説明

ポリカーボネート樹脂組成物及びそれからなる成形品

【課題】全光線透過率と光拡散性に優れ、流動性と難燃性、離型性、耐衝撃性、表面平滑性にも優れたポリカーボネート樹脂組成物及びそれからなる成形品を提供する。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、平均粒径が1〜3μmのポリオルガノシロキサン粒子(B)を0.01〜5質量部、動粘度が1〜120センチストークスのポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(ジフェニルシロキサン)コポリマー(C)を0.05〜3質量部、有機スルホン酸金属塩有機スルホン酸金属塩(D)を0.01〜1質量部含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリカーボネート樹脂組成物及びそれからなる成形品に関し、詳しくは、全光線透過率と光拡散性に優れ、流動性と難燃性、離型性、耐衝撃性にも優れたポリカーボネート樹脂組成物及びそれからなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性、耐熱性、透明性に優れた熱可塑性樹脂として幅広い用途があり、さらに、無機ガラスに比較して軽量で、生産性にも優れているので、光拡散性を付与することにより、照明カバー、照明看板、透過型のスクリーン、各種ディスプレイ、液晶表示装置の光拡散シートなど、光拡散性の要求される用途に使用できる。
【0003】
ポリカーボネート樹脂に光拡散性を付与するための拡散粒子として酸化チタン、ガラス、シリカ、水酸化アルミニウム等の無機化合物が提案されているが、成形加工時や押出加工時の熱安定性が悪く、衝撃強度などの機械的強度の低下が大きいという欠点があった。また、全光線透過率と光拡散性のバランス(以下、「光学バランス」と称する。)にも劣る為、光は拡散するが照明器具として使用した場合には透過率が低い、即ち輝度、照度が小さく暗いものになってしまうといった課題があった。このような欠点を改良した光拡散性ポリカーボネート樹脂として、ポリメチルメタアクリレート等のアクリル樹脂粒子を配合したポリカーボネート樹脂(例えば、特許文献1参照)が提案されている。しかし、この樹脂組成物は、光学バランスに優れる半面、熱安定性が悪く、押出機による溶融混練や成形加工時に黄色く着色し易いといった問題があるほか、得られる成形品の衝撃強度が低いといった課題も有していた。
【0004】
これ以外に例えば特許文献2及び特許文献3では、拡散粒子としてポリアルキルシルセスキオキサン粒子を配合したポリカーボネート樹脂が提案されている。ポリオルガノシロキサン粒子はアクリル樹脂粒子と比べて熱安定性に優れ、且つ少量で高い拡散性を発揮させることが可能である。よって比較的良好な光学バランスと衝撃強度を得易い半面、成形加工時の流動性が悪化しやすい、表面平滑性が低下しやすいといった技術的課題も有していた。
また、一方で近年では光拡散性樹脂組成物が用いられる光学部品においても高度な難燃性を要求されるケースが増えている。具体的にはUL94に代表されるプラスチック材料の難燃性試験で高度な難燃性を示すV−0を所望されるケースが増加している。ポリカーボネート樹脂の難燃性を高めるために、各種難燃剤が用いられるが用いる難燃剤の種類、量によって光学バランスの低下、黄色着色しやすい、衝撃強度が低下しやすいなどの不具合を生じる。
また、拡散微粒子そのものも難燃性に対して悪影響を及ぼす場合が多く透明性と光拡散性と難燃性を高度に均衡させることは非常に難しいものとなっている。
【0005】
更には光学部品の小型化、軽量化が進む中、成形品の薄肉化が求められており、その結果、従来よりも高いレベルの光拡散性、薄肉難燃性、成形加工時の流動性、離型性改良などが要求されている。
光拡散性を高める為には拡散粒子を増量することが必要となるが、流動性の低下などの不具合を生じる。薄肉難燃性を高める為には難燃剤処方を強化(各種難燃剤を組み合わせる、添加量を増やす)する手法があるが、光学バランスの低下、熱安定性の低下を招く場合が多い。また流動性を向上させるためには、光拡散剤の添加量を少なくする、ポリカーボネート樹脂の分子量を小さくする等の手法があるが、これらの方法では必要な光拡散性を発現させることが出来なくなったり、衝撃強度の大幅な低下を招いたりする。
また、離型性については高級脂肪酸化合物などの離型剤を大量に配合することで改良可能だが難燃性の低下を招く問題がある。
【0006】
このように、光学バランスに優れ、難燃性にも優れ、且つ流動性、離型性、衝撃性などの諸特性にも優れたポリカーボネート樹脂材料が強く要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平03−143950号公報
【特許文献2】特許第3263795号公報
【特許文献3】特許第4220829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、光学バランスに優れ、難燃性にも優れ、且つ流動性、離型性、衝撃性などの諸特性を高度に均衡させたポリカーボネート樹脂組成物及びそれからなる成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、特定の平均粒径を有するポリオルガノシロキサン粒子と、特定粘度で特定の構成単位からなるポリシロキサン共重合ポリマーと、スルホン酸金属塩を特定量でポリカーボネート樹脂に配合した場合に、光学バランスに優れ、難燃性にも優れ、更に高度な流動性、離型性、衝撃性を有するポリカーボネート樹脂組成物および成形品が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、平均粒径が1〜3μmのポリオルガノシロキサン粒子(B)を0.01〜5質量部、動粘度が1〜120センチストークスのポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(ジフェニルシロキサン)コポリマー(C)を0.05〜3質量部、有機スルホン酸金属塩(D)を0.01〜1質量部含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【0011】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、ポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(ジフェニルシロキサン)コポリマー(C)が、下記式(1)で表されることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【化1】

