説明

ポリグリコール酸を含有する油捕集材料

【課題】より多くの油を吸着捕集しても作業に支障がなく、かつ、環境に対する負荷が小さく、さらに、油の回収や再利用を効率的に行うことができる油捕集材料を提供すること。
【解決手段】(a)グリコール酸繰り返し単位を70モル%以上有し、(b)Mwが25,000〜800,000、(c)Mw/Mnが1.5〜4.0、(d)融点Tmが197〜245℃、(e)溶融結晶化温度TC2が130〜195℃であるポリグリコール酸を含有する油捕集材料;及び、不織布、マットまたは繊維成形体、紐またはロープ、繊維融着塊状物、棒状繊維成形体、その表面の一部に溶断切断面が形成されてなる繊維状物集合体、繊維束、リボン状物束、成形物または発泡体である油捕集材料、並びに、形状保持材を有する油捕集材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋、河川、湖沼、道路、道路側溝等における流出油、工場内の油や汚水洩れ、または、レストラン等各種の調理施設や下水等での廃油などを捕集するのに好適な油捕集材料に関する。
【背景技術】
【0002】
海面や水面に流出した油等を回収するために、従来は、ポリオレフィン製不織布等の親油性(疎水性)の素材よりなる、平面状または立体形状を有する油捕集材で油を吸着捕集することにより流出油を回収する方法が多用されてきた(例えば、特開昭51−145484号公報(特許文献1)、特開昭61−283308号公報(特許文献2)、特開2002−113360号公報(特許文献3)など。)。特許文献3には、より吸着能力が優れ、迅速かつ軽作業で油を回収し得る油捕集器に対する要求があることが開示されている。
【0003】
大量の油を吸着捕集した油捕集材料から油を回収することもあるが、該油捕集材料を焼却処理することもある。その場合、有毒ガスによる大気汚染を引き起こす等の二次的な環境汚染の発生や、省資源性及び省エネルギー性に欠けるなどの問題点を有していた。また、これらの親油性素材よりなる油捕集材料は、耐久性があり、多くの場合、自然における劣化分解が進まないため、土中に埋め立て処理をした場合、土壌汚染を引き起こすことがあった。
【0004】
一方、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルは、土壌や海中などの自然界に存在する微生物または酵素により分解されるため、環境に対する負荷が小さい生分解性高分子材料として注目されている。この生分解性を利用して、油捕集材料に脂肪族ポリエステルを利用することが知られている。
【0005】
例えば、特開2007−39954号公報(特許文献4)には、ポリ乳酸繊維からなる不織布の外装体に、植物性材料を主体とする吸油性粒子を収容した油吸着材が開示されており、該油吸着材は、使用後のコンポスト処理や埋め立て処理をした場合に、前記外装体と共に分解することが可能であるとされている。
【0006】
なお、先に挙げた特許文献3には、親油疎水性不撚糸を多数平行に揃え、紐状に纏めた油捕集素材が開示され、繊維材料として、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル等のビニル系重合体、PET等の芳香族ポリエステル、ナイロン6等のポリアミドと並んで、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステルが例示されているが、ポリ乳酸等を使用した具体例はみられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭51−145484号公報
【特許文献2】特開昭61−283308号公報
【特許文献3】特開2002−113360号公報
【特許文献4】特開2007−39954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、より多くの油を吸着捕集しても作業に支障がなく、かつ、環境に対する負荷が小さく、さらに、油の回収や再利用を効率的に行うことができる油捕集材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題について鋭意研究を進めた結果、ポリ乳酸と同じく脂肪族ポリエステルに属するポリグリコール酸を選択して、これを含有する油捕集材料とすることによって、課題を解決することができることを見いだした。
【0010】
かくして、本発明によれば、(a)−(O・CH・CO)−で表わされるグリコール酸繰り返し単位を70モル%以上有し、(b)重量平均分子量(Mw)が25,000〜800,000、(c)重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布が1.5〜4.0、(d)融点(Tm)が197〜245℃、及び(e)溶融結晶化温度(TC2)が130〜195℃であるポリグリコール酸を含有する油捕集材料が提供される。
【0011】
本発明によれば、ポリグリコール酸(以下、「PGA」ということがある。)を含有する油捕集材料について、以下の実施態様が提供される。
【0012】
(1)PGAが、グリコリド70〜100質量%及び他の環状モノマー30〜0質量%を開環重合して得られるPGAである前記の油捕集材料。
(2)さらに吸油性粒子またはワックスを含有する前記の油捕集材料。
(3)PGAを含有する繊維状物集合体を有する前記の油捕集材料。
(4)繊維状物集合体が、不織布である前記の油捕集材料。
(5)繊維状物集合体が、マットまたは繊維成形体である前記の油捕集材料。
(6)繊維状物集合体が、紐またはロープである前記の油捕集材料。
(7)繊維状物集合体が、繊維融着塊状物である前記の油捕集材料。
(8)繊維状物集合体が、棒状繊維成形体である前記の油捕集材料。
(9)繊維状物集合体が、その表面の一部に溶断切断面が形成されてなる前記の油捕集材料。
(10)繊維状物集合体が、繊維束またはリボン状物束である前記の油捕集材料。
(11)PGAを含有する成形物を有する前記の油捕集材料。
(12)PGAを含有する成形物が、発泡体である前記の油捕集材料。
