説明

ポリグリコール酸系樹脂フィラメントおよびその製造方法

高い引張強度および結節強度で代表される実用的特性を備えるポリグリコール酸系樹脂系の生分解性フィラメントを与える。残留モノマー量が0.5重量%未満のポリグリコール酸系樹脂を溶融紡出後、10℃以下の液浴中で急冷した後、60〜83℃の液浴中で延伸することにより、引張強度が750MPa以上、且つ結節強度が600MPa以上であるポリグリコール酸系樹脂フィラメントを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた生分解性に加えて、高い引張強度および結節強度等の優れた力学的性質を兼ね備えたポリグリコール酸系樹脂フィラメントおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、産業資材、農業資材、水産資材、特に漁網や釣糸等に使用されるフィラメント素材としては、その力学的な要求特性から、主としてポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニリデン、及びポリフッ化ビニリデン等の合成樹脂が用いられてきた。しかしながら、これらの合成樹脂からなる合成樹脂フィラメントは、自然環境化ではほとんど分解しないため、使用後に捨てられたり、放置された場合には、そのまま半永久的に自然界に残存する事になり、環境衛生上大きな問題となっていた。特に、廃棄漁網や切断釣糸が、海底や湖沼の底で堆積し、それらが鳥や水中生物に絡み付いて、殺傷したりする事態が益々増加しており、環境保全及び自然保護の観点よりその改善が強く望まれていた。
【0003】
そこで近年では、実使用後に生分解して消滅する釣糸、漁網、養殖網などの水産資材、あるいは農業資材、産業資材用途に使用する生分解性フィラメントに関する開発が盛んになっている(下記特許文献1、2)。
【0004】
また、生分解フィラメントは外科手術用の生体吸収性縫合糸、人口皮膚などの医療用高分子材料としても利用されている(下記特許文献3,4)。
【0005】
しかしながら、これまでの生分解フィラメントは、高い機械的強度と、高い生分解性を兼ね備えたものは無かった。特に釣糸等のフィラメントでは、結んで使われる事が多い事から、結節強度が最重要視され、ポリアミド、ポリエステル、ポリフッ化ビニリデンと言った高強度フィラメントの最低レベルである引張強度750MPa以上、且つ結節強度600MPa以上、更には感度や衝撃吸収性、ハンドリング性と言った実用特性上、高過ぎず低過ぎない10〜50%の引張伸度を満足しうるものがなかった。
【0006】
このような実用特性を満足させるために、芯部と鞘部で異なる樹脂を組合せた芯−鞘構造の生分解性フィラメントも提案されている(下記特許文献2,5)が、依然として上記したような実用特性を満足し得るものはない。例えば、特許文献2の複合フィラメントは、最大引張強度が739MPa(6.6g/デニール)、最大結節強度が615MPa(5.5g/デニール)程度であり、特許文献5の複合フィラメントは最大引張強度が1000MPaとされているが、引張伸度は約70〜250%と過大である。
【特許文献1】特許第2779972号公報
【特許文献2】特開平10−102323号公報
【特許文献3】米国特許第3297033号明細書
【特許文献4】特公昭58−1942号公報
【特許文献5】特許第3474482号公報
【発明の開示】
従って、本発明は、高い引張強度および結節強度で代表される実用的特性を備えるポリグリコール酸系樹脂系の生分解性フィラメントならびにその製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
すなわち、本発明は、その第1の観点に従い、残留モノマー量が0.5重量%未満のポリグリコール酸系樹脂からなり、引張強度が750MPa以上、且つ結節強度が600MPa以上であることを特徴とするポリグリコール酸系樹脂フィラメントを提供するものである。
【0008】
また、本発明は、残留モノマー量が0.5重量%未満のポリグリコール酸系樹脂を溶融紡出後、10℃以下の液浴中で急冷した後、60〜83℃の液浴中で非晶延伸することを特徴とするポリグリコール酸系樹脂フィラメントの製造方法を提供するものである。
【0009】
