説明

ポリカーボネート樹脂押出発泡体の製造方法及びポリカーボネート樹脂押出発泡体

【課題】熱伝導率が小さく断熱性に優れると共に、その優れた断熱性を長期間維持でき、かつ高い機械的強度を有するポリカーボネート樹脂押出発泡体の製造方法、及びポリカーボネート樹脂押出発泡体を提供する。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂及び発泡剤を混練してなる発泡性溶融樹脂を押出発泡させてポリカーボネート樹脂押出発泡体を製造する方法であって、
前記ポリエステル樹脂が、環状エーテル骨格を有するグリコール成分単位をジオール成分単位中に25〜50モル%含有するジオール成分単位と、ジカルボン酸成分単位とからなるポリエステル共重合体であり、該ポリエステル樹脂の配合割合がポリカーボネート樹脂100重量部に対して5〜100重量部であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂押出発泡体の製造方法及びポリカーボネート樹脂押出発泡体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐熱性、酸素指数が高く、電気的及び機械的特性も良好であることから、自動車分野や建築、土木分野へ広く利用されている。特にポリカーボネート樹脂発泡体は、耐熱性、難燃性及び優れた機械的特性の要求される建材用途の軽量構造材料、断熱材、内装材等の幅広い用途への展開が期待されている。
【0003】
近年、地球環境保全の観点から合成樹脂発泡体の断熱性能をさらに向上させることが要望されている。発泡体の断熱性を高めることができ、さらにオゾン破壊係数がゼロであって地球温暖化係数も小さく、発泡特性にも優れることから、合成樹脂発泡体の発泡剤として炭化水素が好適に使用されているが、炭化水素は発泡体内から徐々に逸散して、発泡体の断熱性が経時と共に徐々に低下していくため、長期に亘る断熱性の維持も望まれている。
【0004】
発泡体の断熱性を向上させる手段として、発泡体の発泡倍率を高めることや、気泡を微細化することが挙げられる。また、発泡体の気泡形状を扁平化することにより断熱性を向上させることもできる。
【0005】
しかしながら、ポリカーボネート樹脂は、流動開始温度が高いことから、ポリカーボネート樹脂押出発泡体を製造するには、高温高圧条件下における押出発泡が強いられ、さらにこのような条件下では溶融張力が小さいために、従来ポリスチレンなどの汎用樹脂に対して実施されている押出発泡法では所望の発泡体を得ること自体が難しく、ポリカーボネート樹脂の押出発泡においては、過度な高発泡倍率化や、気泡の過度な微細化は発泡成形に支障をきたすことがある。また、発泡体の気泡形状を扁平化していくと圧縮強さなどの機械的強度が低下する傾向にあり、機械的強度を損なうことなく断熱性を向上させることは容易ではなかった。
【0006】
ポリカーボネート樹脂の押出発泡性を改良する方法として、溶融粘度や溶融張力が特定の値を有するポリカーボネート樹脂を発泡剤と共に押出発泡してポリカーボネート樹脂押出発泡体を得る方法、例えば、特許文献1、特許文献2や特許文献3等がある。また、特許文献4には、ポリカーボネート樹脂として、エポキシ基を有するアクリル系共重合体からなる増粘剤を用いて変性したポリカーボネート樹脂を用いることにより、高発泡倍率で断面積が大きい板状発泡体であって、幅方向端部の圧縮強度が大きい板状発泡体が得られることが開示されている。しかし、断熱性の向上という点ではさらに改善の余地を残すものであった。
【0007】
特許文献5には、ポリカーボネート樹脂にポリエステル樹脂及び架橋剤を配合し、ポリエステル樹脂に架橋構造を導入することにより、ポリカーボネート樹脂の溶融粘度、溶融張力及び弾性特性を改善して発泡性を向上させ、独立気泡率の高いポリカーボネート樹脂押出発泡シートを製造する方法が開示されているが、厚みが大きく、高い発泡倍率の押出発泡体を得るには不十分であり、さらに断熱性の向上を目的とするものでもなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3692411号公報
【特許文献2】特開平11−254502号公報
【特許文献3】特開2006−199879号公報
【特許文献4】特開2008−144084号公報
【特許文献5】特許第3448758号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、熱伝導率が小さく断熱性に優れると共に、その優れた断熱性を長期間維持でき、かつ高い機械的強度を有するポリカーボネート樹脂押出発泡体を得ることができる製造方法、及び熱伝導率が小さく断熱性に優れると共に、その優れた断熱性を長期間維持でき、かつ高い機械的強度を有するポリカーボネート樹脂押出発泡体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を成すべく、ポリカーボネート樹脂押出発泡体について、検討を行った結果、ポリカーボネート樹脂に対して特定のポリエステル樹脂を配合した混合物を押出発泡させることにより、熱伝導率が小さく長期間に亘る優れた断熱性を有し、かつ機械的強度に優れるポリカーボネート樹脂押出発泡体が得られることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、下記の(1)〜(4)を要旨とする。
(1)ポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂及び発泡剤を混練してなる発泡性溶融樹脂を押出発泡させてポリカーボネート樹脂押出発泡体を製造する方法であって、
前記ポリエステル樹脂が、環状エーテル骨格を有するグリコール成分単位をジオール成分単位中に25〜50モル%含有するジオール成分単位と、ジカルボン酸成分単位とからなるポリエステル共重合体であり、該ポリエステル樹脂の配合割合がポリカーボネート樹脂100重量部に対して5〜100重量部であることを特徴とするポリカーボネート樹脂押出発泡体の製造方法。
【0012】
