説明

ポリスチレン型グラフト高分子及びその製造方法

【課題】 相溶化剤等ヘの応用ができるポリスチレン型グラフト高分子の提供。
【解決手段】 一般式(I)
【化1】


〔式中、Rは置換又は無置換のアルキル基、Wは炭素原子数2〜10のメチレン鎖(Wが−CH2CH2CH2−である場合を除く)を示す。m及びnはそれぞれ1〜50の整数、pは2〜50の整数を示す。〕で表される末端にシリルオキシ基を持つ、グリシジルエーテルとラクトンのブロック共重合体を側鎖に持つポリスチレン型グラフト高分子。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はエポキシ化合物とラクトンのブロック共重合体を側鎖に持つポリスチレン型グラフト高分子、並びにそれらの製造方法に関するものである。更に詳しくは、末端にシリルオキシ基を持つポリグリシジルエーテル及びポリエステル鎖よりなる単分散性の高いブロック共重合体を側鎖に持つポリスチレン型グラフト高分子、並びにそれらの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】本発明者らはすでにCsFを触媒としアリールシリルエーテルによるグリシジルエーテル型エポキシド類の開環反応が進行し高収率で位置選択的な付加生成物が得られることを見いだしている(特開平1−233288号、Tetrahedron Lett., 31(12), 1723(1990))。
【0003】さらに触媒量のシリルエーテル及びCsF によりグリシジルエーテルの重合が進行し、その際、高い分子量規制能が見られ、分子量分布の狭いポリエーテルが得られることを明らかにしている(特開平2−281030号)。
【0004】また高分子型のアリールシリルエーテルを開始剤に用いてグリシジルエーテルの重合を行い、ポリグリシジルエーテル鎖でグラフトされたポリスチレン誘導体を得ている(特願平3−104188号)。
【0005】一方、CsF 触媒存在下、アルキルシリルエーテルを開始剤とするラクトンの開環重合により、高い変換率で比較的分子量分布の狭いポリエステルを得ている(特願平3−46729号)。
【0006】従来ラクトンと汎用エポキシドのブロック共重合体の製造例は知られているが、ラクトンとグリシジルエーテル型のエポキシドのブロック共重合体の合成例はほとんど見られない。またこれらの共重合体でグラフトされたポリスチレン誘導体の合成例はまったくない。
【0007】エポキシ化合物の開環重合により得られるポリエーテルは特殊ゴム、界面活性剤等、その用途は広い。またポリエチレンオキシドを側鎖にもつ高分子はリチウム塩等のアルカリ金属塩を可溶化することが出来、高分子電解質への応用研究が盛んである。しかし、ポリエチレンオキシドはその高い結晶性のために、金属塩の移動度を充分に向上させることが出来ない。ポリグリシジルエーテルはエーテル側鎖を持ち低結晶性のポリエチレンオキシド誘導体として期待が持てる。一方、ラクトンの開環重合により得られるポリエステルは、ポリエステルポリオールの形でポリウレタン原料として、あるいはプラスチックの相溶化剤、生分解性高分子等として有用である。従ってこれらの性質を合わせもつ両者のブロック共重合体の製造方法及びその応用展開の開発が望まれる。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究の結果、アリールシリルエーテルを開始剤として、グリシジルエーテルさらにラクトンの逐次重合により、結晶性のないポリグリシジルエーテル鎖とポリエステル鎖よりなるブロック共重合体を側鎖に持つポリスチレン型グラフト高分子が得られることを見出し本発明に到達した。即ち、本発明は、一般式(I)
【0009】
【化5】


