説明

ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体、その製造方法及び該共重合体を含むポリカーボネート樹脂

【課題】高温下での成形においても熱安定性に優れ、色調に優れた成形体を与えるポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体及びその製造方法並びに該ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体を用いたポリカーボネート樹脂を提供する
【解決手段】特定の構成単位からなるポリカーボネートブロック及び特定の構成単位からなるポリオルガノシロキサンブロックからなるポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体(A−1)であって、
(1)ポリオルガノシロキサンブロック部分の含有量が1〜30質量%であり、
(2)一般式(II)の構成単位の平均繰り返し単位数が70〜1000であり、
(3)共重合体の粘度平均分子量が13000〜26000であり、
(4)共重合体中におけるアリル基を有するフェノール残基の含有量が400質量ppm以下である
ことを特徴とするポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体及びその製造方法並びに該ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体を用いたポリカーボネート樹脂である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体、その製造方法及び該共重合体を含むポリカーボネート樹脂に関する。詳しくは、高温下での成形においても熱安定性に優れ、色調に優れた成形体を与えるポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体、その製造方法及び該共重合体を含むポリカーボネート樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノールA等から製造されるポリカーボネート樹脂は、耐熱性、機械特性に優れることから電気・電子分野、自動車分野等で各種部品の材料として使用されている。しかしながら、用途によってはビスフェノールAからなるポリカーボネート樹脂では満足できない難燃性や耐衝撃性が要求されることがある。
一方、ポリカーボネート−ポリジメチルシロキサン共重合体(PC−PDMS共重合体)は、難燃性、耐衝撃性に優れたポリカーボネート樹脂として知られている(例えば、特許文献1参照)。PC−PDMS共重合体は、滑性、耐磨耗性等の改善された成形品を与えることができ、その成形品として例えばキャストフィルム、押出し成形フィルム等が知られている(例えば、特許文献2〜5参照)
また、シロキサンユニットの繰返し数によって、PC−PDMS共重合体が示す特性が現れ、例えばシロキサンユニットの繰返し数nが40〜60、具体的にはn=49のPC−PDMS共重合体が良好な低温衝撃特性を示し(例えば、特許文献6参照)、シロキサンユニットの繰返し数nが50のPDMSを用いて透明なPC−PDMS共重合体を得る方法が知られており(例えば、特許文献7参照)、シロキサンユニットの繰返し数nが0〜20のPDMSを用いた透明で難燃性のあるPC−PDMS共重合体が知られている(例えば、特許文献8参照)。
上記のように、PC−PDMS共重合体はその特性から、透明バイザーつきヘルメット(例えば、特許文献9参照)、キートップ部材製造用材料(例えば、特許文献10参照)等の多くの用途に展開が可能であることが知られている。
【0003】
さらに、PC−PDMS共重合体について、原料であるPDMSの両末端を変性することが知られており、その製造方法については、例えば(1)ポリジメチルシロキサンにアルリフェノールを反応させた後、過剰量のアリルフェノールを水性アルコールで洗浄除去する方法(例えば、特許文献1参照)、(2)ポリジメチルシロキサンにオイゲノール(2−メトキシ−4−アリルフェノール)を反応させた後、低分子量オルガノシロキサン化合物を脱揮除去する方法(例えば、特許文献11参照)等が知られている。
【0004】
そして、最近では多くの用途で上述したPC−PDMS共重合体の特性をもった材料が望まれるようになり、多様な成形品形状に適応する必要が生じた。そのため、樹脂の流動性を確保する必要があり、成形加工時の温度が高温化する傾向にある。
しかしながら、PC−PDMS共重合体は、高温成形下において一般のポリカーボネートよりも黄変しやすいという問題点があった。このPC−PDMS共重合体に特有の黄変及びその改善に関する知見はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2662310号公報
【特許文献2】特開平5−202181号公報
【特許文献3】特開平5−202182号公報
【特許文献4】特開平5−200761号公報
【特許文献5】特開平5−200827号公報
【特許文献6】特表2006−523243号公報
【特許文献7】特表2005−535761号公報
【特許文献8】特表2005−519177号公報
【特許文献9】特開平10−245711号公報
【特許文献10】特開平11−45139号公報
【特許文献11】特開平05−247195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、PC−PDMS共重合体の黄変の問題について種々検討した結果、PC−PDMS共重合体を製造する際のPDMS中の不純物に原因があることを見出した。すなわち、原料の両末端を変性したポリオルガノシロキサン中に未反応成分として残留する、アリル基を有するフェノール化合物に起因するものであることを見出した。
しかし、従来技術では、アリル基を有するフェノール化合物の残存量に関する定量的な知見はなく、またその影響についても知られていない。
【0007】
そこで、本発明者は、上述の状況に鑑み、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体(PC−POS共重合体)において、原料の両末端を変性したPOS中におけるアリル基を有するフェノール化合物の残存量を一定量以下とすることができるPC−POS共重合体の製造方法を開発し、さらに高温下での成形においても熱安定性に優れ、色調に優れた成形体を与えるPC−POS共重合体及びその製造方法を提供することを、本発明の目的とする。
