説明

ポリカーボネート樹脂組成物

【課題】塩素系難燃剤、臭素系難燃剤及びリン系難燃剤を使用しなくとも、難燃性(特に薄肉の難燃性)、熱伝導性、衝撃特性に優れたポリカーボネート樹脂組成物及びそれからなる成形体を提供する。
【解決手段】(A)ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体を含む芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、(B)黒鉛30〜100質量部、(C)ポリテトラフルオロエチレン1〜10質量部、及び(D)有機アルカリ金属塩及び/又は有機アルカリ土類金属塩0.05〜1質量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物及び該樹脂組成物からなる成形体に関し、塩素難燃剤、臭素系難燃剤及びリン系難燃剤を使用しなくとも、難燃性(特に薄肉の難燃性)、熱伝導性、衝撃特性に優れたポリカーボネート樹脂組成物及びそれからなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
電気電子分野の製品開発においては、デジタルカメラ・デジタルビデオカメラでの高画素化・高速処理化、プロジェクターの小型化、パソコン・モバイル機器での高速処理化、各種光源のLED化等に伴い、放熱対策に重点がおかれるようになっている。
金属部品で放熱回路を構成する対策も取られているが、小型化される機器では、放熱回路が複雑になってしまうため、樹脂筐体と放熱回路を一体化可能な、熱伝導性に優れ、かつ、筐体としての機械的強度にも優れる樹脂材料が要求されている。
また、小型電子機器においては、筐体、シャーシにおいても薄肉化が要求され、それに伴って薄肉の成形体での難燃性も要求されている。
【0003】
上記電子機器の筐体等にポリカーボネート樹脂が汎用されているが、ポリカーボネート樹脂組成物からなる成形体を難燃化するために、塩素系難燃剤、臭素系難燃剤等のハロゲン系難燃剤を添加することが知られている。しかしながら、近時、安全性や、廃棄・焼却時の環境への影響の観点から、ハロゲンを含まない難燃剤による難燃化方法が市場より求められている。このような、ノンハロゲン系難燃剤として、有機リン系難燃剤、特に有機リン酸エステル化合物をポリカーボネート樹脂組成物に配合し、難燃化するためには、リン酸エステル化合物を比較的多量に配合する必要がある。ポリカーボネート樹脂は成形温度が高く、溶融粘度も高いために、成形温度が高くなる傾向にある。このため、リン酸エステル化合物は一般的に難燃性には寄与するものの、成形加工時の金型腐食、ガスの発生など、成形環境や成形品外観上必ずしも十分でない場合がある。
そこで、塩素系難燃剤、臭素系難燃剤等のハロゲン系難燃剤やリン系難燃剤を用いないで、要求される成形体での難燃性(特に薄肉の難燃性)を達成するとともに熱伝導性に優れたポリカーボネート樹脂組成物を見出すことが求められている。
【0004】
熱可塑性樹脂に上記の放熱性を付与する手段として黒鉛を配合することが知られている(特許文献1、特許文献2参照)。特許文献1には、熱可塑性樹脂に特定の黒鉛を配合することにより、金属腐食性が少なく、かつ熱伝導性に優れた熱可塑性樹脂組成物が得られることが開示されているが、難燃性を改良するために、ハロゲン化カーボネートオリゴマー、ハロゲン化エポキシ化合物等の有機ハロゲン系難燃剤やリン酸エステル系難燃剤を用いることが好ましいことが記載されており、塩素系難燃剤、臭素系難燃剤およびリン系難燃剤を使用しない技術を開示するものではない。
また、特許文献2には、発熱体が収容される放熱筐体に関するが、電子機器等の筐体に要求される難燃性に関する記述はなく、必要に応じて配合される添加剤として有機臭素系難燃剤やリン系難燃剤等の難燃剤を開示しているが、塩素系難燃剤、臭素系難燃剤およびリン系難燃剤を積極的に使用しない技術を開示するものではなく、またその実施例では難燃剤、ドリップ防止剤の添加がないことから、十分な難燃性を有していないと考えられる。
さらにポリカーボネート樹脂に帯電防止性や、導電性を付与するために黒鉛を配合するとともに難燃剤を配合したポリカーボネート樹脂組成物が知られている(特許文献3、特許文献4参照)。特許文献3には、芳香族ポリカーボネート樹脂と黒鉛からなる配合物に、特定のシリコーン化合物を含んでなる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が開示され、帯電防止性とともに難燃性が評価されているが、電子機器等の筐体に要求される1.5mm程度の薄肉で十分な難燃性が得られる技術内容の記載はない。また、特許文献4には塩素系難燃剤、臭素系難燃剤およびリン系難燃剤を積極的に使用しない技術として、ポリカーボネート樹脂、黒鉛、及び有機スルホン酸アルカリ(土類)金属塩からなる難燃性樹脂組成物が開示され、難燃性評価においては厚み2.5mmの成形体での評価のみがなされており、特許文献3と同様に電子機器等の筐体に要求される1.5mm程度の薄肉で十分な難燃性が得られるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−31611号公報
【特許文献2】特開2008−31358号公報
【特許文献3】特開2007−126499号公報
【特許文献4】特開2006−273931号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、塩素系難燃剤、臭素系難燃剤及びリン系難燃剤を用いることなく薄肉成形体での難燃性(厚さ1.2〜1.0mm、以下「薄肉難燃性」という。)に優れ、高熱伝導性を有する衝撃特性に優れたポリカーボネート樹脂組成物及び成形体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体を含む芳香族ポリカーボネート樹脂、黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン、及び有機アルカリ金属塩及び/又は有機アルカリ土類金属塩を特定比率で配合することにより、薄肉難燃性に優れ、さらには、熱伝導性、衝撃特性にも優れたポリカーボネート樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)(A)ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体を含む芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、(B)黒鉛30〜100質量部、(C)ポリテトラフルオロエチレン1〜10質量部、及び(D)有機アルカリ金属塩及び/又は有機アルカリ土類金属塩0.05〜1質量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物、
