説明

ポリオレフィン組成物の製造方法

【課題】ポリオレフィンパウダーと粉体状の添加剤を溶融混練する際における添加剤の分散性が良好であり、かつ、加工フィルムのフィッシュアイが少ないという優れた特徴を有するポリオレフィン組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】直径2mm以上の粗粒の含有量が全体の3wt%以下であるポリオレフィンパウダーと少なくとも1種の粉体状の添加剤を溶融混練することを特徴とするフィルム加工時のフィッシュアイの低減されたポリオレフィン組成物の製造方法。ポリオレフィンパウダーとしては、プロピレンホモポリマー、プロピレン-エチレンコポリマー、プロピレン-エチレン-ブテンコポリマー等が挙げられる。粉体状の添加剤とは、無機質の添加剤であって二酸化ケイ素、炭酸カルシウムまたは珪酸マグネシウム等ブロッキング防止剤として用いられる粉体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム加工時のフィッシュアイの低減されたポリオレフィン組成物の製造方法に関するものである。さらに詳しくは、ポリオレフィンパウダーと粉体状の添加剤を溶融混練する際における添加剤の分散性が良好であり、かつ、加工フィルムのフィッシュアイが少ないという優れた特徴を有するポリオレフィン組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フィッシュアイとは、ポリマーをフィルムに加工したときにフィルム中に異物として残るゲルもしくは異物を核として凝集した粗大ポリマー粒子である。通常のポリオレフィンの製造において、種々の原因からフィッシュアイの生成は避けられないが、一般の成型用途においては基本的に問題とされないが、フィルム用途等においては、フィッシュアイ数の低減が特に要求される。
【0003】
ポリオレフィンのフイルムは、広範な用途に供されている。例えば、食品包装をはじめとする種々の物品の包装用素材として広く使用されている。特にポリプロピレンのフイルムは、機械的な諸特性および透明性、光沢などの光学的性質さらには水蒸気遮断性、無臭性等の食品衛生性などが優れていることから、食品包装用分野を中心に広く用いられている。しかしながらポリオレフィンのフイルム自体は、耐ブロッキング性に劣るために、フイルムを重ねるとフイルムが互いに密着するいわゆるブロッキングを起こし、包装等の作業性を著しく低下させる欠点を有している。このため、ポリオレフィンフイルムのブロッキングを防止する方法として、フイルム中にいわゆるアンチブロッキング剤として、二酸化ケイ素に代表される無機系の微粉末、または架橋高分子などの有機系の微粒子を配合する方法、さらには脂肪酸アマイドなどの滑り剤を併用する方法が一般に実施されている。ポリオレフィン中にアンチブロッキング剤、滑り剤等を配合する方法は、工業的には、重合によって得られたオレフィン重合体粒子にアンチブロッキング剤、滑り剤等を添加して、あらかじめ ポリオレフィンの融点以下の温度で混合機で混合し、次いでポリオレフィンの融点以上の温度で溶融混練して得られる。ポリオレフィンパウダーの物性によっては、アンチブロッキング剤の分散性が劣ることがあり、不均一に分散した場合は、加工フィルムにフィッシュアイが生成し外観が不良なフイルムしか得ることができなかった。このような欠点を解消する試みとしては、例えば、特に微粒子の少ないオレフィン重合体粒子に特定の物性を有する無機系微粉末を配合する方法(特許文献1参照)や、予め無機系微粉末をオレフィン重合体粒子と溶融混練したマスターバッチを製造しておき、そのマスターバッチをオレフィン重合体粒子と再度溶融混練する(特許文献2参照)等の方法が提案されている。しかし、さらに簡便で大量生産が可能な製造方法の確立が強く望まれていた。
【0004】
【特許文献1】特開平8−81591号公報(第1頁〜第3頁)
【特許文献2】特開平8−92424号公報(第1頁〜第3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる状況において、本発明は、ポリオレフィンパウダーと粉体状の添加剤を溶融混練する際における添加剤の分散性が良好であり、かつ、加工フィルムのフィッシュアイが少ないという優れた特徴を有するポリオレフィン組成物の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、
