説明

ポリグルロン酸の製造方法、ポリマンヌロン酸の製造方法、ポリグルロン酸、及びポリマンヌロン酸

【課題】質量平均分子量(Mw)が4,000以上で、所望の分子量を有する高純度のポリグルロン酸及び、質量平均分子量(Mw)が5,000以上で、所望の分子量を有する高純度のポリマンヌロン酸、並びに該ポリグルロン酸及び該ポリマンヌロン酸を製造する方法の提供。
【解決手段】二酸化炭素及びアルギン酸を含む溶液を、加熱処理することにより、前記アルギン酸を加水分解し、質量平均分子量(Mw)が4,000〜170,000の多糖類を生じさせ、前記多糖類を溶解した水溶液のpHを調整することにより、前記多糖類のうち、ポリグルロン酸を優先的に析出させて分離することを特徴とするポリグルロン酸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルギン酸加水分解物として得られる多糖類である、ポリグルロン酸及びポリマンヌロン酸の製造方法、並びに該製造方法を用いて得られるポリグルロン酸及びポリマンヌロン酸に関する。
【背景技術】
【0002】
酸性多糖類の一種であるアルギン酸は、褐藻の細胞壁及び細胞間に充填物質として存在する多糖類であり、その構成単位をα-L-グルロン酸(G)、β-D-マンヌロン酸(M)とするコポリマーである。
【0003】
アルギン酸は食品添加物(安定化剤、ゲル化剤)としての利用の他に、医薬品、化粧品、印刷、染色、歯科材料、水処理等の分野にも使用されている。また、免疫賦活作用、抗肥満作用、血中コレステロール上昇抑制作用、高血圧抑制作用などの生理活性も報告されており、健康食品としても注目されている。一般に、酸性多糖類の特性や生理活性等は、その構造や分子量によって異なると考えられるが、アルギン酸を構成する構成単位のGとMのそれぞれの量、構成比等の関係が前記アルギン酸の特性や生理活性等にどのように作用しているかは、明らかにされていない。また、明らかにするためには構造解析や分子量を制御するための手法の確立が必要となる。そのため、純度が高く、分子量分布が狭いポリグルロン酸、ポリマンヌロン酸の出現が強く求められている。
【0004】
アルギン酸中のGとMの構成比は、一般的にM/G比により表され、13C NMRやH NMRを測定して求める方法が知られている(非特許文献1,2)。褐藻由来のアルギン酸のM/G比は、原産地や褐藻の抽出部位の違いによって異なる。
【0005】
従来、ポリグルロン酸を得るためには、強酸性である塩酸の水溶液中でアルギン酸を加水分解する不均一酸性加水分解法や、弱酸性であるクエン酸水溶液中でアルギン酸を加水分解する均一酸性加水分解法等が知られている。しかし、いずれの方法においても、原料であるアルギン酸の水に対する溶解度が低い(0.2〜0.5質量%程度)ために、加水分解反応の制御が困難であり、所望の分子量を有するポリグルロン酸又はポリマンヌロン酸を得ることができないという問題がある。
さらに、前記不均一酸性加水分解法や、均一酸性加水分解法では、加水分解によってポリグルロン酸及びポリマンヌロン酸を得られたとしても、その分子量は広範囲のものを含むこととなる。
【0006】
有機塩基を含む水溶液中にアルギン酸塩を溶解した場合には、0.5質量%を超える濃度で溶解することができ、重合度が20未満であり、且つグルロン酸含有率92%以上のポリグルロン酸を得る方法が、特許文献1に開示されている。
しかし、この方法によっても、重合度が20以上(質量平均分子量4,000以上)の場合においては、所望の分子量を有するポリグルロン酸又はポリマンヌロン酸を得ることはできていないという問題がある。
さらに精製工程で有機塩基類の除去工程が必要になることからコストの上昇要因となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Grasdalen, H.; Larsen, B.; Smidsrod, O. Carbohydrate Research 1977, 56, C11.
【非特許文献2】Grasdalen, H. Carbohydrate Research 1983, 118, 255.
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−34302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、所望の分子量を有し、かつ高純度で分子量分布が狭いポリグルロン酸及びポリマンヌロン酸を製造する方法の提供、並びに、その方法によって得られるポリグルロン酸及びポリマンヌロン酸の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に記載のポリグルロン酸の製造方法は、二酸化炭素及びアルギン酸を含む溶液を、加熱処理することにより、前記アルギン酸を加水分解し、質量平均分子量(Mw)が4,000〜170,000の多糖類を生じさせ、前記多糖類を溶解した水溶液のpHを調整することにより、前記多糖類のうち、ポリグルロン酸を優先的に析出させて分離することを特徴とする。
本発明の請求項2に記載のポリグルロン酸の製造方法は、請求項1において、前記水溶液をpH2.0〜4.0に調整することによって、ポリグルロン酸を優先的に析出させることを特徴とする。
本発明の請求項3に記載のポリグルロン酸の製造方法は、請求項1又は2において、前記加水分解によって、質量平均分子量(Mw)が4,000〜53,000の多糖類を生じさせることを特徴とする。
本発明の請求項4に記載のポリグルロン酸の製造方法は、請求項1〜3のいずれか一項において、前記加熱処理時の温度が70〜140℃であることを特徴とする。
本発明の請求項5に記載のポリグルロン酸の製造方法は、請求項1〜4のいずれか一項において、前記加水分解における加熱処理前の初期圧力を0.1〜6MPaとすることを特徴とする。
本発明の請求項6に記載のポリマンヌロン酸の製造方法は、二酸化炭素及びアルギン酸を含む溶液を、加熱処理することにより、前記アルギン酸を加水分解し、質量平均分子量(Mw)が4,000〜170,000の多糖類を生じさせ、前記多糖類を溶解した水溶液のpHを調整することにより、前記多糖類のうち、溶解度の低い成分を析出させて分離し、当該溶解度の低い成分を回収した後の回収液に溶解しているポリマンヌロン酸を分離することを特徴とする。
本発明の請求項7に記載のポリマンヌロン酸の製造方法は、請求項6において、前記質量平均分子量(Mw)が4,000〜170,000の多糖類を構成する構成単位であるグルロン酸(G)とマンヌロン酸(M)の構成比(M/G比)が1.8未満の場合、前記回収液のpHを1に下げて析出した析出物を除去し、前記回収液に溶解しているポリマンヌロン酸を分離することを特徴とする。
