説明

ポリオレフィン微多孔膜

【課題】薄膜で引張強度に優れたポリオレフィン微多孔膜ならびに薄膜で引張強度に優れたポリオレフィン微多孔膜の製造方法を提供する。
【解決手段】JIS K7127に準拠したMD方向の引張強度が1000kg/cm2以上であることを特徴とするポリオレフィン微多孔膜を提供する。このポリオレフィン微多孔膜は、好ましくは空隙率が30〜50%であり、また好ましくは膜厚が4〜200μmである。また、数平均分子量(Mn)が80000以上で、重量平均分子量(Mw)が100000〜800000で、Mw/Mnが6.5以下で、且つMFRが2g/10min以下であるポリオレフィンポリマーを溶融押出しし、得られたフィルムに熱処理を施し、次いで延伸処理を施して多孔化することを特徴とするポリオレフィン微多孔膜の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン微多孔膜ならびにポリオレフィン微多孔膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電池やコンデンサー用セパレータとしてポリオレフィン微多孔膜が利用されている。特許文献1には、非−多孔性、結晶性、弾性フィルムを所定の温度で冷間引伸ばしをしかつ冷間引伸ばしたフィルムを多数の別々の引伸ばし工程において所定の温度で連続して熱間引伸ばしをすることを特徴とする開放セルをもつ微多孔性重合体フィルムの製法が記載されている。特許文献1では、この製法により、高温環境に暴露した場合ガス流量の変化に対し非常によい安定性を有し、不透明性が改良されたフィルムが得られると記載されている。
【0003】
特許文献2には、孔のない結晶性弾性重合体フィルムを一方向に冷間引延ばしをした後、同じ方向に熱間引延ばしを行い、その後、引延ばしたフィルムを加熱弛緩させることにより、微孔性フィルムを得る製造方法が記載されている。特許文献2では、この製法により、寸法安定性の改良された微孔性フィルムが得られると記載されている。実施例では、原料として数平均分子量50000、重量平均分子量580000、MFR0.5〜0.6のポリプロピレンを使用し、溶融混練及び押出成型にてシート化、熱処理での結晶化を行った後、冷間及び熱間延伸にて多孔化させ、その後、加熱弛緩することで応力を除去して作製されたフィルムが記載されている。
【0004】
特許文献3には、ポリマーを非多孔質前駆体に押出す工程、及びこの非多孔質前駆体を2軸延伸する工程を含み、2軸延伸する工程は、縦方向の延伸および横方向の延伸を含み、横方向の延伸は同時に制御される縦方向の緩和を含むことを特徴とする微細多孔膜の製造方法が記載されている。特許文献3では、この製法により、横方向の引張強度を増大させ、TD(横方向)/MD(縦方向)引張強度の比0.5〜5.0を有する膜が得られると記載されている。しかしながら、上記の膜の引張強度はいずれも十分ではなく、電池セパレータとして使用時に短絡が発生しやすいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭57−47017号公報
【特許文献2】特公昭59−36575号公報
【特許文献3】特表2009−527633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、薄膜で引張強度に優れたポリオレフィン微多孔膜を提供することにある。
本発明の他の目的は、薄膜で引張強度に優れたポリオレフィン微多孔膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、JIS K7127に準拠したMD方向の引張強度が1000kg/cm2以上であることを特徴とするポリオレフィン微多孔膜を提供する。
好ましくは、本発明のポリオレフィン微多孔膜は、空隙率が30〜50%である。
また、好ましくは、本発明のポリオレフィン微多孔膜は、膜厚が4〜200μmである。
【0008】
また、本発明は、数平均分子量(Mn)が80000以上で、重量平均分子量(Mw)が100000〜800000で、Mw/Mnが6.5以下で、且つMFRが2g/10min以下であるポリオレフィンポリマーを溶融押出しし、得られたフィルムに熱処理を施し、次いで延伸処理を施して多孔化することを特徴とするポリオレフィン微多孔膜の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、薄膜で引張強度に優れたポリオレフィン微多孔膜(フィルム)が提供される。引張強度がアップしたこのフィルムを用いれば、電池作製時や使用時における短絡の少ない電池用セパレータを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[ポリオレフィン微多孔膜]
