説明

ポリテトラフルオロエチレン多孔質体の製造方法

【課題】ポリテトラフルオロエチレン膜を延伸する方法であって、膜の破断や膜の機械的強度の極端な低下等の問題を生じることなく、孔径が10μmを超える孔を有しかつ優れたろ過処理効率を有するポリテトラフルオロエチレン多孔質体の製造を可能にする方法を提供する。
【解決手段】ポリテトラフルオロエチレンの粉末からポリテトラフルオロエチレンのシートを作製する工程、及び、前記シートを延伸して前記シートを多孔質化する工程を有し、前記ポリテトラフルオロエチレンの粉末が、ファインパウダー70〜90重量部及びモールディングパウダー10〜30重量部からなることを特徴とするポリテトラフルオロエチレン多孔質体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレンからなり、10μmを超える孔径を有する多孔質体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる膜は、耐薬品性、耐熱性が優れる等の特徴を有するので、多孔質化されたPTFE膜は、耐薬品性、耐熱性が優れたフィルターとして用いられる。
【0003】
多孔質化されたPTFE膜は、例えば、PTFE膜を延伸することにより得られる。この方法によれば、均質な貫通孔を有するPTFE膜が得られ、微細な粒子をろ過するフィルターの製法として好適である。
【0004】
そして、PTFE膜の製法としては、PTFE粉末を液体に分散させたディスパージョンを基体にコーティングし、液体を除去するとともに融点以上に加熱して焼結する方法(キャスティング法)を挙げることができ、例えば、特開平5−32810号公報(特許文献1)等に開示されている。
【0005】
フィルターとしては、粗大な粒子の除去を目的とするものもある。例えば、ろ過における圧損失を少なくし、かつフィルターの交換頻度を減少させるために、微細な粒子の除去を目的とするフィルターの前に、粗大な粒子を除去するフィルター(プレフィルター)が設置される場合もある。このようなフィルターとして、孔径が10μmを超えるような孔を有する多孔質体が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−32810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来は、耐薬品性、耐熱性が優れたPTFEからなり、かつ径10μmの粒子が透過可能な孔径が10μmを超える孔を有する多孔質体の製造は困難であった。すなわち、PTFE膜を延伸する方法により、10μmを超えるような大孔径を得るためには延伸率を大きくする必要がある。しかし、従来の方法により延伸率を大きくすると、膜の破断が生じる、気孔率が非常に大きくなり膜の機械的強度が極端に低下する、等の問題があり、PTFE膜を孔径が10μmを超える孔が生じるまで延伸することはできなかった。
【0008】
本発明の課題は、PTFE膜を延伸する方法であって、膜の破断や膜の機械的強度の極端な低下等の問題を生じることなく、孔径が10μmを超える孔を有しかつ優れたろ過処理効率を有するPTFE多孔質体の製造を可能にする方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討した結果、PTFEのファインパウダー中にモールディングパウダーを所定量混合させたPTFE粉末を用いてPTFE膜を作製し、それを延伸することにより、膜の破断や膜の機械的強度の極端な低下等の問題を生じることなく、孔径が10μmを超える孔を有するPTFE多孔質体が製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、PTFEの粉末からPTFEのシートを作製する工程、及び、前記シートを延伸して前記シートを多孔質化する工程を有し、前記PTFEの粉末が、ファインパウダー70〜90重量部及びモールディングパウダー10〜30重量部からなることを特徴とするPTFE多孔質体の製造方法(請求項1)を提供するものである。
【0011】
本発明の製造方法においては、先ず、PTFEの粉末をシート状に成形し加熱してPTFEのシートが作製されるが、本発明の特徴は、ここで用いるPTFEの粉末が、ファインパウダー70〜90重量部及びモールディングパウダー10〜30重量部からなることを特徴とする。
【0012】
ここでファインパウダーとは、二次粒子径約300〜600μmの粒径のPTFE粉末であり、テトラフルオロエチレンを乳化重合して得られたラテックス(一次粒子径約200μm)を、凝析、乾燥して約300〜600μmの粒径に調整して得ることができるものである。従来技術において用いられてきたPTFEの粉末は、通常ファインパウダーのみからなるものである。
【0013】