本発明の請求項8に記載のポリマンヌロン酸の製造方法は、請求項6において、前記質量平均分子量(Mw)が4,000〜170,000の多糖類を構成する構成単位であるグルロン酸(G)とマンヌロン酸(M)の構成比(M/G比)が1.8以上の場合、前記回収液のpHを1に下げることによって、ポリマンヌロン酸を析出させて分離することを特徴とする。
本発明の請求項9に記載のポリグルロン酸は、グルロン酸(G)単位とマンヌロン酸(M)単位を95%以上含み、且つ前記グルロン酸(G)単位と前記マンヌロン酸(M)単位のうち80%以上がグルロン酸(G)単位で構成され、質量平均分子量が4,000〜68,000であることを特徴とする。
本発明の請求項10に記載のポリマンヌロン酸は、グルロン酸(G)単位とマンヌロン酸(M)単位を95%以上含み、且つ前記グルロン酸(G)単位と前記マンヌロン酸(M)単位のうち70%以上がマンヌロン酸(M)単位で構成され、質量平均分子量が5,000〜55,000であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリグルロン酸の製造方法によれば、質量平均分子量が4,000〜170,000の範囲で所望の質量平均分子量を有する多糖類(アルギン酸加水分解物)を調製し、前記多糖類を溶解した水溶液のpHを調整することにより、該多糖類からポリグルロン酸を分離することによって、所望の質量平均分子量を有する、純度の高いポリグルロン酸を得ることができる。
本発明において、特に明記しない限り、純度とは前記ポリグルロン酸又は前記ポリマンヌロン酸を構成するグルロン酸(G)単位とマンヌロン酸(M)単位のうち、グルロン酸(G)単位又はマンヌロン酸(M)単位が構成する割合のことを言う。
本発明のポリマンヌロン酸は、グルロン酸(G)単位とマンヌロン酸(M)単位を95%以上含み、且つ前記グルロン酸(G)単位と前記マンヌロン酸(M)単位のうち70%以上がマンヌロン酸(M)単位で構成され、質量平均分子量が5,000〜55,000であるという、従来のポリマンヌロン酸にはない特徴を有するものである。
【0012】
また、本発明のポリグルロン酸の製造方法によれば、加水分解にCOを用いることによって、アルギン酸を10質量%程度まで均一に溶解することが可能となり、反応制御も比較的容易となるため生産効率が向上し、さらに、従来に比べて高純度のポリグルロン酸を得ることができる。
本発明のポリグルロン酸の製造方法において、前記水溶液をpH2.0〜4.0に調整することが好ましい。これにより、前記所望の質量平均分子量を有する多糖類から、所望の分子量のポリグルロン酸を優先的に析出させることができる。
本発明のポリグルロン酸の製造方法において、質量平均分子量(Mw)が4,000〜53,000の多糖類を生じさせることが好ましい。これにより、得られるポリグルロン酸の質量平均分子量を4,000〜68,000とすることができる。
本発明のポリグルロン酸の製造方法において、前記加熱処理において温度を70〜140℃とすることが好ましい。この範囲の下限値以上にすることによって、加水分解反応の速度を速めることができ、この範囲の上限値以下にすることによって、過分解物の生成を低減できる。
本発明のポリグルロン酸の製造方法において、加熱処理前の初期圧力を0.1〜6MPaとすることが好ましい。この範囲の下限値以上にすることによって、加水分解反応を効率よく行なうことができ、この範囲の上限値以下にすることによって、過分解物の生成を低減できる。
【0013】
本発明のポリマンヌロン酸の製造方法によれば、質量平均分子量が4,000〜170,000の範囲で所望の質量平均分子量を有する多糖類(アルギン酸加水分解物)を調製し、前記多糖類を溶解した水溶液のpHを調整することにより、前記多糖類のうち、溶解度の低い成分を析出させて分離し、当該溶解度の低い成分を回収した後の回収液に含まれる該多糖類からポリマンヌロン酸を分離することによって、所望の質量平均分子量を有する、純度の高いポリマンヌロン酸を得ることができる。また、加水分解にCOを用いることによって、アルギン酸を10質量%程度まで均一に溶解することが可能となり、反応制御も比較的容易となるため生産効率が向上し、さらに、従来に比べて高純度のポリマンヌロン酸を得ることができる。
本発明のポリマンヌロン酸の製造方法において、前記質量平均分子量(Mw)が4,000〜170,000の多糖類を構成するグルロン酸(G)単位とマンヌロン酸(M)単位の構成比(M/G比)が1.8未満の場合、前記回収液のpHを1に下げて析出した析出物を除去し、前記回収液に溶解しているポリマンヌロン酸を分離することが好ましい。これにより、ポリグルロン酸が比較的多く含まれる多糖類からでもポリマンヌロン酸を高純度で得ることができる。
本発明のポリマンヌロン酸の製造方法において、前記質量平均分子量(Mw)が4,000〜170,000の多糖類を構成するグルロン酸(G)単位とマンヌロン酸(M)単位の構成比(M/G比)が1.8以上の場合、前記回収液のpHを1に下げることによって、ポリマンヌロン酸を析出させて分離することが好ましい。これにより、高純度のポリマンヌロン酸を収率良く得ることができる。
本発明のポリグルロン酸が有する、「グルロン酸(G)単位とマンヌロン酸(M)単位を95%以上含み、且つ前記グルロン酸(G)単位と前記マンヌロン酸(M)単位のうち80%以上がグルロン酸(G)単位で構成され、質量平均分子量が4,000〜68,000である」という特徴は、従来のポリグルロン酸にはないものである。
本発明のポリマンヌロン酸が有する、「グルロン酸(G)単位とマンヌロン酸(M)単位を95%以上含み、且つ前記グルロン酸(G)単位と前記マンヌロン酸(M)単位のうち70%以上がマンヌロン酸(M)単位で構成され、質量平均分子量が5,000〜55,000である」という特徴は、従来のポリマンヌロン酸にはないものである。
【0014】
本発明により得られた所望のMwを有するポリグルロン酸及びポリマンヌロン酸は、従来技術を用いて得られたものに比べ高純度且つ分子量分布が狭いため、ポリグルロン酸及びポリマンヌロン酸のMwに依存して発現される機能(例えば生理活性等)を調べるためのサンプルとすることができる。このような分析用途のサンプルとする場合は、サンプルの純度は高ければ高いほど分析精度が高くなり、好ましいことはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図2】本発明の製造方法に使用することができる反応装置の一例を示す概略図である。
【図3】HGを加水分解した際の、反応温度、反応時間、及び加水分解物の質量平均分子量の関係を示すグラフである。
【図4】HMを加水分解した際の、反応温度、反応時間、及び加水分解物の質量平均分子量の関係を示すグラフである。
【図5】HGの加水分解時の反応温度と過分解物の生成との関係を示すH NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について、詳細に説明する。なお、本発明において、特に明記しない限り分子量の単位としてDa(ダルトン)を用いる。
