説明

ポリエーテルエーテルケトン、それを含有する樹脂組成物、およびその成形体

【課題】 従来のポリエーテルエーテルケトン重合体には、充分な機械物性を有するものの成形流動性が乏しく、一方、成形流動性を良好にすることを目的に低分子量化すると、成形体において充分な機械物性が得られなかった。
【解決手段】 式(1):−Ar−C(=O)−Ar−O−Ar′−O− (1)
(式中、Ar及びAr′は、同一又は異なって、置換又は無置換のフェニレン基を表す。) で示される繰り返し単位を含むポリエーテルエーテルケトンであって、このポリエーテルエーテルケトンのインヘレント粘度が0.03dL/g以上0.6dL/g未満を示す、ことを特徴とするポリエーテルエーテルケトンおよび、該ポリエーテルエーテルケトンを含有する高耐熱性熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の溶液粘度を有するポリエーテルエーテルケトン、これを含む樹脂組成物、およびその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエーテルエーテルケトンは、非常に高い耐熱性を有する熱可塑性樹脂であり、さらに耐薬品性や難燃性に優れ、高度の機械的強度や寸法安定性を備えたスーパーエンジニアリングプラスチックの1種である。当該重合体は、これらの優れた特性のために、自動車部品用途として使用されており、特にエンジン部品の性能向上と軽量化を図るために金属製のエンジン部品を代替する材料としての利用が知られている。さらには、電線の絶縁被覆や、電気・電子関連部品、鉛フリーはんだ素材や、電子回路基板、薬品、溶剤、腐食性ガス製造ラインの部品での利用も知られている。
【0003】
当該重合体の製造方法としては種々知られているが、工業的な製造法としては、ヒドロキノンと、両端にフッ素等のハロゲン基を有するベンゾフェノンとを、塩基の存在下に求核置換反応させて重合させる方法が最も一般的である。このような方法においては、性質の良好なポリエーテルエーテルケトンを得るために、ジフェニルスルホンを重合溶媒として使用することが広く知られている。この点については特許文献1、2等を参照することができる。特許文献1、2には、ポリエーテルエーテルケトンを0.1g/dLの濃度で含む濃硫酸溶液について測定したインヘレント粘度が0.7dL/gより低い場合は脆いと記載されている。さらに成形流動性を向上させる目的で低溶融粘度のポリエーテルエーテルケトンが特許文献3に記載されている。ここに記載されているポリエーテルエーテルケトンは、すべて溶融粘度は低いもののインヘレント粘度は0.6dL/gより大きい。また現在ポリエーテルエーテルケトンは、主にビクトレックス社から商品名PEEKとして市販されているが、これらは全てインヘレント粘度が0.6dL/gより高い。
【0004】
しかしながら市販されているポリエーテルエーテルケトンは、成形流動性に乏しいことが知られている。複雑な形状を持つ成形体を射出成形により簡単に製造するには、良好な成形流動性、すなわち低い溶融粘度が要求される。ポリエーテルエーテルケトンを低分子量化すると溶融粘度は低下するものの、成形体の機械物性が低下するので、良好な成形流動性と機械物性を両立させるのは困難であった。
【特許文献1】特開昭54−90296号公報
【特許文献2】特開昭59−93724号公報
【特許文献3】特表2007−506833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが検討したところ、一般的に高耐熱性熱可塑性樹脂、例えば従来のポリエーテルエーテルケトン重合体には、以下の欠点があることが判明した。
(1)充分な機械物性を有するポリエーテルエーテルケトンは、成形流動性が乏しく、複雑な形状を持つ成形体を射出成形により簡単に製造することは困難であった。
(2)ポリエーテルエーテルケトンの成形流動性を良好にすることを目的に低分子量化すると、成形体において充分な機械物性が得られなかった。
(3)ポリエーテルエーテルケトンを0.1g/dLの濃度で含む濃硫酸溶液について測定したインヘレント粘度が0.6dL/g以上あることが、充分な機械物性を発現するためには必要と考えられていた。
【0006】