(13)さらに形状保持材を有する前記の油捕集材料。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、(a)−(O・CH・CO)−で表わされるグリコール酸繰り返し単位を70モル%以上有し、(b)重量平均分子量(Mw)が25,000〜800,000、(c)重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布が1.5〜4.0、(d)融点(Tm)が197〜245℃、及び(e)溶融結晶化温度(TC2)が130〜195℃であるPGAを含有する油捕集材料であることによって、油の吸収能力が高く、かつ、多くの油を吸収しても、十分な機械的強度を有するため、切れたりすることが少なく、取り扱い性が優れるとともに、さらに、埋め立て処理をすると、PGAが短期間で分解し消失するため、減容に寄与し、また、アルカリ処理することにより効率的に油を回収できるため、油の再利用がしやすくなるという効果を奏する。すなわち、本発明は、油による環境汚染を防止する効果を奏するとともに、油捕集材料の処理に伴う二次的な環境汚染の発生を防止し、省資源性及び省エネルギー性に優れる効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のPGAを含有する油捕集材料は、(a)−(O・CH・CO)−で表わされるグリコール酸繰り返し単位を70モル%以上有し、(b)重量平均分子量(Mw)が25,000〜800,000、(c)重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布が1.5〜4.0、(d)融点が197〜245℃、及び(e)溶融結晶化温度(TC2)が130〜195℃であるPGAを含有することを特徴とする油捕集材料である。
【0015】
脂肪族ポリエステルは、例えば、グリコール酸や乳酸などのα−ヒドロキシカルボン酸の脱水重縮合により合成することができるが、高分子量の脂肪族ポリエステルを効率よく合成するには、一般に、α−ヒドロキシカルボン酸の二分子間環状エステルを合成し、該環状エステルを開環重合する方法が採用されている。例えば、グリコール酸の二分子間環状エステルであるグリコリドを開環重合すると、PGAが得られる。乳酸の二分子間環状エステルであるラクチドを開環重合すると、ポリ乳酸(以下、「PLA」ということがある。)が得られる。
【0016】
脂肪族ポリエステルの中でも、PGAは、例えば、PLAと比較しても、分解性が大きいことに加えて、耐熱性、引張強度等の機械的強度、及び、特に、フィルムまたはシートとしたときのガスバリア性も優れる。そのため、PGAは、農業資材、各種包装(容器)材料や医療用高分子材料としての利用が期待され、単独で、あるいは他の樹脂材料などと複合化して用途展開が進んでいる。これら製品の製造方法としては、紡糸、押出成形、射出成形、圧縮成形、射出圧縮成形、トランスファ成形、注型成形、スタンパブル成形、ブロー成形、延伸フィルム成形、インフレーションフィルム成形、積層成形、カレンダー成形、発泡成形、RIM成形、FRP成形、粉末成形又はペースト成形など、溶融成形その他多くの成形方法が採用されている。
【0017】
1.ポリグリコール酸
本発明の油捕集材料に含有されるPGAは、−(O・CH・CO)−で表わされるグリコール酸繰り返し単位のみからなるグリコール酸のホモポリマー(グリコール酸の2分子間環状エステルであるグリコリドの開環重合物を含む)に加えて、上記グリコール酸繰り返し単位を70モル%以上含むPGA共重合体を含むものである。
【0018】
上記グリコリド等のグリコール酸モノマーとともに、PGA共重合体を与えるコモノマーとしては、例えば、シュウ酸エチレン(即ち、1,4−ジオキサン−2,3−ジオン)、ラクチド類、ラクトン類、カーボネート類、エーテル類、エーテルエステル類、アミド類などの環状モノマー;乳酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル;エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類と、こはく酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸類またはそのアルキルエステル類との実質的に等モルの混合物;またはこれらの2種以上を挙げることができる。これらコモノマーは、その重合体を、上記グリコリド等のグリコール酸モノマーとともに、PGA共重合体を与えるための出発原料として用いることもできる。
【0019】
本発明の油捕集材料に含有されるPGA中の上記グリコール酸繰り返し単位は70モル%以上であり、この割合が小さ過ぎると、PGAに期待される機械的強度や分解性が乏しくなる。
【0020】
本発明の油捕集材料に含有されるPGAとしては、所望の高分子量ポリマーを効率的に製造するために、グリコリド70〜100質量%及び他の環状モノマー30〜0質量%を開環重合して得られるPGAが好ましい。他のコモノマーとしては、2分子間の環状モノマーであってもよいし、環状モノマーでなく両者の混合物であってもよいが、本発明の油捕集材料とするためには、環状モノマーが好ましい。
【0021】
以下、グリコリド70〜100質量%及び他の環状モノマー30〜0質量%を開環重合して得られるPGAについて詳述する。
【0022】
〔グリコリド〕
開環重合によってPGAを形成するグリコリドは、ヒドロキシカルボン酸の1種であるグリコール酸の2分子間環状エステルである。グリコリドの製造方法は、特に限定されないが、一般的には、グリコール酸オリゴマーを熱解重合することにより得ることができる。グリコール酸オリゴマーの解重合法として、例えば、溶融解重合法、固相解重合法、溶液解重合法などを採用することができ、また、クロロ酢酸塩の環状縮合物として得られるグリコリドも用いることができる。なお、所望により、グリコリドとしては、グリコリド量の20質量%を限度として、グリコール酸を含有するものを使用することができる。
【0023】
本発明の油捕集材料に含有されるPGAは、グリコリドのみを開環重合させて形成してもよいが、他の環状モノマーを共重合成分として同時に開環重合させて共重合体を形成してもよい。共重合体を形成する場合には、グリコリドの割合は、70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上であり、特に好ましくは98質量%以上、最も好ましくは99質量%以上である実質的にPGAホモポリマーである。
【0024】
〔環状モノマー〕
