説明

ポリオレフィン微多孔膜、非水系二次電池用セパレータ、及び非水系二次電池

【課題】電解液に対する濡れ性や保持性に優れるポリオレフィン微多孔膜を提供する。
【解決手段】BET法による比表面積測定により得られた孔径をdBET、バブルポイント法により得られた孔径をdBUBBLEとしたとき、前記孔径dBETが20〜150nmの範囲であって、dBET/dBUBBLEが1.0<dBET/dBUBBLE≦3.0を満たすポリオレフィン微多孔膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン微多孔膜、並びに非水系二次電池用セパレータ及び非水系二次電池に関わるものであり、特に、非水系二次電池等の電池特性を向上させる技術によるものである。
【背景技術】
【0002】
正極にコバルト酸リチウムに代表されるリチウム含有遷移金属酸化物、負極にリチウムをドープ・脱ドープ可能な炭素材料を用いたリチウムイオン二次電池を代表とする非水系二次電池は、高エネルギー密度を有するという特徴から携帯電話に代表される携帯電子機器の電源として重要なものであり、これら携帯電子機器の急速な普及に伴いその需要は高まる一方である。
【0003】
また、ハイブリッド自動車など、環境対応を意識した自動車が数多く開発されているが、搭載される電源の一つとして、高エネルギー密度を有するリチウムイオン二次電池が大きく注目されている。
【0004】
リチウムイオン二次電池の多くは、正極、電解液を含むセパレータ、負極の積層体から構成されている。セパレータは、主たる機能として正極と負極の短絡防止を担っているが、要求特性として、リチウムイオンの移動度、強度、耐久性などがある。
【0005】
現在、リチウムイオン二次電池セパレータ用途に適するフィルムとして、各種のポリオレフィン微多孔膜が数多く提案されている。ポリオレフィン微多孔膜は、上述にある要求特性を満たし、かつ高温時の安全機能として、高温時に孔が閉塞して電流を遮断することによる熱暴走防止機能、いわゆるシャットダウン機能を有していることもあり、リチウムイオン二次電池のセパレータとして幅広く使用されている。
【0006】
ところが、ポリエチレンをはじめとするポリオレフィンは表面自由エネルギーが比較的低いという特徴があり、電解液に対する濡れ性や保持性に優れるとは言いがたい。そのため、電解液に対する濡れ性を改善すべく、濡れ性に優れる高分子の添加などが提案されてきた(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−226639号公報
【特許文献2】特開2001−81228号公報
【特許文献3】特開平11−329392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、濡れ性に優れる高分子の多くは、軟化点が高いもしくは低い高分子、耐酸化性に劣る高分子であることが多く、電池特性の低下の点で課題があった。
【0009】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、電解液に対する濡れ性及び膜中での電解液の保持性に優れるポリオレフィン微多孔膜、電解液の保持性に優れる非水系二次電池用セパレータ、及びサイクル特性などの電池特性が向上された非水系二次電池を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明における前記課題を達成するための具体的手段は、以下の通りである。
すなわち、本発明は、BET法による比表面積測定により得られた孔径をdBET、バブルポイント法により得られた孔径をdBUBBLEとしたとき、前記孔径dBETが20〜150nmの範囲であって、dBET/dBUBBLEが下記式(1)を満たすポリオレフィン微多孔膜である。
1.0<dBET/dBUBBLE≦3.0 ・・・(1)
【0011】
また、本発明は、前記ポリオレフィン微多孔膜の片面又は両面に、耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層が設けられた非水系二次電池用セパレータである。本発明の非水系二次電池用セパレータは、耐熱性多孔質層を前記ポリオレフィン微多孔膜の片面又は両面に被覆して構成することができる。
【0012】
また、本発明は、リチウムのドープ及び脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池であって、正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置されるセパレータとして、前記ポリオレフィン微多孔膜、又は前記非水系二次電池用セパレータとを備えた非水系二次電池である。本発明の非水系二次電池は、一般には、前記ポリオレフィン微多孔膜又は前記非水系二次電池用セパレータを介して正極及び負極を備えている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電解液に対する濡れ性及び膜中での電解液の保持性に優れるポリオレフィン微多孔膜を提供することができる。また、
本発明によれば、電解液の保持性に優れる非水系二次電池用セパレータを提供することができる。さらに、
本発明によれば、サイクル特性などの電池特性が向上された非水系二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について順次説明する。なお、これらの説明及び実施例は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。
【0015】
[ポリオレフィン微多孔膜]
本発明のポリオレフィン微多孔膜は、BET法による比表面積測定により得られた孔径をdBETとし、バブルポイント法により得られた孔径をdBUBBLEとしたとき、前記孔径dBETを20〜150nmの範囲とし、下記式(1)の関係を満たすように構成したものである。
1.0<dBET/dBUBBLE≦3.0 ・・・(1)
【0016】
微多孔膜とは、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が膜中で連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった膜をいう。
【0017】
