説明

ポリオレフィン系樹脂組成物、それを用いた床材およびその製造方法

【課題】 (1)カレンダロール面との密着性(滑性)、(2)シートの引き取りに耐える強度(カレンダ加工時のシートの機械的強度)、(3)平滑性(引き取りシート表面の仕上性)にすぐれてり、カレンダ加工性のよい新規なポリオレフィン系樹脂組成物、それを用いた床材およびその製造方法の提供。
【解決手段】(A)熱流速示差走査熱量測定(以下、DSCと略称する)において、10℃/分の昇温速度としたときに観察される融解ピークTmが90〜110℃である炭素数4〜8のα−オレフィンとエチレンとの共重合体5〜75重量%〔(A)+(B)+(C)の重量を基準にして〕
(B)DSCにおいて10℃/分の昇温速度としたときに観察される融解ピークTmが120〜140℃であるプロピレン系樹脂5〜75重量%〔(A)+(B)+(C)の重量を基準にして〕および(C)軟化点が90〜150℃である石油樹脂5〜20重量%〔(A)+(B)+(C)の重量を基準にして〕
よりなることを特徴とするポリオレフィン系樹脂組成物、それを用いた床材およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、カレンダ加工性に優れた新規なポリオレフィン系樹脂組成物、それを用いた床材およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来技術】カレンダ加工に適した樹脂は、かなり広い温度領域において弾性があってロールに巻き付く性質をもち、かつ圧延できる塑性とシートの引き取りに耐える強度および表面平滑性を示すことが必要である。このような性質を持つ樹脂としては塩化ビニル系樹脂がその代表格であるが、温度変化に対応して粘度が急激に変化するポリスチレン系樹脂やポリオレフィン系樹脂はカレンダ加工には適さないことが知られている。
【0003】ポリオレフィン系樹脂は、Tダイ押出し成形法やインフレーション法により成形されるのが一般的であるが、これらの方法では、床材を製造するための原料シートのような厚み(一般に0.5〜2.0mm)、幅(一般に1,500〜2,000mm)および表面平滑性(ダイのキズ跡やフィシュアイ等による表面粗れのないもの)が充分満たされる原料シートを得ることは困難であり、これが、床材などの原料樹脂を、焼却のさいダイオキシンを発生する可能性があると疑われている塩化ビニル系樹脂からポリオレフィン系樹脂に転換するうえでの大きなネックになっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は(1)カレンダロール面との密着性(滑性)、(2)シートの引き取りに耐える強度(カレンダ加工時のシートの機械的強度)、(3)平滑性(引き取りシート表面の仕上性)にすぐれており、カレンダ加工性のよい新規なポリオレフィン系樹脂組成物、それを用いた床材およびその製造方法を提供する点にある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意研究を進めた結果、融解ピークTmが異なるα−オレフィンとエチレンとの共重合体とプロピレン系樹脂とを含む複数のTmを有する組成物とすることにより、優れたカレンダ加工性を示す組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】本発明の第一は、(A)熱流速示差走査熱量測定(以下、DSCと略称する)において、10℃/分の昇温速度としたときに観察される融解ピークTmが90〜110℃である炭素数4〜8のα−オレフィンとエチレンとの共重合体5〜75重量%、好ましくは20〜70重量%、特に好ましくは30〜70重量%〔(A)+(B)+(C)の重量を基準にして〕
(B)DSCにおいて10℃/分の昇温速度としたときに観察される融解ピークTmが120〜140℃であるプロピレン系樹脂5〜75重量%、好ましくは20〜70重量%、特に好ましくは20〜50重量%〔(A)+(B)+(C)の重量を基準にして〕および(C)軟化点が90〜150℃である石油樹脂5〜20重量%〔(A)+(B)+(C)の重量を基準にして〕
よりなることを特徴とするポリオレフィン系樹脂組成物に関する。
【0007】本発明の第二は、前記ポリオレフィン系樹脂組成物よりなる床材に関する。