(2)(A)中のポリオルガノシロキサンの含有量が1〜6質量%である上記(1)に記載のポリカーボネート樹脂組成物、
(3)芳香族ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体のポリオルガノシロキサンが、ポリジメチルシロキサンである上記(1)又は(2)に記載のポリカーボネート樹脂組成物、
(4)黒鉛が天然黒鉛である上記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物、
(5)黒鉛が人造黒鉛である上記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物、
(6)(D)有機アルカリ金属塩及び/又は有機アルカリ土類金属塩が、スルホン酸アルカリ金属塩、スルホン酸アルカリ土類金属塩、ポリスチレンスルホン酸アルカリ金属塩及びポリスチレンスルホン酸アルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも一種である上記(1)〜(5)のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物、
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物からなる成形体、
(8)電気・電子機器用部品である上記(7)に記載の成形体、
(9)電気・電子機器用筐体である上記(7)に記載の成形体、
(10)電気・電子機器用シャーシである上記(7)に記載の成形体、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ポリカーボネートが持つ本来の機械的物性を損なうことなく、薄肉難燃性、衝撃特性、及び熱伝導性に優れると共に、造粒時の分子量低下が抑えられて製品の強度をより高く維持できる樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリカーボネート樹脂(以下、「PC樹脂」と略記することがある。)組成物は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂、(B)黒鉛、(C)ポリテトラフルオロエチレン、及び(D)有機アルカリ金属塩及び/又は有機アルカリ土類金属塩を必須成分とするポリカーボネート樹脂組成物である。
本発明における(A)芳香族ポリカーボネート樹脂としては、(A−1)ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体(以下、「PC−POS共重合体」と略記することがある。)を含む芳香族ポリカーボネート樹脂が用いられる。
具体的には、前記(A−1)PC−POS共重合体単独、又はこれに二価フェノールとカーボネート前駆体との反応により製造される(A−2)芳香族ポリカーボネート樹脂(以下、「一般PC樹脂」と略記することがある。)を含む。前記PC−POS共重合体の含有量が10〜100質量%である芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましく用いられる。
【0011】
(A)成分における(A−2)成分である一般PC樹脂は、その製造方法に特に制限はなく、従来の各種方法により製造されたものを用いることができる。例えば、二価フェノールとカーボネート前駆体とを溶液法(界面重縮合法)又は溶融法(エステル交換法)により製造されたもの、すなわち、末端停止剤の存在下に、二価フェノールとホスゲンを反応させる界面重縮合法、又は末端停止剤の存在下に、二価フェノールとジフェニルカーボネートなどとのエステル交換法などにより反応させて製造されたものを用いることができる。
二価フェノールとしては、様々なものを挙げることができるが、特に2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド及びビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等を挙げることができる。この他、ハイドロキノン、レゾルシン及びカテコール等を挙げることもできる。これらは、それぞれ単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中で、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン系のものが好ましく、特にビスフェノールAが好適である。
【0012】
一方、カーボネート前駆体としては、カルボニルハライド、カルボニルエステル、又はハロホルメート等であり、具体的にはホスゲン、二価フェノールのジハロホーメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート及びジエチルカーボネート等である。
なお、この一般PC樹脂は、分岐構造を有していてもよく、分岐剤としては、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、α,α’,α’’−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリイソプロピルベンゼン、フロログリシン、トリメリット酸及びイサチンビス(o−クレゾール)等がある。