本発明のポリオレフィン微多孔膜の原料としては、ポリオレフィン、すなわちポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン及びその共重合体が挙げられる。中でも、ポリエチレンが好ましく、強度、耐熱性等の観点から、より好ましくは高密度ポリエチレン、又は高密度ポリエチレンと超高分子量ポリエチレンとの混合物である。なお、本発明のポリオレフィン微多孔膜は、膜全質量の90質量%以上がポリオレフィンからなるものが好ましく、10質量%以下の電池特性に影響を与えない限りにおいて、他の成分を含んでいても構わない。
【0018】
本発明のポリオレフィン微多孔膜は、BET法による比表面積測定により得られた孔径をdBETとし、バブルポイント法により得られた孔径をdBUBBLEとしたとき、dBET/dBUBBLEを、1.0を超え3.0以下の範囲とする。
ポリオレフィンの孔径の比がこの範囲にある場合、電解液の濡れ性や保持性に優れている。ここで、BET法による比表面積測定により得られた孔径dBETは、孔全体の平均値の孔径を意味する。バブルポイント法により得られた孔径dBUBBLEは、孔の中で細くなっている部分の孔径を意味する。すなわち、dBET/dBUBBLEは、混在する孔径の大きい部分と小さい部分との関係を示し、孔径の分布を評価していることになる。
BET/dBUBBLEが3.0を超える場合、孔径が大きい部分と小さい部分との差が大きくなりすぎ、濡れ性が低下する。ポリオレフィンはその物性から、電解液に対する濡れ性に劣る傾向があるために、孔径が大きい部分があると、毛管現象による電解液の吸い上げや圧力に対する電解液の膜中での保持性が低くなる傾向にあり、結果として膜でのイオンの移動が減少し電池特性の低下を来すことになる。また、孔径が小さい部分があると、イオンの移動が妨げられることになり、イオン伝導度が低下し、負荷特性が低下する。また、測定原理からdBET<dBUBBLEになることはないので、dBET/dBUBBLEは1.0以上の値となるが、実際にはdBET=dBUBBLEは困難であり、dBET/dBUBBLEは1.0を超える値となる。
上記の中でも、dBET/dBUBBLEは、電荷液の濡れ性及びその液保持性の観点から、1.1〜2.5の範囲であることが好ましい。
【0019】
ここで、BET法は、粉体粒子の表面に占有面積の分かった分子(通常は窒素ガス)を吸着させ,その量から試料粉体の比表面積を求める方法であり、圧力と吸着量の関係からBET式(Brunauer, Emmet and Teller's equation)に基づいて単分子吸着量を求め、比表面積を算出し、下記式より求められる。試料が細孔を有する場合、細孔内の面積を含めた比表面積が求められる。具体的には、BET法による孔径は、JIS K 8830に準拠した方法で測定される値である。
Ss・Ws=πRs・Ls=πRs・Ls ・・・(i)
Vs=π(Rs/2)・Ls ・・・(ii)
Vs=π(Rs/2)・Ls ・・・(iii)
Vs=ε・(Vs+Vs) ・・・(iv)
Vs=Ws/ds ・・・(v)
ここで、Ss:比表面積[m/g]、Ws:目付[g/m]、ε:空孔率[%]、ds:比重[g/cm]、Vs:フィブリル繊維質の全体積、Vs:全細孔体積、Rs:フィブリルの直径、Rs:孔径、Ls:フィブリル全長、Ls:円柱状孔全長である。
【0020】
また、バブルポイント法は、透過膜をよく濡らすことができる液体(水又はアルコール)をあらかじめ膜の細孔内に吸収させておいた状態で膜の一方の側から空気圧をかけ、他方の側の膜表面に発生する気泡を観察し、気泡が膜面で弾けたときの最小圧力(バブルポイント)を測定し、D[m]=4γcosθ/ΔP〔γ:液体の表面張力[N/m]、θ:膜と液体の接触角[°]、ΔP:バブルポイント[Pa]〕から求める方法である。
【0021】
上記において、dBETは、20〜150nmの範囲とし、好ましくは30〜120nmの範囲とする。dBETが20nm未満であると、十分な大きさの孔径が得られず、イオン伝導度、負荷特性が低下する。また、dBETが150nmを超えると、膜中の電解液の保持性が低下しやすく、良好なイオン伝導性が得られ難い。
【0022】
また上記において、dBUBBLEとしては、7〜140nmの範囲が好ましく、より好ましくは10〜100nmの範囲である。dBUBBLEは、7nm以上であると、イオン伝導性が確保され好ましく、また140nm以下であると、膜中の電解液の保持性が良好となるため有利である。
【0023】
これら孔径を制御する方法に特に限定は無いが、具体的にはポリオレフィン微多孔膜の、ポリオレフィンと可塑剤の比率、延伸条件の制御、アニール条件の制御、原料に用いるポリオレフィンの分子量分布や分岐構造の制御により達成できる。基本的には、均一に延伸できるほど、孔径分布を制御しやすい。そのため、分子量分布が狭く、空孔率が小さく、延伸倍率が高く、アニール温度を下げるほど、孔径分布を制御しやすく、また耐短絡性は向上する。しかし、これら条件もシャットダウン特性や膜抵抗など、他の非水系二次電池用セパレータとして必要な性能とのバランスをとる必要がある。
【0024】
本発明のポリオレフィン微多孔膜の膜厚は、力学強度及びハンドリング性の観点から、5〜25μmであることが好ましい。
本発明のポリオレフィン微多孔膜の空孔率は、透過性、リチウムイオンの移動度、力学強度及びハンドリング性の観点から、30〜60%であることが好ましい。更に好ましくは、40〜60%である。
本発明のポリオレフィン微多孔膜のガーレ値(JIS・P8117)は、機械強度と膜抵抗のバランスの観点から、50〜500sec/100ccであることが好ましい。
本発明のポリオレフィン微多孔膜の膜抵抗は、非水系二次電池の負荷特性の観点から、0.5〜5ohm・cmであることが好ましい。
本発明のポリオレフィン微多孔膜の突刺強度は、耐短絡性及びハンドリング性の観点から、250g以上であることが好ましい。
本発明のポリオレフィン微多孔膜の引張強度は、ハンドリング性の観点から、10N以上であることが好ましい。
本発明のポリオレフィン微多孔膜の105℃における熱収縮率は5〜30%以下であることが好ましい。熱収縮率がこの範囲にあるとき、ポリオレフィン微多孔膜を加工して非水系二次電池用セパレータを得た場合に形状安定性とシャットダウン特性のバランスがとれたものが得られる。
【0025】