【0008】本発明の第三は、前記ポリオレフィン系樹脂組成物を、カレンダロール温度130〜180℃でカレンダ加工し、得られたシートの複数層を熱ドラム温度100〜150℃で熱ラミネートすることを特徴とする床材の製造方法に関する。
【0009】前記(A)成分である炭素数4〜8のα−オレフィンとエチレンとの共重合体としては、特に制限はないが、α−オレフィン成分としては1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、2−ブテン、2−メチル−ブテン、2−ヘキセン、2−ヘプテン、3−ヘプテン、2−オクテン、3−オクテン、4−オクテンなどがあげられるが、とくにヘキセンおよびオクテンよりなる群から選ばれた少なくとも1種の単量体、とくに1−ヘプテンおよび1−オクテンよりなる群から選ばれた少なくとも1種の単量体であり、かつ前記共重合体のGPCにより測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比が1.2〜4、好ましくは1.5〜2.5の範囲にあり、Mnが10,000〜2,000,000、好ましくは27,000〜50,000であるα−オレフィンとエチレンとの共重合体であることが好ましい。
【0010】前記(B)成分である、DSCにおいて10℃/分の昇温速度としたときに観察される融解ピークTmが120〜140℃の範囲にあるプロピレン系樹脂としては、融解ピークの形状が急峻な山形ではなく、できるだけなだらかな山形を呈するものが好ましい。
【0011】前記プロピレン系樹脂としては、エチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体、エチレン−プロピレングラフト共重合体、エチレン−プロピレン−ブチレンランダム共重合体などの共重合体、プロピレンホモ重合体、あるいはこれらの単量体のホモ重合体の混合物、ホモ重合体と共重合体の混合物を挙げることができるが、これらの重合体類は、前述の融解ピークの形状がゆるやかな山形を呈するものであることが好ましいので、ホモ重合体の場合はとくに分子量分布のなだらかなものを使用する必要がある。これらのなかではとくにエチレン−プロピレンランダム共重合体であることが好ましい。
【0012】本発明は、前記(A)成分に対して、(B)成分を本発明の特定割合で混合することにより、全組成物としてのカレンダ加工可能温度範囲が(A)成分のTm近辺から(B)成分のTm近辺までの非常に広い範囲とすることができるものであり、(C)成分は、(A)成分や(B)成分の非極性を補うための成分である。
【0013】前記(C)成分である石油樹脂は、一般にC4〜C9留分の重合体であるが、C4留分単独重合体やC9留分単独重合体であることもでき、とくにC9留分単独重合体であることが好ましい。そして、石油樹脂の水添率は、積層物の表層に使用する場合は85〜100%、それ以外の層に使用する場合は65〜85%のものが好適であり、かつそのGPCにより測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比が1.2〜2.0、好ましくは1.3〜1.6の範囲にあり、Mnが500〜1,000、好ましくは550〜750である石油樹脂であることが好ましい。
【0014】(A)成分が範囲を越えて増える〔他成分、特に(B)成分が少なくなる〕とコンパウンドのDSC曲線は(A)成分のみのピークとなる。このコンパウンドは融点を越えると極端にメルトテンションン(融解抗張力)が小さくなり、カレンダの引き取りは不可能となる。また、その一方で、(B)成分が増える〔他成分、特に(A)成分が少なくなる〕と融解ピークは(B)成分の特性が顕著になり、その融解温度以下での熱ラミネート(ヒートシール)性が悪くなる。(C)成分が範囲を越えて増えると、成型物の機械的強度が落ち、床としての耐凹み性や引き裂きが劣る。また、逆に指定範囲より少ないと、組成物に必要とする極性を付与することができず、床材を下地に接着するために使用する接着剤との親和性が悪くなり、施工できなくなったり、組成物に必要に応じて添加する充填材との親和性が不充分となり、充填材を多量にいれることができなくなる。