グリコリドとの共重合成分として使用することができる他の環状モノマーとしては、ラクチドなど他のヒドロキシカルボン酸の2分子間環状エステルの外、ラクトン類(例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等)、トリメチレンカーボネート、1,3−ジオキサンなどの環状モノマーを使用することができる。好ましい他の環状モノマーは、他のヒドロキシカルボン酸の2分子間環状エステルであり、ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、L−乳酸、D−乳酸、α−ヒドロキシ酪酸、α−ヒドロキシイソ酪酸、α−ヒドロキシ吉草酸、α−ヒドロキシカプロン酸、α−ヒドロキシイソカプロン酸、α−ヒドロキシヘプタン酸、α−ヒドロキシオクタン酸、α−ヒドロキシデカン酸、α−ヒドロキシミリスチン酸、α−ヒドロキシステアリン酸、及びこれらのアルキル置換体などを挙げることができる。特に好ましい他の環状モノマーは、乳酸の2分子間環状エステルであるラクチドであり、L体、D体、ラセミ体、これらの混合物のいずれであってもよい。
【0025】
他の環状モノマーは、30質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下、最も好ましくは1質量%以下の割合で用いられる。グリコリドと他の環状モノマーとを開環共重合することにより、PGA(共重合体)の融点を低下させて紡糸温度や成形温度を下げたり、結晶化速度を制御して押出加工性や延伸加工性を改善することができる。しかし、これらの環状モノマーの使用割合が大きすぎると、形成されるPGA(共重合体)の結晶性が損なわれて、耐熱性、ガスバリヤー性、機械的強度などが低下する。なお、PGAが、グリコリド100質量%から形成される場合は、他の環状モノマーは0質量%であり、このPGAも本発明の範囲に含まれる。
【0026】
〔開環重合反応〕
グリコリドの開環重合または開環共重合(以下、総称して、「開環(共)重合」ということがある。)は、好ましくは、少量の触媒の存在下に行われる。触媒は、特に限定されないが、例えば、ハロゲン化錫(例えば、二塩化錫、四塩化錫など)や有機カルボン酸錫(例えば、2−エチルヘキサン酸錫などのオクタン酸錫)などの錫系化合物;アルコキシチタネートなどのチタン系化合物;アルコキシアルミニウムなどのアルミニウム系化合物;ジルコニウムアセチルアセトンなどのジルコニウム系化合物;ハロゲン化アンチモン、酸化アンチモンなどのアンチモン系化合物;などがある。触媒の使用量は、環状エステルに対して、質量比で、好ましくは1〜1,000ppm、より好ましくは3〜300ppm程度である。
【0027】
グリコリドには通常、微量の水分と、グリコール酸及び直鎖状のグリコール酸オリゴマーからなるヒドロキシカルボン酸化合物とが不純物として含まれている。これら不純物の全プロトン濃度を、好ましくは0.01〜0.5モル%、より好ましくは0.02〜0.4モル%、特に好ましくは0.03〜0.35モル%に調整することにより、生成するPGAの溶融粘度や分子量等の物性を制御することができる。全プロトン濃度の調整は、精製したグリコリドに水を添加することによっても実施することができる。
【0028】
グリコリドの開環(共)重合は、塊状重合でも、溶液重合でもよいが、多くの場合、塊状重合が採用される。分子量調節のために、ラウリルアルコールなどの高級アルコールや水などを分子量調節剤として使用することができる。また、物性改良のために、グリセリンなどの多価アルコールを添加してもよい。塊状重合の重合装置としては、押出機型、パドル翼を持った縦型、ヘリカルリボン翼を持った縦型、押出機型やニーダー型の横型、アンプル型、板状型、管状型など様々な装置の中から、適宜選択することができる。また、溶液重合には、各種反応槽を用いることができる。
【0029】
重合温度は、実質的な重合開始温度である120℃から300℃までの範囲内で目的に応じて適宜設定することができる。重合温度は、好ましくは130〜270℃、より好ましくは140〜260℃、特に好ましくは150〜250℃である。重合温度が低すぎると、生成したPGAの分子量分布が広くなりやすい。重合温度が高すぎると、生成したPGAが熱分解を受けやすくなる。重合時間は、3分間〜20時間、好ましくは5分間〜18時間の範囲内である。重合時間が短すぎると重合が充分に進行し難く、所定の重量平均分子量を実現することができない。重合時間が長すぎると生成したPGAが着色しやすくなる。
【0030】
生成したPGAを固体状態とした後、所望により、更に固相重合を行ってもよい。固相重合とは、PGAの融点(Tm)未満の温度で加熱することにより、固体状態を維持したままで熱処理する操作を意味する。この固相重合により、未反応モノマー、オリゴマーなどの低分子量成分が揮発・除去される。固相重合は、好ましくは1〜100時間、より好ましくは2〜50時間、特に好ましくは3〜30時間で行われる。
【0031】
また、固体状態のPGAを、その融点Tm+38℃以上、好ましくはTm+38℃からTm+100℃までの温度範囲内で溶融混練する工程により熱履歴を与えることによって、結晶性を制御してもよい。
【0032】
〔重量平均分子量(Mw)〕
これらの重合方法によって得られたPGAの重量平均分子量(Mw)は、25,000〜800,000の範囲内であり、好ましくは50,000〜700,000、より好ましくは80,000〜600,000、更に好ましくは120,000〜500,000、特に好ましくは150,000〜400,000の範囲内にあるものを選択する。
【0033】
〔分子量分布(Mw/Mn)〕
本発明の油捕集材料に含有されるPGAは、PGAの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布(Mw/Mn)を1.5〜4.0の範囲内にすることによって、早期に分解を受けやすい低分子量領域の重合体成分(低分子量物)の量を低減させて、分解速度を制御することができる。分子量分布が大きすぎると、分解速度がPGAの重量平均分子量に依存しなくなりやすい。分子量分布が小さすぎると、結果的に長期間に亘り、油捕集材料としての性能を持続することが困難となる。分子量分布は、好ましくは1.6〜3.7、より好ましくは1.7〜3.5である。
【0034】
PGAの重量平均分子量を上記範囲内とし、かつ、分子量分布を上記範囲内に調整することにより、バランスのとれた分解性能等を実現することができる。