(ポリオレフィン微多孔膜の製造法)
以下、本発明で用いられるポリオレフィン微多孔膜の好ましい製造法について述べる。
本発明のポリオレフィン微多孔膜の製造法には、特に制限はないが、具体的には例えば下記(1)〜(6)の工程を経て製造することができる。
【0026】
(1)ポリオレフィン溶液の調製
ポリオレフィンをパラフィン、流動パラフィン、パラフィン油、鉱油、ひまし油、テトラリン、エチレングリコール、グリセリン、デカリン、トルエン、キシレン、ジエチルトリアミン、エチルジアミン、ジメチルスルホキシド、ヘキサン等の溶剤に溶解させた溶液を調製する。このとき、溶剤を混合して溶液を作製しても構わない。ポリオレフィン溶液の濃度は1〜35質量%が好ましく、より好ましくは10〜30質量%である。ポリオレフィン溶液の濃度が1質量%以上であると、冷却ゲル化して得られるゲル状成形物が溶媒で高度に膨潤しないように維持できるため変形しにくく、取扱い性が良好である。一方、ポリオレフィン溶液の濃度が35質量%以下であると、押し出しの際の圧力が抑えられるため吐出量を維持することが可能で生産性に優れる。また、押し出し工程での配向が進みにくく、延伸性や均一性を確保するのに有利である。
(2)ポリオレフィン溶液の押出
調製した溶液を一軸押出機、もしくは二軸押出機で混練し、融点以上かつ融点+60℃以下の温度でTダイもしくはIダイで押し出す。好ましくは二軸押出機を用いる。そして、押し出した溶液をチルロール又は冷却浴に通過させて、ゲル状組成物を形成する。この際、ゲル化温度以下に急冷しゲル化することが好ましい。
(3)ゲル状組成物の乾燥
延伸温度で揮発する溶剤を使用する場合、ゲル状組成物を乾燥する。
(4)ゲル状組成物の延伸
ゲル状組成物を延伸する。ここで、延伸処理の前に弛緩処理を行ってもよい。延伸処理は、ゲル状成形物を加熱し、通常のテンター法、ロール法、圧延法もしくはこれらの方法の組合せによって所定の倍率で2軸延伸する。2軸延伸は、同時又は逐次のどちらであってもよい。また、縦多段延伸や3、4段延伸とすることもできる。
延伸時の加熱温度は、90℃以上、成膜に使用するポリオレフィンの融点未満であることが好ましく、さらに好ましくは100〜120℃である。加熱温度が融点未満である場合は、ゲル状成形物が溶解しにくいために延伸を良好に行える。また、加熱温度が90℃以上の場合は、ゲル状成形物の軟化が十分で延伸において破膜せずに高倍率の延伸が可能である。
また、延伸倍率は、原反の厚さによって異なるが、1軸方向で少なくとも2倍以上、好ましくは4〜20倍で行う。
延伸後、必要に応じて熱固定を行い、熱寸法安定性を持たせる。
(5)溶剤の抽出・除去
延伸後のゲル状組成物を抽出溶剤に浸漬して、溶媒を抽出する。抽出溶剤としてはペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、デカリン、テトラリンなどの炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素、メチレンクロライドなどの塩素化炭化水素、三フッ化エタンなどのフッ化炭化水素、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類など易揮発性のものを用いることができる。これらの溶剤は、ポリオレフィン組成物の溶解に用いた溶媒に応じて適宜選択し、単独もしくは混合して用いることができる。溶媒の抽出は、微多孔膜中の溶媒を1質量%未満に迄除去する。
(6)微多孔膜のアニール
微多孔膜をアニールにより熱セットする。アニールは80〜150℃で実施する。
【0027】
[非水系二次電池用セパレータ]
本発明の非水二次電池用セパレータは、ポリオレフィン微多孔膜と、前記ポリオレフィン微多孔膜の片面又は両面に設けられ、耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層とを備えたことを特徴とする。本発明の非水二次電池用セパレータは、既述の本発明のポリオレフィン微多孔膜を備え、電解液との間の濡れ性及びその保持性が良好になるので、二次電池とした際の電池特性を高めることができる。
【0028】
ポリオレフィン微多孔膜を非水系二次電池用セパレータとして使用する際、温度上昇により微多孔膜の孔が閉塞されて電流が一旦遮断されても、電池温度が微多孔膜を構成するポリオレフィンの融点を超えて、ポリオレフィンの耐熱性の限界を超えると、微多孔膜自体が溶融してシャットダウン機能が失われる場合がある。その結果、電極間の短絡をきっかけとして電池の熱暴走が起こり、非水系二次二次電池を組み込んだ装置の破壊や、発火による事故発生などを招くおそれがある。このため、さらなる安全性確保のために、高温時でもシャットダウン機能を維持できるセパレータが求められている。そこで、ポリオレフィン微多孔膜の表面に全芳香族ポリアミド等の耐熱性ポリマーからなる耐熱性多孔質層を被覆する技術が、特開2005−209570号公報等に提案されている。この構成はいずれも、シャットダウン機能と耐熱性を両立させた点において、電池の安全性という観点から優れた効果が期待できる。
この点に関して、本発明の非水系二次電池用セパレータによれば、基材となるポリオレフィン微多孔膜によりシャットダウン機能が得られると共に、耐熱性多孔質層によりシャットダウン温度以上の温度においても、ポリオレフィンが保持されるため高温時の安全性を確保できる。従って、本発明のセパレータによれば、安全性に優れた非水系二次電池を得ることができる。
【0029】
本発明の非水系二次電池用セパレータは、電池のエネルギー密度の観点から、全体の膜厚が30μm以下であることが好ましい。また、ピンホールによる短絡を防ぎ安全性を確保するために、全体の膜厚の下限値は5μmが望ましい。本発明の非水系二次電池用セパレータの空孔率は、透過性、リチウムイオンの移動度、力学強度及びハンドリング性の観点から、30〜70%であることが好ましい。更に好ましくは、40〜60%である。
本発明の非水系二次電池用セパレータのガーレ値(JIS・P8117)は、機械強度と膜抵抗のバランスの観点から、100〜500sec/100ccであることが好ましい。
本発明の非水系二次電池用セパレータの膜抵抗は、非水系二次電池の負荷特性の観点から、1.5〜10ohm・cmであることが好ましい。
本発明の非水系二次電池用セパレータの突刺強度は、短絡防止効果及びハンドリング性の観点から、250g以上であることが好ましい。