[式(1)中、a、bは、それぞれ自然数を表す。]
【0012】
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、ポリカーボネート樹脂(A)は、構造粘性指数Nが1.2以上のポリカーボネート樹脂を20質量%以上含むことを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【0013】
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、有機スルホン酸金属塩(D)が、有機スルホン酸アルカリ金属またはアルカリ土類金属塩であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【0014】
また、本発明の第5の発明によれば、第1または第4の発明において、有機スルホン酸金属塩(D)が、パーフルオロアルカンスルホン酸アルカリ金属塩であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【0015】
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5の発明において、さらに、フッ素樹脂(E)をポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.001〜1質量部含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【0016】
また、本発明の第7の発明によれば、第1の発明において、ポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(ジフェニルシロキサン)コポリマー(C)の屈折率が1.45〜1.55であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【0017】
また、本発明の第8の発明によれば、第1又は第7の発明において、ポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(ジフェニルシロキサン)コポリマー(C)のフェニル基含有量が15〜45モル%であることを特徴とするポリカーボーボネート樹脂組成物が提供される。
【0018】
また、本発明の第9の発明によれば、第1の発明において、ポリオルガノシロキサン粒子(B)が、ポリアルキルシルセスキオキサン粒子であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【0019】
また、本発明の第10の発明によれば、第1〜9のいずれかの発明のポリカーボネート樹脂組成物から得られた成形品が提供される。
【0020】
さらに、本発明の第11の発明によれば、第10の発明において、成形品が、照明カバー又は光拡散板もしくはシートであることを特徴とする成形品が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物及びそれからなる成形品によれば、光学バランスに優れ、難燃性にも優れ、更に高度な流動性、離型性、衝撃性、表面平滑性にも優れるポリカーボネート樹脂組成物及びそれからなる成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例および比較例における全光線透過率と分散度の関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
[1.概要]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、平均粒径が1〜3μmのポリオルガノシロキサン粒子(B)を0.01〜5質量部、動粘度が1〜120センチストークスのポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(ジフェニルシロキサン)コポリマー(C)を0.05〜3質量部、有機スルホン酸金属塩(D)を0.01〜1質量部含有することを特徴とする。
【0024】
[2.ポリカーボネート樹脂(A)]
本発明に使用する樹脂材料のポリカーボネート樹脂(A)としては、芳香族ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリカーボネート樹脂、芳香族−脂肪族ポリカーボネート樹脂が挙げられるが、好ましくは、芳香族ポリカーボネート樹脂であり、具体的には、芳香族ジヒドロキシ化合物をホスゲン又は炭酸のジエステルと反応させることによって得られる熱可塑性芳香族ポリカーボネート重合体又は共重合体が用いられる。
【0025】
該芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルエチル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルプロピル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルエチル)フェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルプロピル)フェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−1−フェニルエタン、1、1−ビス(4−ヒドロキシ−3、5−ジメチルフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルエチル)フェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルプロピル)フェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロオクタン、4,4’−(1,3−フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、4,4’−(1,4−フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’−ジヒドロキシフェニルエーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−6−メチル−3−tert−ブチルフェニル)ブタン、ハイドロキノン、レゾルシノール、などが挙げられる。
【0026】
脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメタノール、2,6−ノルボルナンジメタノール、trans−2,6−デカリンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジオール、2,2,4,4、−テトラメチルシクロプロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオールなどが挙げられる。
【0027】
また、ジヒドロキシ化合物の一部として、上記のジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物、又はシロキサン構造を有する両末端フェノール性OH基含有のポリマーもしくはオリゴマー等を併用すると、難燃性の高いポリカーボネート樹脂を得ることができる。
【0028】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂(A)の好ましい例としては、ジヒドロキシ化合物として2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、又は2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とを併用したポリカーボネート樹脂が挙げられる。本発明では、(A)成分として、2種以上のポリカーボネート樹脂を併用しても良い。
【0029】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂の分子量は、制限はないが、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量で、好ましくは10,000〜40,000、より好ましくは14,000〜32,000である。粘度平均分子量がこの範囲であると、成形性が良く、且つ機械的強度の大きい成形品が得られる。ポリカーボネート樹脂の最も好ましい分子量範囲は16,000〜30,000である。
【0030】
ポリカーボネート樹脂(A)の製造方法は、特に限定されるものではなく、ホスゲン法(界面重合法)及び溶融法(エステル交換法)のいずれの方法で製造したポリカーボネート樹脂も使用することができる。また、溶融法で製造したポリカーボネート樹脂に、末端のOH基量を調整する後処理を施したポリカーボネート樹脂を使用するのも好ましい。
【0031】
本発明におけるポリカーボネート樹脂(A)は、構造粘性指数Nが所定範囲にあるポリカーボネート樹脂を一定割合以上含有することが好ましい。
構造粘性指数Nとは、文献「化学者のためのレオロジー」(化学同人、1982年、第15〜16頁)にも詳記されているように、溶融体の流動特性を評価する指標である。通常、ポリカーボネート樹脂の溶融特性は、数式:γ=a・σにより表示することができる。なお、前記式中、γ:剪断速度、a:定数、σ:応力、N:構造粘性指数、を表す。
【0032】
上述の数式において、N=1のときはニュートン流動性を示し、Nの値が大きくなるほど非ニュートン流動性が大きくなる。つまり、構造粘性指数Nの大小により溶融体の流動特性が評価される。一般に、構造粘性指数Nが大きいポリカーボネート樹脂は、低剪断領域における溶融粘度が高くなる傾向がある。このため、構造粘性指数Nが大きいポリカーボネート樹脂を別のポリカーボネート樹脂と混合した場合、得られるポリカーボネート樹脂組成物の燃焼時の滴下を抑制し、難燃性を向上させることができる。ただし、得られるポリカーボネート樹脂組成物の成形性を良好な範囲に維持するためには、このポリカーボネート樹脂の構造粘性指数Nは過度に大きくないことが好ましい。
【0033】
従って、本発明のポリカーボネート樹脂組成物におけるポリカーボネート樹脂(A)は、構造粘性指数Nが、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.25以上、さらに好ましくは1.28以上であり、また、通常1.8以下、好ましくは1.7以下のポリカーボネート樹脂、好ましくは芳香族ポリカーボネート樹脂を一定割合以上含有することが好ましい。
このように構造粘性指数Nが高いことは、ポリカーボネート樹脂が分岐鎖を有することを意味し、このように構造粘性指数Nが高いポリカーボネート樹脂を含有することにより、ポリカーボネート樹脂組成物の燃焼時の滴下を抑制し、難燃性を向上させることができる。
【0034】
なお、構造粘性指数Nは、例えば特開2005−232442号公報に記載されているように、上述の式を誘導した、Logη=〔(1−N)/N〕×Logγ+Cによって表示することも可能である。なお、前記式中、N:構造粘性指数、γ:剪断速度、C:定数、η:見かけの粘度、を表す。この式から分かるように、粘度挙動が大きく異なる低剪断領域におけるγとηからN値を評価することもできる。例えば、γ=12.16sec−1及びγ=24.32sec−1でのηからN値を決定することができる。
【0035】
構造粘性指数Nが1.2以上の芳香族ポリカーボネート樹脂は、例えば、特開平8−259687号公報、特開平8−245782号公報に記載されているように、溶融法(エステル交換法)によって芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを反応させる際、触媒の条件または製造条件を選択することにより、分岐剤を添加することなく、構造粘性指数が高く、加水分解安定性に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂を得ることができる。
【0036】
また、構造粘性指数Nが1.2以上の芳香族ポリカーボネート樹脂は、常法に従って、ホスゲン法あるいは溶融法(エステル交換法)で製造する際に、分岐剤を使用する方法によって製造することもできる。
分岐剤の具体例としては、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニルヘプテン−3、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンなどで示されるポリヒドロキシ化合物、また3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロルイサチンビスフェノール、5,7−ジクロルイサチンビスフェノール、5−ブロムイサチンビスフェノールなどが挙げられる。
その使用量は芳香族ジヒドロキシ化合物に対して0.01〜10モル%の範囲であり、特に好ましくは0.1〜3モル%の範囲である。
【0037】
構造粘性指数Nが1.2以上の芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は、メチレンクロライドを溶媒として用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量が16,000〜30,000の範囲が好適である。
【0038】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物において、ポリカーボネート樹脂(A)は、上述した構造粘性指数Nが所定範囲にあるポリカーボネート樹脂(以下、このポリカーボネート樹脂を「所定Nポリカーボネート樹脂」と称す場合がある。)を、ポリカーボネート樹脂中、好ましくは20質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上含むことが望ましい。このように所定Nポリカーボネート樹脂と組み合せることにより、必要以上に押出し時のトルク上昇を招かないため、生産性の低下を招きにくくなり、また、せん断発熱によるポリカーボネート樹脂の着色を招きにくくなる。
なお、ポリカーボネート樹脂中の、所定Nポリカーボネート樹脂の含有量の上限に制限は無く、通常100質量%以下、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは85質量%以下である。
また、所定Nポリカーボネート樹脂は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0039】
また、ポリカーボネート樹脂(A)は、上述した所定Nポリカーボネート樹脂以外に、構造粘性指数Nが上記の所定範囲外であるポリカーボネート樹脂を含んでいてもよい。その種類に制限は無いが、なかでも直鎖状ポリカーボネート樹脂が好ましい。所定Nポリカーボネート樹脂と直鎖状ポリカーボネート樹脂とを組み合せることにより、得られるポリカーボネート樹脂組成物の難燃性(滴下防止性)と成形性(流動性)のバランスをとりやすいという利点が得られる。この観点から、ポリカーボネート樹脂(A)は、所定Nポリカーボネート樹脂と、直鎖状ポリカーボネート樹脂とから構成されるものを用いることが特に好ましい。なお、この直鎖状ポリカーボネート樹脂の構造粘性指数Nは通常1〜1.15程度である。
【0040】
ポリカーボネート樹脂(A)が直鎖状ポリカーボネート樹脂を含む場合、ポリカーボネート樹脂に占める直鎖状ポリカーボネート樹脂の割合は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下であり、また、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。ポリカーボネート樹脂中の直鎖状ポリカーボネート樹脂の含有量を上記範囲とすることにより、添加剤の良好な分散性が得られやすく、難燃性、成形性に優れるポリカーボネート樹脂が得られやすいという利点が得られる。