本発明において、(A−2)成分として用いられる一般PC樹脂の粘度平均分子量は(Mv)は、通常10,000〜50,000、好ましくは13,000〜35,000、さらに好ましくは15,000〜20,000である。
この粘度平均分子量(Mv)は、ウベローデ型粘度計を用いて、20℃における塩化メチレン溶液の粘度を測定し、これより極限粘度[η]を求め、次式にて算出するものである。
[η]=1.23×10-5Mv0.83
【0013】
当該(A)成分の芳香族ポリカーボネート樹脂において、(A−1)PC−POS共重合体は、ポリカーボネート部とポリオルガノシロキサン部からなるものであり、例えば、予め製造されたポリカーボネート部を構成するポリカーボネートオリゴマー(以下、PCオリゴマーと略称する。)と、ポリオルガノシロキサン部(セグメント)を構成する末端にo−アリルフェノール残基、p−ヒドロキシスチレン残基、オイゲノール残基等の反応性基を有するポリオルガノシロキサンとを、塩化メチレン、クロロベンゼン、クロロホルム等の溶媒に溶解させ、二価フェノールの苛性アルカリ水溶液を加え、触媒として、第三級アミン(トリエチルアミン等)や第四級アンモニウム塩(トリメチルベンジルアンモニウムクロライドなど)を用い、末端停止剤の存在下、界面重縮合反応することにより製造することができる。
このPC−POS共重合体の製造に使用されるPCオリゴマーは、例えば塩化メチレンなどの溶媒中で、前述の二価フェノールとホスゲン等のカーボネート前駆体とを反応させることにより、又は二価フェノールと炭酸エステル化合物、例えばジフェニルカーボネートのようなカーボネート前駆体とを反応させることによって容易に製造することができる。
また、炭酸エステル化合物としては、ジフェニルカーボネート等のジアリールカーボネートやジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネートを挙げることができる。
【0014】
PC−POS共重合体の製造に供されるPCオリゴマーは、前述の二価フェノール一種を用いたホモオリゴマーであってもよく、又二種以上を用いたコオリゴマーであってもよい。更に、多官能性芳香族化合物を上記二価フェノールと併用して得られる熱可塑性ランダム分岐オリゴマーであってもよい。
その場合、分岐剤(多官能性芳香族化合物)として、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、α,α’,α’’−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリイソプロピルベンゼン、1−[α−メチル−α−(4’−ヒドロキシフェニル)エチル]−4−[α’,α’−ビス(4’’−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン、フロログルシン、トリメリット酸、イサチンビス(o−クレゾール)等を使用することができる。
このPC−POS共重合体は、例えば、特開平3−292359号公報、特開平4−202465号公報、特開平8−81620号公報、特開平8−302178号公報及び特開平10−7897号公報等に開示されている。
【0015】
当該PC−POS共重合体としては、ポリカーボネート部の重合度が、3〜100程度、ポリオルガノシロキサン部の重合度が2〜500程度のものが好ましく用いられる。
また、当該PC−POS共重合体におけるポリオルガノシロキサン部の(A)成分全体中での含有量は、得られるPC樹脂組成物に対する難燃性付与効果、耐衝撃性付与効果、及び経済性のバランスなどの観点から、1〜6質量%とすることが好ましい。
さらに、当該PC−POS共重合体の粘度平均分子量(Mv)は、通常5,000〜100,000、好ましくは10,000〜30,000、特に好ましくは12,000〜30,000である。ここで、これらの粘度平均分子量(Mv)は、前記の一般PC樹脂と同様に求めることができる。
当該PC−POS共重合体におけるポリオルガノシロキサン部としては、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン等からなるセグメントが好ましく、ポリジメチルシロキサンセグメントが特に好ましい。
【0016】
(A)成分中の(A−1)PC−POS共重合体と、(A−2)成分である一般PC樹脂との使用比率は、当該PC−POS共重合体におけるポリオルガノシロキサン部の(A)成分全体中での含有量が、1〜6質量%となるように、また、(A)成分全体としての原料分子量(粘度平均分子量)は、17,000〜30,000の範囲、好ましくは18,000〜26,000になるように調整することが好ましい。
例えば、ポリオルガノシロキサン部の含有量については、6質量%を超える高含有率のポリオルガノシロキサン部を有するPC−POS共重合体を使用する場合は、多量の一般PC樹脂を用いることにより、また低含有率のPC−POS共重合体を使用する場合は、一般PC樹脂を用いないか又は少量の一般PC樹脂を用いることにより(A)成分全体中での含有量が、1〜6質量%と調整することができる。
通常は、(A)成分中の(A−1)PC−POS共重合体は、10〜100質量%の範囲内で使用される。PC−POS共重合体の比率は多いほうが成形体の衝撃強度を得やすく、また、造粒時の分子量低下が抑制される。
【0017】
当該(A)成分の芳香族PC樹脂における分子末端基として使用される分子量調節剤としては、通常、ポリカーボネートの重合に用いられるものであればよく、各種の一価フェノールを用いることができる。具体的には、例えば、フェノール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、p−tert−オクチルフェノール、p−クミルフェノール、ブロモフェノール、トリブロモフェノール、ノニルフェノール等が挙げられる。
【0018】
本発明のPC樹脂組成物においては、前記の芳香族PC樹脂及びPC−POS共重合体以外に、本発明の目的が損なわれない範囲で、テレフタル酸等の2官能性カルボン酸、又はそのエステル形成誘導体等のエステル前駆体の存在下でポリカーボネートの重合を行うことによって得られるポリエステル−ポリカーボネート樹脂等の共重合樹脂、あるいはその他のポリカーボネート樹脂を適宣含有することができる。