優れた生分解性(加水分解性)を有するポリグリコール酸系樹脂については、外科用の縫合糸を与えるためにフィラメントの製造も行われている(例えば前記特許文献3および4)。しかしながら本発明等の研究によれば、そこで採用される溶融紡出−空冷後、約50〜60℃延伸という製造条件は、ポリグリコール酸系樹脂にとって必ずしも適当なものでなく、また従来は原料ポリグリコール酸系樹脂の製造条件が充分に解明されていなかったためもあって、残留モノマー(グリコリド)量が0.5重量%以上と過大であって、これが、製品フィラメントと性能発現に対する障害となっていた。これに対し、本発明者等は、固相重合と残留モノマー除去処理の組み合わせにより、残留モノマー量が0.5重量%未満と低いポリグリコール酸系樹脂の製造に成功し(特願2004−078306)、このポリグリコール酸系樹脂を原料として、最適の溶融紡出−延伸条件と組合せる事により、優れた実用適性を有する生分解性のポリグリコール酸系樹脂フィラメントの製造に成功したものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のポリグリコール酸系樹脂フィラメントは、残留モノマーが0.5重量%未満のポリグリコール酸系樹脂からなり、引張強度が750MPa以上、且つ結節強度が600MPa以上であることを特徴とする。以下、本発明のポリグリコール酸系樹脂フィラメントを、その好ましい製造方法である本発明法に沿って順次説明する。
【0011】
本発明のポリグリコール酸系樹脂フィラメントの製造方法においては、残留モノマー(グリコリド)量が0.5重量%未満のポリグリコール酸系樹脂を原料として用いる。ここでポリグリコール酸系樹脂(以下、しばしば「PGA樹脂」という)は、
式:−(−O−CH−CO−)−
で表わされるグリコール酸繰り返し単位のみからなるグリコール酸の単独重合体(グリコール酸の2分子間環状エステルであるグリコリド(GL)の開環重合物を含む)に加えて、上記グリコール酸繰り返し単位を55重量%以上含むポリグリコール酸共重合体を含むものである。
【0012】
上記グリコリド等のグリコール酸モノマーとともに、ポリグリコール酸共重合体を与えるコモノマーとしては、例えば、シュウ酸エチレン(即ち、1,4−ジオキサン−2,3−ジオン)、ラクチド類、ラクトン類(例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、β−ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等)、カーボネート類(例えばトリメチリンカーボネート等)、エーテル類(例えば1,3−ジオキサン等)、エーテルエステル類(例えばジオキサノン等)、アミド類(εカプロラクタム等)などの環状モノマー;乳酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル;エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類と、こはく酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸類またはそのアルキルエステル類との実質的に等モルの混合物;またはこれらの2種以上を挙げることができる。
【0013】
PGA樹脂中の上記グリコール酸繰り返し単位は55重量%以上であり、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。この割合が小さ過ぎると、本発明のPGA樹脂フィラメントの特徴とする高力学特性を得ることが困難になる。この限りで、PGA樹脂、2種以上のポリグリコール酸(共)重合体を併用してもよい。また、PGA樹脂2種(以上)あるいはPGA樹脂と他の樹脂(好ましくはグリコール酸とともにグリコール酸共重合体を構成するコモノマーの単独または共重合体が用いられる)とによりそれぞれ構成される芯−鞘構造のフィラメント(芯と鞘との重量比は、例えば5:95〜95:5、より好ましくは15:85〜85:15)とすることもできる。
【0014】
ポリグリコール酸系樹脂としては、残留モノマー(グリコリド)量が0.5重量%未満、好ましくは0.2重量%未満、のものを用いる。残留モノマー量が0.5重量%以上であると、本発明法に従ってフィラメントを製造しても、溶融加工するとき、特に溶融加工中に分子量が低下し易く、引張強度、結節強度等の力学的特性が変動しやすくなり、また店頭に並べて販売中にこれら所望の特性を維持するのが困難となる。上記0.5重量%未満、好ましくは0.2重量%未満、の残留モノマー量は、ポリグリコール酸系樹脂全体として満足されるべきものであるが、共重合体あるいは樹脂混合物の場合には、含まれる重合されたグリコール酸単位に対して満たされることが好ましい。この原料ポリグリコール酸系樹脂中の残留モノマー量割合は、本発明のフィラメント製造方法を経て、ほぼ同量が製品フィラメント中に移行することとなる。