(1)直径2mm以上の粗粒が全体の3wt%以下であるポリオレフィンと少なくとも1種の粉体状の添加剤を溶融混練することを特徴とするフィルム加工時のフィッシュアイの低減されたポリオレフィン組成物の製造方法、
(2)直径2mm以上の粗粒が全体の1wt%以下である上記(1)のフィルム加工時のフィッシュアイの低減されたポリオレフィン組成物の製造方法、
(3)ポリオレフィンが、液相重合槽と気相重合槽の組合せよりなるポリオレフィン製造プロセスにおいて、液相重合槽にα-オレフィンおよび触媒、またはα-オレフィン、触媒および水素を連続的に導入し、該工程における重合量が最終生成ポリマーの5wt%以上であるようにして重合し、次いで気相重合槽で重合されたものであることを特徴とする上記(1)または(2)のフィッシュアイの低減されたポリオレフィン組成物の製造方法、
(4)α−オレフィンがプロピレン、またはプロピレンとエチレンおよび1−ブテンから選ばれる1つまたは2つ以上との混合物であることを特徴とする上記(1)、(2)または(3)のフィッシュアイの低減されたポリオレフィン組成物の製造方法、及び、
(5)粉体状の添加剤が、二酸化ケイ素、炭酸カルシウムまたは珪酸マグネシウムから選ばれるブロッキング防止剤であることを特徴とする上記(1)、(2)、(3)または(4)のフィッシュアイの低減されたポリオレフィン組成物の製造方法に係るものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、ポリオレフィンパウダーと粉体状の添加剤を溶融混練する際における添加剤の分散性が良好であり、かつ、加工フィルムのフィッシュアイが少ないという優れた特徴を有するポリオレフィン組成物の製造方法の提供が可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、ポリオレフィンパウダーと粉体状の添加剤を溶融混練するに際して、ポリオレフィンパウダー中に含まれる直径2mm以上の粗粒が3wt%以下、特に好ましくは1wt%以下の場合に粉体状の添加剤の分散性が良好であることを見出し完成したものである。
【0009】
前記ポリオレフィンパウダーとしては、プロピレンホモポリマー、プロピレン-エチレンコポリマー、プロピレン-エチレン-ブテンコポリマー等が挙げられ、特に融点の低いポリマーにおいて有効である。このようなポリオレフィンパウダーは、液相重合槽と気相重合槽の組合せよりなるポリオレフィン製造プロセスにおいて製造するのが好ましい。すなわち、液相重合槽にα-オレフィンおよび触媒、またはα-オレフィン、触媒および水素を連続的に導入し、該工程における重合量が最終生成ポリマーの5wt%以上であるようにして重合し、次いで気相重合槽で重合を行う。このように、液相重合槽と気相重合槽を組み合わせて重合することにより、気相重合槽単独で重合するよりも粗粒の含有割合を減少させることができる。例えば、気相重合槽単独で重合を行った場合、プロピレンホモポリマーは、直径2mm以上の粗粒が約3wt%、プロピレン-エチレンコポリマー、プロピレン-エチレン-ブテンコポリマーの場合は、約10wt%存在するのに対して、液相重合槽と気相重合槽を組合せて重合を行ったときは、プロピレンホモポリマー、プロピレン-エチレンコポリマー、プロピレン-エチレン-ブテンコポリマー等の粗粒割合は、0.2〜3wt%と激減させることができる。
【0010】
粉体状の添加剤とは、無機質の添加剤であって二酸化ケイ素、炭酸カルシウムまたは珪酸マグネシウム等ブロッキング防止剤として用いられる粉体である。本発明はこのような無機質の粉体をポリオレフィンパウダーと溶融混練する場合に特に効果的である。一方、一般に樹脂の溶融混練温度は180〜250℃であるので、酸化防止剤等の有機質の添加剤はその温度で溶融し、その分散性は特に問題とはならない。
【0011】
ポリオレフィンパウダー中に含まれる粗粒は、重合中に粒子が著しく成長したり、ポリオレフィンの微粒子同士が融着して粗大となって生成すると思われる。本発明においては、特に直径2mm以上の粗粒の含有量が3wt%以下であることが好ましく、最終製品の使用目的によっては、さらに1wt%以下であることが好ましい。直径2mm以上の粗粒の含有量は、例えば下記の如くにして測定して粗粒率(wt%)として表現したものである。
【0012】
試料400gをポリエチレン製ビーカー(1リットル)で秤量し、開目2mmの篩の風袋を測定した後、試料を篩にかけて残った試料の重量を電子天秤で測定し、粗粒率を下記式で算出する。
W(wt%)=A(g)/400(g)×100wt%
但し、W:粗粒率(wt%)、A:直径2mm以上の粗粒量(g)(篩上に残ったポリマー重量)
