説明

ポリエチレンナフタレートモノフィラメントの製造方法

【課題】耐熱性や耐屈曲疲労性に優れたポリエチレンナフタレートモノフィラメントの製造方法を提供すること。
【解決手段】主たる繰り返し単位がエチレンナフタレートであるポリマーを溶融紡糸するポリエチレンナフタレートモノフィラメントの製造方法であり、該ポリマーが特定のリン化合物を含むポリマー組成物であり、該ポリマー組成物を溶融紡糸し、冷却、延伸することを特徴とするポリエチレンナフタレートモノフィラメントの製造方法。さらには該ポリマーが金属元素を含むものであり、該金属元素が周期律表における第4〜5周期かつ3〜12族の金属元素およびMgの群より選ばれる少なくとも1種以上の金属元素であることや、該ポリエチレンナフタレートモノフィラメントの線径が0.01〜2mmであること、溶融紡糸後の冷却が、液体による冷却であること、該リン化合物がフェニルホスホン酸誘導体であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエチレンナフタレートモノフィラメントの製造方法に関し、さらに詳しくは耐熱性や耐屈曲耐久性に優れ、産業資材用に適したポリエチレンナフタレートモノフィラメントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルモノフィラメントはその優れた物理的特性及び化学的特性を有するため、製紙用ファブリック、フィルター、スクリーン用紗、鉄鋼洗浄ブラシ、さらには衣料用途としても各種使用されている。しかし通常の細いポリエステル繊維と比べるとモノフィラメントは繊度が大きいため、均一構造としてフィラメントの欠陥を減少させ、物性を向上させることは困難であった。
【0003】
そこで例えば特許文献1には、カルボジイミド化合物などを添加して物性を改良しようという手段が開示されている。しかし耐加水分解性こそ向上するものの、強度等の基本物性の向上にはつながらないものであった。
【0004】
一方、ポリエステルポリマー自体を代表的なポリエステルポリマーであるポリエチレンテレフタレートポリマーから変更して、物性を向上させようとすることも試みられている。例えば特許文献2では、ポリエステルをポリブチレンナフタレートとするポリエステルモノフィラメントが開示されている。しかしその強度等の基本物性は不満足なものであった。
【0005】
また、ポリエステルを分子骨格にナフタレン環を有するポリエチレンナフタレートに変更すると、通常の繊維では耐熱性が改良されることが知られている。しかしながら繊度が大きいモノフィラメントに適用した場合には、ポリエチレンナフタレートポリマーからなるモノフィラメントの分子鎖が剛直であるため、引掛強度や耐屈曲耐久性が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−273024号公報
【特許文献2】特開平7−278954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、耐熱性や耐屈曲疲労性に優れたポリエチレンナフタレートモノフィラメントの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のポリエチレンナフタレートモノフィラメントの製造方法は、主たる繰り返し単位がエチレンナフタレートであるポリマーを溶融紡糸するポリエチレンナフタレートモノフィラメントの製造方法であり、該ポリマーが下記一般式(I)であらわされる少なくとも1種類のリン化合物を含むポリマー組成物であり、該ポリマー組成物を溶融紡糸し、冷却、延伸することを特徴とする。
【0009】
【化1】

[上の式中、Rは炭素数1〜20個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基又はベンジル基であり、Rは水素原子又は炭素数の1〜20個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基又はベンジル基、Xは、水素原子または−OR基であり、Xが−OR基である場合、Rは水素原子又は炭素数の1〜12個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基又はベンジル基、であり、RとRは同一であっても異なっていても良い。]
【0010】
さらには該ポリマーが金属元素を含むものであり、該金属元素が周期律表における第4〜5周期かつ3〜12族の金属元素およびMgの群より選ばれる少なくとも1種以上の金属元素であることや、該ポリエチレンナフタレートモノフィラメントの線径が0.01〜2mmであること、溶融紡糸後の冷却が、液体による冷却であること、該リン化合物がフェニルホスホン酸誘導体であることが好ましい。