【0015】
本発明において、残留モノマー(グリコリド)量が0.5重量%以上であると物性が著しく低下する理由としては、必ずしも明確ではないが、第一に残留モノマー(グリコリド)は反応性に富むため、押出機内の高温の状態でそれが自己触媒として働きエステル交換反応を起こし、長い分子鎖に単量体や低重合体が置き換わるなどして分子量低下を招くものと考えられる。第二に、残留モノマーであるグリコリド(グリコール酸)が酸触媒となり加水分解が促進され、特に水の存在下ではその反応が促進され、更に高温多湿雰囲気下や水中ではその反応が加速されるものと考えられる。
【0016】
また、本発明で用いる、PGA樹脂は、温度240℃及び剪断速度121sec−1で測定した溶融粘度が、好ましくは50〜6,000Pa・s、より好ましくは100〜5,000Pa・s;あるいは重量平均分子量が、好ましくは50,000以上、より好ましくは80,000以上、特に好ましくは100,000以上の高分子量のものを用いることが好ましい。重量平均分子量の上限は、500,000程度、好ましくは300,000程度である。
【0017】
上記のような本発明に用いるに適したPGA樹脂は、上記した特願2004−078306の明細書に記載される固相重合と残留モノマー除去処理の組み合わせを特徴とする方法により、好適に製造されるものであり、同明細書の記載は、必要に応じて参照により,本明細書に包含されるものとする。
本発明のフィラメント製造方法を適用するに先立って、PGA樹脂を熱安定剤と混練し、ペレット化しておくことが好ましい。
【0018】
熱安定剤の好ましい例としては、ペンタエリスリトール骨格構造を有するリン酸エステル及び/又はリン酸もしくは亜リン酸アルキルエステル(特に塩基度が1.4以下のリン酸又は亜リン酸C〜C24アルキルエステル)が挙げられ、PGA樹脂100重量部に対して、好ましくは3重量部以下、より好ましくは0.003〜1重量部の割合で用いられる。
【0019】
本発明法に従い、上記PGA樹脂を、まず例えば230〜290℃、好ましくは240〜280℃の押出温度で溶融紡出する。この温度が230℃未満では、押出機スクリューのモータ過負荷により樹脂の押出が困難となり、また290℃を超えると、PGA樹脂の熱分解により紡糸困難となる。
【0020】
次いで、溶融紡出されたPGA樹脂を、10℃以下の温度の水または油等の液浴中に導入して、急冷(クエンチ)する。この際、急冷温度が10℃を超えると、PGA樹脂の冷却までの結晶化の進行が無視できず、その後の非晶延伸が困難となり易く、所望の強度ならびに力学的特性が発現しがたい。
【0021】
次いで急冷後のPGA樹脂を、シリコーンオイル、ポリエチレングリコール、グリセリン等の油類、アルコール類または水等の液浴中に導入し、60〜83℃、好ましくは70〜80℃、の温度範囲で延伸する。この延伸は実質的にPGA樹脂が非晶状態での非晶延伸とし、3倍以上、特に4〜8倍、の高倍率延伸を行うことが好ましい。延伸温度が60℃未満では、樹脂の軟化度が低いために所望の高倍率延伸が困難であり、逆に83℃を超える温度ではPGA樹脂の結晶化が無視できなくなり同様に高倍率延伸が困難になる。また、あえて高倍率延伸を行うと、生成した結晶核をもとにした配向欠陥が生じ、所望の力学的特性とフィラメントを得ることが困難となる。また空気浴を用いる場合、上述した60〜83℃の液浴により与えられると同等の樹脂温度を与えられる空気浴温度を与えれば、同様な非晶延伸も可能となると思われる。
【0022】
引き続き、あるいは一旦冷却後第2段(あるいは更に第3段)の延伸を行い、総合延伸倍率を4.5倍以上、特に5〜10倍に上げると、更に高強度が期待できる。第2段の延伸倍率は1.8倍以下が好ましく、より好ましくは1.5倍以下である。また第2段の延伸温度は第1段の延伸温度より高いことが好ましいが、その差が好ましくは約40℃以下であり、更には約12℃を超えないこと、が結節強度の点でより好ましい。その後、必要に応じて、0.99〜0.8倍程度の範囲で緩和処理を行ってもよい。
【0023】