【0013】
ポリオレフィンパウダー中への粉体状の添加剤の分散性が悪い場合には、添加剤を含有するポリオレフィン組成物をフィルムに加工した場合にフィッシュアイが生成し、製品フィルムの性状が不良となる。フィッシュアイとは、ポリマーをフィルムに加工したときにフィルム中に異物として残るゲルもしくは異物を核として凝集した粗大ポリマー粒子である。フィッシュアイの測定は、Tダイフィルム加工機により30μmのフィルムに加工し、レーザー式フィッシュアイカウンターを用いて、直径100μm以上のフィッシュアイの数を計測して、単位面積(0.1m2)あたりの個数として表される。
【実施例】
【0014】
以下、本発明を実施例に基づいて、より具体的に説明するが、もとより本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0015】
実施例および比較例で用いたポリオレフィンパウダーの粗粒の含有量(粗粒率wt%)およびフィルムのフィッシュアイ量は以下の方法で測定した。
(1)ポリオレフィンパウダーの粗粒の含有量(粗粒率:wt%)
試料400gをポリエチレン製ビーカー(1リットル)で秤量し、開目2mmの篩の風袋を測定した後、試料を篩にかけて残った試料の重量を電子天秤で測定する。粗粒率は下記式で算出する。
W(wt%)=A(g)/400(g)×100wt%
但し、W:粗粒率(wt%)、A:直径2mm以上の粗粒量(g)
(2)フィッシュアイ(FE)
Tダイフィルム加工機により30μmのフィルムに加工し、レーザー式フィッシュアイカウンターを用いて、直径100μm以上のフィッシュアイの数を計測して、単位面積(0.1m2)あたりの個数として表す。
【0016】
実施例1
(ポリプロピレンの重合)
攪拌機付液相重合槽において、液体プロピレン、水素及びエチレンを供給した条件下に、予備活性化された固体触媒成分、トリエチルアルミニウム溶液、有機珪素化合物を供給しながらプロピレンのスラリー重合を所定のMFR、エチレン含量になるよう、1.7kg/hrのポリマー生成速度で行った。重合温度55℃、重合圧力3.5Mpaゲージ圧であった。
次いで、スラリーを連続的に攪拌機付流動床重合槽に移送し、プロピレン、水素、エチレン及び1-ブテンを供給した条件下で所定のMFR、エチレン含量、ブテン含量になるようにの気相重合を19kg/hrのポリマー生成速度で行った。重合温度84℃、重合圧力1.8Mpaゲージ圧であった。
得られたポリプロピレンパウダー中の2mm以上の粗粒率を測定したところ、全体の1.4wt%であった。
【0017】
(ポリマー造粒)
上記重合方法で得られたポリプロピレンパウダーは、重合槽から抜出し後、パウダー中の残存溶媒を乾燥し、添加剤と共に2軸の押出し機を用いて溶融混練してペレット化した。添加剤としては、粉体状の二酸化ケイ素(アンチブロッキング剤:商品名サイリシア430)0.1wt%と酸化防止剤を加えた。尚、酸化防止剤は、粉体状であるが融点が低いため溶融混練条件では液体となるので分散性は良好である。
【0018】
(フィルム評価)
上記造粒によって得られたペレットを用いて、直径50mmのTダイフィルム加工機にてフィルム加工を行い、フィルム中の100μm以上のフィッシュアイ数を測定したところ、フィッシュアイは0であった。
【0019】
比較例1
(ポリプロピレンの重合)
攪拌機付流動床重合槽のみで、下記の如く気相重合を行った。
重合温度83℃、重合圧力1.8Mpaゲージ圧、ポリマー生成速度18kg/hrにて、所定のMFR、エチレン含量、ブテン含量になるよう、プロピレン、水素、エチレン及び1-ブテンを供給した条件下に、予備活性化された固体触媒成分、トリエチルアルミニウム溶液、有機珪素化合物を供給しながらプロピレンの気相重合を行った。得られたポリマー中の2mm以上の粗粒率を測定したところ、全体の10.2wt%であった。
(ポリマー造粒)
上記重合方法で得られたポリプロピレンパウダーを用いて、実施例1と同一造粒条件にて造粒を行いペレットを得た。
(フィルム評価)
得られたペレットを用い、実施例1と同様の条件でフィルム加工を行った。フィルム中の100μm以上のフィッシュアイは、3個/0.1m2であった。
【0020】
実施例2
(ポリプロピレンの重合)
攪拌機付液相重合槽において、重合温度55℃、重合圧力3.5Mpaゲージ圧にて所定のMFR、エチレン含量、ブテン含量になるよう、液体プロピレン、水素、エチレン及び液体1-ブテンを供給した条件下に、予備活性化された固体触媒成分、トリエチルアルミニウム溶液、有機珪素化合物を供給しながらプロピレンのスラリー重合を1.2kg/hrで行った。