(2)前記ポリエステル樹脂を構成するジオール成分が、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン成分単位25〜50モル%とエチレングリコール成分単位75〜50モル%(ただし、両者の合計100モル%)とからなり、ジカルボン酸成分がテレフタル酸成分単位からなることを特徴とする上記(1)記載のポリカーボネート樹脂押出発泡体の製造方法。
【0013】
(3)前記ポリエステル樹脂が、JIS K7122(1987)に準拠する熱流束示差走査熱量測定により、該ポリエステル樹脂を300℃で10分間保持した後10℃/分の冷却速度で冷却した際に得られるDSC曲線に基づくポリエステル樹脂の結晶化に伴う発熱ピーク熱量が5J/g以下(0も含む。)であることを満足する樹脂であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載のポリカーボネート樹脂押出発泡体の製造方法。
【0014】
(4)ポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂との混合樹脂からなる、密度40〜300kg/m、厚み10mm以上の板状の押出発泡体であって、前記ポリエステル樹脂が、環状エーテル骨格を有するグリコール成分単位をジオール成分単位中に25〜50モル%含有するジオール成分単位と、ジカルボン酸成分単位とからなるポリエステル共重合体であり、該ポリエステル樹脂の配合割合がポリカーボネート樹脂100重量部に対して5〜100重量部であることを特徴とするポリカーボネート樹脂押出発泡体。
【発明の効果】
【0015】
本発明のポリカーボネート樹脂押出発泡体の製造方法は、ポリカーボネート樹脂に特定のポリエステル樹脂を配合して押出発泡することにより、従来のポリカーボネート樹脂発泡体に比べ、熱伝導率が小さく長期間に亘る断熱性に優れ、高い機械的強度を有するポリカーボネート樹脂押出発泡体を得ることができる。
また、本発明のポリカーボネート系樹脂発泡体は、従来のポリカーボネート樹脂発泡体に比べ、熱伝導率が小さく長期間に亘る断熱性に優れ、高い機械的強度を有し、軽量構造材料や断熱材などの建築用途に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のポリカーボネート樹脂押出発泡体の製造方法は、環状エーテル骨格を有するグリコール成分単位をジオール成分単位中に25〜50モル%含有するジオール成分単位と、ジカルボン酸成分単位とからなるポリエステル樹脂を、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して5〜100重量部配合し、発泡剤と共に混練して発泡性溶融樹脂とし、該発泡性溶融樹脂を押出発泡することによって発泡体を製造する方法である。
【0017】
本発明の方法により得られる特定のポリエステル樹脂を配合したポリカーボネート樹脂押出発泡体は、前記ポリエステル樹脂を配合しないポリカーボネート樹脂単独発泡板に比べ熱伝導率が低くなる。一般的に固体状態の非発泡の樹脂では、熱は主に熱伝導の形で固体中を伝わる。そのため、非発泡の樹脂の熱伝導率は樹脂自体の熱伝導率により決定される。これに対して、発泡体では樹脂自体の熱伝導の外に、発泡体気泡中の気体(残存発泡剤及び空気等の大気成分)による熱伝導及びその対流によっても熱が伝わる。さらに、発泡体において気泡は幾重にもわたって形成されていることから気泡膜間の赤外線の輻射によっても熱が伝わる。ポリカーボネート樹脂に前記ポリエステル樹脂を配合した発泡体では、前記ポリエステル樹脂の赤外線の吸収により、この輻射による伝熱を低減する効果が向上し輻射伝熱を小さくすることで断熱性が向上しているものと推測される。
【0018】
また、本発明の方法により得られた押出発泡体のガスバリア性が向上したことも断熱性が向上した要因のひとつと推察される。本発明に使用される環状エーテル骨格を有する特定のポリエステル樹脂の酸素、窒素、炭化水素などのガス透過速度は、ポリエチレンテレフタレートなどの一般的な結晶性ポリエステル樹脂よりも数倍高く、発泡延伸によるガスバリア性向上効果も殆ど期待できないことから、通常は、発泡体からの発泡剤の散逸および発泡体への空気の流入の抑制には、そのようなポリエステル樹脂を配合することが効果的とは考え難い。
【0019】
しかしながら、本発明のように基材樹脂として主成分であるポリカーボネート樹脂に特定のポリエステル樹脂を特定量配合した場合には、意外にも、発泡体の気泡内への空気の流入を抑制、炭化水素などの徐放型の発泡剤を使用した場合には発泡体からの発泡剤の散逸を抑制するに足る十分なガスバリア性を発現することにより、発泡体の断熱性が向上することが分かった。このガスバリア性の発現については定かではないが、ポリカーボネート樹脂と本発明に使用されるポリエステル樹脂とが相溶性に優れることから、該ポリエステル樹脂がポリカーボネート樹脂中に良好に微分散することにより起こるガス透過遮蔽効果によるものと考えられる。
【0020】
また、本発明の製造方法で得られるポリカーボネート樹脂押出発泡体は、圧縮強さなどの機械的物性がポリカーボネート樹脂単独の発泡体に比べて格段に向上している。本発明で使用される特定のポリエステル樹脂の弾性率等の機械的物性は、ポリカーボネート樹脂の機械的物性と大きくは変わらないことから、発泡体の機械的物性が向上した要因は、特定のポリエステル樹脂をポリカーボネート樹脂に配合することにより、押出時の樹脂溶融物の溶融粘弾性が改良され発泡成形性が格段に向上したことによって、発泡時に気泡膜が十分に延伸されたことによるものと推察される。
【0021】
本発明における基材樹脂について、以下に詳述する。
(1)ポリカーボネート樹脂
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂は、例えば、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物を原料として、アルカリ金属化合物触媒のもとにエステル交換反応法により製造される芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましく用いられる。エステル交換反応法において、原料の芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば下記のようなものが例示される。