本発明のポリオレフィン微多孔膜は、JIS K7127に準拠したMD方向の引張強度が1000kg/cm2以上であることを特徴とする。ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、これらのコポリマー及びこれらの混合物または共重合体等が挙げられる。本発明のポリオレフィン微多孔膜は、単層で上記引張強度を有しているが、多層構造であってもよい。本発明のポリオレフィン微多孔膜としては、特に、ポリプロピレン単層膜が挙げられる。
【0011】
(引張強度)
本発明のポリオレフィン微多孔膜の引張強度は、JIS K7127に準拠し、引張試験機(エー・アンド・デイ社製RTF−1350)を用いて、MD及びTDサンプル(形状;幅15mm×長さ120mm)について、測定温度25±2℃、チャック間100mm、引張速度300mm/minで測定した値である。なお、MD方向とは、膜作成時に押出機によりフィルムが押し出された流れ方向を指し、TD方向とは、MD方向と直交する方向を指す。
【0012】
JIS K7127に準拠したMD方向の引張強度は、1000kg/cm2以上、例えば1000〜2000kg/cm2である。JIS K7127に準拠したTD方向の引張強度は高いほど好ましいが、例えば50〜1000kg/cm2、好ましくは100〜500kg/cm2、さらに好ましくは100〜300kg/cm2である。
【0013】
(空隙率)
本発明のポリオレフィン微多孔膜は、薄膜でありながら高い引張強度を有し、且つ高い空隙率を有している。空隙率は下記式より求められる。
空隙率(%)=(1−延伸後密度/延伸前密度)× 100
本発明のポリオレフィン微多孔膜の空隙率は、好ましくは30〜50%、より好ましくは35〜45%である。
【0014】
(膜厚)
本発明のポリオレフィン微多孔膜の膜厚は、好ましくは4〜200μm、より好ましくは4〜50μm、さらに好ましくは4〜20μm、特に好ましくは4〜14μmとすることができる。本発明のポリオレフィン微多孔膜は、薄膜でありながら、MD方向の引張強度が高いという特徴を有している。
【0015】
(孔径)
本発明のポリオレフィン微多孔膜の孔径は、好ましくは、長径が0.03〜0.30μm、短径が0.01〜0.30μmである。
【0016】
(数平均分子量、重量平均分子量、Mw/Mn)
本発明のポリオレフィン微多孔膜の数平均分子量(Mn)は例えば80000以上(例えば80000〜800000)、重量平均分子量(Mw)は100000〜800000程度、Mw/Mnは例えば6.5以下(例えば2〜6.5)とすることができる。ポリオレフィンの数平均分子量、重量平均分子量、Mw/Mnをこのような値とすることにより、薄膜でありながら引張強度により優れたポリオレフィン微多孔膜を得ることができる。さらに、重量平均分子量(Mw)が500000〜800000で、且つMw/Mnが6以下(例えば2〜6)であることが特に好ましい。
【0017】
[ポリオレフィン微多孔膜の製造方法]
本発明のポリオレフィン微多孔膜の製造方法は、数平均分子量(Mn)が80000以上で、重量平均分子量(Mw)が100000〜800000で、Mw/Mnが6.5以下で、且つMFRが2g/10min以下であるポリオレフィンポリマーを溶融押出しし、得られたフィルムに熱処理を施し、次いで延伸処理を施して多孔化することを特徴とする。本発明のポリオレフィン微多孔膜の製造は溶融押出法で行われ、T型ダイスから押出してフラットなフィルムを成形するTダイ法、及びリング状の円形ダイからプラスチックを押出すと同時に圧搾空気を吹き込み、チューブ状のフィルムを作るインフレーション法のどちらも好適に使用できる。本発明のポリオレフィン微多孔膜の製造方法では、Tダイ法が好ましく使用できる。
【0018】
本発明のポリオレフィン微多孔膜の製造方法は、好ましくは、(1)ポリオレフィンポリマーを押出機によって溶融混練する工程、(2)溶融混練されたポリオレフィンポリマーを押出機によってフィルム状に押し出し、押し出された吐出ポリオレフィンフィルムを巻き取る工程、(3)吐出ポリオレフィンフィルムを熱処理する工程、(4)熱処理したポリオレフィンフィルムを縦方向(MD方向)に冷間延伸する工程、(5)冷間延伸したポリオレフィンフィルムを縦方向(MD方向)に熱間延伸する工程、及び(6)緩和工程を含んでいる。押出機としては、一軸押出機または多軸押出機が使用できる。
【0019】
<ポリオレフィンポリマー>