【0011】
また、本発明のポリエチレンナフタレートモノフィラメントは、上記本発明のポリエチレンナフタレートモノフィラメントの製造方法により得られるポリエチレンナフタレートモノフィラメントである。さらに、本発明の繊維構造体は、本発明のポリエチレンナフタレートモノフィラメントからなる繊維構造体であり、本発明の織物は、本発明のポリエチレンナフタレートモノフィラメントを経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用した織物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐熱性や耐屈曲疲労性に優れたポリエチレンナフタレートモノフィラメントの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のポリエチレンナフタレートモノフィラメントの製造方法は、主たる繰り返し単位がエチレンナフタレートであるポリマーを溶融紡糸するポリエチレンナフタレートモノフィラメントの製造方法であり、該ポリマーが下記一般式(I)であらわされる少なくとも1種類のリン化合物を含むポリマー組成物であり、該ポリマー組成物を溶融紡糸し、冷却、延伸する製造方法である。
【0014】
【化2】

[上の式中、Rは炭素数1〜20個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基又はベンジル基であり、Rは水素原子又は炭素数の1〜20個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基又はベンジル基、Xは、水素原子または−OR基であり、Xが−OR基である場合、Rは水素原子又は炭素数の1〜12個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基又はベンジル基、であり、RとRは同一であっても異なっていても良い。]
【0015】
本発明で用いられる主たる繰返し単位がエチレンナフタレートであるポリマーとしては、好ましくはエチレン−2,6−ナフタレート単位を80%以上、特には90%以上含むポリエチレンナフタレートであることが好ましい。他に少量であれば、適当な第3成分を含む共重合体であっても差し支えない。
【0016】
このような本発明で用いられるポリエチレンナフタレートの重合体は、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸またはその機能的誘導体を触媒の存在下で、適当な反応条件の下に重合することができる。また、ポリエチレンナフタレートの重合完結前に、適当な1種または2種以上の第3成分を添加すれば、共重合ポリエチレンナフタレートが合成される。
【0017】
適当な第3成分としては、(a)2個のエステル形成官能基を有する化合物、(b)1個のエステル形成官能基を有する化合物、(c)3個以上のエステル形成官能基を有する化合物など、重合体が実質的に線状である範囲内で使用可能である。
【0018】
また、前記ポリエチレンナフタレート中には、各種の添加剤、たとえば二酸化チタンなどの艶消剤、熱安定剤、消泡剤、整色剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、蛍光増白剤、可塑剤、耐衝撃剤の添加剤、または補強剤としてモンモリナイト、ベントナイト、ヘクトライト、板状酸化鉄、板状炭酸カルシウム、板状ベーマイト、あるいはカーボンナノチューブなどの添加剤が含まれていてもよい。
【0019】
このような本発明のポリエチレンナフタレートは、従来公知のポリエステルの製造方法に従って製造することができる。すなわち、酸成分として、ナフタレン−2,6―ジメチルカルボキシレート(NDC)に代表される2,6−ナフタレンジカルボン酸のジアルキルエステルとグリコール成分であるエチレングリコールとでエステル交換反応させた後、この反応の生成物を減圧下で加熱して、余剰のジオール成分を除去しつつ重縮合させることによって製造することができる。あるいは、酸成分として2,6-ナフタレンジカルボン酸とジオール成分であるエチレングリコールとでエステル化させることにより、従来公知の直接重合法により製造することもできる。
【0020】
エステル交換反応を利用した方法の場合に用いるエステル交換触媒としては、特に限定されるものではないが、マンガン、マグネシウム、チタン、亜鉛、アルミニウム、カルシウム、コバルト、ナトリウム、リチウム、鉛化合物を用いることができる。このような化合物としては、例えばマンガン、マグネシウム、チタン、亜鉛、アルミニウム、カルシウム、コバルト、ナトリウム、リチウム、鉛の酸化物、酢酸塩、カルボン酸塩、水素化物、アルコラート、ハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩等を挙げることができる。