そこで、本発明は、上記現状に鑑み、ポリエーテルエーテルケトンを0.1g/dLの濃度で含む濃硫酸溶液について測定したインヘレント粘度が0.03dL/g以上0.6dL/g未満のポリエーテルエーテルケトンを物性改良剤として用いること、及びこれを含む成形流動性、及び機械物性に優れた高耐熱性熱可塑性樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、従来は機械物性等が不充分で使用できないと考えられていた、特定のインヘレント粘度を有する低分子量ポリエーテルエーテルケトンを高耐熱性熱可塑性樹脂に特定量配合することにより、低分子量ポリエーテルエーテルケトンを有効に利用でき、成形流動性、及び機械物性に優れた高耐熱性樹脂組成物を見出した。
【0008】
すなわち本発明は、下記式(1):
−Ar−C(=O)−Ar−O−Ar′−O− (1)
(式中、Ar及びAr′は、同一又は異なって、置換又は無置換のフェニレン基を表す。)
で示される繰り返し単位を含むポリエーテルエーテルケトンであって、
前記ポリエーテルエーテルケトンを0.1g/dLの濃度で含む濃硫酸溶液について測定したインヘレント粘度が0.03dL/g以上0.6dL/g未満を示す、ことを特徴とする物性改良剤に関する。
【0009】
また本発明は、上記の物性改良剤としてのポリエーテルエーテルケトン、及び、インヘレント粘度が0.7dL/g以上である高耐熱性熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物、およびこれに強化充填材を含有する樹脂組成物にも関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の物性改良剤を含有する高耐熱性樹脂は、成形流動性に優れているので複雑な形状を有する成形体であっても容易に製造でき、かつ、製造された成形体は、良好な機械物性を保持している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の物性改良剤に係るポリエーテルエーテルケトンを説明する。
【0012】
ポリエーテルエーテルケトンとは、下記式(1):
−Ar−C(=O)−Ar−O−Ar′−O− (1)
(式中、Ar及びAr′は、同一又は異なって、置換又は無置換のフェニレン基を表す。)
で示される繰り返し単位を含む重合体である。
【0013】
Ar及びAr′におけるフェニル環上の置換基としては特に限定されないが、例えば、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基、ハロゲン原子等が挙げられる。しかし、Ar及びAr′は無置換のp−フェニレン基を表すことが好ましい。
【0014】
本発明の物性改良剤であるポリエーテルエーテルケトンとしては、1種類の繰り返し単位から構成される単独重合体であってもよいし、2種類以上の繰り返し単位から構成される共重合体であってもよい。好ましくは、前記式(1)で表される繰り返し単位1種類から構成される単独重合体である。
【0015】
また、前記式(1)で表される繰り返し単位と、これ以外の繰り返し単位との共重合体であってもよい。当該他の繰り返し単位としては、例えば、以下のようなものが挙げられる。
−Ar−C(=O)−Ar−O−Ar−A−Ar−O−
−Ar−C(=O)−Ar−O−
−Ar−C(=O)−Ar−C(=O)−Ar−O−Ar−A−Ar−O−
−Ar−SO2−Ar−O−Ar−O−
−Ar−SO2−Ar−O−Ar−A−Ar−O−
ここで、Ar、及びAは前述のとおりである。
【0016】
原料たるモノマーの構成比を調整することによって、前記重合体の末端を、フッ素原子等のハロゲン原子とすることもできるし、水酸基とすることもできる。一般にはフッ素原子が重合体末端にあることが熱安定性の点から好ましい。また、重合体末端に末端封止剤を反応させることにより、ハロゲン末端や水酸基末端を、フェニル基等の不活性置換基に置き換えたものでもよい。
【0017】
本発明におけるポリエーテルエーテルケトンは、特定のインヘレント粘度を有するものである。本発明のポリエーテルエーテルケトンを0.1g/dLの濃度で含む濃硫酸溶液について測定したインヘレント粘度が0.03dL/g以上0.6dL/g未満を示すことを特徴とする。
【0018】