【0017】
<ポリグルロン酸の製造方法>
本発明のポリグルロン酸の製造方法は、二酸化炭素及びアルギン酸を含む溶液を、加熱処理することにより、前記アルギン酸を加水分解し、質量平均分子量(Mw)が4,000〜170,000の多糖類を生じさせ、前記多糖類を溶解した水溶液のpHを調整することにより、前記多糖類のうち、ポリグルロン酸を優先的に析出させる方法である。
【0018】
[加水分解処理]
前記溶液の溶媒としては、不純物が除かれた水が好ましい。前記水は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム等を加えた中性の塩類水溶液としてもよい。塩類水溶液を使用することによって、原料のアルギン酸の溶解度を調節することができる。
【0019】
前記溶液は、前記溶媒に二酸化炭素(CO)をバブリングしたものであることが好ましい。例えば、CO飽和水溶液(炭酸水)が好ましい。
アルギン酸のpKa値は3.6前後であるため、COを用いることによって、アルギン酸を10質量%程度まで均一に溶解させることが可能である。このため、反応制御が比較的容易となり、生産効率も向上する。
【0020】
また、アルギン酸を構成するG同士の結合(G−G結合)、GとMの結合(G−M結合)、M同士の結合(M−M結合)の結合エネルギーを比較すると、G−G結合に比べてG−M結合、M−M結合の結合エネルギーが小さい。本発明においては、COは結合エネルギーが大きなG−G結合以外の結合を優先的に加水分解することができ、従来に比べて高純度のポリグルロン酸が得られる、という新しい知見を得、この知見を大いに利用している。
【0021】
前記アルギン酸としては、G、Mを含むものであれば特に制限されないが、加水分解処理における取り扱いが容易となることから、その質量平均分子量(Mw)が50万以下のものが好ましい。一方、質量平均分子量(Mw)が50万を超えるものを使用すると、溶液の粘度が高くなり、取り扱いが不便であると共に、所望の分子量を有する加水分解物となるまでの加水分解反応の時間が不当に長くなる。
【0022】
前記アルギン酸としては、前記溶媒としての水へのアルギン酸の溶解度を高める観点から、アルギン酸塩が好ましく、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、及びアルギン酸アンモニウムがより好ましく、アルギン酸ナトリウムがさらに好ましい。
前記アルギン酸塩は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0023】
前記アルギン酸としては、市販品を使用することが可能である。例えば、株式会社キミカ製のキミカアルギンHigh・GシリーズI−1G(以下、HGと呼ぶことがある。)や、株式会社キミカ製のキミカアルギンHigh・MシリーズIL−6M(以下、HMと呼ぶことがある。)が好適なものとして挙げられる。
【0024】
前記HGは、グルロン酸含有率が高く(67%以上、M/G比<0.49)、分子量(質量平均分子量:Mw)が50万以下のアルギン酸ナトリウムである。
前記HMは、マンヌロン酸含有率が高く(56%以上、M/G比>1.28)、分子量(質量平均分子量:Mw)が50万以下のアルギン酸ナトリウムである。
【0025】
本発明において、前記アルギン酸は、不純物が少ない高純度のものを用いることが好ましい。
前記HG、前記HMは、海草(褐藻)由来のアルギン酸をイオン交換法によって精製して得られたアルギン酸ナトリウムであり、元来G又はMを多く含むため、本発明のアルギン酸として好適に用いることができる。アルギン酸を精製する方法としては、イオン交換法の他に、酸を使用した方法(酸法)が知られている(特許文献1参照)。本発明に用いる前記アルギン酸は、前記酸法によって精製されたものであってもよい。
【0026】
上記海藻としては特に限定されないが、スジメやアイヌワカメ、ウガノモクなどを挙げることができる。スジメは春頃にM/G比が高いアルギン酸、秋頃にM/G比が低いアルギン酸を得ることができ、アイヌワカメは春頃にM/G比が低いアルギン酸を得ることができ、秋頃にM/G比が高いアルギン酸を得ることができる。ウガノモクからは秋頃にM/G比が特に低いアルギン酸を得ることができる。
【0027】
加水分解に供する前記アルギン酸の濃度としては、0.05〜10.0質量%が好ましく、0.1〜5.0質量%がより好ましく、0.2〜2.0質量%がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であることにより、生成物であるポリグルロン酸の収率を高めることができ、上記範囲の上限値以下であることにより、溶液中に溶解しないアルギン酸の量を低減することができ、製造プロセス上好ましい。
【0028】
前記加熱処理における温度としては、生成物であるポリグルロン酸及びポリマンヌロン酸が過分解する割合が少ない温度範囲であれば特に制限されないが、70〜140℃の範囲が好ましい。
前記アルギン酸の加水分解反応の速度を高める観点からは、上記範囲のうち、より高温側が好ましい。
前記アルギン酸の加水分解反応中に、副生成物が発生する割合を低減する観点からは、上記範囲のうち、より低温側が好ましい。
【0029】
本発明においては、前記二酸化炭素とアルギン酸を含む溶液を加圧することが好ましい。
前記加圧処理における初期圧力は加水分解反応開始前に室温下、二酸化炭素で反応容器内を加圧したときの圧力(ゲージ圧)のことである。
前記初期圧力としては生成物であるポリグルロン酸及びポリマンヌロン酸が過分解する割合が少ない圧力範囲であれば特に制限されないが、0.1〜6MPaの範囲が好ましい。
前記アルギン酸の加水分解反応の速度を高める観点からは、上記範囲のうち、より高圧力側が好ましい。
前記アルギン酸の加水分解反応中に、副生成物が発生する割合を低減する観点からは、上記範囲のうち、より低圧力側が好ましい。
【0030】
前記溶液を加熱処理すること、又は前記溶液の初期圧力を加圧処理により高めた後で加熱処理することによって、前記アルギン酸を加水分解することができる。通常、当該アルギン酸の加水分解速度は、加水分解時の温度と初期圧力に依存するので、前記温度及び/又は前記初期圧力を適宜設定して、前記加熱処理をすることによって、当該アルギン酸を所望の質量平均分子量(Mw)となるように、加水分解することができる。
【0031】
前記加熱処理による加水分解の時間は、使用するアルギン酸のMw、加水分解の温度、前記初期圧力にもよるが、通常48時間以内に、加水分解物のMwを10,000程度まで加水分解することができる。所望の分子量の加水分解物を得るためには、予め定めた条件で加水分解した場合の、反応時間、反応温度、及び加水分解物のMwの相関関係を予め求めておけばよい。例えば、図3及び図4を参考にできる。
【0032】