モールディングパウダーとは、テトラフルオロエチレンの懸濁重合で得られた原粉末をいったん数十〜数百μmの大きさに粉砕し、その後粒状化(造粒)して乾燥したもの、それをさらに微粉化、前加熱等の処理を施したもの、さらに微粉砕されたあと再び造粒したもの等であり、本目的に使用する場合、粒径はファインパウダーの二次粒子径と同等か小さい程よく、従って600μm以下が好ましい。
【0014】
本発明においては、モールディングパウダーの含有量が、ファインパウダーとモールディングパウダーの合計100重量部に対し、10〜30重量部の範囲にあるPTFEの粉末が用いられる。モールディングパウダーの含有量が10重量部未満の場合は、孔径が10μmを超える孔を有するPTFE多孔質体が部分的にしか得られないので、優れたろ過処理効率は得られない。その結果、このPTFE多孔質体を用いてろ過を行う場合、圧損失が高くなり好ましくない。
【0015】
一方、モールディングパウダーの含有量が30重量部を超える場合は、孔径が10μmを超える孔を有するPTFE多孔質体が得られるまで延伸すると、PTFE多孔質体の機械的強度が低下し、破断する場合もあるので好ましくない。
【0016】
ここで孔径が10μmを超えるか否かは、径10μmの標準粒子の透過性との比較、又はIPAバブルポイント法により6kPa以下であるか否かにより確認できる。
【0017】
請求項2は、前記PTFEの粉末が、ファインパウダー75〜85重量部及びモールディングパウダー15〜25重量部からなることを特徴とする請求項1に記載のPTFE多孔質体の製造方法を提供するものである。モールディングパウダーの含有量は、より好ましくは、ファインパウダーとモールディングパウダーの合計重量に対し15〜25重量部の場合であり、より高いろ過処理効率及び機械的強度が得られる。
【0018】
本発明の方法は、PTFEの粉末にモールディングパウダーを混合した点以外は、従来技術における延伸PTFE多孔質体の作製と同様に行われる。
【0019】
シートがペースト押出成形された後、このシートは延伸されて多孔質のPTFEフィルムが形成される。前記のようにして作製されたシート中では、ファインパウダー中にモールディングパウダーが分散されているが、延伸すると、モールディングパウダーが存在する部分に大きな孔が生じるので、比較的低い延伸率で大きな孔を開けることができる。延伸は、孔径10μmを超える孔が生じるまで行われる。一方向延伸、二方向延伸のいずれも可能である。この延伸により、モールディングパウダーが存在する部分に10μmを超える孔径を有する孔が多数生成する。
【0020】
好ましい延伸率は、モールディングパウダーの含有率やPTFEの分子量等により変動し具体的に限定することはできないが、本発明の方法によれば、モールディングパウダーを含有しないファインパウダーのみから作製されたシートを延伸する場合と比較して、同じ延伸率で、はるかに大きな径の孔を有する多孔質体が得られる。又同じ延伸率での気孔率も大きい。
【0021】
又、ファインパウダーのみから作製されたシートでは、孔径10μmを超える孔が生じるまで延伸できずその前に破断等が生じるが、本発明の方法では、孔径10μmを超える孔が生じるまで延伸しても、破断や機械的強度の低下等を生じない。なお、このような延伸率の差異を除けば、延伸工程は、従来技術における延伸と同様に行われる。
【0022】
本発明の製造方法により得られたPTFE多孔質体は、10μmを超えかつ均一な孔径の貫通孔が均質に分散されたものであり、機械的強度、ろ過効率にも優れ、かつPTFEからなるので耐薬品性、耐熱性にも優れ、圧損失の小さいプレフィルター等として好適に用いられる。本発明は、請求項3として、このPTFE多孔質体、すなわち孔径が10μmを超える孔を有するPTFE多孔質体を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の製造方法により、破断や機械的強度の低下等を生じることがない比較的低い延伸率でPTFE膜を延伸して、孔径が10μmを超える孔を有するPTFE多孔質体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明を実施するための形態を、具体的に説明する。なお、本発明はこの形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない限り他の形態へ変更することができる。
【0025】
本発明に用いられるモールディングパウダーは、前記のように、テトラフルオロエチレンの懸濁重合で原粉末を得て、その原粉末に、粉砕、粒状化(造粒)、微粉化、再造粒等を施すことにより得られる。
【0026】
テトラフルオロエチレンの懸濁重合は、例えば、耐圧オートクレーブに水を仕込み、脱気した後、開始剤とテトラフルオロエチレンを仕込んで0〜120℃、1〜50気圧で攪拌しながら反応させることにより行うことができる。開始剤としては、加硫酸塩のような水溶性のパーオキサイドや、レドックス系が一般的に用いられる。生成粉末の物性コントロールのために、少量の界面活性剤や微量のコモノマーを添加してもよい。