【0021】
中でも、ポリエチレンナフタレートの溶融安定性、色相、ポリマー不溶異物の少なさ、紡糸の安定性の観点から、マンガン、マグネシウム、亜鉛、チタン、ナトリウム、リチウム化合物が好ましく、さらにマンガン、マグネシウム、亜鉛化合物が好ましい。また、これらの化合物は二種以上を併用してもよい。
【0022】
重合触媒については、特に限定されるものではないが、アンチモン、チタン、ゲルマニウム、アルミニウム、ジルコニウム、すず化合物を用いることができる。このような化合物としては、例えばアンチモン、チタン、ゲルマニウム、アルミニウム、ジルコニウム、すずの酸化物、酢酸塩、カルボン酸塩、水素化物、アルコラート、ハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩等を挙げることができる。また、これらの化合物は二種以上を併用してもよい。
【0023】
中でも、ポリエチレンナフタレートの重合活性、固相重合活性、溶融安定性、色相に優れ、かつ得られるモノフィラメントが高強度で、優れた製糸性、延伸性を有する点で、アンチモン化合物が特に好ましい。
【0024】
本発明では、上記ポリマーを溶融し、紡糸口金から吐出し成形してモノフィラメントとするものであるが、このときのポリマーは下記一般式(I)であらわされる少なくとも1種類のリン化合物を含むポリマー組成物であることを必須とする。
【0025】
【化3】

[上の式中、Rは炭素数1〜20個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基又はベンジル基であり、Rは水素原子又は炭素数の1〜20個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基又はベンジル基、Xは、水素原子または−OR基であり、Xが−OR基である場合、Rは水素原子又は炭素数の1〜12個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基又はベンジル基、であり、RとRは同一であっても異なっていても良い。]
【0026】
また、式中に用いられたアルキル基、アリール基、ベンジル基は置換されたものであっても良い。
一般式(I)の好ましい化合物としては、例えばフェニルホスホン酸、フェニルホスホン酸モノメチル、フェニルホスホン酸モノエチル、フェニルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸メチル、フェニルホスフィン酸エチルなどを挙げることができる。
そして、さらに、上記一般式(I)の化合物は、Rはアリール基であり、Rは水素原子又は炭化水素基であるアルキル基、アリール基又はベンジル基であり、Rは、水素原子または−OH基であることが好ましい。
【0027】
すなわち、本発明で用いられる特に好ましいリン化合物としては、下記一般式(II)を挙げることができる。
【化4】

[上の式中、Arは炭素数6〜20個の炭化水素基であるアリール基であり、Rは水素原子又は炭素数の1〜20個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基又はベンジル基、Yは、水素原子または−OH基である。]
【0028】
ちなみに式中で用いられているRの炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、ベンジル基であることが好ましく、それらは未置換のもしくは置換されたものであっても良い。このときRの置換基としては立体構造を阻害しないのであることが好ましく、例えば、ヒドロキシル基、エステル基、アルコキシ基等で置換されているものを挙げることがきる。また上記(II)のArで示されるアリール基は、例えば、アルキル基、アリール基、ベンジル基、アルキレン基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子で置換されていても良い。
【0029】
さらには、本発明で用いられるリン化合物としては、下記一般式(III)で表されたフェニルホスホン酸およびその誘導体あることが好ましい。
【化5】

[上の式中、Arは炭素数6〜20個の炭化水素基であるアリール基であり、Rは水素原子又は未置換もしくは置換された1〜20個の炭素元素を有する炭化水素基である。]
【0030】
