説明

ポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法

【課題】 本発明の目的は、軽量で食品用途などに好適に成形しうるポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法において、押出発泡後に安定な熱成形が可能となるまでに必要な養生期間を大幅に短縮できるポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法を提供することにある。
【解決手段】 ポリスチレン系樹脂およびプロパン単独またはプロパンを主成分とする物理発泡剤を押出機により溶融混練して発泡性溶融樹脂とし、該発泡性溶融樹脂を押出して発泡せしめることにより,上記特性を有するスチレン系樹脂発泡シートを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養生期間が短く、押出発泡後数日以内から成形可能なポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン系樹脂発泡シートは、優れた熱成形性、外観性、緩衝性および断熱性を有し、さらに軽量であり、製造コストが安いことから、食品容器等に大量に使用されている。
【0003】
スチレン系樹脂発泡シートは、いわゆる押出発泡法、すなわち、押出機内でスチレン系樹脂を溶融し、これに物理発泡剤およびタルクなどの造核剤を添加し、必要に応じて、高級脂肪酸金属塩、流動パラフィンなどの発泡助剤を添加して、発泡性溶融樹脂として、該発泡性溶融樹脂をダイスより大気中に押出して発泡させる方法で製造される。
【0004】
スチレン系樹脂発泡シートは、真空成形などの熱成形により、二次成形されて最終的な製品形状に成形加工される。例えば、熱成形としては、赤外線ヒーター等を有する加熱炉を用いて、スチレン系樹脂発泡シートを加熱し、さらに金型でシートを嵌合させ、形状を付与する方法、いわゆるマッチモールド成形法が一般的である。熱成形の際、加熱炉での加熱により、ポリスチレン系樹脂発泡シートが膨張(二次発泡)するため、金型嵌合時に十分な形状が付与される。
【0005】
ポリスチレン系発泡シート中の発泡剤は、発泡直後から気泡膜を通して発泡剤が徐々に散逸し、逆に空気が気泡内に流入する。そのため、ポリスチレン系発泡シートは、熱成形のような二次成形に適した発泡剤残存量となるように、押出発泡後、初期に適当な養生期間(以降、「養生期間」と称す)を経た後、食品容器等に成形加工される。
【0006】
ポリスチレン系樹脂発泡シートが安定した二次成形性を得るには、ポリスチレン系樹脂発泡中の発泡剤が適当量残存していることが必要である。発泡剤の残存量が少ないと、二次整形時に目的とする厚みを維持できず、成形品の強度不足や型の再現性の低下が生じる傾向がある。また、発泡剤の残存量が多すぎると、成形品の収縮や反り、さらには発泡剤の可塑化作用による表面の荒れ等が発生する傾向がある。
【0007】
従来、ポリスチレン系樹脂発泡シート中の物理発泡剤としては、該発泡シートの中に残存する発泡剤が長期間に渡って適当量に維持されるように、例えば、ブタン系ガスが選定されてきた。これは、発泡剤が長期間に渡ってポリスチレン系発泡シート中に適当量残存することにより、該発泡シートをより長期間に渡って成形加工に使用できる、すなわち、製品寿命(原反ライフ)が長くなるためである。しかし、ポリスチレン系発泡シートは、前述したように、押出発泡後、成形加工が可能となるまでの養生期間を必要としており、コストダウンの観点から、様々な取り組みが行われてきた。物理発泡剤として、ブタンとプロパンを併用する方法(特許文献1)や、ブタンとジメチルエーテルを併用する方法(特許文献2)も提案されている。しかし、これらの方法でも、約10日間程度の養生時間が必要であった。
【特許文献1】特開2001−247707
【特許文献2】特開2004−142262
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
昨今、商品サイクルが極端に短くなっており、従来の押出後10日間以上かかる養生時間は、事実上商品サイクルとあわず、商品サイクルにあわせるため商品企画が完全に定まる前から原反を準備せざるを得ないため、せっかく生産した原反が商品企画とあわず、廃棄せざるを得ないなど無駄の多いものであった。
【0009】