【0035】
PGAの重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を所定の範囲内になるように調整するには、例えば、PGAを重合するときに、(i)重合触媒の種類と量、(ii)分子量調節剤の種類と量、(iii)重合装置や重合温度、重合時間などの重合条件、(iv)重合後の後処理、及びこれらの組み合わせなどを工夫すればよい。
【0036】
例えば、PGAを重合するときの重合温度が低いと、重合反応中に生成ポリマーが結晶固化しやすく、重合反応が不均一になりやすい結果、分子量分布が大きくなる傾向がある。重合温度が高いと、生成ポリマーが熱分解を受けやすくなる。また、比較的高い重合温度で、比較的短時間の重合条件を採用すると、生成ポリマーの分子量分布がシャープになる傾向がある。重合反応の終了後に、重合反応系の温度を220〜250℃に上昇させたり、生成ポリマーを溶融混練すると、低分子量物が低減して、分子量分布がシャープになる傾向がある。
【0037】
〔融点(Tm)〕
本発明の油捕集材料に含有されるPGAの融点(Tm)は、197〜245℃であり、共重合成分の種類及び含有割合によって調整することができる。好ましくは200〜243℃、より好ましくは、205〜238℃、特に好ましくは210〜235℃である。PGAの単独重合体の融点は、通常220℃程度である。融点が低すぎると、繊維や成形物として油捕集材料に用いた場合の機械的強度が不十分であったり、成形加工を行う場合の温度管理が難しくなる。融点が高すぎると、加工性が不足したり、繊維や成形物の柔軟性が不足したりすることがある。融点が高すぎると、紡糸温度や成形温度が高くなるので、PGAやその他の添加成分の熱分解や酸化が生じることがある。
【0038】
〔溶融結晶化温度(TC2)〕
本発明の油捕集材料に含有されるPGAの溶融結晶化温度(TC2)は、130〜195℃である。好ましくは133〜193℃、より好ましくは135〜190℃、特に好ましくは138〜185℃である。PGAの溶融結晶化温度(TC2)は、示差走査熱量測定機(DSC)を使用して、PGAを室温から255℃まで、10℃/分で昇温し、次いで、5℃/分の速度で室温まで降温するときに、降温過程に現れる発熱ピークを意味する。溶融結晶化温度(TC2)が高すぎると、本発明の油捕集材料が有する繊維状物や成形物の製造工程において、結晶化が早く始まってしまい、PGA製品の結晶性や機械的強度の制御が行えなくなる。溶融結晶化温度(TC2)が低すぎると、粗大なPGAの結晶が形成され、機械的強度が低下することがある。溶融結晶化温度(TC2)の調整は、PGAの分子量、重合成分の種類や量を適宜選択することにより、行うことができる。固体状態のPGAを、その融点Tm+38℃以上、好ましくはTm+38℃からTm+100℃までの温度範囲内で溶融混練する工程により熱履歴を与えることによって、溶融結晶化温度(TC2)を制御することもできる。
【0039】
〔末端カルボキシル基濃度〕
PGAの末端カルボキシル基濃度を、好ましくは0.1〜300eq/10g、より好ましくは1〜250eq/10g、更に好ましくは6〜200eq/10g、特に好ましくは12〜75eq/10g、とすることによって、得られるPGAの分解性を最適な程度に調整することができる。PGAの分子中には、カルボキシル基及び水酸基が存在している。このうち分子末端にあるカルボキシル基の濃度、すなわち、末端カルボキシル基濃度が小さすぎると加水分解性が低すぎるため、分解速度が低下する。末端カルボキシル基濃度が大きすぎると、加水分解が早く進行するため、長期間に亘って、機械的強度を発揮することができず、また、PGAの初期強度が低いため、機械的強度の低下が速くなる。末端カルボキシル基濃度を調整するには、例えば、PGAを重合するときに、触媒または分子量調節剤の種類や添加量を変更するなどの方法によればよい。
【0040】
〔残留グリコリド量〕
本発明の油捕集材料に含有されるPGAの残留グリコリド量を、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.15質量%以下、特に好ましくは0.12質量%以下に抑制することによって、得られる油捕集材料を形成するための加工中にPGAの分子量が低下することを抑制し、耐水性を向上させることができる。この目的のためには、例えば、PGAを重合するときに、重合の終期(好ましくはモノマーの反応率として50%以上において)に、重合温度を、系が固相となるように、200℃未満、より好ましくは140〜195℃、更に好ましくは160〜190℃となるように調節することが好ましく、また生成したPGAを残留グリコリドの気相への脱離除去工程に付すことも好ましい。残留グリコリド量が多すぎると、油捕集材料を形成するための加工中にPGAの分子量が低下し、長期間に亘って、性能を発揮することができない。
【0041】
〔1%熱重量減少開始温度〕
本発明の油捕集材料に含有されるPGAの1%熱重量減少開始温度を好ましくは210℃以上、より好ましくは213℃以上、特に好ましくは215℃以上とすることによって、PGAから油捕集材を形成するための加工中にPGAの分子量が低下することが抑制される。1%熱重量減少開始温度の上限としては、通常235℃、好ましくは230℃である。1%熱重量減少開始温度は、PGAの耐熱性の指標として使用されるものであり、PGAを流速10ml/分の窒素気流下、50℃から2℃/分の昇温速度で加熱したとき、50℃でのPGAの重量(初期重量)からの重量減少率が1%になる温度である。PGAの1%熱重量減少開始温度が低すぎると、油捕集材料を形成するための加工中にPGAの分子量が低下し、長期間に亘って、性能を発揮することができない。1%熱重量減少開始温度を210℃以上とするためには、PGAを重合するときに、触媒失活剤、核剤、可塑剤、酸化防止剤などの添加剤の添加量をできるだけ少なくするなどの方法によればよい。
【0042】
〔添加剤及び他の樹脂〕
本発明のPGAを含有する油捕集材料には、PGAに加えて、可塑剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、ワックス類、着色剤、結晶化促進剤、水素イオン濃度調節剤、補強繊維などの充填材その他の、通常配合される添加剤を必要に応じて配合することができる。特に、油捕集材料の親油性を高めるために、吸油性粒子やワックスを配合することが好ましく、これらは、PGA100質量部に対して、通常0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜7質量部、特に好ましくは1〜5質量部配合することができる。