さらに、本発明の他の目的は、上記PC−POS共重合体を用いたポリカーボネート樹脂を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を進めた結果、アリル基を有するフェノール化合物の残存量が一定量以下である両末端を変性したPOSを原料として使用することにより、上記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、下記のPC−POS共重合体、その製造方法、並びに該PC−POS共重合体を用いたポリカーボネート樹脂である。
【0009】
1.下記一般式(I)で表される構成単位からなるポリカーボネートブロック及び下記一般式(II)で表される構成単位からなるポリオルガノシロキサンブロックからなるポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体(A−1)であって、
(1)ポリオルガノシロキサンブロック部分の含有量が1〜30質量%であり、
(2)一般式(II)の構成単位の平均繰り返し単位数が70〜1000であり、
(3)共重合体の粘度平均分子量が13000〜26000であり、
(4)共重合体中におけるアリル基を有するフェノール残基の含有量が400質量ppm以下である
ことを特徴とするポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体。
【0010】
【化1】

【0011】
[式中、R1及びR2は、それぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜6のアルコキシ基、Xは単結合、炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基、−S−、−SO−、−SO2−、−O−又は−CO−、R3及びR4は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基もしくは炭素数6〜12のアリール基を示し、a及びbは、それぞれ独立に0〜4の整数を示す。]
【0012】
2.アリル基を有するフェノール残基がアリルフェノール残基又はオイゲノール残基である上記1に記載のポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体。
3.一般式(I)で表される構成単位が、ビスフェノールAから誘導された構成単位である上記1に記載のポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体。
4.一般式(II)で表される構成単位中のR3及びR4が共にメチル基である上記1に記載のポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体。
5.上記1に記載のポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体(A−1)100質量部及び(A−1)以外の芳香族ポリカーボネート(A−2)0〜90質量部からなるポリカーボネート樹脂であり、該ポリカーボネート樹脂中におけるアリル基を有するフェノール残基の含有量が200質量ppm以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂。
【0013】
6.ポリカーボネートオリゴマーと下記一般式(III)で表されるアリル基を有するフェノール化合物で末端が変性されたポリオルガノシロキサンとを混合し、次いで、アルカリ性化合物の存在下、二価フェノールを反応させるポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体の製造方法において、該ポリオルガノシロキサン中におけるアリル基を有するフェノール化合物の含有量が3000質量ppm以下であるポリオルガノシロキサンを用いることを特徴とするポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体の製造方法。
【0014】
【化2】

【0015】
[式(III)中、R3、R4、R5及びR6は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基もしくは炭素数6〜12のアリール基を示し、Yは下記式(IV)で表されるトリメチレン基を有するフェノール残基を示す。nは70〜1000を示す。
【0016】
【化3】

【0017】
〔式(IV)中、R7は炭素数1〜4のアルキル基もしくは炭素数1〜4のアルコキシ基を示し、mは0〜4の整数を示す。R7が複数ある場合それぞれ同一でも異なっていてもよい。〕]
7.アリル基を有するフェノール化合物が、アリルフェノール又はオイゲノールであることを特徴とする上記6に記載のポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明のPC−POS共重合体を用いることにより、PC−POS共重合体の耐衝撃性を維持しつつ、高温下での成形においても熱安定性に優れ、色調に優れた成形体を与えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体]
本発明のポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体(PC−POS共重合体)は、下記一般式(I)で表される構成単位からなるポリカーボネートブロック及び下記一般式(II)で表される構成単位からなるポリオルガノシロキサンブロックからなるポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体(A−1)であって、後述するとおり下記の(1)〜(4)を特徴とするものである。
(1)ポリオルガノシロキサンブロック部分の含有量が1〜30質量%である。
(2)一般式(II)の構成単位の平均繰り返し単位数が70〜1000である。
(3)共重合体の粘度平均分子量が13000〜26000である。
(4)共重合体中におけるアリル基を有するフェノール残基の含有量が400質量ppm以下である。
【0020】
【化4】

【0021】
式(I)中、R1及びR2は、それぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜6のアルコキシ基、Xは単結合、炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基、−S−、−SO−、−SO2−、−O−又は−CO−を示す。