そこで、押出発泡により、より養生時間を短縮できるポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法が、望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、物理発泡剤としてプロパン単独、または、プロパンを主成分とする混合ガスを用いることにより、養生時間を短縮できることを見出し、本発明の完成に至った。より好ましくは、物理発泡剤の第2成分としてジメチルエーテルを併用することにより、ジメチルエーテルのスチレンへの可塑化効果により、プロパン単独使用系でのポリスチレン系押出発泡シートにおけるセルが微細化しやすく筋がでやすい問題を効果的に解消され、より安定的に生産することができることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、
ポリスチレン系樹脂および物理発泡剤を押出機により溶融混練して発泡性溶融樹脂とし、該溶融樹脂を押出して発泡せしめるポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法において、物理発泡剤としてプロパンを用い、該ポリスチレン系発泡シートの密度が0.05〜0.15g/cm3であることを特徴とするポリスチレン系発泡シートの製造方法(請求項1)、
ポリスチレン系樹脂および物理発泡剤を押出機により溶融混練して発泡性溶融樹脂とし、該発泡性溶融樹脂を押出して発泡せしめるポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法において、物理発泡剤としてプロパン60重量%以上、95重量%未満および他の物理発泡剤5重量%超40重量%以下からなる混合物を用い、該ポリスチレン系発泡シートの密度が0.05〜0.15g/cm3であることを特徴とするポリスチレン系発泡シートの製造方法(請求項2)、および
他の物理発泡剤がジメチルエーテルである、請求項2に記載のポリスチレン系発泡シートの製造方法(請求項3)、に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、昨今のコンビニエンスストア等における商品サイクルの短縮にあわせ、必要な容器を短時間で提供することができる。すなわち、本発明により、従来のポリスチレン系樹脂発泡シートでは必要であった10日間以上の養生時間を3日間程度に短縮することができる。
【0013】
さらに、物理発泡剤としてプロパンとジメチルエーテルを併用することにより、プロパン単独使用系での押出発泡時に気泡が微細化しやすく、筋やコルゲートが発生する場合があるが、この問題を効果的に解消でき、より安定的に生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法は、広く一般に行われている押出発泡方法により行うことができる。すなわち、例えば、押出機にポリスチレン系樹脂、気泡調製剤等を混合して供給し、溶融混錬した後、物理発泡剤を圧入により添加して、発泡性溶融樹脂を形成した後、さらに、発泡に適した温度(例えば、130〜170℃)となるまで該発泡性溶融樹脂を冷却した後、押出機先端に設置されたダイスから大気中に押出して、シート状に成形しつつ、圧力開放による発泡を行うものである。
【0015】
押出発泡シートを形成する方法としては、例えば、環状のリップを有するサーキュラーダイスを用い、そのダイスのリップから大気圧中に押し出して円筒状の発泡体を得、必要に応じ、押出した円筒状の発泡体に冷却エアを吹き付けて外観向上やシートの密度の調整を行い、次いで、その円筒状発泡体を引き取りながら、冷却筒(マンドレル)による成形加工によって延伸・冷却後、切り開いて、シート状にする方法などが挙げられる。なお、前記発泡性ゲルの形成には、単軸押出機や二軸押出機などの押出機を複数台連結したタンデム押出機、押出機先端にギアポンプを連結した装置など、慣用の押出発泡装置を使用することができる。
【0016】
本発明で用いられるポリスチレン系樹脂としては特に限定されないが、例えば、ポリスチレン、ポリ−p−メチルスチレン等のスチレン系単独重合体;スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクニロニトリル共重合体などのスチレン系モノマーとビニルモノマーまたはジビニルモノマーとの共重合体;オレフィン系単独および共重合樹脂やスチレン−ブタジエン共重合樹脂等へのスチレン系モノマーのグラフト重合樹脂;ポリスチレンとポリフェニレンオキサイドとの混合物などがあげられる。
【0017】
本発明におけるスチレン系樹脂のMFRは特に限定されないが、200℃におけるMFRが1〜10g/10分程度のものが望ましい。
【0018】
本発明で用いられる造核剤としては、多孔質無機粉末である、例えば、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シリカ、酸化チタン、クレー、酸化アルミニウム、ベントナイト、ケイソウ土、パーライト等の無機系造核剤やクエン酸やアゾジカルボンアミド、トリヒドラジノトリアジン等の有機系造核剤があげられる。