具体的には、2,2−ビス(ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3、5−ジメチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン(=テトラブロモビスフェノールA)、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、3,3’−5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシフェニル、4−ヒドロキシフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、 ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。これらのうち、エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3、5−ジメチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン(=テトラブロモビスフェノールA)などが好ましい。
【0022】
上記炭酸ジエステルは、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等で代表される置換ジフェニルカーボネートやジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−t−ブチルカーボネート等で代表されるジアルキルカーボネートが挙げられる。
【0023】
(2)ポリエステル樹脂
本発明で用いられるポリエステル樹脂(以下、ポリエステル樹脂Aという。)は、環状エーテル骨格を有するグリコール成分単位をジオール成分単位中に25〜50mol%含むジオール成分単位とジカルボン酸成分単位とからなるポリエステル共重合体である。環状エーテル骨格を有するグリコール成分単位の比率が小さすぎると、ポリカーボネート樹脂との相溶性が不足するためか、押出発泡体の断熱性、機械的物性を向上させるという所期の目的を達成することができない。一方、該成分単位の比率が大きすぎると、発泡中にポリエステル樹脂の結晶化が進行しやすくなるためか、良好な発泡体を安定して得ることが難しくなる。かかる観点から、環状エーテル骨格を有するグリコール成分単位の比率は、ジオール成分単位中に30〜45mol%であることが好ましい。また、本発明の目的を達成する上で、環状エーテル骨格を有するグリコール成分単位としては環状アセタール骨格を有するグリコール成分単位が好ましい。
【0024】
ポリカーボネート樹脂に対するポリエステル樹脂Aの配合割合は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して5〜100重量部である。ポリエステル樹脂Aの配合量が少なすぎると、押出発泡体の断熱性、機械的物性を向上させる効果が得られない。一方、配合量が多すぎると、ポリカーボネート樹脂特有の耐熱性や耐衝撃性などの優れた特性が発現し難くなる。かかる観点から、ポリエステル樹脂Aの配合量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、10〜70重量部であることが好ましく、より好ましくは15〜40重量部である。
【0025】
ポリエステル樹脂Aの原料モノマーの一成分である環状エーテル骨格を有するジオールは、下記一般式(1)又は(2)で表される化合物であることが好ましく、各種ヒドロキシアルデヒドとペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等から酸触媒存在下で製造できる。
【0026】
【化1】

【0027】
式(1)中、R1およびR2はそれぞれ独立して、炭素数が1〜10の非環状炭化水素基、炭素数が3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基から選ばれる特性基、好ましくはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、又はこれらの構造異性体、例えば、イソプロピレン基、イソブチレン基を表す。
【0028】
【化2】

【0029】
式(2)中、R1は前記と同様であり、R3は炭素数が1〜10の非環状炭化水素基、炭素数が3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基から選ばれる特性基、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、又はこれらの構造異性体、たとえば、イソプロピル基、イソブチル基を表す。
【0030】
前記一般式(1)の具体例として、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン(以下「スピログリコール」ということがある。)が例示できる。
【0031】
前記一般式(2)の具体例として、5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサン、2−(5−エチル−5−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキサン−2−イル)−2−メチルプロパン−1−オールなどが例示できる。
【0032】
ポリエステル樹脂Aの中でも、ポリカーボネート樹脂の発泡性を特に向上させることができることから、ポリエステル樹脂Aは、該樹脂を構成するジオール成分単位が、スピログリコール成分単位25〜50mol%とエチレングリコール成分単位75〜50mol%とからなるジオール成分単位と(ただし、両者の合計は100mol%である。)、ジカルボン酸成分単位がテレフタル酸成分からなるポリエステル共重合体であることが好ましい。該テレフタル酸成分は、テレフタル酸のエステルとしてジオール成分と共重合することにより形成されることが望ましく、テレフタル酸のエステルとしては、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジプロピル、テレフタル酸ジイソプロピル、テレフタル酸ジブチル、テレフタル酸ジシクロヘキシルなどが例示される。
