、呼吸器への吸入により、30年前後の潜伏期間を経て、肺がん、中皮腫といった重篤な疾病をもたらすことから、全世界的に使用が禁止されつつある。クリソタイルを補強材とした建築材料をはじめとする工業製品は膨大な量が残されているが、今後、それらが廃棄物となった場合の安全な処理方法の確立が課題となっている。現状では、これら石綿含有の廃棄物は埋め立てるか、高温で溶融する以外に方法はなく、産業廃棄物処理場の容量が減少の一途をたどっていること、地中埋設では潜在的な危険性が残ること、溶融処理には多大のコストを要すること等から、将来的には安全かつ確実な処理が行えるかどうか疑問視されている。
【0008】
さらに、温石綿の母岩である蛇紋岩は、自然界に広く賦存し、鉱物資源として利用されてきたが、温石綿を含有するものが多いことから、利用が制限されている。これら蛇紋岩は、砕石や製鉄用の造さい材、モルタルや樹脂等の混和材として利用されてきた。蛇紋岩はその産地によって、含有量は異なるが、温石綿を全く含まないものは皆無といってよい。これら石綿含有製品や蛇紋岩中の温石綿を非石綿化して、その有害性を消失させ、再生利用を行えるようにすることは、今後の環境対策上、資源の有効活用の面からも極めて重要な課題である。しかしながら、再生利用においては、一般的に、処理に要するコストに見合う付加価値が得られない場合が多く、再生利用の普及が進まない原因の一つとなっている。
従って、これら、石綿含有製品中の温石綿及び蛇紋岩に含まれる温石綿を非石綿化して、安全に再生利用できるようにすることは、今後の環境対策上極めて重要である。
このようなことから、最近、クリソタイルに含まれるマグネシウムを回収して再利用する試みが広範囲に検討されている。
【0009】
本願発明の他の目的は、クリソタイル、クリソタイル含有蛇紋岩、又は、クリソタイル含有材料を処理し、有用なリサイクル用途の一つとして、ジカルボン酸とジオールを縮重合して得るポリエステル樹脂の製造において、低温かつ高収率で、製造を可能にする触媒組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討の結果、ポリエステル樹脂を低温かつ高収率で重合することの出来る触媒組成物を見出し、触媒活性や経済性に関する課題を解決することが出来た。
すなわち、本発明の課題は下記の手段により解決された。
(1)ポリエステル重合触媒であって、塩基性炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム、炭酸亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、水酸化亜鉛又は酢酸亜鉛の少なくとも一種を含むことを特徴とするポリエステル重合用触媒組成物。
(2)ポリエステル重合触媒であって、含水ケイ酸マグネシウムを含有する鉱物を加熱により結晶構造を変換させた後、炭酸ガス又は酸を反応させて得た生成物であることを特徴とするポリエステル重合用触媒組成物。
(3)前記含水ケイ酸マグネシウムを含有する鉱物として、タルク、セピオライト、緑泥石、蛇紋岩又はクリソタイルの少なくとも一種を用いることを特徴とする前記(2)記載のポリエステル重合用触媒組成物。
(4)ポリエステル重合触媒であって、クリソタイルを含む材料から分別したクリソタイルを加熱により結晶構造を変換させた後、炭酸ガス又は酸を反応させて処理したものであることを特徴とするポリエステル重合用触媒組成物。
(5)ポリエステル重合用触媒を用いて重合するポリエステルの重合方法において、塩基性炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム、炭酸亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、水酸化亜鉛又は酢酸亜鉛の少なくとも一種を含む触媒組成物を用いて、140℃以上270℃未満の重合温度で反応させることを特徴とするポリエステルの重合方法。
(6)ポリエステル重合用触媒を用いて重合するポリエステルの重合方法において、含水ケイ酸マグネシウムを含有する鉱物を加熱により結晶構造を変換させた後、炭酸ガス又は酸を反応させて得た生成物からなる触媒組成物を用いて、140℃以上270℃未満の重合温度で反応させることを特徴とするポリエステルの重合方法。
(7)ポリエステル重合用触媒を用いて重合するポリエステルの重合方法において、クリソタイルを含む材料をリサイクルにより分別したクリソタイルを加熱により結晶構造を変換させた後、炭酸ガス又は酸を反応させて処理したものからなる触媒組成物を用いて、140℃以上270℃未満の重合温度で反応させることを特徴とするポリエステルの重合方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のマグネシウム又は亜鉛を含む金属塩組成物を重合触媒として使用すると、ジカルボン酸とジオールを縮重合してポリエステル樹脂を製造するに際し、アンチモン化合物を触媒として用いることなく、例えば、ビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)を溶融縮重合して得られるポリエチレンテレフタレート(PET)を従来よりも50℃以上低い反応温度で縮重合が可能となり、しかも、高収率でポリエステル樹脂を重合することが可能となる。また、重合温度を低くすることが出来るので、化石燃料の大幅な抑制を図ることが可能となる。また、利用価値を喪失した鉱さいや石綿等の有害物を含む材料を無害化して再利用する場合の一用途として、本発明のマグネシウム又は亜鉛を含む金属塩をPET樹脂の重合触媒として有効に活用することが可能となる。