本発明の非水系二次電池用セパレータの引張強度は、ハンドリング性の観点から、10N以上であることが好ましい。
本発明の非水系二次電池用セパレータのシャットダウン温度は130〜155℃であることが好ましい。シャットダウン温度は、抵抗値が10ohm・cmとなった温度をさす。シャットダウン温度が130℃以上の場合、同時にポリオレフィン微多孔膜が完全溶融しにくいため、短絡現象が発生するメルトダウンと呼ばれる現象が低温で発生しにくくなり、安全上好ましい。また、シャットダウン温度が155℃以下である場合、高温時の安全機能が期待できる。好ましくは135〜150℃である。
【0030】
本発明の非水系二次電池用セパレータの105℃における熱収縮率は0.5〜10%であることが好ましい。熱収縮率がこの範囲にあるとき、非水系二次電池用セパレータの形状安定性とシャットダウン特性のバランスがとれたものとなる。熱収縮率は、0.5%以上である場合、電極集電体として銅とアルミを用いた際の銅とアルミの熱膨張による電池の変形を防ぐ点で有利であり、また10%以下の場合、高温時の形状安定性が良好である。熱収縮率は、更に好ましくは0.5〜5%である。
【0031】
本発明において、耐熱性多孔質層とは、微多孔膜状の層を意味する。ここで、微多孔膜状の層とは、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった層のことをいう。
ここでの「耐熱性」とは、200℃未満の温度領域で溶融ないし分解等を起こさない性状をいう。
【0032】
(耐熱性樹脂)
本発明における耐熱性多孔質層に用いられる耐熱性樹脂は、融点200℃以上のポリマーあるいは融点を有しないが分解温度が200℃以上のポリマーが適当であり、好ましくは、全芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン及びポリエーテルイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂である。特に、耐久性の観点から、全芳香族ポリアミドが好適であり、多孔質層を形成しやすく耐酸化還元性に優れるという観点から、メタ型全芳香族ポリアミドであるポリメタフェニレンイソフタルアミドがさらに好適である。
【0033】
本発明において、耐熱性多孔質層は、ポリオレフィン多孔質基材の両面又は片面に形成すればよいが、ハンドリング性、耐久性及び熱収縮の抑制効果の観点から、基材の表裏両面に形成した方が好ましい。耐熱性多孔質層は、ポリオレフィン微多孔膜の膜面の一部に形成されてもよいし、ポリオレフィン微多孔膜の全面を被覆して形成されてもよい。ポリオレフィン微多孔膜の全面が耐熱性多孔質層で被覆されている態様が好ましい。
【0034】
耐熱性多孔質層の厚みについては、耐熱性多孔質層が基材の両面に形成されている場合は、耐熱性多孔質層の厚みの合計が3μm以上12μm以下であることが好ましく、耐熱性多孔質層が基材の片面にのみ形成されている場合は、耐熱性多孔質層の厚みが3μm以上12μm以下であることが好ましい。耐熱性多孔質層の空孔率は、60〜90%の範囲が好適である。
【0035】
(無機フィラー)
本発明における耐熱性多孔質層には、無機フィラーが含まれていることが好ましい。この場合、耐熱性多孔質層中の無機フィラーは、耐熱性樹脂に捕捉された状態で存在している。
本発明における無機フィラーとしては、特に限定はないが、具体的にはアルミナ、チタニア、シリカ、ジルコニアなどの金属酸化物、炭酸カルシウムなどの金属炭酸塩、リン酸カルシウムなどの金属リン酸塩、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物などが好適に用いられる。このような無機フィラーは、不純物の溶出や耐久性の観点から結晶性の高いものが好ましい。
中でも、無機フィラーとしては、200〜400℃において吸熱反応を生じるものであるものが好ましい。このような特性を有する無機フィラーとしては、特に限定されないが、金属水酸化物、硼素塩化合物又は粘土鉱物等からなる無機フィラーであって、200〜400℃において吸熱反応を生じるものが挙げられる。具体的には、例えば、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム、アルミン酸カルシウム、ドーソナイト、硼酸亜鉛等が挙げられる。これらは、単独で若しくは2種以上を組合せて用いることができる。
【0036】
また、これらの難燃性の無機フィラーには、アルミナやジルコニア、シリカ、マグネシア、チタニア等の金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属炭酸塩などの他の無機フィラーを適宜混合して用いることもできる。中でも、他の無機フィラーとしては、水酸化アルミニウム又は水酸化マグネシウムであることが好ましい。ここで、非水系二次電池では、正極の分解に伴う発熱が最も危険と考えられており、この分解は300℃近傍で起こるため、無機フィラーの吸熱反応の発生温度が200℃〜400℃の範囲であれば、非水系二次電池の発熱を防ぐ上で有効である。
【0037】
本発明において、無機フィラーの平均粒子径は、高温時の耐短絡性や塗膜強度、粉落ち等の観点から、0.1〜2μmの範囲が好ましい。
本発明において、耐熱性多孔質層における無機フィラーの含有量は、イオン透過性及びハンドリング性の観点から、50〜95質量%であることが好ましい。
【0038】
(非水系二次電池用セパレータの製造法)
本発明において、非水系二次電池用セパレータの製造法は、上述した構成の本発明のセパレータが製造できれば特に限定されないが、例えば下記(1)〜(5)の工程を経てポリオレフィン微多孔膜上に耐熱性多孔質層を設けることにより製造することが可能である。
【0039】
(1)塗工用スラリーの作製
耐熱性樹脂を溶剤に溶かし、塗工用スラリーを作製する。溶剤は、耐熱性樹脂を溶解するものであればよく、特に限定は無いが、具体的には極性溶剤が好ましく、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。また、当該溶剤はこれらの極性溶剤に加えて耐熱性樹脂に対して貧溶剤となる溶剤も加えることができる。このような貧溶剤を適用することでミクロ相分離構造が誘発され、耐熱性多孔質層を形成する上で多孔化が容易となる。貧溶剤としては、アルコールの類が好適であり、特にグリコールのような多価アルコールが好適である。塗工用スラリー中の耐熱性樹脂の濃度は4〜9質量%が好ましい。また必要に応じ、これに無機フィラーを分散させて塗工用スラリーとする。塗工用スラリー中に無機フィラーを分散させるに当たって、無機フィラーの分散性が好ましくないときは、無機フィラーをシランカップリング剤などで表面処理し、分散性を改善する手法も適用可能である。