本発明における前記溶液を加水分解処理した場合、得られるアルギン酸加水分解物(ポリグルロン酸及びポリマンヌロン酸を含む多糖類)のMwは、反応時間に応じて、4,000〜170,000の範囲で所望の分子量とすることができる。
【0033】
なお、前記加水分解反応によれば、前記多糖類のMwの下限値は約4,000であり、反応時間を延長したとしても、Mwが4,000よりも大きく下がることはない。
【0034】
前記加水分解後の反応液は、凍結乾燥することによって該反応液の体積を減らした後、純水を用いて透析することによって、過分解物等の副生成物や不要な塩類を除去することが好ましい。
前記凍結乾燥で溶媒を完全に留去して、固形状の前記多糖類を得た後、これを純水に溶解した水溶液を、さらに純水を用いて透析する方法を採用してもよい。
前記透析処理を行った後の、前記多糖類を溶解した水溶液に沈殿や析出物等の不溶物が観察される場合は、フィルターろ過等によって除くことが好ましい。
【0035】
[pH調整処理]
つぎに、前記多糖類を溶解した前記水溶液のpHを調整することにより、前記多糖類のうち、ポリグルロン酸を優先的に析出させて分離する。
前記多糖類を溶解する溶媒としては、水が好ましい。pH調整が容易であり、ポリグルロン酸を十分に析出させることができる。
【0036】
前記水溶液のpHを調整する方法としては、該水溶液中の多糖類を過分解するような方法でなければ特に制限されない。例えば、0.1mol/Lの希塩酸を滴下する方法が好適である。
【0037】
pH調整した後の前記水溶液のpHとしては、pH2.0〜4.0の範囲が好ましい。この範囲に調整することによって、前記水溶液中の多糖類のうち、ポリグルロン酸をより優先的に析出させることができる。
【0038】
前記pH調整処理後の水溶液を、低温条件下で一定時間静置することで、ポリグルロン酸が析出し易くなり、収率が向上することとなる。静置の温度及び静置時間は特に限定されないが、例えば、それぞれ1℃〜10℃、6時間〜24時間であることが好ましい。前記条件であれば家庭用冷蔵庫を利用することができる。
【0039】
このpH調整によるポリグルロン酸とポリマンヌロン酸との分離は、グルロン酸のpKa(3.38)とマンヌロン酸のpKa(3.65)との相違、すなわちpH調整した後の水溶液における溶解度の違いを利用した方法である。
【0040】
本発明のポリグルロン酸とポリマンヌロン酸の製造方法において、使用する前記多糖類はMwが4,000以上のポリマーであり、このような多糖類を用いてポリグルロン酸とポリマンヌロン酸とをpH調整によって分離できることを見出したのは、本発明者らが初めてである。
【0041】
本発明のポリグルロン酸の製造方法において、前記加水分解によって、Mwが10,000〜27,000の多糖類を生じさせると、製造するポリグルロン酸のMwを概ね14,000〜35,000の範囲とすることができる。
前記pH調整において、前記多糖類に含まれるポリグルロン酸の中でも、溶解度が低い(分子量の大きい)ものから析出し、かつ、そのポリグルロン酸の分子量分布(分散度:Mw/Mn)が前記多糖類の分子量分布よりも狭いため、前記多糖類より前記ポリグルロン酸のMwが大きくなる。
【0042】
例えば、前記多糖類のMwが14,000である場合には、前記水溶液のpHを2.00〜3.50の範囲とすることが好ましい。この範囲にpH調整することによって、Mwが17,000〜19,000のポリグルロン酸を、収率が4〜63%の範囲、純度(G%)が87〜100%の範囲で得ることができる。
【0043】
本発明のポリグルロン酸の製造方法において、前記加水分解によって、Mwが4,000〜10,000の多糖類を生じさせると、製造するポリグルロン酸のMwを概ね4,000〜14,000の範囲とすることができる。
【0044】
例えば、前記多糖類のMwが6,000である場合には、前記水溶液のpHを2.00〜3.00の範囲とすることが好ましい。この範囲にpH調整することによって、Mwが10,000〜11,000のポリグルロン酸を、収率が7〜12%の範囲で、純度(G%)が92〜99%で得ることができる。
【0045】
本発明のポリグルロン酸の製造方法において、前記加水分解によって、Mwが27,000〜53,000の多糖類を生じさせると、製造するポリグルロン酸のMwを概ね35,000〜68,000の範囲とすることができる。
【0046】
例えば、前記多糖類のMwが40,000である場合には、前記水溶液のpHを2.85〜3.50の範囲とすることが好ましい。この範囲にpH調整することによって、Mwが51,000〜55,000のポリグルロン酸を、収率が9〜51%の範囲、純度(G%)が80〜84%の範囲で得ることができる。
【0047】
このように、前記多糖類を溶解した水溶液のpH調整を行うことにより、当該水溶液中のポリグルロン酸を優先的に析出させることができる。
析出したポリグルロン酸を回収して得る方法は特に制限されず、例えば、遠心分離によってポリグルロン酸を沈殿物として回収する方法や、フィルターろ過によってフィルター上にポリグルロン酸を回収する方法等が挙げられる。
【0048】
析出したポリグルロン酸を回収した後の溶液(回収液)にはポリマンヌロン酸が溶解した状態で含まれている。また、前記pH調整の操作後でも析出していないポリグルロン酸が含まれている場合がある。
【0049】
前記溶解した状態のポリマンヌロン酸、又は前記析出していないポリグルロン酸を回収する方法は特に制限されず、溶液を中和し、それを凍結乾燥して固体を得る方法等が挙げられる。
【0050】
<ポリマンヌロン酸の製造方法>
本発明のポリマンヌロン酸の製造方法は、前記ポリグルロン酸の製造方法において、pH調整によって溶解度の低い多糖類(ポリグルロン酸高含有成分)を析出させ、析出したものを分離回収した後に得られる、前記回収液を出発材料とする。
前記回収液のpHをさらに下げて、前記回収液に含まれるポリマンヌロン酸を前記回収液から分離する。この分離方法としては、例えば次の二通りを挙げることができる。
【0051】
第一の分離方法は、ポリグルロン酸が、前記pH調整の操作後でも析出しきらずに前記回収液中に溶存している場合、前記回収液のpHをさらに下げることによって、前記ポリグルロン酸を析出させて当該回収液から除去し、ポリマンヌロン酸を当該回収液に溶解した状態で得る方法である。
第二の分離方法は、ポリグルロン酸が、前記pH調整の操作後に析出し、前記回収液中にはほとんど溶存していない場合、前記回収液のpHをさらに下げることによって、ポリマンヌロン酸を当該回収液中に析出させて、得る方法である。
上記二通りの分離方法のどちらを用いるかは、概ね前記加水分解反応後に得られる多糖類を構成する構成単位であるグルロン酸(G)とマンヌロン酸(M)の構成比(M/G比)で判断すればよく、M/G比が1.8未満の場合は第一の分離方法、M/G比が1.8以上の場合は第二の分離方法を用いることが好ましい。
【0052】
