説明

ポリオレフィン製微多孔膜の製造方法

【課題】膜中の異物が少なく品質に優れ、かつ非水電解液系二次電池用セパレーターとして使用した際に良好なサイクル特性を示すポリオレフィン製微多孔膜の製造方法を提供すること。
【解決手段】(a)ポリオレフィン組成物を混練する混練工程、(b)混練されたポリオレフィ ン組成物からシートを成形するシート成形工程、(c)成形されたシートを延伸して延伸体を 成形するシート延伸工程、(d)前記シート又は前記延伸体から微多孔膜を成形する微多孔膜 成形工程、を有し、前記ポリオレフィン組成物中に占めるアルミニウムの割合が 20ppm以下である、ポリオレフィン製微多孔膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン製微多孔膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン製微多孔膜は、種々の物質の分離や選択透過分離膜、及び隔離材等として広く用いられており、用途例としては、精密濾過膜、燃料電池用セパレーター、コンデンサー用セパレーター、又は機能材を孔の中に充填させ新たな機能を発現させるための機能膜の母材、電池用セパレーター等が挙げられる。これらの用途の中でも、ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話、デジタルカメラ等のモバイル機器に広く使用されているリチウムイオン電池用のセパレーターとして、特に好適に使用されている。その理由としては、膜の機械強度や絶縁性能が高いことが挙げられる。
特許文献1には、触媒残渣量が300ppmである高密度ポリエチレンを含むポリエチレン組成物からなる微多孔膜が開示されている。
特許文献2には、品質に優れたポリオレフィン製微多孔膜が開示されている。
特許文献3には、分子量が50万以下のポリエチレンを使用したポリオレフィン製微多孔膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−128942公報
【特許文献2】特表2008−506003号公報
【特許文献3】特開平6−96753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載された微多孔膜はいずれも、リチウムイオン二次電池用セパレーターとして使用するにあたっては、近年、特に必要とされている不純物への配慮がなく、なお改善の余地を有するものである。
上記事情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、膜中の異物が少なく品質に優れ、かつ非水電解液系二次電池用セパレーターとして使用した際に良好なサイクル特性を示すポリオレフィン製微多孔膜の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、アルミニウムの含有量が特定量以下に調整されたポリオレフィン組成物を用いて形成されたポリオレフィン製微多孔膜が、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を成すに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
下記(a)〜(d)の各工程、
(a)ポリオレフィン組成物を混練する、混練工程、
(b)混練されたポリオレフィン組成物からシートを成形する、シート成形工程、
(c)成形されたシートを延伸して延伸体を成形する、シート延伸工程、
(d)前記シート又は前記延伸体から微多孔膜を成形する、微多孔膜成形工程、
を有し、
前記ポリオレフィン組成物中に占めるアルミニウムの割合が20ppm以下である、ポリオレフィン製微多孔膜の製造方法。
[2]
前記ポリオレフィン組成物中に占めるカルシウム、マグネシウム、亜鉛、及びバリウムの総量の割合が300ppm以下である、[1]に記載の製造方法。
[3]
前記ポリオレフィン組成物が、重量平均分子量が50万以下であるポリオレフィンを含む、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]
[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法により得られるポリオレフィン製微多孔膜を用いてなる非水電解液系二次電池。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ポリオレフィン製微多孔膜中の異物が少なく品質に優れ、かつ非水電解液系二次電池用セパレーターとして使用した際に、良好なサイクル特性を示すポリオレフィン製微多孔膜の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0009】