【0041】
ポリカーボネート樹脂(A)は、ポリカーボネート樹脂単独(ポリカーボネート樹脂単独とは、ポリカーボネート樹脂の1種のみを含む態様に限定されず、例えば、モノマー組成や分子量が互いに異なる複数種のポリカーボネート樹脂を含む態様を含む意味で用いる。)で用いてもよく、ポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂とのアロイ(混合物)とを組み合わせて用いてもよい。さらに、例えば、難燃性や耐衝撃性をさらに高める目的で、ポリカーボネート樹脂を、シロキサン構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体;熱酸化安定性や難燃性をさらに向上させる目的でリン原子を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;熱酸化安定性を向上させる目的で、ジヒドロキシアントラキノン構造を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;光学的性質を改良するためにポリスチレン等のオレフィン系構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体;耐薬品性を向上させる目的でポリエステル樹脂オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;等の、ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体として構成してもよい。
【0042】
また、成形品の外観の向上や流動性の向上を図るため、ポリカーボネート樹脂(A)は、ポリカーボネートオリゴマーを含有していてもよい。このポリカーボネートオリゴマーの粘度平均分子量[Mv]は、通常1,500以上、好ましくは2,000以上であり、また、通常9,500以下、好ましくは9,000以下である。さらに、含有されるポリカーボネートリゴマーは、ポリカーボネート樹脂(ポリカーボネートオリゴマーを含む)の30質量%以下とすることが好ましい。
【0043】
さらにポリカーボネート樹脂(A)は、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂(いわゆるマテリアルリサイクルされたポリカーボネート樹脂)であってもよい。前記の使用済みの製品としては、例えば、光学ディスク等の光記録媒体;導光板;自動車窓ガラス、自動車ヘッドランプレンズ、風防等の車両透明部材;水ボトル等の容器;メガネレンズ;防音壁、ガラス窓、波板等の建築部材などが挙げられる。また、製品の不適合品、スプルー、ランナー等から得られた粉砕品またはそれらを溶融して得たペレット等も使用可能である。
ただし、再生されたポリカーボネート樹脂は、本発明のポリカーボネート樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂のうち、80質量%以下であることが好ましく、中でも50質量%以下であることがより好ましい。再生されたポリカーボネート樹脂は、熱劣化や経年劣化等の劣化を受けている可能性が高いため、このようなポリカーボネート樹脂を前記の範囲よりも多く用いた場合、色相や機械的物性を低下させる可能性があるためである。
【0044】
[3.ポリオルガノシロキサン粒子(B)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、平均粒径が1〜3μmのポリオルガノシロキサン粒子(B)を、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.01〜5質量部含有する。このようなポリオルガノシロキサン粒子を、このような量配合することで、本発明のポリカーボネート樹脂組成物にて光学バランスが高度に均衡させることが可能であり、難燃性、流動性、耐衝撃性、衝撃性を優れたものとすることが可能となる。
【0045】
ポリオルガノシロキサン粒子としては、RSiO2.0(Rは一価の有機基)で示される2官能性シロキサン単位(以下、「D単位」ということがある。)を主成分とし、架橋構造を有するシリコーンゴム粒子、シリコーンゴム粒子をポリアクリル(メタ)アクリレートで被覆したコアシェル粒子、架橋ポリアクリル(メタ)アクリレート粒子をシリコーンゴムで被覆したコアシェル粒子、ポリオルガノシルセスキオキサン粒子、シリコーンゴム粒子をポリオルガノシルセスキオキサンで被覆した粒子等が挙げられるが、なかでも耐熱性が高く、粒径を適切なものに制御しやすい点より、ポリオルガノシルセスキオキサン粒子が好ましい。
【0046】
ポリオルガノシルセスキオキサンは、RSiO1.5(Rは一価の有機基)で示される3官能性シロキサン単位(以下、「T単位」ということがある。)を有するポリオルガノシロキサンをいい、全シロキサン単位の合計100モル%中、50モル%以上のものをいう。T単位の割合は、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上、最も好ましくは100モル%である。
【0047】
ポリオルガノシルセスキオキサン粒子は、上記T単位のほかに、RSiO0.5(Rは一価の有機基)で表される1官能性シロキサン単位(以下、「M単位」ということがある。)を含有してもよい。このようにM単位を含有することで、ポリオルガノシルセスキオキサン粒子自体の耐熱性が向上し、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の色相が良好なものになり、またポリカーボネート樹脂への分散性が向上し、均一な光学性能を有するポリカーボネート樹脂組成物が得られやすくなるというメリットが得られる。
【0048】
ポリオルガノシルセスキオキサンに結合する有機基Rとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基等の炭素数1〜20アルキル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基、フェニル基、トリル基、およびキシリル基等のアリール基、フェニルエチル基およびフェニルプロピル基等のアラルキル基などが好ましく挙げられる。なかでも、ポリオルガノシルセスキオキサンとしては、ポリアルキルシルセスキオキサンが、ポリカーボネート樹脂との屈折率差が大きく、拡散効果が向上する傾向にあり、さらには耐熱性にも優れる傾向にある為好ましく、特にポリメチルシルセスキオキサンが好ましい。
【0049】
本発明においては、ポリオルガノシロキサン粒子は、平均粒径が1〜3μmであるものを使用する。平均粒径が、1μm未満では、得られるポリカーボネート樹脂組成物の光拡散性が向上しにくく、透過率の低下が著しい、即ち光学バランスに劣る。一方、3μmを超えたものも、光拡散効果が向上し難く大量に配合する必要が生じて表面平滑性の低下などを使用できない。
【0050】
ポリオルガノシロキサン粒子の好ましい平均粒径は、1.2〜2.5μmであり、より好ましくは1.3〜2.4μm、さらに好ましくは1.4〜2.3μm、特には1.5〜2.2μmであることが好ましく、このような範囲とすることで、光学バランスが極めて優れたポリカーボネート樹脂組成物とすることができる。
【0051】
本発明において、平均粒径および粒径分布の測定は、コールターカウンター法にて行われる。コールカウンター法は、サンプル粒子を懸濁させた電解質を細孔(アパチャ−)に通過させ、そのときに粒子の体積に比例して発生する電圧パルスの変化を読み取って粒子径を定量するもので、また電圧パルス高を1個ずつ計測処理して、サンプル粒子の体積分布ヒストグラムを得ることができる。このようなコールカウンター法による粒径又は粒径分布測定は、粒度分布測定装置として最も多用されているものである。
【0052】
本発明においては、ポリオルガノシロキサン粒子の粒径測定は、極めて小さい微小粒子と極めて大きい極大粒子の影響を排除し、信頼性が高く、再現性の高いデータを得るため、直径0.4〜12μmの範囲で測定を行うことで定義される。
【0053】
また、本発明に使用するポリオルガノシロキサン粒子(B)は、その平均粒径は1〜3μmであるが、その粒径分布が2つ以上の複数のピークを有しており、かつその粒径分布の最大ピークと2番目の最大ピークが共に1〜3μmの範囲にあるものも好ましい。複数のピークを有している場合、平均粒径が1〜3μmであっても、その最大ピーク(以下、「P」ということがある。)と2番目の最大ピーク(以下、「P」ということがある。)が粒径1〜3μmの範囲にないと、光拡散率や分散度が低下しやすい。
【0054】
前記最大ピーク(P)に対する2番目の最大ピーク(P)の割合(P/P)は、0.2〜0.95であることが好ましく、特には、0.2〜0.8であることが好ましい。このようにすることで、拡散効果と透過率をさらに向上できる。前記のピークの割合が、0.2未満の場合は、照明部材として特に必要な特性である分散度が低下する傾向にあるため好ましくない。また、0.95以下とすることでさらに分散度が高まる傾向にある。このように、2つ以上のピークを適度な割合で含むポリオルガノシロキサン粒子を含有することで、ポリカーボネート樹脂中への分散性が特異的に高まり効率的に拡散性能を高めることができる。
【0055】
また、ポリオルガノシロキサン粒子(B)は、粒径0.5〜1μmの範囲における個数基準頻度(%)が、0.1〜8%であることが好ましく、さらに、粒径4〜11μmの範囲における体積基準頻度(%)が、0.05〜2.5%であることが好ましい。このように粒径0.5〜1μmのものの量を小さくし、また、粒径4〜11μmのものをこの範囲とすることで、より高度な光学バランス、耐衝撃性の発現が可能となる。
【0056】
上記したような好ましいポリオルガノシロキサン粒子を製造するための方法は、公知であり、例えば特開平01−217039号公報に記載されるように、オルガノトリアルコキシシランを酸性条件下で加水分解してオルガノシラントリオールの水/アルコール溶液に、アルカリ性水溶液を添加、混合し、静置状態において、オルガノシラントリオールを重縮合させることによって得られる。
【0057】
粒径の調整は、主にアルカリ性水溶液のpHの調整によって行うことができ、小さい粒子を得ようとすればpHを高く、大きい粒子を得ようとすればpHを低くすることで粒子径の制御が可能であり、縮合反応は通常アルカリ添加後0.5〜10時間、好ましくは0.5〜5時間の範囲で行われ、縮合物が熟成されるが、熟成時の攪拌を弱くして、粒子の会合を防止することで、粒径および粒径分布の調整が可能である。さらに、得られたポリオルガノシロキサン粒子を更に粉砕して粒度を調整してもよい。また、ポリオルガノシロキサン粒子は、その製造者に所望の粒径と分布のスペックを指定することでも、入手可能である。
【0058】
ポリオルガノシロキサン粒子(B)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.01〜5質量部である。好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、特には0.3質量部以上である。また上限は、好ましくは4質量部以下、より好ましくは3質量部以下、特には2.5質量部以下である。ポリオルガノシロキサン粒子(B)の使用割合が0.01質量部未満の場合は、ポリカーボネート樹脂の光拡散性を向上させる効果が充分に得られず、使用割合が5質量部を超える場合は、衝撃強度の低下、表面平滑性が低下を招く。
【0059】
[4.ポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(ジフェニルシロキサン)コポリマー(C)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、動粘度が1〜120センチストークスのポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(ジフェニルシロキサン)コポリマー(C)(以下、「(C)成分ともいう。)を含有する。このようなポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(ジフェニルシロキサン)コポリマー(C)を含有することで、光学バランスを保持したまま拡散性を向上させ、難燃性、流動性、離型性も同時に向上させることが出来る。
なお、(C)成分は、前記したポリオルガノシロキサン粒子(B)(以下、成分(B)ともいう。)とは異なり、常温で液状のものである。
【0060】
本発明で使用する(C)成分と、従来用いられているポリ(メチルフェニルシロキサン)やアルコキシ基含有ポリオルガノシロキサンとを比較すれば、(C)成分を配合した方が光学バランスに優れ、難燃性、熱安定性にも優れたポリカーボネート樹脂組成物が得られる。また、ポリ(ジメチルシロキサン)ホモポリマーと比較した場合では、(C)成分を配合した方が光学バランスに優れ、難燃性が高く、ブリードアウトし難く、熱安定性に優れたポリカーボネート樹脂組成物が得られる。またポリ(ジフェニルシロキサン)ホモポリマーと比較した場合は、(C)成分を配合した本発明の樹脂組成物の方が光学バランス、離型性、耐薬品性に優れる。
更に(C)成分を単にポリカーボネート樹脂(A)に配合しただけでは、光拡散性を全く示さず透明であるにも関わらず、本発明におけるもう一方の成分ポリオルガノシロキサン粒子(B)の光拡散粒子と併用して配合した場合に、成分(B)のみを配合した場合よりも光拡散性が高まるとの事実を本発明者らは見出した。このことは驚くべきことである。
【0061】
この光拡散性向上のメカニズムについて現段階では明らかに出来ていないが、例えば以下のメカニズムが考えられる。
ポリカーボネート樹脂(成分(A))と成分(C)の2成分系の場合、成分(C)はポリカーボネート樹脂の表面に比較的高濃度に偏在しつつ、成形品内部ではポリカーボネート樹脂に分子レベルで分散した状態で存在していると考えられ、この状態では光拡散性は何ら発現せず高い透過率の透明な成形体としかならない。一方、成分(A)と成分(B)だけの場合では、成分(B)の粒子が成分(A)中に一部不均一分散を含みつつ凡そ均一に分散した形態になっていると考えられる。
ここで成分(A)、(B)、(C)の3成分が共存した場合に、成分(A)中での成分(B)の分散性が向上し部分的な不均一分散が解消された結果、光拡散性が高まったと考えることが出来る。
また、微視的に見た場合成分(A)と成分(B)の接触界面に成分(C)が偏在するような分散状態、換言すれば、成分(B)が成分(C)で被覆された様な状態の分散構造をとる様になっていると考えることも出来る。これにより単なる成分(B)の分散粒子より光散乱性が高まり光拡散性が高まったものと考えることも出来る
【0062】
本発明における、ポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(ジフェニルシロキサン)コポリマーは、下記式(2)で表されるジメチルシロキサン単位、及び下記式(3)で表されるジフェニルシロキサン単位を複数有するポリオルガノシロキサンである。
このような構造のポリオルガノシロキサンを選択することでポリカーボネート樹脂への親和性、分散性が向上し、従来用いられているシロキサン化合物と比べてアウトガスが大幅に低減された、且つ優れた光学バランスを発現する、更に難燃性、流動性、離型性が改良された樹脂組成物を得ることが出来る。
【0063】
【化2】