更に、本発明のポリエステル樹脂Aとしては、そのジオール成分としてスピログリコール成分単位30〜45mol%、及びエチレングリコール成分単位70〜55mol%からなるものがより好ましい。
【0033】
ポリエステル樹脂Aは、環状エーテル骨格を有するグリコール成分単位とエチレングリコール成分単位以外のジオール成分単位を少量含んでも良い。このようなジオール成分単位としては、特に制限されるものではないが、例えばトリメチレングリコール、2−メチルプロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリエーテル化合物類;グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の3価以上の多価アルコール類;1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,2−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,3−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,4−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,5−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,6−デカヒドロナフタレンジメタノール、2,7−デカヒドロナフタレンジメタノール、テトラリンジメタノール、ノルボルナンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサン、ペンタシクロドデカンジメタノール等の脂環族ジオール類;4,4’−(1−メチルエチリデン)ビスフェノール、メチレンビスフェノール(ビスフェノールF)、4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール(ビスフェノールZ)、4,4’−スルホニルビスフェノール(ビスフェノールS)等のビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物;ヒドロキノン、レゾルシン、4,4’―ジヒドロキシビフェニル、4,4’―ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’―ジヒドロキシジフェニルベンゾフェノン等の芳香族ジヒドロキシ化合物のアルキレンオキシド付加物等に由来するジオール成分単位が例示できる。その含有量は、ジオール成分単位中に10mol%を超えない範囲であることが好ましい。
【0034】
ポリエステル樹脂Aは、テレフタル酸成分単位以外のジカルボン酸成分単位を含有しても良い。テレフタル酸以外の使用可能なジカルボン酸としては、イソフタル酸、フタル酸、2−メチルテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸、ペンタシクロドデカンジカルボン酸、イソホロンジカルボン酸、3,9−ビス(2−カルボキシエチル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、トリカルバリル酸及びそれらのエステル化物等由来のジカルボン酸成分単位が例示できるがこれらに限定されるものではない。その含有量は、ジカルボン酸成分単位中に20mol%を超えない範囲であることが好ましい。
【0035】
ポリエステル樹脂Aは、JIS K7122(1987年)に準拠し、該ポリエステル樹脂を熱流束示差走査熱量測定(以下、DSC測定と言う。)により300℃で10分間保持した後冷却速度10℃/分で冷却した際に得られるDSC曲線において求められる発熱ピークの熱量が5J/g以下(0J/gを含む。)であることを満足する樹脂であることが好ましい。発熱ピークの熱量が小さいか、または発熱ピークが観察されないということは、上記冷却条件下ではポリエステル樹脂Aが殆ど結晶化しないか、或いは全く結晶化しないということであり、ポリエステル樹脂Aの結晶化速度が極度に遅いか、ポリエステル樹脂Aが非結晶性或いは極めて低結晶性であることを意味する。上記発熱ピークの熱量が5J/g以下であると、ポリカーボネート樹脂の押出発泡特性が特に優れたものとなり、さらに断熱性により優れる発泡体を得ることができる。かかる観点から、上記発熱ピークの熱量は3J/g以下(0J/gを含む。)がより好ましく、さらに好ましくは0J/gである。なお、本発明で使用するポリエステル樹脂Aには明確な融点を示さないものも含まれるため、DSC測定時の保持温度として300℃を採用する。また、窒素ガスの流入速度は50ml/分とする。
【0036】
本発明で用いられる発泡剤としては、有機物理発泡剤、無機物理発泡剤が挙げられる。有機物理発泡剤としては、プロパン、n−ブタン、i−ブタン、n−ペンタン、i−ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素;シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン等の脂肪族ケトン;1−クロロ−1,1−ジフルオロエタン、ペンタフルオロエタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1−ジフルオロエタン、エチルクロライド、メチルクロライド等の低沸点ハロゲン化炭化水素;ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル等のエーテル等が例示される。また、無機物理発泡剤としては、二酸化炭素、空気、窒素等が好ましく用いられる。上記の発泡剤は、単独又は2種以上混合して使用することが可能である。
【0037】
発泡剤の使用量は、発泡剤の種類や所望する見かけ密度(発泡倍率)等によって定まる
が、通常、見かけ密度が40〜200kg/mの発泡体を得るには、基材樹脂100重量部当たり有機物理発泡剤では0.5〜10重量部、無機物理発泡剤では0.3〜15重量部程度である。
【0038】