本発明の製造方法においては、これら特有のリン化合物を溶融ポリマー中に直接添加することにより、ポリマー組成物の結晶性が向上し、溶融し、紡糸口金から吐出する段階で、微小結晶を多数形成する。そしてこの微小結晶が、紡糸及び延伸工程で生じる粗大な結晶成長を抑制し結晶を微分散化させ、各工程での断糸率を大幅に低下させたのであると考えられる。このように断糸が起きにくいことから、実用的な延伸倍率を高めることができ、より高い強度のポリエチレンナフタレートモノフィラメントを得ることが可能となったのである。
【0031】
ちなみに式中で用いられているR〜Rの炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、ジフェニル基、ベンジル基、アルキレン基、アリーレン基を挙げることができる。またこれらは例えば、ヒドロキシル基、エステル基、アルコキシ基で置換されていることが好ましい。
中でも結晶性を向上させるためには上記一般式(I)のリン化合物であることが、さらには上記一般式(II)、特には上記一般式(III)であることが好ましい。
【0032】
また工程中の真空下での飛散を防止するためには、式(I)を例に説明すると、Rの炭素数としては4個以上、さらには6個以上であることが好ましく、特にアリール基であることが好ましい。あるいは、Xが水素原子または水酸基である、例えば一般式(II)であることが好ましい。Xが水素原子または水酸基である場合にも、工程中の真空下では飛散しにくい。
【0033】
また、高い結晶性向上の効果を示すためには、Rがアリール基であることが、さらにはベンジル基やフェニル基であることが好ましく、本発明の製造方法では、リン化合物がフェニルホスフィン酸またはフェニルホスホン酸であることが特に好ましい。中でもフェニルホスホン酸およびその誘導体であることが最適であり、作業性の面からもフェニルホスホン酸が最も好ましい。フェニルホスホン酸は水酸基を有するため、そうでは無いフェニルホスホン酸ジメチルなどのアルキルエステルに比べて沸点が高く、真空下で飛散しにくいというメリットもある。つまり、添加したリン化合物のうちポリエチレンナフタレート中に残存する量が増え、添加量対比の効果が高くなる。また真空系の閉塞が発生しにくい点からも有利である。
【0034】
本発明で用いられるリン化合物の添加量としては、ポリエチレンナフタレートを構成するジカルボン酸成分のモル数に対して0.1〜300ミリモル%であることが好適である。リン化合物の量が不十分であると結晶性向上効果が不十分になる傾向にあり、多すぎる場合には紡糸時の異物欠点が発生するために製糸性が低下する傾向にある。リン化合物の含有量はポリエチレンナフタレートを構成するジカルボン酸成分のモル数に対して1〜100ミリモル%の範囲がより好ましく、10〜80ミリモル%の範囲がさらに好ましい。
【0035】
また、このようなリン化合物と共に、金属元素を含有することが好ましく、さらには二価金属であることが好ましい。特には周期律表における第4〜5周期かつ3〜12族の金属元素およびMgの群より選ばれる少なくとも1種以上の金属元素が溶融ポリマー中に添加されていることが好ましい。さらにはモノフィラメントに含まれる金属元素が、Zn、Mn、Co、Mgの群から選ばれる少なくとも1種以上の金属元素であることが好ましい。理由は定かではないが、これらの金属元素を上記リン化合物と併用した場合に特に品質のばらつきが少ない均一なモノフィラメントが得られやすくなる。これらの金属元素は、エステル交換触媒や重合触媒として添加しても良いし、別途添加することも可能である。
【0036】
このような金属元素の含有量としては、エチレンナフタレート単位に対して10〜1000mmol%含有するものであることが好ましい。そして前述のリン元素Pと金属元素Mの存在比であるP/M比としては0.8〜2.0の範囲であることが好ましい。P/M比が小さすぎる場合には、金属濃度が過剰となり、過剰金属成分がポリマーの熱分解を促進し、熱安定性を損なう傾向にある。逆にP/M比が大きすぎる場合には、リン化合物が過剰のため、ポリエチレンナフタレートポリマーの重合反応を阻害し、フィラメント物性が低下する傾向にある。さらに好ましいP/M比としては0.9〜1.8であることが好ましい。
【0037】
本発明に用いるリン化合物の添加時期は、特に限定される物ではなく、ポリエチレンナフタレート製造の任意の工程において添加することができる。好ましくは、エステル交換反応又はエステル化反応の開始当初から重合終了する間である。さらに均一な結晶を形成させるためにはエステル交換反応又はエステル化反応の終了した時点から重合反応の終了時点の間であることがより好ましい。
【0038】
また、ポリエチレンナフタレートの重合後に、混練機を用いて、リン化合物を練り込む方法を採用することもできる。混練する方法は特に限定されるものではないが、通常の一軸、二軸混練機を使用することが好ましい。さらに好ましくは、得られるポリエチレンナフタレート組成物の重合度の低下を抑制するために、ベント式の一軸、二軸混練機を使用する方法を例示できる。