式(II)中、R3及びR4は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基もしくは炭素数6〜12のアリール基を示し、a及びbはそれぞれ独立に0〜4の整数を示す。
【0022】
(PC−POS共重合体の製造方法)
本発明のPC−POS共重合体は、ポリカーボネートオリゴマーと下記一般式(III)で表されるアリル基を有するフェノール化合物で末端が変性されたポリオルガノシロキサンとを混合し、次いで、アルカリ性化合物の存在下、二価フェノールを反応させることにより製造することができる。
このとき用いるポリオルガノシロキサンは、ポリオルガノシロキサン中における未反応成分として残留するアリル基を有するフェノール化合物の含有量が3000質量ppm以下であることを要する。
【0023】
【化5】

【0024】
式(III)中、R3、R4、R5及びR6は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基もしくは炭素数6〜12のアリール基を示し、Yはアリル基を有するフェノール化合物から誘導される、下記式(IV)で表されるトリメチレン基を有するフェノール残基を示す。nは70〜1000を示す。
【0025】
【化6】

【0026】
上記式(IV)中、R7は炭素数1〜4アルキル基もしくは炭素数1〜4アルコキシ基を示し、mは0〜4の整数を示す。R7が複数ある場合それぞれ同一でも異なっていてもよい。好ましいトリメチレン基を有するフェノール残基としては、アリルフェノール残基及びオイゲノール残基であり、特に好ましいトリメチレン基を有するフェノール残基としては、下記の式で表される2−アリルフェノール残基及びオイゲノール残基である。
【0027】
【化7】

【0028】
PC−POS共重合体の製造に用いることができるポリカーボネートオリゴマーは、溶剤法、すなわち塩化メチレン等の溶剤中で公知の酸受容体、分子量調節剤の存在下、二価フェノールとホスゲンのようなカーボネート前駆体との反応又は二価フェノールとジフェニルカーボネートのようなカーボネート前駆体とのエステル交換反応によって製造することができる。ここで、二価フェノールとしては、様々なものがあるが、特に、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[通称:ビスフェノールA]が好適である。
【0029】
ビスフェノールA以外の二価フェノールとしては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン;2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン;2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン;2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン;2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン;ビス(4−ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン;1,1−ビス(4−ヒドロキシ−t−ブチルフェニル)プロパン;2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン;2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−テトラメチルフェニル)プロパン;2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−クロロフェニル)プロパン;2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−テトラクロロフェニル)プロパン;2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−テトラブロモフェニル)プロパン等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン;2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ノルボルネン等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、
【0030】
4,4’−ジヒドロキシフェニルエーテル;4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルフェニルエーテル等のジヒドロキシアリールエーテル類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド;4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド;4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン;4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類、4,4’−ジヒロキシジフェニル等のジヒドロキシジフェニル類、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン;9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン等のジヒドロキシジアリールフルオレン類、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン;2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン;1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−5,7−ジメチルアダマンタン等のジヒドロキシジアリールアダマンタン類、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、4,4’−[1,3−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスフェノール、10,10−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−9−アントロン、1,5−ビス(4−ヒドロキシフェニルチオ)−2,3−ジオキサペンタエン等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。さらに、分岐剤としての多官能性芳香族化合物を上記二価フェノールと併用して用いてもよい。本発明で使用されるポリカーボネートオリゴマーの分子量は、重量平均分子量(Mw)で、5000以下の範囲のものを好適に用いることができる。
