説明

ポリエチレンテレフタレートの製造方法

【課題】耐加水分解性に優れたポリエチレンテレフタレートを効率よく製造できる製造方法の提供。
【解決手段】テレフタル酸もしくはそのエステル形成性誘導体とエチレングリコールとをエステル交換反応もしくはエステル化反応させて前駆体を製造し、得られた前駆体を溶融状態で重縮合反応させるポリエチレンテレフタレートの製造方法において、
該重縮合反応の初期段階までに、全ジカルボン酸成分のモル数を基準として、5〜100mmol%のフェニルホスホン酸を添加し、重縮合反応を得られるポリエチレンテレフタレートの融点(Tm:℃)以上280℃以下の温度で固有粘度が0.45dl/g以上になるまで行うポリエチレンテレフタレートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐加水分解性の良好なポリエチレンテレフタレートを効率よく製造できる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートは機械特性、熱特性、耐薬品性、電気特性、成形性に優れ、様々な用途に用いられている。しかし、ポリエチレンテレフタレートは加水分解により機械物性が低下するため、長期にわたって使用する場合や湿気のある状態で使用する場合は、加水分解を抑制する必要があり、様々な検討がなされてきた。
【0003】
例えば、特許文献1にはエポキシ化合物を使用することでポリエステルの耐加水分解性を向上させる技術が開示されている。しかし、エポキシ化合物は、マテリアルリサイクルする際にゲル化して成形不良の原因となり、ケミカルリサイクルの際にも異物化したりするため、後の工程で別途除去する必要があり、環境的にも、生産性の点からも問題があった。また、特許文献2では、リン酸アルカリ金属塩など無機リン酸塩を緩衝剤として含有させることで、カルボン酸末端基数を少なくして耐加水分解性を向上させることが提案されている。しかしながら、通常触媒の失活剤(耐熱安定剤)として用いるリン化合物とは別に、さらにリン酸アルカリ金属塩を添加する必要があり、リン酸アルカリ金属塩の析出など別の新たな問題があった。
【0004】
一方、カルボン酸末端基数を低減するには、なるべくカルボン酸末端基数が増加しないような条件、例えば重縮合反応を低温で行うことなどが有効である。しかしながら、重縮合反応を低温で行うと、重縮合反応の反応速度が低下して生産性が損なわれ、実用には適さないといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−227767号公報
【特許文献2】特開2007−277548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、これら従来の欠点を解消せしめ、耐加水分解性に優れたポリエチレンテレフタレートを、効率よく製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決しようと鋭意研究した結果、重縮合反応前に触媒の失活剤(以下、耐熱安定剤と称することもある。)として添加するリン化合物をフェニルホスホン酸にすることで、低温でも重縮合反応を効率よく進行させることができ、しかも低温で重合反応を行えることから、緩衝材やエポキシ化合物などを別途用いなくても加水分解を引き起こしやすいカルボン酸末端基の数が極めて少ないポリエチレンテレフタレートを製造することができることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
かくして本発明によれば、テレフタル酸もしくはそのエステル形成性誘導体とエチレングリコールとをエステル交換反応もしくはエステル化反応させて前駆体を製造し、得られた前駆体を溶融状態で重縮合反応させるポリエチレンテレフタレートの製造方法において、
該重縮合反応の初期段階までに、全ジカルボン酸成分のモル数を基準として、5〜100mmol%のフェニルホスホン酸を添加し、
そして、重縮合反応を得られるポリエチレンテレフタレートの融点(Tm:℃)以上280℃以下の温度で固有粘度が0.45dl/g以上になるまで行うポリエチレンテレフタレートの製造方法が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、本発明の好ましい態様として、溶融状態での重縮合反応終了後に、さらに固有粘度が0.60〜1.0の範囲となるまで固相重合を行うポリエチレンテレフタレートの製造方法も提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、特定のリン化合物を用いることで、低温で重縮合反応を行っても十分な重合反応性を維持することができ、しかも、低温で重縮合反応を効率よく行えることから、極めてカルボン酸末端基数が少ない耐加水分解性に優れるポリエチレンテレフタレートを生産性を損なうことなく提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のポリエチレンテレフタレート(以下、PETと称することがある。)