【0015】本発明の床材は、(A)、(B)、(C)の各成分よりなる組成物を混練し、シート状に成形した後、複数枚のラミネートしたシート状ないしはこれをさらに切断したタイル状床材として提供されるものである。積層される床材は、同一組成物を複数枚積層してもよいが、(A)、(B)、(C)の成分割合の異なる組成のものを表層、下層(必要に応じて中間層)として積層してもよい。
【0016】前記異なる組成物の層を併用する場合、表層を下層よりも(C)成分の少ない組成のものとすれば、表層はオレフィン系床材の特性(耐汚染性等)を可成り維持した状態で、かつ下層が接着剤との親和性を大きくすることができ、施工上の問題、耐汚染性の問題も併せて解決できる。表層として好ましい(C)成分の使用量は2〜8重量%であり、これに対し、下層として好ましい(C)成分の使用量は7〜20重量%である。この問題は(C)成分の使用量が表層と下層とで同じとしたままでC9留分樹脂の水添率を変えることでも達成できる。この場合表層用としては、水添率85〜100重量%、下層用は、水添率65〜85重量%のものを使用することが好ましい。
【0017】さらにこれらの層内もしくは層間に無機繊維やオレフィン系樹脂からなる織布、不織布を積層すれば層間の接着性や寸法安定性を向上できるので好ましい。
【0018】さらに本発明の組成物を用いて発泡体とし、これを中間層や下層に積層してもよい。この場合の好ましい発泡倍率は1.2〜20.0倍、好ましくは1.5〜3.0倍である。
【0019】本発明の樹脂組成物には、樹脂組成物に配合する安定剤、充填剤、可塑剤、染顔料、ゲル化剤、粘度調節剤、滑剤、導電剤、難燃剤など各種添加剤を配合することができる。これらの添加剤は、ハロゲン、とくに塩素を含まないものであることが好ましい。これにより本発明品を焼却処分するさいに、ダイオキシン発生の疑惑が生じる余地がなくなるからである。
【0020】
【実施例】以下に実施例、比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0021】
実施例1 エチレン−オクテン共重合体 : 60重量部 (オクテン含有率 14.5重量%)
Mw=73,800、Mn=37,400、 Mw/Mn=1.97、DSC融点Tm=93.3℃ (ダウケミカル社製 商品名PF1140)
エチレン−プロピレン共重合体 : 30重量部 DSC融点Tm=134.0℃ (モンテル社製 商品名KS−353PまたはKS−081P)
水添C9留分石油樹脂 : 10重量部 軟化温度102℃、Mw=900、Mn=600、 Mw/Mn=1.5、 (日本石油化学社製 商品名日石ネオポリマー)
脂肪酸処理炭酸カルシウム :100重量部 (白石カルシウム社製 商品名CCR)
焼成クレイ : 50重量部 (burgess社製 商品名#30)
酸化防止剤、滑剤 : 1重量部 (日産フェロ化学社製 商品名NF−EVA)
よりなるポリオレフィン系樹脂組成物を、カレンダロール温度150℃でカレンダ加工し、得られた厚さ0.5mm、幅2,000mmのシート4枚を熱ドラム温度130℃で熱ラミネートし、厚さ2.0mmの床材シートとした。なお、本実施例のポリオレフィン系樹脂組成物のDSCによるヒートフローと温度の関係を図1に示す。
【0022】
比較例1 PVC(商品名37L) : 20重量部 DOP(可塑剤) : 5重量部 炭酸カルシウム〔商品名#79(270)〕 : 70重量部 安定剤 : 1重量部 顔料 : 1重量部よりなる塩化ビニル系樹脂組成物を、実施例1と同様のカレンダ加工機を用い、カレンダロール温度180℃でカレンダ加工し、得られた厚さ0.5mm、幅2,000mmのシート4枚を熱ドラム温度150℃で熱ラミネートし、厚さ2.0mmの床材シートとした。
【0023】
比較例2 エチレン−酢酸ビニル共重合体(商品名V505) :100重量部 脂肪酸処理炭酸カルシウム :100重量部 (白石カルシウム社製 商品名CCR)
微粒子炭酸カルシウム : 50重量部 (日東粉化社製 商品名NS−100)
滑剤 : 1重量部 顔料 : 1重量部よりなる塩化ビニル系樹脂組成物を、実施例1と同様のカレンダ加工機を用い、カレンダロール温度150℃でカレンダ加工し、得られた厚さ0.5mm、幅2000mmのシート4枚を熱ドラム温度130℃で熱ラミネートし、厚さ2.0mmの床材シートとした。