本発明のポリエーテルエーテルケトンのインヘレント粘度は、必要な成形流動性と機械物性のバランスの観点から0.03dL/g以上0.6dL/g未満の範囲内で適宜決定すればよいが、低いインヘレント粘度のポリエーテルエーテルケトンを配合すると機械物性が低下する傾向があり、また高いインヘレント粘度ポリエーテルエーテルケトンを配合すると成形流動性の向上効果が少ない傾向がある。以上より機械物性を保持しながら成形流動性を向上させる観点から、0.05dL/g以上0.5dL/g未満の範囲が好ましく、0.05dL/g以上0.4dL/g未満の範囲がより好ましく、最も好ましくは0.05dL/g以上0.3dL/g未満の範囲である。
【0019】
当該インヘレント粘度は、具体的には、ISO1628−1:1998の5.1、又はISO3105:1994の表B4に記載のサイズ番号1C(毛細管直径0.77mm)のウベローデ形粘度計を用いて、25℃で0.1g/dLの95%濃硫酸溶液、及び95%濃硫酸について流出時間を測定し、得られた値を以下の式に代入して求めることができる。
溶液粘度ηi=ln(t/t0)/c
t:95%濃硫酸溶液の流出時間(秒)
t0:95%濃硫酸の流出時間(秒)
c:溶液濃度、すなわち0.1g/dL
【0020】
本発明のポリエーテルエーテルケトンは、後述のように、当該ポリエーテルエーテルケトン中のナトリウムカチオン濃度として、25ppm未満、適切には20ppm未満、好ましくは15ppm未満、より好ましくは10ppm未満、特に好ましくは5ppm未満に到達することが可能である。
ポリエーテルエーテルケトンを合成するには、例えば、下記式(2)で表される4,4′−ジハロベンゾフェノン類と、下記式(3)で表されるヒドロキノン類との重合反応を、スルホラン、ジフェニルスルホン等の重合溶媒中、200〜400℃程度の温度で、塩基の存在下で行うことができる。
X−Ar−C(=O)−Ar−X (2)
RO−Ar−OR (3)
式中、Arは、同一又は異なって、置換又は無置換のp−フェニレン基を表す。Xはハロゲン原子を表す。Rは、同一又は異なって、水素原子、R′−基、R′C(O)−基、R′OC(O)−基、R′3Si−基、又はR′2NC(O)−基を表す。ここでR′は、同一又は異なって、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、又は炭素数7〜12のアラルキル基を表す。
【0021】
式(2)で表される4,4′−ジハロベンゾフェノン類としては、例えば、4,4′−ジフルオロベンゾフェノン、4,4′−ジクロロベンゾフェノン等が挙げられるが、Arが無置換のp−フェニレン基、Xがフッ素原子である4,4′−ジフルオロベンゾフェノンが好ましい。式(3)で表されるヒドロキノン類としては、Arが無置換のp−フェニレン基、Rが水素原子であるp−ヒドロキノンが好ましい。
【0022】
4,4′−ジハロベンゾフェノン類(2)と、ヒドロキノン類(3)とのモル比を調整することによって、重合体末端に導入される基の種類(フッ素原子等のハロゲン原子、又は水酸基等の−OR基)や、分子量を調整することができる。すなわち、4,4′−ジハロベンゾフェノン類(2)のモル数がより多い場合には、フッ素原子等のハロゲン原子が(おそらく)末端に導入され、ヒドロキノン類(3)のモル数がより多い場合には、水酸基等の−OR基が末端に導入される。また、両者のモルの差が小さい(すなわちモル比か1:1に近い)ほど、重合体の分子量は大きくなり、モル差が大きくなると、重合体の分子量は小さくなる。末端にフッ素原子等のハロゲン原子を導入する場合には、通常、両者のモル比は1.1:1〜1.0001:1の範囲内に調整される。すなわち、通常、ヒドロキノン類(3)に対して4,4′−ジハロベンゾフェノン類(2)が0.01〜10モル%多く、好ましくは0.1〜5モル%、より好ましくは0.1〜2モル%である。一方、末端に水酸基等の−OR基を導入する場合には、通常、両者のモル比は1:1.1〜1:1.0001の範囲内に調整される。すなわち、通常、4,4′−ジハロベンゾフェノン類(2)に対してヒドロキノン類(3)が0.01〜10モル%多く、好ましくは0.1〜5モル%、より好ましくは0.1〜2モル%である。
【0023】