【化3】

【0064】
なお、本発明におけるポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(ジフェニルシロキサン)コポリマーは、上記式(2)及び式(3)で表される単位の他に、メチルフェニルシリコーン単位等の他の単位を含有してもよいが、上述の理由より、上記式(2)単位及び(3)で表される単位が、全シロキサン単位中、通常50モル%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上含有することが好ましい。
【0065】
本発明における、ポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(ジフェニルシロキサン)コポリマーは、なかでも下記式(4)で表されるポリオルガノシロキサンが好ましい。
【化4】

【0066】
上記式(4)中、R、R、R、R、R、及びRは、お互い独立して炭素数1〜12の一価炭化水素基を表す。一価炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられるが、なかでもアルキル基、アルケニル基、アリール基が好ましく、アルキル基、アリール基が特に好ましく、アルキル基がさらに好ましい。
【0067】
上記、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基等が挙げられ、なかでもメチル基が好ましい。
また、アルケニル基としては、ビニル基、アリル基等が挙げられるが、なかでもビニル基が好ましい。
アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基が挙げられるが、なかでもフェニル基が好ましい。
【0068】
このような観点から、本発明に用いるポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(ジフェニルシロキサン)コポリマーは、下記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンがより好ましい。
【化5】

【0069】
上記式(4)及び(1)において、a、bは、お互い独立して自然数を表すが、好ましくは1〜50であり、より好ましくは1〜20である。
【0070】
また、本発明に用いるポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(ジフェニルシロキサン)コポリマーは、前記式(2)で表される単位と、前記式(3)で表される単位の重合形態に特に制限はなく、ランダムコポリマーであっても、ブロックコポリマーであってもよいが、ランダムコポリマーであることが好ましい。このようにランダムコポリマーを選択することで、コポリマー自体の結晶性が小さくなり、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の透明性と光拡散性のバランスを著しく向上する傾向にある。
【0071】
また、本発明に用いるポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(ジフェニルシロキサン)コポリマーの動粘度は、1センチストークス以上であり、好ましくは5センチストークス以上、より好ましくは10センチストークス以上、さらに好ましくは15センチストークス以上であり、またその上限は120センチストークス以下、好ましくは100センチストークス以下、より好ましくは50センチストークス以下、さらに好ましくは30センチストークス以下である。
【0072】
動粘度を前記範囲の1センチストークス以上とすることで本発明のポリカーボネート樹脂組成物の金型汚染を低減することができ、動粘度を120センチストークス以下とすることで、本発明のポリカーボネート樹脂に対する分散性が向上し、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の透明性と光拡散性のバランスを高め、難燃性を著しく向上し、機械物性も向上する。
なお、動粘度の異なる2種類以上のポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(ジフェニルシロキサン)コポリマーを混合して用いてもよく、この場合には、動粘度が上記の好適な範囲外であるポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(ジフェニルシロキサン)コポリマーを混合することもできる。
【0073】
なお、上記ポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(ジフェニルシロキサン)コポリマーの動粘度は、JIS K2283「動粘度試験法」に準拠し、キャノン−フェンスケ粘度計(No.200)を用いて、25℃の条件で測定する。単位は、センチストークス(cSt)である。
【0074】
また、本発明に用いるポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(ジフェニルシロキサン)コポリマーの屈折率は、好ましくは1.45以上、より好ましくは1.46以上、さらに好ましくは1.47以上、特に好ましくは1.48以上、最も好ましくは1.49以上であり、また好ましくは1.55以下、より好ましくは1.54以下、さらに好ましくは1.53以下、特に好ましくは1.52以下、最も好ましくは1.51以下である。屈折率が、前記範囲の下限値未満の場合は、難燃性、光学バランスが共に低下しやすい。
【0075】
なお、ポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(ジフェニルシロキサン)コポリマーの屈折率は、アッベ屈折率計を用いて、25℃の条件で、光源としてナトリウムのD線(589nm)を用いて測定した値を用いる。
【0076】
さらに、本発明に用いるポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(ジフェニルシロキサン)コポリマーの、フェニル基含有量(コポリマーの全有機官能基中のフェニル基の占める割合)は、好ましくは15モル%以上、より好ましくは18モル%以上、さらに好ましくは20モル%以上、またその上限は、好ましくは45モル%以下、より好ましくは40モル%以下、さらに好ましくは35モル%以下、特に好ましくは30モル%以下である。
フェニル基含有量が、上記下限値未満の場合は、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の難燃性、透明性が共に低下しやすいので好ましくない。また、フェニル基含有量が上記上限値を超える場合も、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の難燃性、光学バランスが共に低下しやすいため好ましくない。これは、ポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(ジフェニルシロキサン)コポリマーの結晶性が高まり、ポリカーボネート樹脂への分散性が低下するためと考えられる。
【0077】
ここで、フェニル基含有量は、プロトンNMR(日本電子株式会社製、JNM−AL400、400MHz)を用い、温度:23℃、溶媒:重テトラクロロエタンの条件で測定した際の、コポリマー中の全有機官能基中のフェニル基の占める割合であり、単位は、「モル%」で表される。
【0078】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物における、ポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(ジフェニルシロキサン)コポリマーの含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、0.05質量部以上であることが必要であり、好ましくは0.075質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上であり、またその上限は3質量部以下であり、好ましくは2.5質量部以下、より好ましくは2質量部以下である。
ポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(ジフェニルシロキサン)コポリマーの含有量が0.05質量部を下回ると難燃性改良効果が得られず、逆に3質量部を超えると、効果が頭打ちになり経済的でないばかりでなく、アウトガスや金型汚染が生ずる可能性がある。
なお、本発明に係るポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(ジフェニルシロキサン)コポリマーは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0079】
[5.有機スルホン酸金属塩(D)]
本発明の樹脂組成物は、有機スルホン酸金属塩(D)をする。
有機スルホン酸金属塩が有する金属の種類としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)等のアルカリ金属;マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等のアルカリ土類金属;並びに、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、モリブテン(Mo)等が挙げられる。
これらの中でもアルカリ金属又はアルカリ土類金属が好ましい。ポリカーボネート樹脂の燃焼時の炭化層形成を促進し、難燃性をより高めることができると共に、ポリカーボネート樹脂が有する耐衝撃性等の機械的物性、耐熱性、電気的特性などの性質を良好に維持できる。
アルカリ金属又はアルカリ土類金属のうち、アルカリ金属がさらに好ましく、ナトリウム、カリウム、セシウムまたはリチウムがより好ましく、さらにはナトリウム、カリウム、セシウムが、特にはナトリウム、カリウムが好ましい。
【0080】
好ましい有機スルホン酸金属塩(D)の例を挙げると、有機スルホン酸リチウム(Li)塩、有機スルホン酸ナトリウム(Na)塩、有機スルホン酸カリウム(K)塩、有機スルホン酸ルビジウム(Rb)塩、有機スルホン酸セシウム(Cs)塩、有機スルホン酸マグネシウム(Mg)塩、有機スルホン酸カルシウム(Ca)塩、有機スルホン酸ストロンチウム(Sr)塩、有機スルホン酸バリウム(Ba)塩、等が挙げられる。この中でも特に、有機スルホン酸ナトリウム(Na)塩、有機スルホン酸カリウム(K)塩化合物、有機スルホン酸セシウム(Cs)塩化合物等の有機スルホン酸アルカリ金属塩が好ましい。
【0081】
有機スルホン酸金属塩(D)のうち、好ましいものとしては、含フッ素脂肪族スルホン酸の金属塩、含フッ素脂肪族スルホン酸イミドの金属塩、芳香族スルホン酸の金属塩、芳香族スルホンアミドの金属塩が挙げられる。
【0082】
その中でも好ましいものの具体例を挙げると、ノナフルオロブタンスルホン酸カリウム、ノナフルオロブタンスルホン酸リチウム、ノナフルオロブタンスルホン酸ナトリウム、ノナフルオロブタンスルホン酸セシウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム、ペンタフルオロエタンスルホン酸カリウム、ヘプタフルオロプロパンスルホン酸カリウム、デカフルオロ−4−(ペンタフルオロエチル)シクロヘキサンスルホン酸カリウム等の、分子中に少なくとも1つのC−F結合を有する含フッ素脂肪族スルホン酸のアルカリ金属塩;
【0083】
ノナフルオロブタンスルホン酸マグネシウム、ノナフルオロブタンスルホン酸カルシウム、ノナフルオロブタンスルホン酸バリウム、トリフルオロメタンスルホン酸マグネシウム、トリフルオロメタンスルホン酸カルシウム、トリフルオロメタンスルホン酸バリウム等の、分子中に少なくとも1つのC−F結合を有する含フッ素脂肪族スルホン酸のアルカリ土類金属塩;
【0084】
ジフルオロメタンジスルホン酸ジナトリウム、ジフルオロメタンジスルホン酸ジカリウム、テトラフルオロエタンジスルホン酸ナトリウム、テトラフルオロエタンジスルホン酸ジカリウム、ヘキサフルオロプロパンジスルホン酸ジカリウム、ヘキサフルオロイソプロパンジスルホン酸ジカリウム、オクタフルオロブタンジスルホン酸ジナトリウム、オクタフルオロブタンジスルホン酸ジカリウム等の、分子中に少なくとも1つのC−F結合を有する含フッ素脂肪族ジスルホン酸のアルカリ金属塩;等の、含フッ素脂肪族スルホン酸の金属塩、
【0085】
ビス(パーフルオロプロパンスルホニル)イミドリチウム、ビス(パーフルオロプロパンスルホニル)イミドナトリウム、ビス(パーフルオロプロパンスルホニル)イミドカリウム、ビス(パーフルオロブタンスルホニル)イミドリチウム、ビス(パーフルオロブタンスルホニル)イミドナトリウム、ビス(パーフルオロブタンスルホニル)イミドカリウム、トリフルオロメタン(ペンタフルオロエタン)スルホニルイミドカリウム、トリフルオロメタン(ノナフルオロブタン)スルホニルイミドナトリウム、トリフルオロメタン(ノナフルオロブタン)スルホニルイミドカリウム、トリフルオロメタン等の、分子中に少なくとも1つのC−F結合を有する含フッ素脂肪族ジスルホン酸イミドのアルカリ金属塩;