本発明の製造方法においては、特定の増粘剤を添加することが、ポリカーボネート樹脂の発泡成形性をさらに向上させ、高発泡倍率で高い独立気泡率を有する発泡体を容易に製造することができるので好ましい。このような増粘剤としては、エポキシ基を有するアクリル系重合体が挙げられる。このような増粘剤によりポリカーボネート樹脂の発泡成形性を向上させるのは、増粘剤のエポキシ基がポリカーボネート樹脂末端と結合し、直鎖状ポリカーボネート樹脂の場合には分岐構造が導入されたこと、分岐状ポリカーボネート樹脂の場合にはさらなる分岐構造が導入されたことによるものと推測される。
【0039】
上記エポキシ基を有するアクリル系重合体としては、エポキシ基を有するアクリル系単量体の重合体、エポキシ基を有するアクリル系単量体と他の共重合性単量体との共重合体が挙げられるが、エポキシ基を有する単量体単位が5重量%以上含有するものである。エポキシ基を有する単量体単位は、5重量%〜95重量%であることが好ましく、10重量%〜50重量%、更に好ましくは15重量%〜40重量%であることが好ましい。エポキシ基を有するアクリル系単量体単位の含有量が少ない場合には、増粘剤の使用効果が発揮されず、一方含有量が多すぎる場合にはその効果は頭打ちとなる。
【0040】
エポキシ基を有するアクリル系単量体としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルやシクロヘキセンオキシド構造を有するアクリル酸グリシジルエステルが挙げられる。
【0041】
共重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の炭素数1〜22のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ポリアルキレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸ポリアルキレングリコールエステル、(メタ)アクリルアルコキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、(メタ)アルキル酸ジアルキルアミノエステル、(メタ)アルキル酸ベンジルエステル、(メタ)アルキル酸フェノキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸イソボニルエステル、(メタ)アルキル酸アルコキシシリルアルキルエステル等が挙げられる。そのほかに、無水マレイン酸、フマル酸、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルジアルキルアミド、酢酸ビニル等のビニルエステル、ビニルエーテル、(メタ)アクリルエーテル、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル単量体、エチレン、プロピレン等のオレフィンモノマーが挙げられる。これらは1種又は2種以上混合して用いることができる。
【0042】
上記増粘剤として、エポキシ基を有するアクリル系単量体単位を10重量%〜50重量%を含有するアクリル系共重合体として市販されている東亜合成株式会社製、ARUFON UGシリーズが好適に使用できる。その中でも特にARUFON UG−4030、ARUFON UG−4035、ARUFON UG−4040が好ましい。
【0043】
上記の増粘剤は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、0.05〜30重量部用いられることが好ましく、より好ましくは、0.1〜20重量部が用いられる。増粘剤の使用量が少なすぎる場合には、所期の目的が達成されず、多すぎる場合には発泡成形性を阻害する虞がある。
【0044】
本発明においては基材樹脂には、必要に応じて、気泡調整剤、顔料、染料等の着色剤、熱安定剤、充填剤、紫外線防止剤、難燃剤等の各種の添加剤を適宜添加することができる。気泡調整剤として、例えば、タルク、カオリン、マイカ、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、クレー、ベントナイト、ケイソウ土等の無機物粉末、アゾジカルボジアミド等の従来公知の化学発泡剤などを用いることができる。なかでも難燃性を阻害することがなく気泡径を調整することが容易であるタルクが好適であり、特にJIS Z8901(2006年)に規定される粒径が0.1〜20μm、更に0.5〜15μmの大きさのタルクが好ましい。気泡調整剤の添加量は、該調整剤の種類、目的とする気泡径等によって異なるが、基材樹脂100重量部に対し、概ね、0.01〜8重量部、更に0.01〜5重量部、特に0.05〜3重量部が好ましい。
【0045】
気泡調整剤はマスターバッチを調製して使用することが添加剤の分散性の点から好ましい。気泡調整剤のマスターバッチの調製は、例えば、気泡調整剤としてタルクを使用した場合、基材樹脂に対してタルクの含有量が20〜80重量%となるように調製されることが好ましく、30〜70重量%となるように調整されることがより好ましい。
【0046】
本発明の製造方法においては、ポリカーボネート系樹脂とポリエステル樹脂と発泡剤とを押出機にて混練した発泡性溶融樹脂を、押出機の出口に取り付けられたダイを通して押出発泡することにより、板状の押出発泡体やシート状の押出発泡体等のポリカーボネート系樹脂押出発泡体を得ることができる。なお、板状の押出発泡体を製造する場合には、発泡性溶融樹脂をダイ出口が水平なフラットダイから上下板又は上下ベルトコンベアーからなる成形具内へ押出発泡させて板状に成形する方法、発泡性溶融樹脂をサーキュラーダイから押出して円筒状の発泡体を形成し該円筒状発泡体を狭圧ロールなどにより挟み込んで発泡体の内面を融着させて板状に成形する方法、円筒状の発泡体の内面を円柱形状の冷却装置に接触させながら引き取り次いで押出方向と一致する方向に切り開いてシート状にし、該シート状発泡体を加熱炉などにより加熱して板状に成形する方法や多数のストランド状の発泡体を集束し成形具により板状に成形する方法などが採用される。また、シート状の押出発泡体を製造する場合には、上記円筒状発泡体を切り開いたシート状の発泡体をそのままロールなどで巻き取ることにより得られる。
【0047】