また、PC−POS共重合体の製造に用いることができる二価フェノールとして、上記のポリカーボネートオリゴマーの製造において使用できる二価フェノールとして例示したものと同様のものを用いることができる。
【0031】
PC−POS共重合体の製造に用いることができるポリオルガノシロキサンとしては、末端が水素のポリオルガノシロキサンの末端を、アリル基を有するフェノール化合物で変性したものであり、前記一般式(III)で表される。末端がアリル基を有するフェノール化合物で変性されたポリオルガノシロキサンは、特許第2662310号公報に記載の方法により合成することができ、具体的には次のとおりである。
【0032】
末端が水素のポリオルガノシロキサンは、例えば、オクタメチルシクロテトラシロキサンとジシロキサンとを反応させて合成することができる。このとき、オクタメチルシクロテトラシロキサンとジシロキサンの量比により、ジメチルシロキシ単位の繰り返し数nを制御することができる。このように合成した末端が水素のポリジメチルシロキサンを、アリルフェノール等のアリル基を有するフェノール化合物と反応させることにより、末端がアリル基を有するフェノール化合物で変性されたポリオルガノシロキサンを合成することができる。
【0033】
本発明において、アリル基を有するフェノール化合物としては、例えば2−アリルフェノール、3−アリルフェノール、4−アリルフェノール、2−メトキシ−4−アリルフェノール〔オイゲノール〕、2−メトキシ−5−アリルフェノール、2−メトキシ−6−アリルフェノール等を挙げることができ、好ましくは2−アリルフェノール及びオイゲノールを用いることが望ましい。
なお、合成した両末端が変性されたポリオルガノシロキサン中には、未反応の原料が残留しているため、真空蒸留等の方法により取り除く必要がある。
【0034】
ここで、本発明において、PC−POS共重合体の製造に用いるポリオルガノシロキサンは、前記したようにポリオルガノシロキサン中における、未反応成分として残留するアリル基を有するフェノール化合物の含有量が3000質量ppm以下であることを要する。
PC−POS共重合体の製造において、原料の両末端が変性されたポリオルガノシロキサン中に未反応のアリル基を有するフェノール化合物が混入すると、この未反応のアリル基を有するフェノール化合物のフェノール性水酸基が、ポリカーボネートオリゴマーのクロロホーメートと反応して末端停止剤として作用し、アリル基を有するフェノール残基としてPC−POS共重合体の末端に取り込まれるものと考えられる。このアリル基を有するフェノール残基を一定の量含有するPC−POS共重合体を用いて高温下で成形すると成形体の黄変等の問題が生じる。このような問題を改善するためには、ポリオルガノシロキサン中における未反応成分として残留するアリル基を有するフェノール化合物の含有量を3000質量ppm以下とすることが重要である。
【0035】
通常、上述のようなポリオルガノシロキサンの合成において、脱揮による揮発分除去が汎用的に行われるが、これらは主にオクタメチルシクロテトラシロキサン(沸点171℃)の除去を目的にするものである。
一方で、アリルフェノール(沸点220℃)、オイゲノール(254℃)のように比較的高沸点のアリル基を有するフェノール化合物を脱揮により除去することは容易でなく、特に、ポリオルガノシロキサン鎖長が70を超えるような場合、ポリオルガノシロキサン自体の粘度が高くなるため、脱揮によるアリル基を有するフェノール化合物の除去は困難であり、15000質量ppm程度が残留してしまう。また、水性メタノールによる除去が知られているが、本方法でもポリオルガノシロキサンからアリル基を有するフェノール化合物のみを選択的に2000質量ppm以下まで低減することは困難である。
【0036】
上記のような状況において、本発明者らは、アリル基を有するフェノール化合物の除去には、アルカリ水溶液による抽出が最も効率が良いことを見出した。
アルカリ水溶液としては、例えば水酸化ナトリウム水溶液が使用可能である。アルカリ水溶液による抽出を繰り返すことでポリオルガノシロキサンの粘度に関係なく100質量ppm以下まで低減できる。
また、抽出回数は必要とするアリル基を有するフェノール化合物の除去量により決まるが、例えば2回の洗浄によりポリオルガノシロキサン中のアリル基を有するフェノール化合物の量は2000質量ppm以下と十分低い量まで低減できる。
【0037】
本発明において、PC−POS共重合体の製造に用いることができるポリオルガノシロキサンの具体例としては、下記の式(a)〜(c)で表わされる化合物が挙げられる。
【0038】
【化8】

【0039】
上記の式(a)〜(c)において、R3〜R6及びnは前記のとおりである。
上記の式(a)の中でも、(b)に示されるα,ω−ビス[3−(2−ヒドロキシフェニル)プロピル]ポリジメチルシロキサン、または(c)式に示されるα,ω−ビス[3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)プロピル]ポリジメチルシロキサンが入手の容易さから好ましい。
【0040】
(PC−POS共重合体の特徴)
上述の製造方法により得られる本発明のPC−POS共重合体は、(1)ポリオルガノシロキサンブロック部分の含有量が1〜30質量%であることを特徴とするものであり、好ましくは1〜20質量%である。
該含有量が1質量%よりも少なくなると耐落下衝撃強度向上の効果が十分ではなく、30質量%を超えると耐熱性の低下が大きくなるほか、難燃性も低下する。
上記ポリオルガノシロキサンブロック部分の含有量の制御は、PC−POS共重合体の製造で使用するビスフェノールAのような二価フェノール(ポリカーボネートオリゴマーを含む)に対する、末端が変性されたポリオルガノシロキサンの使用割合でコントロールすることが可能である。末端が変性されたポリオルガノシロキサンの使用割合は、通常、二価フェノールに対して1〜40質量%、好ましくは1〜25質量%用いればよい。
【0041】