以上の重合反応は、塩基による求核置換反応に基づいた重縮合によって達成されるものである。前記塩基の具体例としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ルビジウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属炭酸水素塩、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物、アルキル化リチウム、リチウムアルミニウムハライド、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド、ナトリウムハイドライド、ナトリウムアルコキサイド、カリウムアルコキサイド、フォスファゼン塩基、Verkade塩基等が挙げられる。これらのうち1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0024】
塩基は、通常、モル基準でヒドロキノン類(3)よりも多く使用されるが、ヒドロキノン類(3)に対して30モル%以下の範囲で多いことが好ましく、10モル%以下の範囲がより好ましく、1〜5%の範囲が特に好ましい。
【0025】
前記重縮合反応は有機溶媒中で行うものであるが、有機溶媒としては、例えば、スルホラン、及び/又は、ジフェニルスルホンを用いることができる。重合溶媒は、系の固形分が90重量%以下となるような量で使用すればよい。好ましくは50重量%以下であり、より好ましくは15〜30重量%である。
【0026】
また、系中の水を共沸によって効率よく除去するために、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の共沸溶媒を反応系に補充することが好ましい。
【0027】
本反応は系を加熱することによって進行する。具体的な反応温度としては、系の還流温度以下であればよく、重合溶媒としてスルホランを使用する場合は、通常300℃未満、好ましくは200℃〜280℃の範囲、より好ましくは230〜260℃の範囲である。重合溶媒としてジフェニルスルホンを用いる場合には、通常300℃以上、好ましくは320〜340℃の範囲である。これらの温度を維持することによって反応が効率よく進行する。
【0028】
反応時間は特に限定されず、所望の粘度又は分子量を考慮して適宜設定すればよいが、通常、24時間以下であり、好ましくは12時間以下であり、より好ましくは6時間以下、特に好ましくは1〜3時間である。
【0029】
本発明のポリエーテルエーテルケトンは、インヘレント粘度が0.7dL/g以上である高耐熱性熱可塑性樹脂に添加することで、高耐熱性熱可塑性樹脂の流動性すなわち成形加工性を高めることができる。インヘレント粘度が高いほど、機械物性が向上することから本発明の高耐熱性熱可塑性樹脂のインヘレント粘度は、0.8dL/g以上であることが好ましく、0.9dL/g以上であることがより好ましい。
【0030】
ここでいう高耐熱性熱可塑性樹脂とは、例えば荷重たわみ温度(1.82MPa荷重)が150℃以上、あるいは連続使用温度が100℃以上の熱可塑性樹脂が好適に利用される。このような高耐熱性熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリエーテルニトリル、ポリアリレート、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマー、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレンなどが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は単独または2種類以上併せて使用することもできる。
【0031】
また、本発明のポリエーテルエーテルケトンは、より高性能なものにするために、通常良く知られた、酸化防止剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、光安定剤、離型剤、顔料、染料、滑剤、可塑剤、分散剤、相溶化剤、蛍光増白剤、難燃剤、難燃助剤、などの添加剤を単独または2種類以上併せて使用することができる。
【0032】
本発明のポリエーテルエーテルケトンと高耐熱性熱可塑性樹脂との組成物の製造方法は特に限定されるものではない。溶融混練については、単軸、二軸等の押出機、プラストミル、ブラベンダー、ニーダー、バンバリーミキサー、加熱ロールなどが代表的な装置として挙げられる。この中でも、特に作業性、高耐熱性熱可塑性樹脂中へのポリエーテルエーテルケトンの分散性に優れる点より二軸押出機が好適に用いられる。