【0086】
シクロ−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス(スルホニル)イミドリチウム、シクロ−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス(スルホニル)イミドナトリウム、シクロ−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス(スルホニル)イミドカリウム等の、分子中に少なくとも1つのC−F結合を有する環状含フッ素脂肪族スルホンイミドのアルカリ金属塩;等の、含フッ素脂肪族スルホン酸イミドの金属塩、
【0087】
ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、(ポリ)スチレンスルホン酸ナトリウム、パラトルエンスルホン酸ナトリウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、トリクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸カリウム、スチレンスルホン酸カリウム、(ポリ)スチレンスルホン酸カリウム、パラトルエンスルホン酸カリウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、トリクロロベンゼンスルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸セシウム、(ポリ)スチレンスルホン酸セシウム、パラトルエンスルホン酸セシウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸セシウム、トリクロロベンゼンスルホン酸セシウム等の、分子中に少なくとも1種の芳香族基を有する芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩;
【0088】
パラトルエンスルホン酸マグネシウム、パラトルエンスルホン酸カルシウム、パラトルエンスルホン酸ストロンチウム、パラトルエンスルホン酸バリウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸マグネシウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム等の、分子中に少なくとも1種の芳香族基を有する芳香族スルホン酸のアルカリ土類金属塩;等の、芳香族スルホン酸金属塩等、
【0089】
サッカリンのナトリウム塩、N−(p−トリルスルホニル)−p−トルエンスルホイミドのカリウム塩、N−(N’−ベンジルアミノカルボニル)スルファニルイミドのカリウム塩、N−(フェニルカルボキシル)−スルファニルイミドのカリウム塩等の、分子中に少なくとも1種の芳香族基を有する芳香族スルホンアミドのアルカリ金属塩;等の、芳香族スルホンアミドの金属塩等が挙げられる。
【0090】
上述した例示物の中でも、含フッ素脂肪族スルホン酸金属塩が好ましい。含フッ素脂肪族スルホン酸金属塩としては分子中に少なくとも1つのC−F結合を有する含フッ素脂肪族スルホン酸のアルカリ金属塩がより好ましく、パーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩が特に好ましく、具体的にはノナフルオロブタンスルホン酸カリウム等が好ましい。
【0091】
なお、有機スルホン酸金属塩(D)は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0092】
有機スルホン酸金属塩(D)の平均粒径は、特に制限はなく、通常1μm〜500μmの範囲のものを使用すればよいが、なかでも平均粒径を20〜200μmとすることで光学バランスに優れる傾向にある為好ましい。この範囲とすることで、ポリカーボネート樹脂中への有機スルホン酸金属塩の分散性が向上し、また凝集性が抑制される為だと考えられる。このような観点より、上述の平均粒径は、25〜150μmであるがより好ましく、30〜100μmであることがさらに好ましい。
なお、平均粒径は、日機装(株)社製、マイクロトラックMT3300型レーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用い、分散圧力200kPaの条件で、0.1〜10000μmの範囲測定し、50%累積頻度となるときの体積平均粒径(D50)を表す。
【0093】
有機スルホン酸金属塩(D)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、0.01質量部以上であり、好ましくは0.02質量部以上、より好ましくは0.03質量部以上、特に好ましくは0.05質量部以上であり、その上限は、1質量部以下であり、好ましくは0.75質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下、特に好ましくは0.3質量部以下である。含有量が少なすぎると得られるポリカーボネート樹脂組成物の難燃性が不十分となり、逆に多すぎても難燃性の低下、並びに、成形品の外観不良及び機械的強度の低下が生ずる。
【0094】
[6.フッ素樹脂(E)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、フッ素樹脂(E)を、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、0.001〜1質量部含有することが好ましい。このようにフッ素樹脂を含有することで、ポリカーボネート樹脂組成物の難燃性特性を更に改良することができる。
【0095】
フッ素樹脂の含有量は、0.001質量部より少ないと、フッ素樹脂による難燃性向上効果が不十分になりやすく、1質量部を超えると、ポリカーボネート樹脂組成物を成形した成形品の外観不良や機械的強度の低下が生じる傾向がある。含有量の下限は、より好ましくは0.005質量部以上、さらに好ましくは0.01質量部以上、特に好ましくは0.025質量部以上であり、また、含有量の上限は、より好ましくは0.75質量部以下、さらに好ましくは0.5質量部以下、特に好ましくは0.45質量部以下である。
【0096】
フッ素樹脂としては、なかでもフルオロオレフィン樹脂が好ましい。フルオロオレフィン樹脂は、通常フルオロエチレン構造を含む重合体あるいは共重合体であり、具体例としては、ジフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合樹脂等が挙げられるが、なかでもテトラフルオロエチレン樹脂が好ましい。
また、このフッ素樹脂としては、フィブリル形成能を有するものが好ましく、具体的には、フィブリル形成能を有するフルオロオレフィン樹脂が挙げられる。このように、フィブリル形成能を有することで、燃焼時の滴下防止性が著しく向上する傾向にある。
また、ポリカーボネート樹脂中にフルオロオレフィン樹脂を水性液中に均一に分散させた通称ディスパージョンタイプ、或いは有機重合体で被覆したフルオロオレフィン樹脂が、ポリカーボネート樹脂中にフッ素樹脂成分を均一に分散させることができ、成形品の外観上、最も好ましい。
【0097】
フィブリル形成能を有するフルオロオレフィン樹脂としては、例えば、三井・デュポンフロロケミカル社製「テフロン(登録商標)6J」、ダイキン化学工業社製「ポリフロン(登録商標)F201L」、「ポリフロン(登録商標)F103」、「ポリフロン(登録商標)FA500」などが挙げられる。さらに、フルオロオレフィン樹脂の水性分散液の市販品として、例えば、三井デュポンフロロケミカル社製「テフロン(登録商標)30J」、「テフロン(登録商標)31−JR」、ダイキン化学工業社製「フルオン(登録商標)D−1」等が挙げられる。
【0098】
さらに、有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂も好適に使用することができる。有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂を用いることで、分散性が向上し、成形品の表面外観が向上し、表面異物を抑制できる。有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂は、公知の種々の方法により製造でき、例えば(1)ポリフルオロエチレン粒子水性分散液と有機系重合体粒子水性分散液とを混合して、凝固またはスプレードライにより粉体化して製造する方法、(2)ポリフルオロエチレン粒子水性分散液存在下で、有機系重合体を構成する単量体を重合した後、凝固またはスプレードライにより粉体化して製造する方法、(3)ポリフルオロエチレン粒子水性分散液と有機系重合体粒子水性分散液とを混合した分散液中で、エチレン性不飽和結合を有する単量体を乳化重合した後、凝固またはスプレードライにより粉体化して製造する方法、等が挙げられる。
【0099】
フルオロオレフィン樹脂を被覆する有機系重合体としては、特に制限されるものではなく、このような有機系重合体を生成するための単量体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、tert−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、p−クロロスチレン、o−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、p−メトキシスチレン、o−メトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体;
アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸ドデシル、アクリル酸トリデシル、メタクリル酸トリデシル、アクリル酸オクタデシル、メタクリル酸オクタデシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体;
【0100】
アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体;
無水マレイン酸等のα,β−不飽和カルボン酸;N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体;
グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有単量体;
ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル系単量体;酢酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸ビニル系単量体;
エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン系単量体;
ブタジエン、イソプレン、ジメチルブタジエン等のジエン系単量体等を挙げることができる。なお、これらの単量体は、単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0101】
なかでもフルオロオレフィン樹脂を被覆する有機系重合体を生成するための単量体としては、ポリカーボネート樹脂に配合する際の分散性の観点から、ポリカーボネート樹脂との親和性が高いものが好ましく、芳香族ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、シアン化ビニル系単量体がより好ましい。
【0102】
また、有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂中のフルオロオレフィン樹脂の含有比率は、通常30質量%以上、好ましくは35質量%以上、より好ましくは40質量%以上、特に好ましくは45質量%以上であり、通常95質量%以下、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、特に好ましくは75質量%以下である。有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂中のフルオロオレフィン樹脂の含有比率を、上述の範囲とすることで、難燃性と成形品外観のバランスに優れる傾向にあるため好ましい。
【0103】
このような有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂としては、具体的には、三菱レイヨン社製「メタブレン(登録商標)A−3800」、GEスペシャリティケミカル社製「ブレンデックス(登録商標)449」、PIC社製「Poly TS AD001」等が挙げられる。