本発明のポリオレフィン微多孔膜の製造方法では、数平均分子量(Mn)が80000以上(例えば80000〜800000)で、重量平均分子量(Mw)が100000〜800000で、Mw/Mn(分散)が6.5以下(例えば2〜6.5)で、且つMFR(メルトフローレート)が2g/10min以下であるポリオレフィンポリマーを原料として使用する。ここでMFRは、10分当たりグラム単位の溶解流量で、JIS K7210に準拠した測定方法で、測定温度230(℃)、公称荷重2.16(kg)において求められた値である。ポリオレフィンポリマーの数平均分子量、重量平均分子量、分散、及びMFRがこのような範囲にあることにより、薄膜でも引張強度の大きいポリオレフィン微多孔膜が得られる。中でも、重量平均分子量(Mw)が500000〜800000で、且つMw/Mnが6以下(例えば2〜6)であることが特に好ましく、重量平均分子量と分散がこのような範囲にあることにより、特に、薄膜でも引張強度の大きいポリオレフィン微多孔膜が得られやすい。
【0020】
<(1)溶融混練工程>
本発明のポリオレフィン微多孔膜の製造方法は、好ましくは、(1)ポリオレフィンポリマーを押出機によって溶融混練する工程を有している。溶融混練工程における溶融温度は、例えばポリオレフィンポリマーとしてポリプロピレンを使用した場合には、180〜270℃が好ましく、より好ましくは200〜240℃である。ポリオレフィンポリマーとしてポリエチレンを使用した場合には、175〜225℃が好ましい。インフレーション法における溶融温度は、Tダイ法における溶融温度と同じである。
【0021】
<(2)押出工程>
本発明のポリオレフィン微多孔膜の製造方法は、好ましくは、(2)溶融混練されたポリオレフィンポリマーを押出機によってフィルム状に押し出し、押し出された吐出ポリオレフィンフィルムを巻き取る工程を含んでいる。本工程において、Tダイの吐出幅は100〜200mm、吐出リップ開度は0.2〜2mmが好ましい。押出温度は、上記溶融温度と同じである。吐出フィルムは、押出後、冷却されることが好ましい。冷却方法としては、冷却ロール法、冷却水槽法が使用できる。本発明のポリオレフィン微多孔膜の製造方法では、冷却ロール法が好ましく使用できる。冷却ロールの温度は、0〜100℃が好ましく、より好ましくは50〜100℃である。引き取り速度は、1〜300m/minが好ましく、より好ましくは1〜100m/min、さらに好ましくは1〜30m/minである。得られた未延伸ポリオレフィンフィルムの膜厚は、好ましくは4〜200μm、より好ましくは4〜100μm、さらに好ましくは4〜50μm、特に好ましくは4〜35μmである。
【0022】
<(3)熱処理工程>
本発明のポリオレフィン微多孔膜の製造方法は、(3)吐出ポリオレフィンフィルムを熱処理する工程を含んでいる。熱処理は、ポリオレフィンフィルムの溶融点より5〜100℃程度低い温度で例えば5秒〜24時間行うことができる。ポリプロピレンを使用した場合の熱処理温度は、好ましくは100〜155℃、より好ましくは140〜150℃であり、処理時間は、好ましくは1分〜1時間、より好ましくは10〜25分である。このような条件で熱処理を行うことにより、未延伸フィルム中の結晶の大きさを増したり、不完全部をなくす等、結晶構造を改良できる。
【0023】
<(4)冷間延伸工程>
本発明のポリオレフィン微多孔膜の製造方法は、好ましくは、(4)熱処理したポリオレフィンフィルムを縦方向(MD方向)に冷間延伸する工程を含んでいる。冷間延伸は、−20℃からポリオレフィンフィルムの結晶溶融点より20℃程度低い温度で行うことができ、ポリプロピレンを使用した場合の延伸温度は、好ましくは0〜120℃、より好ましくは20〜30℃である。延伸倍率は、ポリプロピレンを使用した場合、延伸方向における寸法で未延伸フィルムの初期長さを基準として好ましくは6〜30%、より好ましくは15〜25%である。
【0024】
<(5)熱間延伸工程>
本発明のポリオレフィン微多孔膜の製造方法は、好ましくは、(5)冷間延伸したポリオレフィンフィルムを縦方向(MD方向)に熱間延伸する工程を含んでいる。熱間延伸は、ポリオレフィンフィルムの結晶溶融点より20〜5℃程度低い温度において行うことができ、ポリプロピレンを使用した場合の延伸温度は、好ましくは130〜150℃、より好ましくは140〜150℃である。延伸倍率は、ポリプロピレンを使用した場合、延伸方向における寸法で冷間延伸したフィルムの長さを基準として好ましくは80〜140%、より好ましくは80〜100%である。
【0025】
<(6)緩和工程>