本発明の製造方法により得られた発泡体を断熱材として使用する場合には、発泡体の形状は板状であることが好ましく、特に厚みの厚い板状の発泡体を得やすいことから、上記フラットダイを用いた方法を採用することが好ましい。
【0048】
以下、本発明の製造方法により得られるポリカーボネート樹脂押出発泡体(以下、単にポリカーボネート樹脂押出発泡体と言う。)の諸物性について記載する。
【0049】
(i)見かけ密度
ポリカーボネート樹脂押出発泡体の見かけ密度は、40〜300kg/mのものが好ましく、45〜200kg/mがより好ましく、50〜150kg/mがさらに好ましい。見かけ密度が小さすぎる場合は、押出発泡体を製造すること自体がかなり困難であり、用途によっては機械的強度が不十分なものとなる。一方、見かけ密度が大きすぎる場合は、押出発泡体の厚みを相当厚くしない限り、充分な断熱性を発揮させることが困難であり、また軽量性の点からも好ましくない。すなわち、発泡体の見かけ密度が上記範囲内であれば、断熱性と機械的強度とのバランスに特に優れたものとなるため好ましい。
【0050】
(ii)厚み
ポリカーボネート樹脂押出発泡体は、厚みは1mm以上であることが好ましく、特に建築用断熱材用途に用いられる場合には、より好ましくは10mm以上、更に好ましくは20mm以上である。一方、押出機の大きさにもよるが、厚みが厚すぎる場合には発泡成形が難しくなる虞があり、その上限は120mm程度であることが好ましい。
【0051】
(iii)平均気泡径
ポリカーボネート樹脂押出発泡体の厚み方向平均気泡径は、好ましくは0.05〜3mmであり、より好ましくは0.1〜3mmであり、さらに好ましくは0.5〜2mmである。平均気泡径が上記範囲内にあることにより、押出発泡体の表面が平滑で、圧縮強さ等ポリカーボネート樹脂本来の物性を有し、赤外線透過を抑制することができるなどの理由からより一層高い断熱性を有する押出発泡体を得ることができる。
【0052】
上記の平均気泡径の測定方法は、下記のとおりである。
すなわち、押出発泡体厚み方向の平均気泡径(D:mm)及び押出発泡体幅方向の平均気泡径(D:mm)は押出発泡体の幅方向垂直断面(押出発泡体の押出方向と直交する垂直断面)を、押出発泡体押出方向の平均気泡径(D:mm)は押出発泡体の押出方向垂直断面(押出発泡体の押出方向に平行に、幅方向の中央部で二等分する垂直断面)の顕微鏡拡大写真を得る。次いで、該拡大写真上において測定しようとする方向に直線を引き、その直線と交差する気泡の数を計数し、直線の長さ(当然のことながら、この長さは拡大写真上の直線の長さではなく、写真の拡大率を考慮した直線の真の長さを指す。)を計数された気泡の数で割ることによって、各々の方向における平均気泡径を求める。
【0053】
平均気泡径の測定方法について詳述すると、厚み方向の平均気泡径(D:mm)の測定は幅方向垂直断面の中央部及び両端部の計3箇所の顕微鏡拡大写真を得、各々の写真上において、厚み方向に押出発泡体の全厚みに亘る直線を引き各々の直線の長さと該直線と交差する気泡の数から各直線上に存在する気泡の平均径(直線の長さ/該直線と交差する気泡の数)を求め、求められた3箇所の平均径の算術平均値を厚み方向の平均気泡径(D:mm)とする。
【0054】
幅方向の平均気泡径(D:mm)は幅方向垂直断面の、中央部及び両端部の計3箇所の顕微鏡拡大写真を得、各々の写真上において、押出発泡体を厚み方向に二等分する位置に、3mmに拡大率を乗じた長さの直線を幅方向に引き、該直線と該直線と交差する気泡の数から、各直線上に存在する気泡の平均径を式(3mm/(該直線と交差する気泡の数−1))にて求め、求められた3箇所の平均径の算術平均値を幅方向の平均気泡径(D:mm)とする。
【0055】
押出方向の平均気泡径(D:mm)は、押出発泡体の幅方向を二等分する位置で、押出発泡体を押出方向に切断して得られた押出方向垂直断面の、中央部及び両端部の計3箇所の顕微鏡拡大写真を得、各々の写真上において、押出発泡体を厚み方向に二等分する位置に、3mmに拡大率を乗じた長さの直線を押出方向に引き、該直線と該直線と交差する気泡の数から、各直線上に存在する気泡の平均径を式(3mm/(該直線と交差する気泡の数−1))にて求め、求められた3箇所の平均径の算術平均値を押出方向の平均気泡径(D:mm)とする。また、押出発泡体の水平方向の平均気泡径(D:mm)は、DとDの相加平均値とする。
【0056】
(iv)気泡変形率
更にポリカーボネート樹脂押出発泡体においては、気泡変形率が0.6〜1.5であることが好ましい。気泡変形率とは、上記測定方法により求められたDをDで除すことにより算出される値(D/D)であり、該気泡変形率が1よりも小さいほど気泡は扁平であり、1よりも大きいほど縦長である。気泡変形率が小さくなるにつれて発泡体の断熱性は向上するが、気泡変形率が小さすぎる場合は圧縮強度が低下する虞れがあり、扁平な気泡は球形に戻ろうとする傾向が強いので、押出発泡体の寸法安定性も低下する虞がある。気泡変形率が大きすぎる場合は、厚み方向における気泡数が少なくなるので断熱性が小さくなる虞がある。そのような観点から、上記気泡変形率は、0.7〜1.2であることがより好ましく、0.8〜1.0であることがさらに好ましい。気泡変形率が上記範囲内にあることにより、機械的強度に優れ、更に高い断熱性を有する押出発泡体となる。
【0057】
なお、押出発泡体の気泡形状、厚み方向の平均気泡径の調整は、押出発泡時の引き取り速度、成形具の温度調整や上下一対の板の間隔、ベルトコンベアーの間隔などを調整により調整することができる。また平均気泡径の調整は気泡調整剤の添加量によっても調整することができる。
【0058】
(v)独立気泡率
ポリカーボネート樹脂押出発泡体の独立気泡率は50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましく、80%以上であることが特に好ましい。独立気泡率が高い程、高い断熱性能を維持することができる。独立気泡率S(%)は、ASTM−D2856−70の手順Cに従って、空気比較式比重計(例えば、東芝ベックマン(株)製、空気比較式比重計、型式:930型)を使用して測定された押出発泡体の真の体積Vを用い、下記式(1)により算出される。
【0059】