さらに、本願発明は、クリソタイル、クリソタイル含有蛇紋岩、又は、クリソタイル含有材料を処理し、有用なリサイクル用途の一つとして、ポリエステル樹脂の重合用の触媒を提供することができる。
更に本発明の触媒は、製品中に残存しても、アンチモンのような人の健康影響への懸念がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の触媒組成物を使用した重合においては、塩基性炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム、炭酸亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、水酸化亜鉛、酢酸亜鉛の少なくとも一種を重合用触媒として使用する。または、含水ケイ酸マグネシウムを含有する鉱物等を加熱により結晶構造を破壊させた後、炭酸ガス又は酸を反応させ、活性化した組成物を重合用触媒として使用する。含水ケイ酸マグネシウムの結晶構造の破壊は、熱分解温度域である500〜1000℃、好ましくは650〜950℃で加熱することにより行う。クリソタイルの場合は650〜750℃で加熱処理することが好ましい。加熱温度は、含水ケイ酸マグネシウムの種類によって異なり、具体的には第1表に示した通りである。
【0013】
【表1】

【0014】
第1表に記載された処理温度以下では、加熱による結晶構造変化が起きず、加熱温度範囲を超えて処理を行うと、フォルステライト、エンスタタイト等の結晶化が顕著となり、炭酸ガスや酸との反応性が低下する。なお、結晶構造の破壊は、X線回折図から確認することが可能であるが、上記温度範囲で、30分〜120分程度加熱することにより、目的とする組成物を得ることが可能となる。また、炭酸ガスや酸との反応性を高めるためには、加熱後に粉砕を行うことも有効である。加熱後の材料は脆くなり、粉砕操作により微粉化し易いことから、効率的に反応性を高めることが可能となる。炭酸ガス又は酸による処理は下記に示す方法で行うことができる。
【0015】
<炭酸ガスによる処理の場合>
含水ケイ酸マグネシウムに15%程度加水し、超臨界のCO下で(8MPa、40℃〜100℃)で1〜24時間もしくは、CO雰囲気下、常圧、20℃〜40℃、CO100%で4〜24時間反応させる。この処理により、含水ケイ酸マグネシウムは、ハイドロマグネサイト[xMgCO・yMg(OH)・zHO]と非晶質シリカに変化する。
【0016】
<酸による処理の場合>
酸処理は、結晶構造を破壊した含水ケイ酸マグネシウムに、当該ケイ酸マグネシウムが含有するMg量に対して、当量以上の酸を加えて反応させる。酸処理により、ケイ酸マグネシウム中のマグネシウムが酸により溶出し、マグネシウム塩と非晶質シリカに変化する。なお、余剰の酸は蒸発させて回収する。得られた触媒組成物は、マグネシウム塩と非晶質シリカ(シリカは触媒として働かない)が含まれたものとなるが、この状態で触媒として利用できる。一般に、処理した組成物中にMgが5〜25%、Siが10〜30%、他の金属としてFe,Al,Ca等が1〜5%の範囲で含まれる。
【0017】
含水ケイ酸マグネシウムに作用させる酸の種類に特に限定はないが、酢酸、安息香酸等の脂肪族および芳香族のカルボン酸が好ましい。また、電子吸引性の置換基を有するカルボン酸、例えばトリフルオロ酢酸を使用することにより、触媒としての効果を高めることができる。なお、本発明のケイ酸マグネシウム酸処理物に発現する触媒活性については、シリカ自身には、触媒活性が認められない。
【0018】
クリソタイルを含有する材料においてクリソタイルとセメント・骨材を分別し、分別したクリソタイルを第1表に示す条件で加熱し、無害化された生成物を前記含水ケイ酸マグネシウムと同処理を行うことにより、ポリエステル重合触媒とする。ここで、クリソタイルを含有する材料としては、石綿スレート波板、石綿スレートボード、吹付石綿など石綿含有建材を利用することができる。
分別する方法は、鉱石中から石綿を回収する方法と同様の方法を用いて、例えば、建材等を粉砕した後、エアー分級することにより、石綿を回収することが可能である。加熱による結晶構造の破壊と、炭酸ガス又は酸による処理により、ケイ酸マグネシウムはポリエステル重合触媒として、ポリエステル樹脂の重合を促進する効果を与える。
【0019】