(2)スラリーの塗工
スラリーをポリオレフィン多孔質基材の少なくとも一方の表面に塗工する。ポリオレフィン多孔質基材の両面に耐熱性多孔質層を形成する場合は、基材の両面に同時に塗工することが、工程の短縮という観点で好ましい。塗工用スラリーを塗工する方法としては、ナイフコーター法、グラビアコーター法、スクリーン印刷法、マイヤーバー法、ダイコーター法、リバースロールコーター法、インクジェット法、スプレー法、ロールコーター法などが挙げられる。この中でも、塗膜を均一に形成するという観点において、リバースロールコーター法が好適である。基材の両面に同時に塗工する場合は、例えば、基材を一対のマイヤーバーの間に通すことで基材の両面に過剰な塗工用スラリーを塗布し、これを一対のリバースロールコーターの間に通して過剰なスラリーを掻き落すことで精密計量するという方法が挙げられる。
(3)スラリーの凝固
スラリーが塗工された基材を、前記耐熱性樹脂を凝固させることが可能な凝固液で処理する。これにより、耐熱性樹脂を凝固させて、耐熱性樹脂からなる耐熱性多孔質層あるいは、耐熱性樹脂に無機フィラーが結着された耐熱性多孔質層を形成する。凝固液で処理する方法としては、塗工用スラリーを塗工した基材に対して凝固液をスプレーで吹き付ける方法や、当該基材を凝固液の入った浴(凝固浴)中に浸漬する方法などが挙げられる。ここで、凝固浴を設置する場合は、塗工装置の下方に設置することが好ましい。凝固液としては、当該耐熱性樹脂を凝固できるものであれば特に限定されないが、水、又は、スラリーに用いた溶剤に水を適当量混合させたものが好ましい。ここで、水の混合量は凝固液に対して40〜80質量%が好適である。水の量が40質量%以上であると、耐熱性樹脂を凝固するのに必要な時間がより短く抑えられ、凝固が良好に行える。また、水の量が80質量%以下であると、溶剤回収においてコストが低く抑えられると共に、凝固液と接触する表面の凝固が速くなりすぎない程度に行え、表面をより良好に多孔化することができる。
(4)凝固液の除去
凝固液を水洗することによって除去する。
(5)乾燥
シートから水を乾燥して除去する。乾燥方法は特に限定は無いが、乾燥温度は50〜80℃が好適であり、高い乾燥温度を適用する場合は熱収縮による寸法変化が起こらないようにするためにロールに接触させるような方法を適用することが好ましい。
【0040】
[非水系二次電池]
本発明の非水系二次電池は、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池であって、正極及び負極の間に配置されるセパレータとして、上述した構成のポリオレフィン微多孔膜又は非水系二次電池用セパレータを備えたことを特徴とする。非水系二次電池は、負極と正極とがセパレータを介して対向配置されている電池要素に電解液が含浸され、これが外装に封入された構造となっている。
【0041】
負極は、負極活物質、導電助剤及びバインダーからなる負極合剤が、集電体上に成形された構造となっている。負極活物質としては、リチウムを電気化学的にドープすることが可能な材料が挙げられ、例えば炭素材料、シリコン、アルミニウム、スズ、ウッド合金などが挙げられる。導電助剤は、アセチレンブラック、ケッチェンブラックといった炭素材料が挙げられる。バインダーは有機高分子からなり、例えばポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。集電体には銅箔、ステンレス箔、ニッケル箔などを用いることが可能である。
【0042】
正極は、正極活物質、導電助剤及びバインダーからなる正極合剤が、集電体上に成形された構造となっている。正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物等が挙げられ、具体的にはLiCoO、LiNiO、LiMn0.5Ni0.5、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiMn、LiFePO等が挙げられる。導電助剤はアセチレンブラック、ケッチェンブラックといった炭素材料が挙げられる。バインダーは有機高分子からなり、例えばポリフッ化ビニリデンなどが挙げられる。集電体にはアルミ箔、ステンレス箔、チタン箔などを用いることが可能である。
【0043】
電解液は、リチウム塩を非水系溶媒に溶解した構成である。リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiClOなどが挙げられる。非水系溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、ビニレンカーボネートなどが挙げられ、これらは単独で用いても混合して用いてもよい。
【0044】
外装材は、金属缶又はアルミラミネートパック等が挙げられる。電池の形状は角型、円筒型、コイン型などがあるが、本発明のセパレータはいずれの形状においても好適に適用することが可能である。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0046】
[測定方法]
本実施例における各値は、以下の方法に従って求めた。
(1)膜厚
ポリオレフィン微多孔膜及び非水系二次電池用セパレータの膜厚を、接触式の膜厚計(ミツトヨ社製)にて20点測定し、これを平均することにより求めた。ここで、接触端子は、底面が直径0.5cmの円柱状のものを用いた。
(2)目付
ポリオレフィン微多孔膜及び非水系二次電池用セパレータの目付は、サンプルを10cm×10cmに切り出して質量を測定し、この質量を面積で割ることで1m当たりの質量である目付を求めた。
(3)空孔率
ポリオレフィン微多孔膜及び非水系二次電池用セパレータの空孔率は、下記式から求めた。
ε={1−Ws/(ds・t)}×100
ここで、ε:空隙率[%]、Ws:目付[g/m]、ds:真密度[g/cm]、t:膜厚[μm]である。