本実施の形態において使用されるポリオレフィン組成物は、アルミニウムの含有量が20ppm以下に調整されている。なお、複数種のポリオレフィンや添加剤等が使用される場合には、ポリオレフィン成分とアルミニウム元素との総量を基準とする。
アルミニウムの含有量は、10ppm以下が好ましく、5ppm以下がより好ましく、1ppm以下が更に好ましい。アルミニウムの含有量が20ppm以下であると、本実施形態のポリオレフィン製微多孔膜を電池用セパレーターとして使用した場合に、サイクル特性が良好となる傾向にある。また、微多孔膜中の異物が減少する傾向にある。この理由は定かではないが、原料中にアルミニウムが多く残っている場合は、アルミニウムを起点としたゲルが生成し、異物になり易いためであると推察される。またそのような異物は、サイクル特性を低下させやすいものと推察される。
一方、アルミニウムの含有量の下限としては、特に限定されないが、電解塩の分解に由来し、電池反応に悪影響を与えるフッ化水素を吸着するという観点から、0.1ppm以上であることが好ましい。
【0010】
アルミニウムの含有量を20ppm以下に調整する手段としては、アルミニウムの形態及び混入源は様々であるため種々挙げられるが、ポリオレフィンの重合工程における有機アルミニウム濃度を低減させることや、ポリオレフィン原料を酸やアルカリで洗浄することが好ましい。
【0011】
本実施の形態において、ポリオレフィン組成物中のカルシウム、マグネシウム、亜鉛、及びバリウムの含有量の合計(総量)は、好ましくは300ppm以下である。なお、複数種のポリオレフィンや添加剤等が使用される場合には、ポリオレフィン成分と、カルシウム元素、マグネシウム元素、亜鉛元素、及びバリウム元素との総量を基準とする。
前記含有量の合計としては、より好ましくは200ppm以下、更に好ましくは150ppm以下、更により好ましくは50ppm以下、特に好ましくは10ppm以下である。一方、下限としては、電解塩の分解に由来し、電池反応に悪影響を与えるフッ化水素を吸着するという観点から、0.1ppm以上であることが好ましい。
【0012】
これらの金属の総量が300ppm以下である場合、電池用セパレーターとして使用した場合に、サイクル特性が良好となる傾向にある。これは、充放電を繰り返すサイクル試験において、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、バリウムといった金属の、電極への電析量が少なくなるためと推察される。
【0013】
これらの金属は、ポリオレフィンの製造後等に添加された金属石鹸由来であることが主である。上記金属の総量を300ppm以下に調整する手段としては、重合後のポリオレフィンへ添加する金属石鹸のブレンド量によって調整することや、市販のポリオレフィンを酸洗浄して調整すること等が挙げられる。
【0014】
本実施の形態において使用されるポリオレフィンとしては、特に限定されず、例えば、有機アルミニウム化合物を助触媒として製造されたポリエチレンが挙げられる。このようなポリエチレンは、助触媒として有機アルミニウム化合物を用いるチーグラー・ナッタ系触媒、フィリップス系触媒、メタロセン触媒等を用いて製造することができる。また、有機アルミニウム化合物を助触媒として製造されたポリエチレン以外にも、例えば、過酸化物を触媒にして得られる低密度ポリエチレンも使用できる。その他のポリオレフィンとしては、例えば、ポリプロピレン、メチルペンテンコポリマー、エチレン・テトラシクロドデセン共重合体やエチレン・ノルボルネン共重合体等の環状オレフィンコポリマー等が挙げられる。機械的強度及び製膜時の延伸性の観点より、有機アルミニウム化合物を助触媒として製造されたポリエチレンを30質量%以上用いることが好ましい。
【0015】
本実施の形態におけるポリオレフィン製微多孔膜の膜厚は、2μm以上100μm以下の範囲が好ましく、5μm以上40μm以下の範囲がより好ましく、5μm以上35μm以下の範囲が更に好ましい。膜厚が2μm以上であると、機械強度が十分となる傾向にあり、一方、100μm以下であると、セパレーターの占有体積が減るため、電池の高容量化の点において有利となる傾向にある。
【0016】
本実施の形態におけるポリオレフィン製微多孔膜の気孔率は、好ましくは25%以上90%以下、より好ましくは30%以上85%以下、更に好ましくは35%以上80%以下の範囲である。気孔率が25%以上であると、リチウムイオンの透過性が低下し難くなる傾向にあり、一方、90%以下であると、電池セパレーターとして使用した場合に自己放電の可能性が少なく電池の信頼性が向上する傾向にある。
【0017】
本実施の形態におけるポリオレフィン製微多孔膜の透気度は、好ましくは1秒以上500秒以下、より好ましくは10秒以上450秒以下、更に好ましくは50秒以上400以下の範囲である。透気度が1秒以上であると、電池用セパレーターとして使用した場合に自己放電が少なくなる傾向にあり、500秒以下であると、良好な充放電特性が得られる傾向にある。