押出発泡体の中央部および幅方向両端部付近の計3箇所からカットサンプルを切り出して各々のカットサンプルを測定試料とし、各々の測定試料について独立気泡率を測定し、3箇所の独立気泡率の算術平均値を採用する。なお、カットサンプルは押出発泡体から縦25mm×横25mm×厚み20mmの大きさに切断されたサンプルとし、厚みが薄く厚み方向に20mmのサンプルが切り出せない場合には、例えば縦25mm×横25mm×発泡体厚みに切断された試料(カットサンプル)を厚み20mmに最も近づくように重ねて測定する。
【0060】
【数1】

【0061】
ただし、V:上記空気比較式比重計による測定により求められるカットサンプルの真の体積(cm)(押出発泡体のカットサンプルを構成する樹脂の容積と、カットサンプル内の独立気泡部分の気泡全容積との和に相当する。)
:測定に使用されたカットサンプルの外寸法から算出されたカットサンプルの見かけ上の体積(cm
W:測定に使用されたカットサンプル全重量(g)
ρ:押出発泡体を構成する樹脂の密度(g/cm
【0062】
(vi)熱伝導率
本明細書におけるポリカーボネート樹脂押出発泡体の熱伝導率は、JIS A1412−2(1999年)記載の熱流計法(試験体1枚・対称構成方式、高温側38℃、低温側8℃、平均温度23℃)に基づいて測定される値である。なお、ISO 11561に準拠して、以下のように促進試験を行うことにより製造から長期間経過後の熱伝導率を評価することができる。この方法によれば、例えば、厚さ30mmの発泡体を製造直後に厚さ10mmにスライスし、製造後16日後にスライスした発泡体の熱伝導率を測定すると、この熱伝導率は30mm厚みの発泡体の約150日経過後の値に相当する。
【0063】
(vii)残存発泡剤量
本明細書における発泡体中の炭化水素等の発泡剤残存量は、ガスクロマトグラフを用いて内部標準法により測定される値である。具体的には、押出発泡体から適量のサンプルを切り出し、このサンプルを適量のトルエンと内部標準物質の入った蓋付き試料ビン中に入れ蓋を閉めた後、充分に撹拌し発泡板中の発泡剤をトルエン中に溶解させた溶液を測定用試料としてガスクロマトグラフ分析を行って発泡体中の残存発泡剤量を求める。なお、上記(vi)と同様に、発泡体を製造直後にスライスすることにより、製造から長期間経過後の残存発泡剤量を評価することができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0065】
以下に評価方法を記載する。
(i)見かけ密度
見かけ密度の測定は、JIS K 6767(1999年)に準拠して行なった。押出発泡体の幅方向中央部および幅方向両端部付近の計3箇所から厚みが全厚みの直方体の試験片を切り出して各々の試験片について見かけ密度を測定し、3箇所の測定値の相加平均値を見かけ密度とした。
【0066】
(ii)断面積
押出発泡体の断面積は、押出発泡体の押出方向と直交する垂直断面(幅方向垂直断面)の断面積とした。
【0067】
(iii)厚み
押出発泡体の厚みは、押出発泡体の幅方向垂直断面の幅方向の端から他方の端までを6等分して両端を除く5箇所に測定点を定め、続いて、前記5箇所の測定点における押出発泡断熱体の厚みをそれぞれ測定し、5箇所の測定値の相加平均値を押出発泡体の厚みとした。
【0068】
(iv)圧縮物性(10%圧縮強さ)
圧縮強さは以下の方法により測定された値である。押出発泡体の幅方向の中央部より、押出方向に50mm、幅方向に50mm、厚み25mmとなるように成形表皮の存在しない試験片を直方体状となるように切り出した。この際、押出発泡体の幅方向中央部と試験片の幅方向中央部が一致するようにした。次にこの試験片に対し、圧縮速度を10%×Tmm/分(但し、Tは試験片の初期厚みである。)とし、JIS K7220(1999年)に基づいて10%圧縮時の荷重を求め、これを試験片の受圧面積で除して算出することにより圧縮強さを求めた。
【0069】
(v)曲げ物性(曲げ強さ、曲げ弾性率)
押出発泡体の曲げ物性は、JIS K7221−2(1999年)に準拠して測定した。製造後5日間経過後の板状押出発泡体から、試験片の寸法が長さ200mm、幅50mm、厚さ25mmとなるように成形表皮の存在しない試験片を、長さ方向が押出発泡体の幅方向に沿うようにして、かつ幅方向の中点を試験片の長さの中心となるように切り出した。この試験片を用いて、加圧くさび及び支持台先端部の半径10mm、支点間距離150mm、試験速度10mm/分で試験を行い、曲げ強さ、曲げ弾性率を求めた。
【0070】
(vi)熱伝導率及び残存発泡剤量
製造直後の発泡体を両面のスキン層から均等に削り、中心部10mm部分を残したサンプルを作成し、これを温度23℃、湿度50%の恒温恒湿環境下で保管し、製造から16日経過後に、前記測定方法に基づき発泡体の熱伝導率及び残存発泡剤量を測定した。なお、残存発泡剤量測定用のサンプルは、熱伝導率測定後に発泡体の中央部付近から切り出した。これらの測定値は30mm厚みの発泡体の製造から150日経過後の熱伝導率及び残存発泡剤量に相当する。
【0071】
なお、独立気泡率、厚み方向平均気泡径、気泡変形率の測定方法は前述の通りである。
【0072】
実施例及び比較例に使用したポリカーボネート樹脂
【表1】

【0073】
実施例及び比較例に使用したポリエステル樹脂
【表2】

【0074】
表1の「PCA」はポリカーボネート樹脂、表2の「SPET」はジカルボン酸成分単位がジメチルテレフタレート、グリコール成分単位がエチレングリコール/スピログリコールの共縮合ポリエステル樹脂を示し、SPET20はグリコール成分中スピログリコールが20モル%、SPET30はグリコール成分中スピログリコールが30モル%、SPET45はグリコール成分中スピログリコールが45モル%であるポリエステル樹脂である。また「PETG」はジカルボン酸成分がジメチルテレフタレート、グリコール成分がエチレングリコール/シクロヘキサンジメタノール共縮合ポリエステル樹脂を示し、グリコール成分中シクロヘキサンジメタールが33モル%の共縮合ポリエステル樹脂である。
【0075】