【0039】
この混練時の条件は特に限定されるものではないが、例えばポリエチレンナフタレートの融点以上、滞留時間は1時間以内、好ましくは1分〜30分である。また、混練機へのリン化合物、ポリエチレンナフタレートの供給方法は特に限定されるものではない。例えばリン化合物、ポリエチレンナフタレートを別々に混練機に供給する方法、高濃度のリン化合物を含有するマスターチップとポリエチレンナフタレートを適宜混合して供給する方法などを挙げることができる。ただし溶融ポリマー中に本発明で用いられる特有のリン化合物を添加する際には、他の化合物とあらかじめ反応させることなく、直接ポリエチレンナフタレートポリマーに添加することが好ましい。リン化合物を他の化合物、例えばチタン化合物とあらかじめ反応させてできた反応生成物が粗大粒子となり、ポリエチレンナフタレートポリマー中で構造欠陥や結晶の乱れを誘起することを防ぐためである。
【0040】
本発明で用いられるポリエチレンナフタレートのポリマーは、樹脂チップの極限粘度として、公知の溶融重合や固相重合を行うことにより0.65〜1.2の範囲にすることが好ましい。樹脂チップの極限粘度が低すぎる場合には溶融紡糸後のフィラメントを高強度化させることが困難となる。また極限粘度が高すぎると固相重合時間が大幅に増加し、生産効率が低下するため工業的観点から好ましくない。極限粘度としては、さらには0.7〜1.0の範囲であることが好ましい。
【0041】
また本発明で用いられるポリエチレンナフタレートからなるポリマーとしては、降温条件下での発熱ピークのエネルギーΔHcdが0.1〜50J/gであることが好ましい。さらには15J/g以上であることが、さらには20J/g以上であることが好ましい。ここで降温条件化での発熱ピークのエネルギーΔHcdとは、ポリエチレンナフタレートポリマー組成物を窒素気流下20℃/分の昇温条件にて300℃まで加熱し5分溶融保持させた後、窒素気流下10℃/分の降温条件にて示差走査熱量計を用いて測定したものである。この条件において現れる発熱ピークは、加熱溶融させることによりポリエチレンナフタレート組成物が等方性の溶融状態とした後の降温結晶化による発熱ピークを表すものと考えられる。
【0042】
さらに本発明のポリエチレンナフタレートからなるポリマーとしては、昇温条件下での発熱ピークのエネルギーΔHcが0.1〜50J/gであることが好ましい。さらには15J/g以上であることが、さらには20J/g以上であることが好ましい。ここで昇温条件下での発熱ピークのエネルギーΔHcとは、ポリエチレンナフタレートポリマーを300℃で2分間溶融保持させた後、液体窒素中で固化させ急冷固化ポリエチレンナフタレートとした後に、窒素気流下20℃/分の昇温条件にて示差走査熱量計を用い測定したものである。この条件において現れる発熱ピークは、一旦急冷固化させることによりポリエチレンナフタレート組成物が完全、乃至はほぼ完全に非晶状態とした後の昇温結晶化による発熱ピークを表している。
【0043】
このエネルギーΔHcdまたはΔHcが低かったり測定できない場合には結晶性が低くなる傾向にあり好ましくない。またエネルギーΔHcdまたはΔHcが高すぎる場合には、ポリエチレンナフタレートモノフィラメントの紡糸、延伸熱セット時に結晶化が進みすぎる傾向にあり、結晶成長が紡糸、延伸の工程を阻害し高強度のモノフィラメントになりにくい傾向にある。またエネルギーΔHcdまたはΔHcが高すぎる場合には製造時に断糸、糸切れが多発する要因ともなる。
【0044】
本発明のポリエチレンナフタレートモノフィラメントを製造するためには、このようにして得られたポリマーを溶融紡糸することによって得ることができる。
溶融時のポリエチレンナフタレートポリマーの温度としては285〜335℃であることが好ましい。さらには290〜330℃の範囲であることが好ましい。また、吐出孔の口径は0.2〜5mmが好ましく、さらには細繊度の時には2mm以下、特には0.35〜1.3mmの範囲であることが好ましい。
【0045】