スラリー重合で得られたポリマーは、連続的に攪拌機付き流動床重合槽に移送され、重合温度80℃、重合圧力1.8Mpaゲージ圧にて所定のMFR、エチレン含量、ブテン含量になる様、プロピレン、水素、エチレン及び1-ブテンを供給した条件下でプロピレンのガス重合を17.7kg/hrで行った。得られたポリマー中の2mm以上の粗粒率を測定したところ、全体の0.6wt%であった。
(ポリマー造粒)
上記重合方法で得られたポリマーは、重合槽から抜出し後、パウダー中の残存溶媒を乾燥し、添加剤と共に2軸の押出し機を用いて溶融混練してペレット化した。添加剤としては、二酸化ケイ素(アンチブロッキング剤:商品名ガシールAB725)を0.2wt%および所定のフィルム物性を得る為の酸化防止剤等を用いた。
(フィルム評価)
上記造粒によって得られたペレットを用いて、直径50mmのTダイフィルム加工機にてフィルム加工を行った。その結果、フィルム中の100μm以上のフィッシュアイは、4個/0.1m2であった。
【0021】
比較例2
(ポリプロピレンの重合)
攪拌機付き流動床重合槽において、重合温度77℃、重合圧力1.8Mpaゲージ圧にて所定のMFR、エチレン含量、ブテン含量になる様、プロピレン、水素、エチレン及び1-ブテンを供給した条件下に、予備活性化された固体触媒成分、トリエチルアルミウム溶液、有機珪素化合物を供給しながらプロピレンのガス重合を18.6kg/hrで行った。得られたポリマー中の2mm以上の粗粒率を測定したところ、全体の17.3wt%であった。
(ポリマー造粒)
上記重合方法で得られたパウダーを用いて、実施例2と同一造粒条件にて、造粒を実施した。
(フィルム評価)
得られたペレットを用い、実施例2と同様の条件でフィルム加工を行った。結果、フィルム中の100μm以上のフィッシュアイは、13個/0.1m2であった。
上記の結果から次のことがわかる。本発明の条件に合致する実施例1または実施例2で得られたポリプロピレンパウダーまたはプロピレン−エチレン−ブテンターポリマーのパウダーと粉体状の二酸化ケイ素とを溶融混練して得られた組成物のフィルムは、フィッシュアイがそれぞれ0個/0.1m2、4個/0.1m2と非常に低かった。一方、本発明の条件に合致しない比較例1または2で得られた組成物のフィルムはフィッシュアイがそれぞれ3個/0.1m2、13個/0.1m2で非常に多く製品として不良であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径2mm以上の粗粒の含有量が全体の3wt%以下であるポリオレフィンパウダーと少なくとも1種の粉体状の添加剤を溶融混練することを特徴とするフィルム加工時のフィッシュアイの低減されたポリオレフィン組成物の製造方法。
【請求項2】
前記直径2mm以上の粗粒の含有量が全体の1wt%以下である請求項1記載のフィッシュアイの低減されたポリオレフィン組成物の製造方法。
【請求項3】
前記ポリオレフィンパウダーが、液相重合槽と気相重合槽の組合せよりなるポリオレフィン製造プロセスにおいて、液相重合槽にα-オレフィンおよび触媒、またはα-オレフィン、触媒および水素を連続的に導入し、該工程における重合量が最終生成ポリマーの5wt%以上であるようにして重合し、次いで気相重合槽で重合されたものであることを特徴とする請求項1または2記載のフィッシュアイの低減されたポリオレフィン組成物の製造方法。
【請求項4】
前記液体α−オレフィンがプロピレン、またはプロピレンとエチレンおよび1−ブテンから選ばれる1つまたは2つ以上との混合物であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のフィッシュアイの低減されたポリオレフィン組成物の製造方法。
【請求項5】
前記粉体状の添加剤が、二酸化ケイ素、炭酸カルシウムまたは珪酸マグネシウムから選ばれるブロッキング防止剤であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のフィッシュアイの低減されたポリオレフィン組成物の製造方法。

【公開番号】特開2007−211124(P2007−211124A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−32100(P2006−32100)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】