【0018】
本実施の形態におけるポリオレフィン製微多孔膜の突刺強度(絶対強度)は、1N以上20N以下であることが好ましく、より好ましくは2N以上15N以下、更に好ましくは3N以上10N以下の範囲である。突刺強度を1N以上とすることは、電池用セパレーターとして使用した場合、電極材等の鋭利部がセパレーターに突き刺さった際にも、ピンホールや亀裂の発生を低減し得る観点から好ましい。一方20N以下であると収縮が小さくなる傾向にあり、正極と負極との隔離性を維持しやすい。
本実施の形態におけるポリオレフィン製微多孔膜の引張強度は、MD(押出機の機械方向、樹脂吐出方向)、TD(MDと直交する方向、膜幅方向)共に好ましくは5MPa以上500MPa以下、より好ましくは10MPa以上400MPa以下、更に好ましくは20MPa以上300MPa以下である。引張強度が5MPa以上であると、電池捲回時の張力に対して破断しにくくなり、500MPa以下であると収縮が小さくなる傾向にあり、正極と負極との隔離性を維持しやすい。
本実施の形態におけるポリオレフィン製微多孔膜の引張伸度は、MD、TD共に好ましくは20%以上500%以下であり、より好ましくは25%以上400%以下、更に好ましくは30%以上300%以下である。20%以上であると、異物に対して破断しにくく、500%以下であると電池捲回時にセパレーターが伸びにくくなり、捲回性が向上する。
【0019】
次に、本実施の形態におけるポリオレフィン製微多孔膜の製造方法について説明する。
本実施の形態におけるポリオレフィン製微多孔膜の製造方法は、下記(a)〜(d)の各工程、
(a)ポリオレフィン組成物を混練する、混練工程、
(b)混練されたポリオレフィン組成物からシートを成形する、シート成形工程、
(c)成形されたシートを延伸して延伸体を成形する、シート延伸工程、
(d)前記シート又は前記延伸体から微多孔膜を成形する、微多孔膜成形工程、を有する。
【0020】
[(a)工程]
(a)工程は、例えば、ポリオレフィンと、必要に応じて可塑剤及び/又は無機材とを含むポリオレフィン組成物を混練する混練工程である。
(a)工程において用いられるポリオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレンのホモ重合体、又はエチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、及びノルボルネンよりなる群から選ばれる少なくとも2種以上のモノマーにて形成される共重合体、が挙げられる。これらは混合物でも構わない。
【0021】
ポリオレフィンとしてポリエチレンを使用する場合は、孔が閉塞せずに、より高温で熱固定が行えるという観点から、高密度ポリエチレン(ホモポリマー)であることが好ましいが、低密度ポリエチレンであっても構わない。
【0022】
微多孔膜全体の重量平均分子量は、10万以上120万以下であることが好ましく、より好ましくは15万以上80万以下である。重量平均分子量が10万以上であると溶融時の耐破膜性が発現し易くなる傾向にあり、120万以下であると押出工程が容易となり、また、溶融時の収縮力の緩和が早くなり、耐熱性が向上する傾向にある。
【0023】
また、重量平均分子量が50万以下のポリオレフィンを少なくとも含むことは、膜の品質向上の観点から好ましい。これは、重量平均分子量が50万以下のポリオレフィンを含む場合、組成全体の超高分子量成分の割合が相対的に減り、結果としてアルミニウムを起点とした超高分子量成分のゲルが生じ難くなるためと推測される。上記観点から、ポリオレフィンとしては、重量平均分子量50万以下のポリオレフィンのみを用いることが特に好ましい。
【0024】
上記(a)工程において、ポリエチレン以外のポリマーをブレンドする場合は、ポリマー全体に対し、ポリエチレン以外のポリマーの割合が1〜80質量%であることが好ましく、より好ましくは2〜50質量%、更に好ましくは3〜20質量%、特に好ましくは5〜10質量%である。ポリエチレン以外のポリマーの割合が1質量%以上であると、例えば、ポリエチレンよりも高弾性率のポリマーであれば、電池の充放電時の電極膨張に耐え得る耐圧縮性を保持し易くなる傾向にある。また、ポリエチレンよりも高融点のポリマーであれば、耐熱性が向上する傾向にある。一方、ポリエチレン以外のポリマーの割合が80質量%以下であると、ポリエチレンとの均一性が向上することにより、透過性が確保し易くなる傾向にある。
【0025】
ポリエチレン以外のポリマーとしては、ポリエチレンとの均一性、耐熱性の観点からポリプロピレンが好ましい。
【0026】