前記第一の分離方法において、当該回収液からの析出物は、高純度のポリグルロン酸として得られる場合がある。ここで得られるポリグルロン酸のMwは、前段のpH調整における水溶液から得られるポリグルロン酸のMwよりも、低分子量である傾向がある。
【0053】
前記第一、第二の分離方法において、当該回収液のpHをさらに下げる場合、そのpHを1とすると、前記pH調整の操作で析出しなかった多糖類を効率的に析出させることができ、好ましい。
【0054】
前記回収液のpHをさらに下げる方法としては、該水溶液中の多糖類を過分解するような方法でなければ特に制限されない。例えば、塩酸を少量滴下する方法が好適である。
【0055】
前記第一の分離方法としては、前記質量平均分子量(Mw)が4,000〜170,000の多糖類を構成する構成単位であるグルロン酸(G)とマンヌロン酸(M)の構成比(M/G比)が1.8未満の場合、前記回収液のpHを1に下げて析出した析出物を除去し、前記回収液に溶解しているポリマンヌロン酸を分離する方法が好ましい。
前記第二の分離方法としては、前記質量平均分子量(Mw)が4,000〜170,000の多糖類を構成する構成単位であるグルロン酸(G)とマンヌロン酸(M)の構成比(M/G比)が1.8以上の場合、前記回収液のpHを1に下げることによって、ポリマンヌロン酸を析出させて分離する方法が好ましい。
M/G比=2.3を基準とすることによって、分子量分布が狭く、純度の高いポリマンヌロン酸をより高い収率で製造できる。
【0056】
本発明のポリマンヌロン酸の製造方法において、前記加水分解によって、Mwが5,000〜56,000の多糖類を生じさせることが好ましい。製造するポリマンヌロン酸のMwを概ね5,000〜55,000の範囲とすることができる。
前記出発原料とした回収液には、前記pH調整によって析出した溶解度が低い多糖類、つまり、ポリグルロン酸高含有成分の中でも分子量の大きなものを分離回収した後の、残りの多糖類が多く含まれているため、前記ポリマンヌロン酸の分子量は前記加水分解によって生じさせた多糖類の分子量よりも小さくなる傾向がある。
【0057】
<ポリグルロン酸、ポリマンヌロン酸>
本発明のポリグルロン酸は、グルロン酸(G)単位とマンヌロン酸(M)単位を95%以上含み、且つ前記グルロン酸(G)単位と前記マンヌロン酸(M)単位のうち80%以上がグルロン酸(G)単位で構成され、質量平均分子量が4,000〜68,000である。
本発明のポリマンヌロン酸は、グルロン酸(G)単位とマンヌロン酸(M)単位を95%以上含み、且つ前記グルロン酸(G)単位と前記マンヌロン酸(M)単位のうち70%以上がマンヌロン酸(M)単位で構成され、質量平均分子量が5,000〜55,000である。
本発明のポリグルロン酸及びポリマンヌロン酸は、前述の製造方法によって得られる。
本発明のポリグルロン酸及びポリマンヌロン酸を構成するグルロン酸(G)単位及びマンヌロン酸(M)単位の構成比率(%)は、NMRによって調べられる。例えば、ポリグルロン酸が100個の構成単位からなり、そのうち80個がグルロン酸(G)単位で残りの20個がマンヌロン酸(M)単位である場合、このポリグルロン酸は、グルロン酸(G)単位を80%含み、マンヌロン酸(M)単位を20%含むものである。
【0058】
<製造方法のフローチャート>
本発明にかかるポリグルロン酸及びポリマンヌロン酸の製造方法は、例えば図1に示すフローチャートに従って行うことができる。以下に、フローチャートに沿って説明する。
【0059】
まず、原料となるアルギン酸を準備し、これをCO飽和水溶液に投入する。この溶液を加熱処理することによって、前記アルギン酸を所望の質量平均分子量となるまで加水分解する(加水分解工程)。このとき、加熱処理前にCOで加圧することが好ましい。この後、得られた加水分解反応液に含まれるCO及び溶媒を凍結乾燥法によって留去して、固形状の加水分解物を得る(凍結乾燥工程)。この加水分解物に一部残存している低分子量のタンパク質や金属イオンを除去するためには、この加水分解物を水に溶解して、純水を用いて透析することが好ましい。
【0060】
次に、透析した前記加水分解物を水に溶解して水溶液とし、前記水溶液に0.1mol/L塩酸を滴下して所定のpH(pH2.0~4.0)に調製することによって、ポリグルロン酸を優先的に析出させる(pH調製工程)。続いて前記pH調整処理後の水溶液を4℃で12時間冷蔵保温した後、遠心分離する(遠心分離工程)。その後、該水溶液中に析出した沈殿物を0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液で中和し、凍結乾燥することによって溶媒成分を留去して、ポリグルロン酸を沈殿1として得ることができる。一方、前記沈殿物を回収した後の上澄み液(回収液1)には、ポリマンヌロン酸及び前記操作で析出しなかったポリグルロン酸が溶解している。
【0061】
前記回収液1のpHを1mol/L塩酸を用いてさらに下げて(pH1.00)、得られた溶液(第二の析出溶液)において析出した加水分解物を沈殿物として回収することによって残余のポリグルロン酸を除去し、ポリマンヌロン酸が溶解した状態の回収液(回収液2)を得ることができる。また、回収された該沈殿物を0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液で中和し、凍結乾燥することによって溶媒成分を留去して、沈殿2とする。
【0062】
なお、前記沈殿2は、ポリグルロン酸高含有の沈殿物又はポリマンヌロン酸高含有の沈殿物として得られる場合がある。例えば、原料としてHGを用い、加水分解後の多糖類の質量平均分子量を14,000とし、続くpH調整においてpHを3.50〜4.00に調整する場合はポリグルロン酸高含有の沈殿物が得られ、原料としてHMを用い、加水分解後の多糖類の質量平均分子量を11,000とし、続くpH調整においてpHを2.00〜3.00に調整する場合はポリマンヌロン酸高含有の沈殿物が得られる。
その後、前記回収液2を0.1mol/L水酸化ナトリウムで中和し、凍結乾燥することによって溶媒成分を留去して、固形状のポリグルロン酸及びポリマンヌロン酸(回収物3)が得られる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0064】
[実施例1]
(加水分解処理)
図2に記載の反応装置「ハイパーグラスター」(耐圧ガラス工業株式会社製)の反応容器に、HG(株式会社キミカ製:Mw=360,000)10gと、1mol/Lの塩化ナトリウム水溶液500mLとを投入した溶液Aを得た。この反応容器を密閉し、溶液Aを脱気して溶存空気を取り除き、次いで反応容器を開放系にすると共にCOガスを溶液Aに20分間バブリングすることによって、COが飽和した溶液Bを調製した。
【0065】
つぎに、前記反応容器を密閉し、COで初期圧力0.3MPaに加圧した。続いて、前記反応容器内の前記溶液Bを120℃に加熱して、HGの加水分解を8時間行った。