の製造方法は、テレフタル酸もしくはそのエステル形成性誘導体とエチレングリコールとをエステル交換反応もしくはエステル化反応させて前駆体を製造し、得られた前駆体を触媒の存在下で重縮合反応させる製造方法であり、本発明の好ましい態様として、さらに固相重合を行う製造方法を包含する。なお、テレフタル酸のエステル形成性誘導体としては、テレフタル酸のジメチルエステル、ジエチルエステル、ジプロピルエステルなどの低級アルキルエステルが挙げられる。
【0012】
本発明の製造方法は、テレフタル酸のエステル形成性誘導体を原料とするエステル交換反応とテレフタル酸を原料とするエステル化反応のどちらの反応を経由してもよい。エステル交換反応およびエステル化反応は、その条件や触媒などは特に制限されず、それ自体公知の方法を好適に採用できる。具体的なエステル交換反応触媒としては、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、マンガン化合物、チタン化合物などが好適に挙げられる。他方、エステル化反応を経由する場合、エステル化反応の条件や触媒などは特に制限されず、それ自体公知の方法を好適に採用できる。エステル化反応触媒については、使用してもしなくても良いが、使用する場合は前述のエステル交換反応触媒で例示したものが好ましく挙げられる。
【0013】
また、本発明の製造方法では、エステル化反応初期から中期の間もしくはエステル交換反応開始前から反応初期の間に、得られるPETのカルボン酸末端基数をさらに低減するために、微量の水酸化カリウムなどのアルカリ金属化合物を添加しても良い。また、静電印加特性の向上を図るために、エステル化反応終了から重縮合反応初期までの間、あるいはエステル交換反応開始前に、微量の酢酸マグネシウムなどのマグネシウム化合物を添加しても良い。
【0014】
このようにして、エステル交換反応またはエステル化反応を経由して得られた前駆体を、溶融状態で重縮合反応させる。この際、重縮合反応の初期段階までに、好ましくはエステル交換反応もしくはエステル化反応終了後から固有粘度0.3dl/gになるまでの重縮合反応中に、フェニルホスホン酸と、重縮合反応触媒としてのアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、またはチタン化合物などの触媒をそれぞれ添加することが好ましい。その添加順序としては、フェニルホスホン酸、重縮合反応触媒の順で添加間隔を5分以上あけることが重縮合反応性、耐加水分解性の点から好ましい。
【0015】
ところで、本発明の特徴は、フェニルホスホン酸を耐熱安定剤として添加し、かつ重縮合反応を、得られるPETの融点(Tm:℃)以上280℃以下、さらにはTm以上275℃以下で行うことにある。通常PETは、280〜300℃で重縮合反応が行われるが、耐熱安定剤であるリン化合物としてフェニルホスホン酸を用いることで、通常では重縮合反応の反応速度が不十分で生産性が損なわれるような低い温度でも、十分な重縮合反応速度を維持しつつ、カルボン酸末端基数を低減させることができたのである。
【0016】
フェニルホスホン酸の添加量は、PETを構成する全酸成分のモル数を基準として、5〜100mmol%、さらに10〜80mmol%である。フェニルホスホン酸の添加量が下限未満では十分な耐加水分解性、すなわちカルボン酸末端基の低減効果が得られず、他方上限を超えると、含有量に対する耐加水分解性の改善効果が少なく、耐熱性が低下したり、重縮合反応速度が遅くなって、生産性が低下したりすることがある。もちろん、本発明の製造方法は、リン化合物としてフェニルホスホン酸を上記添加量の範囲で用いていればよく、本発明の効果を損なわない範囲で、他のリン化合物を併用しても良い。ただし、重縮合反応速度を低下させずに、カルボン酸末端基数を低減させる観点からは、耐熱安定剤として添加するリン化合物の大半、好ましくは90重量%以上が、フェニルホスホン酸であることが好ましい。
【0017】
フェニルホスホン酸の添加方法としては、エチレングリコール溶液や粉体など、どの形態で添加しても構わないが、エチレングリコール溶液として添加することが好ましい。エチレングリコール溶液として添加する場合の濃度は、20重量%以下が、添加口付近へのフェニルホスホン酸の付着が少なく、添加量の誤差が小さくなる点、及び反応性の点で好ましい。
【0018】
つぎに、本発明の製造方法における重縮合反応について、説明する。本発明では重縮合反応は十分な重縮合反応速度を確保するために、触媒の存在下で行う。具体的な重縮合触媒としては、それ自体公知のアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物、アルミニウム化合物などを用いることができる。