【0010】〔式中、Rは置換または無置換のアルキル基、Wは炭素原子数2〜10のメチレン鎖(メチレン鎖の水素原子の一部がアルキル基で置換されているものを含む)を示す。但し、Wが−CH2CH2CH2−である場合を除く。m及びnはそれぞれ1〜50の整数を示す。pは2〜50の整数を示す。〕で表される末端にシリルオキシ基を持つ、グリシジルエーテルとラクトンのブロック共重合体を側鎖に持つポリスチレン型グラフト高分子、並びにこれらの製造方法を提供するものである。
【0011】本発明の前記一般式(I)で表されるグリシジルエーテルとラクトンのブロック共重合体を側鎖に持つポリスチレン型グラフト高分子は、一般式(II)
【化6】


(式中、R2、R3及びpは前記の意味を示す。)で表されるシリルエーテルを開始剤として、一般式(III)
【0012】
【化7】


【0013】(式中、Rは前記の意味を示す。)で表されるエポキシ化合物及び一般式(IV)
【0014】
【化8】


【0015】(式中、Wは前記の意味を示す。)で表されるラクトン化合物を、フッ化物塩触媒の存在下に重合させることにより得られる。
【0016】一般式(II)で表される開始剤シリルエーテルとして好ましい一群のものは、R1が無置換または置換アリール基で、R2及びR3が炭素原子1ないし20個のアルキル基のものである。これらの中で特に好ましいものは、無置換もしくはアルキル置換フェニルトリメチルシリルエーテルである。このようなトリメチルシリル基を持つものは、小過剰量のヘキサメチルジシラザンあるいはピリジン等の塩基存在下、相当するフェノールとトリメチルシリルクロリドとを反応させることにより容易に得られる。さらに一般式(II)で表される開始剤シリルエーテルとして好ましい他の一群のものは多官能性開始剤トリメチルシリル化ポリヒドロキシスチレンである。このものは重合度2〜50のポリヒドロキシスチレン(たとえばマルカリンカ−M(丸善石油化学))をヘキサメチルジシラザンあるいはトリメチルクロロシラン−ピリジンによりトリメチルシリル化することにより容易に得られる。さらにはトリメチルシリルオキシスチレンのラジカル重合によっても得られる。
【0017】本発明において、上記一般式(II)で表されるシリルエーテルは一般式(III)で表されるエポキシ化合物及び一般式(IV)で表されるラクトン化合物に対して、 0.005〜0.5当量用いられる。
【0018】一般式(III)で表されるエポキシ化合物としては、Rが炭素原子1〜20のアルキル基、もしくはオレフィン、ニトリル、エステル、アミド、エーテルなどの置換基を持つアルキル基のものが挙げられ、特に好ましくものはRとして炭素原子1〜4の直鎖ないし分岐型アルキル基を持つグリシジルエーテルである。
【0019】一般式(IV)で示されるラクトン化合物としては、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−β−プロピオラクトン、β−メチル−β−プロピオラクトン、3−n−プロピル−δ−バレロラクトン、6,6−ジメチル−δ−バレロラクトンなどが挙げられる。