(4)BET法による比表面積測定と孔径
ポリオレフィン微多孔膜のBET比表面積は、JIS K 8830に準じて測定を行った。具体的には、NOVA−1200(ユアサアイオニクス社製)を用い、窒素ガス吸着法より解析し求めた。測定の際のサンプル重量は0.1〜0.15gとした。解析は3点法にて実施し、BETプロットから比表面積Ss[m/g]を求めた。
また、孔径は、フィブリル繊維質の全体積をVs、全細孔体積をVsとし、フィブリルの直径をRs、孔径をRsとし、フィブリル全長をLs、円柱状孔全長をLsとすると、下記式(i)〜(v)が成り立つ。
Ss・Ws=πRs・Ls=πRs・Ls ・・・(i)
Vs=π(Rs/2)・Ls ・・・(ii)
Vs=π(Rs/2)・Ls ・・・(iii)
Vs=ε・(Vs+Vs) ・・・(iv)
Vs=Ws/ds ・・・(v)
ここで、Ss:比表面積[m/g]、Ws:目付[g/m]、ε:空孔率[%]、ds:比重[g/cm]である。
上記(i)〜(v)の式から、Rs(dBET)[nm]を求めることができる。
【0047】
(5)バブルポイント法による孔径
ポリオレフィン微多孔膜のバブルポイントは、ASTM−E−128−61に従って測定を行った。得られた結果から、下記式に従いバブルポイント法による孔径Dを得た。
D[m]=4γcosθ/ΔP
ここで、γ:液体の表面張力[N/m]、θ:膜と液体の接触角[°]、ΔP:バブルポイント[Pa]である。
(6)ガーレ値
ポリオレフィン微多孔膜及び非水系二次電池用セパレータのガーレ値は、JIS P8117に従って求めた。
(7)膜抵抗
ポリオレフィン微多孔膜及び非水系二次電池用セパレータの膜抵抗は、以下の方法で求めた。
サンプルを2.6cm×2.0cmのサイズに切り出す。非イオン性界面活性剤(花王社製のエマルゲン210P)3質量%を溶解したメタノール溶液(メタノール:和光純薬工業社製)に切り出したサンプルを浸漬し、風乾する。厚さ20μmのアルミ箔を2.0cm×1.4cmに切り出し、リードタブを付ける。このアルミ箔を2枚用意して、アルミ箔間に切り出したサンプルをアルミ箔が短絡しないように挟む。サンプルに電解液である1MのLiBFプロピレンカーボネート/エチレンカーボネート(1/1質量比)(キシダ化学社製)を含浸させる。これをアルミラミネートパック中にタブがアルミパックの外に出るようにして減圧封入する。このようなセルをアルミ箔中にセパレータが1枚、2枚、3枚となるようにそれぞれ作製する。該セルを20℃の恒温槽中に入れ、交流インピーダンス法で振幅10mV、周波数100kHzにて該セルの抵抗を測定する。測定されたセルの抵抗値をセパレータの枚数に対してプロットし、このプロットを線形近似し、傾きを求める。この傾きに電極面積である2.0cm×1.4cmを乗じてセパレータ1枚当たりの膜抵抗[ohm・cm]を求めた。
(8)突刺強度
ポリオレフィン微多孔膜及び非水系二次電池用セパレータの突刺強度は、KES−G5ハンディー圧縮試験器(カトーテック社製)を用いて、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secの条件で突刺試験を行い、最大突刺荷重を突刺強度とした。ここでサンプルはφ11.3mmの穴があいた金枠(試料ホルダー)にシリコーンゴム製のパッキンも一緒に挟み固定した。
(9)引張強度
ポリオレフィン微多孔膜及び非水系二次電池用セパレータの引張強度は、10×100mmに調整したサンプルを、引張試験機(A&D社製、RTC−1225A)を用い、ロードセル荷重5kgf、チャック間距離50mmの条件で測定した。
【0048】
(10)シャットダウン温度
ポリオレフィン微多孔膜及び非水系二次電池用セパレータのシャットダウン温度(SD温度)は、以下の方法で求めた。
サンプルをφ19mmに打ち抜き、非イオン性界面活性剤(花王社製エマルゲン210P)を3質量%溶解したメタノール溶液(メタノール:和光純薬工業社製)に切り出したサンプルを浸漬し、風乾した。サンプルをφ15.5mmのSUS板に挟んだ。サンプルに電解液である1MのLiBFプロピレンカーボネート/エチレンカーボネート(1/1質量比)(キシダ化学社製)を含浸させた。これを2032型コインセルに封入した。コインセルからリード線をとり、熱電対を付けてオーブンの中に入れた。昇温速度1.6℃/分で昇温させ、同時に交流インピーダンス法で振幅10mV、周波数100kHzにて該セルの抵抗を測定した。抵抗値が10ohm・cm以上となった温度をシャットダウン温度とした。
(11)熱収縮率
ポリオレフィン微多孔膜及び非水系二次電池用セパレータの熱収縮率は、サンプルを105℃で1時間加熱することによって測定した。なお、測定方向は、機械方向である。
(12)放電性
非水系二次電池の放電性評価を、以下の方法で実施した。
1.6mA、4.2Vで8時間定電流・定電圧充電、1.6mA、2.75Vで定電流放電の充放電サイクルを10サイクル実施し、10サイクル目に得られた放電容量をこの電池の放電容量とした。次に、1.6mA、4.2Vで8時間定電流・定電圧充電、16mA、2.75Vで定電流放電を行った。このとき得られた容量を10サイクル目の電池の放電容量で割り、得られた数値を負荷特性の指標とした。
(13)サイクル特性
非水系二次電池のサイクル特性を、以下の方法で実施した。
上記(12)に記載の放電性評価の後、1.6mA、4.2Vで8時間定電流・定電圧充電、1.6mA、2.75Vで定電流放電の充放電サイクルを100サイクル実施し、100サイクル目に得られた放電容量を、上記(12)で得られた10サイクル目の放電容量で除算し、得られた数値をサイクル特性値とした。
【0049】
(14)濡れ性
ポリオレフィン微多孔膜の濡れ性は、微多孔膜と電解液との接触角[°]を測定し、その測定値を指標として評価した。接触角は、協和界面科学株式会社製の接触角測定器CA−Aを使用した。このとき、電解液は、プロピレンカーボネート/エチレンカーボネート(1/1;質量比)の1MのLiBF溶液(キシダ化学社製)を用い、液量は2μmとした。
【0050】
(15)電解液の保持性
ポリオレフィン微多孔膜における電解液の保持性は、以下の方法に従って測定した。