また紡糸口金から吐出されたポリマーは冷却されるが、風を用いた気体冷却(空冷)よりも、液体による冷却であることが好ましい。冷却する液体の温度としては30℃以上120℃以下、さらに好ましくは50℃以上100℃以下であることが好ましい。さらには冷却槽の温度としては、70〜85℃にコントロールすることが好ましい。本発明の製造法における冷却は冷却溶媒として液体を用いた冷却であることが好ましい。冷却溶媒温度が低すぎるとポリエチレンナフタレートポリマーが急冷されすぎてしまい、屈曲性が損なわれるため、フィブリル化などの品質異常を招く要因となる傾向にある。逆に冷却溶媒温度が高すぎるとポリマーの冷却が不十分となり、繊維径や形状が変形してしまう傾向にある。そして得られるモノフィラメントの繊維径の変動やモノフィラメントの真円性の乱れが発生すると、耐疲労性等の物性が低下することになる。ここで使用する冷却溶媒としては、乾燥によりモノフィラメントから容易に除去できるものであって、モノフィラメントのポリマーに対して物理的または化学的に影響を与えず、かつ、上記温度範囲で液体のまま形状を保持できるものであれば良い。具体的には、水、パラフィン、エチレングリコール、グリセリン、キシレンなどが挙げられるが、取り扱い性や環境、コストの面から水が好ましい。通常の細い繊度の繊維の場合、空冷によっても冷却は容易であるが、本発明のような太い繊度のモノフィラメントの場合、熱伝達性の高い液体の冷却溶媒を用いることが好ましい。空冷方式よりもより均一に冷却でき、フィラメントの物性を向上させることができる。
【0046】
本発明のポリエチレンナフタレートモノフィラメントの製造方法においては、上記のように溶融紡糸し、冷却した後に、延伸を行うことを必須とする。上記のようにして得られた冷却された未延伸糸は一旦巻き取っても良いが、さらに引き続いて連続して延伸する方法が、高効率の生産が行える点からは好ましい。本発明の製造方法では、紡糸後に延伸することによって、より高強度の延伸したモノフィラメントを得ることが可能となった。延伸は目標とする物性に合わせて任意の条件を設定できるが、一般的には30℃〜250℃の温度にて1.5倍〜7.0倍の延伸を行うとよい。また、延伸を複数回に分けて行うことは、強力やモジュラスを向上させる点から好ましい。従来は例え低倍率で紡糸したとしても延伸時に結晶の欠点に起因する強度の弱い部分が存在するため、断糸が起こることが多かったのである。しかし本発明の製造方法では、延伸による結晶化において微小結晶が均一に形成されるため、延伸欠点が発生しにくく、高倍率に延伸でき、モノフィラメントを高強度化することが可能となったものである。
【0047】
このような製造方法においては、ポリマー組成物の結晶性が向上し、溶融し、紡糸口金から吐出する段階で、微小結晶を多数形成することとなる。そしてこの微小結晶が、紡糸及び延伸工程で生じる粗大な結晶成長を抑制し結晶を微分散化させるため、各工程での断糸率を大幅に低下させ、結果として得られるポリエチレンナフタレートモノフィラメントの物性が向上したのであると考えられる。
【0048】
本発明に用いられるポリエチレンナフタレートモノフィラメントは、モノフィラメントの極限粘度IVfの低下が少なく、高強度、低荷伸(高モジュラス)かつ強伸度のバラツキが小さい。さらには熱がかかった場合においても強度低下が小さくなる。また、一方ではフィブリル化などの欠点が少なく、製糸性も良好となる。
【0049】
この本発明の効果を発揮するメカニズムは必ずしも明確ではないが、微小結晶が分散することにより、ポリマーが補強され、あるいは欠点への応力の集中を抑制し、モノフィラメントの構造的欠陥が低減したためであると考えられる。
【0050】
以上のような製造方法により得られるポリエチレンナフタレートモノフィラメントのIVf0.55〜1.10の範囲が好ましく、さらには0.63〜0.90が好ましい。IVfが低すぎる場合は得られるモノフィラメントの屈曲疲労性が十分発揮されにくく、逆にIVfが高すぎる場合は紡糸が困難になり、製糸性を損なう可能性がある。また、モノフィラメントの強度としては、40〜100cN/texであることが好ましい。さらには50〜70cN/texであることが好ましい。強度が低すぎる場合にはもちろん、高すぎる場合にも耐久性に劣る傾向にある。また、ぎりぎりの高強度で生産を行うと製糸工程での断糸が発生し易い傾向にあり工業繊維としての品質安定性に問題がある傾向にある。伸度としては、5〜25%程度であることが好ましく、さらには10〜20%であることが好ましい。屈曲時の強度である引掛強度としては30〜100cN/tex、さらには45〜90cN/texであることが好ましい。
【0051】
また、モノフィラメントの繊径に関しては0.01〜2mmであることが好ましく、さらには0.01〜0.5mmが好ましく、特には産業用資材として、0.05〜0.3mmであることが好ましい。繊維径が小さすぎる場合、産業用資材としての強力が発揮されにくく、また、繊維径が大きすぎる場合には屈曲性が悪くなり、繊維構造体とした時の屈曲疲労性が悪くなる傾向にある。
【0052】