本発明のポリオレフィン微多孔膜の製造方法は、好ましくは、(6)緩和工程を含んでいる。緩和工程では、延伸したフィルムの延伸方向の最長長さが減少するように、ポリオレフィンフィルムの融点より40〜5℃程度低い温度において延伸したフィルムの熱処理を行う。ポリプロピレンを使用した場合の緩和処理温度は、好ましくは130〜150℃、より好ましくは140〜150℃である。緩和倍率は、ポリプロピレンを使用した場合、延伸方向における寸法で熱間延伸したフィルムの長さを基準として好ましくは5〜50%、より好ましくは5〜30%である。
【0026】
本発明のポリオレフィン微多孔膜の製造方法では、上記の引張強度、空隙率、膜厚、孔径、数平均分子量、重量平均分子量、Mw/Mnの特徴を有するポリオレフィン微多孔膜が得られる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【0028】
(1)膜厚測定方法
ポリオレフィン微多孔膜の膜厚はダイヤルゲージ式厚み計(尾崎製作所社製〉にて測定した。
【0029】
(2)引張強度測定方法
JIS K7127に準拠し、引張試験機(エー・アンド・デイ社製RTF−1350)を用いて、MD及びTDサンプル(形状;幅15mm×長さ120mm)について測定した。また、測定は温度25±2℃、チャック間100mm、引張速度300mm/minで測定した。
【0030】
(3)孔径測定方法
走査型電子顕微鏡を用いて観察し、得られたポリオレフィン微多孔膜の長径及び短径を測定した。
【0031】
(4)空隙率測定方法
延伸前の多孔化されていないサンプル、及び延伸後の微多孔膜サンプル100×100mmの密度を求め、下記式より空隙率を求めた。
空隙率(%)=(1−延伸後密度/延伸前密度)× 100
【0032】
実施例1
吐出幅150mm、吐出リップ開度1mmのTダイを使用し、数平均分子量1.2×105、重量平均分子量5.9×105、メルトフローレート(MFR)0.5[g/10min、測定温度230(℃)、公称荷重2.16(kg)]のポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製、EA9)を230℃で一軸押出機を用いて溶融押出した。吐出フィルムは80℃の冷却ロールに導かれ、空冷にて冷却された後、10m/minで引取った。得られた未延伸ポリプロピレンフィルムの膜厚は30μmであった。その後、ポリプロピレンフィルムを145℃に保持された乾燥機中に23分放置し、熱処理を行った後、乾燥機から取り出し室温(20±2℃)まで冷却した。
次にこの熱処理後の未延伸ポリプロピレンフィルムを延伸機にて縦方向(MD方向〉に、室温で20%冷間延伸し、142℃で85%熱間延伸した。その後、142℃で17%緩和することでポリプロピレン微多孔膜を得た。
得られたポリプロピレン微多孔膜は膜厚12μm、MD引張強度1234Kg/cm2、TD引張強度142Kg/cm2であった。また、空隙率は38%であった。長径及び短径の測定結果は表2に示す。
【0033】
実施例2
引取速度を20m/minに設定した以外は実施例1と同様の方法でポリプロピレン微多孔膜を作製した。得られたポリプロピレン微多孔膜は膜厚5μm、MD引張強度1088Kg/cm2、TD引張強度240Kg/cm2であった。また、空隙率は40%であった。長径及び短径の測定結果は表2に示す。
【0034】
比較例1
原料としてポリプロピレン[数平均分子量50000、重量平均分子量580000、MFR0.5{g/10min、測定温度230(℃)、公称荷重2.16(kg)}]を使用した以外は実施例1と同様の方法でポリプロピレン微多孔膜を作製した。得られたポリプロピレン微多孔膜は、膜厚27μm、MD引張強度872Kg/cm2、TD引張強度95Kg/cm2であった。また、空隙率は55%であった。長径及び短径の測定結果は表2に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS K7127に準拠したMD方向の引張強度が1000kg/cm2以上であることを特徴とするポリオレフィン微多孔膜。
【請求項2】
空隙率が30〜50%である、請求項1記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項3】
膜厚が4〜200μmである、請求項1又は2に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項4】
数平均分子量(Mn)が80000以上で、重量平均分子量(Mw)が100000〜800000で、Mw/Mnが6.5以下で、且つMFRが2g/10min以下であるポリオレフィンポリマーを溶融押出しし、得られたフィルムに熱処理を施し、次いで延伸処理を施して多孔化することを特徴とするポリオレフィン微多孔膜の製造方法。