かくして得られた本発明のPGA樹脂フィラメントは、引張強度が750MPa以上、好ましくは800MPa以上、結節強度が600MPa以上、好ましくは650MPa以上、となるのが特徴的である。また本発明のPGA樹脂フィラメントは、付加的な特徴として、例えば釣糸、外科用縫合糸等としたときの感度、衝撃吸収性、ハンドリング性の観点で好ましい10〜50%、より好ましくは15〜40%、特に20〜40%、の引張破断伸度を有する。引張破断伸度は20%を超え、30%未満が更に好ましい。更に本発明のPGA樹脂フィラメントは、高剛性フィラメントとして知られる芳香族ポリエステル(PET)フィラメントと比べても同等以上の、12GPa以上という高引張弾性率を与えることができる。このように高剛性であるにも拘らず、600MPa以上と極めて高い結節強度は、少なくともある程度の表面柔軟性及び表面伸度を兼ね備えてはじめて得られるものであり、従来のフィラメント材料には見られない、本発明のPGA樹脂フィラメントの極めて特徴的な特性である。本発明のフィラメントは、モノフィラメントのみならず、マルチフィラメントにも適用することができる
本発明のPGA樹脂フィラメントの糸径(直径)は、特に限定されるものではないが、モノフィラメントとしては、好ましくは30μm〜3mm、更に好ましくは50μm〜2mmの範囲内である。また、マルチフィラメントとしては、構成する単糸(直径)が、好ましくは0.1μm〜30μm、更に好ましくは0.5μm〜20μmの範囲内である。
【0024】
本発明のPGA樹脂フィラメントは、単一層または複数層で構成されたものであり、鞘層(鞘材)及び芯層(芯材)が共にPGA樹脂であっても、また鞘層(鞘材)のみがPGA樹脂であっても、更には逆に芯層(芯材)のみがPGA樹脂であっても良い。好ましくは、フィラメントが複数層で構成されている場合、フィラメント全体が分解性樹脂からなると好適である。このようなフィラメント中のPGA樹脂構成比率としては、好ましくは50重量%以上、更に好ましくは60重量%以上が好適である。更に好ましくは、フィラメントが単一層または複数層のいずれで構成されている場合でも、全体がPGA樹脂から構成されているとより好適である。また、例えば釣糸などの結節強度の観点から、鞘層(鞘材)及び/または芯層(芯材)に可塑剤を添加したり、鞘層(鞘材)または芯層(芯材)の分子量を高くしたりしても良い。
【0025】
複合フィラメントを形成する場合、PGA樹脂と組み合わせる樹脂としては、グリコリドと他の分解性高分子モノマーとの共重合物、ポリ乳酸、ポリカプロラクトンを代表とする脂肪族ポリエステル類、ポリブチレンサクシネートを代表とするポリアルキレンサクシネート類、ポリ−3−ヒドロキシブチレートを代表とするポリ(β−ヒドロキシアルカノエート)類、脂肪族ポリエステルカーボネート類等の分解性樹脂が好適である。
【実施例】
【0026】
以下、実施例、比較例により、本発明を更に具体的に説明する。分析法、評価方法は、次の通りである。
【0027】
(1)残留モノマー量:
サンプル約300mgを約6gのDMSO(ジメチルスルホキシド)中150℃で約10分加熱し溶解させ、室温まで冷却した後、ろ過を行う。そのろ液に内部標準物質の4−クロロベンゾフェノンとアセトンを一定量添加する。その溶液を2μl採取し、GC装置に注入し残留モノマー(グリコリド)量の測定を行った。
【0028】
<GC分析条件>
装置:島津GC−2010
カラム:TC−17(0.25mmφ×30m)、
カラム温度:150℃で5分保持後、20℃/分で270℃まで昇温して、270℃で3分間保持、
気化室温度:200℃、
検出器:FID(水素炎イオン化検出器)、
温度:300℃。
【0029】
(2)溶融粘度:
ポリマーサンプルを120℃の乾燥空気を接触させて、水分含有量を50ppm以下にまで低減させた。溶融粘度測定は、キャピラリー(1mmφ×10mmL)を装着した東洋精機「キャピログラフ1−C」を用いて測定した。設定温度240℃に加熱した装置に、サンプル約20gを導入し、5分間保持した後、剪断速度121sec−1での溶融粘度を測定した。
【0030】
(3)分子量測定:
ポリマーサンプルを分子量測定で使用する溶媒に溶解させるために、非晶質のポリマーを得る。すなわち、十分乾燥したポリマー約5gをアルミニウム板に挟み、275℃のヒートプレス機にのせて90秒加熱した後、2MPaで1分間加圧保持した後、直ちに水が循環しているプレス機に移し冷却した。このようにして、透明な非晶質のプレスシートを作製した。
【0031】