そしてこのような本発明の製造方法により得られたポリエチレンナフタレートモノフィラメントからなる繊維構造体は、フィブリル等の欠点が少なく、耐熱性や屈曲疲労性に優れた繊維構造体となる。繊維構造体の形態としては、織物、編物、不織布など任意のものを採用することができるが、強度、および経方向、緯方向のバランスの面から、織物であることがもっとも好ましい。また織物の場合には本発明で得られたポリエチレンナフタレートモノフィラメントを経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用した織物であることが好ましい。このような織物の場合、一本の単糸にて使用される以外に、モノフィラメントを複数本組み合わせたもの、さらには複数本組み合わせた単糸を撚り合わせたものなど、織物を構成する経糸及び/または緯糸の少なくとも一部に使用することもできる。織物の織り方としては、平織り、綾織などの一重織のほか、二重織、三重織といった織物を使用することも好ましい。例えば平織りであれば、織密度15〜200本/インチ(2.54cm)、さらには20〜170本/インチ(2.54cm)であることが好ましい。目付けとしては30〜300g/mの範囲が好ましい。
【0053】
このような本発明の繊維構造体は、製紙用ファブリックや、各種工業用のベルトやフィルター、ネット、ブラシとして用いることができる。
例えば製紙用ファブリックとしては、製紙機の紙漉き工程で使用されるフォーミングワイヤーや乾燥工程で使用されるドライヤーキャンバスなどの網状構造体として用いることができる。これらは使用中の各種ローラーや紙の重みなどに耐える強度や耐熱性が必要なばかりでは無く、メンテナンス時には工程で発生する汚れを落とすため、高圧の水や空気によって繰返し屈曲を受けることとなる。耐熱性や屈曲疲労性に優れ、フィブリル化しにくい本発明のモノフィラメントを用いた繊維構造体は、このような過酷な用途に最適である。
【0054】
また、フィルターとしては、ビールや醤油といった食品製造工程や汚泥処理工程、砂利の汚濁水清浄処理工程などに用いられる分離フィルター用途に最適である。これらの用途には、高強度、高モジュラス、耐熱性、耐屈曲疲労性などの要求があり、本発明のポリエチレンナフタレートモノフィラメントからなる繊維構造体を有益に用いることが出来る。
このような本発明の繊維構造体は、高強力でありながらフィブリル等の欠点が少なく、耐熱性や屈曲疲労性に優れたものとなり、各種産業用途に好適に使用することができる。
【実施例】
【0055】
本発明をさらに下記実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。また各種特性は下記の方法により測定した。
【0056】
(1)極限粘度IVf
樹脂あるいはモノフィラメントをフェノールとオルトジクロロベンゼンとの混合溶媒(容量比6:4)に溶解し、35℃でオストワルド型粘度計を用いて測定して求めた。
【0057】
(2)強度、引掛け強度
引張荷重測定器((株)島津製作所製オートグラフ)を用い、JIS L−1013に従って測定した。
【0058】
(3)ポリマーの発熱ピークエネルギーΔHcd及びΔHc
ポリマーについては、TAインスツルメンツ社製Q10型示差走査熱量計を用い、試料量10mgのサンプルを窒素気流下、20℃/分の昇温条件で300℃まで加熱し、5分間溶融保持させた。その後窒素気流下、10℃/分の降温条件で測定し、現れる発熱ピークを観測し、ポリマーのTcd及びΔHcdを求めた。
他方、同じくポリマーを300℃まで加熱し、2分間溶融保持させた。液体窒素中で急冷固化させた後、さらに窒素気流下、20℃/分の昇温条件にて現れる発熱ピークを観測し、ポリマーのTc及びΔHcを求めた。
なお、発熱ピークの頂点の温度をTcd及びTcとし、またピーク面積からエネルギーを計算した発熱ピークエネルギーを、ΔHcd及びΔHcとした。
【0059】
(4)耐屈曲疲労性
JIS−P−8115に準じ、評価用織物布帛をタテ11cm、ヨコ1.5cmのシート状に切り出し、MIT型屈曲試験機に荷重9.8Nでセットし、速度175回/分、角度135°で屈曲させた時の破断回数を示した。
【0060】
[実施例1]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル100重量部とエチレングリコール50重量部との混合物に酢酸マンガン四水和物0.030重量部、酢酸ナトリウム三水和物0.0056重量部を攪拌機、蒸留搭及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、150℃から245℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを反応器外に留出させながら、エステル交換反応を行い、引き続いてエステル交換反応が終わる前にフェニルホスホン酸(PPA)を0.03重量部(50ミリモル%)を添加した。その後、反応生成物に三酸化二アンチモン0.024重量部を添加して、攪拌装置、窒素導入口、減圧口及び蒸留装置を備えた反応容器に移し、305℃まで昇温させ、30Pa以下の高真空下で縮合重合反応を行い、常法に従ってチップ化して極限粘度0.62のポリエチレンナフタレート樹脂チップを得た。この結果を表1に示した。