【0019】
重縮合反応触媒として、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物またはアルミニウム化合物を用いる場合、それらの添加量は、それぞれの金属(アンチモン、ゲルマニウム、アルミニウムなど)元素として、得られるPETの全酸成分のモル数を基準として、10〜50mmol%であることが重縮合反応性、固相重合反応性の点から好ましく、さらに耐熱性、耐加水分解性の点からは15〜40mmol%であることが好ましい。触媒としての金属(アンチモン、ゲルマニウム、アルミニウムなど)元素量が上限を超えると重縮合反応性は向上するものの、再溶融時の分解反応も促進されるため、カルボン酸末端基が増加し、得られるPETの耐加水分解性や耐熱性が低下しやすくなる。具体的な触媒として用いるアンチモン化合物としては、五酸化アンチモン、三酸化アンチモンが挙げられ、具体的なゲルマニウム化合物としては、二酸化ゲルマニウムを挙げることができ、それぞれ目的に応じて使い分けることができる。例えば、色調が最も良好となるのはゲルマニウム化合物であり、固相重合反応性が良好となるのはアンチモン化合物である。
【0020】
また、前述のとおり、チタン化合物を重縮合触媒として使用してもよく、その場合は、得られるPETの全酸成分のモル数を基準として、チタン元素として1〜10mmol%の範囲で用いることが、重縮合反応および固相重合での反応性の点から好ましい。チタン元素量が上限を超えると重縮合反応や固相重合の反応性は向上するものの、耐熱性、耐加水分解性、色調が低下しやすく、他方下限未満では、重縮合反応や固相重合での反応性が低下し、生産性が損なわれやすい。重縮合触媒として使用されるチタン触媒としては、テトラブトキシチタネートやテトライソプロピルチタネートなどのアルコキシドや、チタンと乳酸、クエン酸などとのチタンキレート化合物などを挙げることができ、中でもチタンキレート化合物であることが耐熱性、耐加水分解性、色調の点から好ましい。
【0021】
本発明のPETの製造方法は、このような溶融状態での重縮合反応(以下、溶融重合と称することがある。)を、得られるPETの固有粘度が0.45dl/g以上になるまで行う必要があり、さらには0.50〜0.60dl/gの範囲となるように行うことが好ましい。固有粘度が0.45未満である場合、得られるPETの分子量が低すぎて十分な機械物性が得られなかったりすることがある。なお、固有粘度の上限は特に制限されないが、溶融重合の重合時間を過度に長くしない点から、0.60以下であることが好ましい。また、本発明のPETの製造方法によって得られるPETのカルボン酸末端基数は、耐加水分解性の点から、15eq/t以下であることが好ましく、さらに13eq/t以下であることが好ましい。下限は特に制限されないが、生産性などの点から5eq/t以上である。
【0022】
なお、本発明の製造方法では、本発明の効果を損なわない範囲で、得られるPETにそれ自体公知の共重合成分を共重合してもよい。好ましくは、得られるPETの全ジカルボン酸成分のモル数を基準として、95mol%以上がテレフタル酸成分、全グリコール成分のモル数を基準として、95mol%以上がエチレングリコール成分であることが、耐加水分解性やさらには耐熱性の好ましい。共重合成分の割合が下限未満にあることで、融点降下による耐熱性の低下や結晶化度低下による耐加水分解性の低下を抑制することができる。
【0023】
このように溶融重合によって所定の溶融粘度になったPETは、重縮合反応を終了し、吐出して、繊維やフィルムなどにそのまま成形しても良いし、一旦ストランド化し、カッティングを行い、チップ化してもよい。
【0024】
ところで、本発明のPETの製造方法は、さらに固相重合することが、より良好な耐加水分解性を有するPETとすることができるので好ましい。以下、固相重合について、さらに詳述する。
【0025】
本発明における固相重合は、それ自体公知の方法を好適に使用でき、特に限定されるものではないが、例えば、真空下あるいは窒素気流下、150〜250℃の温度下で、所望の固有粘度になるまで、固体状態のポリエチレンテレフタレート、例えば前述のチップ化したものを滞留させて重合反応させればよい。PETのチップを前記の条件下で滞留させる方法については、例えば、回転する密閉反応容器内で滞留させる方法、一定の容積をもつ反応槽内を連続的にチップを移動させながら任意の時間滞留させる方法などがあげられる。
【0026】