微多孔膜を10cm角に10枚切り出して重量を測定し、W1とした。これを十分な量の電解液(プロピレンカーボネート/エチレンカーボネート(1/1;質量比)の1MのLiBF溶液(キシダ化学社製))に1時間以上浸漬した後、10枚を重ね、SUS板間に挟んで0.1kg/cmの圧力をかけて10分間放置した。放置後、微多孔膜を取り出し、微多孔膜表面の電解液を拭き取り、重量を測定しこれをW2とした。そして、電解液保持性を次式により求めた。
電解液保持性=(W2−W1)/W1×100
【0051】
[実施例1]
ポリエチレンパウダーとして、Ticona社製のGUR2126(重量平均分子量415万、融点141℃)とGURX143(重量平均分子量56万、融点135℃)を用いた。GUR2126とGURX143とを2:8(質量比)となるようにして、ポリエチレン濃度が30質量%となるように流動パラフィン(松村石油研究所社製のスモイルP−350:沸点480℃)とデカリン(和光純薬工業社製、沸点193℃)の混合溶媒中に溶解させ、ポリエチレン溶液を作製した。該ポリエチレン溶液の組成は、ポリエチレン:流動パラフィン:デカリン=30:67.5:2.5(質量比)である。
【0052】
このポリエチレン溶液を148℃でダイから押し出し、水浴中で冷却してゲル状テープ(ベーステープ)を作製した。該ベーステープを60℃で8分、95℃で15分乾燥し、該ベーステープを縦延伸、横延伸を逐次行う2軸延伸にて延伸した。ここで、縦延伸は延伸倍率6倍、延伸温度90℃とし、横延伸は延伸倍率9倍、延伸温度を105℃とした。横延伸の後に130℃で熱固定を行った。次に、これを塩化メチレン浴に浸漬し、流動パラフィンとデカリンを抽出した。その後、50℃で乾燥し、120℃でアニール処理することで、ポリオレフィン微多孔膜を得た。得られたポリオレフィン微多孔膜は、フィブリル状ポリオレフィンが網目状に交絡し、細孔を構成する構造を有するものであった。
得られたポリオレフィン微多孔膜の特性(膜厚、目付、ガーレ値、空孔率、膜抵抗、突刺強度、引張強度、シャットダウン(SD)温度、熱収縮率、孔径、濡れ性、保持性)を前記方法で測定し、その測定結果を下記の表1及び表2に示す。
【0053】
[実施例2]
ポリオレフィン溶液の組成をポリエチレン:流動パラフィン:デカリン=30:60:10とすることにより、dBET/dBUBBLEを2.9としたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリオレフィン微多孔膜を得た。
得られたポリオレフィン微多孔膜の特性(膜厚、目付、ガーレ値、空孔率、膜抵抗、突刺強度、引張強度、シャットダウン温度、熱収縮率、孔径、濡れ性、保持性)を前記方法で測定し、その測定結果を下記表1及び表2に示す。
【0054】
[実施例3]
ポリオレフィン溶液の組成をポリエチレン:流動パラフィン:デカリン=30:65:5とすることにより、dBET/dBUBBLEを2.5としたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリオレフィン微多孔膜を得た。
得られたポリオレフィン微多孔膜の特性(膜厚、目付、ガーレ値、空孔率、膜抵抗、突刺強度、引張強度、シャットダウン温度、熱収縮率、孔径、濡れ性、保持性)を前記方法で測定し、その測定結果を下記表1及び表2に示す。
【0055】
[実施例4]
実施例1で得られたポリオレフィン微多孔膜を用い、この両面に耐熱性樹脂からなる耐熱性多孔質層を積層させて、本発明の非水系二次電池用セパレータを製造した。
具体的には、耐熱性樹脂として、ポリメタフェニレンイソフタルアミド(帝人テクノプロダクツ社製、コーネックス)を用いた。この耐熱性樹脂を、ジメチルアセトアミド(DMAc)とトリプロピレングリコール(TPG)が質量比で50:50となっている混合溶媒に溶解させて、塗工用スラリー(塗工液)を作製した。なお、塗工用スラリーにおけるポリメタフェニレンイソフタルアミドの濃度は5.5質量%となるように調整した。
【0056】
そして、マイヤーバーを2本対峙させ、その間に塗工液を適量のせた。その後、ポリオレフィン微多孔膜を、塗工液がのっているマイヤーバー間を通過させて、ポリオレフィン微多孔膜の表裏面に塗工液を塗工した。ここで、マイヤーバー間のクリアランスは20μmに設定し、マイヤーバーの番手は2本とも#6を用いた。これを質量比で水:DMAc:TPG=50:25:25で40℃となっている凝固液中に浸漬し、次いで水洗・乾燥を行った。これにより、ポリオレフィン微多孔膜の表裏両面に耐熱性多孔質層が形成された非水系二次電池用セパレータを得た。
得られた非水系二次電池用セパレータの特性(膜厚、目付、ガーレ値、空孔率、膜抵抗、突刺強度、引張強度、シャットダウン温度、熱収縮率)を前記方法で測定し、その測定結果を下記表3に示す。
【0057】
[実施例5]
実施例1で得られたポリオレフィン微多孔膜を用い、これに耐熱性樹脂と無機フィラーからなる耐熱性多孔質層を積層させて、本発明の非水系二次電池用セパレータを製造した。具体的には、以下の通りである。
すなわち、耐熱性樹脂として、ポリメタフェニレンイソフタルアミド(帝人テクノプロダクツ社製、コーネックス)を用いた。この耐熱性樹脂を、ジメチルアセトアミド(DMAc)とトリプロピレングリコール(TPG)が質量比50:50となっている混合溶媒に溶解させた。このポリマー溶液に、無機フィラーとしてのα−アルミナ(岩谷化学工業社製、SA−1、平均粒子径0.8μm)を分散させて、塗工用スラリー(塗工液)を作製した。なお、塗工用スラリーにおけるポリメタフェニレンイソフタルアミドの濃度は5.5質量%となるようにし、かつ、ポリメタフェニレンイソフタルアミドと無機フィラーの質量比は25:75となるように調整した。
【0058】
そして、マイヤーバーを2本対峙させ、その間に塗工液を適量のせた。この後、ポリオレフィン微多孔膜を、塗工液がのっているマイヤーバー間を通過させて、ポリオレフィン微多孔膜の表裏面に塗工液を塗工した。ここで、マイヤーバー間のクリアランスは20μmに設定し、マイヤーバーの番手は2本とも#6を用いた。これを質量比で水:DMAc:TPG=50:25:25で40℃となっている凝固液中に浸漬し、次いで水洗・乾燥を行った。これにより、ポリオレフィン微多孔膜の表裏両面に耐熱性多孔質層が形成された非水系二次電池用セパレータを得た。
得られた非水系二次電池用セパレータの特性(膜厚、目付、ガーレ値、空孔率、膜抵抗、突刺強度、引張強度、シャットダウン温度、熱収縮率)を前記方法で測定し、その測定結果を下記表3に示す。