二軸押出機を用いた混練方法においても特に限定はなく、樹脂成分を一括してドライブレンドしたものをホッパーより投入し混練する方法、高耐熱性熱可塑性樹脂成分をホッパーよりポリエーテルエーテルケトンをサイドフィーダーより投入する方法、などが例示できる。
【0033】
本発明によって得られる熱可塑性樹脂組成物は成形体として用いることができる。成形体を得るための加工法は特に限定されるものではなく、一般に用いられている成形法、例えば射出成形、インモールド成形、ブロー成形(中空成形)、押出成形(共押出成形を含む)、真空成形、プレス成形、カレンダー成形、圧縮成形等が適用できる。
【0034】
これらの成形方法によって得られた成形体の代表的な利用分野としては、自動車部品用部材、半導体の製造工程で用いられる部材、電気電子用部材、一般工業用部材、医療用部材、食品加工用部材、航空宇宙用部材が挙げられる。各利用分野における用途を具体的に挙げると、自動車部品用部材としては、シールリング、スラストワッシャーなどのトランスミッション関連部材、ターボチャージャーファン、オイルポンプ、ワッシャー、インペラーなどのエンジン周辺部材、ステアリングコラムアジャスト、ボールジョイント、センサー、オイルシール部品、オイルフィルター、ダンパー部材、プランジャー、クラッチ部材、アクチュエータ、各種ギヤ、バルブリフタ、各種の流量調整ピストンなどが挙げられる。半導体の処理工程で用いられる部材としては、CMPリテーナリング、ウエハキャリア、FOUP、エッチングリング、ガスケット、チップトレイ、スピンチャック、ウエハ吸着テーブル、ウエハバスケット、ローラー、ソケット、ウエハ保持具、ウエハ輸送用ピンセット、ウエハ輸送用アーム、ウエハ洗浄工程ローラーなどが挙げられる。電気電子用部材としては、プリント回路基板、変圧器、絶縁フィルム、搬送用ローラーユニット、電位差計、スピーカー部品、抵抗器、掃除機インペラー、携帯電話ヒンジ、電熱ヒーター部品、コンデンサ、スイッチ、リレー、LED部品、コネクタ、スピンチャック、ベアリングゲージなどが挙げられる。一般工業用部材としては、ネジ、ボルト、パイプ、ファスナー、メーター、ローラーのスリーブ、各種容器、継ぎ手、軸受け、インナーケーブル、ブッシュ、バルブ、ポンプ部品、コンプレッサー部品、OA用分離爪、ハウジングなどが挙げられる。医療用部材としては、滅菌器具、ガスクロマトグラフィー部材、液体クロマトグラフィー部材、人工骨、チューブ、プロセス用配管などが挙げられる。食品加工用部材としては、破砕器、コンベアベルトチェーン、コーティングなどが挙げられる。航空宇宙用部材としては、電線被覆部材、ケーブル保護部材、ジェットエンジン、キャビンの内装材などが挙げられる。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0036】
(溶液粘度)
ISO1628−1:1998の5.1、又はISO3105:1994の表B4に記載のサイズ番号1C(毛細管直径0.77mm)のウベローデ形粘度計を用いて、25℃で0.1g/dLの95%濃硫酸溶液、及び95%濃硫酸について流出時間を測定し、得られた値を以下の式に代入して求めた。
溶液粘度ηi=ln(t/t0)/c
t:95%濃硫酸溶液の流出時間(秒)
t0:95%濃硫酸の流出時間(秒)
c:溶液濃度、すなわち0.1g/dL
【0037】
(引張試験)
ASTM1号ダンベル試験片を用い、ASTM D638に準拠して引張降伏強度を測定した。試験速度は、5mm/minとし、測定装置は万能材料試験機(インストロン製:5582型)を用いた。
【0038】
(IZOD試験)
ASTM1号ダンベル試験片の平行部分を用い、ASTM D256に準拠してノッチ有り(ハンマー秤量:1J)、ノッチ無し(ハンマー秤量:11J)の2水準を測定装置は衝撃試験機(東洋精機製)を用いて測定した
ノッチ有り:n=3における平均値を示した。
ノッチ無し:n=3においてブレーク(破壊)した試験片数を示した。
【0039】
(メルトフロー試験:MFR)
150℃/3hr環境下で乾燥した押出ペレットを用い、JIS K7210に準拠して、測定荷重:2.16kg、予 熱:5min、測定温度:400℃にて測定を実施した。測定装置は、メルトインデクサー(東洋精機製)を用いた。
【0040】
(キャピログラフ試験)