上述の製造方法により得られる本発明のPC−POS共重合体は、(2)一般式(II)の構成単位の平均繰り返し単位数〔前記一般式(III)のオルガノシロキサン構成単位の繰り返し数を表すn〕が70〜1000であることを特徴とするものであり、好ましくは70〜700であり、70〜500であることがより好ましい。
nが70よりも小さいと耐落下衝撃強度の向上効果が十分ではなく、1000を超えるとPC−POS共重合体を製造する際のハンドリングが難しくなり経済性に劣る。
【0042】
上述の製造方法により得られる本発明のPC−POS共重合体は、(3)共重合体の粘度平均分子量が13000〜26000であることを特徴とするものであり、好ましくは13000〜25000であり、13000〜24000であることがより好ましい。
粘度平均分子量が13000よりも小さいと成形品の強度が十分ではなく、26000を超えると生産性が低下する傾向がある。
【0043】
上述の製造方法により得られる本発明のPC−POS共重合体は、(4)共重合体中におけるアリル基を有するフェノール残基の含有量が400質量ppm以下であることを特徴とするものであり、好ましくは250質量ppm以下であり、100質量ppm以下であることがより好ましい。
先述したとおり共重合体中におけるアリル基を有するフェノール残基とは、ポリオルガノシロキサン中における未反応のアリル基を有するフェノール化合物が末端停止剤として作用し、アリル基を有するフェノール残基としてPC−POS共重合体の末端に取り込まれたものであるが、この共重合体中におけるアリル基を有するフェノール残基の含有量が400質量ppmを超えると高温下での成形においてPC−POS共重合体に熱分解反応によると思われる黄変が発生する。
【0044】
PC−POS共重合体中におけるアリル基を有するフェノール残基の測定は、PC−POS共重合体をアルカリで加水分解し、その加水分解物を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析することにより可能である。具体的な分析方法は以下の通りである。
〔1〕ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体2gを塩化メチレン50mlに溶解する。
〔2〕1mol/L KOHメタノール溶液5mlを加え、5分攪拌する。
〔3〕純水40mlを加え固形分を溶解する。
〔4〕塩酸にて中和後、有機相を採取し濃縮する。
〔5〕アセトニトリルにて定容後、HPLC(日本分光株式会社製、展開溶媒はアセトニトリル/水グラジエント)にて分析する。
【0045】
[ポリカーボネート樹脂]
本発明のポリカーボネート樹脂(PC樹脂)は、前述のポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体(A−1)100質量部及び(A−1)以外の芳香族ポリカーボネート(A−2)0〜90質量部からなるポリカーボネート樹脂であり、該ポリカーボネート樹脂中におけるアリル基を有するフェノール残基の含有量が200質量ppm以下であることを特徴とするものである。
(A−2)成分の芳香族ポリカーボネート中には、アリル基を有するフェノール化合物は含まれないため、(A−1)成分中におけるアリル基を有するフェノール残基の量が仮に200〜400質量ppmであっても、(A−2)成分とブレンドすることにより、PC樹脂全体としてアリル基を有するフェノール残基の含有量が200質量ppm以下であれば、本発明の効果を得ることができる。
【0046】
(芳香族ポリカーボネート(A−2))
(A−2)成分の芳香族ポリカーボネートは、アリル基を有するフェノール化合物を含まない(A−1)以外の芳香族ポリカーボネートであれば特に制限はない。
例えば、反応に不活性な有機溶媒、アルカリ水溶液の存在下、二価フェノール系化合物及びホスゲンと反応させた後、第三級アミンもしくは第四級アンモニウム塩等の重合触媒を添加して重合させる界面重合法や、二価フェノール系化合物をピリジン又はピリジンと不活性溶媒の混合溶液に溶解し、ホスゲンを導入し直接製造するピリジン法等従来の芳香族ポリカーボネートの製造法により得られるものが使用される。上記の反応に際し、必要に応じて、分子量調節剤(末端停止剤)、分岐化剤などが使用される。
【0047】
(A−2)成分の芳香族ポリカーボネートの製造に使用される二価フェノール系化合物としては、前述した(A−1)PC−POS共重合体の製造において説明した、ポリカーボネートオリゴマーの製造に使用できる二価フェノールとして例示したものと同様のものを用いることができる。
(A−2)成分の製造に使用することができる分子量調節剤としては通常、PC樹脂の重合に用いられるものなら、各種のものを用いることができる。具体的には、一価フェノールとして、例えば、フェノール、o−n−ブチルフェノール、m−n−ブチルフェノール、p−n−ブチルフェノール、o−イソブチルフェノール、m−イソブチルフェノール、p−イソブチルフェノール、o−t−ブチルフェノール、m−t−ブチルフェノール、p−t−ブチルフェノール、o−n−ペンチルフェノール、m−n−ペンチルフェノール、p−n−ペンチルフェノール、o−n−ヘキシルフェノール、m−n−ヘキシルフェノール、p−n−ヘキシルフェノール、p−t−オクチルフェノール、o−シクロヘキシルフェノール、m−シクロヘキシルフェノール、p−シクロヘキシルフェノール、o−フェニルフェノール、m−フェニルフェノール、p−フェニルフェノール、o−n−ノニルフェノール、m−ノニルフェノール、p−n−ノニルフェノール、o−クミルフェノール、m−クミルフェノール、p−クミルフェノール、o−ナフチルフェノール、m−ナフチルフェノール、p−ナフチルフェノール、2,5−ジ−t−ブチルフェノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノール、3,5−ジ−t−ブチルフェノール、2,5−ジクミルフェノール、3,5−ジクミルフェノール、p−クレゾール、ブロモフェノール、トリブロモフェノール、平均炭素数12〜35の直鎖状又は分岐状のアルキル基をオルト位、メタ位又はパラ位に有するモノアルキルフェノール、9−(4−ヒドロキシフェニル)−9−(4−メトキシフェニル)フルオレン、9−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−9−(4−メトキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、4−(1−アダマンチル)フェノール等が挙げられる。これらの一価フェノールのなかでは、p−t−ブチルフェノール、p−クミルフェノール、p−フェニルフェノール等が好ましく用いられる。これらの一価フェノールは、それぞれ単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0048】