なお、フッ素樹脂は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0104】
[7.紫外線吸収剤(F)]
本発明の樹脂組成物には、紫外線吸収剤(F)を配合することも好ましい。紫外線吸収剤としては、例えば、酸化セリウム、酸化亜鉛などの無機紫外線吸収剤;ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、サリシレート化合物、シアノアクリレート化合物、トリアジン化合物、オギザニリド化合物、マロン酸エステル化合物、ヒンダードアミン化合物などの有機紫外線吸収剤などが挙げられる。これらのうち、有機紫外線吸収剤が好ましく、中でもベンゾトリアゾール化合物がより好ましい。有機紫外線吸収剤を選択することで、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の光学バランスや難燃性、機械物性が良好なものになる。
【0105】
ベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチル−フェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチル−フェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]等が挙げられ、なかでも2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]が好ましく、特に2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールが好ましい。
【0106】
このようなベンゾトリアゾール化合物としては、具体的には例えば、シプロ化成社製(商品名、以下同じ)「シーソーブ701」、「シーソーブ702」、「シーソーブ703」、「シーソーブ704」、「シーソーブ705」、「シーソーブ709」、共同薬品社製「バイオソーブ520」、「バイオソーブ580」、「バイオソーブ582」、「バイオソーブ583」、ケミプロ化成社製「ケミソーブ71」、「ケミソーブ72」、サイテックインダストリーズ社製「サイアソーブUV5411」、アデカ社製「LA−32」、「LA−38」、「LA−36」、「LA−34」、「LA−31」、チバスペシャリティケミカルズ社製「チヌビンP」、「チヌビン234」、「チヌビン326」、「チヌビン327」、「チヌビン328」等が挙げられる。
【0107】
紫外線吸収剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、また、通常3質量部以下、好ましくは1質量部以下である。紫外線吸収剤の含有量が前記範囲の下限値以下の場合は、耐候性の改良効果が不十分となる可能性があり、紫外線吸収剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、モールドデボジット等が生じ、金型汚染を引き起こす可能性がある。なお、紫外線吸収剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0108】
[8.その他の添加剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、更に種々の添加剤を含有していても良い。このような添加剤としては、熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、染顔料、蛍光増白剤、滴下防止剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。
【0109】
・熱安定剤
熱安定剤としては、例えばリン系化合物が挙げられる。リン系化合物としては、公知の任意のものを使用できる。具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第10族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物などが挙げられる。
【0110】
なかでも、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト等の有機ホスファイトが好ましい。
【0111】
熱安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.03質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.7質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下である。熱安定剤が少なすぎると熱安定効果が不十分となる可能性があり、熱安定剤が多すぎると効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
【0112】
・酸化防止剤
酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。その具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン,2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール等が挙げられる。
【0113】
なかでも、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。
【0114】
酸化防止剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下である。酸化防止剤の含有量が前記範囲の下限値以下の場合は、酸化防止剤としての効果が不十分となる可能性があり、酸化防止剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
【0115】
・離型剤
離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200〜15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0116】
脂肪族カルボン酸としては、例えば、飽和または不飽和の脂肪族一価、二価または三価カルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中で好ましい脂肪族カルボン酸は炭素数6〜36の一価または二価カルボン酸であり、炭素数6〜36の脂肪族飽和一価カルボン酸がさらに好ましい。かかる脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
【0117】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸としては、例えば、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、アルコールとしては、例えば、飽和または不飽和の一価または多価アルコールが挙げられる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の一価または多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族又は脂環式飽和一価アルコールまたは脂肪族飽和多価アルコールがさらに好ましい。
【0118】
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0119】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0120】
数平均分子量200〜15,000の脂肪族炭化水素としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ−トロプシュワックス、炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等が挙げられる。なお、ここで脂肪族炭化水素としては、脂環式炭化水素も含まれる。
【0121】
これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスまたはポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスがさらに好ましい。
また、前記の脂肪族炭化水素の数平均分子量は、好ましくは5,000以下である。
【0122】
離型剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常2質量部以下、好ましくは1質量部以下である。離型剤の含有量が前記範囲の下限値以下の場合は、離型性の効果が十分でない場合があり、離型剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、難燃性の低下、耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染などが生じる可能性がある。
【0123】
[9.ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用でき、ポリカーボネート樹脂(A)、ポリオルガノシロキサン粒子(B)、ポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(ジフェニルシロキサン)コポリマー(C)および有機スルホン酸金属塩(D)、並びに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、リボンブレンダーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。なお、溶融混練の温度は特に制限はないが、通常220〜360℃の範囲である。
【0124】
[10.成形品]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ペレタイズしたペレットを各種の成形法で成形して成形品を製造することができる。またペレットを経由せずに、押出機で溶融混練された樹脂を直接、シートやフィルム、異型押出成形品、ブロー成形品あるいは射出成形品等にすることもできる。
成形方法の例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、インジェクションブロー成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、異型押出成形、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法などが挙げられる。また、ホットランナー方式を使用した成形法を用いることも出来る。
成形品の形状、模様、色彩、寸法などに制限はなく、その成形品の用途に応じて任意に設定すればよい。
【0125】
更に本発明の樹脂組成物で得た成形品には必要に応じて各種二次加工を施すことも出来る。例えばサンドブラストなどによる祖表面化、シリコン系、アクリル系などのハードコート表面処理、加飾や機能性付与の為のシールやフィルムの貼り付け、帯電防止の表面処理、成形歪を除去するための熱アニール、他部品との接着、接合をするためのエポキシ系、アクリル系、シリコン系などの接着剤による接合、振動溶着、レーザー溶着、熱溶着、超音波による接合、YAGや炭酸ガスによるレーザーマーキングなどがあげられる。
【0126】
本発明の組成物を成形した好ましい成形品としては、電球、蛍光管形状の各種照明カバー、照明看板部品、スイッチ部品、透過形のスクリーン、各種ディスプレイ、液晶表示装置の光拡散シートや光拡散板が挙げられる。光源としてはLED、有機EL、白熱電球、蛍光灯、水銀灯など何れでも良い。
【0127】
更に具体的には例えば、円筒形状の管ランプや電球のカバーやランプシェード、浴室灯、シャンデリア、スタンド、ブラケット、行燈、シーリングライト、ペンダント型ライト、ガレージライト、軒下灯、門柱灯、ポーチライト、ガーデンライト、エントランスライト、足元灯、階段灯、誘導灯、防犯灯、ダウンライト、ベースライト、電飾看板、サイン灯等のカバー、及び自動車、自動二輪車等をはじめとする車両用灯具向けのカバー等に好適に用いることができる。特に、LEDや有機EL等の放熱量の少ない光源を用いる照明器具に好適に用いることができる。
【実施例】
【0128】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0129】
実施例および比較例に使用した材料は以下の通りである。
[ポリカーボネート樹脂(A)]
ポリカーボネート樹脂として、下記表1に記載したポリカーボネート樹脂(A−1)〜(A−3)を使用した。
【0130】
[難燃剤(D)、フッ素樹脂(E)、UV吸収剤(F)、離型剤(G)]
難燃剤(D)、フッ素系樹脂(E)、UV吸収剤(F)、離型剤(G)として、下記表1に記載したものを使用した。
【0131】
【表1】