150℃/3hr環境下で乾燥した押出ペレットを用い、JIS K7119に準拠して、キャピラリー:φ1×L10mm、予熱:5min、測定温度:370℃、押出速度:0.5〜500mm/minでせん断速度における溶融粘度の依存性を測定した。測定値には、せん断速度が1000(sec−1)における溶融粘度(Pa・s)を記載した。測定装置はキャピログラフ(東洋精機製:1D PMD−C)をもちいた。
【0041】
実施例1
温度計、窒素ガス導入管、凝縮水分離器及び攪拌器が取り付けられた三つ口反応器にスルホラン(住友精化社製 スルホランSG)492g、4,4′−ジフルオロベンゾフェノン72.01g(0.33mol、ヒドロキノンの使用量0.3molに対して1.1モル%過量)、ヒドロキノン33.033g(0.3mol)を加えた。その後、攪拌、加熱し、温度が80℃に上昇したら、K2CO320.939g(0.1515mol)およびNa2CO316.057g(0.1515mol)、キシレン9gを加えた。さらに引き続き昇温し、温度が180℃に上昇したところより、水とキシレンが水分離器中に回収され始めた。水とキシレンを回収しながら、系内の温度を加熱により上昇させ、温度が260℃になったら恒温を保持した。260℃で4時間持続した後に加熱を停止し放冷した。充分に冷却して得られた固体混合物を、粉砕機で粉砕し得られた粉末材料にスルホラン1Lを加え、三つ口反応器において240〜260℃で30分間加熱攪拌してから濾過した。以上の加熱及び濾過の工程を合計3度繰り返した。続いて得られた粉末材料にイオン交換水400mLを加え、三つ口反応器において1時間煮沸してから濾過し、新たに水400mLで洗い流した。以上の煮沸及び濾過の工程を合計3度繰り返した。
【0042】
精製後の粉末材料を、真空乾燥装置において120℃で12時間加熱乾燥し、水分含有量を0.5%より低くして粉末状のポリエーテルエーテルケトンを得た。
【0043】
上記の重合、精製、乾燥による同作業を4回(4バッチ)繰り返し、4バッチ分を合わせた粉末状のポリエーテルエーテルケトンとして用いた。
【0044】
実施例2
4,4′−ジフルオロベンゾフェノンの添加量を85.098g(0.39mol、ヒドロキノンの使用量0.3molに対して1.3モル%過量)に変更したこと以外は、実施例1を繰り返して粉末状のポリエーテルエーテルケトンを得た。
【0045】
実施例3
4,4′−ジフルオロベンゾフェノンの添加量を98.19g(0.45mol、ヒドロキノンの使用量0.3molに対して1.5モル%過量)に変更したこと以外は、実施例1を繰り返して粉末状のポリエーテルエーテルケトンを得た。
表1に実施例1〜3の溶液粘度を示した。
【0046】
【表1】

【0047】
次に実施例1〜3で得られた粉末状のポリエーテルエーテルケトンを高耐熱性熱可塑性樹脂に添加し、強度試験、流動性試験の評価を行った。
【0048】
実施例4
高耐熱性熱可塑性樹脂であるポリエーテルエーテルケトン151G(ビクトレックス社製、インヘレント粘度:0.77dL/g)100重量部、粉末状ポリエーテルエーテルケトン(実施例1)2.0重量部を、ノズル部分から溶融部分におけるシリンダー温度を360℃に設定したφ25mm(L/D=41)の同方向二軸押出機により溶融混練した。先端ダイスより排出されたストランドは、長さ約120cmの水槽で冷却し、ペレタイザーに通すことで評価用の押出ペレットを得た。得られたペレットはメルトフロー試験、キャピログラフ試験に用いた。
【0049】
次に押出ペレットを、ノズル部分から溶融部分におけるシリンダー温度を380〜350℃に設定した型閉め力40t射出成形機に投入し、金型温度190℃の条件下でASTM1号ダンベル試験片(厚み3.1mm)を成形した。得られた評価用成形体は引張試験、IZOD衝撃試験に用いた。
【0050】
実施例5
ポリエーテルエーテルケトン151G(ビクトレックス社製)100重量部に対して、粉末状ポリエーテルエーテルケトン(実施例1)の添加量を5.2重量部に変更したこと以外は実施例4と同様の操作を行い、押出ペレット、及び評価用成形体を得た。
【0051】
実施例6
ポリエーテルエーテルケトン151G(ビクトレックス社製)100重量部に対して、粉末状ポリエーテルエーテルケトン(実施例2)を用い、添加量を2.0重量部に変更したこと以外は実施例4と同様の操作を行い、押出ペレット、及び評価用成形体を得た。