さらに分岐化剤を前記の二価フェノール系化合物に対して、0.01〜3モル%程度、特に0.1〜1.0モル%の範囲で併用して分岐化ポリカーボネートとすることができる。
分岐化剤としては、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、4,4’−[1−[4−[1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル]フェニル]エチリデン]ビスフェノール、α,α’,α”−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリイソプロピルベンゼン、1−[α−メチル−α−(4’−ヒドロキシフェニル)エチル]−4−[α’,α’−ビス(4”−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン、フロログリシン、トリメリト酸、イサチンビス(o−クレゾール)等の官能基を3つ以上有する化合物を用いることができる。
【0049】
(添加剤)
本発明のPC樹脂には所望に応じて、従来、PC樹脂に公知の種々の添加剤が配合可能であり、添加剤としては酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、充填剤、染料、顔料、難燃剤や耐衝撃性改良等が挙げられる。
【0050】
(混練方法及び成形方法)
上記ポリカーボネート樹脂は、前記の(A−1)成分、(A−2)成分及び所望に応じて用いられる各種添加剤を配合し、混練する。該配合、混練は通常用いられている方法、例えば、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、ドラムタンブラー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、コニーダ、多軸スクリュー押出機等を用いる方法により行うことができる。そして、混練に際しての加熱温度は、通常250〜300℃の範囲で選ばれる。
また、PC樹脂は、既知の種々の成形方法、例えば、射出成形、中空成形、押出成形、圧縮成形、カレンダー成形、回転成形等を適用して成形体とすることができる。
【実施例】
【0051】
実施例により本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
[ポリジメチルシロキサン(PDMS−1)の合成例1]
1483gのオクタメチルシクロテトラシロキサン、30.0gの1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン及び35gの86質量%硫酸を混合し、室温で17時間撹拌した。オイル相を分離し、25gの炭酸水素ナトリウムを加え、1時間撹拌し中和した。濾過後、150℃、400Paで真空蒸留し、低分子量ポリオルガノシロキサンを主とする揮発分を留去した。
59gの2−アリルフェノールと0.0014gの塩化白金−アルコラート錯体としてのプラチナとの混合物に、294gの上記で得られたオイルを90℃の温度で添加した。この混合物を90℃から115℃の温度に保ちながら3時間撹拌した。
生成物を塩化メチレン10Lに溶解後、0.3mol/L NaOH水溶液1.5Lで2回洗浄し、中和のため2質量%リン酸1.5Lで洗浄し、さらに水で1回洗浄した。30℃〜40℃とし、減圧下で塩化メチレンを濃縮留去し、さらに減圧下で60℃の温度で塩化メチレンを留去した。
核磁気共鳴(NMR)測定及びLC測定によれば、得られた2−アリルフェノール変性PDMSのジメチルシロキシ単位の繰り返し数は90であり、2−アリルフェノール変性PDMS中の2−アリルフェノール量は1000質量ppmであった。
【0052】
[PDMS−2の合成例2]
0.3mol/L NaOH水溶液による洗浄回数を3回とした以外は合成例1と同じ。
得られた2−アリルフェノール変性PDMSのジメチルシロキシ単位の繰り返し数は90であり、2−アリルフェノール変性PDMS中の2−アリルフェノール量は100質量ppm未満であった。
[PDMS−3の合成例3]
0.3mol/L NaOH水溶液による洗浄回数を1回とし、塩化メチレンを留去する工程を真空下で200℃とした以外は合成例1と同じ。
得られた2−アリルフェノール変性PDMSのジメチルシロキシ単位の繰り返し数は90であり、2−アリルフェノール変性PDMS中の2−アリルフェノール量は2500質量ppmであった。
[PDMS−4の合成例4]
合成例1において、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンを38.0gとした。
核磁気共鳴(NMR)測定及びLC測定によれば、得られた2−アリルフェノール変性PDMSのジメチルシロキシ単位の繰り返し数は70であり、2−アリルフェノール変性PDMS中の2−アリルフェノール量は800質量ppmであった。
【0053】
[PDMS−5の合成例5]
合成例1において、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンを18.0gとした。
核磁気共鳴(NMR)測定及びLC測定によれば、得られた2−アリルフェノール変性PDMSのジメチルシロキシ単位の繰り返し数は150であり、2−アリルフェノール変性PDMS中の2−アリルフェノール量は1100質量ppmであった。
[PDMS−6の合成例6]
合成例1の生成物を塩化メチレン10Lに溶解後の精製工程において、80質量%の水性メタノールで3回洗浄した。その生成物を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、真空中で115℃の温度で溶剤を留去した。
得られた2−アリルフェノール変性PDMSのジメチルシロキシ単位の繰り返し数は90であり、2−アリルフェノール変性PDMS中の2−アリルフェノール量は15300質量ppmであった。
【0054】
[PDMS−7の合成例7]