【0132】
[ポリオルガノシロキサン粒子(B)]
以下の表2に示すポリオルガノシロキサン粒子B−1〜B−3を準備した。なお、B−1〜B−3は全てポリメチルシルセスキオキサン粒子である(T単位100モル%)。B−1は本発明の規定を満たし、B−2〜B−3はそれを満たさないものである。
【表2】

【0133】
なお、ポリオルガノシロキサン粒子の粒径の測定は、コールターカウンター法にて、ベックマン・コールタール株式会社の粒度分布測定装置Multisizer4を使用し、分散媒ISOTON II、アパチャー径20μm、分散剤エタノールの条件で、超音波を3分かけ粒子を測定溶媒中に均一に分散させた後に行った。
【0134】
[ポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(ジフェニルシロキサン)コポリマー(C)]
以下の表3に示すポリオルガノシロキサン粒子を準備した。C−1、C−2は本発明の規定を満たし、C−Xはそれを満たさないものである。
【0135】
【表3】

【0136】
【化6】

[式(7)中、eは、0または自然数を表し、fはそれぞれ自然数を表す。]
【0137】
(実施例1〜11、比較例1〜12)
[樹脂組成物ペレットの製造]
上記した各成分(A)〜(G)を、表5および表6に記した割合(質量部)で配合し、タンブラーにて20分混合した後、1ベントを備えた日本製鋼所社製二軸押出機(TEX30HSST)に供給し、スクリュー回転数200rpm、吐出量15kg/時間、バレル温度290℃の条件で混練し、ストランド状に押出された溶融樹脂を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化し、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
【0138】
[試験片の作製]
上記の製造方法で得られたペレットを120℃で5時間乾燥させた後、名機製作所製のM150AII−SJ型射出成形機を用いて、シリンダー温度280℃、金型温度80℃、成形サイクル55秒の条件で射出成形し、平板状試験片(90mm×50mm×1−2−3mmの3段厚み)及びISO多目的試験片(3mm厚)を成形した。
これらの試験片を用いて、全光線透過率、分散度、耐衝撃性、表面平滑性の評価を行った。
【0139】
また、同様に、上記製造方法で得られたペレットを120℃で5時間乾燥させた後、住友重機械工業社製のSE100DU型射出成形機を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度80℃、成形サイクル30秒の条件で射出成形し、長さ125mm、幅13mm、厚さは2.5mm、2mm、1.6mm、1.2mmおよび1.0mmの5種のUL試験用試験片を成形した。
各評価方法は以下のとおりである。
【0140】
[難燃性評価]
各ポリカーボネート樹脂組成物の難燃性の評価は、上述の方法で得られたUL試験用試験片を温度23℃、湿度50%の恒温室の中で48時間調湿し、米国アンダーライターズ・ラボラトリーズ(UL)が定めているUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼試験)に準拠して行った。UL94Vとは、鉛直に保持した所定の大きさの試験片にバーナーの炎を10秒間接炎した後の残炎時間やドリップ性から難燃性を評価する方法であり、V−0、V−1及びV−2の難燃性を有するためには、以下の表4に示す基準を満たすことが必要となる。
【0141】
【表4】