加水分解後に得られた加水分解反応液全てを、排除限界1000(MWCO=1000、Spectrumu Laboratories Inc.製)の透析膜を使用して、超純水を用いて透析した。透析液である超純水は適宜交換した。
【0066】
前記透析後のサンプルを凍結乾燥機FDU−1100(東京理科器械株式会社製)によって凍結乾燥して、固形状の加水分解物を得た。得られた加水分解物をHPLC(Agilent 1100、Agilent Technologies, inc.製)によって分析し、質量平均分子量(Mw)が14,000であることを確認した。また、得られた加水分解物のNMR分析を行い、グルロン酸の含有率(G%)、マンヌロン酸の含有率(M%)を求め、M/G比が0.32であることを確認した。
【0067】
(pH調整処理)
前記固形状の加水分解物7.0gを超純水20.0gに完全に溶解させ、それを六等分した各水溶液に0.1mol/LのHClを滴下することによって、pHを2.00、2.50、2.85、3.00、3.50、4.00にそれぞれ調整した水溶液C1〜C6とし、沈殿物を析出させた。
さらに前記水溶液C1〜C6をそれぞれ4℃で12時間静置した。
各pHに調整した水溶液C1〜C6中に析出した沈殿物を、3500rpm、90分の条件で遠心分離することによって、各水溶液C1〜C6から沈殿物を回収した。遠心分離後の上澄みである回収液D1〜D6(回収液1)中に残った少量の浮遊する沈殿物を、吸引ろ過によって回収した。ここで、前記遠心分離後の沈殿物と、吸引濾過によって回収した沈殿物とをそれぞれ合わせ、さらに50mLの水に溶解し、0.1mol/LのNaOHで中和した後、凍結乾燥を行い、生成物E1〜E6(沈殿1)とした。
【0068】
つぎに、回収液D1〜D6に、塩酸をそれぞれ滴下してpH1に調整したのち、それぞれ4℃で12時間冷蔵保温した。
pH1に調整した各回収液中に析出した析出物を、3500rpm、90分の条件で遠心分離することによって、回収した。遠心分離後の回収液F1〜F6(回収液2)中に残った少量の浮遊する沈殿物を、吸引ろ過によって回収した。ここで、前記遠心分離後の沈殿物と、吸引濾過によって回収した沈殿物とをそれぞれ合わせて、さらに50mLの水に溶解し、0.1mol/LのNaOHで中和した後、凍結乾燥を行い、回収物G1〜G6(沈殿2)とした。
【0069】
さらに、回収液F1〜F6(回収液2)を0.1mol/LのNaOHで中和した後、凍結乾燥を行い、回収物H1〜H6(回収物3)を得た。
【0070】
(分析評価)
生成物E1~E6(沈殿1)、回収物G1~G6(沈殿2)、回収物H1〜H6(回収物3)のHPLC分析を行い、収率、質量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)を求めた。また、沈殿1、沈殿2、回収物3のNMR分析を行い、グルロン酸の含有率(G%)、マンヌロン酸の含有率(M%)を求めた。これらの結果を表1に示す。
【0071】
なお、表1中、pHの欄に記載の2.00〜4.00の数値は、上記pH調整によって得られた水溶液C1〜C6の段階におけるpHを意味する。また、「−」は分子量を測定するための十分なサンプル量が得られなかったことを意味する。
【0072】
また、NMR分析の結果、沈殿1、沈殿2はほぼグルロン酸又はマンヌロン酸で構成されており、それ以外の不純物は僅か(0.6〜3.0%以下)であった。
【0073】
本明細書において、沈殿1の収率(質量%)とは、アルギン酸の加水分解物のうち、沈殿1を得るために使用した加水分解物の質量に対する沈殿1の質量が占める百分率である。同様に、沈殿2、回収物3、回収物4の各収率(質量%)は、沈殿1を得るために使用した加水分解物の質量に対する、沈殿2、回収物3、回収物4の質量が占める各百分率を意味する。
また本発明において、遠心分離等の実験操作による影響や、得られた加水分解物に含まれる僅かな水の影響で1〜2%収率に誤差が生じる場合がある。
【0074】
【表1】

【0075】
以上に示す結果から、HG(Mw=360,000)を使用して、Mw=14,000となるまで反応させて得られた加水分解物の水溶液を、pH調整することによって、純度が87%以上のポリグルロン酸(Mw=17,000〜19,000)を、沈殿1として得られることが明らかとなった(水溶液CのpHを2.00〜3.00とした場合)。
さらに、純度が85%以上のポリグルロン酸(Mw=17,000)を、沈殿2として得られることが明らかとなった(水溶液CのpHを3.50〜4.00とした場合)。
また、純度が63%以上のポリマンヌロン酸(Mw=8,000〜9,000)を、回収物3として得られることが明らかとなった。
【0076】
[実施例2]
加水分解の反応温度を130℃に変更した以外は、実施例1と同じ条件で、HGの加水分解処理と、それに続くpH調整処理を行った。
この加水分解処理で得られた加水分解物の質量平均分子量(Mw)は、6,000であった。また、得られた加水分解物のM/G比は0.34であった。
【0077】
(分析評価)
得られた、生成物E1〜E6(沈殿1)、回収物G1〜G6(沈殿2)、及び回収物H1〜H6(回収物3)のHPLC分析を行い、収率、質量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)を求めた。また、NMR分析を行い、グルロン酸の含有率(G%)、マンヌロン酸の含有率(M%)を求めた。
これらの結果を表2に示す。なお、表2の記載様式は、表1と同様である。
【0078】
【表2】

【0079】
以上に示す結果から、HG(Mw=360,000)を使用して、Mw=6,000となるまで反応させて得られた加水分解物の水溶液を、pH調整することによって、純度が90%以上のポリグルロン酸(Mw=10,000〜11,000)を、沈殿1として得られることが明らかとなった。
さらに、純度が80%以上のポリグルロン酸(Mw=8,000〜9,000)を、沈殿2として得られることが明らかとなった(水溶液CのpHを2.85〜4.00とした場合)。
さらに、純度が72%以上のポリグルロン酸(Mw=4,000)を、回収物3として得られることが明らかとなった(水溶液CのpHを2.00〜3.50とした場合)。
【0080】
[実施例3]
加水分解の反応温度を100℃、反応時間を12時間に変更した以外は実施例1と同様にしてHGの加水分解処理と、それに続くpH調整処理を行い、沈殿1を得た。さらに、回収液D1〜D6を0.1mol/LのNaOHで中和した後、凍結乾燥を行い、回収物I1〜I6(回収物4)とした。この加水分解処理で得られた加水分解物の質量平均分子量(Mw)は、40,000であった。また、得られた加水分解物のM/G比は0.49であった。
【0081】
(分析評価)