上記(a)工程において用いられるポリオレフィン組成物には、ステアリン酸カルシウムやステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、着色顔料等の公知の添加剤を混合して使用することができる。
【0027】
上記可塑剤としては、沸点以下の温度でポリオレフィンと均一な溶液を形成しうる有機化合物を挙げることができる。具体的には、例えば、デカリン、キシレン、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、デシルアルコール、ノニルアルコール、ジフェニルエーテル、n−デカン、n−ドデカン、パラフィン油等が挙げられる。これらの中でも、孔構造が均一になりやすいという観点からパラフィン油、ジオクチルフタレートが好ましく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
可塑剤の割合は特に限定されないが、得られる微多孔膜の気孔率の観点から、ポリオレフィンと、可塑剤と、必要に応じて配合される無機材との合計質量に対して20質量%以上であることが好ましく、粘度の観点から90質量%以下であることが好ましい。
【0029】
上記無機材としては、例えば、酸化物系セラミックス、窒化物系セラミックス、粘度鉱物、ガラス繊維等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。これらは、本発明の効果を損なわない範囲内で添加することができる。
【0030】
混練の方法としては、例えば、まず原材料の一部或いは全部を必要に応じてヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダー等で事前混合する。次いで、全ての原材料について、一軸押出機、二軸押出機等のスクリュー押出機、ニーダー、ミキサー等により溶融混練する。混練物は、後述する(b)工程においてT型ダイや環状ダイ等より押出される。このとき、単層押出しであっても積層押出しであっても構わない。
【0031】
なお、混練時においては、原料ポリマーに酸化防止剤を所定の濃度で混合した後、窒素雰囲気に置換し、窒素雰囲気を維持した状態で溶融混練を行うことが好ましい。溶融混練時の温度は、160℃以上が好ましく、180℃以上がより好ましい。また、上限としては、300℃未満が好ましく、240℃未満がより好ましい。
【0032】
[(b)工程]
(b)工程は、混練工程の後に混練物(ポリオレフィン組成物)を押出し、シート状(単層、積層であることは問わない)に成形するシート成形工程である。シート成形の方法としては、例えば、溶融混練し押出された溶融物を、圧縮冷却により固化させる方法が挙げられる。冷却方法としては、冷風や冷却水等の冷却媒体に直接接触させる方法、冷媒で冷却したロールやプレス機に接触させる方法等が挙げられるが、冷媒で冷却したロールやプレス機に接触させる方法が、膜厚制御が優れる点で好ましい。
【0033】
[(c)工程]
(c)工程は、成形されたシートを延伸して延伸体を成形する、シート延伸工程である。
シートの延伸方法としては、ロール延伸機によるMD(延伸加工装置の延伸方向)一軸延伸、テンターによるTD(延伸加工装置の幅方向)一軸延伸、ロール延伸機とテンター、或いはテンターとテンターとの組み合わせによる逐次二軸延伸、同時二軸テンターやインフレーション成形による同時二軸延伸等が挙げられる。より均一な膜を得るという観点からは、同時二軸延伸であることが好ましい。トータルの面倍率は、膜厚の均一性、引張伸度、気孔率と平均孔径のバランスの観点から、8倍以上が好ましく、15倍以上がより好ましく、30倍以上が更に好ましい。トータルの面倍率が8倍以上であると、高強度となり、且つ、厚み分布が良好のものが得られ易くなる。
【0034】
[(d)工程]
(d)工程は、前記シート、又は前記延伸体から微多孔膜を成形する、微多孔膜成形工程である。前記シート、又は前記延伸体から微多孔膜を成形する方法としては、
(イ)湿式法(予め配合していた可塑剤や無機材等を抽出して開孔する方法)、
(ロ)乾式法(ポリオレフィンのラメラ構造を利用し、延伸のみによって開孔する方法(ラメラ開孔法)、或いは、ポリオレフィンと無機材との界面を利用し、延伸のみによって開孔する方法(フィラー開孔法))、
のいずれも採用することができる。なお、これらは併用することも可能である。
【0035】
ポリオレフィン組成物が可塑剤や無機材を含有していた場合、前記シート又は前記延伸体からこれらを抽出することで、微多孔膜を成形することができる。可塑剤や無機材の抽出は、前記シート又は前記延伸体を、抽出溶媒に浸漬、又はシャワーする方法等により行なうことができる。抽出溶媒としては、ポリオレフィンに対して貧溶媒であり、且つ、可塑剤や無機材に対しては良溶媒であり、沸点がポリオレフィンの融点よりも低いものが好ましい。このような抽出溶媒としては、例えば、n−ヘキサンやシクロヘキサン等の炭化水素類、塩化メチレンや1,1,1−トリクロロエタン、フルオロカーボン系等ハロゲン化炭化水素類、エタノールやイソプロパノール等のアルコール類、アセトンや2−ブタノン等のケトン類、アルカリ水等が挙げられ、単独で若しくは混合して使用することができる。