本発明における造核剤の添加量は、造核剤種または造核剤の粒径にもよるが、通常、樹脂100重量部に対し、0.05〜0.8重量部である。造核剤の添加量を調整することにより、発泡シートを構成する気泡の数が制御でき、発泡シートおよび成形容器に求められる品質に応じて、必要な数の気泡がシートに発生するように造核剤量が調整される。例えば、容器に強度が求められる場合には気泡数を少なく、気泡を小さくし外観を美麗にしたい場合には気泡数を多くする。ただし、0.8重量部を超えて造核剤を添加すると、造核剤の凝集物がシートの欠陥の原因となり、製品収率を大幅に減じる傾向があり、0.05重量部に満たない場合は造核剤としての効果を発現できない傾向がある。
また、必要に応じて、スチレン系樹脂中の造核剤の分散をよくするために、エチレンビスステアリルアミド、ステアリン酸マグネシウム等の脂肪酸金属塩、脂肪酸エステル等の滑剤等を添加しても良い。また、流動パラフィン等の可塑剤を添加しても良い。
【0019】
本発明におけるポリスチレン系発泡シートは、物理発泡剤としてプロパン単独またはプロパンを主成分とする混合ガスとして用いることにより、初期の養生期間を3日間程度に短縮することができる。
【0020】
本発明におけるプロパンないしプロパンを主成分とする混合ガスの添加量は、目標とする押出発泡シートの密度により異なるが、スチレン系樹脂100部に対して、2.0〜5.0重量部が好ましく、2.5〜4.5重量部がより好ましい。プロパンないしプロパンを主成分とする混合ガスの添加量が2.0重量部より少ないと、成形時に必要な二次厚みが得にくい傾向があり、5.0重量部より多いと、押出時に美麗なシートが得にくい傾向がある。
【0021】
ところで、物理発泡剤としてプロパンを単独で使用した場合、得られたスチレン系樹脂発泡シートは、気泡が微細となりやすく、筋やコルゲート等の外観不良を引き起こす場合がある。
【0022】
そこで、本発明者等は、物理発泡剤として、プロパンを主成分とした他の物理発泡剤との混合ガスを用いることにより、上記問題点を改善できることを見出した。
【0023】
本発明における、プロパンを主成分とした他の物理発泡剤との混合ガスとしては、60重量%以上、95重量%未満のプロパンと、5重量%超、40重量%以下の他の物理発泡剤との混合物であることが好ましく、70重量%以上、90重量%未満のプロパンと、10重量%超、30重量%以下の他の物理発泡剤との混合物であることがより好ましい。プロパンが60重量%より少ないと、養生短縮効果が少なくなる傾向があり、95重量%以上では押出時に美麗なシートが得にくい傾向がある。
【0024】
本発明における他の物理発泡剤としては、例えば、ノルマルブタン、イソブタン、字メチルエーテルなどがあげられる。これらのうちでも、ジメチルエーテルは初期養生期間を伸ばすことがなく、気泡径を調整することができる点から、特に好ましい。
【0025】
本発明の製造方法により得られるポリスチレン系樹脂発泡シートの密度としては、0.05〜0.15g/cm3が好ましく、0.1〜0.12g/cm3がより好ましい。スチレン系樹脂発泡シートの密度が0.05g/cm3より小さいとシートが厚すぎて成形し難い傾向があり、0.15g/cm3より大きいと成形時に必要なシート厚みが得られず強度等に劣る傾向がある。ポリスチレン系樹脂シートの密度は、プロパン単独もしくはプロパンを主成分とする混合ガスの添加量を調節したり、押出時にダイスから押し出された円筒状の発泡体に冷却エアを吹き付けて冷却して発泡を抑制することにより、調整することができる。
【0026】
本発明の製造方法により得られるポリスチレン系樹脂発泡シートの気泡径としては、シートの表面性の観点から、0.24〜0.28mmが好ましい。
【0027】
本発明に製造方法により得られるポリスチレン系発泡シートは、通常、厚み0.5〜5mm、坪量70〜500g/m2程度に調整される。
【0028】
本発明の製造方法で得られるポリスチレン系樹脂押出発泡シートには、必要に応じて、フィルムまたはTダイ等から押出された樹脂からなる非発泡層を積層しても良い。非発泡層を形成する樹脂としては、押出発泡シートとの接着性、耐熱性、耐油性などから、ポリスチレン系樹脂が好ましい。
【0029】
本発明の製造方法で得られるポリスチレン系樹脂押出発泡シートは、プラグ成形、真空成形、圧空成形などの加熱成形性に優れることから、厚みムラの少ない、外観美麗な成形体を得ることができる。
【0030】
加熱成形の例としては、プラグ成形、マッチモールド成形、ストレート成形、ドレープ成形、プラグアシスト成形、プラグアシスト・リバースドロー成形、エアスリップ成形、スナップバック成形、リバースドロー成形、フリードローイング成形、プラグ・アンド・リッジ成形、リッジ成形などの方法があげられる。