【0059】
[実施例6]
無機フィラーとしてα−アルミナに代えて水酸化マグネシウム(協和化学工業社製、キスマ−5P、平均粒子径1.0μm)を使用したこと以外は、実施例5と同様にして、非水系二次電池用セパレータを得た。
得られた非水系二次電池用セパレータの特性(膜厚、目付、ガーレ値、空孔率、膜抵抗、突刺強度、引張強度、シャットダウン温度、熱収縮率)を前記方法で測定し、その測定結果を下記表3に示す。
【0060】
[実施例7]
コバルト酸リチウム(LiCoO:日本化学工業社製)89.5質量部、アセチレンブラック(電気化学工業社製、デンカブラック)4.5質量部、ポリフッ化ビニリデン(クレハ化学社製)6質量部となるように、N−メチル−ピロリドンを用いてこれらを混練し、スラリーを作製した。得られたスラリーを厚さが20μmのアルミ箔上に塗布乾燥後プレスし、100μmの正極を得た。
メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB:大阪瓦斯化学社製)87質量部、アセチレンブラック(電気化学工業社製、商品名:デンカブラック)3質量部、ポリフッ化ビニリデン(クレハ化学社製)10質量部となるようにN−メチル−2ピロリドンを用いてこれらを混練し、スラリーを作製した。得られたスラリーを厚さが18μmの銅箔上に塗布乾燥後プレスし、90μmの負極を得た。
【0061】
上記で得られた正極及び負極を、実施例1で作製したポリオレフィン微多孔膜を非水系二次電池用セパレータとして対向配置させた。これに電解液を含浸させ、アルミラミネートフィルムからなる外装内に封入して非水系二次電池を作製した。ここで、電解液には、1M LiPF エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート(=3/7[質量比])(キシダ化学社製)を用いた。
この試作電池は、正極面積が2×1.4cm、負極面積は2.2×1.6cmであり、設定容量は8mAh(4.2V−2.75Vの範囲)である。
得られた非水系二次電池の特性(放電容量、負荷特性、サイクル特性)を前記方法で測定し、その測定結果を下記表4に示す。
【0062】
[実施例8]
非水系二次電池用セパレータとして実施例4で得られたものを使用したこと以外は、実施例7と同様にして、非水系二次電池を得た。
得られた非水系二次電池の特性(放電容量、負荷特性、サイクル特性)を前記方法で測定し、その測定結果を下記表4に示す。
【0063】
[実施例9]
非水系二次電池用セパレータとして実施例5で得られたものを使用したこと以外は、実施例7と同様にして、非水系二次電池を得た。
得られた非水系二次電池の特性(放電容量、負荷特性、サイクル特性)を前記方法で測定し、その測定結果を下記表4に示す。
【0064】
[実施例10]
非水系二次電池用セパレータとして実施例6で得られたものを使用したこと以外は、実施例7と同様にして、非水系二次電池を得た。
得られた非水系二次電池の特性(放電容量、負荷特性、サイクル特性)を前記方法で測定し、その測定結果を下記表4に示す。
【0065】
[比較例1]
ポリオレフィン溶液の組成をポリエチレン:流動パラフィン:デカリン=20:60:20とし、延伸倍率を縦延伸4倍、横延伸7倍としたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリオレフィン微多孔膜を得た。
得られたポリオレフィン微多孔膜の特性(膜厚、目付、ガーレ値、空孔率、膜抵抗、突刺強度、引張強度、シャットダウン温度、熱収縮率、孔径、濡れ性、保持性)を前記方法で測定し、その測定結果を下記表1及び表2に示す。
【0066】
[比較例2]
ポリオレフィン微多孔膜として比較例1で得られたものを使用したこと以外は、実施例6と同様にして、非水系二次電池用セパレータを得た。
得られた非水系二次電池用セパレータの特性(膜厚、目付、ガーレ値、空孔率、膜抵抗、突刺強度、引張強度、シャットダウン温度、熱収縮率)を前記方法で測定し、その測定結果を下記表3に示す。
【0067】
[比較例3]
非水系二次電池用セパレータとして比較例2で得られたものを使用したこと以外は、実施例7と同様にして、非水系二次電池を得た。
得られた非水系二次電池の特性(放電容量、負荷特性、サイクル特性)を前記方法で測定し、その測定結果を下記表4に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【0071】
【表4】

【0072】
前記表1〜表2に示すように、dBET/dBUBBLEが所定の範囲である実施例では、電解液に対する濡れ性に優れ、膜中における電解液の保持性に優れていた。これに対し、比較例1では、濡れ性及び保持性ともに劣っていた。
また、前記表3〜表4に示すように、実施例は、比較例に比べ、良好な電池特性を示した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET法による比表面積測定により得られた孔径をdBET、バブルポイント法により得られた孔径をdBUBBLEとしたとき、前記孔径dBETが20〜150nmの範囲であって、dBET/dBUBBLEが下記式(1)を満たすポリオレフィン微多孔膜。
1.0<dBET/dBUBBLE≦3.0 ・・・(1)
【請求項2】
請求項1に記載のポリオレフィン微多孔膜と、前記ポリオレフィン微多孔膜の片面又は両面に設けられ、耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層とを備えた非水系二次電池用セパレータ。
【請求項3】
リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池であって、正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置されるセパレータとして、請求項1に記載のポリオレフィン微多孔膜、又は請求項2に記載の非水系二次電池用セパレータとを備えた非水系二次電池。

【公開番号】特開2012−48987(P2012−48987A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190072(P2010−190072)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】