【0036】
なお、可塑剤や無機材は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、全工程内のいずれかで全量或いは一部を抽出してもよいし、製品中に残存させてもよい。また、抽出の順序、方法及び回数については特に制限はない。
一方、乾式法を採用する場合には、(c)工程が(d)工程を兼ねることができる。
なお、上記のような延伸工程を、(d)工程の後に、更に採用することも可能である。
【0037】
ポリオレフィン製微多孔膜の製造方法としては、上記(a)〜(d)の各工程に加え、更に熱処理を行う後加工工程を採用しても良い。熱処理の方法としては、テンターやロール延伸機を利用して、延伸及び緩和操作等を行う熱固定方法が挙げられる。緩和操作とは、膜のMD及び/或いはTDへ、ある所定の温度及び緩和率で行う縮小操作のことを言う。緩和率とは、緩和操作後の膜のMD寸法を操作前の膜のMD寸法で除した値、或いは緩和操作後のTD寸法を操作前の膜のTD寸法で除した値、或いはMD、TD双方を緩和した場合は、MDの緩和率とTDの緩和率を乗じた値のことである。所定の温度(緩和操作における温度)としては、熱収縮率の観点から100℃以上が好ましく、気孔率及び透過性の観点から135℃未満が好ましい。所定の緩和率としては、熱収縮率の観点から0.9以下が好ましく、0.8以下であることがより好ましい。また、しわ発生防止と気孔率及び透過性の観点から0.6以上であることが好ましい。緩和操作は、MD、TD両方向で行ってもよいが、MD或いはTD片方だけの緩和操作でも、操作方向だけでなく操作と垂直方向についても、熱収縮率を低減することが可能である。
【0038】
また、ポリオレフィン製微多孔膜の製造方法としては、積層体を得るための工程として、単層体を複数枚重ね合わせる工程を採用することができる。
また、電子線照射、プラズマ照射、界面活性剤塗布、化学的改質等の表面処理工程を採用することもできる。
【0039】
本実施の形態において製造されるポリオレフィン製微多孔膜は、従来の微多孔膜と比較して品位に優れ、電池のサイクル特性を向上することができる。
なお、上述した各種パラメータについては、特に断りのない限り、後述する実施例における測定法に準じて測定される。
【実施例】
【0040】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態をより具体的に説明するが、本実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の物性は以下の方法により測定した。
(1)重量平均分子量
Waters社製 ALC/GPC 150C型(商標)を用い、以下の条件で測定し、標準ポリスチレンを用いて較正曲線を作成した。
カラム:東ソー製 GMH6−HT(商標)2本+GMH6−HTL(商標)2本
移動相:o−ジクロロベンゼン
検出器:示差屈折計
流速 :1.0ml/min
カラム温度:140℃
試料濃度:0.1wt%
(ポリエチレンの重量平均分子量)
得られた較正曲線における各分子量成分に0.43(ポリエチレンのQファクター/ポリスチレンのQファクター=17.7/41.3)を乗じることによりポリエチレン換算の分子量分布曲線を得、重量平均分子量を算出した。ポリプロピレンに関しては0.63を乗じた。
【0041】
(2)膜厚(μm)
東洋精機製の微小測厚器、KBM(商標)を用いて室温23℃で測定した。
【0042】
(3)気孔率(%)
10cm×10cm角の試料をポリオレフィン製微多孔膜から切り取り、その体積(cm3)と質量(g)を求め、それらと密度(g/cm3)より、次式を用いて計算した。
気孔率(%)=(体積−質量/混合組成物の密度)/体積×100
なお、混合組成物の密度は、用いた原料の各々の密度と混合比より計算して求められる値を用いた。
【0043】
(4)透気度(sec/100cm3
JIS P−8117に準拠し、東洋精器(株)製のガーレー式透気度計、G−B2(商標)により測定した。
【0044】
(5)突刺強度(N)
カトーテック製のハンディー圧縮試験器KES−G5(商標)を用いて、開口部の直径11.3mmの試料ホルダーで微多孔膜を固定した。次に固定された微多孔膜の中央部を、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secで、25℃雰囲気下にて突刺試験を行うことにより、最大突刺荷重として生の突刺強度(N)を得た。
【0045】
(6)MD、TDの引張破断強度(MPa)、引張破断伸び(%)