【0043】
吸油性粒子としては、油を吸着することができる粒子であれば、特に限定はなく、例えば、活性白土等の無機多孔体粒子などを使用することができるが、油を吸着捕集した油捕集材料の処理を容易とするために、植物性繊維からなる原料を粉砕して粉末化した粒子が好ましい。具体的には、ピーナツ殻、コーヒー豆皮、おがくず、かんなくず、おから、水苔、泥炭苔、木材チップ、米ぬか、木炭、竹炭、赤玉土、ピートソーブ、ヤシガラ、稲もみがら、麦もみがら、木粉等の植物性繊維の少なくとも1種又はこれらの組合せを原料とすることができる。吸油性粒子は、それ単独でも本発明の油捕集材料に使用することができるが、油捕集材料の油の吸着捕集量(処理量)を増大させ、または処理をより簡易にする等の目的のために、他の物質、例えばバクテリア、油ゲル化剤、木炭粉、竹炭粉、赤玉土、粘土鉱物やその化学処理物、洗浄剤、等の添加物と混合して使用してもよい。ワックスとしては、例えば、パラフィンワックス、脂肪酸、アルコールワックス、エステル系ワックス、アミド系ワックス、天然ワックス等のエマルジョンワックス類が好ましく用いられ、特にパラフィンワックス乳化物を、該吸油性粒子の表面に均一に薄く塗布してコーティング膜を形成させてもよい。
【0044】
また、本発明のPGAを含有する油捕集材料には、本発明の目的に反しない限度において、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリβ−プロピオラクトン、ポリカプロラクトンなどの脂肪族ポリエステル類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリグリコール類、変性ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリL−リジンなどのポリアミド類などの他の樹脂を必要に応じて配合することができる。
【0045】
2.油捕集材料
本発明において、油捕集材料とは、海洋、河川、湖沼、道路、道路側溝等における流出油、工場内の油や汚水洩れ、または、レストラン等各種の調理施設や下水等での廃油などの油を吸着するなどして捕集する各種部材に利用できる材料を意味する。油捕集材料は、油捕集材、油吸着材、吸油材または油捕集器などといわれることもある。本発明の油捕集材料は、単独で、または他の部材と積層、結合、若しくは、併用して、油を吸着することなどによって捕集するものである。いわゆるオイルフェンスのように、単に、油の流動を規制する部材は、本発明の油捕集材ではない。
【0046】
本発明の油捕集材料は、PGAを含有する繊維状物集合体を有する油捕集材料、または、PGAを含有する成形物を有する油捕集材料とすることができる。すなわち、本発明の油捕集材料は、PGAを含有する繊維状物集合体単独からなる油捕集材料、PGAを含有する成形物単独からなる油捕集材料、PGAを含有する繊維状物集合体と他の部材と積層、結合、若しくは、組み合わせて使用される油捕集材料、または、PGAを含有する成形物と他の部材と積層、結合、若しくは、組み合わせて使用される油捕集材料などである。例えば、本発明における特徴を備えるPGAの不織布を外装体として用い、その内部に吸油性粒子を収容してなる油捕集材料とすることができる。「他の部材」としては、例えば、長尺のロープからなる支持部材に、本発明のPGAを含有する油捕集材料を、1つまたは多数取り付けて、海上に配置し、または海面を曳航して、海面または海中にある油を吸着捕集するような使用方法がある。また、「他の部材」として、コアなどの形状保持材を採用し、該形状保持材と本発明の油捕集材料とを、積層、結合、若しくは、組み合わせて使用することによって、油捕集材料の変形や破損を防止することができる。
【0047】
3.繊維状物集合体
本発明の油捕集材料は、PGAを含有する繊維状物集合体を有する油捕集材料として、広く使用される。
【0048】
PGAを含有する繊維状物集合体とは、PGAを紡糸して得られた繊維状物を、長繊維のまま、若しくは、短繊維とした後に、所定の形状に加工したものを意味する。例えば、繊維(芯鞘構造などの複合繊維、分割繊維を含む。)、糸(撚糸、不撚糸、捲縮糸、扁平糸を含む。)、トウ、綿、紐、ロープ、不織布、織布、編布、マットまたは繊維成形体その他が挙げられる。
【0049】
この内、特に、不織布が好適に使用され、一般的に知られる不織布の製造方法によって製造される不織布を採用することができる。例えば、メルトブロー法、スパンボンド法、ニードルパンチ法などにより、PGAの不織布を製造することができるが、PGAを加圧しながら微細なスリットから溶融押出した細繊維を、例えばベルトコンベア上に積層しプレスして不織布を得るメルトブロー法が好ましい。不織布の目付は、1〜500g/mの範囲のものとすることが好ましく、より好ましくは2〜400g/m、更に好ましくは3〜300g/m、特に好ましくは4〜200g/mの範囲である。PGAの不織布を製造する際、窒素ガスパージ等の方法にて水分含有量が増加しないよう配慮して製造することが好ましい。
【0050】
油を吸着捕集した油捕集材料の処理において、分解性を有しない接着剤成分が残留して、環境汚染の原因となることがないように、接着剤成分を選択したり、または接着剤を使用しないこともできる。PGAの長繊維または短繊維をバインダーで接着して平板状または立体形状に賦形して得られるマットまたは繊維成形体においても、バインダーとしては、分解性を有しない成分の使用をできるだけ少なくすることが好ましく、PGAの繊維の融着によることがより好ましい。
【0051】
その他の繊維状物集合体としては、(i)紐またはロープ、(ii)繊維融着塊状物:PGAの繊維を集合させて、熱処理することにより、PGAの繊維を部分的に融着した後、適宜形状に破砕した塊状物であって、該塊状物の表面及び/または内部にフィブリルが存在するもの、(iii)棒状繊維成形体:PGAの繊維からなる糸を引き揃え、少なくとも一部を融着させて、タバコのフィルター様の形状としたもの、(iv)PGAの繊維からなる糸を多数揃え、紐状にまとめて、一端または両端を結束または溶着した繊維状物集合体、特に、その表面の一部に溶断切断面が形成されてなる繊維状物集合体、(v)繊維束またはリボン状物束:例えば、長さ1〜10mの繊維またはリボン状物を5〜250本束ねて作成したもの、その他多くの形態のものを、単独で、または支持部材等他の部材と積層、結合、若しくは、組み合わせて、油捕集材料として使用することができる。