【実施例】
【0031】
次に,本発明を実施例に基づき詳細に説明するが,本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0032】
本発明の実施例における、評価方法を以下に示す。
【0033】
(シート密度)
JISK6767に準じて評価した。
【0034】
(気泡径)
シートの幅方向断面を薄く切り出し、拡大鏡にて目視で測定した。
【0035】
(シートの外観)
押出発泡により得られたシートの外観を、目視で観察して評価した。
筋やコルゲート等を目立たないものでかつ気泡径が適度で表面が微細なものを○、筋やコルゲートがはっきりわかるもの、または表面が微細でないものを△とした。
【0036】
(成形時表面荒れ)
赤外線ヒーターを備えた単発成形機(センバシステム(株)製、VAS66−4.5T)を用いて、押出発泡後3日経過した該ポリスチレン系樹脂発泡シートの加熱前と加熱後の厚みの比が1.6〜2.2倍となるように、炉内雰囲気温度が172/167℃の条件下で6秒加熱した際のシートの外観を、目視で観察して評価した。
特に変化がないものを◎、微細で、離して見れば判らない程度の表面荒れ(あばた状のヤケや破泡した痕)が生じるものを○、一見して判る表面荒れを×とした。
【0037】
(成形性)
赤外線ヒーターを備えた単発成形機(センバシステム(株)製、VAS66−4.5T)を用いて、該ポリスチレン系樹脂発泡シートを炉内雰囲気温度が172/167℃の条件下で6秒加熱して2次発泡させた後、マッチモールド成形法(金型温度雄60℃/雌30℃)にて、縦20cm、幅11.4cm、深さ1.5cmのトレー容器に成形した。成形した容器のコーナー部が鮮明にでているものを○、出ていないものを×とした。
【0038】
(実施例1〜3、比較例1〜3)
ポリスチレン系樹脂として、(株)カネカ製ポリスチレン系樹脂カネパールPSを使用し、該ポリスチレン系樹脂100部に対してタルク(林化成(株)製、タルカンPK)を0.5重量部添加した。次いで、115−180mmφのタンデム押出機に前記ポリスチレン系樹脂組成物を投入し、設定温度200℃に加熱された一段目の押出機にて前記組成物を溶融し、表1に示す混合比率および添加量の発泡剤を圧入した後、二段目の押出機にて樹脂温度が150℃となるように冷却後、140℃に設定したサーキュラーダイより大気中に押出発泡させ、一次厚み1.8〜0.22mm、シート目付け200g/m2のポリスチレン系樹脂発泡シートを得た。得られたポリスチレン系樹脂発泡シートは、25℃の室内にて保管した。
【0039】
製造した発泡シートを3日間25℃の室温で放置後、サンプルを切り出した。切り出したサンプルの表面性および成形性を評価した。同様に、7日・15日放置後のポリスチレン系発泡シートからサンプルを切り出し、成形性を評価した。評価結果を、表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
実施例1、2は養生3日で成形することができた。実施例3については微細な表面荒れは発生するものの概ね問題ないものであった。比較例では押出後7日でも成形性は満足できるのもではなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂および物理発泡剤を押出機により溶融混練して発泡性溶融樹脂とし、該発泡性溶融樹脂を押出して発泡せしめるポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法において、物理発泡剤としてプロパンを用い、該ポリスチレン系発泡シートの密度が0.05〜0.15g/cm3であることを特徴とするポリスチレン系発泡シートの製造方法。
【請求項2】
ポリスチレン系樹脂および物理発泡剤を押出機により溶融混練して発泡性溶融樹脂とし、該溶融樹脂を押出して発泡せしめるポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法において、物理発泡剤として、プロパン60重量%以上、95重量%未満および他の物理発泡剤5重量%超40重量%以下からなる混合物を用い、該ポリスチレン系発泡シートの密度が0.05〜0.15g/cm3であることを特徴とするポリスチレン系発泡シートの製造方法。
【請求項3】
他の物理発泡剤がジメチルエーテルである、請求項2記載のポリスチレン系発泡シートの製造方法。

【公開番号】特開2007−100015(P2007−100015A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−294600(P2005−294600)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】