【0019】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、主に熱伝導性を付与させるために、(B)黒鉛を配合する。
本発明で使用する黒鉛としては、天然黒鉛、または各種の人造黒鉛のいずれも利用することができる。天然黒鉛としては、土状黒鉛、鱗状黒鉛(塊状黒鉛とも称されるVein Graphite)、及び鱗片状黒鉛(Flake Graphite)のいずれを利用することもできる。上記例示した天然黒鉛の中では、鱗片状黒鉛が好適に使用できる。天然黒鉛の適用により、より高い熱伝導性と高い弾性率を得ることができる。
【0020】
人造黒鉛は、無定形炭素を熱処理し不規則な配列の微小黒鉛結晶の配向を人工的に行わせたものであり、一般炭素材料に使用される人造黒鉛の他、キッシュ黒鉛、分解黒鉛、および熱分解黒鉛などを含む。一般炭素材料に使用される人造黒鉛は、通常石油コークスや石炭系ピッチコークスを主原料として黒鉛化処理により製造される。
このような、人造黒鉛は、上記の天然黒鉛に比較すると弾性、熱伝導性が低くなるが、高いウエルド強度を改良できるというメリットがある。
(B)成分の配合量は、前述の(A)成分100質量部に対して、30〜100質量部の範囲とすることを要し、好ましくは30〜70質量部の範囲である。配合量が30質量部未満では、十分な熱伝導性が得られ難く、100質量部を超えると衝撃強度が低下し易いという問題がある。
【0021】
本発明において、黒鉛の粒径は、50%累積径が30〜180μmのものが好適に使用できる。黒鉛の固定炭素量は、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、更に好ましくは98重量%以上である。また、黒鉛の揮発分は、好ましくは3重量%以下、より好ましくは1.5重量%以下、更に好ましくは1重量%以下である。
黒鉛の表面は、本発明の組成物の特性を損なわない限りにおいて熱可塑性樹脂との親和性を増すために、表面処理、例えばエポキシ処理、ウレタン処理、シランカップリング処理、および酸化処理等を施してもよい。
【0022】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、薄肉難燃性を向上させるために、(C)ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を配合する。この(C)成分は、本発明の樹脂組成物に溶融滴下防止効果を付与し、優れた薄肉難燃性を発現させる。
(C)成分は、フィブリル形成能を有するものが好ましい。ここで、「フィブリル形成能」とは、せん断力等の外的作用により、樹脂同士が結合して繊維状になる傾向を示すことをいう。本発明の(C)成分としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン系共重合体(例えば、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体等)等を挙げることができる。これらの中では、ポリテトラフルオロエチレンが好ましい。
フィブリル形成能を有するPTFEは、極めて高い分子量を有し、標準比重から求められる数平均分子量で、通常50万以上、好ましくは50万〜1500万、より好ましく100万〜1000万である。具体的には、テトラフルオロエチレンを水性溶媒中で、ナトリウム、カリウムあるいはアンモニウムパーオキシジスルフィドの存在下で、7〜700kPa程度の圧力下、温度0〜200℃程度、好ましくは20〜100℃で重合することによって得ることができる。
【0023】
また、固体形状の他、水性分散液形態のものも使用可能であり、ASTM規格によりタイプ3に分類されるものを用いることができる。このタイプ3に分類される市販品としては、例えば、「テフロン6−J」[商品名、三井デュポンフロロケミカル(株)製]、「ポリフロンD−1」及び「ポリフロンF−103」[商品名、ダイキン工業(株)製]等が挙げられる。また、タイプ3以外では、「アルゴフロンF5」[商品名、ソルベイソレクシス社製]、及び「ポリフロンMPAFA−100」[商品名、ダイキン工業(株)製]等が挙げられる。
上記PTFEは、単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0024】
(C)ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の配合量は、前述の(A)芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、1〜10質量部の範囲、好ましくは1.5〜9質量部である。その配合量が1質量部未満であると滴下防止効果がなくなり、10質量部を超えると、衝撃特性が低下する。
配合量が1〜1.5質量部では滴下防止剤としての効果を有するが、1.5質量部を超えて配合すると滴下防止剤としてだけでなく、衝撃強度、離型性の向上効果も発揮でき、成形時の離型作用もよくなる。
【0025】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の薄肉難燃性をさらに向上させるために、(D)有機アルカリ金属塩及び/又は有機アルカリ土類金属塩を配合する。
(D)有機アルカリ金属塩及び/又は有機アルカリ土類金属塩としては種々のものが挙げられるが、少なくとも一つの炭素原子を有する有機酸、又は有機酸エステルのアルカリ金属塩及び有機アルカリ土類金属塩を使用することができる。
ここで、有機酸又は有機酸エステルは、有機スルホン酸、有機カルボン酸などである。一方、アルカリ金属は、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムなど、アルカリ土類金属は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどであり、この中で、ナトリウム、カリウムの塩が好ましく用いられる。また、その有機酸の塩は、フッ素、塩素、臭素のようなハロゲンが置換されていてもよい。アルカリ金属塩及び有機アルカリ土類金属塩は、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