【0020】フッ化物塩触媒としてはアルカリ金属のフッ化物があげられる。好ましくは、モノマーに対して0.005〜0.2当量のCsF, KF等が用いられる。本発明において、上記重合反応は無溶媒中もしくは重合モノマーに対して0.2〜5当量のジオキサン、アセトン、DMF、DMAc、γ−ブチロラクトン等の溶媒中で行われる。
【0021】本発明の好ましい実施態様は次のとおりである。ジオキサン溶媒中、一般式(III)で表されるエポキシ化合物に対して、0.01〜0.2当量の一般式(II)で表されるシリルエーテル及び 0.005〜0.1当量のCsF触媒を用い、脱気封管中あるいは密閉容器中で115〜150℃で5分〜3時間重合させる。反応終了後、未反応の一般式(III)で表されるエポキシ化合物及び溶媒を減圧除去後、先の反応容器に、一般式(III)で表されるエポキシ化合物に対して0.2〜10当量の一般式(IV)で表されるラクトン化合物を加え、蒸溶媒中あるいはγ−ブチロラクトン中、60℃〜120℃で5分〜3時間重合させた後、触媒をろ別しさらに未反応のラクトン化合物及び溶媒を減圧留去して、一般式(I)で示される末端にシリルオキシ基を持つグリシジルエーテルとラクトンのブロック共重合体あるいはこれらのブロック共重合体を側鎖に持つポリスチレン型グラフト高分子が得られる。
【0022】
【発明の効果】本発明はグリシジルエーテル型エポキシ化合物とラクトンをフッ化物塩触媒存在下、低分子シリルエーテルあるいは多官能性高分子シリルエーテルを開始剤として共重合させるもので、本発明により、結晶性のない分岐型ポリエーテルとポリエステル部分を持つブロック共重合体及びその共重合体でグラフトされたポリスチレン誘導体が得られる。エポキシ化合物と開始剤のモル比を変化させれば容易に分子量も制御できオリゴマーも得られる。ここで得られた共重合体は相溶化剤、高分子電解質等ヘの応用が期待できるものである。
【0023】
【実施例】以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0024】実施例1■ 重合管にCsF 0.46g(3mmol)を計り込み、120℃、10分間減圧乾燥したのち窒素気流下にn−ブチルグリシジルエーテル(以下BGEと略記)14.3ml(0.1mol)及びフェニルトリメチルシリルエーテル2.73ml(15mmol)を加え脱気封管し、激しく攪拌しながら140℃で30分間重合させ、反応終了後、触媒をろ別しさらに未反応のBGEを減圧留去して末端にトリメチルシリルオキシ基を持つ単分散ポリグリシジルエーテル(以下PBGEと略記)13.9gを得た。
【0025】PBGEの分析結果を以下に示す。
・1H−NMR(CCl4)(δ,ppm):0.06(s,Me3Si),0.8-.9(br,CH3CH2CH2),3.3-.1(m,OCH2CHO,CH2O),7.8-8.3(br,Ph)・変換率:71%・GPC分析(溶媒:テトラヒドロフラン):数平均分子量(以下Mnと略記、ポリスチレン換算);930 、分子量分布(Mw/Mn、以下Dと略記);1.15以上の分析結果からPBGEは下記の構造式(式中、m=5.9)を有する化合物であることを確認した。
【0026】
【化9】