このように固相重合して得られるPETは、固有粘度が0.60〜1.0dl/gの範囲にあることが好ましい。固有粘度が下限未満であると、固相重合による分子量の増加が不十分であるため、固相重合前のPET対比、耐加水分解性の向上効果が小さくなる。他方、固有粘度が上限を超えると分子量の増加は十分であるが、粘度が高過ぎるため、フィルムなどの成形のための溶融押出時の負荷が大きくなり正常な押出が困難となる。固相重合後のPETの固有粘度は、好ましくは0.65〜0.95dl/gの範囲であり、更に好ましくは0.70〜0.90dl/gの範囲である。
【0027】
また、固相重合後のPETのカルボン酸末端基数は12eq/t以下、さらに10eq/t以下、特に8eq/t以下であることが好ましい。固相重合後のPETのカルボン酸末端基数が上限を超えると、固相重合によるカルボン酸末端基数の低減化効果が不十分であり、固相重合前のPET対比、耐加水分解性の向上効果が乏しい。なお、通常では固相重合でもここまでカルボン酸末端基数を少なくするのは難しいが、本発明の製造方法では、溶融重合の段階で、すでにカルボン酸末端基数が低減されているので、特に過酷な固相重合の条件を取らなくても、極めてカルボン酸末端基数を低減することができる。カルボン酸末端基数の下限は特に制限されないが、生産性などの点から3eq/t程度である。
【0028】
このように固相重合を経て得られたPETを、乾燥後、溶融押出し、例えば紡糸・延伸により繊維とすることができ、またシート状に押出し、二軸延伸することで二軸配向フィルムとすることができる。もちろん、このような繊維やフィルムに成形する際の溶融押出工程の時間は、カルボン酸末端基数の増加を抑制する観点から短いほど好ましく、例えば30分以下とするのが好ましい。
【実施例】
【0029】
(1)固有粘度
得られたPETを、P−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(40/60重量比)の混合溶媒を用いて溶解し、25℃で測定した。また、得られたPETが固相重合したものである場合は、PETを液体窒素で凍結し、細かく粉砕してから測定した。
【0030】
(2)カルボン酸末端基数
得られたPETを、窒素雰囲気下、200℃でベンジルアルコールに溶解させた後、滴定法により、PETの重量1t当りの当量数として、カルボン酸末端基数(eq/t)を測定した。
【0031】
(3)耐加水分解性
(フィルムの製造)
得られたPETをチップ化して、回転式真空乾燥機にて180℃で3時間乾燥した後、押出機に供給して280℃で溶融押出し、スリットダイよりシート状に成形した。さらにこのシートを表面温度20℃の冷却ドラムで冷却固化した未延伸フィルムを100℃にて長手方向(縦方向)に3.5倍延伸し、25℃のロール群で冷却した。続いて、縦方向に延伸したフィルムの幅方向(長手方向と厚み方向に直交する方向)の両端をクリップで保持しながらテンターに導き130℃に加熱された雰囲気中で、幅方向(横方向)に3.7倍延伸した。その後テンター内で220℃に加熱された雰囲気中で熱固定を行い、横方向に3%の幅入れを行い、室温まで冷やして、厚み50μmのPETフィルムを得た。
【0032】
(耐加水分解性評価)
得られたPETフィルムを、その縦方向に150mm長、横方向に10mm幅に切り出した短冊状の試料片を作成した。この試料片を10枚用意し、そのうちの5枚について、チャック間100mm、引張速度10mm/分、チャート速度500mm/分の条件で、インストロンタイプの万有引張試験装置にて試料片の縦方向の破断伸度を測定し、それらの平均値を処理前の平均破断伸度とした。
他方、残りの5枚の試料片については、温度85℃、湿度85%RHに設定した環境試験機内に3000時間放置してから、初期破断伸度と同様にして破断伸度を測定し、それら5つの値の平均値を処理後の平均破断伸度とした。そして、処理後の平均破断伸度を処理前の平均破断伸度で割った値を破断伸度保持率(%)とし、下記基準にて評価した。なお、破断伸度保持率の高いものほど耐加水分解性が良好と判断される。
◎:破断伸度保持率が70%以上
○:破断伸度保持率が50以上70%未満
△:破断伸度保持率が30以上50%未満
×:破断伸度保持率が30%未満
【0033】
[実施例1]
エステル交換反応容器にテレフタル酸ジメチルを100重量部、エチレングリコールを60重量部、酢酸マンガン四水塩0.019部を仕込み、150℃に加熱して溶融し撹拌した。反応容器内温度をゆっくりと235℃まで昇温しながら反応を進め、生成するメタノールを反応容器外へ留出させた。メタノールの留出が終了したらリン化合物としてフェニルホスホン酸0.014部(テレフタル酸ジメチルのモル数を基準として17mmol%)を添加し、エステル交換反応を終了させた。続いて5分後に重縮合触媒として、三酸化アンチモン0.038部およびテトラブトキシチタネート0.005部を添加し、240℃まで加熱して一部のエチレングリコールを留出させた後、反応物を内部に撹拌翼を有する重縮合装置に移行した。
【0034】