上記各種の有機アルカリ金属塩及び有機アルカリ土類金属塩の中で、例えば、有機スルホン酸の場合、下記一般式(1)で表されるパーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩が好ましく用いられる。
(Ce2e+1SO3f M (1)
式中、eは1〜10の整数を示し、Mはリチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムなどのアリカリ金属、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属を示し、fはMの原子価を示す。
これらの化合物としては、例えば、特公昭47−40445号公報に記載されているものがこれに該当する。
【0026】
上記一般式(1)において、パーフルオロアルカンスルホン酸としては、例えば、パーフルオロメタンスルホン酸、パーフルオロエタンスルホン酸、パーフルオロプロパンスルホン酸、パーフルオロブタンスルホン酸、パーフルオロメチルブタンスルホン酸、パーフルオロヘキサンスルホン酸、パーフルオロヘプタンスルホン酸、パーフルオロオクタンスルホン酸等を挙げることができる。特に、これらのカリウム塩が好ましく用いられる。その他、パラトルエンスルホン酸、2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸;2,4,5−トリクロロベンゼンスルホン酸;ジフェニルスルホン−3−スルホン酸;ジフェニルスルホン−3,3'−ジスルホン酸;ナフタレントリスルホン酸等の有機スルホン酸のアルカリ金属塩等を挙げることができる。
【0027】
また、有機カルボン酸としては、例えば、パーフルオロ蟻酸、パーフルオロメタンカルボン酸、パーフルオロエタンカルボン酸、パーフルオロプロパンカルボン酸、パーフルオロブタンカルボン酸、パーフルオロメチルブタンカルボン酸、パーフルオロヘキサンカルボン酸、パーフルオロヘプタンカルボン酸、パーフルオロオクタンカルボン酸等を挙げることができ、これら有機カルボン酸のアルカリ金属塩が用いられる。
【0028】
次に、(D)成分に使用できるポリスチレンスルホン酸のアルカリ金属塩及び/又アルカリ土類金属塩としては、下記一般式(2)で表わされるスルホン酸塩基含有芳香族ビニル系樹脂を用いることができる。
【0029】
【化1】

【0030】
上記式(2)中、Z1はスルホン酸塩基、Z2は水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を示す。gは1〜5の整数である。hはモル分率を表し、0<h≦1である。
ここで、スルホン酸塩基はスルホン酸のアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩であり、金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられる。
式中、Z2は水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基であり、好ましくは水素原子又はメチル基である。また、gは1〜5の整数であり、hは、0<h≦1の関係である。すなわち、スルホン酸塩基(Z1)は、芳香環に対して、全置換したものであっても、部分置換したものであってもよい。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の難燃性の効果をより高めるために、スルホン酸塩基の置換比率は、スルホン酸塩基含有芳香族ビニル系樹脂の含有量等を考慮して決定され、一般的には10〜100%置換のものが用いられる。
【0031】
なお、ポリスチレンスルホン酸のアルカリ金属塩及び/又アルカリ土類金属塩において、スルホン酸塩基含有芳香族ビニル系樹脂は、上記一般式(2)のポリスチレン樹脂に限定されるものではなく、スチレン系単量体と共重合可能な他の単量体との共重合体であってもよい。
ここで、スルホン酸塩基含有芳香族ビニル系樹脂の製造方法としては、(I)上記のスルホン酸基等を有する芳香族ビニル系単量体、又はこれらと共重合可能な他の単量体とを重合又は共重合する方法、(II)芳香族ビニル系重合体、又は芳香族ビニル系単量体と他の共重合可能な単量体との共重合体、又はこれらの混合重合体をスルホン化し、アルカリ金属化合物及び/又アルカリ土類金属化合物で中和する方法、等がある。
例えば、上記(II)の方法としては、ポリスチレン樹脂の1,2−ジクロロエタン溶液に濃硫酸と無水酢酸の混合液を加えて加熱し、数時間反応することにより、ポリスチレンスルホン酸化物を製造する。次いで、スルホン酸基と当モル量の水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムで中和することによりポリスチレンスルホン酸カリウム塩又はナトリウム塩を得ることができる。
本発明で用いる、スルホン酸塩基含有芳香族ビニル系樹脂の重量平均分子量としては、1,000〜300,000程度、好ましくは2,000〜200,000程度である。なお、重量平均分子量は、GPC法で測定することができる。
【0032】
上記の(D)有機アルカリ金属塩及び/又は有機アルカリ土類金属塩は一種用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その含有量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、0.05〜1質量部、好ましくは0.1〜0.9重量部である。上記含有量が0.05質量部未満では、目標とする薄肉難燃性を達成するのが困難であり、1質量部を超えると熱安定性が低下するという問題がある。
【0033】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、成形性、耐衝撃性、外観改善、耐候性改善及び剛性改善等の目的で、上記(A)〜(D)からなる成分に、フェノール系、リン系、イオウ系の(E)酸化防止剤、(F)離型剤を含有させることができる。