JIS K7127に準拠し、島津製作所製の引張試験機、オートグラフAG−A型(商標)を用いて、MD及びTDサンプル(形状;幅10mm×長さ100mm)について測定した。また、サンプルはチャック間距離を50mmとし、サンプルの両端部(各25mm)の片面にセロハンテープ(日東電工包装システム(株)製、商品名:N.29)を貼ったものを用いた。さらに、試験中のサンプル滑りを防止するために、引張試験機のチャック内側に厚み1mmのフッ素ゴムを貼り付けた。
引張破断伸び(%)は、破断に至るまでの伸び量(mm)をチャック間距離(50mm)で除して100を乗じることにより求めた。引張破断強度(MPa)は、破断時の強度を、試験前のサンプル断面積で除すことで求めた。
なお、測定は、温度;23±2℃、チャック圧0.30MPa、引張速度;200mm/minで行った。
【0046】
(7)アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、バリウム含有量測定
試料約0.2gをフッ素樹脂製の密閉式分解容器に秤取り、高純度硝酸5mLを添加して、マイクロウエーブ分解装置(マイルストーンゼネラル株式会社製、ETHOS TC。機番125571)による加熱(200℃、20分)後、超純水で50mLに定容した。
その後、ICP質量分析装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、Xシリーズ X7 ICP−MS。機番X0126)によって測定を行った。
定量方法は内標準法により、4点検量線;各元素濃度0、2、10、20μg/L(測定用検液を検量線範囲になるように希釈する。)によって行った。内標準元素;コバルト(Co)
【0047】
(8)異物
得られたフィルム25cm×25cm中の、直径1mm以上の異物の数を目視で測定した。
【0048】
(9)電池評価(サイクル特性)
(9−1)電池の作製
非水電解液の調製:エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPF6を濃度1.0mol/リットルとなるように溶解させて調製した。
帯状負極:負極活物質として人造グラファイト96.9質量%、バインダーとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量%とスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス1.7質量%を精製水中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる厚さ12μmの銅箔の片面にダイコーターで塗布し、120℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。このとき、負極の活物質塗布量は106g/m2,活物質嵩密度は1.35g/cm3になるようにし、帯状負極を得た。
帯状正極:正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物LiCoO2を92.2質量%、導電材としてリン片状グラファイトとアセチレンブラックをそれぞれ2.3質量%、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)3.2質量%をN−メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターで塗布し、130℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。このとき、正極の活物質塗布量は250g/m2,活物質嵩密度は3.00g/cm3になるようにし、帯状正極を得た。
電池組立て:微多孔膜セパレーター,帯状正極及び帯状負極を、帯状負極、セパレーター、帯状正極、セパレーターの順に重ねて渦巻状に12回捲回することで電極板積層体を作製した。この電極板積層体を70℃の温度条件下2MPaで30秒間平板状にプレスし、電池捲回体を得た。
作製した電池捲回体をアルミニウム製容器に収納し、正極集電体から導出したアルミニウム製リードを容器壁に、負極集電体から導出したニッケル製リードを容器蓋端子部に接続した。この容器内に前記の非水電解液を注入して密閉した。こうして作製されるリチウムイオン電池は、縦(厚み)6.3mm,横30mm,高さ48mmの大きさであった。この電池容量は600mAhであった。
(9−2)サイクル特性