上記操作により作製したプレスシートからサンプル約10mgを切り出し、このサンプルを5mMのトリフルオロ酢酸ナトリウムを溶解させたヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)溶液10mlに溶解させた。このサンプル溶液をポリテトラフルオロエチレン製のメンブレンフィルターで濾過後、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)装置に注入し、分子量を測定した。なお、サンプルは、溶解後30分以内にGPC装置に注入した。
【0032】
<GPC測定条件>
装置:昭和電工(株)製「Shodex−104」
カラム:HFIP−606M、2本(直列接続)およびプレカラム、
カラム温度:40℃、
溶離液:5mMのトリフルオロ酢酸ナトリウムを溶解させたHFIP溶液、
流速:0.6ml/分、
検出器:RI(Refractive Index:示差屈折率)検出器、
分子量較正:分子量の異なる標準ポリメタクリル酸メチル5種を用いた。
【0033】
下記の実施例および比較例で得られたフィラメントについては、下記の特性評価を行った。
【0034】
(4)引張強度、結節強度、引張伸度(引張破断伸度)、結節伸度(結節破断伸度)および引張弾性率
JISL1013に準拠し、オリエンテック(株)社製「テンシロンUTM−III−100型」引張試験機を用い、23℃65RH%の室内で、試長300mm、引張速度300mm/分、測定数n=5にて引張強度、引張伸度および引張弾性率を、それぞれ測定した。また、結節強度および伸度は試料のつかみ間の中央に結節を作り、同様の引張条件に付し、切断時の強さおよび伸度を測定した。
【0035】
(5)海中生分解性
金属メッシュにフィラメントサンプルを挟み込み、金属性のかごの中に入れ、これを小名浜港護岸壁海中に沈め、経時的に引き上げて残留強度および伸度を測定した。
【0036】
(比較例1)
市販ポリカプロラクトン系生分解性樹脂(ダイセル化学工業(株)製「セルグリーンP−H7」を原料とし、径35mmの押出機および径2mm×6ホールの単層ノズルを用いて、押出機温度150℃、ノズル温度140℃で溶融紡出後、20℃の水浴中に導入して急冷しつつ引取速度10m/分の条件で紡糸して未延伸糸を作成し、引続き40℃の温水中で5.0倍に延伸して、直径0.31mmのモノフィラメントを得た。
【0037】
(比較例2)
ポリグリコール酸重合体(PGA)(呉羽化学工業(株)製;残留モノマー:0.8重量%、溶融粘度:2560Pa・s)を径35mmの押出機および径1.3mm×6ホールの単層ノズルを用いて、押出機温度250℃、ノズル温度230℃で溶融紡出後、エアギャップ10cmをおいて、20℃の水浴中に導入して急冷しつつ引取速度8.4m/分の条件で紡糸して未延伸糸を得た。得られた未延伸糸は結晶化し不透明であった。この未延伸糸を次に、送出し速度2m/分で80℃グリセリン浴中に導入し、5.2倍に延伸して直径0.3mmのモノフィラメントを得た。
【0038】
(実施例1)
PGA(呉羽化学工業(株)製;残留モノマー:0.18重量%、溶融粘度:2786Pa・s)を、比較例2と同じ押出機およびノズルを用い、同様に押出機温度260℃およびノズル温度230℃の条件で溶融紡出後、エアギャップ6.5cmをおいて5℃の水浴中に導入して急冷しつつ引取速度4.5m/分の条件で紡糸し、次いで80℃のグリセリン浴中に導入し、6.0倍に延伸して直径0.26mmのモノフィラメントを得た。
【0039】
(実施例2)
実施例1と同一原料、条件で紡糸後、引続き80℃のグリセリン浴中で6.25倍に延伸し、直径0.26mmのモノフィラメントを得た。
【0040】
(比較例3)
グリセリン延伸浴温度を85℃と上昇した以外は、実施例1と同一条件で直径0.26mmのモノフィラメントを得た。得られたモノフィラメントは、延伸糸全体が白化し、低い引張強度を示し、結節強度、結節伸度を測るまでもなかった。
【0041】
上記実施例および比較例で得られたモノフィラメントの力学的特性をまとめて下表1に示す。
【0042】
【表1】

(実施例3)
実施例2で得られたモノフィラメントを用いて海水生分解性試験を行った。その結果、6カ月後には、完全に残存強度がゼロになった。
【0043】
(比較例4)
市販生分解性釣糸(ポリブチレンサクシネートアジペート(東レ(株)製「フィールドメート」、8ポンド、直径0.31mm)を用いて実施例3と同様に海水生分解性試験を行った。結果をまとめて次表2に示す。
【0044】
【表2】

本発明品(実施例3)は、市販品(比較例4)に比べて、初期強度および分解性が優れていることが分る。
【0045】
(実施例4)