(E)酸化防止剤の配合量について、リン系酸化防止剤では、0.001〜0.5質量部が好ましい。0.001質量部以上では、造粒工程・成形工程での熱安定性を維持でき、0.5質量部未満では分子量低下を引き起こし難い。また、フェノール系酸化防止剤では、0.001〜0.5質量部の添加が好ましく、衝撃強度が向上し易い。
(F)離型剤としては、ポリカーボネート樹脂に配合して成形時の離型性を改善できるものであれば、特に限定されるものではない。とりわけ、蜜蝋、グリセリンモノステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、モンタン酸エステルワックス、カルボン酸エステル等有機化合物が優れた離型性を示し、好適に使用される。
これらは例えば、三木化学工業社製の「蜜ロウ・ゴールデンブランド」、理研ビタミン(株)製の「リケマールS− 100A」、「リケマールSL−900」、及び「リケスターEW−440A」、コグニスジャパン社製の「ロキシオールV P G 8 6 1」、クラリアントジャパン社製の「リコワックスE」、コグニスジャパン社製の「ロキシオールEP−32」が挙げられる。その配合量については0.001〜2質量部が好ましい。
さらに、その他の合成樹脂、エラストマー、熱可塑性樹脂に常用されている添加剤成分を必要により含有させることもできる。上記添加剤としては帯電防止剤、ポリアミドポリエーテルブロック共重合体(永久帯電防止性能付与)、ベンゾトリアゾール系やベンゾフェノン系の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系の光安定剤(耐候剤)、可塑剤、抗菌剤、相溶化剤及び着色剤(染料、顔料)等が挙げることができる。
任意成分の配合量は、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の特性が維持される範囲であれば特に制限はない。
【0034】
次に、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法について説明する。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、前記の各成分(A)〜(D)を上記割合で、更に必要に応じて用いられる各種任意成分を適当な割合で配合し、混練することにより得られる。
配合及び混練は、通常用いられている機器、例えば、リボンブレンダー、ドラムタンブラーなどで予備混合して、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機及びコニーダ等を用いる方法で行うことができる。混練の際の加熱温度は、通常240〜320℃の範囲で適宜選択される。この溶融混練成形としては、押出成形機、特に、ベント式の押出成形機の使用が好ましい。
尚、ポリカーボネート樹脂以外の含有成分は、あらかじめ、ポリカーボネート樹脂又は他の熱可塑性樹脂と溶融混練、即ち、マスターバッチとして添加することもできる。
【0035】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、上記の溶融混練成形機、又は、得られたペレットを原料として、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空成形法及び発泡成形法等により各種成形体を製造することができる。特に、得られたペレットを用いて、射出成形及び射出圧縮成形による射出成形体の製造に好適に用いることができる。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物からなる成形体は、例えば、
(1)テレビ、ラジオカセット、ビデオカメラ、ビデオテープレコーダ、オーディオプレーヤー、DVDプレーヤー、エアコンディショナー、携帯電話、ディスプレイ、コンピュータ、レジスター、電卓、複写機、プリンター、ファクシミリ等の電気・電子機器用部品、
(2)上記1の電気・電子機器用の筐体、
(3)上記1の電気・電子機器用のシャーシ、
等として好適に用いることができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明について実施例及び比較例を示してより具体的に説明するが、本発明はこれらによって、何ら制限されるものではない。
性能評価方法及び使用原料を次に示す。
〔性能評価方法〕
(1)粘度平均分子量
ウベローデ型粘度管にて、20℃における塩化メチレン溶液の極限粘度〔η〕を測定し、次の関係式(Schnellの式)より計算した。〔η〕=1.23×10-5×Mv0.83
なお、ペレット分子量は、評価用ペレットサンプルを塩化メチレンにて溶解し、不溶解分を分離し、抽出したポリカーボネート樹脂の分子量を測定した。
【0037】
(2)難燃性
UL規格94に準じて作製した、試験片(長さ127mm、幅12.7mm、厚さ1.2mm)の試験片を用いて垂直燃焼試験を行った。試験の結果に基づいてUL94 V−0、V−1、又はV−2の等級に評価し、V−2に達しないものをV−2outとした。
なお、UL規格94とは、鉛直に保持した所定の大きさの試験片にバーナーの炎を10秒間接炎した後の残炎時間から難燃性を評価する方法である。
【0038】
(3)熱伝導率
熱伝導率測定装置「TPA−501」[京都電子工業(株)製]を用いてホットディスク法にて測定した。
(4)密度
JIS K7112:0に準拠し測定した。
【0039】
(5)曲げ特性
弾性率;ASTM D790に準拠して測定した。
曲げ強度;ASTM D790に準拠して測定した。
【0040】
(6)衝撃特性
ノッチ付きアイゾット衝撃強度(IZOD)
射出成形機で作製した試験片(長さ12.7mm、幅63mm、高さ3.2mm)を用いて、ASTM規格D−256に準拠して、測定温度23℃にて衝撃強度を測定した。
【0041】
〔使用原料〕
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂
A−1(1);ポリカーボネート−ポリジメチルシロキサン共重合体[出光興産(株)製、「FC1700」;粘度平均分子量=17,800、ポリジメチルシロキサン(PDMS)部の重合度=40、PDMS含有量=3.5質量%]
A−1(2);下記の製造例1により得られたポリカーボネート−ポリジメチルシロキサン共重合体[粘度平均分子量=17,300、ポリジメチルシロキサン(PDMS)部の重合度=90、PDMS含有量=6.6質量%]
【0042】
製造例1
(ポリカーボネートオリゴマー合成工程)
5.6質量%水酸化ナトリウム水溶液に後から溶解するビスフェノールA(BPA)に対して2,000ppmの亜二チオン酸ナトリウムを加え、これにBPA濃度が13.5質量%になるようにBPAを溶解し、BPAの水酸化ナトリウム水溶液を調製した。
このBPAの水酸化ナトリウム水溶液40リットル/hr、塩化メチレン15リットル/hrの流量で、ホスゲンを4.0kg/hrの流量で内径6mm、管長30mの管型反応器に連続的に通した。管型反応器はジャケット部分を有しており、ジャケットに冷却水を通して反応液の温度を40℃以下に保った。
管型反応器を出た反応液は後退翼を備えた内容積40リットルのバッフル付き槽型反応器へ連続的に導入され、ここにさらにBPAの水酸化ナトリウム水溶液2.8リットル/hr、25質量%水酸化ナトリウム水溶液0.07リットル/hr、水17リットル/hr、1質量%トリエチルアミン水溶液を0.64リットル/hr添加して反応を行なった。槽型反応器から溢れ出る反応液を連続的に抜き出し、静置することで水相を分離除去し、塩化メチレン相を採取した。
このようにして得られたポリカーボネートオリゴマーは濃度318g/l、クロロホーメート基濃度0.75mol/lであった。
【0043】
(ポリカーボネート−ポリジメチルシロキサン共重合体の製造例1)
邪魔板、パドル型攪拌翼及び冷却用ジャケットを備えた50L槽型反応器に上記で製造したポリカーボネートオリゴマー溶液15L、塩化メチレン9.0L、ジメチルシロキサン単位の繰返し数が90であるアリルフェノール末端変性ポリジメチルシロキサン(PDMS)396g及びトリエチルアミン8.8mLを仕込み、攪拌下でここに6.4質量%水酸化ナトリウム水溶液1389gを加え、10分間ポリカーボネートオリゴマーとアリルフェノール末端変性PDMSの反応を行った。
この重合液に、p−t−ブチルフェノール(PTBP)の塩化メチレン溶液(PTBP140gを塩化メチレン2.0Lに溶解したもの)、BPAの水酸化ナトリウム水溶液(NaOH577gと亜二チオン酸ナトリウム2.0gを水8.4Lに溶解した水溶液にBPA1012gを溶解させたもの)を添加し50分間重合反応を行った。
希釈のため塩化メチレン10Lを加え10分間攪拌した後、ポリカーボネート−ポリジメチルシロキサン共重合体を含む有機相と過剰のBPA及びNaOHを含む水相に分離し、有機相を単離した。
こうして得られたポリカーボネート−ポリジメチルシロキサン共重合体の塩化メチレン溶液を、その溶液に対して順次、15容積%の0.03mol/LNaOH水溶液、0.2モル/L塩酸で洗浄し、次いで洗浄後の水相中の電気伝導度が0.01μS/m以下になるまで純水で洗浄を繰り返した。
洗浄により得られたポリカーボネート−ポリジメチルシロキサン共重合体の塩化メチレン溶液を濃縮・粉砕し、得られたフレークを減圧下120℃で乾燥した。
得られたポリカーボネート−ポリジメチルシロキサン共重合体の核磁気共鳴(NMR)により求めたPDMS残基量(PDMS共重合量)は6.6質量%、ISO1628−4(1999)に準拠して測定した粘度数は46.7、粘度平均分子量Mv=17,300であった。
【0044】
A−1(3);下記の製造例2により得られたポリカーボネート−ポリジメチルシロキサン共重合体[粘度平均分子量=17,300、ポリジメチルシロキサン(PDMS)部の重合度=40、PDMS含有量=10質量%]
【0045】
製造例2
(ポリカーボネート−ポリジメチルシロキサン共重合体の製造例2)
邪魔板、パドル型攪拌翼及び冷却用ジャケットを備えた50L槽型反応器に上記のA−1(2)の製造で使用したポリカーボネートオリゴマー溶液15L、塩化メチレン8.9L、ジメチルシラノオキシ単位の繰返し数が40であるアリルフェノール末端変性PDMS 670g及びトリエチルアミン8.8mL、を仕込み、攪拌下でここに6.4質量%水酸化ナトリウム水溶液1389gを加え、10分間ポリカーボネートオリゴマーとアリルフェノール末端変性PDMSの反応を行った。
この重合液に、p−t−ブチルフェノール(PTBP)の塩化メチレン溶液(PTBP137.9gを塩化メチレン2.0Lに溶解したもの)、BPAの水酸化ナトリウム水溶液(NaOH581gと亜二チオン酸ナトリウム2.3gを水8.5Lに溶解した水溶液にBPA1147gを溶解させたもの)を添加し50分間重合反応を実施した。希釈のため塩化メチレン10Lを加え10分間攪拌した後、ポリカーボネートを含む有機相と過剰のBPA及びNaOHを含む水相に分離し、有機相を単離した。
こうして得られたポリカーボネートの塩化メチレン溶液を、その溶液に対して順次、15容積%の0.03mol/LNaOH水溶液、0.2N塩酸で洗浄し、次いで洗浄後の水相中の電気伝導度が0.01μS/m以下になるまで純水で洗浄を繰り返した。洗浄により得られたポリカーボネートの塩化メチレン溶液を濃縮・粉砕し、得られたフレークを減圧下120℃で乾燥した。
NMRにより求めたPDMS残基の量は10.0質量%、ISO1628−4(1999)に準拠して測定した粘度数は46.6、粘度平均分子量Mv=17,300であった。
【0046】
A−2(1);ポリカーボネート[出光興産(株)製、ビスフェノールAから製造されたホモポリカーボネート「タフロンFN1900A」、粘度平均分子量=19,500]
A−2(2);ポリカーボネート[出光興産(株)製、ビスフェノールAから製造されたホモポリカーボネート「タフロンFN2200A」、粘度平均分子量=21,500]
A−2(3);ポリカーボネート[出光興産(株)製、ビスフェノールAから製造されたホモポリカーボネート「タフロンFN2600A」、粘度平均分子量=26,000]