このチップを65Paの真空度下、120℃で2時間予備乾燥した後、同真空下240℃で10〜13時間固相重合を行い、極限粘度0.78のポリエチレンナフタレート樹脂チップとした。
【0061】
これをポリマー溶融温度296℃にて口径直径0.7mmの紡糸口金より紡出し、口金直下に具備した78℃に加温した冷却水層にて冷却し、28m/minの速度で引き取った。この吐出糸条を一旦巻き取ることなく引き続き78℃に加温した温水バス中にて連続的に合計5.52倍の3段延伸と210℃熱セットを行い、繊維径0.15mmのポリエチレンナフタレートモノフィラメントを得た。このものの強度は56.8cN/tex、伸度13.7%、引掛け強度65.1cN/texでフィブリルなどの欠点もなく、製糸性に優れたものであった。この結果を表1に併せて示す。
また、得られたポリエチレンナフタレートモノフィラメントを経緯52本/inch(2.54cm)の織密度で2軸の平織物を作製し、屈曲疲労性試験用布帛とした。この織物の目付は95g/mであった。得られた織物(繊維構造体)の屈曲疲労性試験の結果を表1に併せて示す。
【0062】
[比較例1]
実施例1において、フェニルホスフィン酸の代わりに正リン酸を40mmol%添加したこと以外は実施例1と同様に実施し、モノフィラメント及び織物を得た。結果を表1に併せて示した。なお、ポリマーの発熱ピークは測定できなかった。
【0063】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たる繰り返し単位がエチレンナフタレートであるポリマーを溶融紡糸するポリエチレンナフタレートモノフィラメントの製造方法であり、該ポリマーが下記一般式(I)であらわされる少なくとも1種類のリン化合物を含むポリマー組成物であり、該ポリマー組成物を溶融紡糸し、冷却、延伸することを特徴とするポリエチレンナフタレートモノフィラメントの製造方法。
【化1】

[上の式中、Rは炭素数1〜20個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基又はベンジル基であり、Rは水素原子又は炭素数の1〜20個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基又はベンジル基、Xは、水素原子または−OR基であり、Xが−OR基である場合、Rは水素原子又は炭素数の1〜12個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基又はベンジル基、であり、RとRは同一であっても異なっていても良い。]
【請求項2】
該ポリマーが金属元素を含むものであり、該金属元素が周期律表における第4〜5周期かつ3〜12族の金属元素およびMgの群より選ばれる少なくとも1種以上の金属元素である請求項1記載のポリエチレンナフタレートモノフィラメントの製造方法。
【請求項3】
該ポリエチレンナフタレートモノフィラメントの線径が0.01〜2mmである請求項1または2記載のポリエチレンナフタレートモノフィラメントの製造方法。
【請求項4】
溶融紡糸後の冷却が、液体による冷却である請求項1〜3のいずれか1項記載の記載のポリエチレンナフタレートモノフィラメントの製造方法。
【請求項5】
該リン化合物がフェニルホスホン酸誘導体である請求項1〜4のいずれか1項記載の記載のポリエチレンナフタレートモノフィラメントの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載のポリエチレンナフタレートモノフィラメントの製造方法により得られるポリエチレンナフタレートモノフィラメント。
【請求項7】
請求項6記載のポリエチレンナフタレートモノフィラメントからなる繊維構造体。
【請求項8】
請求項6項記載のポリエチレンナフタレートモノフィラメントを経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用した織物。

【公開番号】特開2011−58136(P2011−58136A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210507(P2009−210507)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】