ポリカーボネート樹脂およびポリエステル樹脂の210℃、せん断速度100sec−1における溶融粘度、および250℃における溶融張力は、原料ペレットを120℃で12時間乾燥した後に、測定装置として(株)東洋精機製作所製のキャピログラフ1Dを使用して前記方法により測定した。また、DSC曲線における発熱ピークの熱量は、JIS K7122(1987年)に準拠する前記方法により求めた。
【0076】
実施例1〜4、比較例1〜4
内径65mmの第1押出機と内径90mmの第2押出機が直列に連結されており、発泡剤注入口が第1押出機の終端付近に設けられており、間隙3mm×幅65mmの幅方向断面が長方形の樹脂出口(ダイリップ)を備えたフラットダイが第2押出機の出口に連結された製造装置を用いた。
【0077】
更にフラットダイの樹脂出口にはこれと平行するように設置された上下一対のポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる板により構成された賦形装置(ガイダー)が付設されている。表3、4中に示す配合量となるようにポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂及び気泡調整剤、さらに必要に応じて増粘剤(東亞合成株式会社製 製品名:ARUFON UG−4035)を、前記第1押出機に供給し、280℃まで加熱し、これらを溶融、混練し、第1押出機の先端付近に設けられた発泡剤注入口から表中に示す配合組成の物理発泡剤を表中に示す割合で溶融物に供給し溶融混練した発泡性溶融樹脂を、続く第2押出機に供給して樹脂温度を発泡適性温度210℃付近(この発泡温度は押出機とダイとの接合部の位置で測定された発泡性溶融樹脂の温度である。)に調整した後、吐出量50kg/hrでダイリップからガイダー内に押出し、発泡させながら厚み方向に30mmの間隙で平行に配置されたガイダー内を通過させることにより板状に成形(賦形)し、板状のポリカーボネート樹脂押出発泡体を製造した。なお、気泡調整剤はタルク(松村産業(株)製、商品名:ハイフィラー#12)を用いた。
評価結果を表3、4に示す。
【0078】
【表3】

【0079】
【表4】

【0080】
表3、4のポリエステル樹脂の配合比率は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対する割合である。
【0081】
表3、4の発泡剤種類の「c−P」はシクロペンタン、「n−B」はノルマルブタンを意味する。なお、発泡剤添加量の比率はモル比であり、添加量はポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂との混合物1kgに対するモル数である。
【0082】
実施例1は比較例1と比較されるものであり、実施例2〜4は比較例2と比較されるものであり、比較例1および比較例2はポリエステル樹脂を配合しなかった例を示す。実施例1〜4では、特定のポリエステル樹脂を配合した結果、得られた発泡体は見かけ密度、厚みが同じであっても熱伝導率が低く、機械的物性も大きく向上している。
【0083】
比較例3は、環状エーテル骨格を有するグリコール成分単位の含有量が少ないポリエステル樹脂を用いた例である。この比較例で得られた発泡体は、熱伝導率がポリエステル樹脂を配合しなかった比較例2と同等で熱伝導率低減効果が見られず、さらに、発泡性が低下しているためか、機械的物性も比較例2に比べ低下している。
【0084】
比較例4は、非結晶性のポリエステル樹脂であっても環状エーテル骨格を有するグリコール成分単位を含まないポリエステル樹脂を用いた例である。比較例3と同様に、比較例2に比較しても、熱伝導率低減効果が見られず、機械的物性も比べ低下している。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂及び発泡剤を混練してなる発泡性溶融樹脂を押出発泡させてポリカーボネート樹脂押出発泡体を製造する方法であって、
前記ポリエステル樹脂が、環状エーテル骨格を有するグリコール成分単位をジオール成分単位中に25〜50モル%含有するジオール成分単位と、ジカルボン酸成分単位とからなるポリエステル共重合体であり、該ポリエステル樹脂の配合割合がポリカーボネート樹脂100重量部に対して5〜100重量部であることを特徴とするポリカーボネート樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂を構成するジオール成分が、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン成分単位25〜50モル%とエチレングリコール成分単位75〜50モル%(ただし、両者の合計100モル%)とからなり、ジカルボン酸成分がテレフタル酸成分単位からなることを特徴とする請求項1記載のポリカーボネート樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂が、該ポリエステル樹脂を熱流束示差走査熱量測定により300℃で10分間保持した後10℃/分の冷却速度で冷却した際に得られるDSC曲線に基づくポリエステル樹脂の結晶化に伴う発熱ピーク熱量が5J/g以下(0も含む。)であることを満足する樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項4】
ポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂との混合樹脂からなる、密度40〜300kg/m、厚み10mm以上の板状の押出発泡体であって、
前記ポリエステル樹脂が、環状エーテル骨格を有するグリコール成分単位をジオール成分単位中に25〜50モル%含有するジオール成分単位と、ジカルボン酸成分単位とからなるポリエステル共重合体であり、該ポリエステル樹脂の配合割合がポリカーボネート樹脂100重量部に対して5〜100重量部であることを特徴とするポリカーボネート樹脂押出発泡体。

【公開番号】特開2012−51971(P2012−51971A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193696(P2010−193696)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000131810)株式会社ジェイエスピー (245)
【Fターム(参考)】