なお、表中のPOS含有量:(A)成分中のポリオルガノシロキサン含有量(質量%)を示す。
【0047】
(B)黒鉛
B−1;天然黒鉛[日本黒鉛工業社製「CB−150」;鱗片状、粒度分布 63μm以下77〜87%、106μm以上5%以下、見かけ密度 0.2〜0.3g/cm3、50%累積径 31〜48μm、固定炭素 98質量%以上、灰分 1質量%以下、揮発分 1質量%以下]
B−2;人造黒鉛[日本黒鉛工業社製「PAG−420」;不定形、50%累積径 30〜40μm(50μm以上 50%以下)、見かけ密度 0.29〜0.37g/cm3、固定炭素 99.4質量%以上、灰分 0.3質量%以下、揮発分 0.3質量%以下]
【0048】
(C)ポリテトラフルオロエチレン (PTFE)
C−1;PTFE[ソルベイソレクシス社製、「アルゴフロンF5」;アルゴフロンF5は凝集しやすいので、一旦、PCフレークでマスターバッチ化(混合比率(質量) PC:PTFE=90:10〜80:20)してから配合]
【0049】
(D)有機アルカリ(土類)金属塩
D−1;パーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩[三菱マテリアル(株)製、「エフトップKFBS」]
D−2;パラトルエンスルホン酸ナトリウム塩[DAH DIING CHEMICAL INDUSTRY社製、純度93%品、不純物として硫酸ナトリウム3質量%以下、水分5質量%以下]
【0050】
(E)その他添加剤 酸化防止剤
E−1;リン系酸化防止剤(ジフェニルイソオクチルホスファイト)[ADEKA社製、「アデカスタブ C」]
E−2;フェノール系酸化防止剤(オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)[チバ・ジャパン(株)製、「Irganox1076」]
(F)その他添加剤 離型剤
F−1;ステアリン酸モノグリセリド[理研ビタミン(株)製「リケマールS−100A」]
F−2;ペンタエリスリトールテトラステアレート[理研ビタミン(株)製「リケスターEW−440A」]
【0051】
実施例1〜13、及び比較例1〜7
表1及び表2に示す割合で各成分を混合し、ベント式二軸押出成形機〔東芝機械社製:TEM35〕に供給し、バレル温度300〜320℃、スクリュ回転数200〜600回転、吐出量10〜30kg/hrにて溶融混練し、評価用ペレットサンプルを得た。
この評価用ペレットサンプルを用いて、粘度平均分子量を測定した。また、射出成形機にて、各試験を行うための試験片を作成し、各試験を行った。その結果を表1及び表2に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
表1及び表2より下記のことが判明した。
表1より、本発明の(A)成分から(D)成分を全て満足する実施例1乃至実施例13では薄肉(厚さ1.2mm)難燃性、熱伝導性、曲げ特性、及び衝撃強度に優れ、さらに造粒時におけるポリカーボネート樹脂の分子量低下が抑えられたポリカーボネート樹脂組成物が得られる。
表2より、ホモポリカーボネート樹脂のみからなる比較例1では、薄肉難燃性が低下する。(B)成分の黒鉛含有量が少ない比較例2では、熱伝導性が低下し、(B)成分が多すぎる比較例3では、衝撃強度が低下する。(C)成分のPTFE含有量が少ない比較例4では、薄肉難燃性が低下し、(C)成分が多すぎる比較例5では、衝撃強度が低下する。
(D)成分の金属塩含有量が少ない比較例6では、薄肉難燃性が低下し、(D)成分が多すぎる比較例7では造粒時におけるポリカーボネート樹脂の分子量低下が大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体を含む芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、(B)黒鉛30〜100質量部、(C)ポリテトラフルオロエチレン1〜10質量部、及び(D)有機アルカリ金属塩及び/又は有機アルカリ土類金属塩0.05〜1質量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
(A)中のポリオルガノシロキサンの含有量が1〜6質量%である請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
芳香族ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体のポリオルガノシロキサンが、ポリジメチルシロキサンである請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
黒鉛が天然黒鉛である請求項1〜3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
黒鉛が人造黒鉛である請求項1〜3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
(D)有機アルカリ金属塩及び/又は有機アルカリ土類金属塩が、有機スルホン酸アルカリ金属塩、有機スルホン酸アルカリ土類金属塩、ポリスチレンスルホン酸アルカリ金属塩及びポリスチレンスルホン酸アルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜5のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物からなる成形体。
【請求項8】
電気・電子機器用部品である請求項7に記載の成形体。
【請求項9】
電気・電子機器用筐体である請求項7に記載の成形体。
【請求項10】
電気・電子機器用シャーシである請求項7に記載の成形体。

【公開番号】特開2011−105914(P2011−105914A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265284(P2009−265284)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】