【0052】
4.成形物
本発明の油捕集材料は、PGAを含有する成形物を有する形態の油捕集材料としても使用される。
【0053】
PGAを含有する成形物とは、所望の形状の成形物であり、フィルムまたはシート(すなわち、吸油シート)でもよく、発泡体でもよい。
【0054】
PGAを含有する成形物を製造する方法としては、押出成形、射出成形、圧縮成形、射出圧縮成形、トランスファ成形、注型成形、スタンパブル成形、ブロー成形、延伸フィルム成形、インフレーション成形、積層成形、カレンダー成形、RIM成形、粉末成形又はペースト成形など、溶融成形その他多くの可能な成形方法を採用することができる。
【0055】
PGAを含有する成形物は、単独で油捕集材料としてもよいが、例えば、ロープやフレーム等の支持部材、または基材布に取り付け、または、支持部材と一体成形して、油捕集材料としてもよい。PGAを含有する成形物が発泡体である場合、該発泡体を、単独の油捕集材料とするほかに、支持部材に取り付け、または、支持部材と一体発泡成形して、吸油フロート(浮き)として使用することができる。
【0056】
5.油の捕集
本発明の油捕集材料が吸着捕集することができる油の量は、原料となるPGAの性質、油捕集材料の形態、吸着捕集する油の種類、及び、吸着捕集する時間などによって異なり、当業者が、所望により広い範囲で調整することができる、例えば、油捕集材料が不織布である場合は、目付量を調整することにより、該PGAの不織布100質量部当たり、50〜2,500質量部の油を吸着捕集することができる。
【0057】
しかし、余りに大量の油を吸着捕集すると、油を捕集したPGAを含有する油捕集材料の質量が極めて大きくなるので、油を捕集した油捕集材料の取扱いに支障が生じることがあり、場合によっては、油を捕集した油捕集材料を回収しようとするときに、油捕集材料が破損して、油捕集材料の回収が困難となったり、一旦吸着捕集した油が再流出してしまうこともある。したがって、PGAの不織布100質量部当たり、好ましくは100〜2,000質量部、より好ましくは150〜1,500質量部、更に好ましくは200〜1,200質量部、特に好ましくは300〜1,000質量部の油を吸着捕集するようにする。
【0058】
6.廃棄処理
油を捕集したPGAを含有する油捕集材料は、吸着捕集した油を除去し、または除去しないで、廃棄処理される。
【0059】
吸着捕集した油を除去しないで、油を捕集したPGAを含有する油捕集材料を、例えば土中に廃棄すると、PGAの分解性が高いため、短期間でPGAの分解が進み、PGAを含有する油捕集材料の体積に相当する廃棄物の体積が減少するという、減容効果がある。
【0060】
吸着捕集した油を除去する場合は、圧搾等により油を除去する方法でもよいが、アルカリ処理によるPGAの加水分解を利用する方法が好ましい。すなわち、油を捕集したPGAを含有する油捕集材料を、アルカリ水溶液と接触処理することにより、PGAを加水分解して、油捕集材料の物理構造を破壊し、油捕集材料の中に吸着捕集されていた油を回収する。アルカリ水溶液としては、質量濃度0.1〜5.0%、好ましくは0.5〜4.0%、より好ましくは0.8〜3.0%、特に好ましくは1.0〜2.5%であるアルカリ水溶液を使用して、好ましくは30〜100℃、より好ましくは50〜99℃、特に好ましくは70〜98℃に加熱して、通常2〜60分間、好ましくは5〜50分間、より好ましくは8〜40分間、特に好ましくは10〜30分間、PGAを含有する油捕集材料と接触処理する。その際、界面活性剤を併用してもよい。
【0061】
除去された油は、そのまま廃棄処分してもよいが、再利用可能な油であれば、再利用工程に供給することができる。特に、本発明のPGAを含有する油捕集材料は、油の除去がほぼ完全に行えるので、再利用のための油の回収を目的として、油の吸着捕集を行うために、本発明のPGAを含有する油捕集材料を使用してもよい。
【0062】
なお、PGAの分解により生じるグリコール酸については、グリコール酸が自然界にも存在する有機酸であるため、そのまま、または、中和処理してから排出することもできるが、活性汚泥処理等を行ってグリコール酸をHOとCOに生分解し、生態系への負荷を軽減することが好ましい。
【実施例】
【0063】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0064】
実施例及び比較例におけるPGA及び油捕集材料等の物性及び特性の測定方法は、以下のとおりである。
【0065】
(1)重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn):
PGAの重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)の測定は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析装置を用いて、以下の条件で行った。
【0066】
ヘキサフルオロイソプロパノール(セントラル硝子株式会社製の製品を蒸留してから使用)に、トリフルオロ酢酸ナトリウム塩(関東化学株式会社製)を加えて溶解し、5mMトリフルオロ酢酸ナトリウム塩溶媒(A)を作成する。
【0067】
溶媒(A)を40℃、1ml/分の流速でカラム(HFIP−LG+HFIP−806M×2:SHODEX製)中に流し、分子量82.7万、10.1万、3.4万、1.0万、及び0.2万の5つの分子量既知のポリメタクリル酸メチル(POLYMER LABORATORIES Ltd.製)の各10mgと溶媒(A)とで10mlの溶液とし、そのうちの100μlをカラム中に通し、屈折率(RI)検出による検出ピーク時間を求める。5つの標準試料の検出ピーク時間と分子量とをプロットすることにより、分子量の検量線を作成する。
【0068】
次に、試料であるPGA10mgに溶媒(A)を加えて10mlの溶液とし、そのうちの100μlをカラム中に通して、その溶出曲線から重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、及び分子量分布(Mw/Mn)を求める。計算には、株式会社島津製作所製C−R4AGPCプログラムVer1.2を用いた。