得られた、生成物E1〜E6(沈殿1)、回収物I1〜I6(回収物4)のHPLC分析を行い、収率、質量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)を求めた。また、NMR分析を行い、グルロン酸の含有率(G%)、マンヌロン酸の含有率(M%)を求めた。
これらの結果を表3に示す。なお、表3の記載様式は、表1と同様にpHの欄に記載の2.00〜4.00の数値は、上記pH調整によって得られた水溶液C1〜C6の段階におけるpHを意味している。また、表3中の「※」はデータが存在しないため空欄となっている。
【0082】
【表3】

【0083】
以上に示す結果から、HG(Mw=360,000)を使用して、Mw=40,000となるまで反応させて得られた加水分解物の水溶液を、pH調整することによって、純度が71%以上のポリグルロン酸(Mw=47,000〜55,000)を、沈殿1として得られることが明らかとなった。
【0084】
[実施例4]
原料としてHMを使用し、初期圧力0.3MPa、温度120℃で、8時間の加水分解反応を行ったこと以外は、実施例1と同じ条件で、HMの加水分解処理と、それに続くpH調整処理を行った。
この加水分解処理で得られた加水分解物の質量平均分子量(Mw)は、11,000であった。また、得られた加水分解物のM/G比は2.27であった。
【0085】
(分析評価)
得られた、生成物E1〜E6(沈殿1)、回収物G1〜G6(沈殿2)、及び回収物H1〜H6(回収物3)のHPLC分析を行い、収率、質量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)を求めた。また、NMR分析を行い、グルロン酸の含有率(G%)、マンヌロン酸の含有率(M%)を求めた。
これらの結果を表4に示す。なお、表4の記載様式は、表1と同様である。
【0086】
【表4】

【0087】
以上に示す結果から、HM(Mw=360,000)を使用して、Mw=11,000となるまで反応させて得られた加水分解物の水溶液を、pH調整することによって、純度が85%以上のポリグルロン酸(Mw=17,000〜18,000)を、沈殿1として得られることが明らかとなった(水溶液C1〜C6のpHを2.00〜3.00とした場合)。
また、純度が71%以上のポリマンヌロン酸(Mw=16,000〜18,000)を、沈殿2として得られることが明らかとなった(水溶液C1〜C6のpHを2.00〜3.00とした場合)。
さらに、純度が81%以上のポリマンヌロン酸(Mw=8,000〜9,000)を、回収物3として得られることが明らかとなった。
【0088】
[実施例5]
加水分解の温度を130℃、反応時間を8時間に変更した以外は、実施例4と同じ条件で、HMの加水分解処理と、それに続くpH調整処理を行った。
この加水分解処理で得られた加水分解物の質量平均分子量(Mw)は、6,000であった。また、得られた加水分解物のM/G比は1.28であった。
【0089】
(分析評価)
得られた、生成物E1〜E6(沈殿1)、回収物G1〜G6(沈殿2)、及び回収物H1〜H6(回収物3)のHPLC分析を行い、収率、質量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)を求めた。また、NMR分析を行い、グルロン酸の含有率(G%)、マンヌロン酸の含有率(M%)を求めた。
これらの結果を表5に示す。なお、表5の記載様式は、表1と同様である。
【0090】
【表5】

【0091】
以上に示す結果から、HM(Mw=360,000)を使用して、Mw=6,000となるまで反応させて得られた加水分解物の水溶液を、pH調整することによって、純度が90%以上のポリグルロン酸(Mw=11,000〜13,000)を、沈殿1として得られることが明らかとなった(水溶液C1〜C6のpHを2.00〜3.00とした場合)。
さらに、純度が87%以上のポリグルロン酸(Mw=9,000〜11,000)を、沈殿2として得られることが明らかとなった(水溶液C1〜C6のpHを2.85〜4.00とした場合)。
また、純度が68%以上のポリマンヌロン酸(Mw=5,000)を、回収物3として得られることが明らかとなった。
【0092】
[実施例6]
加水分解の反応温度を100℃、反応時間を9時間に変更した以外は実施例1と同様にしてHMの加水分解処理と、それに続くpH調整処理を行い、沈殿1を得た。さらに、回収液D1〜D6を0.1mol/LのNaOHで中和した後、凍結乾燥を行い、回収物I1〜I6(回収物4)とした。この加水分解処理で得られた加水分解物の質量平均分子量(Mw)は、41,000であった。また、得られた加水分解物のM/G比は1.98であった。
【0093】
(分析評価)
得られた、生成物E1〜E6(沈殿1)、回収物I1〜I6(回収物4)のHPLC分析を行い、収率、質量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)を求めた。また、NMR分析を行い、グルロン酸の含有率(G%)、マンヌロン酸の含有率(M%)を求めた。
これらの結果を表6に示す。なお、表6の記載様式は、表3と同様である。
【0094】
【表6】

【0095】
以上に示す結果から、HM(Mw=360,000)を使用して、Mw=41,000となるまで反応させて得られた加水分解物の水溶液を、pH調整することによって、純度が84%以上のポリグルロン酸(Mw=54,000)を、沈殿1として得られることが明らかとなった(水溶液C1〜C6のpHを2.85〜3.00とした場合)。
さらに、純度が70%以上のポリマンヌロン酸(Mw=34,000〜40,000)を、回収物4として得られることが明らかとなった(水溶液C1〜C6のpHを2.50〜3.00とした場合)。
【0096】
[参考例1]
(加水分解時の反応温度と、加水分解物のMwとの関係)
反応温度を、80〜130℃の範囲で10℃刻みで設定し、各反応温度に対して、反応時間を2,6,12,24時間とした以外は、実施例1と同じ条件でHGの加水分解を行った。得られた加水分解物を、それぞれHPLC分析して、質量平均分子量(Mw)を求めた。その結果を図3に示す。
【0097】
[参考例2]
(加水分解時の反応温度と、加水分解物のMwとの関係)
反応温度を、80〜130℃の範囲で10℃刻みで設定し、各反応温度に対して、反応時間を2,6,12,24時間とした以外は、実施例1と同じ条件でHMの加水分解を行った。得られた加水分解物を、それぞれHPLC分析して、質量平均分子量(Mw)を求めた。その結果を図4に示す。
【0098】
参考例1及び2の結果から、加水分解反応時の温度と、反応時間を適宜制御することによって、質量平均分子量(Mw)が4,000〜170,000の範囲で所望のアルギン酸加水分解物を調整できることは明らかである。
また、参考例1及び2の結果から外挿すると、加水分解時の温度を70℃未満にした場合、前記アルギン酸を所望の分子量にするためには長時間を要することとなる。