サイクル特性(500サイクル):容量維持率(%)として評価した。組立てた電池の初充放電として、先ず1/6Cの電流値で電圧4.2Vまで定電流充電した後に4.2Vの定電圧を保持するように電流値を絞り始めて合計8時間の初充電を行い、次に1/6Cの電流で2.5Vの終止電圧まで放電を行った。続いてサイクル充放電として、(i)電流量0.5C、上限電圧4.2V、合計8時間の定電流定電圧充電、(ii)10分間の休止、(iii)電流量0.5C、終止電圧2.5Vの定電流放電、(iv)10分間の休止なるサイクル条件で都合50回の充放電を行った。以上の充放電処理は全て20℃の雰囲気下にて実施した。その後、上記初充電での放電容量に対する上記500サイクル目の放電容量の比を100倍することで、容量維持率(%)を求めた。
【0049】
[実施例1]
重量平均分子量が70万、アルミニウム濃度が30ppmである市販のポリエチレン樹脂を1Nの塩酸で洗浄ろ過し、十分に乾燥させた後、滑剤としてステアリン酸カルシウムを4000ppm(カルシウム濃度としては280ppm)添加した。こうして得られたアルミニウム濃度が15ppm、カルシウム濃度が280ppmであるポリエチレン(PE(a))に、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を1質量%添加し、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、ポリマー等混合物を得た。得られたポリマー等混合物は窒素で置換を行った後に、二軸押出機へ窒素雰囲気下でフィーダーにより供給した。また流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10-52/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。
溶融混練し、押し出される全混合物中に占める流動パラフィン量比が65質量%となるように(即ち、ポリマー濃度(「PC」と略記することがある)が35質量%となるように)、フィーダー及びポンプを調整した。溶融混練条件は、設定温度200℃であり、スクリュー回転数240rpm、吐出量12kg/hで行った。
続いて、溶融混練物を、T−ダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール上に押出しキャストすることにより、原反膜厚1400μmのゲルシートを得た。
次に、ゲルシートを同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行った。設定延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率7.0倍(即ち、7×7倍)、二軸延伸温度125℃であった。
次に、メチルエチルケトン槽に導き、メチルエチルケトン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後メチルエチルケトンを乾燥除去した。
次に、熱固定(「HS」と略記することがある)を行なうべくTDテンターに導き、熱固定温度125℃、延伸倍率1.4倍でHSを行い、その後、0.8倍の緩和操作(即ち、HS緩和率が0.8倍)を行った。
【0050】
[実施例2〜12、比較例1〜3]
表1に示す条件以外は実施例1と同様にして微多孔膜を得た。得られた微多孔膜について、各種特性を評価した。結果を下表1に示す。
【0051】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明により得られるポリオレフィン製微多孔膜は、特に、良好なサイクル特性を示すリチウムイオン二次電池用セパレーターとしての産業上利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(d)の各工程、
(a)ポリオレフィン組成物を混練する、混練工程、
(b)混練されたポリオレフィン組成物からシートを成形する、シート成形工程、
(c)成形されたシートを延伸して延伸体を成形する、シート延伸工程、
(d)前記シート又は前記延伸体から微多孔膜を成形する、微多孔膜成形工程、
を有し、
前記ポリオレフィン組成物中に占めるアルミニウムの割合が20ppm以下である、ポリオレフィン製微多孔膜の製造方法。
【請求項2】
前記ポリオレフィン組成物中に占めるカルシウム、マグネシウム、亜鉛、及びバリウムの総量の割合が300ppm以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ポリオレフィン組成物が、重量平均分子量が50万以下であるポリオレフィンを含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により得られるポリオレフィン製微多孔膜を用いてなる非水電解液系二次電池。

【公開番号】特開2011−74119(P2011−74119A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224349(P2009−224349)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】