【0052】
実施例7
ポリエーテルエーテルケトン151G(ビクトレックス社製)100重量部に対して、粉末状ポリエーテルエーテルケトン(実施例2)の添加量を5.2重量部に変更したこと以外は実施例4と同様の操作を行い、押出ペレット、及び評価用成形体を得た。
【0053】
実施例8
ポリエーテルエーテルケトン151G(ビクトレックス社製)100重量部に対して、粉末状ポリエーテルエーテルケトン(実施例3)を用い、添加量を2.0重量部に変更したこと以外は実施例4と同様の操作を行い、押出ペレット、及び評価用成形体を得た。
【0054】
実施例9
ポリエーテルエーテルケトン151G(ビクトレックス社製)100重量部に対して、粉末状ポリエーテルエーテルケトン(実施例3)の添加量を5.2重量部に変更したこと以外は実施例4と同様の操作を行い、押出ペレット、及び評価用成形体を得た。
【0055】
比較例1
ポリエーテルエーテルケトン151G(ビクトレックス社製)のペレットのみを用いて、メルトフロー試験、キャピログラフ試験を行った。また実施例4記載の方法により評価用成形体を得て、引張試験、IZOD衝撃試験に用いた。
【0056】
実施例4〜9および比較例1の結果を表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
表1で示したように、粉末ポリエーテルエーテルケトンを添加した実施例1−6において、粉末ポリエーテルエーテルケトンを添加しない比較例1よりも、MFRやキャピログラフなどの流動特性は高い。また、引張降伏強度、IZOD強度は同等レベルを示すポリエーテルエーテルケトンが得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
−Ar−C(=O)−Ar−O−Ar′−O− (1)
(式中、Ar及びAr′は、同一又は異なって、置換又は無置換のフェニレン基を表す。)
で示される繰り返し単位を含むポリエーテルエーテルケトンであって、
前記ポリエーテルエーテルケトンを0.1g/dLの濃度で含む濃硫酸溶液について測定したインヘレント粘度が0.03dL/g以上0.6dL/g未満を示す、ことを特徴とする物性改良剤。
【請求項2】
インヘレント粘度が0.7dL/g以上である高耐熱性熱可塑性樹脂100重量部中に、請求項1記載のポリエーテルエーテルケトン1〜40重量部を含有する樹脂組成物。
【請求項3】
前記高耐熱性熱可塑性樹脂がポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリエーテルニトリル、ポリアリレート、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマー、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレンからなる群より選択される、請求項2の樹脂組成物。
【請求項4】
前記高耐熱性熱可塑性樹脂が、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトンおよびポリエーテルエーテルケトンケトンからなる群より選択される、請求項2の樹脂組成物。
【請求項5】
前記高耐熱性熱可塑性樹脂が、 下記式(1):
−Ar−C(=O)−Ar−O−Ar′−O− (1)
(式中、Ar及びAr′は、同一又は異なって、置換又は無置換のフェニレン基を表す。)
で示される繰り返し単位を含むポリエーテルエーテルケトンである請求項2の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか1項に記載の樹脂組成物、及び、強化充填材を含有する樹脂組成物。
【請求項7】
請求項2〜6のいずれか1項に記載の樹脂組成物を用いた成形体。
【請求項8】
成形体が自動車部品用部材、半導体の製造工程で用いられる部材、電気電子部材、一般工業用部材、医療用部材、食品加工用部材または食品加工用部材のいずれかであることを特徴とする請求項7記載の成形体。

【公開番号】特開2010−95615(P2010−95615A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267333(P2008−267333)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】