これら一連の処理によって、触媒能を発現させることが可能となる。これにより、単独(そのまま)又は組み合わせて用いる塩基性炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム、炭酸亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、水酸化亜鉛、酢酸亜鉛と同等以上の触媒能を得ることが出来る。クリソタイルを含有する材料においてクリソタイルとセメント・骨材を分別し、分別したクリソタイルを上記と同様の方法で処理することにより、同様の触媒能を得ることができる。本発明の触媒を用いることにより、例えば、BHET(ビス(2−bヒドロキシエチル)テレフタレート)を溶融縮重合してポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂を重合する重合温度は140℃以上270℃未満となる。より好ましい重合温度は160℃以上270℃未満である。
【0020】
本発明の重合触媒として使用する触媒組成物は、重合されるポリエステル樹脂1トンに対して、マグネシウム原子又は亜鉛原子として0.4モル以下の量で添加することが好ましい。より好ましくは0.2モル以下の量で添加することである。添加量を0.4モルより多くすると、得られるポリエステル樹脂の熱安定性が低下するため好ましくない。
なお、ポリエステルを重合する際、通常用いられる各種添加剤、例えば、酸化防止剤、帯電防止剤、顔料、染料、紫外線吸収剤、滑剤等を添加することは、何らさしつかえない。
【実施例】
【0021】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はそれらの実施例に限定されるものではない。
<重合触媒の調製>
比較例3
蛇紋岩10gをボールミルで2mm全通に粉砕処理し、電気炉中で、740℃、1時間加熱した。加熱後、更にジェットミルを用いて微粉砕し、10μm全通に調整した。X線回折や、分散染色法により確認したところ、蛇紋岩は結晶構造が破壊され、石綿も検出されなかった。これを比較例3の触媒とした。
比較例4
蛇紋岩10gをボールミルで2mm全通に粉砕処理し、電気炉中で、800℃、1時間焼成した。加熱後、更にジェットミルを用いて微粉砕し、10μm全通に調整した。X線回折や、分散染色法により確認したところ、蛇紋岩は結晶構造が破壊され、石綿も検出されなかった。これを比較例4の触媒とした。
【0022】
実施例1〜5の重合触媒は、それぞれ化学的な製造法で製造された純粋の化合物であって、以下にそれらの物質名と化学式を示す。
実施例1、2
塩基性炭酸マグネシウム Mg(CO(OH)・XH
参考例で同じ物質を用いた。
実施例3
水酸化マグネシウム Mg(OH)
実施例4
炭酸亜鉛 ZnCO
実施例5
酢酸マグネシウム Mg(CHCOO)
【0023】
実施例6〜13で使用した重合触媒は、比較例3又は4の加熱焼成処理した蛇紋岩を酸処理して活性化した触媒組成物である。
実施例6、7
上記比較例4の触媒と同様にして得たケイ酸マグネシウム1gを超臨界(8Mpa)の炭酸ガス雰囲気下、40℃で、24時間処理した。これを実施例6、7の触媒とした。
実施例8、9、10
上記比較例3の触媒と同様にして得たケイ酸マグネシウム1gをフラスコに入れ、ケイ酸マグネシウムのマグネシウム含量に対して7当量に相当する酢酸を加えて、室温で、24時間撹拌しながら反応させ、反応後、余剰の酸を蒸発させて、1.3gの生成物を得た。これを実施例8、9、10の触媒とした。
【0024】
実施例11
上記比較例3の触媒と同様にして得たケイ酸マグネシウム1gをフラスコに入れ、ケイ酸マグネシウムのマグネシウム含量に対して2当量に相当するトリフルオロ酢酸を加えて、室温で、24時間撹拌しながら反応させ、反応後、余剰の酸を蒸発させて、2.3gの生成物を得た。これを実施例11の触媒とした。
実施例12
上記比較例3の触媒と同様にして得たケイ酸マグネシウム5mgをフラスコに入れ、ケイ酸マグネシウムのマグネシウム含量に対して2当量に相当する安息香酸を加えて、160℃で、2時間撹拌しながら反応させた後、余剰の酸を蒸発させて、2.8gの生成物を得た。これをそのまま実施例12の触媒とした。
実施例13
上記比較例4の触媒と同様にして得たケイ酸マグネシウム1gをフラスコに入れ、ケイ酸マグネシウムのマグネシウム含量に対して7当量に相当する酢酸を加えて、室温で、24時間撹拌しながら反応させ、反応後、余剰の酸を蒸発させて、1.2gの生成物を得た。これを実施例13の触媒とした。
【0025】
<PETの合成>
上記で得た触媒組成物を含め、比較例4種類(比較例1は触媒無添加、比較例2は三酸化アンチモンを使用)と実施例9種類を用いてPETの合成を行った。ただし、塩基性炭酸マグネシウムの触媒を用いて120℃で反応させた場合は、参考例とした。
下記に示すビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)に対して、触媒を1mass%添加し、ステンレススチール製オートクレーブ中で、減圧下(0.45mmHg)、140〜220℃の温度で2時間反応させ、メタノールおよびTHF(テトラヒドロフラン)に不溶の生成物を回収し、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂を合成した。PETの収率は、以下の反応式から理論収量を算出し、実際の収量を比較することにより算出した。