【0142】
ここで残炎時間とは、着火源を遠ざけた後の、試験片の有炎燃焼を続ける時間の長さである。また、ドリップによる綿着火とは、試験片の下端から約300mm下にある標識用の綿が、試験片からの滴下(ドリップ)物によって着火されるかどうかによって決定される。さらに、5試料のうち、1つでも上記基準を満たさないものがある場合、V−2を満足しないとしてNR(not rated)と評価した。
【0143】
[全光線透過率]
JIS K−7105に準じ、上述の平板状試験片(1−2−3mmの3段厚み)を試験片とし、日本電色工業社製のNDH−2000型濁度計を用い、1.0mm厚みの全光線透過率(単位「%」)を測定した。
【0144】
[分散度]
上述の平板状試験片(1−2−3mmの3段厚み)を試験片とし、MURAKAMI COLOR RESEARCH LABORATORY社製のGP−5 GONIOPHOTOMETERを用い、透過条件、入射光:0°、煽り角:0°、受光範囲:0°〜90°、光束絞り:2.0、受光絞り:3.0、の条件で1mm厚み及び2mm厚みの相対輝度を測定し、0°の相対輝度に対して、相対輝度が半減する角度を分散度(°)として求めた。分散度が高いほど、光拡散性が高く、照明カバーにした場合に、光源の光をより拡散し、より広範囲において照度を保て、かつ光源(例えば製品内部の発光フィラメント、発光素子など)を見えにくくする効果もあるため、好ましい。
【0145】
[耐衝撃性]
ISO179に準拠して、上記で作製したISO多目的試験片(3mm厚)にノッチ加工を施し、23℃においてノッチ付きシャルピー衝撃強度(単位:kJ/m)を測定した。
【0146】
[流れ値(Q値)]
樹脂組成物の流動性および熱安定性の評価として、JIS K7210 付属書Cに記載の方法にてペレットの流れ値(Q値)を評価した。測定は島津製作所社製フローテスターCFD500Dを用い、穴径1.0mmφ、長さ10mmのダイを用い、試験温度279℃、試験力160kgf、余熱時間420secの条件で排出された溶融樹脂量(×0.01cc/sec)を測定した。
【0147】
[離型性]
上述の厚さ2.5mmの難燃性評価に用いたのと同じ金型、成形機で、成形サイクルを10秒に短縮して射出成形を実施(この成形サイクルは非常に短く離型し難い条件となる)した。離型時の成形品の変形の有無を目視にて観察して離型性を評価した。
判定基準は、成形品が著しく変形じた場合を×、変形しない場合を○として判定した。
【0148】
[表面平滑性]
上述の平板状試験片について、その表面平滑性を目視にて、以下の基準で判定した。
室内の天井に設置してある蛍光灯の像が成形品表面に写るようにして見た際、蛍光灯の輪郭が鮮明に写るものを○、不鮮明に写るものを×として、判定した。
以上の評価結果を表5および表6に示す。
【0149】
【表5】

【0150】
【表6】

【0151】
表5および表6に記載した結果について、以下に説明する。
(1)実施例1〜4
実施例1〜4は(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分を配合し、(D)成分の量を変化させた場合である。一方、比較例3〜5は(A)成分、(B)成分、(D)成分を配合し、(C)成分を配合しない場合である。
(B)成分の配合量が同じ実施例と比較例を比べると、(C)成分を配合した実施例の方が分散度が高く、光拡散性が向上している。この際の光学バランスは図1にプロットした。
図1は横軸に全光線透過率、縦軸に分散度を示す。このグラフで右上方にあるプロットほど光学バランスに優れることを示す。実施例の光学バランスは(C)成分の無い比較例と比べて同等以上であることが分かる。
更に比較例と比べて実施例は、より薄い肉厚でもV−0を発揮するようになり、流動性も向上、更には離型性も大きく向上していることが分かる。また実施例の樹脂組成物は耐衝撃性、表面平滑性も良好である。
なお、比較例1、2から(B)成分を配合しない場合は(C)成分の有無によらず分散度は0°であり、(C)成分による拡散性向上作用は確認されない。
【0152】
(2)実施例5、6、7、8の説明
実施例5は実施例1よりも(C)成分の配合量を減量した場合である。実施1と効果の程度に若干の際はあるが、ほぼ同様の効果を発揮している。実施例6、7は実施例1に更に(E)成分を配合した場合である。(E)成分を配合することで更に薄肉でV−0を発揮している。実施例8は実施例1の(A)成分の種類を変更した場合である。比較例9は実施例8の(C)成分を配合しなかった場合である。やはり実施例の方が拡散性、難燃性が優れている。
【0153】
(3)実施例9,10,11
実施例9は実施例1と成分(A)の種類を変更した場合である。難燃性が実施例1より向上しており光学バランスは実施例1と同等で優れている。実施例10は実施例1の離型剤を配合しない場合であるが、離型剤を無しにしても離型性に優れている。一方(C)成分の無い比較例は離型剤が配合されていても、実施例10よりも離型性に劣る。
実施例11は実施例1の(C)成分の種類を変更した場合であるが、実施例1と同様、の効果を発揮し、優れた特性を発現している。
【0154】
したがって、実施例及び比較例から、全光線透過率と光拡散性に優れ、即ち光学バランスに優れ、流動性と難燃性、離型性、耐衝撃性、表面平滑性にも優れるという効果は、本発明の構成によりはじめて得られるものであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物によれば、全光線透過率と光拡散率、即ち光学バランスに優れ、流動性と難燃性、離型性、耐衝撃性、表面平滑性にも優れたポリカーボネート樹脂成形材料が得られるので、各種照明カバー、照明看板、透過形のスクリーン、各種ディスプレイ、液晶表示装置の光拡散シートや光拡散板などの広範囲の分野に利用でき、産業上の利用性は非常に高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、平均粒径が1〜3μmのポリオルガノシロキサン粒子(B)を0.01〜5質量部、動粘度が1〜120センチストークスのポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(ジフェニルシロキサン)コポリマー(C)を0.05〜3質量部、有機スルホン酸金属塩有機スルホン酸金属塩(D)を0.01〜1質量部含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
ポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(ジフェニルシロキサン)コポリマー(C)が、下記式(1)で表されることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】

[式(1)中、a、bは、それぞれ自然数を表す。]
【請求項3】
ポリカーボネート樹脂(A)は、構造粘性指数Nが1.2以上のポリカーボネート樹脂を20質量%以上含むことを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
有機スルホン酸金属塩(D)が、有機スルホン酸アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩であることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
有機スルホン酸金属塩(D)が、パーフルオロアルカンスルホン酸アルカリ金属塩であることを特徴とする請求項1または4に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
さらに、フッ素樹脂(E)をポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.001〜1質量部含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
ポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(ジフェニルシロキサン)コポリマー(C)の屈折率が1.45〜1.55であることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
ポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(ジフェニルシロキサン)コポリマー(C)のフェニル基含有量が15〜45モル%であることを特徴とする請求項1または7に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
ポリオルガノシロキサン粒子(B)が、ポリアルキルシルセスキオキサン粒子であることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物から得られた成形品。
【請求項11】
成形品が、照明カバー又は光拡散板もしくはシートであることを特徴とする請求項10に記載の成形品。

【図1】
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【公開番号】特開2012−184345(P2012−184345A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49011(P2011−49011)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】