【0027】■ 重合管にCsF 0.30g(2mmol)を計り込み、120℃で10分間減圧乾燥したのち窒素気流下に、■で得られたPBGE2.60g(2.8mmol )及びε−カプロラクトン(以下CLと略記)11.4g(0.1mol)を加え、脱気封管後 105℃で30分間重合させて、末端にシリルオキシ基を持つBGEとCLのブロック共重合体12.3gを得た。
【0028】ブロック共重合体の分析結果を以下に示す。
・1H−NMR(CCl4)(δ,ppm):0.06(s,Me3Si),0.8-1.9(br,CH3CH2CH2,CH2CH2CH2),2.0-2.3(br,CH2COO),3.3-4.1(m,OCH2CHO,CH2O,CH2OCO),7.8-8.3(br,Ph)・変換率:85%・GPC分析:Mn;7,130、D;1.27図1のGPCプロフィルに示すごとく、共重合により単分散性を保ったまま分子量の増大が見られ、PBGEはすべてラクトンの重合反応に関与している。すなわちPBGEの末端トリメチルシリル基から重合が開始されブロック共重合体が得られた。以上の分析結果から共重合体は下記の構造式(式中、m=5.9,n=30)を有する化合物であることを確認した。
【0029】
【化10】


【0030】実施例2■ 反応容器にポリヒドロキシスチレン(丸善石油化学(株)製、Mn:2,900)5g(41.6meq.)とヘキサメチルジシラザン17.1ml(83.2mmol)を加えよく攪拌しながら 110℃、5.5 時間加熱攪拌したのち、過剰量のヘキサメチルジシラザンを減圧留去して7.97gのポリ(トリメチルシリルオキシスチレン)(以下SPHSと略記)が得られた。
【0031】SPHSの分析結果を以下に示す。
・1H−NMR(CCl4)(δ,ppm):0.22(s,9H,Me3Si), 1.0-2.0(br,3H,CH2CH), 6.1-6.8(br,4H,Ar)・IR(KBr)(cm-1):1605, 1250, 840・GPC分析:Mn;4,240、D;1.91以上の分析結果からSPHSは下記の構造式(式中、 p=24)を有する化合物であることを確認した。
【0032】
【化11】


【0033】■ 重合管にCsF 1.57g(12mmol)を計り込み、 120℃で10分間減圧乾燥したのち窒素気流下に、■で得られたSPHS 2.33g(12mmol)、BGE15.7g(0.12mol)及びジオキサン0.86mlを加えた後、重合管を脱気封管し、 130℃で30分間重合させた。反応終了後、触媒をろ別しさらに溶媒及び未反応のBGEを減圧留去して末端にトリメチルシリルオキシ基を持つポリグリシジルエーテルでグラフトされたポリスチレン誘導体を得た。引き続き、重合管にCL13.7g (0.12mol)を加え、脱気封管後80℃で1時間重合させると重合反応は定量的に進行し、触媒をろ別して末端にシリルオキシ基を持つBGEとCLの共重合体でグラフトされたポリスチレン誘導体26.3gを得た。
【0034】グラフトポリスチレン誘導体の分析結果を以下に示す。
・1H−NMR(CDCl3)(δ,ppm):0.06(s,Me3Si),0.7-2.0(br,CH2CH,CH3CH2CH2),2.0-2.5(br,CH2COO),3.2-4.1(m,OCH2CHO,CH2O,CH2OCO),6.1-6.8(br,Ar)・変換率:BGEに対し65%、CLに対し100 %・GPC分析:Mn;17,200、D;2.63以上の分析結果からグラフトポリスチレン誘導体は下記の構造式(式中、m=6.5, n=10, p=24)を有する化合物であることを確認した。
【0035】
【化12】


【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1で得られた単独重合体PBGE及びブロック共重合体の反応液より触媒をろ別したもののGPC分析結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 一般式(I)
【化1】


〔式中、Rは置換または無置換のアルキル基、Wは炭素原子数2〜10のメチレン鎖(メチレン鎖の水素原子の一部がアルキル基で置換されているものを含む)を示す。但し、Wが−CH2CH2CH2−である場合を除く。m及びnはそれぞれ1〜50の整数を示す。pは2〜50の整数を示す。〕で表される末端にシリルオキシ基を持つ、グリシジルエーテルとラクトンのブロック共重合体を側鎖に持つポリスチレン型グラフト高分子。
【請求項2】 一般式(II)
【化2】


(式中、R2及びR3はそれぞれアルキル基もしくはアリール基を示す。pは2〜50の整数を示す。)で表されるシリルエーテルを開始剤として、一般式(III)
【化3】


(式中、Rは置換または無置換のアルキル基を示す。)で表されるエポキシ化合物及び一般式(IV)
【化4】


(式中、Wは炭素原子数2〜10のメチレン鎖(メチレン鎖の水素原子の一部がアルキル基で置換されているものを含む)を示す。但し、Wが−CH2CH2CH2−である場合を除く。)で表されるラクトン化合物を、フッ化物塩触媒の存在下に重合させることを特徴とする、請求項1記載の末端にシリルオキシ基を持つ、グリシジルエーテルとラクトンのブロック共重合体を側鎖に持つポリスチレン型グラフト高分子の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2003−277441(P2003−277441A)
【公開日】平成15年10月2日(2003.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−75075(P2003−75075)
【分割の表示】特願平4−239262の分割
【出願日】平成4年9月8日(1992.9.8)
【出願人】(000000387)旭電化工業株式会社 (987)