HO(CHC−C−CO(CHOH(BHET)
→H{O(CHC−C−CO]nO(CHOH(PET) +HO(CHOH(エチレングリコール)
数平均分子量は、ヘキサフルオロイソプロパノールを添加したクロロホルムを溶媒として使用し、ポリスチレンを標準として、サイズ排除クロマトグラフィーにより測定した。
重合に使用した触媒と重合結果を第2表に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
第2表から分かるように、汎用されているアンチモン系触媒は、160℃でのPET収率が22%と触媒活性が著しく低いのに対し、触媒組成物に塩基性炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸亜鉛、酢酸マグネシウムを使用し、160℃以上で反応させた実施例1〜6の場合には、PETの収率が55〜87%となり、縮重合用触媒として使用可能であることが示唆される。又、実施例7〜14の石綿類を加熱後に炭酸ガスあるいは酸で処理した組成物でも、160℃以上で反応させた場合には、PETの収率が70%前後となり、縮重合触媒として作用することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0028】
ポリエステル樹脂の縮重合に本発明の触媒組成物を重合触媒として添加すると、従来よりも50℃以上低温で重合が可能となるので、重合反応に必要な熱エネルギー量を大幅に低減することが出来る。又、本発明の触媒は触媒活性に優れ、異物発生が少ないPET成形物を与えるため、例えば衣料用の繊維、包装用のフィルムやシート、中空成形品であるボトル、電気・電子部品のケーシング、その他エンジニアリングプラスチック成形品等の広範な分野での利用が期待される。更に、本発明で得られる触媒組成物は利用価値を喪失した鉱さいや石綿等の有害物を含む産業廃棄物を無害化して再利用することにより得られるので、環境保全対策としてきわめて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル重合触媒であって、塩基性炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム、炭酸亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、水酸化亜鉛又は酢酸亜鉛の少なくとも一種を含むことを特徴とするポリエステル重合用触媒組成物。
【請求項2】
ポリエステル重合触媒であって、含水ケイ酸マグネシウムを含有する鉱物を加熱により結晶構造を変換させた後、炭酸ガス又は酸を反応させて得た生成物であることを特徴とするポリエステル重合用触媒組成物。
【請求項3】
前記含水ケイ酸マグネシウムを含有する鉱物として、タルク、セピオライト、緑泥石、蛇紋岩又はクリソタイルの少なくとも一種を用いることを特徴とする請求項2記載のポリエステル重合用触媒組成物。
【請求項4】
ポリエステル重合触媒であって、クリソタイルを含む材料から分別したクリソタイルを加熱により結晶構造を変換させた後、炭酸ガス又は酸を反応させて処理したものであることを特徴とするポリエステル重合用触媒組成物。
【請求項5】
ポリエステル重合用触媒を用いて重合するポリエステルの重合方法において、塩基性炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム、炭酸亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、水酸化亜鉛又は酢酸亜鉛の少なくとも一種を含む触媒組成物を用いて、140℃以上270℃未満の重合温度で反応させることを特徴とするポリエステルの重合方法。
【請求項6】
ポリエステル重合用触媒を用いて重合するポリエステルの重合方法において、含水ケイ酸マグネシウムを含有する鉱物を加熱により結晶構造を変換させた後、炭酸ガス又は酸を反応させて得た生成物からなる触媒組成物を用いて、140℃以上270℃未満の重合温度で反応させることを特徴とするポリエステルの重合方法。
【請求項7】
ポリエステル重合用触媒を用いて重合するポリエステルの重合方法において、クリソタイルを含む材料から分別したクリソタイルを加熱により結晶構造を変換させた後、炭酸ガス又は酸を反応させて処理したものからなる触媒組成物を用いて、140℃以上270℃未満の重合温度で反応させることを特徴とするポリエステルの重合方法。

【公開番号】特開2009−209236(P2009−209236A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−52204(P2008−52204)
【出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年9月4日 社団法人 高分子学会発行の「高分子学会予稿集 56巻2号(2007)」に発表
【出願人】(000135335)株式会社ノザワ (52)
【Fターム(参考)】