1483gのオクタメチルシクロテトラシロキサン、18.1gの1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン及び35gの86質量%硫酸を混合し、室温で17時間撹拌した。その後オイル相を分離し、25gの炭酸水素ナトリウムを加え、1時間撹拌した。その後濾過し、150℃、400Paで真空蒸留し、低沸点物を除いた。
59gの2−アリルフェノールと0.0014gの塩化白金−アルコラート錯体としてのプラチナとの混合物に、294gの上記で得られたオイルを90℃の温度で添加した。この混合物を90℃から115℃の温度に保ちながら3時間撹拌した。生成物を真空中で200℃の温度で攪拌し、揮発分を除去した。
得られた末端2−アリルフェノール変性PDMSのジメチルシロキシ単位の繰り返し数は90であり、2−アリルフェノール変性PDMS中の2−アリルフェノール量は14200質量ppmであった。
【0055】
[PDMS−8の合成例8]
合成例1において、59gの2−アリルフェノールの代わりに、72gのオイゲノールを用いた。
得られた末端オイゲノール変性PDMSのジメチルシロキシ単位の繰り返し数は90であり、オイゲノール変性PDMS中のオイゲノール量は1000質量ppmであった。
[PDMS−9の合成例9]
0.3mol/L NaOH水溶液による洗浄回数を3回とした以外は合成例8と同じ。
得られた末端オイゲノール変性PDMSのジメチルシロキシ単位の繰り返し数は90であり、オイゲノール変性PDMS中のオイゲノール量は100質量ppm未満であった。
[PDMS−10の合成例10]
合成例3において、59gの2−アリルフェノールの代わりに、72gのオイゲノールを用いた。
得られた末端オイゲノール変性PDMSのジメチルシロキシ単位の繰り返し数は90であり、オイゲノール変性PDMS中のオイゲノール量は16000質量ppmであった。
【0056】
[ポリカーボネートオリゴマーの合成例]
5.6質量%水酸化ナトリウム水溶液に後から溶解するBPAに対して2000質量ppmの亜二チオン酸ナトリウムを加え、これにBPA濃度が13.5質量%になるようにBPAを溶解し、BPAの水酸化ナトリウム水溶液を調製した。
このBPAの水酸化ナトリウム水溶液40L/hr、塩化メチレン15L/hrの流量で、ホスゲンを4.0kg/hrの流量で内径6mm、管長30mの管型反応器に連続的に通した。管型反応器はジャケット部分を有しており、ジャケットに冷却水を通して反応液の温度を40℃以下に保った。
管型反応器を出た反応液は後退翼を備えた内容積40Lのバッフル付き槽型反応器へ連続的に導入され、ここにさらにBPAの水酸化ナトリウム水溶液2.8L/hr、25質量%水酸化ナトリウム水溶液0.07L/hr、水17L/hr、1質量%トリエチルアミン水溶液を0.64L/hr添加して反応を行なった。槽型反応器から溢れ出る反応液を連続的に抜き出し、静置することで水相を分離除去し、塩化メチレン相を採取した。
このようにして得られたポリカーボネートオリゴマーは濃度318g/L、クロロホーメート基濃度0.75mol/Lであった。また、その重量平均分子量(Mw)は、1190であった。なお、重量平均分子量(Mw)は、展開溶媒としてTHF(テトラヒドロフラン)を用い、GPC〔カラム:TOSOH TSK-GEL MULTIPORE HXL-M(2本)+Shodex KF801(1本)、温度40℃ 流速1.0ml/分、検出器:RI〕にて、ポリスチレン換算分子量(重量平均分子量:Mw)として測定した。
【0057】
[PC−PDMS共重合体(PC−1)の製造例1]
邪魔板、パドル型攪拌翼及び冷却用ジャケットを備えた50L槽型反応器に上記で製造したポリカーボネートオリゴマー溶液15L、塩化メチレン8.9L、ジメチルシロキシ単位の繰返し数が90である2−アリルフェノール末端変性PDMS(PDMS−1)320g及びトリエチルアミン8.8mL、を仕込み、攪拌下でここに6.4質量%水酸化ナトリウム水溶液1389gを加え、10分間ポリカーボネートオリゴマーと2−アリルフェノール末端変性PDMSの反応を行った。
この重合液に、p−t−ブチルフェノール(PTBP)の塩化メチレン溶液(PTBP137.9gを塩化メチレン2.0Lに溶解したもの)、BPAの水酸化ナトリウム水溶液(NaOH581gと亜二チオン酸ナトリウム2.3gを水8.5Lに溶解した水溶液にBPA1147gを溶解させたもの)を添加し50分間重合反応を実施した。希釈のため塩化メチレン10Lを加え10分間攪拌した後、ポリカーボネートを含む有機相と過剰のBPA及びNaOHを含む水相に分離し、有機相を単離した。
こうして得られたPC−PDMS共重合体の塩化メチレン溶液を、その溶液に対して順次、15容積%の0.03mol/L NaOH水溶液、0.2mol/L塩酸で洗浄し、次いで洗浄後の水相中の電気伝導度が0.01μS/m以下になるまで純水で洗浄を繰り返した。洗浄により得られたPC−PDMS共重合体の塩化メチレン溶液を濃縮・粉砕し、得られたフレークを減圧下120℃で乾燥した。
NMRにより求めたPDMS残基の量は5.0質量%、ISO1628−4(1999)に準拠して測定した粘度数は47.0、粘度平均分子量Mv=17500であった。また、PC−PDMS共重合体中におけるアリル基を有するフェノール残基の量は100質量ppm未満であった。
【0058】
[PC−PDMS共重合体(PC−2〜PC−14)の製造例2〜14]
PDMSの種類、PDMSの使用量を表2に記載のとおりに変更し、PC−PDMS共重合体(PC−2〜PC−14)を製造した。得られたPC−PDMS共重合体におけるPDMS残基の量、粘度数、粘度平均分子量Mv、アリル基を有するフェノール残基の量を表2に示す。
【0059】
実施例1〜11、比較例1〜5
[PC樹脂の製造]
表3に記載のとおり、製造例1〜14で得られたPC−PDMS共重合体(A−1)、(A−1)以外のポリカーボネート(A−2)、及びIRGAFOS168(商品名、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製)0.10質量部をブレンドし、ベント付き40mmφの単軸押出機によって樹脂温度280℃で造粒しペレットを得た。得られたペレットを用いて、下記の評価試験を行なった。結果は表3に記載のとおりである。
なお、(A−2)成分として用いたポリカーボネートは、FN1500A(商品名、出光興産株式会社製 ビスフェノールAポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量14,500)、FN1700A(商品名、出光興産株式会社製 ビスフェノールAポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量17,500)、FN2600A(商品名、出光興産株式会社製 ビスフェノールAポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量26,500)である。