【0069】
(2)融点(Tm)及び溶融結晶化温度(TC2
PGAの融点(Tm)及び溶融結晶化温度(TC2)の測定は、株式会社島津製作所製示差走査熱量測定機(DSC)を使用し、PGA試料約10mgを正確に秤量し、室温から255℃まで、10℃/分で昇温し、次いで、5℃/分の速度で室温まで降温するときの、昇温過程に現れる吸熱ピーク(融点)と降温過程に現れる発熱ピーク(溶融結晶化温度)を検出することにより行った。
【0070】
(3)末端カルボキシル基濃度
PGAの末端カルボキシル基濃度の測定は、PGA約300mgを、150℃で約3分間加熱してジメチルスルホキシド10mlに完全に溶解させ、室温まで冷却した後、指示薬(0.1質量%のブロモチモールブルー/アルコール溶液)を2滴加えた後、0.02規定の水酸化ナトリウム/ベンジルアルコール溶液を加えていき、目視で溶液の色が黄色から緑色に変わった点を終点とした。その時の滴下量よりPGA1トン(10g)あたりの当量として末端カルボキシル基濃度を算出した。
【0071】
(4)残留グリコリド量
PGAの残留グリコリド量の測定は、PGA約100mgに、内部標準物質4−クロロベンゾフェノンを0.2g/lの濃度で含むジメチルスルホキシド2gを加え、150℃で約5分間加熱して溶解させ、室温まで冷却した後、ろ過を行う。その溶液を1μl採取し、ガスクロマトグラフィ(GC)装置に注入して測定を行った。この測定により得られた数値より、PGA中に含まれる質量%として、グリコリド量を算出した。GC分析条件は以下のとおりである。
【0072】
装置:株式会社島津製作所製「GC−2010」
カラム:「TC−17」(0.25mmφ×30m)
カラム温度:150℃で5分保持後、20℃/分で270℃まで昇温して、270℃で3分間保持。
気化室温度:180℃
検出器:FID(水素炎イオン化検出器)、温度:300℃。
【0073】
(5)1%熱重量減少開始温度
PGAの1%熱重量減少開始温度の測定は、メトラー社製熱重量測定装置TG50を用い、流速10ml/分で窒素を流し、この窒素雰囲気下、PGAを50℃から2℃/分の昇温速度で加熱して、重量減少率を測定した。50℃におけるPGAの重量(W50)に対し、該重量が1%減少したときの温度を正確に読み取り、その温度をPGAの1%熱重量減少開始温度とする。
【0074】
(6)不織布の目付
不織布の目付は、JIS−L−1096に準じて測定した
【0075】
(7)土壌中での分解性
油捕集材料の土壌中での分解性は、油を吸着捕集させた油捕集材料を、25℃に温度を保った土壌中に埋設し、3か月後に掘り出して、不織布の状態を目視で観察した。
【0076】
1.参考例:PGAの合成及び不織布の製造
〔グリコリドの合成〕
ジャケット付き撹拌槽に、濃度70質量%のグリコール酸水溶液を仕込み、缶内液を200℃まで加熱昇温し、水を系外に留出させながら縮合反応を行った。次いで、缶内圧を段階的に減圧しながら、生成水、未反応原料などの低沸点物質を留去し、グリコール酸オリゴマーを得た。
【0077】
上記で調製したグリコール酸オリゴマーを反応槽に仕込み、溶媒としてジエチレングリコールジブチルエーテルを加え、さらに、可溶化剤としてオクチルテトラエチレングリコールを加えた。加熱及び減圧下で解重合反応させて、生成グリコリドと溶媒とを共留出させた。留出物は、温水を循環させた二重管式コンデンサーで凝縮し、受器に受けた。受器内の凝縮液は、二液に層分離し、上層が溶媒で、下層がグリコリド層に凝縮された。受器の底部から液状グリコリドを抜き出し、得られたグリコリドを、塔型精製装置を用いて精製した。回収した精製グリコリドは、DSC測定による純度が99.99%以上であった。
【0078】
〔重合〕
ジャケット構造を有し、密閉可能な容積56lの容器内に、上記グリコリド22.5kg、二塩化錫2水和物0.68g(30ppm)、及び水1.49gを加え、全プロトン濃度を0.13モル%に調整した。容器を密閉し、撹拌しながらジャケットにスチームを循環させ、100℃になるまで加熱して、内容物を溶融し、均一な液体とした。内容物の温度を100℃に保持したまま、内径24mmの金属(SUS304)製管からなる装置に移した。170℃熱媒体油を循環させ、7時間保持して重合を行った。ジャケットに循環させている熱媒体油を冷却することにより、重合装置を冷却した後、生成PGAの塊状物を取り出した。収率は、ほぼ100%であった。塊状物を、粉砕機により粉砕した。得られたPGAの重量平均分子量(Mw)は、200,000、分子量分布(Mw/Mn)は1.9、融点(Tm)が221℃、溶融結晶化温度TC2が185℃、末端カルボキシル基濃度は37eq/10g、残留グリコリド量は0.07質量%、1%熱重量減少開始温度は217℃であった。
【0079】
〔不織布の製造〕
上記の方法で製造したPGAを、スクリュー径20mmの汎用小型押出機を用いてメルトブロー不織布を作製した。メルトブローダイの構成は、ノズル数126本(150mm幅)、ノズル径0.3mmである。ホッパー内を窒素ガスパージし、ノズル温度は255℃にて熱風下にて紡糸を行い、ギアポンプにて吐出量とベルトコンベアの速度を調整することにより積層量を制御し、目付132g/mのPGAの不織布を調製した。
【0080】
2.実施例及び比較例
【0081】
[分解性試験]
【0082】
<実施例1>
上記により調製したPGAの不織布から、縦10cm×横10cm(厚み約5mm)の試料を切り出し、その質量(w)(g)を正確に測定した。捕集する油として、幅220mm×奥行275mm×高さ45mmのステンレス製バットに、日清製油株式会社製日清サラダ油とラードを1:1の比率で混ぜたものを2l入れ、25℃に保った(深さ約35mm)。PGAの不織布を、油の上に静かに浮かべ、10分間放置することにより行った。その後、直ちに試料を取り出し、呼び寸法が16mmのステンレス製ふるいの上に5分間放置し、再度質量(w)(g)を測定した。(w−w)/w×100の計算から油捕集材料の100質量部当たりの油吸着量(質量部)を求めた。PGAの不織布100質量部当たりの油吸着量は、690質量部だった。
【0083】