【0024】実施例1、比較例1および比較例2の各組成物のカレンダ加工特性および各種物性は下記表に示すとおりである。
【0025】
【表1】


(注)◎:優れている ○:よい ×:悪い
【0026】表2中凹み量(mm)、残留凹み率(%)、加熱寸法変化(%)、吸水寸法変化(%)、摩耗性(mm)は、いずれもJIS A 1454による。スティフネスは、テーバースティフネス試験機により測定した。
引張強度(kgf/cm2)は、JIS K 6301(3号ダンベル使用)による。
接着強度(kgf/2.5cm)は、JIS A 5536による。
【0027】
【表2】


【0028】
【発明の効果】1.本発明により、α−オレフィンとエチレンとの共重合体、ポリプロピレン、水添C9留分石油樹脂よりなるポリオレフィン組成物は、複数の融点Tmを有するためカレンダ加工性に優れかつ柔軟性、接着性を有した組成物となり、特に床材の分野では塩化ビニル製品に代わる成形品を与えることが分かった。従って本発明で得られるポリオレフィン系樹脂組成物は、従来技術では達成されなかったカレンダ加工用樹脂組成物として、広く利用することができる。
2.本発明により、焼却のさいダイオキシン発生の疑いをもたれている塩化ビニル系樹脂に代えて、ポリオレフィン系樹脂の使用を可能とすることができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1のポリオレフィン系樹脂組成物のDSCによるヒートフローと温度の関係を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】(A)熱流速示差走査熱量測定(以下、DSCと略称する)において、10℃/分の昇温速度としたときに観察される融解ピークTmが90〜110℃である炭素数4〜8のα−オレフィンとエチレンとの共重合体5〜75重量%〔(A)+(B)+(C)の重量を基準にして〕
(B)DSCにおいて10℃/分の昇温速度としたときに観察される融解ピークTmが120〜140℃であるプロピレン系樹脂5〜75重量%〔(A)+(B)+(C)の重量を基準にして〕および(C)軟化点が90〜150℃である石油樹脂5〜20重量%〔(A)+(B)+(C)の重量を基準にして〕よりなることを特徴とするポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項2】 前記(A)の炭素数4〜8のα−オレフィンとエチレンとの共重合体において、α−オレフィン成分がヘキセンおよびオクテンよりなる群から選ばれた少なくとも1種の単量体であり、かつ前記共重合体のGPCにより測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比が1.2〜4の範囲にあり、Mnが10,000〜2,000,000である請求項1記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項3】 前記(C)の石油樹脂において、石油樹脂はC9留分の重合物を水添したものであって、水添率が65〜100%であり、かつそのGPCにより測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比が1.2〜2.0の範囲にあり、Mnが500〜1,000である請求項1または2記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項4】 請求項1、2または3記載のポリオレフィン系樹脂組成物よりなる床材。
【請求項5】 請求項1、2または3記載のポリオレフィン系樹脂組成物を、カレンダロール温度130〜180℃でカレンダ加工し、得られたシートを必要とする積層枚数の少なくとも一枚として用い、この積層物を熱ドラム温度100〜150℃で熱ラミネートすることを特徴とする床材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2000−53822(P2000−53822A)
【公開日】平成12年2月22日(2000.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−238025
【出願日】平成10年8月10日(1998.8.10)
【出願人】(000133076)株式会社タジマ (34)
【Fターム(参考)】