【0060】
[評価試験]
(1)ΔYI
得られたペレットについて、射出成形により以下のように滞留熱安定性試験を行い、得られた成形品の各YI値を測定し、滞留時間が3分の時のYI値(YIA)と滞留時間が20分の時のYI値(YIB)との差をΔYIとして求めた。
〈射出成形〉
射出成形機:東芝機械工業株式会社製 EC−40(商品名)
成形品形状:80mm×40mm×3.2mm
成形機シリンダー温度:380℃
シリンダー内滞留時間:3分または20分
金型温度:80℃
〈YI測定〉
日本電色工業株式会社製の分光測色計Σ90で測定面積30φ、C2光源の透過法で測定した。
(2)Izod衝撃強さ
JIS−K−7110に準拠しノッチ付きアイゾッド衝撃強さを測定した。
(3)熱変形温度(HDT)
ASTM D648に準拠し、荷重0.45MPaで測定した。
HDTは、耐熱性の目安を示すものである。
(4)粘度平均分子量(Mv)
ウベローデ型粘度管にて、20℃における塩化メチレン溶液の極限粘度〔η〕を測定し、次の関係式(Schnellの式)より計算した。〔η〕=1.23×10-5×Mv0.83
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体を用いることにより、高温下での成形においても熱安定性に優れ、色調に優れるという特性を有する成形体を与えることができる。そのため、本発明は上記特性を必要とする広い分野に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される構成単位からなるポリカーボネートブロック及び下記一般式(II)で表される構成単位からなるポリオルガノシロキサンブロックからなるポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体(A−1)であって、
(1)ポリオルガノシロキサンブロック部分の含有量が1〜30質量%であり、
(2)一般式(II)の構成単位の平均繰り返し単位数が70〜1000であり、
(3)共重合体の粘度平均分子量が13000〜26000であり、
(4)共重合体中におけるアリル基を有するフェノール残基の含有量が400質量ppm以下である
ことを特徴とするポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体。
【化1】

[式中、R1及びR2は、それぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜6のアルコキシ基、Xは単結合、炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基、−S−、−SO−、−SO2−、−O−又は−CO−、R3及びR4は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基もしくは炭素数6〜12のアリール基を示し、a及びbは、それぞれ独立に0〜4の整数を示す。]
【請求項2】
アリル基を有するフェノール残基がアリルフェノール残基又はオイゲノール残基である請求項1に記載のポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体。
【請求項3】
一般式(I)で表される構成単位が、ビスフェノールAから誘導された構成単位である請求項1に記載のポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体。
【請求項4】
一般式(II)で表される構成単位中のR3及びR4が共にメチル基である請求項1に記載のポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体。
【請求項5】
請求項1に記載のポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体(A−1)100質量部及び(A−1)以外の芳香族ポリカーボネート(A−2)0〜90質量部からなるポリカーボネート樹脂であり、該ポリカーボネート樹脂中におけるアリル基を有するフェノール残基の含有量が200質量ppm以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂。
【請求項6】
ポリカーボネートオリゴマーと下記一般式(III)で表されるアリル基を有するフェノール化合物で末端が変性されたポリオルガノシロキサンとを混合し、次いで、アルカリ性化合物の存在下、二価フェノールを反応させるポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体の製造方法において、該ポリオルガノシロキサン中におけるアリル基を有するフェノール化合物の含有量が3000質量ppm以下であるポリオルガノシロキサンを用いることを特徴とするポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体の製造方法。
【化2】

[式(III)中、R3、R4、R5及びR6は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基もしくは炭素数6〜12のアリール基を示し、Yは下記式(IV)で表されるトリメチレン基を有するフェノール残基を示す。nは70〜1000を示す。
【化3】

〔式(IV)中、R7は炭素数1〜4のアルキル基もしくは炭素数1〜4のアルコキシ基を示し、mは0〜4の整数を示す。R7が複数ある場合それぞれ同一でも異なっていてもよい。〕]
【請求項7】
アリル基を有するフェノール化合物が、アリルフェノール又はオイゲノールであることを特徴とする請求項6に記載のポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体の製造方法。

【公開番号】特開2011−122048(P2011−122048A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280453(P2009−280453)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】