次いで、油を捕集したPGAの不織布を、25℃に温度を保った土壌中に埋設し、3か月後に掘り出して、不織布の状態を目視で観察したところ、PGAの不織布は約50%以上分解しており、該PGAの不織布の端をピンセットでつかんで取り出そうとしたところ、崩れてしまって取り出すことができなかった。
【0084】
<比較例1>
PGAの不織布に代えて、重量平均分子量(Mw)180,000、分子量分布(Mw/Mn)2.0であるL−ポリ乳酸(以下、単に「PLA」という。)の不織布(目付141g/m)を使用したことを除いて、実施例1と同様の試験を行った。
【0085】
PLAの不織布100質量部当たりの油吸着量は、700質量部だった。
【0086】
次いで、油を捕集したPLAの不織布を、25℃に温度を保った土壌中に埋設して、3か月後に掘り出して、不織布の状態を目視で観察したところ、PLAの不織布はわずかに分解が始まっていたが、ほとんど形状が保持されており、不織布の端をつかんで取り出すことができた。
【0087】
<比較例2>
PGAの不織布に代えて、ポリプロピレンの不織布(目付113g/m)を用いたことを除いて、実施例1と同様の試験を行った。
ポリプロピレンの不織布100質量部当たりの油吸着量は、695質量部だった。
次いで、油を捕集したポリプロピレンの不織布を、25℃に温度を保った土壌中に埋設して、3か月後に掘り出して、不織布の状態を目視で観察したところ、不織布は元の形状が完全に保持されていた。
【0088】
[強度試験]
【0089】
<実施例2>
縦2m及び横2mの正方形に切り出した実施例1で使用したPGAの不織布(目付132g/m)を、水面に重油を浮かせた縦5m及び横5mの試験水槽に浮かべ、1昼夜放置して油を吸着捕集した。その後、頂点の1箇所を、ピンチで摘んで持ち上げ、呼び寸法が16mmのステンレス製ふるいの上に移動して5分間放置し、総質量を測定し、計算により、PGAの不織布(油捕集材料)の100質量部当たりの油吸着量(質量部)を求めたところ、油吸着量は、870質量部だった。
【0090】
<比較例3>
実施例2で使用したPGAの不織布(目付132g/m)に代えて、比較例1で使用したPLAの不織布(目付141g/m)を用いたことを除いて、実施例2と同様の試験を行った。頂点の1箇所を、ピンチで摘んで持ち上げようとしたところ、PLAの不織布(油捕集材料)が破れてしまった。正方形の4頂点及び4辺をピンチで摘んで持ち上げ、呼び寸法が16mmのステンレス製ふるいの上に移動して5分間放置し、総質量を測定し、計算により、PLAの不織布(油捕集材料)の100質量部当たりの油吸着量(質量部)を求めたところ、油吸着量は、910質量部だった。
【0091】
[加水分解試験]
【0092】
<実施例3>
実施例1において、油を吸着捕集したPGAの不織布を、90℃に加熱した濃度1.2質量%のNaOH水溶液に、20分間浸漬したところ、PGAの不織布に吸着捕集されていた油が、油層として分離してきた。洗浄とろ過を3回ずつ繰り返した後に、油層を分離して質量を測定したところ、吸着捕集されていた油の94%が回収されたことが分かった。
【0093】
これら実施例と比較例の対比から、本発明のPGAからなる油捕集材料は、分解速度が大きく、引張強度等の機械的強度が大きいというPGAの特性が活かされた油捕集材料であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明によれば、油の吸収能力が高く、かつ、多くの油を吸収しても、十分な機械的強度を有するため、切れたりすることがなく、取り扱い性が優れるとともに、さらに、埋め立て処理をすると、PGAが短期間で分解し消失するため、減容に寄与し、また、アルカリ処理することにより効率的に油を回収でき、油の再利用がしやすくなるので、油による環境汚染を防止し、油捕集材料の処理に伴う二次的な環境汚染の発生を防止し、省資源性及び省エネルギー性に優れ、産業上の利用可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)−(O・CH・CO)−で表わされるグリコール酸繰り返し単位を70モル%以上有し、(b)重量平均分子量(Mw)が25,000〜800,000、(c)重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布が1.5〜4.0、(d)融点(Tm)が197〜245℃、及び(e)溶融結晶化温度(TC2)が130〜195℃であるポリグリコール酸を含有する油捕集材料。
【請求項2】
前記(a)〜(e)を備えるポリグリコール酸が、グリコリド70〜100質量%及び他の環状モノマー30〜0質量%を開環重合して得られるポリグリコール酸である請求項1に記載の油捕集材料。
【請求項3】
さらに吸油性粒子またはワックスを含有する請求項1または2に記載の油捕集材料。
【請求項4】
ポリグリコール酸を含有する繊維状物集合体を有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の油捕集材料。
【請求項5】
繊維状物集合体が、不織布である請求項4に記載の油捕集材料。
【請求項6】
繊維状物集合体が、マットまたは繊維成形体である請求項4に記載の油捕集材料。
【請求項7】
繊維状物集合体が、紐またはロープである請求項4に記載の油捕集材料。
【請求項8】
繊維状物集合体が、繊維融着塊状物である請求項4に記載の油捕集材料。
【請求項9】
繊維状物集合体が、棒状繊維成形体である請求項4に記載の油捕集材料。
【請求項10】
繊維状物集合体が、その表面の一部に溶断切断面が形成されてなる請求項4に記載の油捕集材料。
【請求項11】
繊維状物集合体が、繊維束またはリボン状物束である請求項4に記載の油捕集材料。
【請求項12】
ポリグリコール酸を含有する成形物を有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の油捕集材料。
【請求項13】
ポリグリコール酸を含有する成形物が、発泡体である請求項12に記載の油捕集材料。
【請求項14】
さらに形状保持材を有する請求項1乃至13のいずれか1項に記載の油捕集材料。

【公開番号】特開2012−24655(P2012−24655A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−162854(P2010−162854)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】