ポリグリコール酸重合体(PGA)(呉羽化学工業(株)製:残留モノマー0.37%、溶融粘度:3049Pa・s)を、比較例2の押出機及び単層ノズルを用いて、押出温度275℃、ノズル温度265℃で溶融紡出後、エアギャップ15cmをおいて6℃の水浴中に導入して急冷しつつ引取速度5m/分の条件で紡糸し、次いで80℃のグリセリン浴中に導入し、6.0倍に延伸して、直径0.24mmのモノフィラメントを得た。
【0046】
(実施例5)
実施例4で得られたモノフィラメントを、更に90℃のグリセリン浴中に導入して1.15倍の第2段延伸(延伸倍率:計6.9倍)を行い、直径0.21mmのモノフィラメントを得た。
【0047】
【表3】

実施例4で得られたモノフィラメントを用いて室温(23℃、60RH%)で放置した後、引張強度および伸度を再度測定した。その結果、次表4に示すように、70日経過後ではほとんど変わらず、90日経過後でも90%以上の強度および伸度保持率であった。このようにモノフィラメントを使用するまでは、その物性が保持されている事が判った。
【0048】
【表4】

この様に残量モノマーを抑えることにより、(海水)生分解性を与えながら、非水接触状態の期間、例えば、店頭に並んでいる間、は物性を維持している事が判った。
【産業上の利用可能性】
【0049】
上述したように、本発明によれば高い引張強度および結節強度で代表される実用的特性を備えるポリグリコール酸系樹脂系の生分解性フィラメントが得られる。かくして得られたポリグリコール酸系樹脂は、その優れた強度および生分解性を生かして、漁網や釣糸等の水産資材や農業資材を含む各種産業資材として、あるいは外科用縫合糸、結紮糸として好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
残留モノマー量が0.5重量%未満のポリグリコール酸系樹脂からなり、引張強度が750MPa以上、且つ結節強度が600MPa以上であることを特徴とするポリグリコール酸系樹脂フィラメント。
【請求項2】
結節強度が650MPa以上である請求項1に記載のフィラメント。
【請求項3】
引張強度が800MPa以上である請求項1または2に記載のフィラメント。
【請求項4】
残留モノマー量が0.2重量%未満のポリグリコール酸系樹脂からなる請求項1〜3のいずれかに記載のフィラメント。
【請求項5】
引張破断伸度が10〜50%である請求項1〜3のいずれかに記載のフィラメント。
【請求項6】
引張破断伸度が15〜40%である請求項5に記載のフィラメント。
【請求項7】
引張破断伸度が20%を超え30%未満である請求項5に記載のフィラメント。
【請求項8】
引張弾性率が12GPa以上である請求項1〜7のいずれかに記載のフィラメント。
【請求項9】
残留モノマー量が0.5重量%未満のポリグリコール酸系樹脂を溶融紡出後、10℃以下の液浴中で急冷した後、60〜83℃の液浴中で延伸することを特徴とするポリグリコール酸系樹脂フィラメントの製造方法。
【請求項10】
前記延伸後、その延伸温度より高い温度で、且つ延伸倍率が1.8倍以下で第2段の延伸を行う請求項9に記載のフィラメントの製造方法。
【請求項11】
前記延伸後、その延伸温度より差が約40℃以下の範囲で高い温度で、第2段の延伸を行う請求項9または10に記載のフィラメントの製造方法。
【請求項12】
前記延伸後、その延伸温度より差が約12℃以下の範囲で高い温度で、第2段の延伸を行う請求項9または10に記載のフィラメントの製造方法。
【請求項13】
ポリグリコール酸系樹脂を溶融紡出後、10℃以下の液浴中で急冷した後、60〜83℃の液浴中で第1段延伸し、続いて第1段延伸の温度より差が12℃以下の範囲で高い温度、且つ1.8倍以下の延伸倍率で第2段延伸することを特徴とするポリグリコール酸系樹脂フィラメントの製造方法。
【請求項14】
残留モノマー量が0.2重量%未満のポリグリコール酸系樹脂を溶融紡出する請求項9〜13のいずれかに記載のフィラメントの製造方法。
【請求項15】
請求項1〜8のいずれかに記載のフィラメントからなる釣糸。

【国際公開番号】WO2005/090657
【国際公開日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【発行日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−511216(P2006−511216)
【国際出願番号】PCT/JP2005/004774
【国際出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】