【0027】
粉砕には、水媒体中で原粉末をカッティングする湿式粉砕と、高速回転するハンマーの衝撃作用や高速の気流によって粒子を衝突させ粉砕する乾式粉砕がある。造粒法としては、微粉末を水中にて高温でかきまぜる方法、PTFEを濡らし得る有機溶剤に微粉末を添加してスラリー状とし、ブレンダー等で転動する方法、水に不溶性でかつPTFEを濡らし得る有機溶剤で微粉末を湿らせて水中でかき混ぜる方法等を挙げることができる。
【0028】
本発明に用いられるファインパウダーはテトラフルオロエチレンを乳化重合して得られたラテックスを、凝析、乾燥して得られる。乳化重合は、界面活性剤を用いて乳化させた系で行われ、他は懸濁重合とほぼ同様に行われる。界面活性剤としては、通常、フルオロカーボン系の界面活性剤が用いられる。反応系の機械的安定性を高めるために、乳化安定剤として、連鎖移動性のないパラフィンや、比較的沸点の高いクロロフルオロカーボン等を反応系に共存させることもある。
【0029】
フルオロカーボン系界面活性剤としては、XC2nCOOM(X=H、F又はCl、n=6〜12、M=H、NH又はアルカリ金属)や、(CFCF(CFCFCOOM(n=2〜6)、C2n+1SOM(n=5〜9)、C2n+1CHCHSOM(n=6〜12)、C2n+1O[CF(CF)CFO]CF(CF)COOM(n=1〜5、m=1〜5)等を挙げることができ、これらを単独で又は2種以上を混合して用いられる。
【0030】
ラテックスの凝析は、乳化重合した系を、固形分濃度10〜20%となるように水で希釈し、強く攪拌して行われる。この凝析の際には、無機塩、酸等の電解質やメタノール、アセトン等水溶性の有機溶剤を添加してもよい。凝析の後、洗浄して反応で使用した乳化剤や凝析剤を除去し乾燥することによりファインパウダーが得られる。
【0031】
先ず、ファインパウダー70〜90重量部及びモールディングパウダー10〜30重量部からなるPTFE粉末を、15℃以下の雰囲気で配合・混合する。次に、助剤(ナフサ)を16〜26重量部配合・混合した後、12時間以上かけて浸透させる。
【0032】
次に、予備成形機で圧縮し、空気を抜いた円柱状の予備成形体を作製する。その後、さらにラム押出機を使用し、温度30〜50℃でシート状、角状、丸柱状、又はチューブ状に押し出す。フィルム状にする場合は、30〜50℃の温度で圧延を行い、その後助剤を乾燥して除去し、延伸を行う。
【実施例】
【0033】
旭硝子社製PTFEモールディングパウダー:G163の3.0kgと旭硝子社製PTFEファインパウダー:CD145の12.0kg(重量比 20:80)に、ナフサ3.0kg(混合助剤)を加えたものを混合し、PTFE混合粉末を得た。このPTFE混合粉末よりφ150mmの予備成形体を作製した後、50℃で、押出機により、φ16mmの丸棒状に成形した。次に圧延機を使用し、50℃で、厚さ3mmのシート状にし、200℃で乾燥してPTFEシートを得た。
【0034】
このPTFEシートを、引張試験機により、170℃で縦方向に4倍延伸した。電子顕微鏡で観察したところ、繊維長は60〜80μmで、孔径10μmを優に超える孔が多数均一に形成されていた。
【0035】
(比較例)
旭硝子社製PTFEファインパウダー:CD145の15.0kgにナフサ3.0kgを加え混合したものを、PTFE混合粉末の代わりに用いた以外は実施例と同様にシートを作成し、4倍延伸を行ったが、繊維長は20μm程度で、孔径10μmを超えるような孔は形成されなかった。10倍延伸を行うと、繊維長は60μm以上となるが、非常にこしのない弱いものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレンの粉末からポリテトラフルオロエチレンのシートを作製する工程、及び、前記シートを延伸して前記シートを多孔質化する工程を有し、前記ポリテトラフルオロエチレンの粉末が、ファインパウダー70〜90重量部及びモールディングパウダー10〜30重量部からなることを特徴とするポリテトラフルオロエチレン多孔質体の製造方法。
【請求項2】
前記ポリテトラフルオロエチレンの粉末が、ファインパウダー75〜85重量部及びモールディングパウダー15〜25重量部からなることを特徴とする請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質体の製造方法。
【請求項3】
孔径が10μmを超える孔を有するポリテトラフルオロエチレン多孔質体。

【公開番号】特開2011−79879(P2011−79879A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230785(P2009−230785)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】