【0099】
[参考例3]
(加水分解時の反応温度と過分解物の生成との関係)
加水分解時の反応温度と反応時間を以下の条件(ア)〜(ウ)とした以外は、実施例1と同様にHGの加水分解を行った。得られた加水分解物のH NMRの測定結果を、図5に示す。
・条件(ア);温度=120℃、初期圧力=0.3MPa、反応時間=8時間、得られた加水分解物のMw=14,300
・条件(イ);温度=100℃、初期圧力=0.3MPa、反応時間=72時間、得られた加水分解物のMw=12,700
・条件(ウ);温度=80℃、初期圧力=0.3MPa、反応時間=120時間、得られた加水分解物のMw=13,000
【0100】
図5のH NMRスペクトルのピーク(8.5ppm)が過分解物の存在を示している。つまり、条件(ア)及び(イ)では過分解物が僅かに生成しており、条件(ウ)では過分解物の生成が抑制されていることが明らかである。
【0101】
以上のことから、本発明のポリグルロン酸の製造方法において、アルギン酸を加水分解して、特定のMwを有する加水分解物(前記多糖類)を得る際には、加水分解時の温度を低めに設定して長時間で反応させる方が、加水分解時の温度を高めに設定して短時間で反応させるよりも、過分解物の生成を抑制できる。
【0102】
[参考例4]
(加水分解時の初期圧力と、加水分解物のMwとの関係)
加水分解時の初期圧力をそれぞれ0、0.3、1.0、5.0MPa、温度を110℃に変更した以外は、実施例1と同様の条件でHGの加水分解を行った。
得られた加水分解物をHPLCによって分析し、Mwを求めた。その結果を表7に示す。
この結果から、加水分解時の初期圧力が高いほど、得られる加水分解物のMwが小さくなることが明らかである。
【0103】
【表7】

【0104】
[参考例5]
(加水分解前のアルギン酸濃度の影響)
加水分解前のHGの量を10g(アルギン酸濃度2.5%)、25g(アルギン酸濃度5.0%)とし、pH調整処理においてpHを2.00としたこと以外は、実施例1と同様の条件でHGの加水分解・グルロン酸の製造を行なった。得られた沈殿1のHPLC分析をそれぞれ行い、収率、質量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)を求めた。また、NMR分析を行い、グルロン酸の含有率(G%)、マンヌロン酸の含有率(M%)を求めた。
これらの結果を表8に示す。
この結果から、加水分解前のアルギン酸濃度が5%以上の場合でも、ポリグルロン酸の収率及び純度がほぼ変わらないことが明らかである。
【0105】
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0106】
以上説明したように、本発明によって得られるポリグルロン酸やポリマンヌロン酸は、高純度且つ分子量分布が狭いものである。これらの多糖類の分子量に依存して発現する生理活性等の機能を効果的に発現させるために有用である。本発明によって得られた前記ポリグルロン酸及び前記ポリマンヌロン酸は、前記生理活性を利用した高機能食品等への利用が期待されるほか、生分解性プラスチックの原料としても利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素及びアルギン酸を含む溶液を、加熱処理することにより、前記アルギン酸を加水分解し、質量平均分子量(Mw)が4,000〜170,000の多糖類を生じさせ、前記多糖類を溶解した水溶液のpHを調整することにより、前記多糖類のうち、ポリグルロン酸を優先的に析出させて分離することを特徴とするポリグルロン酸の製造方法。
【請求項2】
前記水溶液をpH2.0〜4.0に調整することによって、ポリグルロン酸を優先的に析出させることを特徴とする請求項1に記載のポリグルロン酸の製造方法。
【請求項3】
前記加水分解によって、質量平均分子量(Mw)が4,000〜53,000の多糖類を生じさせることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリグルロン酸の製造方法。
【請求項4】
前記加熱処理時の温度が70〜140℃であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリグルロン酸の製造方法。
【請求項5】
前記加水分解における加熱処理前の初期圧力を0.1〜6MPaとすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリグルロン酸の製造方法。
【請求項6】
二酸化炭素及びアルギン酸を含む溶液を、加熱処理することにより、前記アルギン酸を加水分解し、質量平均分子量(Mw)が4,000〜170,000の多糖類を生じさせ、前記多糖類を溶解した水溶液のpHを調整することにより、前記多糖類のうち、溶解度の低い成分を析出させて分離し、当該溶解度の低い成分を回収した後の回収液に溶解しているポリマンヌロン酸を分離することを特徴とするポリマンヌロン酸の製造方法。
【請求項7】
前記質量平均分子量(Mw)が4,000〜170,000の多糖類を構成する構成単位であるグルロン酸(G)とマンヌロン酸(M)の構成比(M/G比)が1.8未満の場合、前記回収液のpHを1に下げて析出した析出物を除去し、前記回収液に溶解しているポリマンヌロン酸を分離することを特徴とする請求項6に記載のポリマンヌロン酸の製造方法。
【請求項8】
前記質量平均分子量(Mw)が4,000〜170,000の多糖類を構成する構成単位であるグルロン酸(G)とマンヌロン酸(M)の構成比(M/G比)が1.8以上の場合、前記回収液のpHを1に下げることによって、ポリマンヌロン酸を析出させて分離することを特徴とする請求項6に記載のポリマンヌロン酸の製造方法。
【請求項9】
グルロン酸(G)単位とマンヌロン酸(M)単位を95%以上含み、且つ前記グルロン酸(G)単位と前記マンヌロン酸(M)単位のうち80%以上がグルロン酸(G)単位で構成され、質量平均分子量が4,000〜68,000であることを特徴とするポリグルロン酸。
【請求項10】
グルロン酸(G)単位とマンヌロン酸(M)単位を95%以上含み、且つ前記グルロン酸(G)単位と前記マンヌロン酸(M)単位のうち70%以上がマンヌロン酸(M)単位で構成され、質量平均分子量が5,000〜55,000であることを特徴とするポリマンヌロン酸。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−121963(P2012−121963A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272688(P2010−272688)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(801000027)学校法人明治大学 (161)
【Fターム(参考)】