ついで重合装置内の温度を240℃から272℃まで90分かけて昇温し、同時に装置内の圧力を大気圧から60Paまで減圧した。重合装置内の撹拌翼を回転させるための撹拌トルクが所定の値に達したら装置内を窒素ガスで大気圧に戻して重合を終了した。重合装置下部のバルブを開いて重合装置内部を窒素ガスで加圧し、重合の完了したポリエチレンテレフタレートをストランド状にして水中に吐出し、吐出されたストランドをカッターによって切断し、チップ化した。このようにして固有粘度が0.54dl/g、カルボン酸末端基数が13.8eq/tであるPETを得た。得られたPETの特性と重合時間とを表1に示す。
【0035】
[実施例2〜5]
重合温度およびフェニルホスホン酸の添加量を表1に示すとおり変更した以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られたPETの特性と重合時間とを表1に示す。
【0036】
[比較例1]
重合装置内の温度を240℃から290℃まで昇温させる以外は実施例1と同様な操作を実施し、固有粘度が0.54dl/g、カルボン酸末端基数が19.6eq/tであるPETを得た。得られたPETの特性と重合時間とを表1に示す。
【0037】
[比較例2]
リン化合物としてフェニルホスホン酸に変えて、トリエチルホスホノアセテート0.020部(テレフタル酸ジメチルのモル数を基準として17mmol%)を添加する以外は実施例1と同様な操作を実施し、固有粘度が0.54dl/g、カルボン酸末端基数が14.6eq/tであるPETを得た。得られたPETの特性と重合時間とを表1に示す。
このPETの重縮合反応時間は、実施例1のPETの約1.5倍を要しており、生産性が著しく劣るため製造上採用し難いものである。
【0038】
[比較例3]
重合装置内の温度を240℃から290℃まで昇温させる以外は比較例2と同様な操作を実施し、固有粘度が0.54dl/g、カルボン酸末端基数が24.2eq/tであるPETを得た。得られたPETの特性と重合時間とを表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
[実施例6]
実施例1で得られたPETを160℃で4時間予備乾燥した後、回転式タンブラー型固相重合反応装置に仕込み、225℃、67Pa以下の真空度で17時間固相重合を実施して、固有粘度が0.78dl/g、カルボン酸末端基数が9.3eq/tであるPETを得た。得られたPETの特性を表2に示す。
【0041】
[実施例7〜10]
実施例1で得られたPETの代わりに、実施例2〜5で得られたPETを使用し、固相重合時間を変更した以外は実施例6と同様な操作を繰り返した。得られたPETの特性を表2に示す。
【0042】
[比較例4]
比較例1で得られたPETを使用する以外は実施例6と同様な操作を実施し、固有粘度が0.79dl/g、カルボン酸末端基数が14.1eq/tであるPETを得た。得られたPETの特性を表2に示す。
【0043】
[比較例5]
比較例3で得られたPETを使用する以外は実施例6と同様な操作を実施し、固有粘度が0.78dl/g、カルボン酸末端基数が18.5eq/tであるPETを得た。得られたPETの特性を表2に示す。
【0044】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のPETの製造方法は、効率的に耐加水分解性に優れたPETを製造できることから、繊維やフィルムの原料であるPETの製造方法として好適に使用でき、特に耐加水分解性が求められる成形体の原料の製造方法として、極めて好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸もしくはそのエステル形成性誘導体とエチレングリコールとをエステル交換反応もしくはエステル化反応させて前駆体を製造し、得られた前駆体を溶融状態で重縮合反応させるポリエチレンテレフタレートの製造方法において、
該重縮合反応の初期段階までに、全ジカルボン酸成分のモル数を基準として、5〜100mmol%のフェニルホスホン酸を添加し、
そして、重縮合反応を得られるポリエチレンテレフタレートの融点(Tm:℃)以上280℃以下の温度で固有粘度が0.45dl/g以上になるまで行うことを特徴とするポリエチレンテレフタレートの製造方法。
【請求項2】
溶融状態での重縮合反応終了後に、さらに固有粘度が0.60〜1.0の範囲となるまで固相重合を行うことを特徴とするポリエチレンテレフタレートの製造方法。

【公開番号】特開2010−254805(P2010−254805A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106458(P2009−106458)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】